コンプレックス・イマージュ ◆WAWBD2hzCI
「………………」
それでも、折れそうになる心を再構築するためには必要な時間だった。
無力だった、自分の力は無力だったと自己嫌悪に浸る時間。
そして、そんな自分を奮い立たせる時間が必要だった。それほどまでに、救えた少女を救えなかった傷は大きかった。
無力だった、自分の力は無力だったと自己嫌悪に浸る時間。
そして、そんな自分を奮い立たせる時間が必要だった。それほどまでに、救えた少女を救えなかった傷は大きかった。
目の前で温かかった少女が冷たい肉の塊になっていく。
出逢ったときはまだ息があったのに、それでも僅かに遅かったばかりに一人の少女が生涯を終えた。
葛と名乗った少女……名乗れるぐらいには余力があるはずだった。
そう思い込んでしまった。現実、葛にはそれが精一杯の力であったことにすら気づかなかった。
出逢ったときはまだ息があったのに、それでも僅かに遅かったばかりに一人の少女が生涯を終えた。
葛と名乗った少女……名乗れるぐらいには余力があるはずだった。
そう思い込んでしまった。現実、葛にはそれが精一杯の力であったことにすら気づかなかった。
「…………ごめんね」
救えなかった命を腕に抱く。小さな少女、天真爛漫そうな外見だった。
きっと笑えば可愛いんだろうな、とか。どんな未来をこの先歩いていくんだろう、とか。
そんな夢も希望も何もかもを、このふざけたゲームは何の意味もなく奪っていくのだ。
こんなの、酷い。許せない。正義感が強い碧でなくても、怒りに体を震わせるには十分すぎるほどの理由がある。
きっと笑えば可愛いんだろうな、とか。どんな未来をこの先歩いていくんだろう、とか。
そんな夢も希望も何もかもを、このふざけたゲームは何の意味もなく奪っていくのだ。
こんなの、酷い。許せない。正義感が強い碧でなくても、怒りに体を震わせるには十分すぎるほどの理由がある。
「許さない、絶対」
あの二人組に謝らせてやる。
少女たちを殺させるよう仕向けた奴らに償わせてやる。
少女たちを殺させるよう仕向けた奴らに償わせてやる。
「偽善だって分かってるけどね、葛ちゃん。もう一度言うよ、先生に任せなさい!」
空元気のように奮い立たせた。
それはこのゲームを画策したあの二人と、そして殺し合いを肯定した者たちへの宣戦布告だ。
さあ、これからの行動に迷いはない。
迷っていられるような時間はない。そうしている間に、またひとつ救えなかった命が零れてしまうのだから。
それはこのゲームを画策したあの二人と、そして殺し合いを肯定した者たちへの宣戦布告だ。
さあ、これからの行動に迷いはない。
迷っていられるような時間はない。そうしている間に、またひとつ救えなかった命が零れてしまうのだから。
まずは情報を確認しよう。
放送が流れた。あの苛立たしい公演、無駄に神経を逆撫でする食事音。
葛が死ぬほど苦しい思いをしている様子を、あの神父は食事をしながら見物していたのだ。
放送が流れた。あの苛立たしい公演、無駄に神経を逆撫でする食事音。
葛が死ぬほど苦しい思いをしている様子を、あの神父は食事をしながら見物していたのだ。
「……9人。いや、葛ちゃんも含めて10人」
全員の六分の一が、僅か六時間で命を落とした。
覚えているのはそんなことだけで、残りのことは覚えていない。ただ、人がそんなにも死んでしまったことに衝撃を受けていた。
それでも死者の名前は覚えていて、一人一人の名前を心に刻むことにした。
覚えているのはそんなことだけで、残りのことは覚えていない。ただ、人がそんなにも死んでしまったことに衝撃を受けていた。
それでも死者の名前は覚えていて、一人一人の名前を心に刻むことにした。
「『桂おねーさん』『スバルさん』『なつきさん』……」
葛が最後に呟いた人の名前。
彼女には悪いが、一度地面に下ろして名簿を確認することにした。
死後硬直が始まっている以上、きっと運びづらくなってしまうのだろう。せめてと瞳を閉じさせ、腕を組ませる体勢にさせた。
そうしてデイパックから名簿を取り出し、探し出した。
彼女には悪いが、一度地面に下ろして名簿を確認することにした。
死後硬直が始まっている以上、きっと運びづらくなってしまうのだろう。せめてと瞳を閉じさせ、腕を組ませる体勢にさせた。
そうしてデイパックから名簿を取り出し、探し出した。
中でも玖我なつきについては知り合いだ。
つまり葛はなつきの仲間だった、ということになる。そこから彼女のことを推測する。
つまり葛はなつきの仲間だった、ということになる。そこから彼女のことを推測する。
葛と彼ら三人の繋がりについて考える。
詳しいことはもちろん分からないけど、少なくとも敵意のあるような呟き方ではなかった。
仲間、もしくは親しい人と考えるのは妥当なんだろう。彼女が逢いたかった人、彼女と共に行動した人。
伝えなければいけない。葛……若杉葛という少女の死を。見取った自分が伝えなければ。
詳しいことはもちろん分からないけど、少なくとも敵意のあるような呟き方ではなかった。
仲間、もしくは親しい人と考えるのは妥当なんだろう。彼女が逢いたかった人、彼女と共に行動した人。
伝えなければいけない。葛……若杉葛という少女の死を。見取った自分が伝えなければ。
「あ、そうだ。温泉宿に戻らないと!」
碧はようやく、自分の目標を思い出した。
旅館には仲間である山辺美希が待っている。彼女を置いてきぼりにしてまで、自分がしようとしたこと。
鉄乙女、てっちゃん。知り合いを救うために突っ走ってしまった仲間の捜索。
きっともう絶望的なのだろう。あれから数時間、無事だとしても合流できる保障はない。
旅館には仲間である山辺美希が待っている。彼女を置いてきぼりにしてまで、自分がしようとしたこと。
鉄乙女、てっちゃん。知り合いを救うために突っ走ってしまった仲間の捜索。
きっともう絶望的なのだろう。あれから数時間、無事だとしても合流できる保障はない。
(ミキミキのところに戻らなきゃね。これでミキミキまで間に合わなかったら……)
ぶんぶんと頭を振って嫌な考えを取っ払う。前向きに行こう、と乙女に言ったのは自分自身だ。
偉そうに言った本人がそんなに腑抜けていてどうする、と自分に喝を入れて行動を再開する。
葛は背負おうとして、やっぱり抱きかかえることにした。
死後硬直のしだいによっては、腕を組ませたことも意味がなくなってしまう。なら、抱きかかえたほうがいい。
偉そうに言った本人がそんなに腑抜けていてどうする、と自分に喝を入れて行動を再開する。
葛は背負おうとして、やっぱり抱きかかえることにした。
死後硬直のしだいによっては、腕を組ませたことも意味がなくなってしまう。なら、抱きかかえたほうがいい。
(自分にやれることをやる、それでいいよね?)
