● ●
諏訪子さんに、FFさん。そして、悪い仙人に、恐いトカゲ人間。
4人とも湖に沈み、そこで一旦小傘の右脚から拡がってきていたウロコが消え、
同時に消えてなくなりかけていた小傘の意思も帰ってきた。
だがすぐに、再び右膝のウロコが復活を始めた。
小傘が頭を動かすと、いったい何があったのか、小傘の頭のちょうど後ろから
数十メートルにかけての地面がごっそりと崩れ落ちて、湖へと変わっていた。
つまりそういう事で、小傘がトカゲ人間になりかけて気絶した後に、
地形が変わるほどの凄い戦いがあって――諏訪子さんとFFさんは敗けてしまったのだ、恐らく。
ウロコが既に膝を覆い尽くしている。
このままトカゲになってしまうのが良いのかもしれない、と小傘は思う。
元の道具だった頃に戻るだけからだ。
心を捨てれば、もう戦って怖い思いをせずに済む。
完全に壊れるまで、使い潰されるだけのこと。
ああ、『ダサい傘』と呼ばれ、誰にも見向きされなかった頃には
到底叶えることのできなかった、宿願だ。
代わりにジョルノとトリッシュ達を裏切る事になってしまう。
だが、道具である以上、良いも悪いも使い手次第だから。それは仕方の無いこと。
そう、仕方がないと諦めるのが、道具なのだ。
仕方ないが、ジョルノたちを、裏切ってしまう。
――本当は、裏切りたくない。
『誰が』、ジョルノたちを裏切りたくないのか。
他でもない、『
多々良小傘』がそう願っている。
あの男の『道具』になる前の数秒か数十秒の間、
『多々良小傘』が、裏切りたくないと願っている。
――願っているだけ、なのだ。
願っているだけでは、残り僅かな時間の間にその願いは雲散霧消し、
『道具』となった後には、ジョルノたちを裏切ったという『結果』だけが残る。
――自分の力など、ジョルノ達にくらべればちっぽけなもの。
ここで自分が裏切りたくないと願い続け、だが何もできずに『道具』となり、
結果として彼らを裏切ってしまった所で、
ジョルノはトカゲ男をやっつけて、自分を見事助けてくれるに違いない。
――自分があのトカゲ男たちに刃向かい、傷つけられることは恐ろしい。
だが、それ以上に自分という小さな存在が何かを傷つけることは、もっと恐ろしい。
誰かを傷つけるために、自分の心に敵意を抱くことが、最も恐ろしい。
多々良小傘は、自分の心の中の敵意を無条件の悪として、固く封じ込めて生きてきたからだ。
――ほんの半日前までは、それで良かった。
多々良小傘は幸運にも、今まで概ね善人に囲まれて生きてきた。
自分を無視したり、妖怪として退治はしてきても、
本気で自分の事を殺そうとしたり、辱めようとする者はいなかった。
――だがここでは違う。
頭では分かってはいたが、この世にはどうしようもない悪意を持った人がたくさんいて、
今まで出会わずに済んできたそんな連中が、ここでは露骨に牙を剥いて襲い掛かってくる。
だとすれば、戦わなければならない。
――ここで恐れて立ち上がることができなければ、自分には、ジョルノ達を裏切ったという結果だけが残る。
なぜなら、今このわずかな時間だけ、私には『選択』する時間が残されてしまっているからだ。
ジョルノ達を裏切らないための手を打つための時間が。
――『選択』が自分にまだ残されている以上、『選択』はしなければならない、いや、否応なく迫られるのだ。
『選択』せず、時間切れを待つことは裏切りと同じだ。
たった数秒の迷いで選ぶことができなかったとしても、
たった数秒の迷いだからきっと優しいジョルノ達は自分を責めはしない。
――だから究極的にそれは、選択できることに気づいてしまった自分の問題でしかない。
今この瞬間に『選択』をするのは、自分のためでしかない。
自分のための――そう、『ジョルノたちが信じる多々良小傘』のための。
『前向きで眩しい想い』を持つと言ってくれた、『トリッシュ達の信じる多々良小傘』のための選択を。
――『誰かの信じる自分』の為に生きる。
それは、道具から生まれたまつろわぬ存在である妖怪が、新たな段階へと進化するために必要なこと。
そして多々良小傘が多々良小傘となってから抱いてきた、夢。
そう、この多々良小傘には、『夢』がある――!
――結論は既に出ている。為すべきことは最初からはっきりしていたのだ。
――――――さ――――
数秒に渡る逡巡の後、ようやく決心を固めた多々良小傘を呼ぶ声が聞こえてきた。
――――こがさ――――
左隣、ごく近く。女のヒトの声。
――多々良、小傘――!
(だれ!? もう私は止まらない……呼び止めないで!)
小傘の拒絶を、その女のヒトは微笑むように返した。
(ふふふ、背中を押してあげる必要はなかったようね)
(待って、すぐ近くから聞こえてくるってことは……)
(そう。私はDIOに穢され、ディエゴのスタンドに心を縛られた、哀れな少女。
ディエゴの生命力が一時的に弱まったのか、ほんの僅かな時間だけ、貴女に語りかけることができている)
(……今のうちにどうにかできないの?)
(この短い時間じゃ、残念ながら不可能。
私はどこを傷つけられたのかも判らずに『恐竜化』させられたから、
貴女が今からやろうとしているような『荒療治』も意味がないわ)
(じゃあ、もうすぐにあなたは……)
(残念ながら私はもうすぐに、再びディエゴの忠実なしもべとなる。
ディエゴの忠実なしもべが、この場で取れる選択は二つ。
『敵の生き残りである貴女を噛み殺す』
『離れてしまった主人[ディエゴ]と合流する』
……ここでは、幸運にも、まだ後者を選択することができる。
この場で最後に残された希望である貴女を殺す訳にはいかない)
(私はただ、自分を信じてくれる人のために戦うだけ。
私みたいな木っ端妖怪が……貴女の希望なの?)
