自衛隊がファンタジー世界に召喚されますた@創作発表板・分家

064 第55話 飛空挺乗りの想い

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第55話 飛空挺乗りの想い

1483年(1943年)1月18日 午前8時 ヴィルフレイング

ヴィルフレイングは、今やアメリカ軍の一大根拠地として生まれ変わっていた。
アメリカ太平洋艦隊の一部がこのヴィルフレイングに進駐して早1年以上。
魔法実験が失敗し、昔はそれなりの都市であったヴィルフレイングがわずか1000人足らずの寒村に変わってから、
ここは呪われた地と言われ続けた。
その呪われた地は、今やアメリカ軍が主役となり、異様な発展を見せていた。
港には、11月に完成したばかりのABSDと呼ばれる浮きドッグを始めとする、移動サービス部隊の艦艇が一部の区画に陣取り、
別の区画には、アメリカ本土から輸送船に運ばれてきた増援部隊の兵員や物資が、慌ただしく陸揚げされている。
整備された桟橋には輸送船や、最近就役したばかりのボーグ級護衛空母が3隻ほど横付けされて、兵達が嬉しそうな顔を見せながら、
これから始まる半舷上陸の事で僚友と楽しげに話をしていた。
目を内陸に向ければ、アメリカ軍進駐前には殺風景な広場だった場所が、今や様々なアメリカ式の店がこれでもかとばかりに
立ちまくり、長い船旅で疲れた陸軍部隊、海兵隊の兵員や水兵達を癒していた。
今や、ヴィルフレイングの人口は今年1月始めの時点で7万人を超え、昔以上に活気に満ちていた。
そんなヴィルフレイングの一角にある建物、アメリカ太平洋艦隊・南太平洋部隊司令部。
参謀長のレイモンド・スプルーアンス少将は近くの官舎からこの司令部に、歩いて出勤して来た。
スプルーアンスはふと、司令部の近くにあるゲートに目を向ける。

「流石に、誰もいなくなったか。」

彼は、無表情な顔つきのわりに、少し嬉しそうな口調でそう言いながらも司令部の中に入って行った。

会議室のドアを開けると、長テーブルの真ん中に南太平洋部隊司令官である、チェスター・ニミッツ中将が座っていた。

「おはようございます、司令官。」
「おはよう参謀長。」

二人はいつも行う一通りの挨拶を済ますと、スプルーアンスがニミッツ中将の左の席に座った。
それから10分ほどの間に、司令部の幕僚が続々と入って来た。

「おはよう諸君。それでは、これから定例の作戦会議を開く。まず、今日の議題は、シホールアンル軍の今後の行動についてだ。」

ニミッツの第一声によって、会議は開かれた。

「シホールアンル陸軍は、昨年のミスリアル王国侵攻が失敗して以来、表立った動きを見せていない。それは敵の海軍にも言える
事であり、今はまだ前の戦闘で失った戦力を再建中と考えられる。そこでだが、今後の敵の動向について話し合いたい。」

ニミッツ中将が言い終えると、情報参謀のバイエル・リーゲルライン中佐が立ち上がった。

「スパイの情報によりますと、シホールアンル海軍の前線基地であるエンデルドには、巡洋艦主体の艦隊が2、3個ほど配備されて
いるようですが、戦艦や竜母といった主力艦は前線には無いようです。」
「そうすると、東海岸に配備されていた竜母や戦艦の大半は、本国でドック入りしたままという事か。」

スプルーアンスの言葉に、リーゲルライン中佐はそうですと言った。

「あるいは、既にドックに出てはいるものの、今は本国の近海で訓練を行っている可能性もあります。」
「潜水艦部隊からは何か目立った報告はなかったかね?」

ニミッツが問う。

「潜水艦部隊からは、東海岸沖で戦艦2隻を主力とする艦隊が北大陸方面に向かったと、報告がありましたが、エンデルド沖の
状況は、依然として輸送船団が往来するだけです。それ以前に、シホールアンル海軍の対潜作戦が昨年11月始めから厳しく
なっており、現状では敵艦隊の動向を把握する事は難しくなっているようです。」

