第41話 霧の向こう
1482年 9月10日 午前3時 ジェリンファ沖南南西200マイル沖
その日、ジェリンファ沖の近海は、珍しく濃霧に覆われていた。
粉ミルクを粉末状にぶちまけた様な感がある海を、第13任務部隊はバルランド輸送船10隻を護衛しながら、
時速12ノットで航行していた。
粉ミルクを粉末状にぶちまけた様な感がある海を、第13任務部隊はバルランド輸送船10隻を護衛しながら、
時速12ノットで航行していた。
「この世界の天候を正確に予測する事は、やはり難しいか。」
第13任務部隊旗艦である軽巡洋艦ヘレナの艦橋上で、司令官のノーマン・スコット少将はため息を吐きながら呟いた。
「仕方ありますまい。わが合衆国はこの世界に放り込まれて1年も居ないのですから。」
「天候の推移自体、元の世界と比べて暴れ馬のごとく変わっているからな。
片や北の地方で日光浴できるほどの晴天であれば、片や南の地方で家に引き込むほどの寒さ。
こんな変わった天候では気象班は大変な思いをしているだろうな。」
「天候の推移自体、元の世界と比べて暴れ馬のごとく変わっているからな。
片や北の地方で日光浴できるほどの晴天であれば、片や南の地方で家に引き込むほどの寒さ。
こんな変わった天候では気象班は大変な思いをしているだろうな。」
この日、気象班はジェリンファ近海の天候はやや曇り、時々雨と言う予報であった。
確かに、2時間前までは曇り空で時々雨が降っていたが、今や洋上は一面濃い霧に覆われている。
確かに、2時間前までは曇り空で時々雨が降っていたが、今や洋上は一面濃い霧に覆われている。
「まるで、アリューシャン列島で見るような霧ですな。」
軽巡洋艦へレナの艦長は、どこか懐かしむような表情で言う。
「アリューシャンの霧は、このように先があまり見えぬような霧なのです。ですから、編隊行動訓練の際に、
回頭運動を行う時は、寮艦と衝突せぬか冷や汗ものでした。」
「確かに。ほんの一昔前まではレーダーなど無かったからな。今の所、レーダーは正常に動いているから、
このように隊形を組みながら航行できる。」
「本当に便利になりましたな。」
回頭運動を行う時は、寮艦と衝突せぬか冷や汗ものでした。」
「確かに。ほんの一昔前まではレーダーなど無かったからな。今の所、レーダーは正常に動いているから、
このように隊形を組みながら航行できる。」
「本当に便利になりましたな。」
艦長がそう言うが、スコット少将はかぶりを振った。
「そうでもないぞ。確かに便利ではあるがね。でもな、艦長。SGレーダーはまだまだ不具合が解消されておらん。
2週間前だって別の戦隊で夜戦訓練中にいきなり故障を起こして、敵役の水雷戦隊にあっさり負けたそうじゃないか。
これで肝心の実戦をやっている時に故障を起こしたりしたら、ただの役立たずだ。」
「しかし、このヘレナに搭載されているSGレーダーは、今まで不具合がありませんぞ。レーダー員も信頼しとります。」
「だから、私はTF13の旗艦をアトランタからこのヘレナに変えたのだ。全てのSGレーダーがこのヘレナのように
信頼に足る物であれば、いらん苦労はしなくてもいいのだが。」
2週間前だって別の戦隊で夜戦訓練中にいきなり故障を起こして、敵役の水雷戦隊にあっさり負けたそうじゃないか。
これで肝心の実戦をやっている時に故障を起こしたりしたら、ただの役立たずだ。」
「しかし、このヘレナに搭載されているSGレーダーは、今まで不具合がありませんぞ。レーダー員も信頼しとります。」
「だから、私はTF13の旗艦をアトランタからこのヘレナに変えたのだ。全てのSGレーダーがこのヘレナのように
信頼に足る物であれば、いらん苦労はしなくてもいいのだが。」
スコット少将は、やれやれと言って苦笑する。
この時期から、アメリカ海軍の諸艦艇には各種レーダーが配備され始めている。
諸艦艇と言っても、主に戦艦や空母といった大型艦や新鋭艦に配備が優先されていて、既存の艦艇にはまだ未装備の艦が多い。
それでも、既存艦のレーダー配備は急ピッチで進んでいる。
軽巡洋艦のヘレナは7月にサンディエゴでSGレーダーを搭載された。
今日までの間、少しばかりの故障は2、3度起きたが、突然レーダーがブラックアウトしたり、
表示機があり得ぬ物を映し出した、とかいった故障は起きていない。
他の艦では未だに、レーダーが突然停止するなどの初期不良が相次いでいる中、ヘレナのレーダーだけは目立った故障がなかった。
第13任務部隊は、バルランド輸送船の護衛のために、新たに設立された艦隊である。
この任務部隊の編成内容は次の通りである。
この時期から、アメリカ海軍の諸艦艇には各種レーダーが配備され始めている。
