和声学の基礎は、16世紀ヨーロッパに端を発した機能和声であり、クラシック音楽における古典派の音楽はこれに基づいている。
和音の連結のみならず、対位法の影響を大きく受けている。
和音を混声四部合唱による構成と見なし、各声部の旋律的な独立性も重要視されており、声部の導き方も非常に重要視されている。
導音は主音に解決し、和音の第7音、第9音、第11音、第13音は予備されたり特定の和声音に解決したりする。
各声部の独立性や動きに重点をおいて作曲する方法。
和音記号でⅠの機能をトニカ(トニック)、Ⅴの機能をドミナント、Ⅳの機能をサブドミナントという。
和声の中心となる機能を持つ。
「落ち着き」「解放」「解決」「弛緩」といった印象を与え、「自宅」のイメージである。
楽曲の最後はTで終わる。
Ⅰのほか、ⅥもⅠの代理の時、Tの機能を持つ。
(DからⅥに終止する終止形は偽終止と呼ぶ)
ⅢもTの機能を持つことがある。
ある和音の代わりに使われる和音で、似た響きを持ち、ほぼ同じ機能を持つ和音のこと。
元の和音の3度上、または3度下の和音がよく使われる。
3度関係にある和音は、3和音の構成音の3音の内、2音が同じためである。
(3度関係にある2和音の、下の和音の第3音は上の和音の根音に、第5音は第3音に一致する)
Tの5度上の和音のこと。
Tとは対照的に、「緊張」した印象を与え、「外出先」のイメージである。
Tに移行しようとする力が強い。
(トニカに移行するように緊張が解ける方向で移行することを解決と呼ぶ)
Ⅴに第7音を加えてⅤ7の和音で現れることが多く、Ⅴ9の和音もよく用いられる。
ⅢやⅦもⅤの代理の時、Dの機能を持つ。
Tの4度上、すなわち5度下の和音のこと。
Dほど強くないが、Tに比べれば「緊張」した印象を与え、「発展」「外向的」な印象が強い。
Dに移行するか、Tに解決する。
ⅡやⅡ7は、Ⅳとともに非常によく用いられる。
(ただし、ⅡはTには移行しない)
ⅥがⅣの代理和音としてSの機能を持つことがある。
Tの5度下であるので、Dとは逆方向の和音である。
SのDはTであるという考えが成り立つ。
教会音楽などではいったんTに解決した後、再びⅣに移行しⅠに戻るという技法が良く使われる。
(変終止やアーメン終止と呼ぶ)
ドッペルとはドイツ語で「二重(英語のダブル)」を意味し、ドミナントのドミナントである。
ⅤのⅤであって(ソラシドレ)、音階のⅱ度音を根音とする長三和音、または属七、属九の和音であり、Ⅱの第三音(ハ長調ならファの音)を半音上げたものである。
Dに移行するⅡの和音をDへのドミナントと考えることもできる。
Dに移行するⅣをⅡの代理和音とする理論書もある。
一般には、ドッペルドミナントの機能とSとは同一視される。
SのドミナントはTであり、DのドミナントがSであるので、T、D、Sは正三角形を成す。
機能和声においては、Tに戻ることでひと段落となる。
和音の移り変わりは、Tから他の機能に移行して、またTに戻るまでがひとまとまりであり、カデンツと呼ぶ。
機能和声においてDは、Tへ移行する力が強いので、Sには移行しないのが原則である。
TとSはいずれの機能にも移行する。
カデンツは「T→D→T」「T→S→D→T」「T→S→T」の3種のいずれかとなる。
DからSへの進行を考慮に入れるならば、上記に「T→D→S→T」のカデンツが加わる。
ある和音からある和音に移行すること。
(古典的な和声学において、和音記号ごとに可能な進行)
Iは、すべての三和音とⅡ7、Ⅴ7、Ⅴ9に進行することができる。
IIは、V(7.9)にのみ進行することができる。
TのIIIは、IかVI→III→IVという進行の中でのみ使われる。DのIIIはTのIかVIに進行する。
IVは、I、II(7)、V(7.9)に進行する。
V(7)は、TのIかVIに進行する。
TのVIは、Iを除くすべての三和音とⅡ7、V7、Ⅴ9に進行することができる。SのVIは、Iに進行する。
VIIは、TのIかVIに進行する。
V7以外の7の和音は、その和音の第7音を前の和音から保留して導くことができ、その第7音を次の和音で保留または2度下降させることができるならば、3和音の代わりに使うことができる場合が多い。
他の調の和音を用いること。
ドッペルドミナントと同様に、Ⅴ以外の和音に関しても、その和音を主和音とする調の属和音群を用いることができる。
(例えば、ハ長調において、ⅥのⅤ7であるミ-ソ#-シ-レや、ⅡのⅤ9の根音を省略した形(またはⅦ7)のド#-ミ-ソ-シ♭など)
長調において、同主短調の和音を用いることもある。
(ハ長調において、ハ短調のⅥであるラ♭-ド-ミ♭や、ハ短調のⅤ9であるソ-シ-レ-ファ-ラ♭など)
古典的な和声学では、和音の進行にあたって各音を構成するパートの動きが重要である。
和声学の実習においては、混声四部合唱の編成、すなわち、ソプラノ、アルト、テノール、バスの4声部を使用し、四声体という。
4声部の動きと、それら相互の関係がスムーズであることが求められる。
ある2つのパートの動きが、同方向である時を平行、逆方向である時を反行という。
各パートは、それぞれの声域の中で動く。
ソプラノは中央ハから、アルトはその下のヘから、テノールは中央ハのオクターブ下から、それぞれ2オクターブ弱(1オクターブと長6度)の音域で動き、バスは中央ハのすぐ上のホから2オクターブ下のホまでの音域で動くように書かれる。
各パートは、離れすぎない。隣り合う各パートの音程はオクターブまでである。
ただし、テノールとバスは1オクターブと完全5度までである。
上のパートが下のパートより下がることは、避けられる。
各パートの動きの中で、この音はこの音に進行しなければならないとするものが存在する。
①V(7)の第3音は、Tに進行する時、2度上行しなければならない。
②V7の場合、第7音は2度下行しなければならない。
③7の和音、9の和音の第7音や9の和音の第9音は、次の和音に進行する時、2度下行する(解決)か、同じ音に留め置かれる。
④V7を除く7の和音、9の和音の第7音、第9音は、前の和音の同じ音から留め置かれる(予備)。
そのような音を持たない和音から7の和音、9の和音に進行できない。
古典的な和声学で、避けるべき、また禁止とされる動きのこと。
数多くあるが、重要なものは次の2つである。
①連続1(8)度
ある2つのパートが、連続する2つの和音の間で、続けて完全1度または完全8度になることを、連続1(8)度といい、禁止される。
(実際の音楽ではよく見かけるが、和声的に「異なる2つのパート」である時に禁止されるのであり、和声的に「1つのパート」と考えられる時には問題とならない)
限定進行をする音は、基本的には同時に2パートで鳴らすことはできない。
(限定進行をすると連続1(8)度になるため)
②平行5度
ある2つのパートが、連続する2つの和音の間で、続けて5度になっていて、しかも平行して完全5度に到達することを、平行5度といい、禁止される。
(反行である場合、または後続音程が完全5度以外の5度である場合には、平行5度と呼ばず、問題とならない)
最終更新:2009年08月27日 12:47