(そう無闇に自分を卑下するものではないわ、多々良小傘。
私は、貴女のような存在を待っていた……答えを見つけた者を)
(……答え?)
(……そう。まつろわぬ存在である妖怪が、この浮世を生き残ってゆく方法。
貴女はそのいくつかある答えのうちの、一つを手にした。
幻想郷は、時代と共に消え去ってゆくはずの妖怪たちに
その答えを探すための猶予を与えるための場所……でも、あるのよ)
(…………)
(幻想郷の子、多々良小傘よ。
どうか、幻想郷を守るため、ディエゴと青娥を止めて欲しい。
……結界の管理者である、
博麗霊夢を、どうか救って欲しい)
(……一つ、条件をつけていいですか)
(今の私にできることなら、何なりと)
(……霊夢が、鍛冶の営業に来た私の顔を見るなり襲いかかるのを、止めさせてくれませんか?
この戦いが終わった後で良いので)
(……善処しますわ)
◯ ◯
「善処しかできないのぉ……って痛ぁ!?」
そこで、仰向けに倒れていた多々良小傘は目を醒ます。
というより、右太腿の付け根に食い込んだ凄まじい痛みで、叩き起こされた。
見れば、透き通った三角の刃が、右腿に深々と食い込んでいる。右足から登ってくるウロコを遮るように。
水のように冷たい刃が突き刺さってくるのが、止まらない。いや、止められない。
だけど、構わない。これであのウロコの侵食が止められるのなら、敢えて止めない。
そうだ、この刃は、自分の意思。多々良小傘の意思が生み出した刃だと、気付いた。
ゴキゴキゴキゴキ
ゴキゴキゴキゴキッ
「フーッ、フーッ……」
鋭い刃が、骨にも容赦なくめり込む。痛い、というより、寒い。
余りの痛みに、全身を悪寒が走る。構うこと無く、ノコギリの様に骨をえぐってゆく刃の運びを加速させる。
だが、ウロコの侵食を止められるなら、
多々良小傘から『多々良小傘』を奪わせないためなら、足の一本など、安いもの。
バキッ ザクッ
ブチッ!!
「あっ、ぐ……」
遂に右脚が胴体を離れる。憎きウロコは傷口を超えては登って来られず、諦めたように右脚から消え失せる。
足の付け根の切り口からは、不思議と血が出てこない。
痛みも引いている。ひんやりとしたものが傷口に残っているのを感じる。
透明な刃が、そのまま水のかさぶたへと姿を変え、傷口を守ってくれているのだ。
これでもう多々良小傘を縛るモノは存在しない。
これで、あの二人を、いや三人を止めにいく事ができる。
そう、止めなければならない、ジョルノを、トリッシュを、ついでに霊夢を守らなければならない。
多々良小傘の望みを叶えるには、彼らが必要だから。
そう、私には、この多々良小傘には――『夢』があるのだから。
◯ ◯
邪仙が小傘の存在を認め、喜色と安堵の込められた言葉を発した。
曰く、
「なんだ、『ある』じゃない……DISC」
と。
青娥が再び黄土色のボディスーツを身にまとい、ディエゴは再びディノニクスへと姿を変え、
声の主だった者の変わり果てた姿と共に小傘へと迫る。
小傘は彼女らに『止まれ』と、呼びかけようとした。
先ほどまでの雨音が嘘のように静まり返った中で。
だが、すぐにそれが無駄であることを察した。
彼女らの目は、小傘を視ていない。
小傘の頭に挿さっている円盤か、あるいは小傘の先で逃げる霊夢達しか視ていない。
長年、誰からも顧みられない忘れ傘だった小傘がずっと向けられてきた視線だった。
嫌でも、わかってしまう。
小傘のことなど、道端の石ころ程度にしか認識されていないのだ。
命を掛けて三人を止めようとする小傘に対して。
その現実が、とても悔しくて、悲しい。
道端の邪魔な石ころに向けるのと同じような視線で、三人が小傘に接近する。
意を決し、小傘はもう一度、声を発しようと息を吸い込む。
雨音は無い。静かだし、今度こそ聞いてもらえるかも。
その言葉を耳に入れてもらえる可能性が万に一つとしても、しないではいられない。
それは、身も心も恐竜に変えられたあのヒトを傷つけないため。
そして、小傘なりの、『最後通告』。
聞き入れられなければ、今度こそ、青娥たちは敵だ。
「危なーーーいっっ!!!」
多々良小傘は目一杯に叫んだ。
しかし恐竜たちと邪仙の勢いはいささかも緩まず、小傘の『最後通告』はにべもなく無視された。
「GUOHHHHHH!?」
ディエゴたちが何かにぶつかったかのように急停止したのは、その次の瞬間のこと。
彼らの全身各所から、幾つもの小さな血しぶきが上がった。
「あら……!?」
青娥が立ち止まり、ディエゴの方を見やる。
身体の前面、至る所に小さな穴が空き、一歩も動けないでいるディエゴと
八雲紫。
さながら視えない鉄条網に激突し、そのまま立ち往生しているかのようである。
青娥は辺りを見回し、小傘の周囲に浮かぶ、無数のキラキラ光る物体に気付いた。
「ははーん……コレはそのDISCのスタンド能力のせいね?」
「『キャッチ・ザ・レインボー』。この力……スタンド能力は、
『雨粒を空中に固める』ことができるの」
青娥の問いに、小傘は律儀に答える。
「青娥、さん。この能力は危険だから……これ以上進まないで。
あのディエゴってヒトたちみたいにケガをしたくなかったら」
すると青娥は、薄い笑みを浮かべ――何事も無かったという風に、再び突撃を敢行しだした。
青娥の身体に突き刺さるはずの雨滴は――
彼女のボディスーツ、『オアシス』のスタンド像に触れた瞬間に溶解し、ただの水に戻ってしまっている。
『周囲の物体を溶かす能力』だ。
青娥に『キャッチ・ザ・レインボー』は全く通用しないのだ。
さらに動けずにいるディエゴは、あろうことか八雲紫の身体を盾に無理矢理前進を始めた。
その上ディエゴの足元からは何匹もの小さな翼竜が飛び出した。
やはり彼女たちは――敵なのだ。
私が私であろうとする限り、彼女らはこちらに牙を剥く。
どうしようもないほどに、対話の余地が存在しないのだ。
身の証を立てるために、相手を傷つけ、打ち倒さなければならないことがある。
今になって、ようやく小傘が認めることができた、これが現実。
