「で、何で水楯さんと
霧流寿恩をわざわざ引き合わせたんですか?」
「およっ。カガミン、寿恩ちゃんのこと知ってるの?」
「・・・ハァ。そのカガミンは、『
ブラックウィザード』による成瀬台襲撃の後に水楯さんと戦うことになるかもしれないと破輩先輩から指摘されてたので・・・と言えばわかります?」
「成程。いずれ戦うことになるかもしれない涙簾ちゃんのことを調べてた時に寿恩ちゃんを知ったと」
「そういうことです」
夕方を迎えてもけたたましく鳴く蝉の音が衰える気配は無い。それはこの公園内でも同じことだったが、対峙する碧髪の少女と銀髪の少女の耳には届かない。
夏の暑さが喪失したかのような冷たい空気が両者の周囲を覆っている外で、176支部リーダー加賀美は『
シンボル』のリーダー界刺の思惑について問いを投げ掛ける。
電話にて『加賀美にしか頼めないことがあるんだ』と訴えられ、残っていた仕事も放り出し、神谷達も自ら同行を申し出てこの公園に来たというのに、
当の本人からは未だ呼び出しの真意を聞けておらず、自身の瞳に映った霧流と水楯の殺気溢れる空気から自分達が厄介な面倒事に巻き込まれたと悟った。
「何処まで知ってる?」
「質問に質問で返さないで下さい。・・・・・・『書庫』に記載されている情報は一通り。水楯さんが中等部1年の時に2人組のスキルアウトに凶器で脅されながら性的暴行を受けた。
極度の混乱を起因とする水楯さんの能力暴発により襲撃したスキルアウト2人は共に死亡。2人共『置き去り』で片方は当人以外の肉親は存在せず、もう1人も妹以外の肉親は存在しなかった。
事件としては水楯さんの正当防衛が認められ水楯さんに罪が科されることは無かった。ついでと言うのは失礼かもしれませんが、
中等部3年の夏休みに死亡したスキルアウトの仲間全員・・・正確には男7人が再び水楯さんを襲撃し、彼女は最初より酷い性的暴行を受けていますね。
その時は通りすがりの少年が水楯さんを助けて去っていったと『書庫』には記述がありましたが・・・界刺さんですよね?」
「そう。アイスの食い過ぎで腹を下して、便所を探してた時に暴行現場に遭遇した。スキルアウトを全員気絶させた後にさっさと去ったのも漏れそうだったから。
仮にも女性の前で漏らすわけにはいかないでしょ?『窮地を助けて貰った少年が自分の目の前で漏らした』なんて光景、下手したら一生忘れられないよ?」
「・・・・・・・まぁ、そうですね」
加賀美の青褪めた表情を見て、彼女が『窮地を助けて貰った少年が自分の目の前で漏らした』光景を想像したことを悟る界刺は改めて当時のことを振り返る。
あの遭遇は本当に偶然だった。だが、偶然が作用しなければ水楯は性的暴行の完遂もしくは再び能力を暴発させてスキルアウトを殺傷していたかもしれなかった。
「同じ女性として、殺されたこと以外の部分でそのスキルアウト達には同情心を抱かないわ。凶器を使って、しかも集団で女性を暴行しようだなんて言語道断!!そう思うでしょ、一色?」
「鏡星先輩の言う通り!!同じ男として恥ずかしい限りです!!俺の目の前でそんなことが起きたら、命を懸けても助けてみせます!!」
鏡星と一色の表情が怒りに染まる。176支部内で水楯の過去まで詳細に調べたのは加賀美のみ。しかし、加賀美の説明だけで自分達が憤怒の感情を抱く理由には事足りる。
素敵なイケメンとの出会いを求める鏡星とこの世の女性を愛して止まない一色なら尚更水楯を襲った暴漢達の蛮行を許すことなどできない。
「加賀美先輩の話から察するに、あの霧流寿恩という女性がその殺されたスキルアウトの妹・・・ということで合ってるんですよね?」
「帝釈の言う通りよ。在籍している高校もギリギリ留年しない程度にしか通っていないみたいだけど・・・私や水楯さんと同レベルの水流操作系能力者よ。どう思う、狐月?」
「同レベル・・・!!私の見立てでは2人が戦闘になれば相当激しい戦いになります。こんなことは誰しもが容易に想像できることですが、
水楯先輩の性格と霧流寿恩が抱える憎悪も合わせると、不測の事態が起きる可能性は十分有り得るかと」
「・・・だから、加賀美先輩を呼んだのか?2人を抑える係として?」
「そっ。さすが“剣神”。【叛乱】で共闘した時から思ってたけど、戦闘に関するセンスは俺も目を瞠ってるぜ?」
「・・・どうも」
鳥羽や斑、そして神谷の話から総合的に判断すれば界刺が加賀美を呼び付けた理由は『水楯と霧流のストッパー役』に他ならない。
加賀美もここに着いてからは予測していた理由。実際に水楯と戦闘を行い、ヤンデレな性格を目の当たりにしてた手前、
正直関わり合いたく無いと考えていた水楯の『闇』だが“詐欺師”の訴えにまんまと引っ掛かってしまったようだ。
「それはいいの。風紀委員として両者の身に万が一のことが起きないように努めるのは当然のこと。あくまで、これは『同レベル同系統の能力者2人による能力実演』なんだから。
それよりも、私が気になってるのは何で水楯さんと霧流寿恩をわざわざ引き合わせのかってこと。普通なら絶対に引き合わせないよね?」
「確かに。2人が会えばどんなことになるのかこれもまた簡単に予想できること。今回は、霧流寿恩が界刺先輩を襲った・・・と“詐欺師”が法螺を吹いているんでしたっけ?
