いつでも微笑みを/トルティニタ・フィーネ(前編) ◆S71MbhUMlM
「最期に言うと未練がましく思われるかもしれないけど……俺、トルタの事が好きだった。
どうして、とか言われても、気が付いたら、としか言えないけど、兎に角好きだ。
……ああ、それだけは、どうしても言っておきたかったんだ」
どうして、とか言われても、気が付いたら、としか言えないけど、兎に角好きだ。
……ああ、それだけは、どうしても言っておきたかったんだ」
そう言って、彼は少しだけ笑った。
私に向ける震えの無い銃口も、表面的には何の変化も無い表情も、何時もとまるで変わらない口調も、全てが何時もの彼のものだった。
人一人居ない、見慣れぬ町。
知らない町でも、太陽は同じように西に沈んでいく。
……雨の気配は無い。
別れには、相応しい場所なのかもしれない。
私に向ける震えの無い銃口も、表面的には何の変化も無い表情も、何時もとまるで変わらない口調も、全てが何時もの彼のものだった。
人一人居ない、見慣れぬ町。
知らない町でも、太陽は同じように西に沈んでいく。
……雨の気配は無い。
別れには、相応しい場所なのかもしれない。
「…………ごめん、やっぱ忘れてくれ。
こんな事言っても、マイナスにしかならないよな」
こんな事言っても、マイナスにしかならないよな」
最初から約束されていた破滅は、何時かと同じように、唐突に訪れた。
思えば、出会った時もこうして、お互い向き合っていたんだっけ。
あれから、どれだけの時間がたったんだろう?
計算すればすぐわかるけど、何だか知りたくなかった。
とてもとても、長い時間を一緒に過ごしていたような気がする。
思い起こせば一瞬、だけどそひと時ひと時がどれも大事なもの。
でも、それも、もう、終わり。
思えば、出会った時もこうして、お互い向き合っていたんだっけ。
あれから、どれだけの時間がたったんだろう?
計算すればすぐわかるけど、何だか知りたくなかった。
とてもとても、長い時間を一緒に過ごしていたような気がする。
思い起こせば一瞬、だけどそひと時ひと時がどれも大事なもの。
でも、それも、もう、終わり。
「……もう、どうしようも無いのかな、……恭介?」
感情を出さないように、意識して、少し大きな声で話す。
聞かなくても、もう私にだって判ってる、どうしようも無いくらいに。
何時だって、現実は思うようにはいかない。 私は、ただそれを嘆き続ける事しか出来なかった。
聞かなくても、もう私にだって判ってる、どうしようも無いくらいに。
何時だって、現実は思うようにはいかない。 私は、ただそれを嘆き続ける事しか出来なかった。
「………………」
「うん、ごめん、……わかってるよ、恭介の所為なんかじゃない」
「うん、ごめん、……わかってるよ、恭介の所為なんかじゃない」
僅かに恭介の表情が曇る。
恭介だって、これで良い、なんて本当は思ってない。
でも、それでもどうしようもない事。
だから、私は言った。
その事で、また恭介が苦しむ事は判っていたけど、それでも言った。
恭介だって、これで良い、なんて本当は思ってない。
でも、それでもどうしようもない事。
だから、私は言った。
その事で、また恭介が苦しむ事は判っていたけど、それでも言った。
「恭介、……これまで、ありがとう」
貴方がいたから、私はここまで生きてこれた。
貴方がいたから、私は多分前に歩けた。
貴方がいたから、今、この言葉が言える。
貴方がいたから、私は多分前に歩けた。
貴方がいたから、今、この言葉が言える。
ありがとう、恭介。
そして、……さようなら。
そして、……さようなら。
耳障りな轟音。
永遠の離別を告げる鐘の音が響き、二人の物語はここで終焉を迎える。
少しずつ、それでいて規則正しい足音。
その音は一つ。
もう二度と、互いの音が交わる事は無い。
足音も、
呼吸の音も、
互いの心臓の音も、
永遠の離別を告げる鐘の音が響き、二人の物語はここで終焉を迎える。
少しずつ、それでいて規則正しい足音。
その音は一つ。
もう二度と、互いの音が交わる事は無い。
足音も、
呼吸の音も、
互いの心臓の音も、
全ては、ひと時の思い出へと変わりゆく。
でも、思う、どうして、こうなっちゃったのかな?
