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4-1.3「オープニングフェイズ②‘神跡記録官’キルシェ」

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裁きの右腕セスト・セブンスディ。
 神聖暦四七年に勃発した第一次大征伐において、最も名の知られている異端審問官の一人。
 銃型A級アーティファクトヘルツォークを所有し、神速の射撃は神界の霧所属の黄昏の時代の血を引く異端者達に敗北する事は一度もなかった。
 第十一教区死せる都クレア・セルラにて法王庁が組織した神聖十字軍と供に、神界の霧との最終決戦に赴くが、帰還は報告されず。
 所有AFヘルツォークのみが、死せる都中枢部で発見され、セスト審問官の生死が確認されるまで法王庁の保管となる』

「一般に知られている裁きの右腕に関する情報は、こんな所だと思います」
 歴史編纂局シュローダー研究室でのキルシェの報告は、報告を受けている人物のあげた舌打ちで中断した。
 キルシェは手にした百ページ以上の枚数があるレポート用紙の一枚目を読み上げると、資料の山に囲まれた人物に目を移した。
床から天井まで備え付けられた棚には、堆く積まれた資料と、発掘された備品が窮屈ながらも凄然と押し込まれ、部屋の空気には埃と煙草の臭いが微かに混ぜられている。
研究室というよりも、書斎と言ったほうがしっくりくる。
「失礼。インクが切れ掛かっていたものだからね。君の報告は聞きやすかったよ・・・続けてくれたまえ」
書斎の主、カーゼル・シュローダーは、手にしたペンのインクを取り替えながらキルシェに向って笑った。
食うに困った劇作家、といった風貌だが、歴史編纂局においては、七人しかいない編纂管理官の一人である。
「はい。・・・僕の閲覧資格の範囲で、神跡記録室とロンバルディア図書館で裁きの右腕に関する資料を探して見ましたが、公式記録は殆ど残っていませんでした。やはり国庫焼失以前の公式記録は焼失しているものが多いですね。ですので、伝承も含めて地域別にまとめておきました」
「ご苦労。あとで目を通しておくよ」
インクを詰め替えたペンをニ、三度振りながらカーゼルは答えた
「君が作成した資料ならば、貴重な時間をとられる事はないだろう。正直、助かったよ。通常の編纂作業とは別に、今月中に仕上げなければならない、急ぎの仕事が持ち込まれてしまってね。・・・全く、我が歴史編纂局は、法王庁管轄下に置いては他の機関と同等であるのに、どうも便利屋か何かと勘違いしている輩が多くて困るよ。時折、遺失管理室の連中がうらやましくなる」
「心中、お察しします」
大方、あの太った枢機卿あたりが、自分の後援により未知の神跡を発見したという実績を作りたいために、豪腕をふるってきたのであろう。
重要な存在ではあるが、実利は生み出さないというのが、法王庁における歴史編纂局の立場だ。
それでも、利用価値があると考える人間は大勢いる。
良い意味でも、悪い意味でも。
「すまないね。資料編集を手伝ってくれたのに、愚痴まで聞かせてしまった。今日はせっかくの聖アンティヌ祭だというのに。・・・若い人同士集まって、中心部に行ってきたらどうかね?今年の市場はかなり大規模で、去年よりも一区画広いらしいよ」
自分より年下の人間を若い人と呼ぶのは、カーゼルの口癖だ。
そして若い人には気を使いたがるのも、キルシェは経験上知っている。
「いえ、個人的な調べ物があるので、今日はもう一度図書館に行こうかと思います」
「・・・そういえば、君は最近聖人奇跡に関する資料を集めているそうだね。君の専攻は神跡考古学だったはずだが、上学院論文は智神学にするのかね?」
「いいえ。そういったものではないんです」
手にしたレポート用紙をカーゼルの机に提出しながら答える。
「ただ、友達が困っているんです。いつも、僕の事を助けてくれる友達です。・・・僕には、剣術の腕や、錬金術の才は無いので、僕のできる範囲で友達の助けになればいいな、と。・・・微力ですけど」
「ふむ。・・・ならば聖アンティヌの加護があるといいですね」
聖アンティヌ祭か。・・・今年も法王庁内部で聖遺物の公開は行なわれるんですか?」
カーゼルの漏らした呟きを、キルシェがもう一度反芻する。
何か引っかかる事があれば、口に出して考えるのは、子供の頃から実践しているキルシェの癖だ。
こちらは自覚していない。
「ああ、例年どうりね。それに今年は第二教区から聖パトリシアに関する聖遺物も運送されて、特別公開されるはずだよ」
「忘れていた。・・・それならば、もしかして。いや、少なくとも見ておく価値はある。・・・すいません!これからちょっと聖アンティヌ祭に行ってきます」
遺失物を見に行くならば、私の名前を出せばいい。ある程度までならば、一般公開されていない域まで入れてくれるはずだ」
椅子に掛けていた神学生服の上着を掴みながら立ち上がるキルシェに、カーゼルは声をかける。
「ありがとうございます。シェローダー編纂官」
キルシェは頷くと、勢いよく出て行った。
その背中を見送るとカーゼルは満足そうに頷いた。
「いいですねえ。若い人達は」

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