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『ロックンロールが鳴りやまないっ(後編)』




『迷子捜索編』
道中。
三人並び歩き。


ぼっち「お〜もち〜♪ぼっちぼち〜、内気ライフル〜〜♪」
子ども「うえーん! えーん!」
虹夏「ダダ滑りじゃん」
ぼっち「新曲。これでお金うっはうっは」
虹夏「いやロッテからスポンサー絶対来ないから!!」



スタスタ……

ぼっち「質問タイム!」
ぼっち「きみ、名前はなに?」
男の子「うぅ…………うっ、わからない……」
ぼっち「なら、お姉さんと一緒だ」
虹夏「嘘こけ!!なんも優しさじゃないからね!?ド嘘でシンパシー感じるな!!」


ぼっち「じゃあ住所はどこ?六桁まででいいから」
男の子「……うぅ……。……桁?」
虹夏「それが分かれば苦労してないんだよ〜〜!」
ぼっち「皆には言えない。軒の下を共有した者同士の隠し事。──それが住所」
男の子「……うぇーん……えん……」

ぼっち「……泣きつかれてしまった」
虹夏「泣き“つかれて”はいないんだよ!!」


ぼっち「……じゃあ、好きな番組は?」
男の子「……え?」
虹夏「推理、尽きるの早っ!」
ぼっち「分かった。ザワつくとか?」
虹夏「いや一番ターゲット層から外れてる番組でしょ!!」

男の子「……一茂、の?」
ぼっち「……w(ドヤ)」
虹夏「“ほれ見たことか”じゃないよ!!大体の人、視聴しなくても知ってるわ!!」

ぼっち「クイズです。一茂、ちさ子、良純。木曜メンバーじゃないの、だ〜れだ?」
虹夏「全員金曜だよ!!」

男の子「……」




ぼっち「……これだけ質問して、そこそこ推理が進んだ気になってるのが、私たち二人のいちばん恐ろしいところ」
虹夏「迷探偵?そろそろ警察にお世話になるの、私たちだけどね……」
男の子「…………」

ぼっちは、ふいに足を止めた。

ぼっち「……よし。虹夏ちゃんに、P太くん」
虹夏「名乗りすらしてないのにイニシャル呼びすな!!」
男の子「……ポン太……?」

ぼっち「今の我々は、ネームと一緒だよ」
ぼっち「考えても考えても煮詰まるだけで、むしろ深淵にハマっていく」
ぼっち「……まるでネームだね」
虹夏「特に大切でもないワードを二回言った件」

ぼっち「そこで――夏目漱石!」
虹夏「え?」

ぼっち「かの御大は言った。“悩むときは、まったく別のことを考えよ。そうすれば、新しい道が開かれる”、と」
ぼっち「同じ大和魂を持つ民族である以上、我々も同じ思考回路を目指さざるを得ない」
虹夏「主語がでかい!」

ぼっち「P太郎くん、関係ない質問ね。いま、いちばん食べたいもの――教えてくれるかな」
男の子「……え……?(P太郎……?)」
男の子「……雪見だいふく?」
ぼっち「となれば――コンビニだね!!」
虹夏「完全に刷り込まれてるじゃん!!」