◇
言峰綺礼と、命をBETにした賭けで得たコインは14000枚。
目的のUSBメモリという機械を手に入れて、なお余裕がある枚数だった。
手に入れた機械は、ガラスに似た平べったい、小さな筒の形で、とても不思議なもの。
早速その使おう、て言ったら、恭介にパソコンという機械が無いと使えない、と言われた。
そして、「これは、トルタが得たものだ」って渡されたけど、恭介に返した。
私が持っていても仕方の無いものだし、私一人の力でも無いのだから。
目的のUSBメモリという機械を手に入れて、なお余裕がある枚数だった。
手に入れた機械は、ガラスに似た平べったい、小さな筒の形で、とても不思議なもの。
早速その使おう、て言ったら、恭介にパソコンという機械が無いと使えない、と言われた。
そして、「これは、トルタが得たものだ」って渡されたけど、恭介に返した。
私が持っていても仕方の無いものだし、私一人の力でも無いのだから。
残りは4000枚、なのでその内の1000枚で恭介に防弾チョッキというものを渡した。
銃の弾が防げるのだから、これほど良い物も無い。
戦いになれば、恭介は必ず私よりも危険な場所に立とうとする。
だから、僅かにでも危険を減らしたかった。
恭介は大分渋っていたけど、それでも最期は『ランキング暫定チャンピオン』の命令という事にした。
……この称号、実は大分便利かもしれない。
銃の弾が防げるのだから、これほど良い物も無い。
戦いになれば、恭介は必ず私よりも危険な場所に立とうとする。
だから、僅かにでも危険を減らしたかった。
恭介は大分渋っていたけど、それでも最期は『ランキング暫定チャンピオン』の命令という事にした。
……この称号、実は大分便利かもしれない。
そういえば、恭介に付けた称号は、思い返すと恥ずかしい。
彼が私の国の言語を知らない事が、唯一の救いかもしれない。
恭介に意味を聞かれたけど、何とかごまかせたし。
彼が私の国の言語を知らない事が、唯一の救いかもしれない。
恭介に意味を聞かれたけど、何とかごまかせたし。
あの時は、何もかもが上手く行っていた筈だった。
そう、その時までは。
そう、その時までは。
初めて聞く声。
良く判らないけど多分重要な事柄を告げる声。
けれど、私たちにはそんな事はどうでも良かった。
良く判らないけど多分重要な事柄を告げる声。
けれど、私たちにはそんな事はどうでも良かった。
『直枝理樹』
恭介の、最期の探し人。
私にとってのクリスと同じように、存在の全てであったもの。
それが、……消えた、……消えて、しまった。
私にとってのクリスと同じように、存在の全てであったもの。
それが、……消えた、……消えて、しまった。
◇
……憎い。
理樹を殺した誰かが憎い。
鈴を殺したファントムが憎い。
理樹の死を知りながらあえてあんな取引を持ちかけた言峰綺礼が憎い。
そして何より何も出来なかった自分自身が憎い。
理樹を殺した誰かが憎い。
鈴を殺したファントムが憎い。
理樹の死を知りながらあえてあんな取引を持ちかけた言峰綺礼が憎い。
そして何より何も出来なかった自分自身が憎い。
憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い
憎くて憎くて、憎しむ事しか考えられない。
憎むことしか、出来ない。
憎むことしか、出来ない。
そうするしか、俺は俺を保てなくなってしまいそうで。
ああ、憎い。
取引をしておいてむざむざ理樹をしなせたファントムが憎い。
こっちは既に羽藤桂を見つけているのに理樹を見つけていない千羽烏月が憎い。
理樹の事を守らなかった真人と来ヶ谷が憎い。理樹を放って死んだ謙吾が憎い。
蘭堂りのが憎い、源千華留が憎い、如月双七が憎い、羽藤桂が憎い、アル・アジフが憎い。
ティトゥスが憎い、清浦刹那が憎い、名も知らぬ女が憎い、スターブライトが憎い、
そして、何よりも、
取引をしておいてむざむざ理樹をしなせたファントムが憎い。
こっちは既に羽藤桂を見つけているのに理樹を見つけていない千羽烏月が憎い。
理樹の事を守らなかった真人と来ヶ谷が憎い。理樹を放って死んだ謙吾が憎い。
蘭堂りのが憎い、源千華留が憎い、如月双七が憎い、羽藤桂が憎い、アル・アジフが憎い。
ティトゥスが憎い、清浦刹那が憎い、名も知らぬ女が憎い、スターブライトが憎い、
そして、何よりも、
「……恭介」
トルタの事は大事だ。
多分、理樹や鈴とは違う感情で、同じくらい好きなんだと思う。
多分、理樹や鈴とは違う感情で、同じくらい好きなんだと思う。
でもだ、もし。
もし、トルタがいなければ?
考える必要なんてない。
意味のない仮定なんてどうでもいい。
意味のない仮定なんてどうでもいい。
でも思う。
トルタという『足かせ』がなければ、俺はもしかしたら鈴に、理樹に出会えたのかもしれない。 守れたのかもしれない。
トルタと共に居て、トルタを守った。
それはもしかしたら、理樹と鈴を諦めたことなのかもしれない。
トルタと共に居て、トルタを守った。
それはもしかしたら、理樹と鈴を諦めたことなのかもしれない。
トルタさえいなければ、
トルタがいなければ、
俺は、こんな憎しみを抱かずに済んだのではないか?
