3-3.1 「ドヴァーリン商会」と「冥府解放区」
■ドヴァーリン商会
蒸気機関全盛の半島に、石炭を供給している大企業。
多数の炭坑を傘下に収め、半島全体の石炭採掘量のおよそ6割を独占している(ちなみに生産量第二位は、法王庁直轄の「聖務勤労奉仕局」)。
複数の教区にまたがって大きな政治・経済的影響力を有し、石炭以外の各種産業にも乗り出している。
炭坑地域一帯の土地を買い占めて半ば治外法権的な地域を作り上げ、地域住民全体を巻き込んで、商会の人間が地域の政治的な実権を握るのが、彼らのやり方である。
教会に多額の寄付をすることで、これまで法王庁とは友好的な関係を築いてきたが、児童を含む労働者への過酷な扱いや、強引な開発を非難する声が絶えない。
また、労働監督隊と呼ばれる私設軍を所有する他、法王庁査察の拒否や、教会内の人事にも口を出し、炭坑地域の教会司祭に自社の人間を据えるなどの行為が見られ、教会内でもその勢力の拡大を危険視する意見が強まっている。
■ 冥府解放区
セックヴァベック炭田は、半島の北方辺境にある炭坑であり、あまりの気候の厳しさから「コキュートス(氷寒地獄)炭坑」と呼ばれ、開発は不可能と考えられていた。
ドヴァーリン商会は、各教区から囚人の払い下げ、彼らを炭坑内に住まわせる‘無賃金労働者’とする事で、この炭坑を採算の取れるものとした。
しかし、あまりの扱いに耐えかねた労働者達(その中には囚人のほか、地域の元農奴や、先住民も含まれていた)は、「地竜皇女」シグリッド(元政治犯)、「冥王」ゲラルド(錬金術師)らに率いられて反乱を起こし、炭田の監督官であった商会幹部を公開処刑に処した上、「冥府解放区」を名乗り、商会からの独立を宣言した。
「万一これらの人間として当然の要求が受け入れられないなら、もはや我らは、我らの汗と血で購われた石炭を、諸君に引渡しはしないだろう。そうなれば、半島の全ての工場、否、聖堂も官庁も、土台から覆るだろう」とは、その独立宣言の一節である。
寄せ集めの民兵集団に過ぎなかった解放区の「煉獄軍」だが、商会の派遣した労働監督隊との戦いには、3ヶ月の篭城の末に勝利。
商会は、法王庁に聖騎士団の派遣を要請したが、法王庁側は、これは商会内部の問題であるとして静観する態度をとった。
この背後には、解放区側が、法王庁が独立を黙認する限り、採炭を継続し、採掘された石炭は法王庁へ直接売却することを約束するとともに、さもなくば石炭の出荷を停止すると恫喝したことが理由としてある。
また、法王庁が近年ドヴァーリン商会に反感を抱いており、この事件で商会が多少なりとも弱体化してくれれば幸い、と考えていることも否定できない。
しかし一方で、突如シグリッドらが強気の姿勢に出た背後には何かがあると考える者も少なくない。
解放区と戦った労働監督隊の兵士達の中には、冥府軍の「冥騎士」と呼ばれる精鋭が、岩盤をすり抜ける、地震を起こす、炎を吐くなどの特殊能力を使うのを確かに見た、と言い張るものが少なくない。
一方の解放区の兵士達の間でも、シグリッドは炭坑の奥に眠っていた地竜と契約し、解放区を守護させていると信じられている。
これらのことから、シグリッド、ゲラルドらが、炭坑で何らかの強大な力を持つ何者かを発掘し、その力を後ろ盾にしているのでは、と疑うものも教会内にはおり、独断で調査員を派遣する高位聖職者もいる。
彼らの意見では、「聖堂も官庁も土台から覆る」という脅迫は、比喩ではなく、文字通りの事実を表しているのだという。
もしこれらが事実とすれば、「契約」の代償に、シグリッドらは相手に何かを与えているはずだが、それが何なのか、定かではない。
一方で、解放区の独立の報に力を得て、立ち上がろうとする炭坑も少なくない。
解放区側も、それを各地に呼びかけている。
ドヴァーリン商会は必死でその弾圧を行っているが、厳重な封鎖にもかかわらず、解放区の煽動者がいつのまにか他の炭坑に潜入する事態を防げていない。
さらには、法王庁直轄の炭坑にも、解放区と共鳴する動きが出始めており、法王庁はその点に警戒を強めている。
解説:
炭坑と言えば重労働と貧困、抑圧(偏見)。社員はいい社宅に住んで、抗夫は環境劣悪な集合住宅に押し込められるのですよ。
そして炭坑と言えば労働運動。
コミューンですよインターナショナルですよソヴィエトですよ同志。ウラー!
バンコクの労働者団結せよ!(タイ王国は資本主義国家です)