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『カスJK沙都子、道徳を失う④』




朝。
制服はハンガーにかかったまま。
雉子はリビングの椅子に座って、コップの水を両手で持っている。

雉子「……お姉ちゃん」

梨花は私服のまま、壁にもたれている。

梨花「なに?」
雉子「……今日……学校……」
梨花「休む」
雉子「……いいの……?」
梨花「いい」

即答。

梨花「私もあんなとこ嫌いだし」
「つか臭いし」

雉子、少しだけ目を丸くする。

梨花「友達も担任も猿ばっかだし」

雉子の口元が、ほんの少しだけ緩む。
笑うまではいかない。

雉子「……お姉ちゃん……」
「……怒られない……?」
梨花「誰に」
雉子「……学校……」

梨花は肩をすくめる。

梨花「知らん」
「今日は雉子のほうが大事」

沈黙。
雉子の呼吸が、少し落ち着く。


午前中。
リビングのテーブル。

梨花は、紙とペンを出す。
乱暴に置かない。

梨花「……遊びじゃないけど」
梨花「テストでもない」

雉子は、少し身構える。

雉子「……なに……?」
梨花「練習」
雉子「……なにの……?」
梨花「喋る練習」
梨花「考える練習」

雉子は、不安そうにうなずく。

雉子「……むずかしい……?」
梨花「むずかしくしていい」
梨花「上手くやる必要、ないから」

少し間を置いて。

梨花「“正解”も、ない」

雉子の肩が、ほんの少し下がる。

梨花「じゃあ、最初」

梨花は、静かに言う。

梨花「今、雉子は」
梨花「“学校行きたくない”って思ってる」

雉子は、小さくうなずく。

梨花「それを」
梨花「一言で言うと?」
雉子「……こわい……」
梨花「うん」

それ以上、言わない。

梨花「じゃあ次」
梨花「なんで、こわい?」

雉子は口を開いて、閉じる。

雉子「……人……」
梨花「人が?」
雉子「……たくさん……」
梨花「うん」

梨花は、ゆっくりメモを取る。

梨花「それは」
梨花「雉子が悪い?」

雉子は、首を横に振る。

雉子「……わからない……」
梨花「それでいい」

梨花は、穏やかに言う。

梨花「わからない時に」
梨花「“自分が悪い”って決めない練習」

雉子の目が、少し開く。

梨花「次は、逆」

梨花は、声を低く保つ。

梨花「相手の気持ち」
梨花「想像でいい」

雉子は、緊張する。

雉子「……むり……」
梨花「無理なら、途中でやめる」

その一言で、雉子は少し楽になる。

梨花「担任」
梨花「雉子のこと、どう思ってたと思う?」

雉子は、視線を落とす。

雉子「……めんどくさい……」

梨花は、否定しない。

梨花「たぶんね」

雉子の肩が、すくむ。

梨花「それ聞いて」
梨花「雉子、どう感じる?」

雉子「……かなしい……」
雉子「……でも……」
雉子「……怒るのも……こわい……」

梨花は、ゆっくりうなずく。

梨花「それでいい」
梨花「それ、変じゃない」

雉子は、小さく息を吐く。

梨花「最後」

梨花は、ペンを置く。

梨花「今日は」
梨花「上手く言えなくていい」
雉子「……ほんと……?」
梨花「ほんと」
雉子「……また……できなくなったら……?」

梨花は、少し考えてから言う。

梨花「また休む」
梨花「また話す」

雉子は、しばらく黙る。

雉子「……お姉ちゃん……」
雉子「……一緒に……やってくれる……?」

梨花は、ほんの少しだけ笑う。

梨花「……一人にしない」
梨花「それだけは、約束する」

雉子の目が、少し潤む。
でも、泣かない。


昼前。
二人は、ソファに並んで座る。
テレビは、ついていない。
雉子が、ぽつりと言う。

雉子「……今日……」
雉子「……ちょっと……息しやすい……」

梨花は、前を向いたまま答える。

梨花「……そっか」

それだけ。
それで、十分だった。



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最終更新:2025年12月29日 16:49