概要
ルドラディス始祖船団、通称「始祖船団」は、
星間機構の圧政から逃れるため、ロフィルナ人を中心とする被征服民が結成した大規模な移民船団である。
正式名称は、指導者
ルドラス・エルクの名を冠して付けられた。
新天地での文明再興を夢見た被征服民の間で、始祖船団の名が自然に広まった。
歴史
始祖船団の航海は二世紀近くに及び、幾世代もの乗員が、生まれてから没するまでの生涯を船内で送った。
脱出
宇宙新暦1206年、
ウラジス・セトルラームの率いる赤軍の航空部隊が管区宇宙港を強襲し、港の発電所を押さえた。遠路移民計画の名のもとで港には大勢の難民が詰めかけ、体制に背いたツォルマリア艦隊までが列に加わっている。
ルドラス・エルクは船団の指揮を執り、約300隻の艦船に50万人以上の乗組員と難民を乗せて、
星間機構の反撃を振り切った。当時の跳躍航法は星間機構の敷いたゲート網に依存しており、網の外を目指す船団は、通常推進で進む世代間航行を前提に組まれている。冶金の技を受け継ぐ
クルサス・フォージの工匠たちも、師弟の組ごと船に身を投じた。技術者を中心とする一団は、エイリア・ヴィン・セサルローンのもとで
「セサルティス技航船団」(通称、技術者移民船団)を結成し、本隊の後を追っている。技術者の流出を嫌う星間機構の手で、技航船団の船体には出航前から細工が施されていた。狂ったナビゲーションシステムに導かれ、一団は本隊の信号を見失ったまま孤立した航路に迷い込み、後に
オクシレインの原形となった。
航海
出航直後の船内は準備の遅れから過密に陥り、密集した船室から船室に疫病が瞬く間に広がった。シールド技術の未熟な時代の航海は難航を重ね、多くの船が予定の針路から逸れていき、最初の数十年のうちに数多の命が失われた。指導部は食料の供給が滞り始めた段階で船内の飲食店を閉じ、配給制に切り替えている。
アリウス・ヴィ・レミソルトは
ルドラスの側近に就いており、配給の不足が深刻さを増した折に再編案を持ち込んで、指導部の支持を得た。混乱が一段落した同1240年代以降も、
不老技術の処置を受けた指導者層と、世代を重ねる一般の乗員との溝は年ごとに深まっている。イドゥニア由来の星教の原理主義は、終わりの遠い日々を送る人々の拠り所として、船内に根を張った。同1300年代に入ると資源の枯渇で艦の老朽化が重なり、飢えは下層を越えて居住艦の中層にまで及んでいく。ルドラスは、処置の副作用で錯乱した乗員が暴動を起こすと、首謀者の処刑を含む厳しい弾圧で応じた。
到達
船団は同1366年にパレスポル星系に辿り着き、第三惑星ゼスタルを目指して減速に入った。出航時の艦船と人命は到達の時点で半数以下にまで減り、生き残った艦も多くが半壊の状態で星系の内側に進んでいる。到達から降下までの二十年間、船団はゼスタルに近づきながら、地表に降下地点を探し続けた。その間も配給は細り続け、降下の日を目前にして没した者の名が記録に書き加えられた。船内で生を受けた世代にとって、惑星の地表は年長者の話に聞くだけの場所であり、土を踏む日は降下の後まで持ち越された。同1386年に最初の降下地点で都市(
学術研究都市ルドラトリス)の建設が始まると、
ルドラス・エルクは、全ての功労者に恩赦を与えた。恩赦は船上で罪に問われた者にも及び、後の
ヴァンス・フリートンとなるヴィニスも、公民として再出発を許されている。降り立った人々の子孫は、同1486年、ゼスタルの地に
セトルラーム共立連邦を打ち立てた。
艦隊編成
船団の艦船は世代間航行を前提に組まれ、用途の異なる艦が互いの不足を補い合った。
旗艦
星間機構から鹵獲した旧巡洋艦に改造を施し、船団の指揮艦に据えたのが「ルドラス・エトアリア」である。巡洋艦として設計された艦体は厚い装甲に覆われ、主兵装にはプラズマ砲が備わる。改造の工程では兵装区画の一部が居室に改められ、
不老技術の処置を受けた幹部たちが、指導者とともに長い航海のあいだ艦内に住まいを構えた。鹵獲の時点で艦に残されていた航法装置は、細工の有無を確かめる分解点検を経たうえで、航海の全期間を通じて使われ続けている。各艦と結ぶ通信回線は旗艦に集まり、船団全体に向けた指令は全てこの艦から発信された。プラズマ砲は船団で最も重い火力にあたり、護衛艦の手に余る脅威に備えて、艦隊の中央で温存された。
ルドラス・エルクは自らの名を冠した艦名を嫌って改名を命じたが、作業は塗料の不足を理由に先送りされ、艦首の文字は降下の日まで元の名を掲げ続けた。
給糧艦