南太平洋部隊は、東海岸ではガルクレルフ、西海岸ではエンデルドといった重要拠点に第18、第19任務部隊の潜水艦部隊を
投入して、敵艦隊の現状報告又は敵艦船の攻撃を命じた。
だが、11月以来、対潜能力を強化したシホールアンル海軍は、米潜水艦を封じ込めようと躍起になり、このため、敵の爆雷攻撃を
受けて撃沈されたり損傷を受ける潜水艦が相次いだ。
1月始めからは、第20任務部隊の潜水艦18隻を新たに前線に送り、ヴィルフレイング、ガルクレルフの監視に当たらせているが、
成果は思うように上がらなかった。
3個任務部隊は、1月までに駆逐艦2隻、哨戒艇3隻、輸送船7隻を撃沈した物の、新鋭のガトー級潜水艦を含む5隻の潜水艦を
現地で失い、損傷を負って引き返した6隻の潜水艦のうち、2隻は修理不能とみなされて廃棄された。

「それは問題だな。早急に対策を取らねば、今後の作戦に支障が出る。」
「敵の対潜能力の向上も問題でありますが、問題は他にもあります。」

リーゲルライン中佐がやや険しい顔つきで次の話題に移る。

「今年から、わが太平洋艦隊には新鋭正規空母のエセックス級が続々と配備されますが、新鋭艦を配備していくのは、
我が合衆国海軍のみではありません。」
「当然、敵も新顔を出してくる。そうだな?」

ニミッツの言葉に、リーゲルライン中佐は深く頷いた。

「その通りであります。現在、シホールアンル海軍には、弱体化したとはいえ、依然として正規竜母2隻、小型竜母2隻を
保有しています。太平洋艦隊が保有している正規空母6隻と比べれば、大きく見劣りしますが、それでも200騎以上の
ワイバーンを有する侮れぬ敵です。これに敵の新鋭竜母が加われば、我が太平洋艦隊にとって最も危険な物となるでしょう。」

「敵がよからぬ事を企てるのなら、その時は第3艦隊に大暴れしてもらうだろう。」

太平洋艦隊は、今年の1月から新たに第3艦隊という空母主体の新艦隊を編成している。
第3艦隊の司令官は、歴戦の勇将であるウィリアム・ハルゼー中将が就任している。
第3艦隊は、第38任務部隊、第39任務部隊に分かれており、第38任務部隊は正規空母ヨークタウン、エンタープライズ、
それに修理の終えたホーネットを主軸に、戦艦ノースカロライナ、ワシントンを主軸とする水上艦が護衛する。
第39任務部隊は、正規空母レキシントン、サラトガ、ワスプで構成されており、これらを守るのは、戦艦サウスダコタと
アラバマ以下の水上艦である。
これらの空母のうち、ワスプは3月一杯で大西洋艦隊の所属に戻る。
代わりに4月からエセックスと軽空母のインディペンデンスが配属され、この2隻の新鋭空母を主軸に第37任務部隊が編成される予定だ。

「その敵新鋭竜母というのは、例のホロウレイグと呼ばれる大型空母だな。」

スプルーアンスの一言にリーゲルラインは頷く。

「はい。性能はこれまでの竜母より段違いに優れており、搭載ワイバーン80~90騎以上と、レキシントンより上か、
エセックス級に近い物です。情報では、秋までに3隻~5隻が配備される予定であり、シホールアンル海軍の母艦勢力は
前年度よりも大きく上回るでしょう。それに、敵はインディペンデンス級と類似する小型竜母も追加で配備するでしょうから、
今年中には、正規竜母6ないし7隻、小型竜母3ないし5隻になる見込みです。」
「敵さんも、なかなかの工業力を持っているな。私としては、この竜母部隊を戦力が拡充する前に潰したいと思うのだが、
作戦参謀。何か意見はないかね?」

ニミッツ中将は、作戦参謀のポール・ルイス中佐に話を振った。

「確かに、シホールアンル機動部隊の戦力強化は避けねばならぬ事態ではあります。現在、第3艦隊には6隻の正規空母と、
搭載している艦載機は552機と、強大な数です。しかし、問題はその質と、敵機動部隊が居る位置です。」

