ヴァンス・フリートン > 経歴

執筆者:@Freeton2


概要

 当記事では、ヴァンス・フリートンの経歴と生い立ちについて纏める。

経歴

虐げられた少年時代

 時は宇宙新暦986年。星間文明統一機構(通称、星間機構)統治下の惑星イドゥニア・ロフィルナ行政管理区(現.ロフィルナ王国)で生まれる。この頃のベオトール家は、代々ツォルマリア人が経営する繁華街で働かされており、父ファルバリス・ベオトールも例外なくツォルマリア人の所有物として客引きなどの労働を課されていた。母ヤシーナ・ベオトールは飲食店を経営するツォルマリア人の元で働かされていたが、雇い主との関係は良好であり、絶滅対象とされた劣等種族の中では比較的マシな生活を送っていたという。幼いヴィニスもまた、ツォルマリア人が所有する管区学校に通わされ、複数の児童からいじめを受けるなどの仕打ちに耐えていた。下等クラスを卒業するまでの間に、担任から虐待を受け、卑屈でおとなしい性格をしていたが、後の酷薄さはこの頃の体験が原因で形成されたらしく、次第に反社会的な妄想に取り憑かれてしまった。同1000年。14歳を迎えたヴィニスは病気を理由に授業をさぼるようになり、幾度となく留置所に連行されるという前科を重ねた。極貧の荒んだ家庭環境(主に父親の暴力が原因)も相まって、それすらも『外よりマシだ』と考えてしまうほどに追い詰められたのである。やがて釈放が近づき、癇癪を起こしたヴィニスは聞き手となっていた女性職員に自らを殺すよう懇願し始め、処分されるリスクも顧みず、重度の違反行為を繰り返した。

無力な青年時代

 以上の流れから、暫しの間、少年刑務所での作業に甘んじていたが、宇宙新暦1011年。25歳の時に刑期を満了すると社会復帰を命じられ、繁華街での奴隷労働に明け暮れた。家族との接触を禁じられる中、ヴィニスは日々異なる現場を転々とし、アパレル・品出し・データ入力など、あらゆる仕事に携わったのである。同1016年(30歳)まで社会管理局の指導を受けつつ、文化的とは言えない、その日暮らしの辛さに耐えていた。同1021年(35歳の時)。星間機構によるオートマターの普及から職を追われると、再び留置所に収監され、働く意欲を失った。騒がしい雑居房の中で、寝て過ごすだけの毎日を送っていたヴィニスは、絶滅プログラムに基づく廃棄措置対象となり、死を待つだけの存在となった。幼少期の経験から元々生きる意欲に欠け、道具のように酷使されるだけの人生に終止符を打つのも悪くないと思っていた矢先、大きな転機が訪れたのだという。

テロへの目覚め

 同1024年(38歳の時)。刑区エリアにおいて大規模な暴動が起こると、ヴィニスが収監される雑居房も解放され、『共に戦うか今すぐ死ぬか』の選択を迫られた。元より、死を受け入れていたヴィニスは自分を苦しめた社会に一矢報いることを勧められ、主犯ルドラス・エルク率いるテロ組織(ロフィルナ国民武装赤軍解放戦線)に加わったのである。そこから先は、組織の上官から忠誠心を試される過酷な日々であり、強盗任務を課せられたヴィニスは自らチームを招集。ある地方銀行において職員もろとも金庫を爆破し、警備ドロイドと交戦の上、逃走を図るという荒業をやってのけた。そのような任務を幾度となくこなし、上官から勤勉さを認められると、晴れて上部団体の正規メンバーとして迎えられたのである。同1031年。45歳となった頃には、有力な幹部候補の一人となっており、自信を深めたヴィニスは自らが裏社会のトップに立つ決意を固めた。同1034年(48歳の時)。都市メインバンクにおける銃撃戦から重症を負うと、その場で脳を取り出され、再び意識を取り戻した頃には不老のキメラとなっていた。身体のあらゆる箇所に制御チップを埋め込まれたヴィニスは、全ての罪を洗いざらい白状し、世間の嘲笑を浴びながら公共の犬として働くことを余儀なくされたのである。ヴィニスは自身を見下ろす女性監視官(アリウス・ヴィ・レミソルト:当時22歳)に下郎の如く命乞いをし、その惨めな姿を公然と晒されルドラスの失望を招いた。

