教室に入ると、夏のむさ苦しい熱気が頬を包んだ。
「おはよー!」
葵がいつものように、わたしに手を振る。
「おはー!」
わたしもいつものように返す。
周囲を見渡すと、みなそれぞれ、手元の下敷きやファイルを使い、首元を扇いでいる。
「そんなカッコして暑くないのかよ?」
金持がそんなことを問いかける。
あぁ、今日から、夏服か。忘れていた。
「えー、暑いに決まってんジャン」
わたしは口を尖らせて、そう答えた。
確かに、今日は暑い。
まだ、六月に入ったばかりだと言うのに、セミがわんわんと夏の盛りのように鳴いている。
「五月蝿いね」
窓を見て、そう呟く。金持も額に汗を溜めながら、うんざりだと言う様子で頷く。
「杉崎さん、今日もやるの?」
見ると、葵がみんなとは違う種類の汗を浮かべている。
「やるよー、当たり前ジャン」
何を言わんとしているか気づき、わたしはポケットから鍵を取り出して、葵にそれを見せた。
「ほら」
「うぅ……」
葵は小さく悲鳴を上げながら、私から退く。
「あ、俺が立て替えるよ!」
金持が、慌ててそう声を上げる。
葵は、金持のことを何とも思ってないのに、ホント世話焼きな男だ。
「じゃあ、今日は、金持のおごりってことで、五万円もらうね」
最終更新:2009年04月10日 21:48