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『ロックンロールが鳴りやまないっ(前編)』




ぼっち「ホホホッホーホー……ホーホホホホ」
虹夏「……え?」
ぼっち「朝に鳴く鳥、キジバトっていうらしいよ」
虹夏「あー、それみんな一回は調べちゃうからハナタカ知識にならないという〜」
ぼっち「……哀愁だね」
虹夏「うん」
虹夏「…………でさ、なんで千と千尋のEDのメロディで鳴いたの?」




放課後。
雲が低く垂れ込めた、色の薄い空。
商店街のアーケードを抜けながら、二人は並んで帰路につく。

ぼっち「……」
虹夏「……?」

歩調は合っているのに、視線だけが噛み合わない。
ぼっちはちらり、またちらりと、虹夏の腕元を盗み見ていた。

ぼっち「……」
虹夏「なにその顔。興味津々じゃん」
ぼっち「……巻物だね」
虹夏「書物以外に使わないのよ……その単語」

虹夏の右手首には、包帯ではなく、細いミサンガが巻かれていた。


虹夏「……重い、とか言わないでよね?」
ぼっち「思わない思わない。かわいい」
虹夏「え、自画自賛?w」
ぼっち「……んんっ?」

ぼっちはもう完全に忘れているようだったが、それは三カ月前、彼女自身が渡したものだった。
虹夏が『包帯』を見せた、あの日。
──代わりに、と差し出した細い紐。
それ以来、虹夏は自傷をやめ、
かわりに――その紐が切れる日を、なにかの終わりのように、穏やかに待っている。

ぼっち「……あー、そんなことあったような。なかった翔な」
虹夏「軽いなぁ……」
ぼっち「軽いおかげで、シーソーゲーム負けちゃったね」
虹夏「……相手、私(=重い)? ……おい!」
ぼっち「ふわふわどこかで飛んでった私を、いつか探し出してほしいかな~」
虹夏「あーはいはい。夏とかにね」

ぼっち「……」


ぼっちはふと、空を見上げる。
相も変わらず、鈍色の曇り空。近くの公園から子どもたちの笑い声。遠くを走り抜けるバイクの音。

ぼっち「……」
虹夏「……」
虹夏「……え、そんなにエモくなる? 普通」
ぼっち「……ちょっとね」


ぼっちはスマホを取り出し、
誰かに短く連絡を打ち、きょろきょろと周囲を見回してから、
もう一度、空を仰いだ。


ぼっち「……虹✡夏ちゃん」
虹夏「勝手に名前ダサくしないで!」

ぼっち「泣きたくなるときって、いつ?」
虹夏「……え?」


空は、どこか濁った色を帯びていた。
雨の前触れ特有の、ざわついた風。
理由のない予感だけが、皮膚にまとわりつく。


ぼっち「私は、深夜から黎明にかけて泣く。必ず」
虹夏「ウミガメか!」
ぼっち「……」
虹夏「……え、ボケじゃない感じ?」
ぼっち「もちろん」
虹夏「……それは……ごめん。(……“もちろん”?)」

一拍。

ぼっち「特に冬は、ほぼ毎日かな」
虹夏「え?」

ぼっち「哀しいから泣いてるわけじゃないんだけどね」
ぼっち「なんていうか――冷え切った空虚と、完全な闇が、こちらを名指しで呼び寄せる瞬間というか」
ぼっち「それを、温かい涙でバリアーする、というか」

ぼっち「私が“まだここにいる”って示すための、いちばん静かで、いちばん誠実な抵抗行為でね」
虹夏「……」

ぼっち「だから私は泣く。救いを求めてじゃなくて、消失しないために」
虹夏「…………」


ただのポエム。
あるいは、バンドの新曲の歌詞。
──そう切り捨ててしまえば楽だったのに、そこには彼女特有の説明できない重みがあった。

いつもの達観した態度とは違う。
悩みとも、深刻な相談の前章ともつかない、
“まだ言葉になっていない本音”。

――何も返せない。

そう直感してしまった自分が、妙に悲しくて。
虹夏は、無意識にミサンガの端を握りしめていた。


虹夏「……何か、あったの?」
ぼっち「ううん。これから起こること」
虹夏「……え?」
ぼっち「……虹夏ちゃん。私、夜に泣くって言ったよね?」
虹夏「……うん」
ぼっち「現在時刻は、さんじ1/2」


ぼっち「……あそこの泣いてる子どもはウミガメのスープだろうか」
虹夏「……は???」


子ども「うえーん! うえーん!」


明らかに迷子。
それでも周囲の大人たちは、誰もがどこか遠くを見るふりをして、通り過ぎていく。

ぼっち「……いこっか!」
虹夏「え?」
ぼっち「いざ、セーブ・ザ・チルドレン」
虹夏「規模がでかい!!助けるだけでいいでしょ!!」


こうして男の子は、
『不器用』な虹夏お姉さんと、
『不審者』じみたウミガメ姉さんに連れられて、
家を探してもらうことになった…………。



【伊地知虹夏・本日の依存度】
???







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最終更新:2026年02月10日 01:32