復讐の決意

 同1134年。大仕事に失敗し、公共の犬となってから一世紀を迎えた頃。ヴィニスは以前にも増して過酷な現場を転々とし、建設・清掃・接客など様々な苦役を課せられていた。この間、ツォルマリア人の上司に怒鳴られ、取引先の客から暴行を受けるなどの仕打ちを受け続けたが、最底辺の犬に訴えを起こす人権はなく、ただじっと地獄のような日々を耐えていたのである。味方であるはずのロフィルナ人からツバを吐かれ、ヴィニスは心の底から弱者の存在を憎むようになった。星間機構が被征服民に対し、社会への貢献を強いる中、『自ら進んで奴隷になりたがる奴は生きていても仕方ない』と考えるようになり、積極的に反乱分子と思われる労働者の言動を通報した。その中には、ヴィニスの境遇を哀れに思い手を差し伸べたツォルマリア人もいたが、全てに諦めを付けたヴィニスに人の心は残っておらず、自ら支配人の靴を舐め虐待を受けるなどしながら自身に対する所内の警戒を解いていった。同1201年。星間機構の勝利を祝う社交の場で、ヴィニスが渾身の動物踊りを披露すると、気を良くした所長が相応の芸を披露するよう要求。ヴィニスは先の事件で埋め込まれた制御チップを何とかするよう面白おかしく懇願し、協力を得ることに成功したわけである。そこから先は、本国からの独立を目論む狂気の女性監視官と、解放された闘争奴隷による惨たらしい復讐劇が続いた。

マイナスからの出発

 同1204年。数多の追手を振り切り、ジェルビア山中に逃れたヴィニスは東国レシェドルティを目指して旅をしていた。件の女性監視官(アリウス)もヴィニスが脱獄を決行する際についてきており、共犯となって以降は武装赤軍の一員として生き残ることに全てを賭けていたのである。先の脱獄事件において、嵌められたことを悟ったアリウスは、逆にヴィニスを脅し、自らの経歴を盾に単独での逃亡は絶対に不可能であることを彼に悟らせた。そのような経緯を経て、やむを得ずアリウスの独立計画に協力することを約束したヴィニスは、これまでの彼女の仕打ちに憎悪を抱きつつも、物資の調達を手伝わせるなどして道中の鬱積を晴らしたわけである。同1205年。紆余曲折を経て、ついにレシェドルティの地に辿り着いた二人は、現地の独立派と接触。交渉の末、利用価値を見いだされたアリウスを手土産にヴィニスの武装赤軍への復帰が決まった。

 彼は激昂するアリウスに『地獄へようこそ』と吐き捨て、その場を去ったが、この件は『約束の履行』を期待していた彼女に報復を決意させる根深い禍根となって後のヴィニスに降り掛かった。同1206年。ウラジス・セトルラーム率いる赤軍航空部隊は、管区宇宙港を強襲。係る発電所を占拠し、そこから得られる莫大なエネルギーを用いて一時的に東半球を下すことに成功した。港内には遠路移民計画の名のもと世界中から志を共有する難民が押し寄せ、ロフィルナ人に留まらず、現体制に不満を抱くツォルマリア艦隊も赤軍の列に加わったのである。アリウスを売って隊への復帰を果たしたヴィニスは、忠誠心を疑われ行列の最後尾に追いやられてしまった。星間機構の反撃が激しさを増す中、ルドラスが指揮を取る移民船団は星系外への脱出に成功し、以後、長きに渡る逃避行を続けた。