ルイス中佐は、会議参加者全員の頭にしっかり刻み込むように、最後の部分をゆっくりと言う。

「太平洋艦隊所属の6空母には、数々の海戦を経験したベテランパイロットがまだまだ多数配備されています。
しかし、ベテランパイロットは多くが前年の12月下旬に、艦載機パイロット養成のため本土勤務に配置換えとなっており、
各空母のパイロットは、7:3か、多い所には6:4の比率で新人が埋めております。無論、艦載機パイロットですから、
それなりの錬度は持っています。ですが、実戦を経験していない者が戦場でうまく出来るかは別です。目下、各母艦航空隊で
夜間飛行を含む入念な訓練が日々行われていますが、現状としては3月までみっちり訓練させたほうがよろしいでしょう。
搭乗員は、現状では厳しいですが、時間があれば訓練次第で何とかなります。しかし」

ルイス中佐は立ち上がり、会議室の壁に張られている地図の前に移動した。

「求める敵が、自らの内懐にいると言う事。そして、地の利はシホールアンル側にある事は変えようがありません。
このまま、第3艦隊が総出で北大陸沿岸部に突っ込めば、それこそ敵の思う壺です。未確認ながら、シホールアンルは
エンデルド、カレアント以北の北大陸沿岸部は警戒を厳重にしています。沿岸部にはワイバーンの発着基地が必ずあり、
特に本土に至っては沿岸部に総計4000騎以上のワイバーンを配備しているようです。重点的に配備されているのは
西方沿岸部で、アリューシャン列島からの侵攻を警戒しているようです。ですが、東海岸部にも相当数のワイバーンが
配備されており、総計は1000騎とも1500騎以上とも言われています。」
「東海岸には重要な軍港都市などもいくつか点在しているからな。敵さんもやはり、高速機動部隊の脅威に怯えているのだろう。」

スプルーアンスが相槌を打った。

「はい。そのためには、敵機動部隊が出撃せざるを得ない状況を作り出す事が効果的かもしれません。」
「状況を作り出すか。レイ、君はどう思うかね?」

ニミッツはスプルーアンスに聞いてみた。

「確かに、敵機動部隊が防御の厚い内懐にいる以上、引っ張り出すような状況を作る事は望ましいでしょう。ですが、正直言って
敵機動部隊が出てくる事はあり得ないでしょう。」
「出て来ない、だと?どうして分かる?」
「それは、敵将の性格。それに、戦力比です。機動部隊を率いるリリスティ・モルクンレル中将は大胆な行動を取る事で有名です。
過去の海戦でも、彼女は我々をあっと驚かすような戦いを見せています。一見無謀にも思える戦法を取っていますが、いずれも、
勝利を見込んで行った事であり、過去の戦いでは、航空機はともかく、母艦戦力では常に我々が劣勢を強いられていました。
それ故、敵将モルクンレルは、一定の戦力が無ければ先の海戦のような奇策を使う事も、また正面から堂々と戦う事は無いでしょう。
そして現在、先の大海戦で正規竜母を4隻も失った敵は、大小合わせて4隻の竜母を持つのみ。対して我々は正規空母6隻。
航空部隊で比較しても214対556と、半分にも満たない数です。これでは、敵に戦いを挑んでもみすみす竜母4隻撃沈の戦果を
くれてやるようなものです。従って、敵将はこう思うでしょう。「戦力が溜まるまでは打って出れぬ」と」
「考えてみれば、確かにそうだな。」

ニミッツは深く頷いた。

「我々が機動部隊を大事に思っているのと同時に、敵も大事に思っている。その大事な決戦兵力を、無為に失う事をする筈がない。
よく考えれば、君の言うとおりだな。不本意だが、敵機動部隊が引っ込んでいる間はこっちも打って出る事はできまい。」
「小官も、司令官の考えに賛成です。」

スプルーアンスが言った。

「むしろ、敵の機動部隊が戦力を回復中の今こそ、我々が自由に動ける時です。今後、我々は敵の少し後方を叩き、シホールアンル側
の補給線少しでも削いでおくべきでしょう。ループレングに陣取る敵地上軍はおよそ70万。その70万に食わせるだけでも相当な
苦労でしょう。敵艦隊を叩く必要はありません。叩くのは、敵の補給線です。」
「兵糧攻め、と言う訳か。」
「そうです。参加兵力は、潜水艦部隊を中心に行わせますが、機動部隊を使わぬ事も無いでしょう。」
「機動部隊を使うか。だが、どこにだね?ループレングやその少し後方は、第3航空軍が爆撃を加えておる。」
「我々が狙うのは、そのもっと後方です。」