界刺先輩・・・あなたがそのことを訴えれば今すぐ霧流寿恩に任意同行をさせることもできるんですよ?」
「それじゃ駄目なんだよ、鳥羽。それじゃあ・・・駄目なんだ」
多少のムカつきこそあれ、それよりも加賀美が気になっているのは『シンボル』のリーダーとして水楯と霧流を引き合わせた界刺の判断への疑義。
次いで発言した鳥羽や他の176支部の面々も同様の思いを抱えている。水楯と霧流が出会えばどうなるか、界刺が想像できない筈が無い。
それでも敢行したのなら、そこには界刺自身の考えがあるのだ。両者を引き合わせる理由が。
「どう、駄目なんですか?」
「『中立を気取った天秤』で解決できないトコまで来てるからさ」
「『中立を気取った天秤』?何ですか、それは?」
鳥羽の再びの質問に界刺は彼特有の言葉を用いて返答する。『中立を気取った天秤』。これは、今までの経験やあのつつじ髪の少女との話が切欠となって考えるようになったモノ。
こんなことを風紀委員である彼等彼女等へ話すことは、もしかするなら適切では無いのかもしれない。
それでも、界刺は【叛乱】を乗り切った176支部の面々を信頼して告げる。そうでなければ、本当の“身内”の問題に加賀美達を巻き込んだりはしない。
「『中立を気取った天秤』・・・つまりは君達風紀委員や警備員が犯罪者をとっ捕まえて刑務所送りにする際に罪の重さを決める裁判のことさ」
殆どの音が排除された世界の中で、噴水の音だけが少女達の鼓膜に届く。冷たい空気が時間を経るにつれて一層温度を下げつつある錯覚さえ覚える。
それだけ少女達の間を流れる空気が緊迫しているのだ。互いに敵意だけでは無く殺気さえ放っている故に。
「久し振り・・・ね、霧流寿恩。あなたの顔を最後に見たのは、裁判が終結したあの日以来かしら?」
「あら。私の顔や名前なんて覚えてないかと思ってたわ・・・
水楯涙簾?」
片や、碧色の長髪に険悪な視線を眼前の少女へぶつけている少女・・・水楯涙簾。
「忘れるわけ無いじゃない。私を襲った男の妹の顔を・・・私が忘れるわけ無いじゃない。それとも、あの事件共々忘れ去られていた方があなたにとっては良かったのかしら?」
「冗談を。あなたが兄さんを殺した事実を忘れ去っていたのなら・・・言葉を交わすこと無くあなたを地獄送りにしていたわ」
片や、銀色の長髪に憎悪を込めた視線を眼前の少女へぶつけている少女・・・霧流寿恩。
「殺した?・・・そうね。私はあの暴漢共をこの手で殺したわ。でも、それは能力の暴発によるもの。裁判でも正当防衛を認められた筈だけど?」
「ハッ!何が正当防衛よ!?何が能力の暴発よ!!?あなたが兄さんを殺した事実には変わりないじゃない!!」
「そう。なら、これはあなたの逆恨みということかしら?」
「逆恨みなんかじゃ無い!!これは正当な贖罪よ!!兄さんを殺した罪、妹であるこの私が必ず断罪してみせる!!!」
共に譲れぬ想いを抱える者同士、話は最初から平行線を辿る。否、最初から平行線を辿ることを両者共“望んでいる”。
そうすれば、抱く想いに余計なモノが混じることなど有り得ないから。
「断罪?あなたが?私を?」
「そうよ!!これは殺された人間の妹である私にしかできないこと!!犯されそうになった“だけ”で・・・せ、性的暴行“ごとき”で兄さんを殺害した罪が消えて堪るモンか!!
“未遂”で終わったのに・・・終わったのに兄さんの人生が潰えてしまった言い訳に正当防衛が適用されて堪るモ・・・・・・!!!」
「“未遂”・・・?“だけ”・・・!!?“ごとき”・・・!!!??」
だからこそ、想いは先鋭化する。霧流は水楯の罪を強調するため、自分の復讐を正当化するために性的暴行を軽んじる。
本心では、同じ女性として水楯に同情していた霧流は同情を上回る憎悪によって尖り過ぎた意見を水楯へぶつけ・・・結果凄まじい怒りを買った。
『止めて・・・止め・・・!!!』
『騒ぐなよ?騒いだら、このナイフでテメェの首を切り裂くからよ!?ヘヘッ』
『花盛のお嬢様か・・・上玉を味わえるなんて今日の俺達はツイてるな。ギャハッ!』
霧流寿恩の兄達に凶器でもって脅され、性的暴行を受けたあの記憶が・・・
『恐い・・・恐いよ。グスッ・・・』
裁判が終結してもずっと寮に引き篭もって外の世界へ出られなかった苦い記憶が・・・
『わ、私のファーストキスが・・・キスが・・・ムグッ!!?ングッ!!?』
『・・・プハッ!これがお嬢様の味か!?美味ぇな、オイ!!』
『嫌・・・嫌あああぁぁ!!!』
『へへっ!お前に殺された仲間の分だ!!しっかり、俺達を楽しませろよ!!おい!!』
『わかってる!!ほらっ!!』
『な、何っ!?・・・あ、ああああああぁぁぁ!!!』
あの夏休みに再びスキルアウトの強襲を受け、7人がかりで暴力を振るわれた末に殆ど裸にされて、最初より酷い集団性的暴行を受けたあの忌まわしき記憶が水楯の脳内を駆け巡る。
霧流寿恩は言った。『犯されそうになった“だけ”で』と。『性的暴行“ごとき”』と。『“未遂”で終わったのにと』。
それは、水楯涙簾にとって絶対に許せない言葉。その上、霧流は重傷を負っている界刺を襲ったのだ。その理由を水楯は聞いていないが予想など容易く付く。
「界刺さんを襲っただけで飽き足らず、ここに来て私への罵詈雑言を吐くか・・・霧流!!!」
「ッッ!!!」
“激涙の女王”の憤怒はもはや制御不可能となる。予め触れていた噴水の一部を足掛かりに、速攻で大量の水を己の支配下に置く水楯。
彼女の怒りを表現するように、荒れに荒れまくる激流が水楯の頭上を踊る。その様を見て僅かたじろぐ霧流だったが、それでも自身の内を駆け巡る憎悪に些かの衰えも無い。
すぐにでも戦闘を行えるよう、水楯と同じく噴水の水を己の支配下に置く霧流は水楯の放つ殺気に負けじと渦巻く激情を言葉として吠える。
「罵詈雑言!?それがどうしたのよ!!?あなたは、罵詈雑言どころか自分の手で殺した人間の肉親へ一言も『謝罪』していないじゃ無い!!!
