『カスJK沙都子、道徳を失う⑤』
♪BGM
一週間後/すべてに決着。
ショッピングモール。
入口付近で、中学生が声を張り上げている。
中学生「川北中学バスケ部の募金お願いしまーす!」
保護者「全国大会に行くのでお願いします」
沙都子「……あ?」
一瞬だけ考え、ポケットを探り、くしゃくしゃになったレシートを入れる。
沙都子「まぁまぁ」
沙都子「これも善意ですから」
沙都子「グリーンカレー、やっぱ神」
紙容器を持ったまま歩く。
匂いを撒き散らしながら、
何も気にせず食べ歩く。
そのとき。
ピアノを見つけた。
沙都子「……あ」
一目で、沙都子の脳に電撃みたいなものが走る。
足が止まる。
沙都子「……無理」
思い出す。
全部。
泣き声。
カノン。
あの顔。
あの匂い。
沙都子は、深く息を吸って、吐く。
沙都子「……いざ、覚悟」
近くにいたチャラ男の肩を叩く。
沙都子「おい」
チャラ男「え、俺?w」
沙都子「……あのピアノさ」
「因縁つけて、撤去させてこい」
チャラ男「は? なんで?w」
「つか君かわい──」
沙都子「さっさとしろ」
「金は出す」
チャラ男が戸惑う。
沙都子は、適当に指をさす。
沙都子「あれ、うちのバックだから」
指の先には、
たまたま立っていた怖そうな人。
完全に赤の他人。
チャラ男は、一瞬黙る。
チャラ男「……はい……」
チャラ男は店員に絡み、
意味不明なクレームを並べ、
ピアノの撤去を要求し始める。
そのとき。
ピアノから、音が流れた。
カノン。
沙都子「……は?」
チャラ男「へにゃ?」
弾いていたのは、雉子だった。
真っ白な独奏。
迷いのない音。
視線は鍵盤に落ちているのに、
表情は、穏やかだった。
音が、空気を塗り替えていく。
演奏が終わる。
一瞬の静寂。
それから、拍手。
誰かが促したわけでもない、
自然な拍手。
沙都子は、その場に立ち尽くす。
沙都子「……なんだろう。謝るのも違う。怒るのもやべぇ」
沙都子「……どんな顔すればいいかわからない」
雉子が顔を上げる。
目が合う。
沙都子は、反射的に背を向ける。
逃げる。
でも、追いつかれる。
雉子「……さ、沙都子お姉さん」
沙都子「ひっ!!」
沙都子、完全停止。
雉子「……久しぶりです」
沙都子「あ、ひゃ……」
沙都子「……う、うっす……」
雉子は、少し緊張しながらもきちんと前を見る。
雉子「……ま、また……」
雉子「遊びに来てく……ださいね!」
沙都子の喉が、ひくりと鳴る。
沙都子「……ふぁ……」
沙都子「……ふぁはぁ……ぃ……」
意味のある言葉にならない。
雉子は、小さく頭を下げ、人の流れに戻っていった。
沙都子は、
追いかけない。
謝らない。
理解もしない。
ただ、立ち尽くすのみ。
感動は、グリーンカレーのひどい匂いを簡単に上書きしていった──。
終
最終更新:2025年12月30日 12:38