どん底からの復活

 そこから先の歴史は苦難の記録を重ねていく。シールド技術が未熟であったこの頃、その旅路は非常な困難を伴い、やがて多くの船が意図せぬ方向へと逸れてしまったからだ。当初、給糧艦との取引で安定していた食料供給が滞ると、船内指導部は間もなく全ての飲食店を閉鎖し、順次過酷な配給制へと切り替えたのである。そのような混乱を経た、同1240年代。多くの労働者が極度の節制に苦しむ一方、整備士を含む一部のエリートに対しては許容される限りの贅沢品を供給し、崩壊寸前の士気を辛うじて保っていた。乗船前の醜態から、敗北者の烙印を押されて久しいヴィニスは出世の道を拒まれ、荒くれ者達が集う劣悪な最下層へと追いやられてしまう。挨拶代わりに身ぐるみを剥がされて以降は、かつての奴隷生活が懐かしく思えるほどの飢餓に直面した。同1286年。いつものように現場のゴミ処理をこなし、半裸で残飯を貪っていると医学技監を名乗る女性から声をかけられ、高位の政治家とよく似た有用な影武者としての利用価値があることを伝えられた。この人物こそ、後にプルームダール財閥を立ち上げ、ともに政権を担うことになるゾレイモス・ヴィ・ケレキラであった。

新天地セトルラームにおける成り上がり

 同1366年。長きに渡る世代航行の末、ついにパレスポル星系に到達した移民船団は本来の目的地とされる第三惑星ゼスタルを目指し、減速態勢に入った。この時、一種の影武者として厚遇されるヴィニスは洗脳教育を担う組織に身を置き、かつて星間機構に施された不完全な肉体を保っていたわけだが。記憶の欠落など様々な事後障害を患いつつも、新たに導入された信用ポイントを積み重ねる形で自らの生活基盤を整えていった。そうこうしているうちに移民船団はゼスタルに到達。時は1386年。最初の降下地点において、都市建設が始まるとルドラスは全ての功労者に恩赦を与える意向を表明し、軍の庇護下で働くヴィニスも晴れて公民としての再出発を許されたのである。統治制度を巡る移民同士の対立が先鋭化していくにつれて、ゾレイモス率いる経済界も宗教を有効活用する方針へと傾いていった。そして、同1486年。セトルラーム連邦が成立すると、ヴァンス・フリートン・オリジナルはイドゥニア星系の解放を望むエルドラーム教徒の声を代弁し、宗教政治家としての名声を高めていく。一方のヴィニスは神など微塵も信じておらず、反骨精神を内に秘めたまま栄達の機会が訪れるのを待ち続けた。

憎悪による宗教弾圧

 同1806年。原初の地に集いしイドゥニアの民は、始祖ルドラスの名のもとに統合を果たし、ゼスタルを発展させ、更なる繁栄を謳歌していた。この400年の間に、5つの星系を下したセトルラーム連邦は、来たるべき星間機構との戦いに備え、艦隊戦力の増強を進めてきたのである。そして、その政府を動かす者は、ヴァンス・フリートン伯爵・初代大統領。今や一大勢力となって久しいプルームダール財閥のナンバー2として教会との癒着を続けていた。同1812年。権力の腐敗に憤る世俗主義者が一斉に蜂起すると、その鎮圧を名目に軍を出動させ、次いで教法庁を制圧したのである。この時、自らの背信を追求されたヴァンスは、保身のため、親衛隊による軍事クーデターを演出し現体制に不満を抱くツォルマリア人将兵のガス抜きも行わせた。実際には最初から世俗派と通じており、形式的な裁判を経て再び大統領の座に返り咲くことを目論んでいたらしい。政治犯を釈放の上、新体制における自らの立場を補強すると、今度は裏で糸を引く経済界の操り人形を演じゾレイモスを喜ばせた。