そんなあなたに、私が何を言おうが勝手でしょ!?私にはあなたに罵詈雑言をぶつける権利が・・・当事者じゃ無い肉親の私にはあなたに罪を償わせる権利があるんだから!!!」
「・・・これ以上の問答に価値は無いようね。時間の無駄だわ」
「・・・・・・フフッ、そうね。最初からわかってたことよ。・・・何で、もっと早く行動を起こさなかったんだろう・・・私。そうすれば・・・フフッ・・・フフフッ」
復讐に狂う少女・・・今の霧流を称するなら“復讐姫”か。今の“激涙の女王”と“復讐姫”に和解など求められる筈も無い。
こうなれば、残るのは己の正当性を暴力にて証明するのみ。
界刺得世が好まない『いわれなき暴力』によって。
「去ね、霧流!!!」
「潰れろ、水楯!!!」
始まる戦闘。激流同士がぶつかり合い、喰い合い、渦潮となる。夕暮れ時のオレンジ光が少女達の操る水を彩る。
それは、まるで血にも似た色合いを見る者達に想起させる。水楯と霧流の戦いの果てを予見する色合いを。
「『当事者じゃ無い肉親の私にはあなたに罪を償わせる権利がある』ってのは、『私が望む形であなたに罪を償わせる権利がある』だろうに。そこで第三者を気取っちゃいかねぇよな。
カガミン。同じ水流操作系として2人の戦いをどう思う?涙簾ちゃんに関しては実際に戦った時の感想や『書庫』の情報込みで」
「・・・霧流寿恩は水分子に限定して三態変化を行える能力者みたいですね。一方水楯さんは固体・液体・気体の三態操作を行えるようですが、状態変化は行使できないようです」
「その違いが戦局にどう影響する?」
「一度変化が始まったら水楯さんには変化を止める手段が無い。水楯さんは霧流の状態変化干渉に負けない状態維持が求められます。
また、状態変化により自在に水を変化させて攻撃できる霧流の水分子攻撃に水楯さんは固体なら固体、液体には液体という能力干渉を強いられることで演算負担が増します」
「それは状態変化を行う寿恩ちゃんの方にも言えることだよね?」
「はい。そもそも、水楯さんの馬力は凄まじいですからね。実際、霧流も水楯さんが操る水流の乗っ取りに手を焼いています。逆に、作った氷塊の操作を乗っ取られたりしてますし」
「確か、カガミンも固体~液体間の状態変化は行使できるんだっけ?」
「・・・ゆかり情報ですか?確かにできますけど、イマイチ使いこなせていないんで実戦投入にはまだまだ時間が掛かりそうです」
激流同士が踊り狂い、氷塊同士が激しい音を立てながら削り合う。『水流操作』における高位能力者同士の戦いに見惚れる観客達の中で界刺と加賀美は繰り広げられている戦闘を冷静に分析していた。
いざとなれば同じ系統同じ高位能力者である加賀美の『水使い』で戦闘を中断させ、水楯には界刺が、霧流には176支部の面々が風紀委員として対処する手筈となっていた。
「状態変化や触れずに操作できる範囲とかを総合すると寿恩ちゃんが一番だけど、馬力というか操作できる総水量は寿恩ちゃんより涙簾ちゃんやカガミンの方が上ということか。成程成程・・・」
「界刺先輩」
「何だい、鳥羽?」
「水楯さん達の大声で中断しましたけど、『中立を気取った天秤』や水楯さんと霧流寿恩を引き合わせた真意について説明して下さいよ。あれじゃ消化不良もいいトコです」
「・・・そうだね。それじゃちゃちゃっと説明しちゃおうか」
水楯と霧流の戦いへ注意を固定させていた界刺を鳥羽が自分達へ振り向かせる。あのまま話が終わってしまうと消化不良が過ぎる。
大体、碧髪の少年の言葉は思わせ振りなことが多いのだ。ハッキリさせる時はハッキリさせた方がスッキリするというもの。
「鳥羽。君は裁判官を“中立”だと思うかい?」
「へっ?そ、それは・・・“中立”じゃ無きゃいけない立場なんじゃないでしょうか?加害者に被害者、どちらにも肩入れせず公正公平な“中立”的立場として罪を裁く・・・」
「俺はね、罪を裁いた時点で裁判官は“中立”じゃ無くなると思うんだ。何故なら、加害者側・・・弁護側って言えばいいのかな。
それと、被害者側の検察側が提示した資料や意見を吟味した後に、裁判官は被害者側か加害者側のどちらかに“偏った”裁きを下すからだ」
“中立”。この立ち位置を【叛乱】において界刺自身目指した結果あえなく失敗した。その理由を突き詰めて考えた結果出た答えが・・・『風紀委員会に肩入れしたから』である。
無論後悔などしていないが、肩入れ―成瀬台襲撃の件―したために『闇』に利用されて『ブラックウィザード』と堂々とヤリ合う羽目になった。
