概要
戦力
王都の奪還を掲げたコックス政権軍は、グロノヴェイルの臨時兵器工場で砲弾の生産を続けており、ヴァルヘラ州から陸路で届いた鉱物が装甲車両の補充に回された。突入の主力には
ロフィルナ国民武装赤軍解放戦線の部隊が充てられ、大宰相府の統制を受けたまま街区に浸透する編成が組まれる。攻略の順序は東部の丘陵を先に押さえる形で定まり、北部の高速輸送路の遮断を次の段階に据えた。丘陵から王宮までは平野が開けるため、渡河点の橋頭堡を握れば市街の水運が止まると見込まれていた。防衛の指揮は王都直轄司令官
ガルヴェイン・ゾルドリックが執り、常備軍に予備役を重ねた戦列に信仰系の武装勢力が加えられた。
アリウス公王は籠城の長期化を見越して倉の糧食を街区ごとに割り当て、防衛の実務を司令部に預けた。志願の受け付けは街区の詰所に移され、班長の点呼を経た者が戦列の末尾に加わった。防空の弾薬は山脈の砦に分散して積まれ、夜間の飛行に備える砲手の当番が二交代に改められた。
サンリクト公国が海軍の主力を南部沿岸の作戦に残したため、王都への搬入は
ユリーベル公国から西海の航路を伝う糧食に依存し、弾薬の一部も同じ経路に乗せられた。連合軍の側では、
セトルラーム共立連邦が
フリーネア陸軍の前線基地から爆撃隊を差し向けた。
ヴァンス・フリートン大統領は王国の混乱を併合の好機と捉えており、地上兵力の投入を控えたまま航空戦力のみを王都圏に及ぼす方針を採った。
経過
共立公暦1002年の交戦は、政権軍の進軍と連合軍の爆撃が時期を分けて重なり、王都圏の各所に及んだ。
緒戦
3月15日、政権軍はグロノヴェイルから王都圏に向けて進軍を開始し、北部の高速輸送路を封鎖した。東部の丘陵には野戦陣地が築かれており、稜線の窪みには砲兵の陣が隠される。武装赤軍の部隊は民衆の街区に宣伝の刷り物を撒き、王党派の統治を貴族の支配と難じて住民の離反を誘った。直轄軍は貴族の街区の外縁に防衛線を敷き、予備役の装甲部隊を大通りの要点に配している。同じ日、フリーネア陸軍の前線基地を発った爆撃隊が河岸の官衙を襲い、夜間の低空飛行によって州都の庁舎が炎に包まれた。連合軍の航空隊は渡河点の橋頭堡にも爆弾を落としたため、上流の坑道から届く弾薬の水運が滞った。街区の班は橋の袂の関門を閉ざし、荷の封印を改めながら通行を昼の時間に限った。爆撃を受けた貴族の街区では抗議の声が上がり、外来の軍を疎む感情が街路に広がっていく。信仰系の武装勢力は不安を抱えた住民を戦列に取り込み、路地の入口に瓦礫の障壁を積み上げた。
空爆
3月21日から、連合軍の爆撃隊は夜間の飛行を連日にわたって繰り返し、王都の配電と通信の設備を焼いた。前年の交戦の後に復旧した送電は再び止まり、市街の工房は日中の作業だけに操業を縮めている。政権軍は宣伝の放送で平等の未来を訴え、直轄軍の士気を揺さぶる工作を続けた。住民は地下の壕と街区の倉庫に避難したものの、収容の過密が疫病を招き、医薬品の欠乏が手当てを遅らせる。爆撃で崩れた建物の下敷きになる死傷者が増えており、河岸の高台に建つ官衙が焼け落ちたため、街区の台帳と徴募の名簿が失われた。政権軍は官衙の焼失を貴族の統治の終わりとして宣伝し、王党派の側は州都の記録の喪失を住民に伝えている。アリウス公王は大聖堂イドルナートからラジオの演説を放ち、直轄軍の将兵に持ちこたえる意志を求めた。配給所では順番を巡る奪い合いが起き、割り込んだ者の名は班長の帳面に書き留められた。
反攻
3月29日、直轄軍は予備役の装甲部隊を東部の丘陵に回し、夜陰に紛れて政権軍の集積地を焼いた。北部の高速輸送路が取り返されると、丘陵の陣地に届く弾薬は月末の時点で途絶えかける。3月30日、政権軍の前線司令官が誤った進軍命令を下したため、部隊は民衆の街区の狭い路地で包囲された。信仰系の武装勢力が路地の出口を塞ぎ、直轄軍の挟撃によって先鋒の一隊が壊滅している。コックス大宰相は民衆の街区の住民に解放を約束する宣伝を強めたものの、支持は班長のもとで止まり、指揮官の間には方針への不満が広がった。4月1日、セトルラーム政府は国際社会の非難が強まり、機材の損耗も重なったことから、爆撃隊を南部の基地に引き揚げさせる。フリートン大統領は引き揚げを戦略的な再配置と称したが、連邦の孤立は同盟の内側でも深まっていく。4月2日、補給を欠いた政権軍はグロノヴェイルに後退し、大宰相は撤退を次の段階への準備と宣言した。王都を保った王党派では、アリウス公王が大聖堂の前で勝利を告げ、群衆が瓦礫の広場を埋めている。
影響
交戦の終結後、王都の街区では暮らしの立て直しが始まり、王国の外側でも各勢力の姿勢に変化が現れた。
街区
約3週間にわたる交戦によって、民間人の死傷者は約20万人に達し、市街の四分の一が瓦礫に変わった。官衙の焼失で台帳が失われたため、配給の順序は班長の記憶と住民の申し立てに頼る形に移る。街区の商業組合は復旧の費えを立て替えたうえで、工房の再建には保険の契約を充てた。住まいを失った住民が周辺の地区に流れ出しており、外周の集落では受け入れを巡る諍いが続いている。配給の途絶した街区では奪い合いに闇取引が重なり、直轄軍は関門の照合を夜半にも行う体制を敷いた。信仰系の武装勢力は防衛での働きを足場として街区での発言力を伸ばし、商業組合の側からは教義の強制を嫌う声が上がる。貴族の街区の官衙は執務の場を大聖堂の付属棟に移し、令達の写しは写字生の手で作り直された。市街の工房は送電の途絶によって旋盤を止めており、操業の再開は日中の限られた時間に組み変えられた。
反響
王都の防衛が二度にわたって保たれた事実は王党派の連合を固め、サンリクト公国とユリーベル公国は支援の継続を確約した。政権軍はグロノヴェイルで兵力を編み直しており、ヴァルヘラ州との連携によって東西からの反攻を練り上げる。セトルラームの爆撃が市街の住民に被害を及ぼしたため、国際社会の批判は連邦に集まった。
ジェルビア星間条約同盟の中小国では費用の分担を問う議論が長引き、増派の可否を巡る審議が各国の議会で始まる。王党派の内部では連合軍との交戦を前提とする備えが進み、山脈の陣地では砲座の増設が続いた。王都の防空は昼夜の交代制に改められ、警報の鐘は上空の航跡を捉えた時点で打たれる。
共立機構国際平和維持軍は南部の占領地の統治にあたる人員を置いたまま、峠の警備を続けている。
文明共立機構は沿岸の行政の再開を先に据えており、中部への進出は見送られたまま年を越した。
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最終更新:2026年08月22日 09:41