間違っている。
俺の思考は正しくなんて無い。
そんな事は判っている。
けれど、ソレを考えてしまうと、俺はもう何も出来無くなってしまいそうで。
憎む事しか、憎む事だけを考えていれば、楽になれそうな気がして。
ああ、俺は憎いんだ。
この憎しみに、身をゆだねてしまいたい。
そうすれば、そうすれば楽になれる。
楽になんかなりたく無い?
ではこの俺と言う存在そのものをなくしてしまいそうな喪失感はどうすればいい?
俺の思考は正しくなんて無い。
そんな事は判っている。
けれど、ソレを考えてしまうと、俺はもう何も出来無くなってしまいそうで。
憎む事しか、憎む事だけを考えていれば、楽になれそうな気がして。
ああ、俺は憎いんだ。
この憎しみに、身をゆだねてしまいたい。
そうすれば、そうすれば楽になれる。
楽になんかなりたく無い?
ではこの俺と言う存在そのものをなくしてしまいそうな喪失感はどうすればいい?
なあ、教えてくれ
「……トルタ、俺はどうすればいいと思う?」
いつの間にか俺の手を握っていたトルタに問う。
なあ、俺は俺も君も憎いんだ。
憎いとしか思えないんだ。
そう思わなければ、自分を支えられないくらいに、どうしようもないんだ。
なあ、俺は俺も君も憎いんだ。
憎いとしか思えないんだ。
そう思わなければ、自分を支えられないくらいに、どうしようもないんだ。
「……恭介、自分を失っちゃだめ」
ああ、流石だよトルタ。
今の俺の気持ちを良く判っている。
俺と同じように自分よりも大事なものを持っていて、それを騙し続けたのだから。
俺たちは全てを偽ってきたのだから、今更自分自身を偽る事なんて容易い。
そうだ、俺と君は、まるで鏡映しの存在であるかのようなのだから。
今の俺の気持ちを良く判っている。
俺と同じように自分よりも大事なものを持っていて、それを騙し続けたのだから。
俺たちは全てを偽ってきたのだから、今更自分自身を偽る事なんて容易い。
そうだ、俺と君は、まるで鏡映しの存在であるかのようなのだから。
「……辛い、気持ちは私もよく判る。
でも、ここで投げ出したら何もかもが終わりになっちゃう」
でも、ここで投げ出したら何もかもが終わりになっちゃう」
ああ、そうだ、君ならわかるだろう。
今の俺の気持ちが良く。
だから、君が俺の事を励まそうとしている事もよくわかる。
今の俺の気持ちが良く。
だから、君が俺の事を励まそうとしている事もよくわかる。
ありがとう。
ああ、でもなトルタ。
「……何が、わかる?」
「…………え?」
「…………え?」
わかる、だって?
なあトルタ、俺と君とでは、一つだけどうしようもない、埋める事の出来ない違いがあるんだ。
俺の大事なものはもう無い(違う)、君の大事なものは、クリスはまだ生きているじゃあないか。
なあトルタ、俺と君とでは、一つだけどうしようもない、埋める事の出来ない違いがあるんだ。
俺の大事なものはもう無い(違う)、君の大事なものは、クリスはまだ生きているじゃあないか。
「君に俺の何がわかるんだ!?」
ああ、そうだ、良く理解出来た。
俺は、何よりもトルティニタ・フィーネが憎くて仕方が無いんだ。(違う)
俺と同じ存在でありながら、俺は失い、彼女は失っていない。
鏡写しならば、俺だけが失うなんておかしいじゃないか。
そうだ、理不尽だ、だから俺は憎い。トルティニタ・フィーネが憎い(違う)、クリス・ヴェルティンが憎い。
俺は、何よりもトルティニタ・フィーネが憎くて仕方が無いんだ。(違う)
俺と同じ存在でありながら、俺は失い、彼女は失っていない。
鏡写しならば、俺だけが失うなんておかしいじゃないか。
そうだ、理不尽だ、だから俺は憎い。トルティニタ・フィーネが憎い(違う)、クリス・ヴェルティンが憎い。
「自分自身の心すらも欺き通した君に、一体他人の何がわかるんだ!?」
俺たちのような奇跡ではなくて、現実の中で。
その中で全てを欺くなんて事、それを行なう為に、トルタは一体どれだけのものを費やした?
その果てに、何一つ報われなくても、それでも再びクリスの為に生きるという。
その中に、トルタの心は何処にある? どうなる?
そんな、自分自身すらも欺くような人間に、他人の何がわかる?
その中で全てを欺くなんて事、それを行なう為に、トルタは一体どれだけのものを費やした?
その果てに、何一つ報われなくても、それでも再びクリスの為に生きるという。
その中に、トルタの心は何処にある? どうなる?
そんな、自分自身すらも欺くような人間に、他人の何がわかる?