「裁判官達も、職務上加害者や被害者に殊更肩入れしようとはしていないと思うんだ。鳥羽の言葉通り公正公平な“中立”的立場に立ち続けようと努力している筈なんだ。
でも、裁判を下した以上その判断は“偏る”。検察・弁護側双方が納得しなくて控訴や上告する時もあるけど、その時の裁きもおそらくどちらかには“偏っている”と俺は思う」
「加害者側の意見が認められて被害者側の求刑通りにはいかず減刑された場合は?」
「それは加害者側に裁判官が“偏った”んだ。『中立を気取った天秤』が加害者側に『秤』を傾けた結果、被害者側の『皿』が地面へ着かなかったってこと」
「『皿』が地面へ着く=求刑通りということですね?」
「そう。そして、求刑通り=被害者側に裁判官は傾いた。いや、“傾けた”か。自分の意思を『皿』に乗っけてね。風紀委員である君達に話していいことかどうかは俺も正直判断し難いね。んふっ」
「いえ。すごく参考になる意見だと思います。俺もパトロールとかで店の店員さんとお客さんが喧嘩している所へ仲裁に入ったことが何回もあるんですけど、
界刺先輩の言うようなことを考えて仲裁に入ったことは無いですね(九野先生が仰られていた奉仕活動と加害者の話に繋がりそうな気がする。覚えておこう)」
以前の“特別授業”にて“天才”九野が説いた話に通じるモノがあると鳥羽が判断した界刺の“中立”に関する見解は、ある観点においては頷ける代物である。
裁判とは人間が裁くモノだ。なら、そこに裁いた人間の意思が必ず混在する。混在させないように努めてもどうしても混ざる。人間が罪を裁くのだから。
第三者的立ち位置は所詮『的』でしか無い。本当の第三者は加害者や被害者に全く関わらない人間のことだ。それを“中立”と呼ぶかどうかは議論の余地があるだろうが。
「だからさ、『中立を気取った天秤』が傾けた(くだした)判決に納得できない寿恩ちゃんに正義の法をあれこれ言っても無駄なんだ。
“中立”じゃ無い意見を・・・涙簾ちゃん側に“偏った”正義の裁きをあの娘はどうしても納得できないんだ」
「それで、2人を引き合わせたんですか?」
「・・・このまま2人を一度も引き合わせないままにする方が危険だと思ってね。俺達の目が届く場所で少しでいいから会話する機会が必要だと考えた。
あの2人は数年以上会ってないみたいだからね。現在の気持ちとか互いにわからないじゃん?当時抱いた感情が負の方向へ増長して・・・というか悪化しているのは想像に難くない」
「でも、実際の所あの女と水楯先輩を会話させた意味ってあるのかしら?目の前の状況を見ると余計に悪化したように思えるなぁ、私」
界刺と鳥羽の会話を静かに聞いていた鏡星は、水楯と霧流の様子と激しい戦闘を見て界刺の狙いが外れていると感じる。
互いに口汚く罵り合って、挙句『いわれなき暴力』によって力尽くで相手を叩き潰そうとしているのだ。これの何処に和解できる可能性が眠っているのだろうか。
「界刺先輩・・・平静を保っているアンタの様子からして何かしらの手応えみてぇなのは掴んでるんじゃねぇのか?」
「・・・んふっ。あの殺人鬼相手に共闘したせいで俺への嗅覚が鋭くなってねぇか、神谷?」
「フン・・・別に」
他の176支部の面々も鏡星と同様の想いを抱いていたが、唯一“剣神”だけは違う考えを抱いていた。
これは殺人鬼を相手に共闘したおかげなのかもしれない。抜群の戦闘センスを誇る神谷の嗅覚が鋭さを増したのは。
「寿恩ちゃんはね、本当はちゃんとした常識を持っている娘なんだと思う。兄さん程彼女は“堕ちていない”。俺の勘ではね」
「つまり、兄が犯した罪を霧流寿恩は正しく認識していると?」
「そうだ、斑。彼女はちゃんと認識している。その上で無視をしている。これが他のことなら大事にはならないんだろうけど事が事だからね。
抱く憎悪を彼女は自分の力で整理できないんだろう。んで、本当の意味で整理できる他人は・・・涙簾ちゃんだけだろうね」
「そうは言っても、水楯先輩があの調子では。霧流寿恩の罵詈雑言が酷かったとはいえ・・・」
「涙簾ちゃんも悪いんだけどね。やっぱり、ケジメってヤツを着けないと恨み辛みは延々続く。彼女も寿恩ちゃんと同じ悪い意味でケジメ着けを無視しちゃってるのがねぇ」
「それは・・・霧流の兄を殺したことに対する?」
「そう」
複雑さを増している状況を整理するために斑と会話する界刺は水楯の問題にも言及する。霧流の抱く憎悪は理解できる。
肉親を殺されて『はいそうですか』と納得する人間が果たしてどれだけ居るのだろうか。これはそういう理屈抜きの話である。