小傘が、側頭部に出現していたマスクを正面にかぶり直した。
白を基調にしたマスクは、口元に何本かの縦のスリットが開いている。
顔を大きく横切る鮮やかな虹のペイントと合わせて、
それは虹の架かった空から降り注ぐ雨を想起させる意匠にも見えた。
小傘は左脚だけで跳躍し、空中で静止する雨滴に飛び乗った。
もともと唐傘お化けは一本の足しかなかったのだ。動くのに問題はない。
ぴょんぴょんと何段も飛び移り、青娥たちを見下ろせる高さまで登ると、傘を担ぐ手に力を込める。
そして開いたままの傘をぐるりと頭上で振り回し、宣言する。
「驚雨……ゲリラッッ!! 台風[タイフーーーーーーーーーン]!!」
小傘の叫びに応じ、台風のような激しい風雨がゲリラのように急襲する。
吹き荒ぶ風、叩きつける雨、墜落する翼竜。
まるで開戦時、
洩矢諏訪子のスペルカードの焼き直し。
青娥は一瞬目を丸くするも、地中に潜り難なくやりすごす。
一方ディエゴと紫は動けない中で、風雨の直撃をマトモに受ける。
身体にぶつかった雨滴がそのまま静止し、全身を透明の膜に覆われ、指一本も動かせなくなった。
それは鋼より硬く、巌より重い、雨粒の拘束衣。
これでディエゴは無力化した。八雲紫も、これ以上傷つく心配はない。
あとは、青娥だけ。
地中から上半身だけをのぞかせた青娥が、手を広げ弾幕を放つ。
が、全弾を無数に浮遊する雨滴に阻まれ、上空の小傘まで届かない。
それは小傘も同じこと。
小傘自身は雨滴の中を自由に動けても、小傘の放った弾幕は雨滴に阻まれてほとんど飛ばないだろう。
お互いに、攻め手を失ったかに思われる状況。
「………………」
「………………」
小傘は上空から仮面越しに青娥の様子を伺う。
地上から、青娥が笑みを浮かべて小傘を見上げる。
にらみ合ったまま過ぎた時間はたった数秒のことだろう。
その数秒の間に、小傘は必死で思考する。
青娥の次の行動を。
霊夢たちの追跡を敢行するのか。それとも後退するのか。
後退に見せかけ、別のルートから回り込むのか。
いずれかの行動をとるにして、ディエゴたちはどうするのか。
固められたまま放置するのか。
ディエゴたちをあのスタンドの力で救助し、三人で行動するのか。
あるいは、別行動をとるのか。
青娥の微笑みが、ひどく不気味に感じられる。
ヒトの笑顔が大好きな小傘だが、アレは見たくない。
あんな余裕を見せつけられては、どう頑張ったってギャフンと言わせられそうにない。
「あなたのような雑物に、DIO様のお手を煩わせる訳にはいかないわね。
……私自身の手だって煩わせたくないのだけど」
すると青娥はおもむろに地上に立ち上がると、ゆっくりと身を屈めた。
片手と片膝を付くその構えは、短距離走のスタート、あるいは相撲の立会いか。
さらに青娥の地面の周囲が不自然に円く凹み、ゴム膜の様に張り詰めている。
確かアレは話に聞く外界の遊具――トランポリンだったか。
モノを溶かすスタンドは、扱い次第で弾力を与えることもできるらしい。
小傘には知るべくもないが、先ほど青娥が諏訪子に先んじて浮上できたのも、この方法を使ったからだ。
小傘は直感する。――来る。青娥は上空まで跳んで来る気だ。
青娥の届かない高度まで上昇する――そのまま青娥に逃げられたら?
そもそも上空まで逃げる時間がない。
回避か、あるいは、迎撃か。
いや、ここは、当って――砕く。
小傘は傘を閉じ、正面でゆっくりと大きな円を描きだした。
円月の軌跡を一回転すると、傘は透き通った刀身を持つ一振りの日本刀へと姿を変えていた。
傘の周りに雨滴を付着させて造り出した、即席の武器。
切れ味は本物にも劣らないだろうが、『物体を溶かすスタンド』を全身にまとった青娥との相性は最悪。
恐らく、ダメージは望めない。が、それは小傘の期待するところではない。
その目的は、重量の増加によるスイングの強化と、全力で振り回される傘の補強。
青娥の頭に、DISCを叩き出す衝撃さえ与えられればいい。
スタンドさえ奪えば、あとはディエゴたちと同じように、雨滴で完全に封殺できる。
小傘は生成した日本刀を両手で握り締め、青娥に左肩を向けて構えた。
どんなに速いアタマだろうと、打ち返してみせる。
一本足の青いフラミンゴが、右のバッターボックスに立つ。
青娥の手が地面から離れる。
凹んだ地面が青娥を押し上げる。
解放される、全身と大地の撥条[バネ]。
次の瞬間には――眼前に、青娥。
速い――。
が、打てない速さではない――。
渾身を以た小傘のスイング。
青娥の脳天を目掛ける。
タイミング――ジャストミート。
『刀』が青娥の額に触れる――。
叩け、青娥の脳天――。
叩きだせ、DISC。
ヒュンッ
ヒュンッ
耳をかすめる、風切り音、二つ。
振り抜いた小傘、手応えなし。
DISCの影がない、確かに叩き出したはず。
刀がいやに軽い――無残に折られた傘。
飛び去ってゆく右手首と耳たぶ、右手に走る激痛。
小傘の想像を超えていた、尸解仙+スタンドの身体能力。
無謀な賭けと後悔、必死に振り払う。
跳躍の軌道はほぼ真上、降下時にまた交錯する。
悔やむ時間などない。
青娥は――小傘、天を仰ぎ見る。
灰色の空に映る邪仙の影、たっぷり20メートルも上空に。
青娥の落下軌道を予測――その時。
突如裂ける雨雲、目を刺す日光。
ほんの一瞬――青娥を見失う。
ほんの一瞬だった――落下軌道は――。
――落下予測位置は、小傘の1メートル背後。
お互い、手足は届かない距離。
だが――弾幕は有効射程内、雨粒の障壁があろうと、この距離なら。
スペルカード発動の準備、折れた傘を握り直す。
虹符――
青娥と最接近するタイミングで、
振り向きざまにスペルカードを――
――小傘の鼻先を、光の球が落ちてくるのが見えた――
――雨滴を通り抜けて、人魂のように白く輝く光の球が――
『アンブレラ』
青娥が目前を通過する、何かを両手で捧げ持っている。
それは銀色に鈍く光る――鉄砲。
真っ黒い銃口が小傘をピタリと見つめる。
バ ッ ッ ゴ ォ ォー ー ン ! !