いつの間にか掴んでいた、トルタの胸元に、力が篭る。
トルタの顔が苦痛と酸欠に歪むが、知ったことでは無い。
そんな事なんかどうでもいい。
トルタの顔が苦痛と酸欠に歪むが、知ったことでは無い。
そんな事なんかどうでもいい。
どうでも……いい、
―――鬼、悪鬼、などと呼ばれる存在がいる。
それらは、所謂地獄の門番、とは異なる存在、歴とした生物である。
元より鬼として生まれ出でる生物は、確かに存在しているのだ。
……だが、その他に、人が、あまりの憎しみ故に、人でなくなった時、その時、それは人より外れ、鬼となる。
そう、己を、他者を、全てを憎む事が出来た時、人より外れた鬼が生まれるのだ。
彼、棗恭介は、己が憎しみに耐えかね、そして、今この時より鬼へと転じ
それらは、所謂地獄の門番、とは異なる存在、歴とした生物である。
元より鬼として生まれ出でる生物は、確かに存在しているのだ。
……だが、その他に、人が、あまりの憎しみ故に、人でなくなった時、その時、それは人より外れ、鬼となる。
そう、己を、他者を、全てを憎む事が出来た時、人より外れた鬼が生まれるのだ。
彼、棗恭介は、己が憎しみに耐えかね、そして、今この時より鬼へと転じ
…………訳……無い!!
得なかった。
棗恭介の理性は、意志は、自らが鬼に転じる事を許さなかった。
憎しみという逃げ道に逃げ込む事を、彼自身が許容できなかったのだ。
そして、何より、
彼にはまだ、憎しみよりも大事なものが、あったのだから。
棗恭介の理性は、意志は、自らが鬼に転じる事を許さなかった。
憎しみという逃げ道に逃げ込む事を、彼自身が許容できなかったのだ。
そして、何より、
彼にはまだ、憎しみよりも大事なものが、あったのだから。
「ケホッ、ケホッ」
手を急に離した事で、トルタの身体が崩れ落ちる。
苦しそうにしてはいたけど、身体に別状は無いみたいだ。
ああ、だが、どうして俺はここでトルタを傷つけているんだ?
苦しそうにしてはいたけど、身体に別状は無いみたいだ。
ああ、だが、どうして俺はここでトルタを傷つけているんだ?
憎む事でしか、己の心を維持出来そうに無い。
けれど、憎むことでも俺を制御出来そうに無い。
俺自身の心が制御できない。
けれど、憎むことでも俺を制御出来そうに無い。
俺自身の心が制御できない。
「…………トルタ」
俺自身が、トルタを傷つけてしまいそうで怖い。
「元の世界に、帰る、んだ……」
今なら、帰れる。
言峰を信じる気なんてカケラも無いが、それでも約束は果すだろう。
言峰を信じる気なんてカケラも無いが、それでも約束は果すだろう。
今度は、俺自身が守りたいものを壊してしまいそうで怖いんだ。
だから、トルタを返そう。
そうしなければ、俺は……
◇
(また……泣いている)
恭介は気付いていないだろうけど、彼はいま泣いている。
自分自身を、自分でもどうしようもなのだろう。
息苦しさに支配されながら、考える。
自分自身を、自分でもどうしようもなのだろう。
息苦しさに支配されながら、考える。
何が…わかるのだろう?
私には、恭介の気持ちなんてわからない。
大事なものを、守りたいと思うものを、無くしてしまった。
痛いほど伝わってくるのに、いや、だからこそ、私にはどうする事も出来ない。
大事なものを、守りたいと思うものを、無くしてしまった。
痛いほど伝わってくるのに、いや、だからこそ、私にはどうする事も出来ない。
「私では」どうする事も出来ない。
―――私は、「他人」なのだから。
さっきとても近くに感じた恭介が、また遠い。
恭介は、今、理樹の事しか考えられない。
恭介は、今、理樹の事しか考えられない。
―――私の事を見てくれない。
離される手、思わず咳き込んだけど、息苦しさなんかよりも、その事のほうが、苦しい。
恭介が、私の事を理解してくれない事が、悲しい。
恭介が、私の事を理解してくれない事が、悲しい。
……なんて、醜い心。
「元の世界に、帰る、んだ……」
恭介の言葉。
言葉の意図が、見えない。
とても嬉しい言葉の筈なのに、少しも嬉しく無い。
とても嬉しい言葉の筈なのに、少しも嬉しく無い。
「ダメ、まだクリスがいる」
嘘だ。
クリスの事は確かに心配。
だけど、何よりも、今の恭介の方が遥かに心配だから。
再び、恭介の心に触れたいから。
でも、……その事を口に出せない。
だけど、何よりも、今の恭介の方が遥かに心配だから。
再び、恭介の心に触れたいから。
でも、……その事を口に出せない。
……恭介も、クリスも侮辱する、醜い嘘
「クリスの事は俺にまかせろ」
恭介の言葉。
さっきまで何よりも頼もしかった言葉が、今はとても遠い。
「…………」
だから、返事を返せなかった。