「レンデルム・アリアス」は食料の生産に特化した大型船であり、農場モジュールに水耕栽培の施設を併せ持つ。航海の初期、各艦は給糧艦との取引を通じて食料を得ており、艦ごとの暮らし向きは取引の多寡に左右された。供給が滞って取引が打ち切られると、送り出される食料は指導部の定めた配給の枠に従い、各艦に割り振られるようになる。大型の船体は動きが重く、航路を変える際には、船団の速度がこの艦の足取りに合わせて調整された。艦体の上部は生産の区画に充てられ、下部には各艦の廃棄物が流れ着く区画が広がっていた。作物を育てる層と残渣を処理する層が一つの船体に上下で重なり、栽培槽を巡った水は浄化を経て再び各艦の暮らしに戻されている。食料の出どころを一隻に集めた編成は、艦の不調が即座に船団全体の飢えに繋がる危うさを抱え続け、艦の周囲には平時から護衛艦が厚く配された。
居住艦
20隻以上を数える同型の系列「ロフィルナ・レクテス」が、難民の住まいを受け持った。各艦には通し番号が振られ、難民は番号ごとの艦に割り当てられて、航海の終わりまで同じ艦で過ごす者が多かった。過密と老朽化は暮らしを航海の全期間にわたって蝕み、病人の隔離にも事欠く状態が続いている。各艦の運営は艦ごとに置かれた監督者に委ねられ、配給の受け取りにせよ労働の割り振りにせよ、艦の単位で回された。針路を逸れて連絡の途絶えた艦が出るたびに、番号の列には欠けが生じた。老朽化が進んで放棄の決まった艦の住人は残る艦に分けて移され、過密の度合いは移住が重なるたびに増していく。移された者たちは受け入れ先の艦で新たな区画を割り当てられたものの、元の艦の番号を名乗り続ける家族もいた。同型の艦は間取りが揃っており、別の艦に移った住人も、通路の造りに戸惑う場面は少なかった。
護衛艦
出航して日の浅い時期、小型戦闘艦の群れ「エルク・ヴィ・パルディア」は、
星間機構の追手を退ける任に就き、追跡の気配を捉えた艦から順に迎撃に出た。各艦は機動性を生かして隊形を組み替えながら、足の遅い居住艦の列を外の脅威に備えて守っている。追跡が途絶えた後の護衛艦は船団の外周に散り、進路の先に漂う障害を見張る役に回った。外縁で捉えた異変は通信回線を通じて旗艦に逐一報告され、小型の船体で居住区画を最小限に抑えた艦の乗組員は、交代で居住艦に移って休息を取った。年を追うごとに艦の消耗は進み、交換用の部品は補修艦の在庫から少しずつ切り崩されていく。部品の不足が深刻になった後期には、稼働を続けられる艦の数が目に見えて減り、外縁の守りは手薄になった。外周の持ち場は艦の数が減るにつれて広がり、一隻あたりの見張る範囲は降下の時期が近づくほど長く伸びている。
補修艦
船団全体の修理を一手に引き受けた艦で、運営は技術者の手に委ねられた。「ウラジス・セリカ」の艦内には修理ドックが設けられ、損傷の軽い艦はドックに引き入れて修復されている。ドックに収まる大きさを超える居住艦には艦の側から横付けし、作業艇を差し向けて外殻の上で修理を進めた。外殻での作業は宇宙服を着た技術者の手作業に頼る部分が多く、一隻の修理に長い日数を要した。平時は船団の外縁部に位置を取り、修理を要する艦が出ると、船団の中を移動して現場に向かう。回る順番は推進剤の残量を見ながら決められ、修理を待つ艦の列は航海の後半ほど長く延びた。格納庫には船団の予備部品が集められ、各艦に配る部品の出納も、技術者たちの手で一元的に管理されていた。艦自体が損傷を受けた場合に備え、修理の手順書の写しは各艦に分けて保管されている。修理の手が遠くの艦に出向いている間に起きた故障は、各艦の乗員が手順書を頼りに応急の処置で凌いだ。
指揮系統
船団の統治は、
ルドラス・エルクを頂点とする軍事独裁の形を採った。指導者は不老の処置で歳月を越え、旗艦から航海の全期間にわたって命令を下し続けている。反乱には公開処刑で臨み、遺体を船外に投じた後も、処刑された者の名には罪状を添えて記録に留めた。副司令の地位に就いたのは
不老技術の処置を受けた上級幹部で、各艦を統括して指導者の意志を実行に移した。指導者の指令は幹部を経て各艦の監督者に届き、命令は上から下に向けて一方向に流れている。上層の席には、高位の政治家
ヴァンス・フリートン(オリジナル)も名を連ねていた。幹部たちは特権階級として厚遇され、世代を入れ替えていく一般の乗員から切り離されて暮らした。中層の監督者は下層の管理を委ねられ、労働者と下層民を力で押さえ込む役回りにあった。鞭や電撃棒による懲罰が日常の光景となる一方、上層を優先する運用は航海が長引くほど露わになり、最下層の者に統治の恩恵が届く機会は稀であった。
エリア構成