足は合流地点である温泉へと向かっていく。
願わくば美希と乙女、二人の合流。そして新たな仲間の確保を。
願わくば美希と乙女、二人の合流。そして新たな仲間の確保を。
◇ ◇ ◇ ◇
「……ふむ。誰もいないな」
「みたいだね」
「みたいだね」
一足先に温泉宿へと入っていくご一行がいた。
来ヶ谷唯湖とクリス・ヴェルティン、川に流されてここまで流れ着いた少年少女。
温泉旅館へと向かう、とは言ったもののその一言ですら、楽とは思えない作業が必要となる。
自分たちは温泉旅行に来たわけではなく、殺し合いの舞台に立っているのだから。
来ヶ谷唯湖とクリス・ヴェルティン、川に流されてここまで流れ着いた少年少女。
温泉旅館へと向かう、とは言ったもののその一言ですら、楽とは思えない作業が必要となる。
自分たちは温泉旅行に来たわけではなく、殺し合いの舞台に立っているのだから。
気になるのはロビーには誰かが暴れた形跡がある、という事実。
争いの爪痕は如実に、そして確実に刻まれている。
ここでも殺し合いが行われたのは事実と考えて、相違ないだろう。だからこその探索は、どうやら杞憂で済んだらしい。
争いの爪痕は如実に、そして確実に刻まれている。
ここでも殺し合いが行われたのは事実と考えて、相違ないだろう。だからこその探索は、どうやら杞憂で済んだらしい。
「安心したよ……また襲われたりしたら、堪らない」
「積極的な人間ばかりを見てきたからな。さて、何人乗ってしまった馬鹿どもがいたことか……」
「…………」
「積極的な人間ばかりを見てきたからな。さて、何人乗ってしまった馬鹿どもがいたことか……」
「…………」
仲間を失ってしまった。
又聞きではあるが、ドクターウェストは藤林杏の目の前で殺害されたらしい。
そして杏自身もクリスたちの目の前で、それも事故のような形で殺され……そして、一人の少女の道を誤らせた。
出会う人間は残らず、殺し合いに乗るか。もしくは死んでしまっているらしい。
又聞きではあるが、ドクターウェストは藤林杏の目の前で殺害されたらしい。
そして杏自身もクリスたちの目の前で、それも事故のような形で殺され……そして、一人の少女の道を誤らせた。
出会う人間は残らず、殺し合いに乗るか。もしくは死んでしまっているらしい。
「……ねえ、ユイコ。もしかして僕は、疫病神なのかな?」
無気力でいる、と決めたはずだ。
自分が動けば周りに迷惑がかかる、とも考えていたはずだ。
それなのに気づけば少し積極的に動き続け、そして結果として周囲の人の人生を狂わせている。
疫病神。まさにそのものじゃないか、と薄くクリスは自嘲してしまった。
自分が動けば周りに迷惑がかかる、とも考えていたはずだ。
それなのに気づけば少し積極的に動き続け、そして結果として周囲の人の人生を狂わせている。
疫病神。まさにそのものじゃないか、と薄くクリスは自嘲してしまった。
どうして積極的な行動を取ってしまったのか。
きっと彼女の存在が大きいのだと思う。自分を変に思わず、肯定して接してくる来ヶ谷の存在に。
もちろん、それは言い訳に過ぎないとクリス自身が誰よりもその思考を恥じていた。
きっと彼女の存在が大きいのだと思う。自分を変に思わず、肯定して接してくる来ヶ谷の存在に。
もちろん、それは言い訳に過ぎないとクリス自身が誰よりもその思考を恥じていた。
「クリスくんが疫病神なら、私もまた疫病神だな」
飄々とした態度で、しかし異論は挟ませないとばかりに彼女は語る。
それは自分に対する侮辱にもなる、と言外に告げていた。
申し訳なさそうにクリスは項垂れた。
それは自分に対する侮辱にもなる、と言外に告げていた。
申し訳なさそうにクリスは項垂れた。
「はっはっは、気にするな少年。君の苦悩は実に好ましい」
「……好ましい、って何がさ?」
「なに、簡単なことだよ。君は君でいい。君の望むままに行動していい。例えば、これから水濡れのお姉さんを襲ったりなど」
「しないよ!」
「……好ましい、って何がさ?」
「なに、簡単なことだよ。君は君でいい。君の望むままに行動していい。例えば、これから水濡れのお姉さんを襲ったりなど」
「しないよ!」
顔を赤らめてクリスは叫ぶ。そんな様子を彼女は愉快そうに笑う。
まるで柳に風のような態度、そんな掴み所のない態度のまま、彼女は続けていく。
まるで柳に風のような態度、そんな掴み所のない態度のまま、彼女は続けていく。
「殺し合いに乗った者は、自分でそうと決めたのだ。ならばクリス君が行動しようがしまいが、結果は変わらない」
「でも……」
「それは不運に過ぎないのだよ、少年。出逢った人が死んでいくのが辛いならば、一緒に行動すればいい」
「…………」
「私が心配しているのはだね、クリス君……君が内罰的になって、その道を誤ってしまうことだよ」
「でも……」
「それは不運に過ぎないのだよ、少年。出逢った人が死んでいくのが辛いならば、一緒に行動すればいい」
「…………」
「私が心配しているのはだね、クリス君……君が内罰的になって、その道を誤ってしまうことだよ」
そうならないことを切に願う、とそう言って来ヶ谷は締めた。
道を誤る、とは殺し合いに乗ってしまうことだけを指しているわけではない。
自暴自棄になってしまうこと、判断を早まってしまうこと。その全てを遮断するためには、迷いなどあってはならない。
クリスは一度だけ頷いた。それは決意に満ちた瞳であると同時に、自分を奮い立たせるものだ。
道を誤る、とは殺し合いに乗ってしまうことだけを指しているわけではない。
自暴自棄になってしまうこと、判断を早まってしまうこと。その全てを遮断するためには、迷いなどあってはならない。
クリスは一度だけ頷いた。それは決意に満ちた瞳であると同時に、自分を奮い立たせるものだ。
「ごめん、ユイコ。ちょっと弱気になってたみたい」
「構わんよ。君の苦悩は大いに正しい。正常な人間の正当にして当然のものだ」
「構わんよ。君の苦悩は大いに正しい。正常な人間の正当にして当然のものだ」