恭介のその言葉が、私には何処か遠い、見知らぬ誰かの物にすら思えて。
恭介のその言葉が、私には何処か遠い、見知らぬ誰かの物にすら思えて。
遠い。
それで、私は動けなかった。
彼も、その同じように動けなかった。
しばらくの間、そのままでいた。
静かな空間、私たちしか居ない世界。
今思うと、私たちは、油断していたのだと思う。
気がついた時には、死の影はすぐ近くにまで迫っていた。
言峰綺礼という、主催者との戦い。
その戦いを潜り抜けた事に安堵して、別の脅威が存在している事に頭が周らなかった。
彼も、その同じように動けなかった。
しばらくの間、そのままでいた。
静かな空間、私たちしか居ない世界。
今思うと、私たちは、油断していたのだと思う。
気がついた時には、死の影はすぐ近くにまで迫っていた。
言峰綺礼という、主催者との戦い。
その戦いを潜り抜けた事に安堵して、別の脅威が存在している事に頭が周らなかった。
纏めて、背中に流された金の長い髪。
碧の瞳。
まだどこか幼さの残る顔。
そしてそれを否定する眼光。
聞いていた内容とは若干の差異を覚えるけど…
それでも、間違い無い。
碧の瞳。
まだどこか幼さの残る顔。
そしてそれを否定する眼光。
聞いていた内容とは若干の差異を覚えるけど…
それでも、間違い無い。
「キャル……ディヴェンス?」
◇
そう、そこに、いてしまったのだ。
棗恭介にとって、取りうる二つの道。
トルティニタ・フィーネと共に歩む、人としての道と、自らの復讐のみに生きる、修羅としての道。
天秤が、人としての道へとゆり戻ろうとするその刹那、棗恭介は、復讐と言う、出口を見つけてしまった。
次へと繋がる道。
先に進む道。
そして、破滅への道がそこに存在した。
棗恭介にとって、取りうる二つの道。
トルティニタ・フィーネと共に歩む、人としての道と、自らの復讐のみに生きる、修羅としての道。
天秤が、人としての道へとゆり戻ろうとするその刹那、棗恭介は、復讐と言う、出口を見つけてしまった。
次へと繋がる道。
先に進む道。
そして、破滅への道がそこに存在した。
キャル・ディヴェンス。
恭介の口から発せられたその言葉に、少女…ドライは僅かに表情を変える。
その顔に僅かに浮かぶのは、『困惑』という感情。
ドライには、目の前の二人の顔に覚えなどない。 おそらく、片方は日本人、もう一人は…アメリカかイタリアがイギリスか…ドライと同じ人種ではあるまい。
もっとも、仮に人種が同じであったとしても、格別同郷意識など持つはずもない。
俊敏な豹のように研ぎ澄まされたドライと、温和なレッサーパンダあたりを彷彿させるトルタ。
同じサバンナの動物であれ、捕食者と被捕食者が同郷意識など持つはずも無い。
その顔に僅かに浮かぶのは、『困惑』という感情。
ドライには、目の前の二人の顔に覚えなどない。 おそらく、片方は日本人、もう一人は…アメリカかイタリアがイギリスか…ドライと同じ人種ではあるまい。
もっとも、仮に人種が同じであったとしても、格別同郷意識など持つはずもない。
俊敏な豹のように研ぎ澄まされたドライと、温和なレッサーパンダあたりを彷彿させるトルタ。
同じサバンナの動物であれ、捕食者と被捕食者が同郷意識など持つはずも無い。
そう、ここにいるのは捕食者と被捕食者。 無意識の内に、トルタはそのような感覚を覚えた。
かつて出会ったティトゥスなどと同じ、人を殺して生きている存在であるような。
それが、トルタが彼女を『キャル』であると認識しきれなかった理由でもある。
『ファントム』の告げたというキャル・ディヴェンス像は、目の前の少女とは、外見の酷似を除き、明らかに異なるものとしか思えなかったのだから。
かつて出会ったティトゥスなどと同じ、人を殺して生きている存在であるような。
それが、トルタが彼女を『キャル』であると認識しきれなかった理由でもある。
『ファントム』の告げたというキャル・ディヴェンス像は、目の前の少女とは、外見の酷似を除き、明らかに異なるものとしか思えなかったのだから。
「…なんで、あたしの事知ってんだ?」
不機嫌、から困惑、へと変化した表情は、その質問を告げたときには、困惑と興味を半々にブレンドしたものへと変わっていた。
元より殺すのみ。 ではあるが、それでも彼女の性格上、相手への興味は尽きない。
彼女は『キャル』とは、この島で一度も名乗っていない。 名乗るつもりも無い。
感情を排除した純粋な機械ではなく、感情の赴くままに才能を振るう彼女は、だがそれゆえに誰よりも奔放だ。
その好奇心が『少なくとも、話だけは聞く』という方向に、彼女の感情の針を傾かせた。
元より殺すのみ。 ではあるが、それでも彼女の性格上、相手への興味は尽きない。
