異世界の門が開いたことでまず驚かされたのは、そこに住む人々の姿であった。
かつて地球の人々が思い描いていた幻想世界の人々がそこに居たからである。
今現在、異世界の国家は十一を確認し、この国に暮らす種族も調査が進みつつある。
だが、そこから洩れた種族もあれば、まだ見ぬ種族、多くを語られぬ種族、既に滅びた種族など
挙げればきりなく存在するのもまた事実なのである。
今回は特に、私が旅路の果てに出会った人々を紹介しよう。
【スキュラ】
ドニー・ドニーや
ミズハミシマなど海に面した国で暮らす人々である。
上半身は尖りぎみの耳、魚介類を主食とするために鋭くなった歯、水の抵抗を少なくするために滑らかとなった肌、
水中での視界をクリアとするために発達した透明な第2のまぶたといった特徴があるものの、
全体的特徴としては
エルフ、あるいは『人類』と大きく異なることはない。
近隣種に『人魚』がいるが、それらとの決定的な違いは下半身にある。
彼ら彼女らは
マセ・バズークの蟲人同様に、多足の民なのである。
おおよそ3~10数本の足を持つ彼らは、それらを巧みに操って水中を自由に泳ぎ回り、あるいは陸上を闊歩する事が出来る。
中には足先にまるで地球で言うイヌの頭部のような器官を有する者もいた。
種族の傾向として、海の民らしい荒々しさや粗雑さはあるものの、明朗でサッパリとした性格の者が多かった。
その美しさから、成人女性では酒場や娼館で働く者も少なくない。
また、貝殻や珊瑚、真珠といった海産の宝珠を愛でる傾向があるようだ。
私が足繁く通ったミズハミシマの酒場では、夫婦の娘が地球の日本に留学中との事で、逆に色々と質問されてしまった。
どこの世界や民族でも、子を思う親の心は変わらないようだ。
(注釈:開門初期ではスキュラも含めて人魚として翻訳されていた時期もあった)
【サテュロス】
クルスベルグの山岳地帯を主の生活圏とする彼らは、大枠で言えば獣人である。
強靭で力強い下半身は岩山での生活を容易とし、狩りや牧羊で生計をたてている。
遠く離れた仲間同士のコミュニケーションは角笛など楽器を用いて行われ、
極端な部族ともなれば言葉で会話をせず曲目で会話をしてしまう。
恋の歌や愛の歌は全体の7割を超えるとも言われ、それゆえに『好色な民』と誤解されがちのようだ。
私も何曲か教わったものだが、結局マスターする事は出来なかった。
ただ一曲『いつかまた来る』という曲だけは口笛で覚えて帰ってきた。
再びクルスベルグの地を訪れた時、私はきっと岩山を登るだろう。
(注釈:羊とは地球の羊と同一ではない。毛竜というドラゴンの一種である)
【レプラコーン(レプラカーン)】
主にクルスベルグに住む小人であり、世界中に散らばる職人でもある。
ドワーフや
ノームと近似した亜人であり、総じて小柄な体格である。
一番の特徴は男性ならばヒゲ、女性ならば髪を、自らの体が隠れるほどに伸ばすことと、
身の丈ほどもある大きな帽子を好んで着用するという点である。
遠目で見れば、帽子の下に毛の生えた生き物のようにすら見えるだろう。
服飾を生業とするものが多く、布地を扱わせればドワーフやノームでは足元にも及ばない。
また革細工の才も突出しており、多くのレプラコーンは靴や鞄を作って暮らしている。
最近では細かな日用品を造ったり、他種族と共同して、物の修繕にあたるものも多いようだ。
ドワーフが「鎚」、ノームが「鑿(ノミ)」を一生の相方とするように、彼らは「針」を一生の友とする。
レプラコーンの半数以上は「旅に行き旅に死す」事を信条としており
クルスベルグから離れて、他国へ流れの者として生活するのだという。
(注釈:かつてはノームの一部族として考えられていた。渡りノームとする書籍もある)
【スライム(球根人)】