ギャァーーーン!!
銃声、ではない、爆発音。
音だけで雷に撃たれた様。
だが弾は届かない。小傘の生み出した雨滴が逸らした。
その時――
バスッ!!
不意を討って、小傘の下腹部が破られる。
喉から飛び出しそうになる悲鳴を、噛み砕く。
『サイク』
バ ッ ッ ゴ ォ ォー ー ン ! !
ド ス ン!!
『――ロンッ!!』
二発目。
今度こそ、雷が小傘を撃つ。
小傘の左脇腹が赤黒い飛沫へと変わった。
青娥は――木立に向かって飛ばされている。
小傘が不完全ながらも発動した『アンブレラサイクロン』の突風と、銃の反動で飛ばされたのだ。
――森の茂みの中に落ちた。だが恐らく、大した傷は与えられていない。
一方の小傘。雨粒を集め、傷の手当をしようと、首をうつむける。
「……何とか、致命傷で済んだわ……」
上出来だ、即死だけは免れた。喉から鉄臭いモノが湧き上がってきた。
右脚を切り落とし、右の手首と耳たぶを斬り飛ばされ、下腹部に妖術か何かの光弾を受け、左脇腹を鉄砲で撃たれた。
即死だけは免れたが、もう助からない。小傘は直感する。
今はこうして雨粒で傷口を塞いで凌いでいるが、スタンド能力が切れるか、
雨が止むかすれば、傷口から一斉に血が吹き出し、たちまち失血死してしまう。
傷を治す能力――自動車で必死に逃げ続けているジョルノに追いつける可能性は、限りなく低い。
ツキがなかった、といえば、それまでなのだろう。
アレを、小傘の上空、日光で目がくらんだ瞬間に青娥が放ったのだ。
小傘の腹部を襲った光弾には、憶えがある。
あれは話に聞くスペルカード、『養子鬼[ヤンシャオグイ]』。
巫女たちの有り難い封印でも、魔法使いの自慢の魔砲でも、
幽霊十匹分の殺傷力を持つ刀でもかき消せなかったという呪いの篭った光弾。
あの術なら、雨滴のバリアを突破できる。
――放った瞬間さえ見えていれば、別の対処ができたはず。
――ツキがなかった。これで、おしまい。
私の命も、夢も、何もかも――。
それでも、私は、最期の瞬間まで――。
● ●
多々良小傘は、いつか語ったことがある。
『傘として使ってもらえないなら、自分から役に立つ道具になりたいの。
私は人を驚かすことぐらいしかできないけど……。
人間が何を欲しているか予想して、道具の方から人間に合わしていきたいの。
それが新しい付喪神の姿だと思っているわ』
彼女の生まれは傘という道具である。
流行りの色でないという理由から、傘としての役割を全うする機会さえ与えられず、
朽ちていくだけの存在であるはずだった。
しかし、彼女は忘却の果てに消えてしまいたくないという、人間臭い願いから、付喪神となった。
あるいは、付喪神となったからこそ、願いを持ち得たのか。
ともかく、人間のような肉体を持った彼女は、生き残るために様々な事に挑んだ。
傘として役立つ機会を自分から作るため、風雨や光を操る妖術を覚えた。
一つ目の鍛冶の神様が存在すると聞いて、それにあやかり鍛冶の技を磨いた。
傘で空を飛ぶベビーシッターの話を知って、ベビーシッターの仕事に手を出した。
彼女の涙ぐましい努力は、傘の機能を完全に逸脱していた。
その甲斐あってか、少しは『多々良小傘』の存在が少しづつ認識されてきていた。
里の大人たちには子供を驚かせて回る変質者として、
子供たちには、少々不本意ながら、変な傘を持ったけど優しいお姉さんとして。
もう、彼女はただの『唐傘の付喪神』に留まる存在ではなくなっていた。
ただの付喪神ではない、『多々良小傘』。
『多々良小傘』として人々に認識されているなら、彼女は、既に――。
◯ ◯
およそ30秒。青娥が飛ばされていった森の中を小傘は見張っていた。
その間に雨滴での応急処置は終えたが、動きは見られず。
既に地中を移動し、死角を突く瞬間を狙っているのかも知れない。
あるいはもうディエゴを見捨て、霊夢たちの追跡を再開したか、それとも撤退したのか。
スタンドの発動を維持できる時間が、小傘の事実上のタイムリミット。
スタンドを維持できる時間は、おそらくあと数分。
焦りを憶えはじめた小傘を前に、動き出した。
――森が。
森が、森の木々が迫ってきている。
違う。倒れてきている、小傘を空から押し包むように。
小傘が立つ位置よりまだ高い、30m以上はあろうかという高木が。
木々の根本がドロと化している――青娥の策だ。
何十本もの木々がひとまとまりになって、小傘に向かって倒れ込んでくる。
潰される。潰されなくとも、青娥がどこから止めを刺しにくるか分からない。
この倒れてくる木々の中か、あるいは地中か。とにかく、この木の下は危険すぎる。
雨粒の上を跳ね、小傘が迫る木々から離れる。
木々が空中に固定された雨滴にめり込み、乾いた音を上げて引き裂かれながら雪崩れ込んできた。
雷鳴が如く木々の裂ける音に混じるように、ぬかるみを走る音が聞こえる。