「寿恩ちゃんの気持ちは他人事だけど理解できる。正しい・正しくないを抜きにして、肉親を殺した涙簾ちゃんを憎む気持ちが発生するのは当然だ。
逆に、涙簾ちゃんが凶器を持った暴漢に襲われたのを原因として能力が暴発してしまったことも普通に理解できる。
俺だって、自分を殺しに来る人間を何故殺しちゃいけないと考えるタイプだしさ」
「風紀委員の前でそんな物騒なことを堂々と言わないで頂きたいものですね」
「海外だと結構普通だと思うけどね。殺しに来るってことは殺される可能性があるってことを無意識にでも理解してるってことじゃん。
殺されたくなかったら殺しに来るなってこと。まぁ、余計な話は横に置いといて。涙簾ちゃんと寿恩ちゃんに必要なのはケジメなんだよ。
『未来永劫許せるわけ無いけど、それでもケジメを着けたのだからその“線引き”を踏み越えたりしない』という“納得”が。
きっと寿恩ちゃんは兄貴を殺した涙簾ちゃんを一生許さないだろうし、涙簾ちゃんは自分を襲った寿恩ちゃんの兄貴を一生許さないだろう。それは、例え相手を殺してもね。
寿恩ちゃんや涙簾ちゃんの抱く恨みは一生晴れることは無いと思うよ。『復讐を果たす』ってのはある種のケジメ着けであって、憎悪を晴らす絶対の手段じゃ無いんじゃねぇかな」
物騒な持論を交えつつ、界刺は遠い目をしながら碧髪の少女と銀髪の少女の行く末を案じて止まない。あの2人に必要なのはケジメを着けることだ。
そして、それに必要なことを寿恩も水楯も為さなければならない。そうしなければ、憎しみの増長が延々と続くだけ。
憎悪が断ち切られることはおそらく無い。だが、それでもあの2人ならケジメを着けられる可能性がある。
本当は正しい判断を下せる霧流寿恩なら。“特別”な少女水楯涙簾には界刺自身が働き掛けることによって。
その過程が例え血みどろになろうとも、行き着く結果が最悪へ足を踏み入れない地点に踏み止まる程度には。
「界刺さん!」
「カガミン!?」
「いよいよヤバくなって来たと思います!もしもの時は界刺さんも手伝って下さいよ!?」
「あぁ。・・・悪いな、面倒事に巻き込んじまって」
「界刺さんの気持ちは痛い程わかります!私も・・・色んな行き違いがあって双真を・・・彼を死なせちゃいました。
だから、あんなことはもう二度と起こしたく無いんです!それが見ず知らずの他人でも!そのためなら、私は“中立”じゃ無くてもいいです!
私は私の我儘で・・・防げる最悪の悲劇を防いでみせます!!頼れる仲間と共に!!」
「加賀美・・・」
「双真の件があるから霧流の気持ちもわかる気がします!!緋花の件があるから水楯さんの気持ちもわかる気がします!!
きっと、この問題は早々解決するようなモンじゃ無いでしょう!!だからこれからも私を頼って下さいね、界刺さん?男だとわからないモノもあるでしょうし!!」
「・・・サンキュ」
「どういたしまして!!稜!!皆も!!いいわね!!?」
「「「「「了解!!!」」」」」
同じリーダーとして、男性ではどうしても理解が及ばないことがあるだろう水楯と霧流の問題のアドバイス係として加賀美は自ら名乗り出る。
以前とは逆の立場になったような気分だが、それはそれで悪くない。彼も苦悩している筈なのだ。それなら、同じリーダーとして苦悩を分かち合う。
現に、【叛乱】では加賀美自身の苦悩の何割かを界刺に背負って貰った。今度は自分の番だ。否、自分『達』の番だ。
二度と最悪の悲劇を起こさせたくないのは部下である神谷達も同じである。色んなモノを背負うリーダーの苦悩や責任を部下が背負わずして誰が背負うのか。
そんな決意を示す神谷達を眺めてリーダー達は微かに笑った後に、いよいよ緊迫の度を増した戦局へ視線を移す。そこには、所々から血を流している少女2人の姿があった。
「(フフッ・・・フフフッッ!!これで良いんだ。これで良い!!!もっと・・・もっと私に怒りをぶつけて来なさい、水楯!!!)」
鋼鉄をも切断するウォーターカッターがぶつかり合い、勢いを付けた激流の衝突で生じた轟音が周囲へ響き渡る。
血を流しながらも、攻める手を緩めることは互いに無い。狙うは敵を完膚無きまでに殲滅すること。
大規模な水流操作を為している水楯と霧流は、湧き上がる殺意のままに今や相手を殺すつもりで攻撃を繰り出していた。
「(そうすれば、私は余計な雑念に囚われずに済む!!抱く憎悪のままに、あなたへの復讐を成し遂げることができる!!)」
“激涙の女王”から迸る殺意を受けながら“復讐姫”は邪な愉悦に顔を歪める。仇が目の前に居る。それだけで十分。それだけで・・・迷わずに居られる。
ガチン!!!
ズオオオオオ!!!