スライムと言っても、地下世界にいるというドロドロとした不定形の生物の事ではない。
私が出会ったのは
エリスタリアの地に暮らす樹人たちである。
まるで球根かタマネギのような外見の彼らと接するうちに、私の思考をくんだのか翻訳の加護が選択した単語が『スライム』であった。
同じくエリスタリアに生きるエルフや
ホビットに比較して、彼らはあまりに純朴で朴訥であった。
基本的には農耕で生計をたて、作物をホビットに売って暮らしているようだが、商売が下手なためにいつも値切られていた。
もっとも、彼らのコミュニケーションはもっぱらジェスチャーや子供の落書きのような絵によって行われるため、
交渉事にはいささか不向きな面も否めない。
食事は土と水に含まれているミネラルで十分のようなので、ペットボトルで持ち込んだ水をプレゼントすると、とても喜ばれた。
いつか日本から栄養豊富な腐葉土と濾過器を持ち込めるよう交渉してみようと思う。
(注釈:現在は球根人と翻訳されている模様。また本文ではホビットの印象が悪いが、値切りは彼らの文化である)
【ムック(ムーク)】
山岳の奥深く、雪深い地に暮らす民である。出会ったのも偶然で、道に迷い難儀していた所を救われたのだ。
巨人族の子孫かと思うほどの巨躯であり、高地の寒さをものともしないであろう厚い脂肪層と多毛に覆われている。
四本の腕を器用に操って森林地帯を抜けると、およそ20戸ほどの幕屋の並ぶ彼らの集落があった。
初見で感じた粗野で野蛮な外見から想像もつかなかったが、集落には鍛冶屋もあり、彼の家には丈夫そうな弓矢もあった。
さらに天井にはどうやって括りつけたのかわからないが、小さな船もあった。聞くと狩猟中心の生活をしているようだ。
私を助けたのも、山向こうの湖の表面がとけて、そろそろ漁が出来る頃合いかと確かめに行った帰りだったそうだ。
随分と親切してもらったが食事だけはどうにも困ったものだ。何せ暮らすにはあまりに不便な地に住む彼らだ。
調味料にも事欠くのか塩気が足りず、一見ケチャップのように見えたものも『鳥を磨り潰して作った漬物』だそうだ。
最初に会ったものが赤毛だったからか、翻訳の加護は彼と彼らをムックと呼んだが、何故か世界的にもムークと呼ばれていた。
いつか鱗人の中に彼らの相棒を見つける日も来るのだろうか。
(注釈:ムークあるいはムーウクは、彼らの言葉で「我々」である。実態としてはほぼ直訳であった)
【蛇人】
ミズハミシマに龍我喃言宮(るがなんごんぐう)と呼ばれる一種の宗教施設があるが、そこで神官を務めるのが蛇人である。
ルガナンを祀る施設は世界各国に存在するが、その全てが蛇人という訳ではない。
ただ、ミズハミシマの地にあっては言宮を管理するのは全て蛇人を名乗る鱗人たちである。
他の鱗人に比較して視力が弱く、熱を感じ取る器官が額にあるようだ。
その言葉にはルガナンの神性が込められているのか、『言霊』として人の心に干渉する。
かつてミズハミシマが戦乱に覆われた時代に、巧言令色の限りを尽くして処武将を騙したあげくに同士討ちを行わせた民でもある。
私が出会った者たちは極めて傲慢で不遜な者ばかりで、仮に地球で長く暮らした蛇人がいたとしたら、
もしかしたら彼らのコミュニティに帰りたがらないかもしれないと感じたものだ。
もっとも、彼らの主張によれば地球は「ルガナンの声の届かぬ蛮地」であり、進んで行きたがる者など居ないだろうとの事だ。
(注釈:ルガナン宮は世界各国に建立されているが、それぞれ独特の建築様式で建てられている。神官の考え方も各々異なる)
【蛇頭人】
一般に蛇人と呼ばれる獣人で大延国周辺を中心に生活圏を持っている。
屈強な体躯と蛇の頭部を持ち、戦士としての人生を歩む者が多い。
故に内陸とくに都市部で彼らの姿を見かけることは稀で、大延国でも塞王周辺、あるいはドニー・ドニーで出会う事が多かった。