湿った足音。モノの表面が泥に変わる音。
倒れてくる樹木を助走台に、青娥の迫る足音。
青娥が助走を付けて小傘に飛びかかろうとしているのだ。
かわせるか――望みは、薄い。あの大ジャンプを見せた脚力の前に。
速さが足りない。もっと速く――。このスタンドを使えば――。
小傘は思い出す、このスタンドを発現した直後の記憶を。
雨滴を固め、右脚を切り落とし――。
そのすぐ後、青娥たちの目の前まで、50m以上の距離をひと飛びに移動したことを。
その時は、無我夢中だったが――雨粒と同化して――空を飛んでいた事を。
青娥が助走台を踏み切ろうとしたその直前、彼女の目前で小傘の姿が溶けた。
溶けた小傘は煙の様に流れ、瞬時に実体を形づくりはじめた。
助走台の先端で急ブレーキを掛けた青娥の頭上、背後にて。
そして小傘は眼下の青娥に向け、槍を突き下ろしに掛かっている。
折れた傘の上に形成した、雨粒の騎兵槍[ランス]を。
「恨めしや……! 私を信じるヒトを狙うなら! 槍に降られて、死んでしまえ!!」
「残念ねぇ~。その戦法は、最初見たときから一番警戒していたのだけど……既に対策済みなのよ」
頭上ではっきりとした姿を現しつつある小傘を認めた青娥が突如、勢い良く拳を振り上げる。
拳の先で、子供の胴体ほどの木片が爆ぜた。
木片はオアシスの能力で細かく砕けながらドロ化して巻き上げられ、
青娥の頭上で実体を形づくり始めていた小傘と混ざり合う。
青娥の手を離れて再び硬度を取り戻した木片は、
そのまま実体化した小傘の体内に至る所に突き刺さり、めり込んだ。
「雨粒と同化して移動する能力……便利よね、それ。
でも、壁抜けや仙界への出入りでもよくあることだけど、
ワープで出現位置が予測できてるなら、そこに異物をバラ撒けば……ほら、ね」
「……グッ、ギッ……ガフッ……!」
「君子役物、小人役於物。
……貴女の様なありふれた付喪神に、人間様の行く末をどうこうできるなどと思わないことね。
ましてや、人間を超えた私たちのことなんて」
その瞬間、小傘の思考はコナゴナに打ち砕かれ、左手の騎兵槍が霧散する。
脊椎に2本、頭蓋骨を貫通して頭に1本、右目に1本、
槍を構えた左肘、左手、左肩を貫くようにそれぞれ1本、
その他、致命的でない部位にも多数。合計数十本の木片に同時に刺し貫かれる形となった小傘。
精神力でどうこうできるダメージではない。
頭上で立ち往生する小傘の姿を認めた青娥は、軽やかに飛び上がり、
「はい、おしまい、と」
「あ……」
手刀で小傘のマスクを砕きながら、その頭からDISCを掠め取ったのだった。
辺りから雨音がゆっくりとフェードインし、小傘のスタンド能力が失われた事を告げる。
小傘は、抜き取られた魂を取り返そうと左手を伸ばすも、空を掻くのみ。
すぐに糸の切れた人形のように全身を脱力させ、重力に従い落下を始めた。
雨粒の支えを失った倒木が、小傘に続く。
樹上から跳び上がっていた青娥はまだ落下に転じず、その姿は上空にあった。
今や満身創痍となった多々良小傘が、残った左目を空に向けながら落ちてゆく。
焦点の定まらない赤い瞳が映したのは、光。
再び雲間から差した、太陽。
そして、太陽の光と雨粒が生み出した、虹。
小傘の赤い瞳に、七色のアーチが一瞬だけ、映り込んだ。
この土地[ゲンソウキョウ]の最高神・龍の顕現した姿、ともいわれる輝き。
綺麗だと、思った。
数多くあるにある空模様の中でも、小傘が一番好きな表情だった。
――いつの事だっただろうか。虹を掴もうと、虹に向かって飛んでいったのは。
傷だらけの左腕を、虹に向かって伸ばす。
――いつの事だっただろうか。虹に向かっても、虹には決して触れることができないと知ったのは。
ボロボロの左手を握りしめ――何も無い感触を確かめる。
――そこで、小傘は自分の肉体にまだ意識が、魂が残っていることに気がついた。
唐傘の付喪神である小傘が、本体である唐傘を失ったのに。
魂を繋ぎ止めていたDISCさえ、奪われてしまったのに。
『唐傘の付喪神・多々良小傘』が、『唐傘』を失ったならば、
それでも彼女が生きているならば――もう彼女は『唐傘の付喪神』ではない。
多々良小傘は、一人一種族の妖怪『多々良小傘』か、
あるいは――『八百万の神の一柱・多々良小傘』なのだ。
「なれた……私は、なれたんだ、『神様』に……!」
小傘はその時、自分が『神』となることができたと――信じた。
それこそが、多々良小傘の夢であったからだ。
人の役に立つために、自らの意志によって、傘として生まれた以上の事を行う。
そうして人々の感謝を、喜びを――信仰を集め、それを拠り所にして存在するなら、
それは『神』と称するほか、ない――。
小傘が再び、空に輝く虹に向けて左手を開き、掲げる。
今度は、明確な意志をもって。
「……ねえ、トリッシュ! ジョルノ! 見てよ!
あたしね、夢が……夢が叶ったの!!