『水流操作』によって界刺戦より巨大な氷塊を作り上げる霧流に対抗するかのように、『粘水操作』によって操る激流を圧縮する水楯。
巨大な氷塊による突貫と圧縮から解放した水流。どちらも人の命を奪うには十分過ぎる代物。最早殺し合いである。
そして、今の2人は殺し合いを肯定する。復讐のために憎悪を燃やす銀髪少女と生命に対する意識が希薄な碧髪少女は、この一撃にて勝負を決める腹積もりなのだ。
束の間の静止は、やはり束の間にて終わる。『この一撃で復讐を果たす』・・・『この一撃で因縁を断ち切る』・・・共通するのは相手の『死』。放たれる合図は・・・
「去ねええええええぇぇぇぇっっっ!!!!!」
「潰れろおおおおおぉぉぉぉっっっ!!!!!」
譲らぬ意思の限りを込めた咆哮。この只ならぬ状況に観戦していた界刺や加賀美達が行動を起こそうとした・・・次の瞬間!!!
ビュン!!!
すなわち、圧縮から解放された水流と巨大な氷塊が雌雄を決しようと特攻した瞬間、遠方から“何か”が凄まじい勢いで飛来して来る。
しかも、“ソレ”の到着予定ポイントはよりにもよって水流と氷塊の衝突地点。頭に血が上っている水楯・霧流共に咄嗟の能力制御どころか接近中の“ソレ”に気付いておらず、
立会人である界刺や176支部の風紀委員達も虚を突かれた“何か”・・・金髪を靡かせる男は自分を襲う凶器達へ不敵な笑みを浮かべながら催される宴の場所取りを敢行する。
「『祭り』の会場一番乗りいいいいいいいぃぃぃぃっっっ!!!!!」
バキバキバキ!!!!!
ズザザザザザ!!!!!
ドオォォンン!!!ドオォォンン!!!ドオォォンン!!!
男が“何も持たない”右腕を振るった。それだけで氷塊がいとも簡単に削り取られ、鬩ぎ合う窒素の鞭によって粉々に磨り潰される。
ほぼ同時期に男が何も持たない左手の指でもってパチンと音を鳴らす。それだけで水流がいとも容易く勢いを削がれ、乱舞する窒素の鞭によってズタズタに断ち切られる。
突然の事態に混乱しかけるもすぐに体勢を立て直そうとした水楯と霧流だったが、突如発生した幾つもの窒素爆発にて支配下に置いていた水・氷・水蒸気が四方八方へ吹き飛ばされる。
鼓膜を叩く轟音が如実に表すのは、不意打ち故に能力統御が緩んでしまったとはいえ水楯と霧流が本気で放った攻撃が飛来して来た男の仕業によって瞬く間に潰されたこと。
仕業という曖昧な表現を使った理由は、傍目にはどんな能力が用いられたかがわからなかったから。
唯一わかるのは、爆風及び飛来速度を“意図的に”緩和しながら着地した男が高位能力者である可能性が極めて高いこと。
「ワォッ!!!な~んか面白そうな火種が転がってるみてぇだが、まぁ今回は新規の火種より絶賛燃焼中の火種を大火にする方が先決先決♪
悪ぃ!今からここは俺達の『祭り』の会場になるんでな、ちょいと場所を空けて貰うぜカワイ子ちゃん達?
何なら、これから俺達と一杯やるかい?肴もタンマリあるぜ?美少女の飛び入り参加大歓迎イエエェェェィィィイイイイイ!!!!!」
その男・・・無色透明な窒素を鞭状にして自在に操る『窒素鞭撻』という能力によって霧流の氷塊へ即座に鞭を巻き付けて握り潰し、
水楯の水流に対して巻き付けた氷塊から伸びる鞭をグルグルと一筆書きで円を描くような渦状にして激流の勢いを相殺した後に分断、
駄目押しとして氷塊や水流付近に存在するひも部分の能力制御をわざと解除することによって幾つもの窒素爆発を引き起こし反撃の芽を摘む。
一歩間違えれば自身の命も危うくした綱を自身に巻き付けた鞭による窒素制御によって渡り切り、結果として想像以上の派手な演出を行うことに成功した金髪老け顔男は、
目に映らぬ鞭を持つ右手を天空へ掲げ、ハイテンションな勢いのまま眼前に居る困惑真っ最中の少女2人を宴へ誘う。彼女達の困惑など男が気にすることは無い。
そんなモノは『祭り』を楽しむことに比べたら遥かに優先順位の低い代物である。少なくとも
国鳥ヶ原学園のスクールカーストの頂点に立つ“酔狂人”・・・、
あの
風輪縁暫が噂に聞く
長月学園に君臨する四天王よりは『御し易い』とこれまた耳に入る情報にて評価する―但し、“酔狂人”を現場にてよく知る教師陣の評価は揃って
『国鳥ヶ原No.1の秀才且つ国鳥ヶ原No.1の手に負えない酔狂人間』―“酔いどれ陶然”の通り名を持つ
深酔陶然(ふかしよ とうぜん)にとっては。
「はぁ・・・はぁっ・・・ハァハァ・・・はぁーっはぁーっ・・・・・・・・・っあぁ!!陶然は相変わらず派手な演出が好きデスネ~」
「ンハッ・・・ンハァ・・・ハァン・・・・・・・・・ムフゥ!!!陶然ちャんの夢は、もしや大スターか何かなんでしョうかね?ムフウゥゥ!!!」
「おっ!早速ナンパを仕掛けたか、陶然先輩!いいよいいよ~、その調子でカワイ子ちゃん達の3サイズを見極める時間を稼いでくれ~。ふふふ」
「『どうせ毎度の如くフラれるし』って言葉が抜けてるぜ、“エロ鉄仮面”?しっかしまぁ、陶然アニキも飽きずによくやるよな。