人生観は極めて刹那的であり、戦って金を得て、それを使い込んで死ぬ、それが理想と言うものばかりだ。
彼らが特に金をかけるのはその武器であり、おおよその者が長刀を肌身離さず持ち歩く。
こう言うと随分と好戦的な種族に思われるかもしれないが、要は「宵越しの銭は持たない」を地でいく連中という事だ。
元々は塞王周辺に集落を構えていたが、乾燥しがちでしばしば大火を起こような土地柄であり、
しかも南方からは南蛮の侵攻に怯えて暮らさなければならなかったという情勢が、彼らをそうさせたのだろう。
ちなみに好物は卵である。生卵を安全に食せるということで、日本への旅行のために『貯金』を始めた者すらいるのだとか。
(注釈:長刀が銃刀法違反にあたるため、彼らの日本渡航には困難が伴うのが現状である)
【
ラミア】
かつては蛇人として、翻訳ではいっしょくたにされていた種族である。
意外かもしれないが鱗人ではなく、スキュラなどと同じく人魚にあたる。
上半身はエルフやノームといった種族に近似しているが(あるいは地球人に似ている、とも言える)、
その下半身はまるで蛇のように尾と足が一体となっており、これを自在にくねらせることで匍匐したり泳いだりできる。
また水中で体温を奪われるのを防ぐために、男女ともにやや厚めの脂肪層に覆われており、女性ラミアは特にバストが豊満な者が多い。
彼らは陸でも水中でも暮らしているが、陸暮らしの長い種族であっても脂肪層の厚さゆえの重さにより長距離移動は困難である。
なお、生殖器は下半身のヒダの中に覆われており、性交時のやり取りはそのヒダの隙間で行われる。
それをどうやって知り得たかは秘匿とさせていただきたい。
(注釈:ラミアが鱗人か人魚かについては、いまだ議論の中に有り決定的ではない)
【ゴルゴーン】
やはりかつて蛇人として翻訳上では一緒の扱いを受けていた種族である。
外見上ではエルフに最も近いと言えるが、髪の毛にあたる箇所は全て触手状であり、まるで蛇の頭部かのような器官となっている。
かつては全ての触手に視界があったようだが、現在はせいぜい明るい、暗いの識別程度だという。
身体的には弱々しい種族であり、周囲への警戒のために視野を広げた結果だと考えられている。
また、鱗人の多くが持つ牙の毒についても彼ら彼女らは独特のものを持っており、牙からではなく涙腺から麻痺性の毒液を飛ばす。
「睨まれたら石のように動けなくなった」という逸話は、蓋を開けてみればそれほど不思議なものでは無かった。
極めて特色的な事として、彼ら彼女らは腐敗神を崇めておりその恩恵を受けているという点にある。
様々な国(特に酪農の盛んな地域)において彼らは家畜の乳を用いて発酵食品を作って生計をなしているのである。
ほとんどの国において『ゴルゴン』と彼らの種族名で呼ばれるその発酵食品は、地球で言えばチーズにあたり、
異世界の食生活に欠かせない物となっているのである。
(注釈:ゴルゴンについては強めの発酵臭がするため、嫌う人もいるので注意が必要)
【猿人】
かつて大延国に居たとされる獣人。今ではまったく姿が確認されていない。
延劇『越虹記』において西の果てを目指す少女「金仙娘々」を守護する役目で現れる「星天大聖」は猿人であったとされる。
天界にて農園の番人をしていたが「金仙娘々」と共に旅立つ。
星天大聖は知恵者でありながらも自らの知恵に自信を持てず、さらなる知恵を欲してのことである。
猿人が姿を消した理由は不明であり、今も議論紛糾して定まらない。
大延国の政治中枢に居た時代に、必要最小限の政府機関に外部機関を足せば良いという興亜構想を述べたものの、
政敵である狸人たちの攻勢にあい潰されて大延国を追われたのだとも、実は猿人などは最初から居なくてエルフの事であったとも、
小
