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 オレぁ『青空』ってやつが嫌いだ。
太陽の野郎が白い雲を、全部飲み込んじまったような快晴は、特にタチが悪ぃ。

理由か?
くだらねぇ話だよ。
オレがよ、薄暗ぇ部屋の隅っこで、干からびた化石みてぇに固まってるあいだも、外じゃガキだの家族連れだのが、ヘラヘラ笑ってやがる。
幸せなんて安っぽいモンをそこら中にぶち撒けながらな。
ましてや、昔のオレもあいつらと同じツラして、何が楽しいのかも分からねぇまま空を仰いでた時期があったなんて思い出すと、もうやってられねぇわけだ。

こんなどうしようもなくて、
見惚れる価値もありゃしねぇ、
ただの空っぽな青だっていうのによ。


 ……結局、オレは飛び降りることができなかった。
ああ。『主催者』として高みの見物を決め込むのは、もう終わりだ。
オレは、このスカイタワーの屋上を後にする。

──背中に、『一参加者』としての薄汚い現実をべっとりと背負い直してな。



『終わらない、青』

『別題:キタノブルー』


(キャラ) キタノ(映画版バトル・ロワイヤル)、R・田中一郎、大戸島さんご




………
……




 人生ってのは、嫌なことの体感時間だけが、やたら水増しされてやがる。
「前に進みたい」なんて抜かしてみろ。上からヘドロをぶっかけて、沈めにかかるまでだ。

特に、教師なんて商売に手ぇ出してからは、その傾向がさらに露骨になった。
『人生』っていう名の午後三時。これが、まるで終わらねぇ。
うざってぇ太陽がよ、逃げ場も与えずに、ジリジリと肌を焼き続けてくる。
一分一秒が鉛みてぇに重てぇし、ぬくもりなんざどこにもねぇ。
ただだるくて、気ぃ滅入るだけの光が、延々と。延々とな。
……まあよ、その午後三時をようやくやり過ごしたところで、待ち構えてるのは闇夜だけなんだがな。

今、身ぃ預けてる、このエスカレーターも同じだ。
下れども下れども、出口なんて見せる気配もありゃしねぇ。
オレはその天国への階段みたいな大層な装置の上で、ガラス越しに下界を眺めていた。


 一応、名乗っとくとな。
オレの名はキタノだ。……まあ、戸籍なんてもんは、とっくにこの世から蒸発してるがよ。
川田ってガキに鉛玉をぶち込まれてよ、ようやく終わったと思ったらまたコレだ。バトル・ロワイヤル。笑えねぇ冗談だよ、ほんとに。
ガキ共を殺し合わせてた側の人間が死んだ途端、今度は「殺り合え」って舞台に引きずり戻される。
なんだ? 役割交代ってか?
神様だか堕天使様だか知らねぇが、よっぽどタチの悪い洒落だ。

ただ、悪ぃな主催者。今のオレには、それを笑い飛ばす気はねぇんだわ。
この、死に腐った世界の中でよ、オレはただ茫然と『自殺にふさわしい理由』を考えるだけだった。


 リスポーン地点が屋上だったおかげで、嫌っていうほど眺めさせてもらったぜ。
数十人の参加者共が、最初に見せる『一歩目』ってやつをな。
足元で繰り広げられる惨劇は、虹の色数よりよっぽど多種多様だ。
妙な動きを見せる手合いがいれば、とびきりのバカを晒す奴もいる。
で、一番多いのが、アレだ。
殺し合いって言葉にビビり散らかして、中途半端に足掻いて、中途半端に希望なんか持っちまって。……救いようのねぇ、胸糞悪ぃ終わり方する連中だ。
……全くだ、まるで映画だよ。
音もねぇ、悲鳴も届かねぇ。ただ映像だけが、次から次へと切り替わるサイレント映画ってやつだ。
オレはその客席でよ、旨くもねぇタバコを咥えて、煙だけ吐き出してる。
高い場所からこの残酷な見世物を。朝焼けが、上映時間の幕引きを告げるまで。

オレは結局、両足を地に着けたままな。


 このくだらねぇ死に損ないは今、また新しいフィルムを一本、眺めてる。
ガラス越しの下界、あの浜辺で、のんきに回ってる物語をな。
海の青さも、透明度もありゃしねぇ。
そもそも、ここが殺し合いの真っ只中だって分かってんのか。
──そんな疑問すら馬鹿らしくなるような、マ抜けなガキ二人の茶番だ。