諸艦艇と言っても、主に戦艦や空母といった大型艦や新鋭艦に配備が優先されていて、既存の艦艇にはまだ未装備の艦が多い。
それでも、既存艦のレーダー配備は急ピッチで進んでいる。
軽巡洋艦のヘレナは7月にサンディエゴでSGレーダーを搭載された。
今日までの間、少しばかりの故障は2、3度起きたが、突然レーダーがブラックアウトしたり、
表示機があり得ぬ物を映し出した、とかいった故障は起きていない。
他の艦では未だに、レーダーが突然停止するなどの初期不良が相次いでいる中、ヘレナのレーダーだけは目立った故障がなかった。
第13任務部隊は、バルランド輸送船の護衛のために、新たに設立された艦隊である。
この任務部隊の編成内容は次の通りである。
重巡洋艦クインシー ヴィンセンス
軽巡洋艦ヘレナ フィラデルフィア アトランタ ジュノー
駆逐艦ハンマン フレッチャー オブライエン ヒューズ ラッセル アンダーソン ウォールデン
モナガン エールウィン バートン オースチン ニコラス スミス オバノン モンセン カッシン
軽巡洋艦ヘレナ フィラデルフィア アトランタ ジュノー
駆逐艦ハンマン フレッチャー オブライエン ヒューズ ラッセル アンダーソン ウォールデン
モナガン エールウィン バートン オースチン ニコラス スミス オバノン モンセン カッシン
重巡2隻、軽巡4隻、駆逐艦16隻、合計で22隻の米艦が、10隻のバルランド輸送船を取り囲んでいる。
TF13の所属艦は、ほとんどがTF14、17の所属艦艇である。
TF13の所属艦は、ほとんどがTF14、17の所属艦艇である。
実を言うと、TF14、17は書類上では健在ではあるが、実質的には無きに等しい。
8月25日に起こったバゼット半島沖海戦(バゼット海海戦とも呼ぶ)で、TF14はレキシントンを。
TF17はヨークタウンを傷付けられた。
反撃で敵竜母3隻、戦艦1隻を損傷させてエンデルドに追い返したが、艦隊の主役たる両空母は本格的な
修理を受けねば長期の作戦続行は不可能と判断された。
爆弾7発を受けたレキシントンはエレベータ部が全滅状態であるため、最低でも3ヶ月。
比較的傷の浅いヨークタウンも遅くて1ヶ月少々、早くて4週間の修理を受けねばならない。
このため、主役を欠いたTF14、17はただの水上打撃部隊と化した。
だが、シホールアンル側がジェリンファ向けの輸送船団を完全に見放したとは考えにくく、アメリカ側は
バルランド側の更なる要請と、今後の事も考えて新たに第13任務部隊を編成し、TF14、17の残存艦を
中心にこの護衛艦隊を編成したのである。
そして、新編された第13任務部隊初仕事が、濃霧の海での船団護衛である。
最も、気象班が現場海域の天候予測を外したお陰で、TF13は否応無しに霧の中を進むしかなかったのだが。
8月25日に起こったバゼット半島沖海戦(バゼット海海戦とも呼ぶ)で、TF14はレキシントンを。
TF17はヨークタウンを傷付けられた。
反撃で敵竜母3隻、戦艦1隻を損傷させてエンデルドに追い返したが、艦隊の主役たる両空母は本格的な
修理を受けねば長期の作戦続行は不可能と判断された。
爆弾7発を受けたレキシントンはエレベータ部が全滅状態であるため、最低でも3ヶ月。
比較的傷の浅いヨークタウンも遅くて1ヶ月少々、早くて4週間の修理を受けねばならない。
このため、主役を欠いたTF14、17はただの水上打撃部隊と化した。
だが、シホールアンル側がジェリンファ向けの輸送船団を完全に見放したとは考えにくく、アメリカ側は
バルランド側の更なる要請と、今後の事も考えて新たに第13任務部隊を編成し、TF14、17の残存艦を
中心にこの護衛艦隊を編成したのである。
そして、新編された第13任務部隊初仕事が、濃霧の海での船団護衛である。
最も、気象班が現場海域の天候予測を外したお陰で、TF13は否応無しに霧の中を進むしかなかったのだが。
「ところで艦長。」
スコット少将はふと、ある事を思い出し、まず艦長に聞いてみた。
「ここ最近、ジェリンファ沖では物騒な事件が起きているようだが。」
「司令官も聞いておられたのですか?」
「司令官も聞いておられたのですか?」
艦長も、スコットの思い出したことが分かっていた。
「君も知っていたのかね。凶暴な海洋生物がまた暴れ始めている事を。」
「ええ。何度か耳にしたことがあります。確か、異変が起きたのは先月の上旬辺りからのようです。」
「ええ。何度か耳にしたことがあります。確か、異変が起きたのは先月の上旬辺りからのようです。」
8月10日から、ジェリンファ沖でとある異変が起きていた。