あたし、『神様』になれたのよ!!」
小傘は、左手で天の虹をなぞり、
『触れることのできる虹』を具現化する。
その名を
虹符『オーバー・ザ・レインボー』――。
小傘の上空で、青娥は飛び去ろうとしていたトンボを捕まえ、懐にねじ込もうとしていた。
無防備であったはずの彼女に対して放たれた最期の反撃は、だがしかし不発に終わる。
「MUDAHHHHHHHH!」
神を喰らう顎[アギト]が、雨粒の拘束衣から解き放たれた
ディエゴ・ブランドーの牙が、
ちょうど落下してきた小傘の首筋を噛み砕いたからである。
「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄だ!!」
空中で小傘の首根っこに食らいついたディエゴは、
高々と小傘の身体を振り上げ、着地の勢いでそのまま小傘を地面に振り下ろした。
「無駄無駄無駄ぁ! 無駄な! 無駄だよ! この無駄が!
無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄に! 無駄なことを!!」
ぐったりとしたまま跳ね上がる小傘の身体に、なおもディエゴは執拗に鉤爪を振るう。
多々良小傘の肉が裂け、血が飛び、ハラワタが舞い、骨が砕け、それでもなお、ディエゴは止まらない。
「無駄無駄無駄無駄! 無駄なんだよ! 無駄なんだからな!
無駄になれ! 無駄になっちまえ! 無駄にしてやる!
このDioが!! 無駄無駄無駄に! 無駄にしてみせる!!
無駄ァァァーーーーーッ!!」
最後の方はほとんど、地面に転がった部位を細かく刻み、土の中に鋤き込んでゆく作業となっていた。
巨大な尻尾で小傘の頭部を叩き潰し、ようやくディエゴは荒い息を付いた。
【多々良小傘@東方星蓮船 かみは バラバラになった】
【残り 57/90】
◆ ◆
「ディエゴくん……気は済んだかしら?」
遠巻きで様子を伺っていた青娥が、倒れた木々のすき間で立ち尽くすディエゴにおずおずと話しかけた。
その身体は、返り血と肉片でマダラに汚れていた。
「FSHHHHHH……」
「もう、こんな酷いケガしてるのに、ハッスルしちゃって」
振り返ったディエゴの顔を見た青娥が、心配そうな声を上げた。
静止した無数の雨滴にまともに突っ込んだせいで、全身各所に刺し傷ができている。
「折角の男前が台無しですわ。さあさ、手当をしてあげるからこちらにきて下さいまし」
「……何のつもりだ……?」
既に人間の姿に戻ったディエゴが訝しげに問う。
「同行者の手助けをするのは、当然のことではありません?
確かに、私たちはお互い友情や忠誠といったモノで結ばれているわけではない、
ただ利用しあっているだけの関係かもしれませんが」
「そうではない……何だその体勢は」
青娥は手近な倒木の枝葉の陰に腰掛け、ポンポンと膝を叩いて手招きしていた。
「あら、膝枕はお嫌いかしら」
「嫌いだ」
そんなにはっきり言わなくても、と密かにしょげ返る青娥とはやや離れて、ディエゴが倒木に腰掛けた。
無言で急かすディエゴに青娥は歩み寄り、スタンド『オアシス』を発現する。
そしてオアシスを纏った指で、ディエゴの傷穴にそっと触れた。
「……少なくとも、これで血止めにはなるでしょう」
オアシスの能力で傷口の周りの肉を一旦ドロ化し、傷口を塞いでからドロ化を解く。
ディエゴにも覚えがある。このバトルロワイアルに呼び出される直前、
ニュージャージーを走る列車で共闘した、あるスタンド使いと同じ原理の治療法である。
「動かないでくださいまし。手元が狂ってしまいますわ」
ディエゴの手当を続ける青娥が、静かに耳打ちした。
ディエゴは心中で舌打ちする。
青娥に見えぬよう密かに鉤爪を立て、ディエゴのスタンドを感染させる隙を伺っていたのだが……
流石に見透かされていたらしい。
「……このオアシスというスタンドは本来こうした細かい作業が苦手なもので。
殿方の大事な所に、ズブリ。……と指がめり込んでしまうかもしれませんわ」
物騒な物言いとは裏腹に、青娥は甲斐甲斐しく治療を続けている。
ディエゴはそんな青娥の姿を見て、幼少の頃を思い出しかけ――
彼女を視界から消すため、そっと目を閉じた。
あとは青娥の為すがままに任せた。
…………
「お客さーん。終わりましたよー。起きてくださぁ~い」
「起きている」
「いたいのいたいの、飛んでったかしら?」
ゆっくりとディエゴが、傷の具合を検めるように立ち上がった。
かさぶたが突っ張るような、いくらかの痛みは残っているが、見た目には綺麗にふさがっている。
とりあえず出血は止まっているようで、動いてみても傷口が開く様子はない。
「じゃ、次はゆかりちゃんを治したげましょっか。
ディエゴくん、この子をここに座らせたげて頂戴な」
ディエゴが顎をしゃくり、八雲紫を青娥のひざ元にやる。
紫の足取りがぎこちない。
このままでは戦闘はおろか、ディエゴたちに付いていくのもおぼつかないだろう。
恐竜化を解けば敵となる紫を治療するのはためらわれたが、
傷を負ったからといって置いていくことはできない以上、致し方ない。
「さぁ、すぐに終わるからいい子にしててね~。
痛くしないからねー。たぶん、痛くないわよー」
青娥の指が、恐竜の皮膚を粘土細工の様に整えていく。
穴だらけだった皮膚が、何事もなかったかのようにきれいに復元されていく。
生物の身体を粘土細工の様に操る青娥のその仕草はたおやかで――
そう、母が娘に初めての化粧を施すように見えた。
ふと、ディエゴは思った。
もし自分の母親が、あの女のような高潔さなど持ちあわせていない、
目の前にいるこの女のようなゲスであれば、自分はもっと違う人生を歩んでいたのではないか、と。
シチューを靴に注がせるのだって止めなかっただろうし、
それ以前に、自分と母を拾った農場主の誘いも断らなかったに違いない。
この女だったら、その後農場主の一家に一服盛った後、後妻として農場を乗っ取るくらいはやるだろう。
オレの母親がそんな女だとすれば――その頃のオレは、そんな母親を、軽蔑しただろうか?