この俺が認めたアンタがあんな才能の無駄遣いに精を出して・・・フッ、『中等部時代に半殺しにした当時無能力者だったアンタに最後は認めさせられた』俺がとやかく言えることじゃ無ぇな」
「陶然君のスクールカースト・・・あっ、これは“蔑称”だ。正式名称『能力奨学<グラントエスティメイト>』の基礎は・・・陶然君が築いたものだからね。自分達は彼に負けないよう、もしくは真似て作ったり無自覚で作ってたり・・・。
だから・・・最終的にこうやって陶然君へ『集った』。自分も・・・こうやって親しい人達相手なら普通に話すことができるようになっ・・・・・・たし。
そもそも、陶然君はMなんだよ。いや、自分をドシドシ日中に連れ出すくらい・・・だからSでもあるね。SとMの両方を兼ね備えた“酔狂人”・・・か。彼らしい」
「あぁいう時の陶然さんが一番輝いてるって。『才能に囚われず』自由に生きるってことをあの人は体現してやがる。
スクールカーストなんてモンの頂点に居ながら才能に囚われてねぇ。でなきゃ、俺が能力使って『格好良く飛来する』演出に協力するわけ無ぇよ」
界刺や霧流達の視線がある方向に釘付けとなる。深酔の後に続く集団が3組あるのだ。その内の1組を一言で表すのなら“イロモノ変人軍団”であろうか。台詞を発した順に見ていこう。
アメカジ系ファッションで統一する深酔のクラスメイトの名は
マックス・ヘッドルーム。彼はホモである。
汗で夏場は常にビショビショに濡れている坊主頭の名は
保毛槍厳(ほもう そうげん)。彼はマックスのおホモ達もといお友達である。
ピッチリしたゴムのような材質のスーツを服の下に着用し、目の部分にレンズのついたゴム状のマスクを身に付けるため顔が全く分からない“エロ鉄仮面”の名は
黄ヶ崎義清(おうがさき のりきよ)。彼は変態である。
痩躯長身で、舌なめずりが癖な薄気味悪いロン毛の名は
石舛啄木(いしま たくぼく)。彼は基本的に嫉妬深い自己中人間である。
過去の能力研究にて起きた暴走によって直接日光を浴びることができないために日傘を差している男(女?)の名は
桐旗敬寿(きりはた けいじゅ)。彼(彼女?)は“学園の腫れ物”と称されている。
鋭い目付きのために小さな子供によく泣かれるガラの悪い“不良”の名は
加見坂鋼牙(かみさか こうが)。彼は誰かに従うのを好まず、つまらない規則に縛られたくない自由人である。
さて、ご理解頂けたであろうか。一見では“イロモノ変人軍団”と判断されてしまうことに疑いの余地は無い。
各個人の個性が豊か過ぎてとても纏まっていられるとは思えない・・・筈なのだが、そんな彼等の友として“酔いどれ陶然”は皆を纏めている。
無論彼等だけでは無く、普通の一般学生や何処ぞの大型スキルアウトのメンバーも彼を慕っていたりする。
「何であたしは毎度毎度このヘンテコリンなお祭りに参加してるのかしら?恩義ならもう十分返したと思うんだけど・・・まっ、いいか。おいしそうに食べて貰えるのは嬉しいしね」
「付き合わされるこっちの身にもなってよね、“浮気(うわき)姫”?」
「だ・れ・が“浮気姫”ですってぇ~!?“レ・ン・コ・ン”の妄想癖が生み出した架空の人物かしら?」
「だ・れ・が“レンコン”ですってぇ~!?」
「・・・・・・また始まった。瑠璃姫と恋呼のつまらない喧嘩が」
「まぁまぁ。2人共落ち着いて。吊橋。一応は俺達の自主的な活動なんだから、その点は自覚しておくんだ。発川。別部署だけど、国鳥ヶ原に通う先輩としてお前からも何か言って・・・」
「銅街ちゃんは虫が好きなのか!!?そ、それなら俺の『操虫曲芸』でいくらでも虫を集めてやれるぜ!?(と、とと、常盤台のお嬢様とお近付きになれるチャンスを棒に振るモンか!!!)」
「ホンマかいな!!?あぁ~!!ワイ今日虫かご持って来てないっちゅーねん!!」
「風紀委員の腕章を付けたまま堂々とナンパしてんじゃ無ぇよ!!さっきも言っただろうが!!」
「林檎さん。今日の銅街さんは関西弁ですが、普段は九州弁が多いん・・・」
「あれは・・・お兄さん!?何でここに居るんだろう?桜姉ちゃんの話だともう少し入院してなきゃいけなかった筈だけど」
「・・・希雨。アタシ、急に目がおかしくなった。あそこに見覚えのある碧髪の男が居るんだけど・・・!!」
「・・・晴ちゃん。私にも見えてるよ。不動先輩・・・?」
「得世め。私達に何も告げずに何処へ行ったのかと思えば・・・水楯と共に何をしている!?アイツ、一応病人だろうが!」
「あれがお前の親友か、不動?」
「・・・そうだ、柳生」
「ふむ。・・・近くに居るのは176支部の風紀委員か?例の一件で相当忙しいと耳にしていたが案外余裕がありそうだな」
“イロモノ変人軍団”の隣を歩く集団を一言で表すのなら“比較的真面目っぽいグループ”であろうか。
先頭を歩くのは深酔の『祭り』における料理係としてよく参加している暗青色のポニーテール少女