祝福するように少女は語る。
まるで自分には手に入らないものに憧れるような笑み。
だからこそ、それを持っている少年を羨ましく思っている、と……彼女はそんな欠落のままに微笑んだ。
そんな来ヶ谷があまりにも儚く見えて、思わずクリスは手を伸ばしていた。
まるで自分には手に入らないものに憧れるような笑み。
だからこそ、それを持っている少年を羨ましく思っている、と……彼女はそんな欠落のままに微笑んだ。
そんな来ヶ谷があまりにも儚く見えて、思わずクリスは手を伸ばしていた。
「ねえ、ユイコ……それは」
「おっと、こうしている場合ではないな。誰か無粋な輩が現れる前に風呂に入るとするか」
「……え? ちょっと?」
「おっと、こうしている場合ではないな。誰か無粋な輩が現れる前に風呂に入るとするか」
「……え? ちょっと?」
まるで話を打ち切るかのように、来ヶ谷は廊下を歩いていく。
その先にあるのは湯のマークの書かれた温泉だ。
幸いなことに青と赤の暖簾で区切られているところを見ると、男と女は別々となっているらしい。
……べ、別にがっかりなんてしてないよ? 誰にも拾われない弁解が、一人の少年の心から発せられた。
その先にあるのは湯のマークの書かれた温泉だ。
幸いなことに青と赤の暖簾で区切られているところを見ると、男と女は別々となっているらしい。
……べ、別にがっかりなんてしてないよ? 誰にも拾われない弁解が、一人の少年の心から発せられた。
「では少年、また後でな」
「うん。ユイコもしっかり温まってきて」
「後は服か。さきほど浴衣を何着が見つけてきたのでな、乾くまではこれに着替えるといい」
「ユカタ……? あ、うん。ありがとう、ユイコ」
「うん。ユイコもしっかり温まってきて」
「後は服か。さきほど浴衣を何着が見つけてきたのでな、乾くまではこれに着替えるといい」
「ユカタ……? あ、うん。ありがとう、ユイコ」
来ヶ谷から浴衣を一着、渡される。
渡されたのは服と思われるが、クリスの身の回りにはこんな服はなかった。多分、巫女服と同じだろう。
何となく和の趣があるのが分かる。着付けは……まあ、何とかなると信じておく。
気づけばもう来ヶ谷の姿はない。クリスはひとつ溜息をつきながら、青い暖簾の中へと姿を消していった。
渡されたのは服と思われるが、クリスの身の回りにはこんな服はなかった。多分、巫女服と同じだろう。
何となく和の趣があるのが分かる。着付けは……まあ、何とかなると信じておく。
気づけばもう来ヶ谷の姿はない。クリスはひとつ溜息をつきながら、青い暖簾の中へと姿を消していった。
「…………このユカタ。女性用な気がするのは、気のせいだよね?」
浴衣を改めて観察し、もう一度溜息。
来ヶ谷は男に女装させる趣味でもあるんじゃないだろうか、などと頭を悩ませることにした。
悩みとは、正常な人間の特権である。
来ヶ谷は男に女装させる趣味でもあるんじゃないだろうか、などと頭を悩ませることにした。
悩みとは、正常な人間の特権である。
◇ ◇ ◇ ◇
「ふう……はぁ……」
一息、クリスは気持ちよさそうに息を吐いた。
露天風呂に入るのは初めてだ。クリスの周囲、ひいては世界にはこのように開けっぴろげな温泉はない。
そもそも温泉という概念自体があるかどうか怪しいが、それはとにかく置いておくことにする。
濡れた巫女服を脱ぎ、生まれたままの白い肌を晒して温かい湯の中へと身体を委ねた。
露天風呂に入るのは初めてだ。クリスの周囲、ひいては世界にはこのように開けっぴろげな温泉はない。
そもそも温泉という概念自体があるかどうか怪しいが、それはとにかく置いておくことにする。
濡れた巫女服を脱ぎ、生まれたままの白い肌を晒して温かい湯の中へと身体を委ねた。
水気を帯びたぬるりとした感触が、全身を支配する。
母に抱かれたかのような暖かな感覚。雨と川で冷たくなった体を芯から温めてくれる。
しばらく湯に浸かっていると、元々色素の薄い肌は赤く際立っていく。
傷も付いていない肌を隠すことの出来る唯一の装備は、温泉宿でぃーろく旅館と書かれた手ぬぐいのみだ。
母に抱かれたかのような暖かな感覚。雨と川で冷たくなった体を芯から温めてくれる。
しばらく湯に浸かっていると、元々色素の薄い肌は赤く際立っていく。
傷も付いていない肌を隠すことの出来る唯一の装備は、温泉宿でぃーろく旅館と書かれた手ぬぐいのみだ。
(こんなこと、してる場合じゃないのにな……)
静留の暴走はもちろん、クリスは覚えている。
杏を殺してしまったことを引き金にして、殺人を肯定してしまった彼女を止めたい。
人が人を殺す理由なんて知らないし、理解したくもない。
それでも彼女はまだ戻れると信じている。玖我なつき、彼女が説得してくれれば、きっと―――
杏を殺してしまったことを引き金にして、殺人を肯定してしまった彼女を止めたい。
人が人を殺す理由なんて知らないし、理解したくもない。
それでも彼女はまだ戻れると信じている。玖我なつき、彼女が説得してくれれば、きっと―――
(キョウ……ウェストさん……)
死んでしまった二人の仲間。
気が動転していたためか、脈の計り方は悪かったかも知れない。
むしろ、そう信じたい。ウェストはまだ杏の知らないところで生きていて、杏も自分が計りそこなったと信じたい。
たとえそれが逃げだとしても、人が死ぬことはとても悲しいことなのだ。
気が動転していたためか、脈の計り方は悪かったかも知れない。
むしろ、そう信じたい。ウェストはまだ杏の知らないところで生きていて、杏も自分が計りそこなったと信じたい。
たとえそれが逃げだとしても、人が死ぬことはとても悲しいことなのだ。
「…………うわっ!」
考え事をしていて、背中の目測を誤ってしまったらしい。
後ろに背を預ける場所があると思っていたクリスは、そのまま何もない場所へと体重を預けてしまう。
結果として残るのは、背中から湯に沈むという運命だ。
上空からは絶えず雨が降り注いでいる。まるで死んだ人のことを悲しむ涙のように―――