笑えるぜ。
あいつら、スイカ割りしてやがんだぞ、スイカ割り。
女のバカの方は、まだ少しはマシな頭を持ってんのか、血相変えて喚き散らしてやがる。
だが、あのアホの耳にゃ「もうちょっと右! 右よ!!」とでも届いてんだろうな。
学ラン着た方のアホは、目隠ししたままスイカの位置なんざとっくに忘れて、どこまでも突っ走ってやがる。
止まる気配もねぇ。
考える頭もねぇ。
血塗れの棒切れでも振り回してるつもりか知らねぇが、ありゃもう、ただの暴走だった。


この、救いようのねぇマヌケ共が何を企んでんのか、さっぱり分からねぇ。
当たり前だ。こっちにゃ、音のひとつも届いてこねぇ。
……まるで1920年代の古びたサイレント映画だな。それも、読めもしねぇスペイン語の字幕付きのよ。

だからよ。
オレは、このクソみてぇな映画の『あらすじ』を、勝手にでっち上げてやることにした。
読心術? そんな上等な芸は持っちゃいねぇ。
けどな、人間のやることなんざ、だいたいパターンが決まってんだ。
……まあ、こんなとこだろうよ。

今、あの必死こいてる女の方は、こう喚いてるはずだ。
「早く逃げてよ! ここ、ピンポイントで『禁止エリア』なんだってば!!」


……そうなると、話は簡単だ。
あの目隠ししたバカの『最期の台詞』は、自然と決まる。
「でも、僕は止まれないんだ」
「だって、」
「どうしても。君に『青春』を、見せたいか──」



──ボンッ─────。


……ああ、悪ぃな。オレの不謹慎な読みが、ドンピシャで当たっちまって。
最期にあのスカスカの青空を、三百六十度満足げに仰いだ生首は、一体何を想ったんだかな。
いい見世物だったよ。
最低で、最悪で、だからこそ、よく出来てやがる。
かつての国信のガキよりもバカみてぇな首輪爆発を見せられたもんだ。
せめてもの供養代わりによ、オレは下に降りたら、片割れのアホ女にちょっとだけ関わってやることにした。


………
……




 ……そう思ってたら、んだこりゃ。
さっきまで爆発だの死体だのやってた浜辺で、いきなりコントが始まりやがった。


「やあ、おはやう。僕はR-田中一郎くんだよ。たった今、画期的な『R式・首輪解除方法』を発明したところだよ」

「もう田中くん! その状態で知らない人に絡まないでったら!! 蘇我入鹿ですら、生首の状態じゃあ、ぐうの音も出せなかったっていうのに!!」


信じられねぇ光景だとか、そんな次元の話じゃねぇ。
目の前で、その田中っつうガキの『頭』だけが、さも何事もなかったかのようにピンピンしてやがったんだ。傷一つついてねぇスイカの隣でよ。
遠くの波打ち際に打ち捨てられた、自分の情けねぇ『胴体』になんて目もくれず、ニコニコと笑ってやがるんだ。
まるで最初から、そういう生き物だったみてぇにな。


「さんごもR式・首輪解除方法やってみよう。痛みは一瞬だけど、すぐ楽になれるよ」


あぁ、バカ全開だよな。
ど真ん中の、フルスイングでバカだ。


「はい殺人教唆! はい無自覚な凶悪犯罪!! そりゃ痛みは一瞬だし楽になれるんだよ~~、そりゃ~~!!」


んで、さんごって女のツッコミも、文句なしの満点だ。
自分の首輪を必死こいて隠してるあたりはバカ全開だけどな。
……本当に厄介なのは、ここからだ。


「あの……、田中くんはなんだろ、そういう『体質』なので! まぁ、慣れるとは思うので気にしないでください~~! あははは~~~……」

「まあまあ、苦しゅうない。近う寄れ。面を上げい。……苦しゅうないぞ~」


そのバカ女と、得体の知れねぇ『自称・アンドロイド』の生首。
この最悪のコンビが、嬉々としてオレに絡んできやがったんだ。
地獄の沙汰も金次第って言うが、こいつらの地獄にゃ、まともな道理のひとつも落ちてねぇらしかった。

……青ぇよな。
糞が見ても呆れるくらい「青春」真っただ中だ、こりゃ。
言い忘れてたが、このヤロー共はスイカをもしゃもしゃと、実に旨そうに食いながら絡んできやがる。
元教師のオレにそれを見せつけて、何だ? 一体どんな高尚なメッセージを伝えたいってんだ。

……くだらねぇ。
さんごのガキはどうでもいい。
オレは、何もかもが空っぽな精密機械へ、最後にひとつだけ問いを投げかけた。


──“……どうだ。首ボーンってなった時、最後の青空はきれいだったろ?”