と、そこでディエゴはかぶりを振った。
この女は、そもそも濁流に流される赤子のオレを助けなどしないだろう。
――まったく、無駄なことを。
「……そうだ、あいつはどうする? あの、カエルみてぇなガキは。
右手足を完全にもがれてるから、歩けもしないぜ」
「……それについては、一つ考えがありまして。
ちょっと、ここまで連れて来てくださいません?」
ディエゴが恐竜化した諏訪子の左足を掴み、ぶっきらぼうにぶら下げて持って来た。
青娥はそれを腹から抱え上げると、八雲紫の背中に背負うように乗せた。
べちゃり、と、湿った音がした。
音がしただけでなく、二頭の恐竜の触れ合う面、諏訪子の腹と紫の背から液体が垂れている。
二頭の皮膚の色をした液体が。
「おいおい、溶けてやがるぜ?」
「ええ、こうして溶かしてくっつければ、紫ちゃんの短い腕でも
諏訪子ちゃんをおんぶしてあげられるでしょう?
ちょうど諏訪子ちゃんは紫ちゃんに比べてだいぶ小柄ですし」
「……魔女め」
「魔女じゃなくて、邪仙[ユアンシェン]ですわ、ディエゴくん♪」
苦い顔のディエゴの暴言を、脳天気に訂正した青娥。
この状態で恐竜化を解いたらどうなるのか。
衣服が融合するのみに留まるのか。
それとも、皮膚ごと癒着してしまっているのか。
だとすれば、恐竜化を解いた時のこいつらの状態は、ディエゴといえどちょっとお目にかかりたくない。
この青娥という女はそこまで想像しているのかいないのか、
荷造りをするような気軽さでそれをやってしまったのだった。
「……で、どうしましょうか、ディエゴくん?」
「あ?」
「あの子たちを、まだ追うつもりなのかしら」
「…………」
「ほら、諏訪子ちゃんも確保したし、DISCも無事に手に入った訳だし」
青娥に、霊夢たちを血眼になってまで追う理由はない。
DIOが求めるという、高位の神である諏訪子の身柄は確保した上、
化け傘の持っていたスタンドDISCも確保できたのだから。
「このまま追うに決まっている。あの女、霊夢だけは、殺す。
あの傷でどう手当すれば助かるのか見物だが、わずかな可能性に賭ける暇も与えてやれない。
手当なんてする暇も与えずに襲撃するんだよ。……必ず死なす。
ここで俺たちが引いたら、こいつらの戦いは無駄じゃなかったことになる。
あんな女ひとりの命を守るための戦いなんてな……絶対に『無駄』にしなきゃならないんだよ」
ディエゴの意志は固い。
幻想郷の社会が、そこに住まう人々が、神々が命を賭けて守ろうとする少女、博麗霊夢。
社会に踏みにじられ、神に命を狙われる、自分。
同じ天涯孤独の人間でありながら――そう、同じ人間でありながら――。
世間ではよくあることだ。だが、それでも腹の虫が収まらない。
だから、『無駄』にする。霊夢を護るように取り巻く、その社会の全てを。
その感情は、怨恨か、あるいは嫉妬に似ていた。
「まぁ、そこまで言うなら反対はしないけど」
暗い感情の炎を隠そうともしないディエゴを、青娥は醒めた瞳で見ていた。
「……引き際は、わきまえなきゃだめよ?」
その言葉は、ディエゴに向けられたものではなかった。
ディエゴが再び恐竜の姿を取り、隻眼で霊夢達の逃げた方角を睨んだ。
車輪の跡、あの車の吐く排気の臭い、この程度の雨なら、翼竜もまだ飛ばせる。
追跡の方法はいくらでも、ある。
と、そこで足の鉤爪に赤い目玉が引っかかっているのに気付く。
ディエゴはそれを靴底の泥を拭うように倒木にこすりつけ、跡形もなく擦り潰したのだった。
【午前】C-4 霧の湖のほとり
【ディエゴ・ブランドー@第7部 スティール・ボール・ラン】
[状態]:体力消費(大)、右目に切り傷、霊撃による外傷、首筋に裂傷(微小)、右肩に銃創
全身の正面に小さな刺し傷(外傷は『オアシス』の能力で止血済み)
[装備]:なし
[道具]:幻想郷縁起@東方求聞史紀、通信機能付き陰陽玉@東方地霊殿、ミツバチの巣箱@現実(ミツバチ残り40%)、
基本支給品×2
[思考・状況]
基本行動方針:生き残る。過程や方法などどうでもいい。
1:霊夢を殺す。
2:青娥と共に承太郎を優先的に始末。
3:
ディオ・ブランドー及びその一派を利用。手を組み、最終的に天国への力を奪いたい。
4:恐竜化した八雲紫&諏訪子は傍に置く。諏訪子はDIOへの捧げ物とするため、死ぬような無理はさせない。
5:同盟者である大統領を利用する。利用価値が無くなれば隙を突いて殺害。
6:主催者達の価値を見定める。場合によっては大統領を出し抜いて優勝するのもアリかもしれない。
7:紅魔館で篭城しながら恐竜を使い、会場中の情報を入手する。大統領にも随時伝えていく。
8:
レミリア・スカーレットは警戒。
9:
ジャイロ・ツェペリは始末する。
[備考]
※参戦時期はヴァレンタインと共に車両から落下し、線路と車輪の間に挟まれた瞬間です。
※主催者は幻想郷と何らかの関わりがあるのではないかと推測しています。
※幻想郷縁起を読み、幻想郷及び妖怪の情報を知りました。参加者であろう妖怪らについてどこまで詳細に認識しているかは未定です。
※恐竜の情報網により、参加者の『8時まで』の行動をおおよそ把握しました。
※FFは『多分』死んだと思っています。
※首長竜・プレシオサウルスへの変身能力を得ました。
【
霍青娥@東方神霊廟】
[状態]:疲労(中)、霊力消費(小)、全身に唾液での溶解痕あり(傷は深くは無い)、衣装ボロボロ、オートバイに乗車中
胴体に打撲、右腕を
宮古芳香のものに交換