その日は、いつもなら漁船の船倉を満たすはずの漁獲量が目に見えて減っていた。
その日の漁獲量は通常と比べて、7割ほどにしか届かなかった。
10日以来漁獲量の低下は日を追う毎に酷くなり、8月29日には漁獲量が通常の4割強にまで落ち込んでしまった。
翌日の30日。突然2隻の漁船が消息不明となった。
ジェリンファの漁協組合は、捜索隊を出したが、その捜索隊に参加していた1隻の漁船が31日の深夜、
凶暴な海洋生物に襲撃された、との魔法通信を発して以来行方知らずとなった。
それからと言うもの、ジェリンファの漁師達はこの海洋生物が去るまで沖には漁に出ないと言い張り、漁協組合は
凶暴な海洋生物のために大打撃を被る事になった。
その日の漁獲量は通常と比べて、7割ほどにしか届かなかった。
10日以来漁獲量の低下は日を追う毎に酷くなり、8月29日には漁獲量が通常の4割強にまで落ち込んでしまった。
翌日の30日。突然2隻の漁船が消息不明となった。
ジェリンファの漁協組合は、捜索隊を出したが、その捜索隊に参加していた1隻の漁船が31日の深夜、
凶暴な海洋生物に襲撃された、との魔法通信を発して以来行方知らずとなった。
それからと言うもの、ジェリンファの漁師達はこの海洋生物が去るまで沖には漁に出ないと言い張り、漁協組合は
凶暴な海洋生物のために大打撃を被る事になった。
「海洋生物は、ラエンガという名前で、なんでもサメとクジラとタコを合わせたような姿らしいですな。
昔から南大陸の住民に恐れられている生き物で、ミスリアルの部族の中には、神と奉っている連中もいるようです。」
「人をパクパク食べまくる生き物が神だって?呆れたもんだ。ならば、その部族の連中をゴムボートに乗せて
この海に放り出してやればいい。そしたら、ラエンガと言う化け物の扱い方を変えるかも知れんな。」
昔から南大陸の住民に恐れられている生き物で、ミスリアルの部族の中には、神と奉っている連中もいるようです。」
「人をパクパク食べまくる生き物が神だって?呆れたもんだ。ならば、その部族の連中をゴムボートに乗せて
この海に放り出してやればいい。そしたら、ラエンガと言う化け物の扱い方を変えるかも知れんな。」
スコットの冗談めいた言葉に、艦橋で爆笑が沸き起こった。
「まっ、ラエンガと言う奴がどんな物かは知らんが、そいつよりも恐ろしい敵、シホールアンルの奴らが
この海にいるかも知れん。あの海戦の後、シホットの連中は巣に戻ったようだが油断は禁物だ。密かに
快速艦を出撃させて、待ち伏せている可能性は必ずしも否定できん。」
この海にいるかも知れん。あの海戦の後、シホットの連中は巣に戻ったようだが油断は禁物だ。密かに
快速艦を出撃させて、待ち伏せている可能性は必ずしも否定できん。」
スコット少将は艦長の肩をポンと叩いた。
「奴らはずる賢いからな。いつ来ても迎え撃てるように、常に警戒しておけ。
のんびりしている時ほど、一番危ないのだ。」
のんびりしている時ほど、一番危ないのだ。」
彼は自分も戒めるように、やや強い口調で言い放った。
「分かりました。部下達にもしっかり言っておきます。」
艦橋で艦長とスコット少将が談話している間、CICではレーダー員が、PPIスコープと睨めっこをしていた。
PPIスコープは、半径24マイルの範囲にある水上目標を捉える事が出来る。
現在、レーダーに映っているのは味方か、バルランド船ばかりである。
PPIスコープは、半径24マイルの範囲にある水上目標を捉える事が出来る。
現在、レーダーに映っているのは味方か、バルランド船ばかりである。
「どうだ、異常は無いか?」
班長が陽気な声で声をかけてきた。
「ええ。静かなもんです。」
SGレーダーを見張るルイス・ベニントン二等兵曹は、レーダーを見つめたまま答えた。
「静かか・・・・それでOKだな。」
班長は無表情のまま呟いた。
ベニントン兵曹が他の者と交代してから早1時間経つが、レーダーは今の所敵らしきものを捉えていない。
同僚と交代した時、その同僚は
ベニントン兵曹が他の者と交代してから早1時間経つが、レーダーは今の所敵らしきものを捉えていない。
同僚と交代した時、その同僚は
「どうせ暇だから、シホット共に登場してもらってお祭り騒ぎと行きたいね。」
と、不謹慎な言葉を彼に口走っている。
あの時はとんでもねえ野郎だなと思ったものだが、こうしてじっとレーダーばかりを見続けると、そう思わぬでもない。
CICは外と比べるとどこか閉鎖的な空間であり、外の見張員はあまり中に入りたがらない。
理由としては引き籠る癖が付きそうだから、だそうだ。
そのCICの外は、今は夜間という時間帯に加え、濃霧という敵が見張員の警戒活動を阻害している。
