概要
 東部戦線・ヴァルヘラ要塞攻防戦は、共立公暦1004年、コックス軍・ヴァルヘラ州軍政府と
ユミル・イドゥアム連合帝国の間で繰り広げられた。
第三次ロフィルナ革命における大規模戦闘の一つである。皇帝
トローネ・ヴィ・ユミル・イドラムは、長年の同盟国であるセトルラームとの協調と、イドゥニア星域における勢力均衡の維持を目的に、東部戦線への介入を決断した。この介入の主目標は、コックス政権軍の重要拠点であるヴァルヘラ州軍要塞の制圧であり、これを通じてロフィルナの抵抗勢力を分断し、セトルラームの戦略的優位を支援することだった。帝国陸軍は、数世紀にわたり刷新された機械化部隊を駆使し、一時的に東部戦線を圧倒した。しかし、戦争の長期化と国内事情を理由に1006年末に撤退を決定し、1007年春までに戦線から完全に離脱した。この介入はロフィルナ東部の戦況に大きな爪痕を残したが、帝国の限定的な目的と戦略的判断により、戦後の支配権確立には至らなかった。セトルラームとの関係は撤退後も同盟の枠組みの中で維持され、両国の協力体制に亀裂が入ることはなかった。
経緯
 共立公暦1004年3月、帝国はセトルラームとの同盟関係を基盤に、東部戦線への軍事介入を開始した。投入された戦力は帝国陸軍の精鋭部隊で構成されており、具体的には第3機械化軍団、第7重砲兵師団、第12精鋭歩兵軍、そして支援部隊が含まれていた。第3機械化軍団は主力戦車、重装甲歩兵輸送車、移動式指揮所を擁し、戦車にはプラズマ砲と多層装甲が搭載されていた。第7重砲兵師団は長距離プラズマ砲と対空・対地兼用ミサイルランチャーを配備し、長距離砲は広範囲に深刻な破壊をもたらす威力を持っていた。第12精鋭歩兵軍は兵士からなり、エネルギーシールド付き戦闘服と高出力レーザーライフルを標準装備として携行していた。支援部隊には無人偵察ドローンと後方補給用重輸送車が含まれ、ドローンは高高度での長時間監視が可能だった。作戦名である「焦土の楔作戦」は、ヴァルヘラ州軍要塞を楔のように突破し、コックス軍の補給線を分断する戦略を意味していた。初戦はルギナス渓谷への進攻で幕を開けた。偵察ドローンが渓谷内のコックス軍拠点を詳細にマッピングし、重砲兵師団が集中砲撃を実施した。プラズマ砲の青白い光が夜空を切り裂き、トーチカや補給基地が次々と炎に包まれた。砲撃の最終日には弾薬庫が誘爆し、轟音と共に黒煙が渓谷を覆った。続いて第12精鋭歩兵軍が夜襲を敢行し、エネルギーシールドで敵の反撃を防ぎつつ、レーザーライフルで守備隊を制圧した。捕虜を取らず速戦即決を優先し、渓谷を掌握した帝国軍は焦土戦術を徹底した。占領地域の橋梁や道路を破壊し、コックス軍の再編を阻止した。この初戦での迅速な勝利はセトルラームに帝国の軍事力を印象付け、東部戦線での連携を強化する契機となった。
 1004年5月、帝国陸軍はヴァルヘラ州軍要塞の包囲作戦に移行した。第3機械化軍団が要塞外郭に進出し、主力戦車のプラズマ砲で防御施設を連続攻撃した。砲撃音が山岳地帯にこだまし、要塞のコンクリート壁が溶け落ちる光景が広がった。同時期、第12精鋭歩兵軍は要塞周辺の鉱山地帯に潜入し、坑道を利用した奇襲でコックス軍の弾薬生産施設を爆破した。黒煙と火花が空を染め、この攻撃でコックス軍のレアメタル供給が一時途絶し、装甲車生産が停滞した。セトルラーム空軍との連携を保ち、東部戦線の補給線分断に成功した帝国軍は、1004年末までに要塞の外郭防御をほぼ崩壊させた。一時的にヴァルヘラ州東部の支配を確立すると、占領地域に臨時補給基地を設置した。重輸送車が弾薬と食料を運び込み、前線兵士に休息を与えた。しかし、コックス軍は予備部隊を動員し、山岳地帯に拠点を移して抵抗を続けた。ゲリラ戦術で帝国軍の補給車を襲撃し、鹵獲した装備で反攻を試みた。