………
……


「ありがとうございましたーー」

退店。
スタスタ。


ぼっち「おもち、おいしいね!」
男の子「うん!」
虹夏「雪見だいふく、普通は食べ歩きしないけどね……」


虹夏はポカリを一気にあおる。
ぷはっと息をついて、手の甲で口元を拭った。
顔は、めちゃくちゃ疲れている。
そして――意を決したように、男の子に向き直った。


虹夏「……ねぇ〜、キミ〜。そろそろ家の場所、思い出せない?」
男の子「……え?」

虹夏「もうかれこれ、五十分は迷子迷子だよ?そろそろ徒歩ほのほ〜だよ〜〜」

男の子「……」
ぼっち「……」

ぼっち「徒歩ほのほ……今の、歌詞に使えるかも(メモメモ)」

虹夏「な?!や、やめろォッ!?///」
ぼっち「大丈夫。アレンジはするから。ヘビメタで」
虹夏「アレンジってメロディの話!?するな!!ヘビメタもやめろぉ!!!」

男の子「え?お姉ちゃんと、そこの人……バンドしてるの?」
ぼっち「うん。そうだよ」
虹夏「え、うん……(ぼっちちゃん=“そこの人”……?)」

男の子「ぼく、バンド好きなんだ!!幼稚園かえるとき、お姉ちゃんと聴くもん!」
ぼっち「もちろん!」
虹夏「何が“もちろん”だ!!」
虹夏「……へぇ。それは、なかなか有望だね~」

男の子「好きな歌、ひげだんとか、ミセスとか!」
ぼっち「.mp3かな?」
虹夏「勝手に違法ダウンロードしてる体にすな!!」

虹夏(はは……でも、かわいいな。さすが幼稚園児)
虹夏「へー、いいねぇ」

男の子「お姉ちゃんと、そこの人もバンドしてるなら、ぼく、自慢できるよ!」
ぼっち「いいね!自慢するときは呼んで!私たちでスネ夫のテーマ演奏してあげるよ」
虹夏「さっきからイヤミだなぁ……(ミセスって言われたから、嫉妬心?)」

虹夏「じゃあさ。悲しい気持ちになったら、バンドの歌うたえばいいね」
男の子「うん!」
虹夏「ね!……ぽ、ポン太……くん!」
男の子「は?」


男の子「ぼく、圭一。八幡圭一だよ」
虹夏「……え?」


男の子「……ポン太?それ、バカにしてるの?」
虹夏「ぇ゙」


ぼっち「……」
虹夏「……おい!!黒幕が黙んな!!!」


ぼっち「……あれ。八幡?」
男の子「うん。圭一」

ぼっち、ピコーン。

ぼっち「電気は、こまめにオフ」
虹夏「いいよ!ひらめきの豆電球消さなくても!!」
ぼっち「…………フフフ。さすが。これが“おもちパワー”というわけか」
虹夏「え?」
ぼっち「……ありがとう、夏目漱石御大……」
男の子「今さらだけど、文豪に“御大”って普通つけないだろ!」
虹夏「将来有望なツッコミ!!!」


一拍。


ぼっち「Yはたさん……実は私と、辛酉(しんゆう)なんだよねぇ」
男の子・虹夏「え!?(親友……!?)」

………
……



夕暮れ時。


親友「ありがと、ごっち〜〜〜!マジお礼するわ〜〜!!ほんと弟がごめん〜〜!」
ぼっち「お礼」
虹夏・圭一「そこだけ食いつくなバカ!!」

親友「コラ!!バカはお前だわ圭一!……ほんと、ごめんね〜」
ぼっち「いえいえ。当然の義務ですよ」
虹夏「その居た堪れない距離感なに……?」


虹夏「……ていうか~~……」


虹夏は、そっとぼっちの袖をつまむ。
ぎゅっ。
――ひそひそ。

虹夏「(……ぼ、ぼっちちゃん……や、八幡さん……)」
ぼっち「(もちろん)」
虹夏「(なにが?!)」
虹夏「(う、うちの……学校の……同じクラスなんだけど……)」
ぼっち「(もちろん)」
虹夏「(知ってたと?!……ねぇ、ど、どうすればいいの……)」
虹夏「(正直、居心地が……っていうか〜……)」
ぼっち「(もちろん)」
虹夏「(ぼっと・ざ・ろっく!!)」


男の子「てゆーかおねいちゃん聞いて!こいつら、バンドらしいよ!」
親友「こいつらとか言うな、もう〜〜!!」

親友「そりゃそうだよ。ごっち、文化祭名物だもん」
親友「それ聞きに、うちらよく行くわけだし」
親友「それに……伊地知さんもバンドっていうのは周知の事じ……」


親友「──えっ?!伊地知さんもなの!!?」
虹夏「うぇ!?」
ぼっち「」
虹夏「お前は、なぜ黙る!!?」


親友「嘘!?今まで知らなかったぁ〜……」
親友「え、ごっちと?!担当は?」
虹夏「え、ぅぇ……ど、ドラム……」
親友「すご!!え、え、もしかしてインディーズバンド、なにか好き??」
虹夏「……も、もちろん(……あ、やば!刷り込み?!)」
親友「え!!なに好き、なに好き!?」
親友「周りにそれ語れる子いないから、マジで鬱屈だったんだってぇ〜!!」