ゲートに巻き込まれて十一門世界にきた地球人の事だとも言われる。
未踏破地帯で見かけたとも、そこにいる大魔猿こそが猿人だとも言われているが定かではない。
少なくとも、私は出会っていない。
(注釈:この報告以後、猿人が多数確認された事もあり、単純に都市部に生活する絶対数が少なかっただけのようである。
また、星天大聖の用いる仙術が墨家思想ではないかという『星天大聖はヒトかな?』という本が刊行されている)
【ミノタウロス】
ミノタウロスと呼ばれる種族は、「牛」に似た外見を持つ獣人である。大延国の牛人も同種族にあたる。
地球で言うミノタウロスと言えば、迷宮内に住み生贄を食う牛頭の邪悪な怪物として有名であるが、
総じて彼ら彼女らにそうした評価は該当しない。
彼らの言うホルス族やジアジ族は身体こそ2mをゆうに越え、その膂力は鬼族に匹敵するのであるが、
その膂力を農耕に費やし、あまり争い事は好まない。
彼らが最も偉大だと讃える部族の英雄は、成人してから没するまでずっと土を耕し続けたという者である。
また、ファロ族やトゥサ族のような巨大な角を持った勇猛な部族もあるが、どちらかと言えば、
ミノタウロス部族間同士のセレモニーのような戦を行なうのが常であり、他部族との戦争はほとんど経験していない。
膂力を活かして傭兵となった者も中にはいるが、荷駄運びや土木、建築の方が特性をより活かせる。
なお偶然か必然か不明であるが、さほど冒険心に富むとも思えない彼らだが、奈落に通じるというあの伝説の
『万迷宮(パンラビュリアム)』に挑戦した種族の中では3番目の人数を送り込んでいる。
(注釈:かつての挑戦人数最大種はドワーフである。近年ではニンゲンがトップ)
【単眼族】
主に眼球が一つしかない種族を総称して単眼族と呼ぶ。ひと括りに単眼族とされているが、その内情は複雑多岐である。
一般的な単眼族(誤解を恐れず言うならば、日本の妖怪「一つ目小僧」が最もその姿に近い)はミズハミシマ陸地、
ドニー・ドニー、
ラ・ムールなど各国の都市部を主な生活地とし、鍛冶、修理工、占い師などの職に就くことが多い。
顕著な特徴として、その視力があげられる。
彼らは「目を一つしか持てなかった」のではなく「優れた眼を一つ持ちえた」のである。
他の種族よりも遠くを見据え、他の種族よりも鮮明に物体を把握できるその眼は、言うなれば望遠鏡と顕微鏡を
生身で所持しているようなものだ。ゆえに鍛冶職人や家具・雑貨の修理職人が多く生まれるのである。
またその眼は「未来を見据える」とも言われ、占い師となる者も多いのだとか。
逸話として、単眼ゆえに立体視が苦手だとする地球の大学教授の説が流布しているが、彼らは普通に立体視できている。
(注釈:占いに関しては、その眼によって瞬時に対象者を観察しうるコールドリーディングの技法であると考えられる)
【サイクロプス】
本来ならば単眼族と呼ばれるべき種族であるが、あえて別としたのは彼らがあまりに他の単眼族と異なるがゆえである。
大きな特徴として、まずその巨大さがあげられる。一般的に15m~18mといった巨大さであり、
分類上は巨人族とすべきではないかとの論議がいまだに絶えない。
そもそも亜人と呼んでいいのかどうかすら議論の俎上にあがるのである。
知性に乏しく文化レベルはあまり高くはない。争いに明け暮れ戦乱を好む気質がある。
主な生息地はエリスタリア遥か西方や大延国最南部であり、一説には終末樹が生み出した生命ではないかとも言われる。
命の危険が伴うので、彼らとコミュニケーションを取ろうなどと考えるのは避けた方が良い。
(注釈:亜人同士ならば、どんなに外見上の差異があっても交配可能だが、サイクロプスとの例は今のところ確認されていない)
【天使】
早々に解説すると、いわゆる宗教的天使ではなく鳥人の一亜族である。