浮気瑠璃姫(うえき るりひめ)と、彼女の友達である吊橋恋呼と
羽千刃最乃。
吊橋は深酔の同行を観察する国鳥ヶ原支部所属風紀委員として、羽千刃は浮気の食事目当てにこの場に居る。また、吊橋の付き添いとして国鳥ヶ原支部の先輩風紀委員
添垣誠護(そえがき せいご)と、
添垣の同級生で『風紀委員【特別部隊】』より前に治安維持強化活動の一環として試験的に設置された支部・・・通称『EOH』と呼ばれる風紀委員170支部所属風紀委員
発川鈴路(はつがわ れいじ)が同行している。
当初は浮気・吊橋・羽千刃・添垣・発川の5人だけだったのだが、途中で添垣と発川にとって顔馴染みの男達―
不動真刺と風紀委員175支部所属風紀委員
柳生喚瞑(やぎゅう かんめい)―と出会い、
不動に『朝練参加の正式な許可を貰う』ことを言い訳に碧髪の少年の様子を尋ねに来て空振りに終わった
金束晴天、
銀鈴希雨、
銅街世津、
鉄鞘月代の“常盤台バカルテット”を目にした発川が、
『君達常盤台生だよね!?何たる幸運!!これからあの金髪老け顔野郎主催の『祭り』があるんだけど一緒にどう!?不動達も一緒にさ!?』などと興奮気味に勧誘(ナンパ)した結果、こうして肩を並べて歩いているというわけである。
ここでクエッション。今の話の流れで
春咲林檎が何故ここに居るのか、また不動の傍に柳生が居た理由が明かされていない。
両者には一見共通する部分は見受けられないかもしれない。だが、実はある1点においてのみ林檎と柳生には共通する部分があるのだ。
その全てを詳らかにするには・・・3つある集団における最後の1組について語らなければなるまい。
「こんな所で“闘食の王者<キングフーディスト>”と直接対決できるとハ!!ダハハハハハハ!!!よ~し、鍛錬で思いっ切り腹を空かすゾ!!!エンペラー!!」
「日差しが弱まって来た今こそ筋トレには最適な時間帯!!萬代・・・今日も目一杯青春の汗を流そうぜ?エンペラー!!」
「おうとも!!蚊取り線香の準備はバッチリだ、吾味!!これで思う存分肉体を鍛えられるな!!エンペラー!!」
「僕は病み上がりだから軽い筋トレに止めておくよ。皆、頑張って。緑川師!!」
「落ち込むな、勇路よ!貴殿の分は我輩の鍛錬分に上乗せしておく!!緑川師範!!」
「うむ!!!この“筋肉の覇王<マッスルエンペラー>”
緑川強、お前達の熱き想いを確と受け取ったぞ!!本日は他にも柳生や『シンボル』の不動達、
それに勇路の頼みで『大きくなりたい』という願望を持つ春咲林檎という少女の参加も予定されている!!『筋肉探求』も新たな時代へと突入した!!
さぁ、拳を掲げよ!!脚を奮い立たせ!!筋肉を愛し尽くせ!!鍛錬によって交わされる肉体言語に耳を澄ませ!!締めには“酔いどれ陶然”主催の大宴会が待っているぞ!!
では、間も無く到着する所定の場所に着き次第『筋肉探求』を開催する!!!皆の者!!その前に筋肉を暮れ行く夕日へ晒すのだ!!!」
「「「「「エンペラー!!!エンペラー!!!おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉっっっ!!!!!」」」」」
“イロモノ変人軍団”と“比較的真面目っぽいグループ”の後ろを歩く集団を一言で表すのなら“筋肉鍛錬バカ集団”であろうか。
暗部で発生された事件を迅速に揉み消すことを主目的にしている幻の警備員集団『COU』所属の警備員マイケル=ヘブンリー、
何かと騒がしい
風輪学園にて運動部部長を務める吾味真吾(ごみ しんご)と
萬代超流(ばんだい こえる)、成瀬台支部所属の風紀委員である
勇路映護と
寒村赤燈、
そして筋肉版の青空教室『筋肉探求』を主催する警備員(予備役)緑川強が所定の場所へ到着する前に上半身裸となって汗の滴る筋肉を夕日へ晒す。
「ハハハハハ!!元気良いなぁ、筋肉共!!そのノリ好きだぜ、俺ぁ。観客もまた増えたし、燃えてくるよな燃え滾ってくるよな!!だが、極上の銘は誰にも譲らねぇ!!
宴の華、『ノンアルコール飲料どれが一番うまいかな?サマーフェスティバル』の優勝杯はこの国鳥ヶ原のスーパースター(自称)深酔陶然が頂くぜヤッハー!!!」
2大“変人集団”が去って比較的落ち着いたかと思った後に襲来した『客人』達・・・懐からマイクを取り出し、満面の笑みを浮かべながら吠えに吠える“酔いどれ”を筆頭に、
“イロモノ変人軍団”・“比較的真面目っぽいグループ”・“筋肉鍛錬バカ集団”がシリアスに染まっていた場の空気をブチ壊しにかかる。
意外も甚だしい展開、予想などできる筈も無い『団体客』の強襲に水楯や176支部の面々が狼狽する中、
『獣耳衆』と
十二人委員会によって既に物凄く毒されている界刺と霧流は、今度は心中で無く―もはや心の中に抑えられなくなった―言葉として力の限り絶叫する。
「「何か、超面倒臭そうな連中キタアアアアアアアァァァァァァッッッ!!!!!」」
continue…?
最終更新:2014年02月12日 00:49