作中の伝承

作中に出てくる伝承や物語をピックアップして纏めました。


伝承

シュタルトの湖竜

(初出:100話)
シュタルトという町の湖には、湖竜が住んでいるという。
若く美しい男性の姿をしていて、その美しさに湖の精霊も恋をした。
けれども竜は、精霊が手を伸ばすとあっという間に羽ばたいて空に消えてしまう。

湖の精霊は日々叶わぬ恋に涙を流し、そのせいでシュタルトの湖は、湖底が見えるくらいに透明な水を湛えているのだそうだ。


ゴーモントの滅亡

(初出:706)
ゴーモントは、砂漠の中にある瑠璃と黄金で作られた偽りの街。
そこに住む精霊達は嘘つきばかりで、街の住人達も様々な嘘に溺れてすっかり働かなくなってしまった。
その場限りの軽薄な嘘が当たり前のように使われた結果、人々は陽気だが自堕落な生活をするようになり、治安も悪くなったゴーモントでは物獲りや殺人なども日常茶飯事であった。
その国を治める王と土地の統括の魔物が相談し、こうも無責任で怠惰になるのは好ましくないということで、街を治めていた精霊を厳しく罰したそうだ。
しかし、そのことに腹を立てた精霊達は、その街に住む人間や妖精達を皆殺しにし、ゴーモントの街は砂漠の中に沈んでしまったのだという。

実際のところは全てを滅ぼしたのは雲の魔物ヨシュア
ゴーモント王にこの精霊達のことを相談されている内に煩わしくなり、精霊達が反抗的になったことを許さず、街ごと滅ぼしてしまった。

黎明の城

(初出:802話)
「隠して拗れるとあれだから僕から話すけど、祖母の方はシルに求婚して断られてたよ。母親の方は、ネアみたいな女の子が好きなんだ」
「……………む?」
「可動域の低い人間の女の子が大好きで、妖精に作り変えてたくさん集めてるからさ、それでシルは警戒したんだよ」
「ほわ……………」
「そう言えば、可動域の低い子供は黎明の城に呼ばれるという話が、ガーウィンの外れの方に伝わっていたな………」

黎明のシー、ユニシラについての伝承。

四の菫

(初出:928話)
地下の国に入る為の言い伝えで、冬枯れの夜の森で不自然な四輪の菫の花を見付けた場合は、その次に目についた捻れた木の根元を探ると、地下の国への扉があると言われているらしい。

その場合の地下の扉は、主に金鉱脈の妖精や、鉱石の系譜の竜の住処に繋がっており、地下の国の作法に則っり試練を乗り越えた者には、幾多もの冬を越えるだけの潤沢な財産が与えられるという。

白樺の魔物の伝承

(初出:971話)
帰ってきたリーエンベルクで教えて貰ったことによると、白樺の魔物は気に入った者達を攫ってゆく怖い魔物なので、白樺の魔物に出会うと愛するものが連れて行かれるという伝承が残る土地も多いのだそうだ。

先代の白樺は奴隷を作るのが好きな魔物でよく有名な音楽家や美しい妖精を攫ってきて、奴隷にする(663話)蒐集家として有名な魔物だった。


劇中劇

イブメリアの特別演目

(初出:142話)
演目は、クラヴィスの夜に暗い森に薪を取りに行かされた少女の話だ。
継母に虐げられている少女が、夜の森で季節や気象を司る魔物達の夜会に迷い込み、時刻が回りイブメリアになる頃に、春の王から指輪を貰い庇護を受けるという、この世界版のシンデレラである。

実話が元になっている。
春の王ではなく、新芽の魔物で、相手の女性は、既婚者だった。
嫁いだ先の貴族が継承争いをしていて、子供を連れて森へ逃げている途中の話で、婚姻は人間だけでなく魔物にとっても不可侵のものだから、新芽の魔物は困っていたらしいが、都合よく夫は通り魔に殺されてくれたので晴れて結ばれる事ができた。
ただし新芽の魔物は少年の姿だったので容姿的な釣り合いの問題は残った。


ヴァロッシュの人形劇

(初出:438話)
ネアは騎士達が公演する人形劇に興味津々だったが、祟りものを斃したリーエンベルクの騎士団長が国を救ったという、実際の事件をモチーフにした演目なのだそうだ。
その有名な物語が統一戦争の後にも語り継がれ、こうして祝祭で演じても咎められないような時代になったことを喜ぶ領民も多い。
騎士を導き、なぜか最後に騎士と結ばれる筈だった王女の心を掻っ攫う、緑色の毛玉妖精が人気の舞台だ。

(k6話)
なお、今年の人形劇では、大きな波乱が起きていた。

残念ながら、お姫様役の騎士があまりにも役に入り込み過ぎており、異様な迫力の低音ボイスで演じられるお姫様は、どう考えても悪役めいて見えてしまう。
凶悪な祟りものに狙われている被害者ではなく、背後で祟りものを操る黒幕にしか見えないのだ。

その代わり、恐らくは昨年のお姫様役に違いないという可憐な人形と声音は、今年は女中頭役に引き継がれていた。
うっとりするような美しいメイド服の聡明で朗らかな女中頭の人形が登場すると、子供達がほっとしたように笑顔になる。

今年は、そんな女中頭と、お姫様を支える庭師役と年老いた前騎士団長のマルケス、無名の酒場のお客一と二がたいそう上手で、彼等が登場するとあっという間に物語に引き込まれてしまう。