 同1814年。政府による情報統制が功を奏し、財閥間の折衝に一定の合意が得られると、ヴァンスは躊躇なく必要な改革を進め、抵抗するエルドラームの信徒を虐殺した。この一連の粛清をもって1815年、セトルラーム連邦は名実ともに三大財閥による資本主義軍権体制へと移行したのである。この一連の流れでルドラスの信用を得たヴァンスは、かねてからの密約の通り、パレミナ侯領を治める一人の地方領主としての侯爵号を叙勲された。同1865年。新体制による世俗統治が安定してくると、ヴァンスはプルームダール財閥との決別を表明。軍の支持を背景にフリートン財閥を結成し、企業統治を目論むゾレイモスの怒りを買った。ルドラスは将来、フリートン家にをやることを約束。絶望からの努力を褒め称え、ヴァンスを喜ばせたが、ついでに第二の妻となるアリウスを引き合わせ、恐怖に慄くを揺さぶった。ここに至って、試されていることを確信したヴァンス(ヴィニス)は、侮蔑の視線を向けてくるアリウスの手に口付けをし、その出世に心から祝福する意向を伝えたという。オリジナルと入れ替わって久しい影武者にアリウスは優しく語りかけた。『貴方の事は、よく存じております』……と。

這い寄るトラウマ

 同1900年代。長年に渡る根回しが功を奏し、ルドラスの信任を得たヴァンスは支持母体である三大財閥との連携を強め更なる圧政へと突き進んだ。先の変革において、多くの利権を失ったゾレイモスは現体制を憎んでおり、その打倒を目論んでいたが、当面の施策として財閥間の連立を維持することに合意した。一方、アリウスの復讐を恐れたヴァンスは、各界の有力者と交渉し、万が一の事態に備えたのである。そうした水面下の駆け引きが続く中、同2000年。連邦航空宇宙軍はファーリルスト星系近傍にて所属不明艦隊(後に連合帝国宙軍と判明)と接触し、交戦状態に突入した。幸い、防衛体制は整っており即座に反撃に転じる流れとなったが、敵の侵攻ルートの想定から、その正体は当初、星間機構系列のイドゥニア植民宇宙軍である可能性が濃厚とされた。同2050年。周辺情勢が落ち着き、楽観ムードが漂ってくると、ヴァンスはルドラス大公率いる守旧派の反対を押し切り、更なる解放路線へと舵を切った。

 財閥間の主導権争いが激しさを増す中、ウラジス第一公妃率いる主戦派が台頭するとルドラスは職を解かれる流れとなり、志半ばにして謀殺されてしまう。後を継いだのは、書類上、ウラジスの縁戚にあたるアルバス・ヴィ・レミソルトで、失脚したルドラスの第二公妃アリウスの家系(レミソルト公家)に連なる大祖父として崇拝されていた。当のアルバスとしては、かつてのレジスタンス活動に起因する星間機構の報復から、愛する娘(アリウスの母)を死に追いやった自責の念を抱いており、頑なに政治の表舞台に立つことを拒んできたわけだが。復讐心を滾らせる孫娘(アリウス)の愚行を止めるため、裏から糸を引く大統領との交渉を決断した。その結果、フリートン政権による事実上の内事独裁権が成立し、抵抗する力を持つ者は軍の実質的トップに立つザルドゥル・ヴィ・ヴェイルストレーム元帥のみとなった。この時点において、国政の過半数を掌握したヴァンスは次なる一手を打ち、アルバスとの密約通り政敵アリウスを粛清リストから除外。代わりに彼女が自ら戦場へ発つよう促し、責任共立の名のもと間接的な謀殺を試みたのである。元より、ヴァンスを信用していなかったアルバスは、表面上、フリートン政権の傀儡を装いつつ、政治的無関心を貫くザルドゥル元帥との交渉計画を練っていった。