彼女は『キャル』とは、この島で一度も名乗っていない。 名乗るつもりも無い。
感情を排除した純粋な機械ではなく、感情の赴くままに才能を振るう彼女は、だがそれゆえに誰よりも奔放だ。
その好奇心が『少なくとも、話だけは聞く』という方向に、彼女の感情の針を傾かせた。
「あんたの…君のことは、『ファントム』と名乗る男から聞いた」
そのドライの変化を受けて、恭介が口を開く。
その内に、確かな手ごたえを感じながら。
ピクリ、とドライの顔に僅かな変化が生じるが、表面上は動きが無い。
その内に、確かな手ごたえを感じながら。
ピクリ、とドライの顔に僅かな変化が生じるが、表面上は動きが無い。
「細かい事は省くが、俺たちは彼と……協力化にある。 お互いの知り合いの安全の確保、情報の交換、その他諸々の協力を約束している。
……そして、彼から君の特徴と名前を聞いたわけだ」
……そして、彼から君の特徴と名前を聞いたわけだ」
幾つかの嘘を取り混ぜながら、恭介はキャルに告げる。
自分達は敵では無いと。 キャルの事を守ると、そう…………偽る。
目的が、復讐を遂げるための道具が、今目の前にあるのだ。
逃がして、なるものか。
彼女の事を告げれば、あの男はホイホイやってくるだろう。
その目の前で、どんな風に彼女の死体をさらしてやろうか。
恭介は続ける。
自分達は敵では無いと。 キャルの事を守ると、そう…………偽る。
目的が、復讐を遂げるための道具が、今目の前にあるのだ。
逃がして、なるものか。
彼女の事を告げれば、あの男はホイホイやってくるだろう。
その目の前で、どんな風に彼女の死体をさらしてやろうか。
恭介は続ける。
ふと、トルタはその対話の中で、僅かな悪寒を覚えた。
恭介が、これほど滑らかにドライと話しているという事は、それだけ復讐が大事という事だ。
恭介の事は無論大事だ、彼の憎しみも理解は出来る。
復讐をやめろ、何て言う権利は無い。 恭介が復讐へと身を任すなら、その道を共に歩もう。
たとえ、その先に己の望む未来が無いとしても。
僅かな、おそらくは刹那の差で、恭介とトルタの道は分かたれてしまった。
その嘆きも、全て隠し通そう。
……けれども、何て言うのかそうじゃなくて、何かが違う。
恭介は、巧みに、それでいてさり気なく、トルタの側という不利な位置から、キャルに対して有利な位置に移動している。
その計算された言動の中に、トルタは恭介の確かな怒りと、そして『恭介らしさ』を見出した。
そしてそれは、トルタの中に、恭介が自分よりもドライを、鈴と理樹への復讐を選んだという、小さな嫉妬を、小さな悪寒を生じさせる。
恭介が、これほど滑らかにドライと話しているという事は、それだけ復讐が大事という事だ。
恭介の事は無論大事だ、彼の憎しみも理解は出来る。
復讐をやめろ、何て言う権利は無い。 恭介が復讐へと身を任すなら、その道を共に歩もう。
たとえ、その先に己の望む未来が無いとしても。
僅かな、おそらくは刹那の差で、恭介とトルタの道は分かたれてしまった。
その嘆きも、全て隠し通そう。
……けれども、何て言うのかそうじゃなくて、何かが違う。
恭介は、巧みに、それでいてさり気なく、トルタの側という不利な位置から、キャルに対して有利な位置に移動している。
その計算された言動の中に、トルタは恭介の確かな怒りと、そして『恭介らしさ』を見出した。
そしてそれは、トルタの中に、恭介が自分よりもドライを、鈴と理樹への復讐を選んだという、小さな嫉妬を、小さな悪寒を生じさせる。
だが、この場合のトルタの懸念は異なる。
そう、今気にするべきは恭介がどうとか言う事では無く、
そう、今気にするべきは恭介がどうとか言う事では無く、
「……ファントム……って、言ったんだな」
「ああ、そう名乗った」
「…………玲二……」
「ああ、そう名乗った」
「…………玲二……」
玲二、名簿の中に存在した名前。
おそらくは、ファントムと名乗った男の本当の名前。
恭介は、多分心の中でその名前を厳重に記憶した筈。
おそらくは、ファントムと名乗った男の本当の名前。
恭介は、多分心の中でその名前を厳重に記憶した筈。
「そう……か」
そして、連絡は今すぐは付かないと述べ、そこで一度は話を切った。
感極まっているのか、キャルに動きは無い。
恭介にとっては、好機ではある。
少なくとも、キャルは表面上は警戒を解いている。
感極まっているのか、キャルに動きは無い。
恭介にとっては、好機ではある。
少なくとも、キャルは表面上は警戒を解いている。
「玲二が、そんなことを」
男と女の違いもあり、体格の上では、恭介が有利。
加えて、トルタがいるのだから二対一。
(だが、焦る必要は無い、後で幾らでもチャンスはある)