後ろに背を預ける場所があると思っていたクリスは、そのまま何もない場所へと体重を預けてしまう。
結果として残るのは、背中から湯に沈むという運命だ。
上空からは絶えず雨が降り注いでいる。まるで死んだ人のことを悲しむ涙のように―――
「……あ、れ?」
見上げた空、雨に濡れた身体が不自然に停止した。
背中に当たる温かい感触。突如としてクリスの身体を支える存在が現れた。
それは間違いなく人肌だ、と背中越しに少年は感じ取れた。とても温かい、と一息ついて……はて、と。
どうして背後に人がいるのだろう。いや、それ以前にこんなことをしてくるのは。
背中に当たる温かい感触。突如としてクリスの身体を支える存在が現れた。
それは間違いなく人肌だ、と背中越しに少年は感じ取れた。とても温かい、と一息ついて……はて、と。
どうして背後に人がいるのだろう。いや、それ以前にこんなことをしてくるのは。
「危ないな、少年。しっかりそのまま私を支えていてくれよ?」
「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ、ユイコーーーーっ!? なんで!? どうして!?」
「おっと少年、後ろを振り向くんじゃないぞ、そのままだ。お姉さんの裸を見たければ好きにしても構わんが」
「ゆ、ゆゆゆゆゆゆ、ユイコーーーーっ!? なんで!? どうして!?」
「おっと少年、後ろを振り向くんじゃないぞ、そのままだ。お姉さんの裸を見たければ好きにしても構わんが」
振り向こうとした身体を理性で硬直させた。
背中の向こう側の来ヶ谷唯湖は間違いなく笑っている。自分の反応を見て笑っている。
背中の向こう側の来ヶ谷唯湖は間違いなく笑っている。自分の反応を見て笑っている。
(いや確かに見たい気持ちはあるのだけどそれはそれで人としてどうかっていうかまた馬鹿にされそうな気がするなというか!)
「あー、少年。混乱しているところ悪いが、きちんと背中合わせにならないと……」
(だいたいユイコは無防備すぎるというか楽しいことを追いすぎというかこのまま弄られ続けると僕としても色々と困るというかーーーっ!)
「あー、少年。混乱しているところ悪いが、きちんと背中合わせにならないと……」
(だいたいユイコは無防備すぎるというか楽しいことを追いすぎというかこのまま弄られ続けると僕としても色々と困るというかーーーっ!)
混乱の局地に達したクリスは頭を抱えて天を仰いでいる。
もちろん来ヶ谷の言葉も耳に届いているのだが、そんなことに一々反応していられるほどの余力がないらしい。
だが、いかにそんな状態のクリスとはいえ。
もちろん来ヶ谷の言葉も耳に届いているのだが、そんなことに一々反応していられるほどの余力がないらしい。
だが、いかにそんな状態のクリスとはいえ。
「……クリス少年の大事なところが見えてしまうかもしれん」
「――――――はい、ごめんなさい」
「――――――はい、ごめんなさい」
頬を赤らめてそんなことを言う彼女の言葉に、一撃で沈められることになるのでした。
ペンは剣より強し、っていうけど、言葉は拳よりも強いというのも証明されたらしい。
そうして二人で背中合わせになる。
時間がゆっくりと進んでいく中で、ようやくクリスは落ち着くことができた。
ペンは剣より強し、っていうけど、言葉は拳よりも強いというのも証明されたらしい。
そうして二人で背中合わせになる。
時間がゆっくりと進んでいく中で、ようやくクリスは落ち着くことができた。
「なぁ、クリス君。そろそろ本題に入ってもいいだろうか?」
「……うん?」
「……うん?」
それが本来の目的だったのか。
それともまた思いつきの末、男湯に突撃してきたのか。
はたまた、元々露天風呂は男も女も関係ないだけの話なのか。とにかく、クリスには結論が出せなかった。
それともまた思いつきの末、男湯に突撃してきたのか。
はたまた、元々露天風呂は男も女も関係ないだけの話なのか。とにかく、クリスには結論が出せなかった。
「放送について、だ。確かに死者の名前と禁止エリアは伝えたが、実はこの話には続きがある」
「続き……? 例の、死者蘇生の話?」
「うむ、それも含めてな。少しばかり、詳しく話していこうか」
「続き……? 例の、死者蘇生の話?」
「うむ、それも含めてな。少しばかり、詳しく話していこうか」
クリスは杏のことを思い出していた。
殺された岡崎朋也を生き返らせたい、と願い……そして死んでいった少女のこと、仲間のことを。
彼女が躍らされたのは放送か、それとも参加者からの情報か。
少なくとも聞く価値はある、とクリスは彼女の背に自分を預けて話の続きを促した。
殺された岡崎朋也を生き返らせたい、と願い……そして死んでいった少女のこと、仲間のことを。
彼女が躍らされたのは放送か、それとも参加者からの情報か。
少なくとも聞く価値はある、とクリスは彼女の背に自分を預けて話の続きを促した。
「まず、言峰……主催者の神父のほうだが、放送の途中に食事をしていた。私も馳走に預かりたいものだ」
「ちょっとユイコ!? 今までの真面目な話っぽい前置きが台無しだよ!? ていうか、食事?」
「うむ、美味そうだったぞ。音だけだが」
「ちょっとユイコ!? 今までの真面目な話っぽい前置きが台無しだよ!? ていうか、食事?」
「うむ、美味そうだったぞ。音だけだが」
……とにかく、クリスはその言葉を受け流すことにした。
詳しく聞くと感情を逆撫でされるような、言いようのない苛立ちが胸の中に残ったからだ。
来ヶ谷はムッとするクリスを見て、目を細めた。
そんな彼女の姿を見てようやく、まずは肩の力を抜けと言われていることに彼は気づいた。
詳しく聞くと感情を逆撫でされるような、言いようのない苛立ちが胸の中に残ったからだ。
来ヶ谷はムッとするクリスを見て、目を細めた。
そんな彼女の姿を見てようやく、まずは肩の力を抜けと言われていることに彼は気づいた。
「……ごめん、続けて」
「了解した。まずはひとつ、あの男は……優勝者にはある権利が与えられる、と言った」