第一次ゴルヴェドーラ戦争

 同2150年。セトルラーム周辺の敵性勢力(連合帝国宙軍)を駆逐し、イドゥニア解放が現実味を帯びてくると今度はテルスヴィン星系近傍に新たな敵性勢力が現れ、セトルラーム領内各所を守る防衛部隊と衝突した。遅れて同2175年。一連の報告を受け取ったヴァンスは情報機関に係る侵略者の所在を特定するよう命じ、年内に星間機構系列の旧植民地文明であることを知った。そうした脅威を前にイドゥニア解放計画は後回しにされる流れとなり、ギールラング星域戦国軍事同盟との総力戦に突入したのである。この間、セトルラーム政府は2000年に接触した敵性艦隊と交信を続け、同2185年にユミル・イドゥアム連合帝国との停戦条約を締結した。この時、軍事的な優位を確信していたヴァンスは、粗暴な連合帝国を星間機構に匹敵する絶滅対象と断定。係る航路を封鎖し、更なる軍拡へと突き進んだのである。このような政策は、やがて主戦派による完全な征服構想を芽生えさせ、事前調整も殆どなされぬまま、多くのセトルラーム国民を無慈悲な侵略戦争へと駆り立てていった。以上の経緯を経て、反撃に転じた連邦軍はギールラング統治下の諸文明を併呑し、解放政策の名のもと管理区指定に基づく苛烈な連邦化政策を推し進めたのである。しかし、同2614年。遠征艦隊がギールラング本国(バジタルーナ星系)に迫り、戦勝間近とされるタイミングで帝国艦隊によるセトルラーム本国(パレスポル星系)への侵攻が始まった。

セクター・イドゥニア大戦中初期

 ギールラングを下すまでの間に徹底交戦を続けるか、即時講話し、遠征艦隊を呼び戻すべきか?究極の選択を迫られたフリートン政権は、数的劣勢に苦しむ諸星系に徹底抗戦を命じつつ、全ての主力艦隊をパレスポル星系に後退させた。その結果、領有星域の大部分を失い、帝国宙軍の進撃を煽るギールラングの術中に嵌ってしまったのである。講話交渉を決断した頃には、イドゥニア方面に至る全ての航路を失って久しく、同2750年、パレスポル星系に到達した帝国遠征軍の猛攻を受ける流れとなった。この時、大量破壊兵器による焦土作戦を検討し始めていたヴァンスは自ら軍上層部にメスを入れ、指揮系統の統一に乗り出したが、首都星ゼスタルへの包囲網が狭まる中、それ以上に最悪のシナリオ(クーデターの誘発)を想定しなければならなかったのだという。実際、そうした計画を進めるアルバス大公は早期の停戦を模索し、敗戦の責を被ってでも終末姿勢に傾く主戦派の企てを阻止する覚悟を固めていた。以上の経緯から、同2850年。守旧派による武力革命が現実味を帯びてくると、ヴァンスは最終防衛ラインを固める全部隊に徹底的な焦土作戦を実行するよう命令し、勝利を確信する帝国艦隊に対して、億単位の犠牲も厭わない苛烈な戦略爆撃へと踏み切らせた。

セクター・イドゥニア大戦中後期

 同2974年。大量破壊を伴う両軍の戦いは異次元的な汚染を招き、以後、長きに渡る消耗戦へと推移した。首都星ゼスタルはザルドゥル元帥率いる精鋭艦隊によって守られていたが、その他の惑星社会は軒並み荒廃の一途を辿っており、組織的な連携すら覚束ない状況へと陥っていた。一方の帝国艦隊も本国からの増援が途絶え、決め手に欠いているであろうことが予想される中、時のフリートン独裁政権は抵抗する諸侯に対し、和解の用意があることを通達。アルバス率いる革命派の切り崩しを図るとともに段階的な共立体制への移行をゾレイモスに提案した。数次に渡る交渉の結果、同3000年に労働組合が結成され、共立連邦は三元君主を奉る社会主義体制へと移行したのである。この時、ヴァンスは自身への忠誠を条件として多くの利権をプルームダール財閥に差し戻す決定を下したが、当のゾレイモスは約束の履行を信用しておらず、引き続き体制内部における両者の神経戦が続いた。同3250年。パレスポル星系の戦況が膠着する中、ギールラング方面を担う主力艦隊から休戦の報がもたらされると、閣内は一気に帝国に対する反攻路線へと傾き、国内世論もヴァンスの演説に同調した。惨憺たる未来予測の結果に心を痛めたアルバス大公は、イドゥニア星系攻略時点での講話交渉を提案。早期の復興に努めるよう求めたが、ヴァンス・フリートン率いる有力諸侯の信任を得られず、失意のまま筆頭公爵の職を解かれてしまった。次に重責を担うは、中道保守を自認する第一公子のゾラテス・ヴィ・レミソルトであり、その優柔不断な性格から政府にとって御しやすい人物として推薦された。