スプルーアンスは席を立ち、作戦参謀から指揮棒を借りると、壁に掲げられている地図のある地点を叩いた。

「カレアント、もしくはエンデルドを機動部隊の艦載機で攻撃するのです。ただし、本格的に攻撃する事は限定します。
そうですな・・・・・・1週間、又は2週間に1度、3週間に1度でも構いません。とにかく、不定期に空襲を加えて、
敵の輸送船なり、港湾施設なりを破壊するのです。無論、攻撃はその都度、一度のみに留めて現場海域から逃げるのです。
この方法は、新鋭のエセックス級やインディペンデンス級の数が揃い始めた後、より大々的に行います。」
「ヒットエンドランか。カレアント、エンデルドは補給の要衝だ。致命的な一撃は繰り出さないが、小さい打撃は、積み重なれば
大なるものとなる。名案だな。」
「この作戦は、シホールアンル側の海軍が、大規模な作戦行動が出来ないからこそ出来る事です。この方法で敵の補給能力を
少しでも削れば、9月に行われる反攻で、我が方は戦いをより有利に進められるでしょう。」
「よろしい。レイ、君の案を取ろう。」

ニミッツ中将は、スプルーアンスの提案を受ける事にした。
会議は、他の敵新鋭艦の有無についてや、敵のスパイ対策などに移っていった。


1483年(1943年)1月20日 午前6時 シホールアンル帝国アルジア・マユ
アルジア・マユは、首都から北西70ゼルド離れた所にある寂れた町である。
昔は交通の要衝として栄えていたが、今ではやって来る旅人も少なくなり、町はそこそこの活気はあれど、全盛期より比べると
どこか寂れた感があった。
冬も盛りを迎えた1月20日、午前6時。アルジア・マユの町はずれにある軍の基地。
ワイバーン基地にしては珍しい長い滑走路のある基地で、とある計画が着々と進めていた。
飛空挺開発部の技術主任であるカイベル・ハドは、まだ瞼の重い両目をこすりながら、格納庫の中に入った。

「おはようございます、主任。」

彼が入るなり、早速声がかかった。ハドは微笑みながら声をかけた相手に返事した。

「やあ、おはよう。今日も元気そうだね。」


「そういう隊長、いや、主任こそ元気そうですぞ。」
「隊長でも構わんよ。」

ハドは苦笑しながら、格納庫の内部を見回した。

「今は君と、私の2人しかいないんだ。昔のよしみだ。」

そう言って、ハドは屈強な体つきの男を椅子に座らせた。
屈強な体つきを持つ男。飛空挺のテストパイロットであるレガルギ・ジャルビ少佐はハドの用意した椅子に座る。
ハドも椅子に座るなり、目の前の飛空挺を感慨深げに眺めた。
目の前の飛空挺は、これまでの飛空挺技術の粋をこらして作られた新型機であった。
空力学的に考慮された流線型の機体は、ワイバーンとは明らかに違う物だと思わせる。
すらりと伸びた主翼に、騎士の掲げる長剣のように突き立った尾翼。
全周を見張れるように工夫された操縦席の風防ガラス。
主翼の前縁には、2つずつ、計4つの穴が開いており、武装時にはここに魔道銃が装備される予定だ。
魔法石を内蔵したやや太い機首に、大きな3枚のプロペラは、ワイバーンには無い力強さを感じさせる。
全体的には、アメリカ軍の持つウォーホークを連想させる形だが、この機体は、ウォーホークよりやや大型で、俊敏で、逞しそうな感がある。

「隊長、あと少しで、理想の飛空挺が空を飛びますね。」
「そうだなぁ。あの悪夢の日以来、縮小され、細々と研究、開発を続けられた“人工の鳥”。それが、もうすぐで大空に飛ぶ。
これで、ワイバーン支持派に目に物を見せてやれるよ。」

ハドはそう言いながら、目の前の飛空挺を見つめ続けていた。

シホールアンルに、飛空挺が登場したのは、今から30年以上前の1450年。
当時、ワイバーン支持派が幅を利かせていたころ、トルリッド・リンベクという魔道士によって、魔法動力で飛行する飛空挺が
開発され、軍民双方から注目の的を集めた。
最初は1ゼルドしか飛行能力が無かった飛空挺は、時が経つにつれて次第に進化を遂げていった。