「権利……?」
「詳しい言及は避けていたがな。まるで一縷の望み、地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようだ。……切れる前提のな」
「了解した。まずはひとつ、あの男は……優勝者にはある権利が与えられる、と言った」
「権利……?」
「詳しい言及は避けていたがな。まるで一縷の望み、地獄に垂らされた蜘蛛の糸のようだ。……切れる前提のな」
その表現はクリスにひとつの言葉を思い出させるには十分だった。
ただ示唆されるだけの権利と、蜘蛛の糸の関連性……放送が示す権利とは、つまり。
ただ示唆されるだけの権利と、蜘蛛の糸の関連性……放送が示す権利とは、つまり。
「優勝すれば、人を生き返らせることができるってこと……?」
「少なくとも私はそう考えている。死者蘇生……なんとも、ぶっ飛んでいる割に素晴らしい響きだろう?」
「……有り得ない、そんなこと」
「少なくとも私はそう考えている。死者蘇生……なんとも、ぶっ飛んでいる割に素晴らしい響きだろう?」
「……有り得ない、そんなこと」
死者蘇生。
人の生死を自由にする技術、もしくは方法。
そんなものが本当にあるのか、と考えれば……普通は否。そんなものは存在しないと思う。
人の生死を自由にする技術、もしくは方法。
そんなものが本当にあるのか、と考えれば……普通は否。そんなものは存在しないと思う。
「有り得ないことは有り得ないのだよ、少年。少なくともこの世には常識ではない『不思議』がまかり通る」
それは突然、殺し合いを強制させられたり。
それは突然、自分がブーメランのようなものを使用することができたり。
それは突然、今まで笑いあっていた仲間が目の前で死んだり、知らないところで殺されたり。
それは突然、自分がブーメランのようなものを使用することができたり。
それは突然、今まで笑いあっていた仲間が目の前で死んだり、知らないところで殺されたり。
「不思議はある、それを証明してあげよう。よく聴きたまえ、クリス君。これは嘘ではない、と前置きしておくぞ」
「…………う、うん」
「…………う、うん」
背中越しの来ヶ谷は少しだけ寂しげだった。
それはまるでクリスと自分の立ち位置の違いを明確にするかのような、そんな悲しい決意。
話すつもりなど無かった、と後に彼女は思う。
されど、それでも言ってもいいかと思ったのだ。少なくとも彼は信頼できると彼女がそう思ったのだから。
それはまるでクリスと自分の立ち位置の違いを明確にするかのような、そんな悲しい決意。
話すつもりなど無かった、と後に彼女は思う。
されど、それでも言ってもいいかと思ったのだ。少なくとも彼は信頼できると彼女がそう思ったのだから。
「私はね、既に死んでいる人間なのだよ」
そんな決意と共に伝えられた言葉は。
クリスの顔色を凍りつかせ、身体をびくりと震わせるには十分すぎる内容だった。
クリスの顔色を凍りつかせ、身体をびくりと震わせるには十分すぎる内容だった。
◇ ◇ ◇ ◇
「正確には死ぬ間際の人間だ。もう、このままでは助からないはずの人間なのだよ」
クリスは呆然と彼女の話を受け入れていた。
反論も否定も許さない、と彼女の意思が背中から伝わってくるのだ。
だから、信じられないほど突拍子もない彼女の過去を……クリスは静かに受け入れ続けた。
反論も否定も許さない、と彼女の意思が背中から伝わってくるのだ。
だから、信じられないほど突拍子もない彼女の過去を……クリスは静かに受け入れ続けた。
それは不幸なバス事故だったという。
掛け替えのない仲間たちを乗せた希望の乗り物は、一瞬で絶望へと反転した。
生き残ったのは……生き残れる可能性があったのは、たった二人だけだった。
だが、彼らだけを残してこの世を去ることは出来なかった。自分たちの存在に依存していた二人を残して逝けなかった。
掛け替えのない仲間たちを乗せた希望の乗り物は、一瞬で絶望へと反転した。
生き残ったのは……生き残れる可能性があったのは、たった二人だけだった。
だが、彼らだけを残してこの世を去ることは出来なかった。自分たちの存在に依存していた二人を残して逝けなかった。
「何度も、何度も願った。死ねない、と……まだ死にたくない、と皆で願い続けた」
それは奇跡だったのだろう。
一人では起こせない奇跡だったと、彼らは口を揃えて呟いたのだ。
精神世界、バス事故での全員の時間を止め、終わってしまった世界の中で繰り返される日常。
その中で彼らは最後の心残りを癒していきながら、生き残った二人の大切な仲間を強くしていった。
一人では起こせない奇跡だったと、彼らは口を揃えて呟いたのだ。
精神世界、バス事故での全員の時間を止め、終わってしまった世界の中で繰り返される日常。
その中で彼らは最後の心残りを癒していきながら、生き残った二人の大切な仲間を強くしていった。
自分たちがいなくても、自分の足で立てるように。
自分たちの死に壊れることなく、一緒に手を繋いで未来を歩き続けてほしい――――と。
自分たちの死に壊れることなく、一緒に手を繋いで未来を歩き続けてほしい――――と。
「私はその途中で、この殺し合いの舞台に立たされた。……だが、ここは精神世界などではない」
「……うん。僕も、ユイコが魂だけの存在だなんて思えない」
「そうだ。だからこそ、私は彼ら管理人たちが死者を復活させる方法がある、と聞いても驚かん。むしろ納得できるぐらいだ」
「……うん。僕も、ユイコが魂だけの存在だなんて思えない」
「そうだ。だからこそ、私は彼ら管理人たちが死者を復活させる方法がある、と聞いても驚かん。むしろ納得できるぐらいだ」
瀕死であったはずの肉体を完全に蘇生させ、知らない場所へと転送する能力。
それを思えばどんな不思議もまかり通るだろう、と彼女は自然に受け入れていたのだ。
クリスは背中越しに俯いていた。
自分が今まで彼女に感じていた軽薄な勘違いを叱咤するように。
それを思えばどんな不思議もまかり通るだろう、と彼女は自然に受け入れていたのだ。