セクター・イドゥニア大戦後末期

 同3515年。アリウス含む主力艦隊がゼスタルに帰投すると、フリートン政権は早速、武装の刷新を命じ停滞して久しいイドゥニア解放計画を始動させた。この時点において、完璧な独裁権力を誇るヴァンスは自らの誤算を猛省。今度こそアリウスの息の根を止めようと画策したが、鬼気迫るザルドゥル元帥の申し立てに恐れをなし、やむを得ず彼女の才覚を認めたのである。そもそも救国の英雄を物理的に退けること自体が非現実的で、絶望に打ちひしがれていると、再び帝国軍襲来の報が齎され、考える間もなく出撃の命令を発する流れとなった。非の打ち所がない数々の功績から、外域連合艦隊副司令に着任したアリウスは、ギールラングで培った指導力を遺憾なく発揮し、これまでの苦戦が嘘かと見紛うほどの勝利を重ねた。死の恐怖に取り憑かれたヴァンスは、自らを共立の体現者と位置付ける個人崇拝を推し進め、やがて大勢の部下を伴い復讐しに来るであろうアリウスとの戦いに備えた。

 同3952年。戦線は遠く離れたイドゥニア空域へと移り変わり、クラルプランダル上級大将率いる連合艦隊は周辺の制空権を掌握。同4250年に差し掛かると、帝国本土の攻略も現実味を帯びていき、ヴァンスはこれを政府の功績であるかのように宣伝させた。しかし、そうした主戦派の策略を良しとしないザルドゥル元帥は、意図的に前線への伝達を遅らせ、聡明なアリウスに段階的な撤退を促したのである。これは、着々と距離を詰めてくるギールラング艦隊の脅威を考慮に入れた上での奇策とされたが、一方のヴァンスはそうした元帥の真意に気づくことすら出来ず、帝国本隊による反撃の知らせをもって自らの首を締める格好となった。同4500年。求心力を失ったフリートン政権は、帝国との講話に応じ、イドゥニア星内の一部を取得の上、平和条約を締結。これにより、大敵と定める連合帝国から多くの土地を解放し、一定の実利も得たわけだが、空前絶後の損失を埋めるには程遠い内容として非難された。ヴァンス・フリートン率いる連邦政府は苦し紛れに建国当初の目的とされたロフィルナ王国の独立を強調。かつて自らが切り捨てた守旧派のナショナリズムを煽り、体制の立て直しを試みるも、全てが手遅れで議会内部における新たな改革派の台頭を招いてしまった。同4520年。大勢の支持者を率いて、堂々と帰国したアリウスは独裁政権の打倒に乗り出した。

第二次ゴルヴェドーラ戦争

 その後の歴史は、ヴァンスにとって地獄の情勢が続いていく。これまでの大戦で疲弊したセトルラームにギールラングの侵攻を止める手立てはなく、ヴァンスは自ら国際社会に助けを求め、有志連合の庇護下に入ることを余儀なくされたのである。初代ルドラスが移民船団を結成し、その後の長きに渡る逃避行を強いられた元凶。即ち、ツォルマリア文明の施しを受けることは、当時のセトルラーム国民にとって歴史を否定するも同然の裏切りであり、その憎悪の矛先は民主化を求める革命の追い風を受けてフリートン政権に襲いかかった。責任を問われたヴァンスは当然、係る現実を訴え事態の収束を試みたわけだが、事の推移に神経を尖らせるオクシレインの手前、実力を振るうわけにもいかず、ゾラテス大公の要求に屈する形で諸制度の改革を進めていった。この間、数多の外交交渉において活躍し、ロフィルナ文明復権の立役者となったアリウスは自ら改革派の指揮を取ってヴァンスを追い詰めていく。