前回グラストが演じた酒場のおかみさんについては、かなりのお色気なので、こちらも新しい解釈で楽しい演技だった。

そんな中、魔物達を震え上がらせる一幕が訪れた。
酒場でお客に出された揚げ鶏は、今年はゼベルが演じているようだ。

かりかりじゅわっとした質感も見事で、どこからともなくいい匂いまでする美味しそうな揚げ鶏人形は、揚げたてで衣をぱちぱちさせながら、食べられてしまう恨みと悲しみを込めて、町人達に毒づく。
お前達も祟りものに食べられてしまえと叫ぶのだが、怒った酒場のお客にさくさくと食べられてしまい、舞台はしんとした。

そんな揚げ鶏を笑った南瓜が落ちて粉々になるシーンも妙に迫真の演技で続き、ばらばらになって動かなくなった南瓜の無残さに、わっと泣き出してしまう子供もいたくらいだ。

幸い、その後の劇は恙なく進み、主人公の騎士団長もなかなかの出来栄えで、戦いの場面などでは、子供達からわぁっと拍手が上がるようになる。
ネアがほっとしたのは、前回は話題を攫った主人公の飼い犬ミルキー役が、今回は可もなく不可もなくというところで、上手に主人公役の演技を殺すことなく補佐していたあたりだろうか。

そして、人形劇のクライマックスで、その悲劇は起こった。

クライマックスでは、とうとう黒幕の祟りものが現われ、愛するお姫様を守るべく主人公が勇ましく戦うのだが、その祟りもの役の騎士がすさまじかった。

ただ、すさまじいと言っても、残念ながら、演技が上手だった訳ではない。

あまりにも棒読みの台詞と、ヘドロの精が布に転職したかのようなおどろおどろしい祟りもの人形が妙な調和を見せ、劇を見守る領民達に大きな衝撃を与えたのだ。

いよいよ、最後の場面である主人公が祟りものを滅ぼす場面になり、大きな声を上げて悶え苦しむ祟りもの人形の迫力におおっと感心していたところ、広場の周囲を飛んでいた毛玉妖精が、うっかりその祟りもの人形を目にしてしまったものか、空中でびゃっと飛び上がってけばけばになる姿が暗がりに見える。

騎士達はこの日の為に必死に練習を重ねている。
人形は大人の2倍はある大きなもので、魔術で動かしている。また、鉱石や花などをふんだんに飾ることで、魔術の操作を助けているので、迫力ある出来映え。
毎年演者が入れ替えられることで、見せ場となるキャラクターや場面も変わり、領民がとても楽しみにしている人形劇。


狼公爵と森の優しい家

(初出:953話)
戦争で愛する人を喪って狼になっていた魔物が、とあるお屋敷で再び愛する人の魂を持つ女性に巡り会い、たくさんの友や家族を得るお話は涙なしには観られないそうで、ゼベルは休日にもう二回も観に行っているそうだ。


一本の飾り木を巡る素敵な贈り物の話で、ウィームの野外劇場で公演していた。ミュージカルのような歌劇仕立ての舞台だった。


絵本・書籍

黄金の騎士の絵本

(初出:231話)
とある国に、森の精霊の女王と領土争いをしている大きな都があった。
その都を治めていたのは、かつて北方で大きな国の国王だった男である。
男は国で勢力争いに敗れ、近しい者達を引き連れて逃げ延びたその土地で、それは見事な都を作った。

しかし、それが緑の女王の逆鱗に触れたのだ。
基本的に土地を治める精霊は、余所者を嫌う。
ましてや、遠方から訪れた者達が土地から豊かな実りを得ていると知ると、その憎しみはとても強くなった。

都の人間達は魔術に長けており、偉大な緑の女王との戦いは長く続くと思われていた。
しかし、偶然都を訪れていた貧しい一人の騎士が、失われていた伝説の魔術を使い緑の女王を滅ぼした。
彼は都一番の美女を妻に娶り、都は千年も栄えたのだという。

カインの国がモデルと思われる絵本。
裏表紙の裏に隠された手記から、ふらりと立ち寄った黄金の騎士が緑の女王に恋をして、女王の敵であるカインの領主を討った。しかし実際は敵ではなく片恋の相手だったため、怒り悲しんだ緑の女王は騎士に死の呪いをかけ、都の民にも追われることになった。そのため黄金の騎士は自らの身にかけられた死の呪いを都中に共振させる固有魔術を使い、都ごと滅ぼした顛末が明かされた。


塩の魔物の転落物語

(初出432話)
「愚かな塩の魔物が、心の綺麗なお姫様を残虐に捨て、その結果あらゆることが上手くいかなくなり、最後に乞食となるお話です」
「え、ちょっと待って!何でそんな話読んでるの?!」
「犠牲者のどなたかが憎しみを込めて書いたのでしょう。転がり落ちるように破滅してゆく過程が、とても面白いのです」

全十五巻。
短編集(938)や、挿絵が豪華になり巻頭には観音開きの色つき挿絵、巻末に特別用語集がついた新装板(800)、ネアの誕生日にウィリアムから贈られた幻のエピソードゼロとなる前夜の章(977)などが存在している。
馴れ初めは一巻だけで、残り十四冊は抱腹絶倒の転落話。
作中によく出てくるゆるふわキャラクターのスムッティはボラボラの亜種だが、人気のあまり公式グッズも出ている。
作家については、ノアベルトが二年かけて調べても手がかりひとつ掴めなかったため(k75)、かなり高位な人外者の可能性が高い。


しつけ絵本

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最終更新:2019年10月30日 08:02