あの時はとんでもねえ野郎だなと思ったものだが、こうしてじっとレーダーばかりを見続けると、そう思わぬでもない。
CICは外と比べるとどこか閉鎖的な空間であり、外の見張員はあまり中に入りたがらない。
理由としては引き籠る癖が付きそうだから、だそうだ。
そのCICの外は、今は夜間という時間帯に加え、濃霧という敵が見張員の警戒活動を阻害している。
(暇とは言え、外があんな状態では、このCICが艦の眼となるんだから、重要な場所と言う事に関しては今、
この場に居る連中に艦の運命が握られているわけだ)
決して気を抜いてはならぬ。ベニントン兵曹はそう思うと、改めて身が引き締まるような思いがした。
その時、
この場に居る連中に艦の運命が握られているわけだ)
決して気を抜いてはならぬ。ベニントン兵曹はそう思うと、改めて身が引き締まるような思いがした。
その時、
「・・・・・ん?」
一瞬、レーダーに何かが映った。
反応は微弱である。
反応は微弱である。
「今のは?」
彼は眼を凝らして反応を待った。
反応を映し出す棒状の線がまた一回転すると、PPIスコープに再び反応があった。
反応は、先程より増えていた。
反応を映し出す棒状の線がまた一回転すると、PPIスコープに再び反応があった。
反応は、先程より増えていた。
「班長!レーダーが何かを捉えました!」
彼の声を聞きつけた班長が慌てて彼の傍にやって来た。
「どうしたベニントン。」
「これを。」
「これを。」
ベニントン兵曹はまたもや現れたレーダーの反応を班長に見せた。
「艦隊から北東方面に反応を捉えました。数は3、いや、4隻。いえ、まだ増えています。」
彼らはしばらくの間、この光点を見つめ続けた。
最終的には12もの光点が現れた。
最終的には12もの光点が現れた。
「反応は12。そのうち、先頭の4が巡洋艦、または大型駆逐艦程度の大きさ。残りが駆逐艦程度です。」
「こっちに向かって来るな。この時間に航行中の味方艦はいない、とすると・・・・・・シホットだな。」
「こっちに向かって来るな。この時間に航行中の味方艦はいない、とすると・・・・・・シホットだな。」
CIC内の空気が一瞬にして凍りついた。
「・・・・そうか。分かった。」
艦長は、電話を置いてからスコット少将に説明を始めた。
「司令。艦隊の北東、方位30度付近で敵らしき艦影を捉えました。数は12。そのうち4隻は巡洋艦クラスの反応です。」
「来たか。」
「司令。艦隊の北東、方位30度付近で敵らしき艦影を捉えました。数は12。そのうち4隻は巡洋艦クラスの反応です。」
「来たか。」
スコット少将は驚かなかった。
「全く、ずる賢いな。バルランド輸送船に対するその執念は恐れ入った。だが、今回は相手が悪かったな。」
相手側の戦力は、分かっているだけで巡洋艦4隻、駆逐艦8隻。
それに対して、スコットの手持ちは重巡2、軽巡4、駆逐艦16である。
対空軽巡であるアトランタ、ジュノーと駆逐艦8隻は護衛に残すとしても、残りで充分対応できる。
おまけに、こちら側にはレーダーがあり、敵の位置は既に掴んでいる。
それに対して、スコットの手持ちは重巡2、軽巡4、駆逐艦16である。
対空軽巡であるアトランタ、ジュノーと駆逐艦8隻は護衛に残すとしても、残りで充分対応できる。
おまけに、こちら側にはレーダーがあり、敵の位置は既に掴んでいる。
「クインシー、ヴィンセンス、ヘレナ、フィラデルフィアと第23駆逐隊、第20駆逐隊で迎撃する。
全艦戦闘体制に移れ!」
全艦戦闘体制に移れ!」
スコット少将は即座に命令を下した。
敵を見つけたからには、早々に討ち取らねばならない。
敵を見つけたからには、早々に討ち取らねばならない。
「敵艦隊、なお接近中。距離20マイル、速力24ノット!」
「単縦陣に移行しつつ、敵艦隊に向かう。各艦、互いに連絡を取りつつ、隊形を組め。」
「単縦陣に移行しつつ、敵艦隊に向かう。各艦、互いに連絡を取りつつ、隊形を組め。」
夜間、それに濃霧という悪条件の中、懸念された衝突事故は起こらずに単縦陣は汲み終えた。
先頭には、旗艦である軽巡のヘレナが立ち、次にクインシー、ヴィンセンス、ヘレナ、フリラデルフィア、
後方には第23駆逐隊、第20駆逐隊が続き、各艦とも700メートルの距離を置きながら、25ノットの
スピードで敵に向かった。
敵に向かってから10分後、
先頭には、旗艦である軽巡のヘレナが立ち、次にクインシー、ヴィンセンス、ヘレナ、フリラデルフィア、
後方には第23駆逐隊、第20駆逐隊が続き、各艦とも700メートルの距離を置きながら、25ノットの
スピードで敵に向かった。
