彷徨う亡霊は脇へ退け、汝を害す者はなし。
―――ウィリアム・シェイクスピア『シンベリン』
無機質で無菌的なモノクロームの色彩とデザインの廊下を歩いて、ヴァージニアは大理石の一枚板のような扉の前で足を止めた。
先進開発局の最精鋭、ヴェスパーの次席隊長、UNAC部隊を率る計画推進者のルシエンテスのオフィスは、そんなところにある。
廊下を通るのは運搬や点検用ロボットたちで、人間はほぼいない。ロボットに適した設計のモジュールは、視覚的に困惑するしストレスがかかりがちだ。
とはいえ、仕方がない。先進開発局とルシエンテスはアーキバスともシュナイダーとも交わらない、独自のモジュールをわざわざ丸ごと持ってきている。つまるところ、ここが彼と彼らの住まいなのだ。
先進開発局の最精鋭、ヴェスパーの次席隊長、UNAC部隊を率る計画推進者のルシエンテスのオフィスは、そんなところにある。
廊下を通るのは運搬や点検用ロボットたちで、人間はほぼいない。ロボットに適した設計のモジュールは、視覚的に困惑するしストレスがかかりがちだ。
とはいえ、仕方がない。先進開発局とルシエンテスはアーキバスともシュナイダーとも交わらない、独自のモジュールをわざわざ丸ごと持ってきている。つまるところ、ここが彼と彼らの住まいなのだ。
「さてさてっと」
ヴァージニアが社員証をかざせば、扉は音もなくスライドして開いた。
中に入ると、ミニマリストの作った作品のような部屋があった。白を基調とした色使いでラインに黒が用いられ、ずっと見ていると目が痛くなる。
奥行きを感じさせない壁には歯車とバネが剥き出しの機械式の時計が飾られている。それとは別に音を立てているのは、デスクの上にあるメトロノームか。
中に入ると、ミニマリストの作った作品のような部屋があった。白を基調とした色使いでラインに黒が用いられ、ずっと見ていると目が痛くなる。
奥行きを感じさせない壁には歯車とバネが剥き出しの機械式の時計が飾られている。それとは別に音を立てているのは、デスクの上にあるメトロノームか。
「それは何?」
デスクとメトロノームの向こう側、椅子にも座らずに端末を操作している背中にヴァージニアは言った。
指先から足先まで一分も皮膚が見えない異様な格好。頭を覆う仮面は白くのっぺりとしていて、表情どころか目線すら窺えない。
機械化された体は筋肉の動きさえ読み取れず、予備動作も無い。自動人形のように思えるが、その動きは実に人間的で滑らかだ。
だからこそ、ヴァージニアにさえ彼が、ルシエンテスが何を考えているかは分からない。
指先から足先まで一分も皮膚が見えない異様な格好。頭を覆う仮面は白くのっぺりとしていて、表情どころか目線すら窺えない。
機械化された体は筋肉の動きさえ読み取れず、予備動作も無い。自動人形のように思えるが、その動きは実に人間的で滑らかだ。
だからこそ、ヴァージニアにさえ彼が、ルシエンテスが何を考えているかは分からない。
「50BPM」
「ふぅん」
「今後の話だが、UNACの作戦行動区域はその都度、共有しても構わん」
「展開機数と任務内容については?」
「先進開発局の機密だ。共有する意味はない。私も懲罰部隊の任務内容にはとやかくと言っていないはずだが?」
「その結果としてアッシェンズのポマースがUNAC部隊と鉢合わせて、戦闘の結果死亡したのよ」
カチカチカチ、とメトロノームが沈黙を刻む。
心臓の脈動よりも一層遅れた足取りで。
心臓の脈動よりも一層遅れた足取りで。
「不幸な事故だ。囚人兵に理解と分別があればこちらも無駄な弾を使わずに済んだというのに」
「そちらの回収したポマースのAC、ホワイトサンズのデータログもまだ貰っていないわ」
「開示請求は機密に属するとして却下した。連絡がいっていないはずはないが、まあいい。ヴァージニア、私は見せびらかすためにUNACを作っているのではないのだよ」
「イレヴンのことはよく見ているのに、見られるのは嫌いなのね」
カチカチカチ、とメトロノームが脈動よりも遅れて音を鳴らしている。
「ただ見て訳知り顔で喋る肉袋は先進開発局にも、私の周りにも必要ないのでね」
「兎も角、情報の共有に関しては双方の合意が取れたわね。今後は事故が起きないよう願いましょ」
「私もそう願っているとも。UNACたちの時間を無為に消費したくはない。話は済んだ、気をつけて帰ると良い」
「ご心配どうも、ルシエンテス」
にこりと微笑みながらヴァージニアは退室する。
背中にべったりと張り付くような視線の気配があったが、扉が閉まると同時にその気配も消えた。
少し考えた後、ヴァージニアは自分の部屋に戻ることに決めた。
ジュスマイヤーに振舞ったチーズケーキがまだ半分、冷蔵庫に残っていたから。
背中にべったりと張り付くような視線の気配があったが、扉が閉まると同時にその気配も消えた。
少し考えた後、ヴァージニアは自分の部屋に戻ることに決めた。
ジュスマイヤーに振舞ったチーズケーキがまだ半分、冷蔵庫に残っていたから。
- 関連項目
- V.I ヴァージニア
データログ:ポマース
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投稿者 | 狛犬えるす |