虹夏「あ、あの……えーと〜〜……」


握手、握手。
距離感は、音もなく縮まっていく。
虹夏はこれまで、なんの接点もなく、
そしてこれからも関わることはないと思っていたクラスメイトから、瞬く間に信頼を得てしまった。

か細く、繊細な虹夏は、八幡さんのテンションについていけるタイプではない。
というより、会話の一ターン一ターンに、自分のリソースをすべて注ぎ込んでいるような状態だった。
たびたび、ぼっちちゃんに救いを求める視線を投げる虹夏。

ただ、その回数は、次第に減少傾向へと転調していく──。


親友「え?!ローチケ持ってるの?!」
虹夏「う、うん……!ヒトリエは、すぐ売り切れるから……早めに、みたいな……?」
親友「今からでも、間に合うかなぁ」
虹夏「わ、ワンチャン……!い、いけるかも!」
親友「マジ?じゃ、予定できたじゃん、週末!」
虹夏「え?」

親友「伊地知さんと、初遊び〜!www」
虹夏「うぇ!?も、もう気が早いよ〜w」


互いに、好きなもの同士。
会話が得意ではない虹夏も、共有できる話題があるだけで、少しずつ、少しずつ。
“作ろうとしなくていい笑顔”を浮かべられるようになっていった。

気がつけば、心の氷は水浸しになっていて。
気がつけば、手首のミサンガが揺れていて。
気がつけば、曇天の合間から――雨も降っていないのに、虹色の装飾が顔を覗かせていく。
ぼっちちゃんが好きだった天気の『雨』は、結局、降らずじまいだった。


男の子「ごっち、もち好き?」
ぼっち「もちもち」
男の子「そこは“ろん”だろ!」
ぼっち「……虹夏ちゃんを、よろしくね……!」
男の子「勝手にツッコミの弟子入りさせんな!!」


虹夏「でさ〜w」
虹夏「(……あ!)」

虹夏「ぼっちちゃんもどう?日曜! 一緒に行こーよ!」
ぼっち「え? ライブ?」
虹夏「うん!八幡さん、初めてだしさ。私たち二人、エキスパート的な〜?」


にこにこと、いつもと変わらない笑顔のぼっちちゃん。
その言葉を受けて、ぼっちちゃんは、何を思ったのだろうか。
ふと、スマホを眺め、笑みを小さく浮かべてからまたポケットにしまった、──その画面には何が映っていたのだろうか。
彼女はふと、一言。

ぼっち「……はは。じゃあ、『必要』はなかったかな」
虹夏「?」

そう、独り言のようにつぶやいてから、
ぼっちちゃんは、
虹夏へ――
──私へ。

いつものように笑い飛ばした。


ぼっち「分かった!!OK!!!行けたら行くぅ!!!!!!!」
虹夏「行かない人が言うセリフを、ここまで自信満々に言うの、初めて見たよ……」
八幡「……ごっちからしたら、それ100%行く宣言だからw……でも、ここで……?」
虹夏「もう、さすがだよ〜……w」

虹夏「じゃ、約束ね!バイバイ!」
ぼっち「…………バ〜イ!」


あとから思い返して、
今でもときどき引っかかるのは――

手を振る、別れ際の笑顔でも。
別れの言葉に、なぜかヒカキンのセリフを選んだことでもなくて。


──八幡さんの、「……でも、ここで……?」という、言いかけの言葉。


その伏線に気づいたのは、翌日。



――──ぼっちちゃんが、転校したと知ったときだった。





【伊地知虹夏・本日の依存度】
ー589%

────0%



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最終更新:2026年02月10日 01:33