敵に向かってから10分後、
「敵艦隊、本艦の左舷前方13マイルを依然として航行中。速力、進路変わらず。」
「このままいけば、反航戦になるな。ここはこのまますれ違いながら撃ち合うか、それとも同航戦に移って
正面からの殴り合いをやるか・・・・・・」
正面からの殴り合いをやるか・・・・・・」
スコットはしばらく考えた後、参謀長のルイク・バートン大佐に聞いてみた。
「ミスターバートン。君ならどうするかな?」
「私が敵とやりあうのならば、12000メートルほどの距離を置いたまま反航戦をやった後、反転して
敵艦隊の後方から逆T字をしかけて砲撃します。」
「まずはレーダー射撃を行ってから、敵のケツに食らいつくというわけか。なるほど、いい案だ。」
「私が敵とやりあうのならば、12000メートルほどの距離を置いたまま反航戦をやった後、反転して
敵艦隊の後方から逆T字をしかけて砲撃します。」
「まずはレーダー射撃を行ってから、敵のケツに食らいつくというわけか。なるほど、いい案だ。」
スコット少将はやや頷いてから決断を下した。
「君の案で行く。距離が12000メートルになったら敵に砲撃を加える。」
彼は参謀長の案を取る事にした。
彼我の距離が12000メートルまで縮むまで時間は早かった。
砲撃が開始される前に、砲撃可能な第1、第2砲塔が左舷前方に向けられる。
12000に縮むまで、今にこちらに向きを変えて突っ込んで来ないか気掛かりだった。
だが、幸いにも敵は気付かなかった。
やがて、彼我の距離が12000に縮まった時、その生き物達の悲劇は始まった。
彼我の距離が12000メートルまで縮むまで時間は早かった。
砲撃が開始される前に、砲撃可能な第1、第2砲塔が左舷前方に向けられる。
12000に縮むまで、今にこちらに向きを変えて突っ込んで来ないか気掛かりだった。
だが、幸いにも敵は気付かなかった。
やがて、彼我の距離が12000に縮まった時、その生き物達の悲劇は始まった。
「12000です!」
CICから報告が入るや、スコット少将は命令を下した。
「撃ち方始め!」
命令一下、艦の前部がめくるめく閃光に包まれた。ヘレナの6インチ砲6門が斉射を開始した。
反航戦の場合、互いに高速ですれ違うために射撃時間は短い。
その間、1発でも多くの有効弾を得るために、スコット少将は全艦に、最初から斉射で敵を叩けと命じていた。
ヘレナの発砲が合図となり、クインシー、ヴィンセンス、フィラデルフィアが前部主砲を発砲した。
反航戦の場合、互いに高速ですれ違うために射撃時間は短い。
その間、1発でも多くの有効弾を得るために、スコット少将は全艦に、最初から斉射で敵を叩けと命じていた。
ヘレナの発砲が合図となり、クインシー、ヴィンセンス、フィラデルフィアが前部主砲を発砲した。
「遠慮はいらん。通り過ぎるまでどんどん撃て!」
スコット少将は続けて命令を発した。
それに従って、ヘレナを初めとする4巡洋艦や、後方の駆逐艦群までもが、5インチ両用砲を狂ったように撃ちまくる。
その直前までに、敵は24ノットのスピードで航行していたが、砲撃開始から1分が経ってまず1番目の光点が
被弾したのであろう、急にスピードを落とした。
ヘレナはレーダーが示した敵艦の位置を元に、7から6秒おきに6インチ砲を放つ。
第3砲塔や第4、第5砲塔も射界に入ったのだろう、6インチ砲15門のつるべ打ちを、霧の向こうの敵に向けて撃ちまくる。
重巡も12から14秒おきに1発ずつの割合で8インチ砲を放つ。
霧の向こうで何が起きているのかは、肉眼では全く分からない。
ただ、水柱が崩れ落ちる音や、砲弾が爆発する音、そして何か不気味な悲鳴らしき音が聞こえた。
それに従って、ヘレナを初めとする4巡洋艦や、後方の駆逐艦群までもが、5インチ両用砲を狂ったように撃ちまくる。
その直前までに、敵は24ノットのスピードで航行していたが、砲撃開始から1分が経ってまず1番目の光点が
被弾したのであろう、急にスピードを落とした。
ヘレナはレーダーが示した敵艦の位置を元に、7から6秒おきに6インチ砲を放つ。
第3砲塔や第4、第5砲塔も射界に入ったのだろう、6インチ砲15門のつるべ打ちを、霧の向こうの敵に向けて撃ちまくる。
重巡も12から14秒おきに1発ずつの割合で8インチ砲を放つ。
霧の向こうで何が起きているのかは、肉眼では全く分からない。
ただ、水柱が崩れ落ちる音や、砲弾が爆発する音、そして何か不気味な悲鳴らしき音が聞こえた。
「敵1番艦、速力低下!有効弾が出た模様!あっ、2番艦が進路変えます!」
2つめの光点が、慌てふためいたように隊形から離脱しようとする。