 1005年、帝国陸軍はヴァルヘラ州軍要塞への攻勢をさらに強化した。年初から春にかけて、第3機械化軍団が要塞周辺の山岳地帯に新たな前線を構築し、主力戦車の機動力を活かしてコックス軍の防御拠点を次々と突破した。3月には要塞北部の高地で大規模な戦闘が発生する流れとなり、帝国軍がプラズマ砲で敵の砲台陣地を焼き払った。炎と煙が山頂を覆い、コックス軍の守備隊が壊滅した。この勝利で帝国は要塞への圧力を強め、補給基地を前進させて兵站を固めた。夏には第7重砲兵師団が要塞中枢への長距離砲撃を開始し、連続発射で要塞の主棟に深刻な損害を与えた。爆発で鉄骨が歪み、内部の通信施設が機能停止に陥った。一方、コックス軍はヴァルヘラ州軍政府の支援が減少する中で、山間部のゲリラ戦に頼るしかなかった。帝国軍の補給車団が襲撃され、輸送車が破壊される事件が頻発した。秋になると、ヴァルヘラ州内部でティラスト派への反発が強まり、一部高官が中立を宣言した。これによりコックス軍の戦力は分断され、帝国軍は一時的に優勢を保った。しかし、山岳地帯の悪天候と補給線の延伸が重装甲部隊の機動力を制限し、戦線は膠着状態に突入した。兵士たちの疲弊が目立ち、前線指揮官から長期戦のリスクを警告する報告が皇帝に届けられた。
 1006年、戦争の長期化が帝国に深刻な影響を及ぼし始めた。東部戦線での死傷者が増加し、戦費は当初予算の倍を超えた。国内では宰相
パヴェル・クロキルシが軍事支出の削減を求め、臣民の間ではロフィルナの泥沼に巻き込まれるべきではないとの厭戦感情が広がった。同時期、
平和維持軍がロフィルナ中央部に介入を強め、
ゼノアビリティ・プランの展開が噂されるなど、戦況は混迷を深めた。帝国陸軍はヴァルヘラ州軍要塞への最終攻撃を試み、第7重砲兵師団が要塞中枢にプラズマ砲撃を集中させた。爆発で要塞の東塔が崩れ、瓦礫の下にコックス軍兵士が埋まった。しかし、コックス軍のゲリラ部隊が山間部から反撃し、帝国の補給車団を待ち伏せで壊滅させる事件が頻発した。鹵獲された主力戦車がコックス軍の手で再利用され、帝国兵を震撼させた。
 1006年秋、
トローネ・ヴィ・ユミル・イドラムは、セトルラームの
ヴァンス・フリートン大統領と緊急会談を開き、戦況を分析した。セトルラーム側は帝国の継続参戦を求めたが、皇帝は「我が国の国益は東部の安定化にあり、全土制圧ではない」と主張した。両者は同盟の枠組みを尊重しつつ、帝国の段階的撤退で合意した。撤退計画では、1006年12月から部隊の縮小を開始し、1007年春までに完全離脱を目指すことが決定された。撤退の実行は迅速かつ秩序立って進められた。まず第12精鋭歩兵軍が後退し、次に第3機械化軍団が戦車と輸送車を回収した。重砲兵師団は最後まで掩護射撃を行い、コックス軍の追撃を阻止した。撤退中、補給基地の放棄を避けるため、残存物資を焼却し、鹵獲リスクを最小限に抑えた。しかし、戦車やドローンが回収しきれず、コックス軍や第三勢力に渡った。1007年3月、最後の輸送船がヴァルヘラ州南部の港湾を出航し、帝国軍は東部戦線から姿を消した。フリートン大統領は撤退を戦略的再配置と公に評価し、帝国との関係悪化を回避した。両国は戦後も軍事技術の共有を継続し、信頼を維持した。
影響
 帝国陸軍の焦土戦術は、ヴァルヘラ州軍要塞周辺を徹底的に荒廃させた。ルギナス渓谷のインフラは壊滅し、鉱山地帯の生産施設が失われたことで、コックス軍のレアメタル供給が途絶した。東部戦線の戦力は一時的に半減し、コックス政権の崩壊を加速させた。しかし、帝国の撤退後、ヴァルヘラ州軍政府の一部がセトルラームに降伏し、残存勢力が分裂した。州東部は無政府状態に陥り、小規模軍閥が争う混沌の地となった。帝国が残した戦車やドローンは、