クリスは背中越しに俯いていた。
自分が今まで彼女に感じていた軽薄な勘違いを叱咤するように。
(そっか、ユイコがどうして面白いことを優先するか、やっと分かった……)
それは当然のことなんだ。
これは彼女にとっても一抹の夢に過ぎないのだから。
死に逝く未来しか残っていない。だからせめて未練なく、全力で残された奇跡を楽しみたいだけだったのだ。
絶望を無理やり希望に変えて。
これは彼女にとっても一抹の夢に過ぎないのだから。
死に逝く未来しか残っていない。だからせめて未練なく、全力で残された奇跡を楽しみたいだけだったのだ。
絶望を無理やり希望に変えて。
「……ユイコ、大丈夫? 悲しくない?」
「悲しい? 私がか? はっはっは、それはないぞ、少年。何しろ私には心がない」
「心が、ない……?」
「悲しい? 私がか? はっはっは、それはないぞ、少年。何しろ私には心がない」
「心が、ない……?」
自嘲するような声だった。
生まれたときから感情を持っていない、と明るく彼女は語っていた。
だからずっと人間らしい『振り』をしてきたのだ、と。
生まれたときから感情を持っていない、と明るく彼女は語っていた。
だからずっと人間らしい『振り』をしてきたのだ、と。
「私には心がない。喜びがない、怒りがない、哀しみがない、楽しさがない」
「そんな、ユイコはこうして今も楽しそうに笑って……」
「――――そう、演じているだけだよ、クリス君。私はね、感情の表現の仕方が分からないんだ」
「そんな、ユイコはこうして今も楽しそうに笑って……」
「――――そう、演じているだけだよ、クリス君。私はね、感情の表現の仕方が分からないんだ」
はっはっは、と彼女は笑う……確かに笑っている。
確かにどこかワザとらしい笑みだとは思ったのだ。だけどそれは個性の話で、問題視することじゃないと思っていた。
だけどそれは間違いだったらしい。
来ヶ谷唯湖は致命的な欠陥を抱えていることを、ようやくクリスは理解した。
確かにどこかワザとらしい笑みだとは思ったのだ。だけどそれは個性の話で、問題視することじゃないと思っていた。
だけどそれは間違いだったらしい。
来ヶ谷唯湖は致命的な欠陥を抱えていることを、ようやくクリスは理解した。
「探し続けた。何が楽しいのか、何が喜ばしいのか。何に悲しめばいいのか、何に怒ればいいのか」
「そんなの……」
「何処か、冷静な自分がいるんだ。怒るときですら、客観的に物事を見てしまう。楽しさを見つけることすら、理論がある」
「そんなの……」
「何処か、冷静な自分がいるんだ。怒るときですら、客観的に物事を見てしまう。楽しさを見つけることすら、理論がある」
雨が降り続けていた。
クリスは後ろにいる彼女が消えてしまいそうな錯覚を覚えてしまう。
それでも、背中に感じる暖かな感触と感覚が、まだ彼女がここにいるということを伝えてくれた。
クリスは後ろにいる彼女が消えてしまいそうな錯覚を覚えてしまう。
それでも、背中に感じる暖かな感触と感覚が、まだ彼女がここにいるということを伝えてくれた。
「私はね、心を欲したブリキの兵隊なんだよ」
何か言わなければならない。
そんなはずがない、と告げなければならない。
クリスの知っている来ヶ谷唯湖は欠陥を抱えた人間ではないと伝えたかった。
時間があれば彼女の肩を掴んで、そんなことは絶対にないと告げてやりたかった。
そんなはずがない、と告げなければならない。
クリスの知っている来ヶ谷唯湖は欠陥を抱えた人間ではないと伝えたかった。
時間があれば彼女の肩を掴んで、そんなことは絶対にないと告げてやりたかった。
だが、それは出来ない。
来ヶ谷の肩が震えたのだ。まるで危機を察知した動物のように。
来ヶ谷の肩が震えたのだ。まるで危機を察知した動物のように。
「……クリス君、どうやら来客のようだ」
「えっ!?」
「旅館への訪問者だよ。……積極的な人間でなければいいのだがね」
「えっ!?」
「旅館への訪問者だよ。……積極的な人間でなければいいのだがね」
ばしゃり、と来ヶ谷は立ち上がった。支えを失ったクリスはそのまま湯船へと沈んでいってしまう。
慌てて体勢を立て直したクリスの目に飛び込んできたのは、仲間の一糸纏わぬ姿だ。
慌てて体勢を立て直したクリスの目に飛び込んできたのは、仲間の一糸纏わぬ姿だ。
「あ……あう…………」
お湯に濡れた髪が張り付いた白い肌も。
平均よりもずっと豊かな双丘も。
僅かな水滴を集めた腹部の窪みも。
純情な少年であるクリスはそれを認識した瞬間、今度は別の意味で噴出してしまった。
平均よりもずっと豊かな双丘も。
僅かな水滴を集めた腹部の窪みも。
純情な少年であるクリスはそれを認識した瞬間、今度は別の意味で噴出してしまった。
「ごっ、ごほごほっ……かふっ……」
「少年、済まないな。とにかくこの話は後だ、今は来客について対応しよう」
「そ、そそそそ、それよりもまず服を着てよ、ユイコォッ!!」
「少年、済まないな。とにかくこの話は後だ、今は来客について対応しよう」
「そ、そそそそ、それよりもまず服を着てよ、ユイコォッ!!」
堪らなくなって叫び倒したクリスの反応を見て、彼女は視点を自分の下へと向ける。
次に目を隠そうとするクリスと、自分の裸体を交互に確認して。
次に目を隠そうとするクリスと、自分の裸体を交互に確認して。
「うむ、この身体を見て『マジ興奮するぜ、ひゃっほう!』とか叫ぶといい」
「そんなことっ、するかぁあああああああああっ!!!!」
「そんなことっ、するかぁあああああああああっ!!!!」
温泉宿、でぃーろく旅館。
少年の魂の篭もった叫びが、旅館全土を揺るがすほどに響き渡った。
少年の魂の篭もった叫びが、旅館全土を揺るがすほどに響き渡った。
◇ ◇ ◇ ◇
「……ミキミキも、いない」
葛の死体を抱えた碧が温泉にたどり着いたのは、来ヶ谷たちが温泉に入った頃と同時期である。
碧は山辺美希を捜しながらも警戒していた。
この温泉宿に殺し合いに乗った者がいる可能性を考えれば、大声で呼ぶのは自殺行為だからだ。