そして1475年2月には、飛空挺もワイバーン部隊に次ぐ航空部隊として予備部隊扱いではあるが、この世に姿を現した。
当時、配備された飛空挺は、これまでの飛空挺より先鋭的な単翼式の機体で、搭乗員は2名乗ることが出来る。
武装は爆弾を200リギルまで搭載出来、これは当時の攻撃ワイバーンに匹敵した。
機体は木製式であるが、構造自体は頑丈に出来ており、開発者達は金属製にも負けないと太鼓判を押したほどだ。
操縦の仕方は、今、アメリカが使用する航空機とほとんど似たような物である。
ただ違う点があれば、魔法石が燃料兼、発動機の役割を果たしていたことだ。
ワイバーン推進派は、外見では飛空挺派を嫌ってはいたものの、細々とながら、開発を続けてきた飛空挺派の不屈の精神には
一目置いており、最終的にはワイバーン推進派も飛空挺の前線配備を許可した。
配備された飛空挺の数は、実戦用のみで実に300機にも及んだ。
(訓練用の飛空挺は180騎ある。)
普通の国なら、このような飛空挺を作る事は愚か、大量生産など夢のまた夢である。
だが、シホールアンルにはそれを実行に移せるほどの力があった。
北大陸、南大陸の中で先進的な国家として栄えたシホールアンルは、長年繰り返されて来た各国との紛争で武器や必要部品の
大量生産が必要と理解し、まず大量生産のノウハウを自力で会得した。
飛空挺の試験飛行が成功した時は、既にシホールアンルは、野砲等の必要武器や部品を大量生産出来る体制を整えていたのだ。
飛空挺の量産に入った当初は、深刻なトラブルも出てきたものの、シホールアンル側は見事に克服して、飛空挺の大増産という
偉業を成し遂げた。
造られたのは、前線に出す飛空挺のみならず、練習用の飛空挺も合わせて造られた。
練習生は、竜騎士の道から運つたなく落第した者や、志願兵が集められ、飛空挺の練習が開始された1475年12月には、
実に2000名もの若者が募集に応じていた。
これらの中から選考し、飛空挺搭乗員になった兵は800名に及び、その800名は練習飛空挺でみっちり訓練を仕込まれた後、
ようやく前線用の飛空挺に乗せられた。
そして、1479年6月。当時、北大陸で第5位の強国であったデイレア王国侵攻作戦に姿を現した飛空挺部隊は、緒戦で敵の
野戦軍を撃破するという大戦果を得、飛空挺部隊の勇名を世に轟かせた。
しかし、飛空挺部隊の栄光も長くは続かなかった。

8月15日に起きた地上部隊の支援作戦で、ワイバーンの護衛の下に敵地爆撃に向かっていた36機の飛空挺は、
突如デイレア軍のワイバーン100騎以上に襲撃された。
護衛のワイバーン30騎は、劣勢にもかかわらず、敵ワイバーンを次々に落とした物の、余った分は容赦なく
飛空挺に襲い掛かった。
当時、勇名を馳せた攻撃飛空挺は、実は速力が160レリンク(320キロ)しか出せなかった。
当時のワイバーンはいずれも220レリンク(440キロ)オーバーであるのに対し、飛空挺のその速度は
余りにも遅すぎた。
そして、何より致命的なのは、自衛用の武器を積んでいない事だった。
今現在は、ふんだんに使用される魔道銃も、この当時はまだ開発途上であり、飛空挺はほぼ無武装で出撃を繰り返していた。
おまけに、この時は爆弾を積んでいたため、動きが鈍かった。
無理な進撃を命じた指揮官によって、悲劇は瞬く間に拡大して言った。
1ゼルド進むたびに、飛空挺部隊は小隊ごとに片っ端から攻撃され、逃げようにもあっという間に追いつかれ
て、射的のごとくあっけなく撃墜された。
護衛のワイバーン隊が20騎に打ち減らされながらも、辛うじて相手を撃退した時には、36機の飛空挺は
1機残らず叩き落されていた。
後に、リク・ルンバイの射的場と呼ばれた不名誉な一戦は、シホールアンル上層部に少なからぬ打撃を与えた。
この日から、飛空挺の被害は続出し、飛空挺隊が前線任務から強制的に外された10月初旬までに、実に184機の
飛空挺が失われ、搭乗員戦死は320人を数えた。
僅か4ヶ月足らずの活躍で、表舞台から引き摺り下ろされた飛空挺部隊は、規模を3個中隊(攻撃飛空挺42機)
にまで引き下げられ、一時はこれぞ好機とばかりに、飛空挺の無用を主張するワイバーン派によって、飛空挺部隊
そのものが無くなろうとしていた。
だが、開発責任者の必死の願いが皇帝オールフェスの心を動かし、1480年12月、飛空挺部隊は再建される事になった。
狂喜した技術陣は、これまでの経験や、謹慎中に得た新技術、前の飛空挺で得た戦訓を元に、新しい飛空挺を造り始めた。