その最大の特徴は鳥人にもかかわらずクチバシが無く腕があり、地球人で言う肩甲骨付近より羽根が生えている。
マセ・バズークの蟲人や
イストモスの
ケンタウロスと同じく6足生物から進化したと考えられており、
厳密に言えば鳥人ではなく蟲人の亜種ではないかとすら言われている。
外見はエリスタリアのエルフ達に酷似しており、これも蟲人であれば擬態で説明がつく。
生息域は
オルニト周辺から
新天地であり、コミュニティを形成して他種族をあまり受け入れない。
ハピカトルの極めて敬虔かつ厳格な信奉者が多く、積極的に破滅と混沌を好む傾向にある。
その歌声は他の鳥人と同様に美しく人の心を魅了するが、その内容は殺伐とした軍歌が多くを占める。
最大のコミュニティは『天軍』と自称する傭兵集団である。
(注釈:いくつかの宗教団体から、翻訳の加護が誤訳であるとして抗議声明が出されている。
また、本当に天使と会ったとする報告もあり、この種族以外にも天使が存在する可能性もある)
【悪魔】
繰り返しての解説となるが、いわゆる宗教的悪魔ではなく鳥人の一亜族である。大延国においては蝙蝠人と呼ばれる。
特徴としては、やはりクチバシが無く腕があり、肩甲骨から皮膜状の羽根を有する。
また、先端に鋭いカギのついた尾と、頭部にツノ状の器官が存在する。
外見はエリスタリアのダークエルフに酷似しているが、これは収斂進化ではないかとの指摘がある。
生息域をオルニトから離れて各地に散っているため、主要な地域は存在しない。
(強いて言うならば、新天地が最も多く確認されている)
鳥人の特徴である歌声の美しさのみならず、楽器や踊りにも種族的才能を発揮する者が多い。
世界各国を旅してまわるが故か、「約束」や「契約」を重視する傾向にある。
一般的に誤解されがちであるが、特段彼ら彼女らは魔術を行使することは出来ない。
ただし、部族の中には特別なルーンである『門』を所持している者がいるとも噂されている。
(注釈:悪魔に関しては亜人としての分類が極めて曖昧な状況が続いている。
蝙蝠人以外にも悪魔族が存在するとも、スラヴィアンが報告事例に混ざっているとも言われている)
【人狼】
あるいは狼人(ミヴロ)とも呼ばれる種族であるが、極めて特殊な状況に生きる種族でもある。
そもそも彼らはイストモスの狗人とまったくの同種族であり、人狼はいわば自称である。
イストモス国内にて国を割っての大戦役があった時代、戦にて主人のケンタウロスを失った狗人や
逆に主たるケンタウロスから苛烈な扱いを受けて逃げ出した狗人、国を失い帰る場所が無い狗人が集まり、
流浪の果てに狗人の小国「イェゾ」を建国したというのが狼人(ミヴロ)が語る建国史である。
ゆえに、主人たるケンタウロスを失った狗はもう狗にあらず、狼を名乗るのだというのが彼らの主張である。
「イェゾ」は僻地ゆえに農作物や狩猟にも限界があり、成人した人狼たちは世界各国に散り、
男性ならば護衛、用心棒、傭兵業を。女性ならば子守、洗濯、家政婦業を営む事が多い。
彼らを支える神は無く、「カイデン」と呼ばれる指導者層と「局中法度」によって国は運営されている。
狗人と比較すると、ほぼ全ての民が白毛で、体格は男性で2m近くの者が多数という違いが見られるが、
最も顕著な違いは、その好む服装や武装、武術の違いにある。
衣服に関しては最も近いと思われるのが、地球のアジア圏のものである。
モンメンと呼ばれる木の皮をはいで作られた繊維で織られたそれは、着物によくにた構造をした衣類である。
防腐、消臭を目的として炭で真っ黒に染めたものを男性は好む傾向にある。
また、クルスベルグと提携して作られた彼らの愛用する武器『チニ・ウェテル(チニウェター)』は、
おおよそ1~1.5mの長さのミスリル製の片刃剣であり、表面にルーン文字が彫り込まれている。