船内のエリアは階級ごとに分かれ、長い航行のうちに各層の性格が際立っていった。上層は旗艦と主要艦の上部に置かれ、
不老技術の処置を受けた指導者層の居住区画にあてられている。人工重力と清浄な空気が保たれた区画には、娯楽施設から個室まで揃い、数世紀を生きる者の精神を安定させる配慮が凝らされた。中層は居住艦の中間層に広がる労働者の区画で、最低限の食料と居住空間を与えられた家族が、過酷な労働の合間に代を継いだ。区画はセクション単位で区切られ、第17番艦の中層にはアルヴェトラス・セクションが設けられている。セクションごとに行政区立の管理支援学校が置かれ、子供たちは宇宙航行学を中心に学んだ。宇宙新暦1286年からは、
星間機構の遺物として持ち出された球状移動装置を模倣し、反動推進で進む
ボールポッドの劣化再現機が艦内の短距離移動に使われ始めた。下層は居住艦の最下部から給糧艦の底部にかけて広がり、暗く湿った通路に廃棄物が積み上がる。酸素の欠乏に悪臭が重なる区画には、処置の対象から外れた者に加え、副作用で廃人となった者が追いやられ、飢えに苛まれる生存の競争が続いた。外部エリアは護衛艦群に補修艦を加えた外縁部で、宇宙の放射線を浴び、微小隕石にも晒される危険地帯であり、乗組員の多くが短い生涯を終えている。
主な施設
船内の施設は用途ごとに主要艦に振り分けられ、艦の役割と施設の性格が対応していた。
統治区画
指令室は旗艦「ルドラス・エトアリア」の最上部に設けられ、船団の戦略を決める場であった。強化ガラスの向こうに星々を望む室内で、
ルドラス・エルクは航路を定め、各艦から届く反乱の報告に裁きを下している。卓には各艦の人員に物資の残量を添えた報告が日ごとに届き、指導者は数字の動きから船団の綻びを読み取った。航路の修正にせよ配給の方針にせよ、最終の判断は同じ卓上で下され、各艦の監督者は通信回線を介して指示を受けている。雑居房は居住艦「ロフィルナ・レクテス」の下層に置かれ、罪を犯した者と反乱に加わった者を収容した。房の中は鉄格子と薄暗い照明に囲まれ、囚人同士の争いが繰り返されたうえ、処置の副作用で錯乱した者までが同じ房に閉じ込められていた。
ヴィニスも一度、反乱の嫌疑をかけられてここに収容され、看守の暴力に囚人の狂気が重なる日々を過ごしている。房を出た後の男は、以前にも増して固く心を閉ざすようになった。
生産区画
農場モジュールは給糧艦「レンデルム・アリアス」の中核を成し、人工光の下で穀物と野菜を水耕栽培で育てた。栽培槽の保守は中層の技術者が受け持ち、点検の手順は親から子に引き継がれていった。初期の豊かな収穫は船団全体の食卓を支えたものの、後期には土壌の枯渇に電力の不足が追い打ちをかけ、生産は落ち込んでいる。新鮮な作物は
不老技術の処置を受けた管理者の手元に集まり、下層の民の糧は作物の残渣であった。廃棄区画は同じ給糧艦の下層に広がり、腐臭の漂う暗い迷路で、わずかな食料を求める者が廃棄物の山をあさった。処置の失敗で廃人となった者は通路の隅に打ち捨てられ、息絶えるまで同じ場所に横たわっていた。
ヴィニスはゴミ処理の持ち場に就き、半裸で残飯を口にする日々に飢えと屈辱を重ねている。宇宙新暦1286年、持ち場で屈み込む男に
ゾレイモス・ヴィ・ケレキラ=プルームダールが声をかけた。男は高位の政治家に似た容貌(遺伝構造)を見込まれ、廃棄区画の持ち場を離れて影武者の道に引き上げられた。
整備区画
修理ドックは補修艦「ルドラム・セリカ」の中核に据えられ、大型のクレーンに溶接機を並べて、老朽化した艦船の修復にあたった。
不老技術の処置を受けた技術者たちは昼夜を通して作業に就き、長い航海を整備の面から支えている。技術者は艦ごとに担当を割り振られ、艦体の補強に推進機関の調整を併せて受け持った。
クルサス・フォージの工匠たちも、師から弟子に技を手渡しながら、装甲板の打ち直しに腕を振るったと伝わる。部品の不足が続いた後期には、損傷した艦から外した部材を別の艦の補修に回す作業が、ドックの日常となっていった。指導部は士気を保つ目的で、整備士を含む技術者層に物資を優先して回し、許される限りの嗜好品まで行き渡らせた。厚遇された整備士の振る舞いは次第に傲慢の色を帯び、配給を削られた乗員との間に軋轢を生んでいく。修理ドックの外側で暮らす下層の民は、作業を終えて上層の区画に戻る技術者の背を、憎悪を込めた目で見送った。
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最終更新:2026年11月02日 21:21