それでも、恭介は待つ事を選択した。
それは、理性の無い鬼のものでは無く、棗恭介の常のあり方である。
恭介は、鬼としての道を歩みながら、人としての方法を用いてしまったのだ。
加えて、トルタがいるのだから二対一。
(だが、焦る必要は無い、後で幾らでもチャンスはある)
それでも、恭介は待つ事を選択した。
それは、理性の無い鬼のものでは無く、棗恭介の常のあり方である。
恭介は、鬼としての道を歩みながら、人としての方法を用いてしまったのだ。
「そんな、ふざけた事を言いやがったのか」
だから、その時に彼は出遅れた。
怒りに曇る瞳で、相手を見ていた為、その真実を見落としたが為に。
怒りに曇る瞳で、相手を見ていた為、その真実を見落としたが為に。
放たれた炎は、カジノの中を赤く染め上げた。
◇
咄嗟に、トルタは恭介に飛びついて、身体を伏せさせた。
間に合ったのは、本当に偶然。
弾道は微妙に逸れていたようだが、それでもあのままなら、恭介は深い傷を負っていただろう。
最も、それで救われたわけではない。
最初の一撃を、かろうじて避けただけである。
間に合ったのは、本当に偶然。
弾道は微妙に逸れていたようだが、それでもあのままなら、恭介は深い傷を負っていただろう。
最も、それで救われたわけではない。
最初の一撃を、かろうじて避けただけである。
咄嗟に自体を察した恭介が動くが、ソレよりも早くドライは動き、トルタの腹部に、容赦の無い一撃が突き刺さる。
見よう見まね、だが、数時間前に菊池真がドライに放ったものと同じ正拳突き。
何箇所かの違いゆえに、オリジナルには劣るものの、空手において最も強く、早いと称される一撃。
トルタの口内に酸い味が広がり、吐捨物が撒き散らされる。
見よう見まね、だが、数時間前に菊池真がドライに放ったものと同じ正拳突き。
何箇所かの違いゆえに、オリジナルには劣るものの、空手において最も強く、早いと称される一撃。
トルタの口内に酸い味が広がり、吐捨物が撒き散らされる。
ドライはそのまま地に伏したトルタには構わず、恭介に襲いかかり、右手のクトゥグアを向ける。
その威力を知る恭介は、咄嗟に横に飛び、
「…………!」
そこまでの行動を予期して『フェイント』を行なったドライの蹴りを受ける。
両の腕でしっかり防いだにも関わらず、身体に響く衝撃に耐えかね、苦痛の呻きを上げる恭介。
その威力を知る恭介は、咄嗟に横に飛び、
「…………!」
そこまでの行動を予期して『フェイント』を行なったドライの蹴りを受ける。
両の腕でしっかり防いだにも関わらず、身体に響く衝撃に耐えかね、苦痛の呻きを上げる恭介。
その間、十秒にも満たない僅かな時間で、既に勝敗は決した。
トルタは地に伏し、恭介は即時の戦闘不能、対してドライは僅かな傷すら負っていない。
トルタは地に伏し、恭介は即時の戦闘不能、対してドライは僅かな傷すら負っていない。
だが、それでも、彼らには諦め、という思考は無い。
トルタは息も絶え絶えになりながらも、何とかデイパックに手を伸ばし、
恭介も、迫るドライに咄嗟に椅子を転がし、その進路を遮りながら、そこから飛びのく。
椅子に邪魔され、僅かに前進が遅れたドライの目に、トルタの構える銃が目に映り、
彼女はソコから飛びのく。
トルタは息も絶え絶えになりながらも、何とかデイパックに手を伸ばし、
恭介も、迫るドライに咄嗟に椅子を転がし、その進路を遮りながら、そこから飛びのく。
椅子に邪魔され、僅かに前進が遅れたドライの目に、トルタの構える銃が目に映り、
彼女はソコから飛びのく。
これで、状況は『詰み』から、一歩だけ遠のいた。
とは言え、たったの一歩、それだけの距離。
トルタは腹部のダメージでその場から動けず、恭介はようやく起き上がったところであり、
そして何よりも、今の彼らには、決定的に『あるもの』が足りない。
とは言え、たったの一歩、それだけの距離。
トルタは腹部のダメージでその場から動けず、恭介はようやく起き上がったところであり、
そして何よりも、今の彼らには、決定的に『あるもの』が足りない。
そんな状況になど構わず、いや、そんな状況だからこそ、ドライは恭介に迫る。
トルタは素早く動けない以上、恭介に隣接すれば流れ弾を恐れ、事実上トルタは無力化する。
そうして、トルタが二発目を撃てない間に、ドライの二度目の蹴りが、恭介の右手に突き刺さり、SIGSAUERP226を弾き飛ばす。
だが、恭介も怯まずに、左手のトンプソンコンテンダーをドライに向ける。
トルタは素早く動けない以上、恭介に隣接すれば流れ弾を恐れ、事実上トルタは無力化する。
そうして、トルタが二発目を撃てない間に、ドライの二度目の蹴りが、恭介の右手に突き刺さり、SIGSAUERP226を弾き飛ばす。