艦船にしては、動きが妙に俊敏に思えたが、その光点もすぐに速力を落とし、やがては消えた。
艦船にしては、動きが妙に俊敏に思えたが、その光点もすぐに速力を落とし、やがては消えた。
「敵2番艦、レーダーから消えます!轟沈した模様!」
「砲撃開始から10分で早くも2番艦撃沈か。いきなりドカドカ撃たれまくればたまらんだろうな。」
「砲撃開始から10分で早くも2番艦撃沈か。いきなりドカドカ撃たれまくればたまらんだろうな。」
スコット少将は事も無げにそう呟いたが、この時、彼は何かが足りないと思った。
そのまま5分ほど砲戦を静観したあと、彼は参謀長に聞いてみた。
そのまま5分ほど砲戦を静観したあと、彼は参謀長に聞いてみた。
「参謀長、何か変じゃないか?」
「・・・・司令官も気付きましたか?」
「ああ。どうして、霧の向こうはずっとあのままなんだ?」
「・・・・司令官も気付きましたか?」
「ああ。どうして、霧の向こうはずっとあのままなんだ?」
スコット少将は、左舷側海面を見てみる。
ヘレナが斉射を撃ち込んでいる左舷側は、霧に隠れて全く見えない。
霧の向こうは、一面淡い闇に覆われている。だが、本来なら、あるべきはずのものが、起こっていない。
ヘレナが斉射を撃ち込んでいる左舷側は、霧に隠れて全く見えない。
霧の向こうは、一面淡い闇に覆われている。だが、本来なら、あるべきはずのものが、起こっていない。
「敵さん、撃ち返して来ませんな。いくら不意討ちを食らったとは言え、当てずっぽうでも砲を撃つはずですが。」
「火災炎も見えん。夜間だし、この霧だから視認はできんだろうが、それでも霧の向こうが
薄いオレンジ色に染まるとか、色々起こるはずだが・・・・・」
「火災炎も見えん。夜間だし、この霧だから視認はできんだろうが、それでも霧の向こうが
薄いオレンジ色に染まるとか、色々起こるはずだが・・・・・」
あるべき事、起こるべく事が起きない。なのに、レーダー員は興奮に浮かされた口調で、
「敵3番艦も速力低下!有効弾を与えた模様!」
と、きっちり戦果を報告して来る。
だが、艦橋職員は納得がいかなかった。
この不可解な現象に頭を抱えているうちにも、全艦が主砲を撃ちまくる。
砲撃開始30分後には、第23、第20駆逐隊が、敵艦隊に7000メートルまで接近するや、魚雷までも発射した。
発射してから4分後、2回のくぐもった轟音が辺りに鳴り響いた。
だが、艦橋職員は納得がいかなかった。
この不可解な現象に頭を抱えているうちにも、全艦が主砲を撃ちまくる。
砲撃開始30分後には、第23、第20駆逐隊が、敵艦隊に7000メートルまで接近するや、魚雷までも発射した。
発射してから4分後、2回のくぐもった轟音が辺りに鳴り響いた。
「目標、消滅しました。」
いつの間にか、レーダーに映っていた敵艦は、全て消えていた。
「敵艦隊は全滅した模様です。」
参謀長がスコットに言う。その表情は納得しがたいと言わんばかりだ。
「撃ち方やめ。」
スコット少将はそう命じた後、すぐに時計を見てみた。
時間は午前4時50分。
砲撃開始が午前3時50分あたりだから、丸々1時間ほど砲撃を続けていた事になる。
時間は午前4時50分。
砲撃開始が午前3時50分あたりだから、丸々1時間ほど砲撃を続けていた事になる。
「司令、本艦の残弾数、定数の4割です。」
「残り4割か。撃ち過ぎたな。」
「残り4割か。撃ち過ぎたな。」
スコット少将は思わず舌打ちした。
本当であれば、3、40分ほどでカタをつけるはずだったが、砲戦中は不可解な事ばかり起きたので、
何がどうなっているのか考えているうちに1時間が経過したのだ。
その結果、ヘレナの残弾は通常の4割にまで減っていた。
本当であれば、3、40分ほどでカタをつけるはずだったが、砲戦中は不可解な事ばかり起きたので、
何がどうなっているのか考えているうちに1時間が経過したのだ。
その結果、ヘレナの残弾は通常の4割にまで減っていた。
「各艦とも、残弾は5割を切っているようです。」
通信参謀がそう言いながら、砲撃に加わった艦の残弾報告が届けられる。
「まずいなこれは・・・・・・しかし。」
スコットなぜ、こうなったのか思い直してみた。
敵艦隊は輸送船団に接近しつつあり、スコット少将はそれを迎撃した。
レーダーによって捉えられた敵艦隊は、スコット部隊がいる事に気が付かなかったのか、そのまま彼らの横を通り過ぎようとした。
スコット部隊はその不意を付いてレーダー射撃を行った。ここまではいい。
問題はその後だ。
砲弾が着弾し、火災炎を吹き上げる艦。弾薬庫に被弾して火柱を吹き上げる艦、と言った物は全く無く、
彼らはレーダーから送られてくる情報を頼りに延々と、砲弾を霧に向こうに撃ち込んだ。