彼らはそれを2本持ち歩き、1本は外敵と闘うため、もう1本はその誇りに反した際に自害するためと言われる。
彼らの剣術は独特であり、防御を主体としながらも盾の類は一切使用しない。
「何のために死ぬのか」を至上の主題として生きる民である。その命は儚い。
(注釈:一説によれば、今でも
テミランは彼らを導いているとも言われる)
【ライカンスロープ】
極めて稀な例として、人狼の中にはライカンスロープと呼ばれる種も存在する。
特殊な条件下において狼、人狼、人の形態を移りかえるのである。
その事自体に生物学的意味があるのか、なぜそれが可能なのか、なぜ彼らは人狼のコミュニティにいるのか、
そもそも「地球人が居ないはず」の十一門世界に、なぜこうまでヒトに似た種族がいるのか、
議論は枚挙の暇がない。否定されたはずの遺伝子交雑説まで復活しかける始末である。
私がイェゾと呼ばれる人狼の国で出会ったライカンは、人狼と狼の形態を移り変わる者であった。
普段は人狼のままで生活していて、戦闘や狩りの際に狼になるのだと言う。
武器を使えないので有利かどうかははっきりとはわからない、と彼は言った。
(注釈:地球人の中にライカンスロープが居るという説もあるが、未確認である)
【地下狗人(コボルト)】
クルスベルグの地下坑道に住む民である。イストモスの狗人とは、それほど違った種族ではない。
狭い環境に馴染むがゆえか、胴づまりで手足の短い者が多い。
ドワーフとはあまり相性が良くないようで、彼らからは忌み嫌われている。
坑道の中で白輝石と呼ばれる光精霊の宿った石を用いて、キノコ栽培などを行なっている。
このキノコが鉱脈の質を下げるのだとして、ドワーフは嫌うのである。
また、やはり白輝石を素材として焼き上げた青磁器の生産が有名である。
彼らの作る器は品質も良く使い勝手も悪くないが、
ゴブリン商人に買い叩かれる傾向がある。
(白輝石は焼き上げると透き通るような青色に変化するのが特徴である)
また、生活環境からか地精霊と相性がよく、ほぼ共生とも言える生活様式となっている。
彼らはドワーフのような膂力や暗闇でも見える目があるわけでもなく、生活の場を求めて
かろうじて坑道を見つけただけにすぎないので、精霊の助けが必須だったのである。
異世界調査の初期に、彼らが地精霊の一種として報告されたのは、そうした背景がある。
(注釈:「テミランを捨てた者」という蔑称もあるが、地下大星堂もあり完全な誤解である)
【旅エルフ】
『枝の先』を自称する、世界中に散らばって種を残すことを選択したエルフの一群である。
世界樹はより遠くから種を持ち帰れるよう、彼らに他のエルフとは異なる特徴を与えた。
身体能力の高さ、少食でも問題なく生存できること、環境への適応力の高さと様々あるが
最も特徴的なのは『両性具有』であるという点である。
どんな状況にあっても子孫を残す事を最優先としたため当然の選択ではあるが、
それが故に逆に他のエルフと異なり、生殖欲求が薄いという点にも特色がある。
つまり、過酷すぎる状況下において繁殖しすぎるのは、群れの存続に関わるからである。
また、旅エルフ同士であれば中性的な精神位置にあるが、他の亜人や地球人をつがいとして
認識した場合は、相手の性に合わせて男性的、女性的な肉体的特徴、精神的特徴に変化する。
(完全な男性、女性になるわけではない)
旅に生きる事を選択したためか、近年では『世界の果て』を目指すことのみならず、
地球からの旅人を導くガイドとして生きる事を選ぶ者も多い。
旅人が旅エルフに惚れ込んで異世界に滞在し続ける例も多く、ある種の生存戦略なのかもしれない。
(注釈:本文では触れていないが、総じて美形であるという点にも特徴がある)
【バックベアード】
存在を否定され続けている種族である。その所在はマセ・バズークとされている。