だが、恭介も怯まずに、左手のトンプソンコンテンダーをドライに向ける。
ソレを見て、咄嗟に、左に転がったドライの目に、突如現れる新たな人影。
棗恭介の背後に現れた、第三の予期せぬ敵。
「くっ!」
その人影に対して、咄嗟にクトゥグアの引き金を引き、ドライが放った銃撃は、そこにある人影に突き刺さった。
そう、人影。
恭介が、『偶然』センサーの範囲に入ったことにより、機動したその人影。
カジノに設置されていた、『メカコトミ』の身体を容易く吹き飛ばし、
棗恭介の背後に現れた、第三の予期せぬ敵。
「くっ!」
その人影に対して、咄嗟にクトゥグアの引き金を引き、ドライが放った銃撃は、そこにある人影に突き刺さった。
そう、人影。
恭介が、『偶然』センサーの範囲に入ったことにより、機動したその人影。
カジノに設置されていた、『メカコトミ』の身体を容易く吹き飛ばし、
そして、轟音
「ぐっ、あああああああ!!」
銃撃を受けて、メカコトミは大破し、爆発した。
その強大な光と音は、カジノのフロアー全体に、あたかも閃光音響手榴弾の様に荒れ狂い、その場に居る全員を叩きのめす。
その強大な光と音は、カジノのフロアー全体に、あたかも閃光音響手榴弾の様に荒れ狂い、その場に居る全員を叩きのめす。
一番早く、その状況から回復できたのは、地に伏せていたトルタであった。
音楽学校に通うが故に普通よりも良い耳を持つトルタであったが、それでも運よく機械の影で、光を直視しなかった事が幸いした。
予期せぬ自体の為に、ドライは戦闘本能に従い、恭介から少し離れた場所まで移動していた。
その隙に、這う様に恭介の側に移動するトルタ。
そして、そこでトルタの目に、メカコトミの破片を全身に受けた恭介の姿が映る。
どう、考えても戦闘など不可能だ。この場から、逃げるしかない。
音楽学校に通うが故に普通よりも良い耳を持つトルタであったが、それでも運よく機械の影で、光を直視しなかった事が幸いした。
予期せぬ自体の為に、ドライは戦闘本能に従い、恭介から少し離れた場所まで移動していた。
その隙に、這う様に恭介の側に移動するトルタ。
そして、そこでトルタの目に、メカコトミの破片を全身に受けた恭介の姿が映る。
どう、考えても戦闘など不可能だ。この場から、逃げるしかない。
そして、ここで、トルタの予期せぬ、第二の幸運が起こった。
「冷っ!?」
トルタには知る由も無いが、それは大型の建物に備え付けられているスプリンクラー。
メカコトミの爆発により生じた熱に反応し、室内に降り注ぐ。
爆発音と閃光、そして強い勢いを持つ人工雨が、部屋そのものを満たし、それにより、いくらファントムといえど、標的の捕捉は不可能となる。
メカコトミの爆発により生じた熱に反応し、室内に降り注ぐ。
爆発音と閃光、そして強い勢いを持つ人工雨が、部屋そのものを満たし、それにより、いくらファントムといえど、標的の捕捉は不可能となる。
「クソがっ!!」
放たれる業火。
だがこの場合は、炎という特性が禍した。
室内に降り注ぐ雨粒を蒸発させながらも放たれたそれは、だが明らかに威力を弱めていた。
だがこの場合は、炎という特性が禍した。
室内に降り注ぐ雨粒を蒸発させながらも放たれたそれは、だが明らかに威力を弱めていた。
そして、第三の幸運は、
開け放たれた裏口より響く怒声。
勢い良く破られたドアから、飛び込んでくる黒い影、スターブライトの毛並みが、そこにはあった。
若駒とはいえ、スターブライトの重量の衝突は、バイクなどを軽く越える。
少なくとも、視覚と聴覚を奪われた形になったドライには、どうしようもない。
開け放たれた裏口より響く怒声。
勢い良く破られたドアから、飛び込んでくる黒い影、スターブライトの毛並みが、そこにはあった。
若駒とはいえ、スターブライトの重量の衝突は、バイクなどを軽く越える。
少なくとも、視覚と聴覚を奪われた形になったドライには、どうしようもない。
「ガッ!?」
椅子を撒き散らし、吹き飛ばされるドライ。
その隙を逃さず、トルタは恭介の身体をスターブライトの上に乗せ、自らも共に、カジノから脱出した。
その隙を逃さず、トルタは恭介の身体をスターブライトの上に乗せ、自らも共に、カジノから脱出した。
192:love | 投下順 | 193:いつでも微笑みを/トルティニタ・フィーネ(後編) |
191:踊り狂う道化達/それでも生きていて欲しいから (後編) | 時系列順 | |
171:この魂に憐れみを -Kyrie Eleison- | 棗恭介 | |
トルティニタ・フィーネ | ||
174:Little Busters!(後編) | ドライ |