【赤七と黒七】

命が生まれる際と、命が消えゆく際と、どちらも共に七という数字が深く関わって来る。人間が母胎の中で育つことを「七代」という。また死後に魂にささげられるとむらいの期間は「七日」である。


七代は、天地開闢以降の生成の期間の「神代七代」に由来すると考えられている*1。また、七(なな)という数は、無(なな)という言葉がもとにあり、万物や人間が形を失ない消滅することを示す*2ともいう。

清火を用いて潔斎する際も、七日を基準としている。

【忌みの期間】

『弘仁式』の「触穢忌事」には「産七日」と記載されており、出産に際しての忌みの日数を七日としている。これらに該当する期間は祭祀や儀式への参加、神奈備への参拝は止められたほか、家のなかにこもる物忌み(忌みごもり)を行うべきだとされていた。問病(病人を見舞ったりすること)や法事に行くのも良くないとされる。「黒忌三日、赤七日」*3「赤忌は黒忌より重い」*4などと称され、各地でも「赤七」の忌みごもりは大切にあつかわれていた。

 人の死   人の産   畜の死*5  畜の産   喫宍 
 三十日の忌み   七日の忌み   五日の忌み   三日の忌み   三日の忌み 

静かに物忌み・忌みごもりをしていれば、穢れは肉体を離れて行くとされる。端境へ近づくことが止められるのは、人間そのものに必要以上に赤気・黒気がついており、均衡を乱すためである。

 赤気   明、陽   妖怪たちが盆血として欲しがる   清浄   赤気(陽、日) 
 黒気   暗、陰   妖怪たちの受肉の原動力となる   汚穢   黄気(陰、月) 

農村ではシボク(黒忌)、漁村・山村ではチボク(赤忌)を重くみていた*6など、赤忌よりも黒忌を重要視していた地域もあり、これはそれぞれの産業形態の違いなどの地域差がある。

【無血の白骨】

黒不浄・黒忌には、血を含むかどうかが判断の差違になっている面もある。死に触れたとしても、それがばらばらとなった白骨の状態であれば、人・畜どちらであっても忌みは発生しないと『法曹至要抄』などにはある。


宍血、つまり赤気を帯びた状態の精血の有無が重要で、骨相以後の状態の肉体(枯骸・究竟不浄)は既に含生のものではないということでもある。そのため妖怪たちもこれ盆血のために好んで欲することはほとんどない。

最終更新:2023年12月17日 17:36

*1 荷田春満『日本書紀神代巻箚記』

*2 長谷川昭道『皇道述義』日止之巻

*3 『愛媛県史 民俗・下』、1984年

*4 『神奈川県史民俗資料調査報告4』、1974年

*5 牛・馬・羊・犬・豕。『法曹至要抄』下巻などには鹿も「畜」に準じるとある。鶏は含まれない。

*6 神奈川県企画調査部県史編集室『神奈川県史 各論編 5 民俗』、1977年