ディルカカ神の生み出したネットワークの遥か深層に巣食い、
無作法に自分の領域に足を踏み入れた者を排除するのだという。
ディルカカネットを使用していたマセ・バズークの民が急に発狂して、
漆黒に浮かぶ目玉が世界を喰らい尽くすとうわ言を続けたという例が数多く報告されている。
私もその存在は半信半疑ではあるが、発狂する姿を我が目で確認したのだから仕方がない。
その身はどこまでも細分化され、地球に来たマセ・バズークの民に寄生したものが
地球のネットワーク上で再構成されたという報告すらあがっている。
(むしろ、そこでP2Pを介して爆発的に普及して猛威を奮ったウイルスこそが、
ベアードと呼ばれていたのである。お前のすぐ後ろに居る驚異『バックベアード』として)
ある種の亜神と言えるかもしれない。
【コロポックル】
ミズハミシマ最北端、
スラヴィアやドニ・ドニーと水域を分け合う地点の島に住んでいたとされる小人。
鬼族であったとされる説、クルスベルグに住む小人の一種という説など多数あるが定かではない。
伝承では身の丈傘葉の下に集落をつくり、沼ばたけで採れる折畝(おりぜ)を食べて暮らしていたのだという。
狩りでは矢じりに闇精霊の加護を加えた黒輝石を取り付けた小ぶりな弓矢を好んで使い、
沼地に潜む大ヴォジャノイやヌマヒグマをマヒさせて捕獲していたのだという。
竜魚コシヌプイからとれる皮を加工して靴や小道具を作り出していたとも言われる。
ミズハ動乱期に彼らも戦に巻き込まれ、種族は絶滅した。コロポックルはもう居ない。
- 外観から種族まるっと要素をきれいに長くなりすぎずまとめられてて読み易く想像し易い。 何よりも今まで余り触れられてこなかった“これからの種族”を題材にしているのが何ともニクい構成。 次回予告の種族を見て否が応にもワクワク感が高まる -- (名無しさん) 2013-02-05 21:26:16
- 確かに丁寧で分かりやすくて公的機関が作成した異世界渡航PVを見ている気分 -- (名無しさん) 2013-02-08 00:28:21
- 伝説や神話に出てくる種族とか意外に未登場なのいるよね。猿人も実はいそうでいなかったり -- (名無しさん) 2013-02-12 04:06:58
- それぞれの解説の説得力が凄い -- (とっしー) 2013-02-14 00:58:36
- 天使と悪魔の追加乙です。俺個人としては、天使と悪魔の双方のイメージにかなり接近したSS内容で楽しくありがたい一本。他種族の続きにも期待。 -- (名無しさん) 2013-02-14 19:37:00
- あ、それと。天使(仮)と悪魔(仮)の性格付けの方法(天使はハピカトル主義で、悪魔は契約主義)というのは大変おもしろいと思いました。飛べる亜人ほど天使(仮)の考えに近く、飛べない鳥人ほど悪魔(仮)っぽい考えなのかな?と。悪魔は翼人のなかでも比較的飛べない鳥人の目線に立って話せる亜人なのではないかな?だから、新天地への移住にも積極的でオルニトではあまり見られないとか。 -- (名無しさん) 2013-02-14 19:42:27
- どんどん増えて行くねー。今まで出てこなかったような派生系の種族とか多いのが面白い -- (名無しさん) 2013-02-24 19:39:45
- 派生種族はもっといっぱいアイデア出すべきだよな。狗人、猫人、蟲人、鳥人はもっと細分化するべきだと思う -- (名無しさん) 2013-02-24 20:33:42
- バックベアードは元ネタからは結構遠いオリジンル種族な感じ?元々はディルカカネットの胞子に感染するウィルスだったのか -- (名無しさん) 2013-04-01 03:53:57
最終更新:2017年07月31日 05:49