そうして長い時間をかけ、部屋をひとつひとつ回っていった結果である。
碧は山辺美希を捜しながらも警戒していた。
この温泉宿に殺し合いに乗った者がいる可能性を考えれば、大声で呼ぶのは自殺行為だからだ。
そうして長い時間をかけ、部屋をひとつひとつ回っていった結果である。
葛の死体は部屋の一室に安置してある。
彼女を抱えたままの捜索は体力を使うし、何より相手に誤解をさせてしまうだろう。
彼女を抱えたままの捜索は体力を使うし、何より相手に誤解をさせてしまうだろう。
「…………無事でいてよ、ミキミキ」
待ってて、と言ったのにこの場にいないとはどういうことだろうか。
その謎はロビーに残されている。それは粉砕された惨状だった。誰かが争った痕跡が残っている。
逃げたのだろう。少なくとも、警戒して周囲を散策するも今のところ、冷たくなった美希の姿は発見できていない。
その謎はロビーに残されている。それは粉砕された惨状だった。誰かが争った痕跡が残っている。
逃げたのだろう。少なくとも、警戒して周囲を散策するも今のところ、冷たくなった美希の姿は発見できていない。
また間違えてしまったのか、と右手を握り締めた。
それでも前向きに頑張ろうと決めて、碧は旅館を歩き出す。
それでも前向きに頑張ろうと決めて、碧は旅館を歩き出す。
(誰か、いる……?)
露天風呂に誰かがいる。
敵か、それとも味方か。碧には判断が付かないが、少なくとも風呂場で待ち伏せするのはメリットが薄い。
美希がまた風呂に入ってる可能性は……ないとは言えないが、薄いとも思う。
武装する必要性を感じて、碧は銃に手をやりながら温泉へと接近し―――そこで大声を聞いた。
敵か、それとも味方か。碧には判断が付かないが、少なくとも風呂場で待ち伏せするのはメリットが薄い。
美希がまた風呂に入ってる可能性は……ないとは言えないが、薄いとも思う。
武装する必要性を感じて、碧は銃に手をやりながら温泉へと接近し―――そこで大声を聞いた。
「そんなことっ、するかぁあああああああああっ!!!!」
停止。
そして思考。
あー、何と言うか、危険がないっぽいなぁ―――などと呟いて碧は苦笑してしまった。
そして思考。
あー、何と言うか、危険がないっぽいなぁ―――などと呟いて碧は苦笑してしまった。
「そこの人ー。いるんなら出てきてくれないかな? こっちは殺し合いには乗ってないよ」
「………………ふむ、クリス君。先の音楽もそうだが、叫ぶのは余計な問題を抱えるぞ?」
「…………理不尽だと思うよ」
「………………ふむ、クリス君。先の音楽もそうだが、叫ぶのは余計な問題を抱えるぞ?」
「…………理不尽だと思うよ」
やがて、暖簾の向こう側から男女の声が聞こえてくる。
良かった、二人組というなら危険なんてないに決まってる。碧は素直にその出会いを喜ぶことにした。
二人は別々に青と赤の暖簾から登場した。
一人は女物の浴衣姿で、胸を強調させた扇情的な格好。もう一人は……やはり女物の浴衣で、しかも着付けできてない。
良かった、二人組というなら危険なんてないに決まってる。碧は素直にその出会いを喜ぶことにした。
二人は別々に青と赤の暖簾から登場した。
一人は女物の浴衣姿で、胸を強調させた扇情的な格好。もう一人は……やはり女物の浴衣で、しかも着付けできてない。
「…………」
「………………」
「……文句はこの際、受け付けない」
「………………」
「……文句はこの際、受け付けない」
沈黙、静寂、寂滅。
何か寒い雰囲気が辺りに漂っていた。
何故なら着付けできないクリスは下着の上から浴衣を羽織っている状態で……そのままでは半裸にローブの格好だ。
何か寒い雰囲気が辺りに漂っていた。
何故なら着付けできないクリスは下着の上から浴衣を羽織っている状態で……そのままでは半裸にローブの格好だ。
「……ぷっ」
「…………はっはっは!」
「…………はっはっは!」
静寂は嵐の前の静けさだと言うらしい。
それは正しいということをクリスは身をもって知ることになる。
痛々しいまでの沈黙が、大爆笑の渦に切り替わるのに……大した時間はかからなかった。
それは正しいということをクリスは身をもって知ることになる。
痛々しいまでの沈黙が、大爆笑の渦に切り替わるのに……大した時間はかからなかった。
「「ははははははははははっ!!!」」
この後、クリスが女性二人に笑われたことに立ち直るのにしばらくの時間を要することになる。
妙に雨が降って来たなぁ、と遠い目でクリスは思った。
合掌。
妙に雨が降って来たなぁ、と遠い目でクリスは思った。
合掌。
【D-6 温泉宿/1日目 昼】
【クリス・ヴェルティン@シンフォニック=レイン】
【装備】:浴衣@アカイイト、防弾チョッキ、フォルテール(リセ)
【所持品】:支給品一式、ピオーヴァ音楽学院の制服(ワイシャツ以外)@シンフォニック=レイン
ロイガー&ツァール@機神咆哮デモンベイン 刀子の巫女服@あやかしびと -幻妖異聞録-
【状態】:Piovaゲージ:60%、浴衣(羽織るのみ)
【思考・行動】
基本:無気力。能動的に行動しない。ちょっとだけ前向きに。
0:…………orz
1:目の前の女性(碧)と情報交換を行う
2:ナツキを見つけ出しシズルを説得する
3:ユイコは不思議な人だ
4:あの部屋に帰れるのだろうか
5:トルタ、ファルは無事なんだろうか
6:あの少女(なごみ)が誰と会ったのか気になる
7:それでも他人とはあまり関わらない方がいいのかもしれない
【装備】:浴衣@アカイイト、防弾チョッキ、フォルテール(リセ)
【所持品】:支給品一式、ピオーヴァ音楽学院の制服(ワイシャツ以外)@シンフォニック=レイン
ロイガー&ツァール@機神咆哮デモンベイン 刀子の巫女服@あやかしびと -幻妖異聞録-
【状態】:Piovaゲージ:60%、浴衣(羽織るのみ)
【思考・行動】
基本:無気力。能動的に行動しない。ちょっとだけ前向きに。
0:…………orz
1:目の前の女性(碧)と情報交換を行う
