曲中で音楽の調を変えること。
古典派音楽では、近親調(属調、下属調、平行調、属調平行調、下属調平行調、同主調)への転調が主である。
ロマン派音楽の時代には、複雑で大胆なかつ頻繁な転調が多くなり、それぞれの調を認識することが困難になったことが、現代音楽に至って調性が崩壊する一因となった。
転調のためには、「新しい調への移行」と「新しい調の確立」が必要。
(新しい調への移行)
①前後の調に共通の和音を用い、新しい調でその和音を読み替える方法。
(例えば、ハ長調からト長調への移調では、ハ長調のVの和音はト長調のIの和音であるから、ハ長調のVを鳴らして、それをト長調のIと読み替える)
②第1の調の和音の構成音の1つと、第2の和音の構成音の1つが、増1度関係にあるような和音を続けて鳴らす方法。
(例えば、ハ長調のIV度(ヘ=Fを持つ)の次にト長調のV(嬰へ=F♯を持つ)を並べる)
③新しい調のV7の和音に直接はいる方法。
(新しい調の確立)
①最低限、前の調で使われない音が必要。
(例えば、ハ長調からト長調への移調では、ハ長調では用いられないがト長調で用いられる嬰へ(F#)の音)
②V7ないしIを鳴らす。
新しい調のV7の和音に直接はいる方法を用いれば、同主調からの転調でなければ、必ず前の調に含まれない音が1つは含まれる(同主調は、V7が同じ)ので、それだけで十分である。
同主調からの転調では、Iの和音に前の調にない音が含まれる。
③新しい調でT-S-D-T(I-IV-V-Iなど)のカデンツを行う。
第2の調の和音とされる和音が、借用和音という印象を与えないために重要。
第1の調に第2の調の和音の1つを一時的に借用しただけのもの、または第1の調の和音に一時的に♯や♭を付けたらたまたま第2の調の和音の1つと一致したというだけのもの。
バロック時代は、最初の転調は長短調ともに属調が最も多かった。
(前時代からの対位法的書法の名残りであり、17世紀半ばまで頻繁に見られた長調曲における2度の和音のピカルディの3度化がダブルドミナントに読み替えられたため)
17世紀後半以降、和声的な書法が普及すると、短調曲ではより転調しやすい平行長調への転調が多くなった。
18世紀前半まで、最初の転調として最も多かったのが属調であり、次に短調曲では平行長調であった。
技巧的なものとしてそれ以外の近親調(同主調は除く)への転調も書かれたが、下属調たる4度上の(短調曲では7度上の調も)転調は進行感が薄いため、曲の最後部でのみ書かれた。
フランスの組曲では同主調転調、イタリアのソナタでは平行調転調が多かった。
ソナタでは、17世紀末までの短調曲は緩徐楽章でも転調しないのが一般的であった。
(長調・短調・音階の概念が体系化されていなかったため、平行調転調という概念そのものがなかったため)
長調曲では6度上の転調で冒頭および急速楽章で使われていた長3和音と短3和音の関係(バロック的な明暗の美)を逆に出来る(結果的に平行調転調)が、短調曲ではそれが成立しないので転調はしなかった。
長調・短調・音階の概念が体系化されてきた18世紀になると短調曲でも6度上の転調も徐々に増えてきた。
フランスの組曲で書かれた調性はハ・ト・ニ・イ・ホ・ヘの各長短調であり、イタリアのソナタで書かれた調性は長調はハ・ト・ニ・イ・ホ・ヘ・変ロ・変ホ、短調はイ・ホ・ロ・嬰ヘ・(嬰ハ)・ニ・ト・ハ・ヘであった。
使うことが出来た調性はヴァイオリンの調弦や鍵盤楽器の古典調律との関係が深い。
古典派時代になると、ソナタ形式の発達に伴い、楽章中での最初の転調は長調曲では属調、短調曲では平行長調への転調に限られた。
(主題と副次主題の構造を聴衆が把握しやすいように配慮されたため)
イタリア、ドイツ周辺国では緩徐楽章は長調偏愛主義的になり、冒頭楽章の簡潔な曲では属調転調が多く、規模が大きい曲にあっては下属調転調が多かった。
最初の転調で下属調を使うことがなかったので、下属調は使用頻度が薄く耳休め的な効果があるとして、18世紀後半以降、多く書かれた。
フランス音楽ではイタリア音楽の影響を受けてソナタ形式で書かれたものの、相変わらず緩徐楽章ではフランス的な同主調転調が目立った。
古典派時代は楽章内での転調は展開部では近親調(同主調も含む)が基本であった。
楽曲で書かれた調性は長調はハ・ト・ニ・イ・ヘ・変ロ・変ホで短調はイ・ニ・ト・ハであった。
(ソナタ形式の発達によって、属和音や副次主題の響きの悪い調の使用を避けたため)
①キーを1個(=半音分)もしくは2個(=半音2個分)上げるもの
(例:イ長調→変ロ長調,ヘ長調→ト長調)
②同主調同士で移るもの
(例:嬰ヘ短調→嬰ヘ長調)
③短3度(半音3個分)ずらして移るもの
(例:ハ長調⇔変ホ長調)
最終更新:2009年08月22日 21:15