そして敵艦隊はレーダーから消滅。文字通り全滅した。
だが、どうもおかしい。
何かが引っ掛かる。
レーダーによって捉えられた敵艦隊は、スコット部隊がいる事に気が付かなかったのか、そのまま彼らの横を通り過ぎようとした。
スコット部隊はその不意を付いてレーダー射撃を行った。ここまではいい。
問題はその後だ。
砲弾が着弾し、火災炎を吹き上げる艦。弾薬庫に被弾して火柱を吹き上げる艦、と言った物は全く無く、
彼らはレーダーから送られてくる情報を頼りに延々と、砲弾を霧に向こうに撃ち込んだ。
そして敵艦隊はレーダーから消滅。文字通り全滅した。
だが、どうもおかしい。
何かが引っ掛かる。
まさか。
スコット少将は一瞬、馬鹿な考えが頭をよぎったが、すぐに打ち消した。
しかし、打ち消そうと思えば思うほど、その考えは浮かび上がってくる。
しばらく考え抜いた末、スコットは決断を下した。
「気象長。霧はどうなっている?」
「はっ。10分前から霧は徐々に晴れつつあります。あと2時間もすれば、夜明けと共に晴れるかと。」
「そうか。」
スコット少将は一瞬、馬鹿な考えが頭をよぎったが、すぐに打ち消した。
しかし、打ち消そうと思えば思うほど、その考えは浮かび上がってくる。
しばらく考え抜いた末、スコットは決断を下した。
「気象長。霧はどうなっている?」
「はっ。10分前から霧は徐々に晴れつつあります。あと2時間もすれば、夜明けと共に晴れるかと。」
「そうか。」
彼は頷いてから、新たなる命令を下した。
「輸送船団はこのままジェリンファに直行。我々は今より、この海域を捜索する。」
1482年9月11日 午前8時 ヴィルフレイング
南太平洋部隊司令官であるチェスター・ニミッツ中将は、通信文を目を通してから苦笑した。
「スコットも、お茶目な事をしてくれたな。」
昨日の9月10日未明、第13任務部隊は敵らしきものと遭遇し、これと1時間にわたって砲撃戦を行った。
だが、砲撃戦の最中、敵の動向に不審を抱いたスコット少将は、砲戦終了後に調査を命じた。
その結果、TF13が敵艦隊と思い込んで、砲弾を叩き込んだ相手は、あろうことかこの海域を荒らし回っていた
と見られる海洋生物であった。
この海洋生物は、僅かながらに回収された死体からして、ジェリンファ住民の話していたラエンガという化け物と判明した。
つまり、TF13はレーダーに映ったラエンガの群れを敵艦隊と誤認し、砲撃を加えたのである。
だが、砲撃戦の最中、敵の動向に不審を抱いたスコット少将は、砲戦終了後に調査を命じた。
その結果、TF13が敵艦隊と思い込んで、砲弾を叩き込んだ相手は、あろうことかこの海域を荒らし回っていた
と見られる海洋生物であった。
この海洋生物は、僅かながらに回収された死体からして、ジェリンファ住民の話していたラエンガという化け物と判明した。
つまり、TF13はレーダーに映ったラエンガの群れを敵艦隊と誤認し、砲撃を加えたのである。
「参謀長はどう思うね?」
ニミッツ中将はスプルーアンスに問いかけた。
「私が思うには、まず現場海域の天候条件がこのような結果を生んだと推測します。」
スプルーアンスはまず、結論から言った。
「TF13は、ジェリンファ沖南南西200マイル沖でこの海洋生物と遭遇していますが、現場海域には
濃い霧に覆われていたようです。夜間でも、照明弾を打ち上げれば、おぼろげながらも敵の姿は確認出来ますが、
霧に覆われているとなると、そうはいきません。それに、レーダーを導入した事が、このように砲弾を浪費させる
結果を生んだのかもしれません。レーダーは確かに優れものですが、欠点はあります。」
「それは敵味方が識別できん事。そうだな、参謀長?」
濃い霧に覆われていたようです。夜間でも、照明弾を打ち上げれば、おぼろげながらも敵の姿は確認出来ますが、
霧に覆われているとなると、そうはいきません。それに、レーダーを導入した事が、このように砲弾を浪費させる
結果を生んだのかもしれません。レーダーは確かに優れものですが、欠点はあります。」
「それは敵味方が識別できん事。そうだな、参謀長?」
ニミッツの言葉に、スプルーアンスは深く頷いた。
「そうです。このような条件が重なった末に、今回の珍事は起きてしまったのです。」
「たかが海洋生物に1時間も延々と撃ちまくっていたのか・・・・弾薬は各艦とも4割~5割、酷いもので
3割強に減っているから・・・・・撃った砲弾は軽く2000や3000は超えるな。」
「魚雷も30本以上消費しました。下手したらその数字の上に1000発上乗せ、と言う事も考えられますな。」