……我ながら、座りの悪ぃ問いだ。
深い意味もなけりゃ、哲学的なニュアンスを込めたつもりもねぇ。
このガキ同様に中身が空っぽで、それでいてこのバカとは違い、目に映る景色がモノクロにしか見えねぇ──そんなオレの、ただの気まぐれだ。

あぁ、不気味だったろうな。
さんごは「え?」と、間抜けな声を漏らすのが精一杯。
で、あのバカは、バカなりに、考えてるフリを始めやがる。中身なんざねぇくせによ。
……で、出てきた答えがコレだ。


「青空じゃないよ。水色だったよ」

「え、ちょっと……田中くん」


ほらな。ただの『色の訂正』だ。
ズレてるとか、浅いとか、そういう次元ですらねぇ。
別にオレも、なにか模範解答を期待してたわけじゃねぇが……。
……あぁ、もうどうでもいい。

耳障りな波の音が、やけにうるせぇ。
オレはそれを無視して――“ああ、そうかい”と、それだけ吐き捨てた。
それで終わりだ。
あの場も、あの連中も、全部まとめて置き去りにして、オレは背を向けて歩き出す。

うざってぇくらいに晴れやがった、この『青空』の下をよ。



「水色……つまりは透明だったよ。水道水には色がないからね。──」

「──無事首輪脱出成功した僕だけども、あの時見えた世界は、ずっと透明ばかりだった」



……うざってぇくらいに、晴れやがった、



「だから僕はスイカ割りを成功させて染めたかったんだよ。──」


「────……青春ブルーを。さんごとの、バトルロワイヤルの世界に」


……この青空の、下をよ。




「いや田中くん名言になってないからね!! ……というか、スイカ食べて大丈夫なの…………? お米以外は吐いちゃうのに……」

「大丈夫だよ。これは米産って書いていた。つまりライス・ウォーターメロン。甘いお米の一種だよ」

「あ~プラシーボ効果ってやつ~……? ……そんなニンジン型のポン菓子的なモノじゃないわ!! 本物だよ、それ!!」

「ややっ。これはこれは僕としたことが……オロロロロロロロッ!!!!!」



 ………………。
バカ二人は、相も変わらずお花畑な会話を続けてやがる。
海を眺め、スイカを食らい、空の青さなんてものを、さも当然の権利みたいに受け入れやがって。
どいつもこいつも、勝手に『青春』とやらを謳歌してやがる。


──オレには、この空を水色に見えたことなんて、一度だってねぇっていうのにな。



「あ、おじさん。よければスイカ~~……どうです?」

「吐き気がするほど美味しいよ。種はまるでアリの集合体。とれたて新鮮のブラッディ内臓カラーだよ」

「いや逆食レポのプロやめて!! もう米じゃないって知った瞬間これなんだから~~……」

「うーん……。──」


「──おじさんも一緒に食べようよ。いとおかし美味しいよ」



 ……オレはな、『青』っていう概念が嫌いだ。
理由なんざ、わざわざ言うまでもねぇ。
生前のあのプログラムで、オレがクソほど憎んだ生徒共が、どいつもこいつも青臭くカッコつけて、次々に死んでいったからだ。
カビよりも鼻に突く、あの青さをな。
そのくっせぇ臭いを延々と嗅がされて、嫌悪感が湧かねぇはずがねぇ。

……でよ。
笑えねぇ話だが、かつてのオレはその青さを守るために、教師なんて始めたらしい。
……バカみてぇだろ。守るどころか、全部ぶっ壊した側の人間がよ……。


「スイカを食べない?」……か。
全くだ、救いようのねぇバカなガキ共だ。

だったら答えは、ひとつだ。
アホのデュラハン目掛けて、オレは支給武器である「ソレ」を──。


 ──パンッ

「うわ、いだっ」

「え? 田中くん!?」


──あぁ、銃でも、ナイフでもねぇ、ただの『チョーク』をぶん投げてな。
この青臭ぇ物語のプロローグを、教師として線を引くまでだ。



「そこ、私語をするな!!!」



【キタノ@バトル・ロワイヤル(映画版)】
[状態]:健康
[装備]:チョーク
[道具]:タバコ
[思考]:生徒二人を、教師として“線引き”する。
1:……特にはねぇよ。

【R・田中一郎@究極超人あ~る】
[状態]:生首(デュラハン・モード)、首輪解除
[装備]:炊飯器
[道具]:扇子
[思考]:この世界に青春の色を定義する。
1:このおじさん、なかなかいいコントロールですね。光画部に入りませんか?
2:お米が食べたい。できれば炊きたてで。

【大戸島さんご@究極超人あ~る】
[状態]:健康
[装備]:カメラ
[道具]:……田中くん(暫定)
[思考]:田中くんの制御と、日常の記録。
1:あ~……海、きれいだな~~~。
2:こんなとこで何やってんだろ、私たち~……。




【作者コメント】
最終回じゃないぞよ
もうちっとだけ続くんじゃ
最終更新:2026年03月22日 21:34