対訳
訳者より
- 「イオランタ」「スペードの女王」を作成したので、未着手だった「マゼッパ」もその勢いで作成しました。既に「エフゲニー・オネーギン」は他の方が訳出済みですので、これで(現時点でテンプレートがある)チャイコフスキー作品はひとまず完了です。
- 実在の人物であるマゼッパ、ウクライナでは独立を求めた英雄ですがロシアから見れば反逆者。この作品の中ではなかなか辛辣な扱いをされており、この世界情勢下では当分は上演は難しそうです。
- マゼッパは年齢こそ老人の域ですが精力的で有能な軍人・政治家であり、若いヒロインと相思相愛になったがゆえに、ヒロインの親族や幼馴染に敵視されてしまいます。年齢差はあるけど本人たちは好き合ってるんだから別にいいんじゃね?と思ってしまうのですが、ポイントはマゼッパがマリアの「代父」であること。正教会の教会法では、代父母が代子と結婚することは禁止されているのだそうです。確かに虐待なりマインドコントロールなりいくらでも悪用可能な立場なので、そこに一定のルールを設けるのは合理的です。だからこそ、油断ならない権力者と思われているマゼッパは(仮に本人達は純愛であっても)周囲からは強い疑念や反発を受けるわけです。
- どうしてもマイナーな作品という位置づけから抜けられないのは、ストーリーの血生臭さもありますが、やはり作品の焦点がぼやけているところでしょうか。チャイコフスキーは本作の初演後にも台本修正を入れたそうですが、確かに読んでいると作者の迷いや紆余曲折が透けて見えます。主人公カップルの悲恋や三角関係に焦点を当てるのか、主人公の果断な行動とその破滅への道筋がメインなのか、それとも登場人物同士の陰謀や裏切りのスリルか。そのあたりがどうもはっきりしません。もっとも、これは元ネタとなったプーシキンの物語詩『ポルタヴァ』にも大きな責任があるようです。もともと散漫かつ長大で評価が割れていた物語詩を、3幕のオペラのリブレットに落とし込むのは少々ハードルが高過ぎたということでしょう。
- しかしながら、さすがチャイコフスキー、リブレットの弱さは曲の良さで全て吹き飛ばしています。既に交響曲第4番や「白鳥の湖といった傑作を書き上げている充実した時期のオペラですのて、シンフォニックなオーケストレーションの中に甘美な旋律が散りばめられ、実に聴き応えのある作品となっています。第3幕の狂ったヒロインと他の登場人物達の全く噛み合わない対話や、子守唄を歌いながらフェイドアウトしていく終結部など、屈指の出来栄えではないでしょうか?(個人的には、オペラの中で描かれる狂女の中でもここは出色だと思います。)
- 「エフゲニー・オネーギン」などと比べれば決してメジャーではありませんが、観ず聴かずにいるには惜しい作品です。この対訳を通じ、皆様に作品への興味を持って頂ければ幸いです。
管理人より
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最終更新:2026年10月21日 09:27