「たかが海洋生物に1時間も延々と撃ちまくっていたのか・・・・弾薬は各艦とも4割~5割、酷いもので
3割強に減っているから・・・・・撃った砲弾は軽く2000や3000は超えるな。」
「魚雷も30本以上消費しました。下手したらその数字の上に1000発上乗せ、と言う事も考えられますな。」
スプルーアンスの相槌にニミッツは肩を竦めた。
「考えたくもないな。国民の血税を無意味にばら撒いたも同然の結果だ。スコットにはきつく言っておかねばな。
ところで参謀長。例の件だが」
ところで参謀長。例の件だが」
ニミッツは声のトーンを下げてから、肝心の情報を聞き出そうとした。
「キンメル長官の頼みごとですな。状況は以前と同じです。」
「ふむ。以前と同じか。」
「ふむ。以前と同じか。」
ニミッツは抑揚の無い口調で呟く。
「シホールアンルがこの南大陸に侵攻した本当の理由を調べろと、キンメル長官に頼まれたのだが、
バルランド側からの収穫は相変わらず無しか。まあ仕方あるまい。」
バルランド側からの収穫は相変わらず無しか。まあ仕方あるまい。」
と、彼はそう言ってから、別の話に移って言った。
後日、スコット少将は9月10日未明の珍事の件で、ニミッツ中将から厳重注意を受けた。
その一方で、ジェリンファ沖に跳梁していた凶暴な海洋生物は10日を境に出没しなくなった。
それ以来、漁師達は安心して漁に勤しめるようになり、アメリカ海軍に感謝する事になる。
その一方で、ジェリンファ沖に跳梁していた凶暴な海洋生物は10日を境に出没しなくなった。
それ以来、漁師達は安心して漁に勤しめるようになり、アメリカ海軍に感謝する事になる。
1482年9月12日 シホールアンル帝国領ヴェリンス 午後10時
ヴェリンス共和国とミスリアル王国の境目の町、ヒルクレンクは、2ヶ月前まではヴェリンス共和国残存軍
の総司令部が置かれていた。
そのヒルクレンクも、シホールアンル側の攻勢によって陥落し、現在ではシホールアンル陸軍第7軍集団の
司令部と、駐屯地が置かれていた。
そのヒルクレンクの一角で、北大陸から来た補給部隊が物資の荷降ろしをしていた。
の総司令部が置かれていた。
そのヒルクレンクも、シホールアンル側の攻勢によって陥落し、現在ではシホールアンル陸軍第7軍集団の
司令部と、駐屯地が置かれていた。
そのヒルクレンクの一角で、北大陸から来た補給部隊が物資の荷降ろしをしていた。
「なあ御者さんよ。2日前から思っていたんだが。」
この日、1人の将校が、物資を積んできた馬車の御者に問いかけた。
「普通のモノに混じって積み込まれている、この円筒形の物体はなんだい?」
御者である軍曹は、表情を変える事無く質問に答える。
「次の作戦の鍵、とか言っとりましたよ。」
「次の作戦の鍵ぃ?」
「次の作戦の鍵ぃ?」
将校は怪訝な表情を浮かべつつも、今しがた荷降ろしした、同様の物体の上蓋を開けた。
「こんな中身が空っぽのモノで何をするんだい?俺達に剣の代わりに、これを振り回して敵を
叩きのめせ、とでも言ってるのかな?」
「詳しい事は、自分も知らんのですよ。ただ、そいつを積み込む時にいた魔道士は材料を後で入れるとか、
現地調達とかボソボソ言ってましたが。」
「見たところ、鉄製の割には軽いし、高さは余り無い。」
叩きのめせ、とでも言ってるのかな?」
「詳しい事は、自分も知らんのですよ。ただ、そいつを積み込む時にいた魔道士は材料を後で入れるとか、
現地調達とかボソボソ言ってましたが。」
「見たところ、鉄製の割には軽いし、高さは余り無い。」
将校はまじまじと円筒形の物体を見つめる。
その物体は、全体が緑色に塗られており、全高はせいぜい5、60センチぐらいである。
この円筒形の物体が、2日前から他物資に混じって前線部隊に届けられているのだ。
「中に火薬でも積めて、敵に投げ込むんじゃないんですか?ホラ、カレアントの地上戦でアメリカ軍とやらが、
自走式の化け物を持ち出したじゃないですか。」
「なるほど、戦車対策にか。だが、中身はなぜ空っぽなんだ?どう見てもおかしいが。」
その物体は、全体が緑色に塗られており、全高はせいぜい5、60センチぐらいである。
この円筒形の物体が、2日前から他物資に混じって前線部隊に届けられているのだ。
「中に火薬でも積めて、敵に投げ込むんじゃないんですか?ホラ、カレアントの地上戦でアメリカ軍とやらが、
自走式の化け物を持ち出したじゃないですか。」
「なるほど、戦車対策にか。だが、中身はなぜ空っぽなんだ?どう見てもおかしいが。」
将校は納得がいかなかったが、その後は別に気にする事も無く、部下と共に荷台から物資を降ろし続けた。
この時からシホールアンルの作戦は既に開始されていた。