2:ナツキを見つけ出しシズルを説得する
3:ユイコは不思議な人だ
4:あの部屋に帰れるのだろうか
5:トルタ、ファルは無事なんだろうか
6:あの少女(なごみ)が誰と会ったのか気になる
7:それでも他人とはあまり関わらない方がいいのかもしれない
【備考】
※雨など降っていません
※Piovaゲージ=鬱ゲージと読み替えてください
※増えるとクリスの体感する雨がひどくなります
※西洋風の街をピオーヴァに酷似していると思ってます
※巫女服が女性用の服だと気付いていません
※巫女服の腹部分に穴が開いています
※千羽烏月、岡崎朋也、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています
※なごみがトルタ・ファル・リセのいずれかに何かしたのかもしれないと不安に思っています
※リセの死を乗り越えました。
※記憶半覚醒
※静留と情報交換済み
※雨など降っていません
※Piovaゲージ=鬱ゲージと読み替えてください
※増えるとクリスの体感する雨がひどくなります
※西洋風の街をピオーヴァに酷似していると思ってます
※巫女服が女性用の服だと気付いていません
※巫女服の腹部分に穴が開いています
※千羽烏月、岡崎朋也、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています
※なごみがトルタ・ファル・リセのいずれかに何かしたのかもしれないと不安に思っています
※リセの死を乗り越えました。
※記憶半覚醒
※静留と情報交換済み
【来ヶ谷唯湖@リトルバスターズ!】
【装備】:浴衣@アカイイト、デザートイーグル50AE(6/7)@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-
【所持品】:支給品一式、デザートイーグル50AEの予備マガジン×4
【状態】:脇腹に浅い傷(処置済み)
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗る気は皆無。面白いもの、興味惹かれるのを優先
0:はっはっはっはっは!!
1:目の前の女性(碧)と情報を交換する
2:なつきを見つけ出し静留を説得する
2:クリスは面白い子だ、ついでに保護
3:いつかパイプオルガンを完璧にひいてみたい
4:リトルバスターズのメンバーも一応探す
【装備】:浴衣@アカイイト、デザートイーグル50AE(6/7)@Phantom -PHANTOM OF INFERNO-
【所持品】:支給品一式、デザートイーグル50AEの予備マガジン×4
【状態】:脇腹に浅い傷(処置済み)
【思考・行動】
基本:殺し合いに乗る気は皆無。面白いもの、興味惹かれるのを優先
0:はっはっはっはっは!!
1:目の前の女性(碧)と情報を交換する
2:なつきを見つけ出し静留を説得する
2:クリスは面白い子だ、ついでに保護
3:いつかパイプオルガンを完璧にひいてみたい
4:リトルバスターズのメンバーも一応探す
【備考】
※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみてると判断。今の所危険性はないと見てます
※千羽烏月、岡崎朋也、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています
※静留と情報交換済み
※来ヶ谷は精神世界からの参戦です
※クリスはなにか精神錯覚、幻覚をみてると判断。今の所危険性はないと見てます
※千羽烏月、岡崎朋也、椰子なごみの外見的特長のみを認識しています
※静留と情報交換済み
※来ヶ谷は精神世界からの参戦です
【杉浦碧@舞-HiME 運命の系統樹】
【装備】:不明、FNブローニングM1910(弾数7+1)
【所持品】:黒いレインコート(だぶだぶ) 支給品一式、FNブローニングM1910の予備マガジン×4、恭介の尺球(花火セット付き)@リトルバスターズ!
ダーク@Fate/stay night[Realta Nua]、アルのページ断片(ニトクリスの鏡)@機神咆哮デモンベイン
【状態】:健康
【思考・行動】
0:あっはっはっはっは!!
1:目の前の男女(クリスと来ヶ谷)と情報を交換する
2:乙女、美希のことが心配。合流したい
3:反主催として最後まで戦う
4:知り合いを探す
5:羽藤桂、伊達スバル、玖我なつきを捜しだし、葛のことを伝える
6:葛を埋葬してやりたい
【装備】:不明、FNブローニングM1910(弾数7+1)
【所持品】:黒いレインコート(だぶだぶ) 支給品一式、FNブローニングM1910の予備マガジン×4、恭介の尺球(花火セット付き)@リトルバスターズ!
ダーク@Fate/stay night[Realta Nua]、アルのページ断片(ニトクリスの鏡)@機神咆哮デモンベイン
【状態】:健康
【思考・行動】
0:あっはっはっはっは!!
1:目の前の男女(クリスと来ヶ谷)と情報を交換する
2:乙女、美希のことが心配。合流したい
3:反主催として最後まで戦う
4:知り合いを探す
5:羽藤桂、伊達スバル、玖我なつきを捜しだし、葛のことを伝える
6:葛を埋葬してやりたい
【備考】
※葛の死体は温泉宿の一室に、手を組ませた状態で放置してあります
※葛の死体は温泉宿の一室に、手を組ませた状態で放置してあります
096:集え、そして結束しろ | 投下順 | 098:Steelis my body, and fireis my blood/絡み合うイト(前編) |
113:Second Battle/少年少女たちの流儀(後編) | 時系列順 | 108:記憶無き少女、彷徨う |
077:last moment | 杉浦碧 | 127:雨に煙る |
092:doll(後編) | クリス・ヴェルティン | 127:雨に煙る |
092:doll(後編) | 来ヶ谷唯湖 | 127:雨に煙る |