・・・・速度が足りない。
それならば、もっと早く。



・・・・運動性能が鈍すぎる。
それならば、もっと動きやすく。



・・・・機体の防御が脆い。
それならば、もっと硬く。



・・・・機体に合う武器がほしい。
なら、強力な魔道銃を付ければいい。



・・・・もっと高く飛びたい。
なら・・・・・とことんまで高く飛ばせるようにしよう。

血の滲む努力の末、シホールアンルが生み出した、新世代の飛空挺は、多くの下積みや教訓を糧にして、ようやく形になった。
試作飛空挺、ケルフェラク。
北大陸に昔から伝わる神話に必ず出て来る、聖なる火の鳥の名を冠したこの飛空挺が、飛空挺乗り達の理想とした物だ。

「確かに、ワイバーンは素晴らしい。あの魅力的な戦闘機動は飛空挺に真似できない。だが、飛空挺は生き物の
ワイバーンと違って、常にえさを与え続けたりする必要もないし、一から飼育する必要も無い。飛空挺は、
作られたすぐ後に、戦いに望める。ワイバーンが幼体を経て、成体になる1年の間、飛空挺は何百機と作れる。」
「隊長の言う通りです。練習飛空挺で訓練に励んでいる奴らのためにも、飛行試験は失敗できませんな。」
「俺のためにもな。」

ハドはそう言いながら、長袖の右腕部分を撫でた。
服の中にあるはずの右腕は、無かった。
1479年9月20日、帰還中にワイバーンに襲撃された際、右腕を吹き飛ばされたのだ。
彼は元々、シホールアンル陸軍の少佐であり、昔は16機からなる飛空挺中隊を率いていた。
その日、後ろの見張り員席に座っていたハドは、突然のワイバーンの攻撃によって負傷した。
迫り来る激痛。揺らぐ意識。
だが、彼の機の操縦員であった、当時中尉のジャルビの励ましによって基地に帰るまでなんとか気を失わずに済んだ。
その後、右腕を無くした彼は、2ヶ月ほどは廃人同様の状態だった。
だが、使える飛空挺を造りたいと思う心が、彼を立ち直らせた。
立ち直った彼は、飛空挺開発の研究チームに入り、日夜、新しい飛空挺を作るために自らの得た経験を技術者達に教え続けた。

「この通り、俺は飛空挺に乗れない体だ。俺の分まで、こいつで空を飛び回ってくれ。」
「勿論ですよ、隊長。まずは、こいつの性能をワイバーン支持派の連中にとくと拝見させてやります。」

ジャルビ少佐は、自信に満ちた表情でハドに答えた。
現在、この飛空挺が量産された後に、少しの訓練期間で前線に配備できるように、搭乗員の練成はまだ手付かずに残されていた
78機の練習飛空挺を使って行われている。
練成は81年3月から始まっており、それ以来、僅かな休みを除いて練習は繰り返されていた。
このため、飛空挺部隊の募集には、常に定員オーバーが発生し、飛空挺部隊は練習生が2000名に増え、そのうち700名は
1000~800時間の飛行時間を終えており、残りの大半も、平均400時間の飛行を経験している。

「こいつの飛ぶ姿を見といてくれよ。」

ジャルビ少佐はそう呟きながら、3年前の夏の日、空に散って行った仲間達の顔を1人1人、頭の中に思い描いていった。
後に、白銀殺しとも言われるジャルビ少佐が、この飛空挺の試験飛行を行うのは、2月2日である。
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