ステラム・シュラスト州軍政府・
民主革命ロフィルナ軍などの第三勢力に鹵獲され、彼らの軍事力を強化した。戦後、ステラム・シュラストは、これらの装備を分解し、自軍向けに改良した火砲を生産し始めた。また、焦土化された地域では住民の避難が続き、人口の割合が流出し、難民キャンプが点在する荒野と化した。ヴァルヘラ州の農村では焼け野原が広がり、生き残った住民が廃墟から木材や金属を拾い集めて簡易な住居を作る姿が見られた。子供達が瓦礫の中で遊び、老人たちが焚き火を囲む中、かつての繁栄は遠い記憶となった。
 東部戦線での補給線維持を期待していたセトルラームは、帝国の離脱で戦略の見直しを迫られたが、両国関係は悪化しなかった。フリートン大統領は帝国の決定を同盟の範囲内での合理的判断と受け入れ、1006年の会談で新たな協力協定を締結した。戦後、セトルラームは帝国から復旧資源の供与を受け、経済の立て直しに活用した。帝国側もセトルラームの宇宙艦技術を参考に、次世代装備の開発を進めた。この相互依存関係は、イドゥニア星域での両国の地位を維持する基盤となり、戦後の外交でも協調が続いた。セトルラームの市民からは帝国への感謝の声が上がり、フリートン大統領は退任前の議会演説で帝国の貢献を称賛した。一方、帝国側はセトルラームの協力がなければ東部での戦果は限定的だったと認め、両国の絆を強調した。
 国内では、戦争の結果が複雑な反応を引き起こした。東部戦線での人的損失と戦費増大は、議会で軍事予算の見直しを求める声を生んだが、
トローネ・ヴィ・ユミル・イドラムの権威は揺らがなかった。皇帝は撤退を国益優先の勝利と位置づけ、国民に工業力の強化を約束した。戦闘経験は陸軍の機械化技術の向上に寄与し、次世代戦車の開発が開始された。この新型戦車はエネルギー効率が向上し、装甲厚が増加した設計で、試作用の車両が後に完成した。一方で、厭戦感情は地方貴族の間に残り、一部が軍縮を主張したが、皇帝は軍事産業への投資を増やし、経済的恩恵で反対派を抑えた。戦争で得た教訓は帝国の軍事ドクトリンにも反映され、山岳戦や補給線管理の訓練が強化された。兵士たちは戦場での過酷な経験を語り継ぎ、新兵教育にその記録が取り入れられた。
 ロフィルナ全体では、帝国の参戦が東部の焦土化を進行させ、戦後の復興を極めて困難にした。ヴァルヘラ州の住民は住む場所を失い、難民として北部や西部へ流出した。調査では、州人口の大半が避難し、残された村々は廃墟と化した。食料生産が途絶え、飢餓と疫病が広がった地域では、子供や老人が特に犠牲となり、生存者の間で帝国の呪いと呼ばれる怨嗟が生まれた。難民キャンプでは簡易テントが風に揺れ、配給待ちの行列が夜まで続いた。帝国の撤退後、東部は小規模軍閥が衝突する無法地帯となり、
平和維持軍が介入するまで混乱が続いた。この状況はロフィルナの分裂を一層深め、諸勢力が独立を急ぐ遠因となった。星域全体では、帝国の焦土戦術が大国介入の恐怖を周辺国に植え付け、
テラソルカトル王政連合などが独自の武力強化に乗り出すきっかけとなった。一方で、鹵獲された帝国技術はロフィルナの第三勢力に拡散し、戦後の軍事バランスを不安定化させる火種を残した。東部の山間部では、放棄された戦車が錆びつき、風に吹かれたドローンの残骸が静かに朽ちていく光景が広がっていた。
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最終更新:2025年10月14日 00:26