[装備]:S&W M500(残弾5/5)、スタンドDISC『オアシス』@ジョジョ第5部、
[道具]:双眼鏡@現実、500S&Wマグナム弾(9発)、オートバイ、催涙スプレー@現実、音響爆弾(残1/3)@現実、
河童の光学迷彩スーツ(バッテリー55%)@東方風神録、
スタンドDISC『キャッチ・ザ・レインボー』@ジョジョ第7部、洩矢諏訪子の右脚、洩矢諏訪子の右脚
基本支給品×6、不明支給品@現代×1(洩矢諏訪子に支給されたもの)
[思考・状況]
基本行動方針:気の赴くままに行動する。
1:DIOの王者の風格に魅了。彼の計画を手伝う。
2:ディエゴと共に承太郎、霊夢、F・Fを優先的に始末。
3:小傘のDISC、ゲットだぜ♪ 会場内のスタンドDISCの収集。ある程度集まったらDIO様にプレゼント♪
4:八雲紫とメリーの関係に興味。
5:あの『相手を本にするスタンド使い』に会うのはもうコリゴリだわ。
6:芳香殺した奴はブッ殺してさしあげます。
[備考]
※参戦時期は神霊廟以降です。
※制限の度合いは後の書き手さんにお任せします。
※光学迷彩スーツのバッテリーは30分前後で切れてしまいます。充電切れになった際は1時間後に再び使用可能になるようです。
※DIOに魅入ってしまいましたが、ジョルノのことは(一応)興味を持っています。
【八雲紫@東方妖々夢】
[状態]:恐竜化、背中で洩矢諏訪子と接着、全身火傷(やや中度)、全身に打ち身、右肩脱臼、左手溶解液により負傷
背中部・内臓へのダメージ、全身の正面に小さな刺し傷(外傷は『オアシス』の能力で止血済み)
[装備]:なし(左手手袋がボロボロ)
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:幻想郷を奪った主催者を倒す。
1:恐竜化。(ディエゴに従う)
2:幻想郷の賢者として、あの主催者に『制裁』を下す。
3:DIOの天国計画を阻止したい。
4:大妖怪としての威厳も誇りも、地に堕ちた…。
5:多々良小傘は、無事だろうか……。
6:霊夢…咲夜…
[備考]
※参戦時期は後続の書き手の方に任せます。
※放送のメモは取れていませんが、内容は全て記憶しています。
※太田順也の『正体』に気付いている可能性があります。
※八雲紫と洩矢諏訪子は恐竜化した状態で『オアシス』のスタンド能力によって皮膚を溶かされ、
紫が諏訪子をおぶる形で接着させられています。
【洩矢諏訪子@東方風神録】
[状態]:恐竜化、霊力消費(中)、右腕・右脚欠損、腹部で八雲紫と接着
[装備]:なし
[道具]:なし
[思考・状況]
基本行動方針:荒木と太田に祟りを。
1:恐竜化。(ディエゴに従う)
2:早苗、本当に死んじゃったの……?
3:守矢神社へ向かいたいが、今は保留とする。
4:神奈子、早苗をはじめとした知り合いとの合流。この状況ならいくらあの二人でも危ないかもしれない……。
5:信仰と戦力集めのついでに、
リサリサのことは気にかけてやる。
6:プッチを警戒。
[備考]
※参戦時期は少なくとも非想天則以降。
※制限についてはお任せしますが、少なくとも長時間の間地中に隠れ潜むようなことはできないようです。
※
聖白蓮、プッチと情報交換をしました。プッチが話した情報は、事実以外の可能性もあります。
※八雲紫と洩矢諏訪子は恐竜化した状態で『オアシス』のスタンド能力によって皮膚を溶かされ、
紫が諏訪子をおぶる形で接着させられています。
◯ ◯
◯ ◯
◯ ◯
◯
◯
◯
◯
◯
フー・ファイターズの長い頭が湖底で揺られていた。
彼女、いや、今は彼らというべきか。
彼らは死んだ訳ではない。
ただ、疲労で気を失っているのだ。
ディエゴによって恐竜化させられた同胞たちと激しい闘いを繰り広げ、
ようやく勝利したものの、激しく精神力を消費し、気を失ってしまったのだ。
彼らが目を醒ます頃には、霊夢達と彼女らの闘いの行く末は決しているに違いない。
【午前】C-4 霧の湖 湖底
【フー・ファイターズ@第6部 ストーンオーシャン】
[状態]:寄生先なし、首の部分だけ、気絶中、精神力消費(大)、体力消費(中)
[装備]:なし
[道具]:なし(支給品は
十六夜咲夜の死体の側にある)
[思考・状況]
基本行動方針:スタンドDISCを全部集めるが、第2回放送までは霊夢たちと行動する。
1:気絶中。
2:霊夢たちを助けたい。一先ずDISCは後回し。
3:レミリアに会う?
4:墓場への移動は一先ず保留。
5:
空条徐倫とエルメェスと遭遇したら決着を付ける?
6:『聖なる遺体』を回収し、大統領に届ける。
7:大統領のハンカチを回収し、大統領に届ける。
[備考]
※参戦時期は徐倫に水を掛けられる直前です。
※能力制限は現状、分身は本体から5~10メートル以上離れられないのと、
プランクトンの大量増殖は水とは別にスタンドパワーを消費します。
※
ファニー・ヴァレンタインから、ジョニィ、ジャイロ、リンゴォ、ディエゴの情報を得ました。
※咲夜の能力である『時間停止』を認識しています。現在0.5秒だけ動けます。
※十六夜咲夜の遺体は、C-4エリア・霧の湖の底に沈んでいます。
支給品(DIOのナイフ×11、本体のスタンドDISCと記憶DISC、ジャンクスタンドDISCセット2)も一緒です。
※洩矢諏訪子が創りだした鉄輪が霧の湖に沈みましたが、正規の支給品ではありません。
彼女の意志がなくなった現在もそれが消滅せずに残っているかは不明です。
最終更新:2017年05月11日 03:03