 彼女の思惑通り、体制内部における有力諸侯の造反も相次いだが、ザルドゥル元帥率いる正規軍の動きを読み取れず、この時点ではまだ強度の圧をかけるに留まっていた。そのような緊張の中でも、有志連合の支援を受けたセトルラーム艦隊はギールラング領内に進撃し、抵抗を続ける海賊諸侯の降伏を促したのである。同4761年。ユミル・イドゥアム連合帝国が有する惑星統括AIが一斉に反乱を起こすと、その支配領域は加速度的に広がり、セトルラームを含む近隣文明の安全をも脅かす事態となった。戦後帝国軍の脆さが露呈し、国際共立監視軍が動き出すと係る交戦国に対しても即時停戦の要求がなされ、全ての当事者が交渉のテーブルにつく流れとなった。今次戦争の勝利をもって求心力の回復を目論むヴァンスの期待は、いともたやすく踏み躙られる様相を呈し、同4786年、相互不可侵以外の成果を得られぬまま、旧ギールラング星域(対ツォラフィーナ戦線)における軍事行動を止める結果となった。

屈服と忠誠・平和路線への転換

 同4790年。全ての準備を整えたセトルラーム中央遠征軍は、大戦終結以降、新たに敷設された大型航路.宙域大運河を通じて帝国領内へと進軍。未だ自己増殖を続けるAI部隊の駆除に乗り出し、各地を守る帝国軍との連携を強めた。一方、ロフィルナ王国への編入を不服とした帝政レナリス国(旧帝国貴族領)との戦いが続く中、アリウス率いる解放諸国(後のロフィルナ連邦共同体)は着実に失地を取り戻していき、係る事態の収束を成し遂げたのである。同4801年。ガルーネ・ヴィ・ユミル・イドラム二世が事態の収束宣言を発した頃には新世二大国(ツォルマリア、オクシレイン)による冷戦構造が成立して久しく、凋落の一途を辿るフリートン政権もオクシレインとの妥結を望むツォルマリアによって事実上コントロールされる状況となった。以上の経緯から、ゾレイモス率いる経済界はヴァンスを見限り、独裁体制を支えた陸軍主流派もアリウスの側に寝返ってしまった。

 同4895年。ゾラテス大公による退位宣言がなされ、アリウスが筆頭公爵に就任すると、勢いづいた改革派は更に多くの諸侯を取り込んでいき、事態の収束を要求するザルドゥル元帥と対峙した。一方、外国勢力の動向を睨むアリウスは長期的に事を構えるリスクを考慮し、残る政府関係者に対して、一定の身分を保障する事と引き換えに自らへの忠誠を誓うよう提案したという。憔悴しきったヴァンスは事の内容を文書にして取り纏めるよう要求。その結果、和解のテーブルにつく流れとなり、段階的な平和裏の民政移管に協力することで合意した。同5000年(共立公歴0年)。航空宇宙都市パルディステルにおける改暦セレモニーで、文明共立機構が成立すると、セトルラームにおいても新憲法が施行され、以後、主権在民を掲げる議会制民主主義に移行したのである。共立公暦20年。アルゼヌーク紛争を巡る救国行動党政権の失態から、民主政治の崩壊が懸念されると、アリウス率いる連邦評議会は軟禁状態のヴァンスに償いの機会(事実上の恩赦)を与え、大統領としての返り咲きを黙認した。……公約の実現に成功すれば、これまでの汚名をそそぐことができるかもしれない。失敗すれば公開処刑の憂き目を見ることになるだろうが。誅殺の恐怖に震えたヴァンスは必死で国の立て直しを図り、衰退して久しいセトルラームの経済を向上させることに全てを費やした。

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最終更新:2025年01月22日 00:07