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更新日:2022/07/14 Thu 23:46:02
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セブンスカラー
セブンスカラー
「ぐっ、おおおおお?」
殴られた衝撃で怯む龍姫に龍香はさらに拳を振るいながら叫ぶ。
「皆を見下すなっ!皆を蔑むなっ!皆を、バカにするな──ッ!!」
龍香は突然の猛攻に呆気に取られる龍姫に自分の額を叩きつけて頭突きを見舞いする。
「皆ッ!皆必死に生きていたのに!“新月”の皆も!シードゥス達だって!皆自分の信じるもののために一生懸命戦って!必死だった!!それなのにっ、貴方は!!」
「ぐっ、このッ!!それが、どうしたって言うんだッ!」
殴られながらも、杖を構えると龍姫はそれを振るう。
《龍香!後ろだ!》
「ッ!」
龍香はカノープスの声に従い、後ろに落ちていた“タイラントブレイド”を拾い上げると、杖の一撃を受け止める。
さらに龍香は一撃を受け止めながら反撃のために“タイラントブレイド”を振るう。
(な、に?)
“ティラノカラー”であるにも関わらず互角に打ち合う龍香を見て、龍姫は驚きの色を隠せない。
(な、なんで!?何でこいつはこの形態なのに私と互角以上に渡り合えている!?おかしい!こいつがこんな短期間で……!いや、待て?)
龍姫の脳裏にある事が過ぎる。
(もしかして、逆か?奴が強くなったんじゃない。“私が弱くなった”のか?)
五分に打ち合う二人をカノープスは見つめる。
(そうだ。こっちも限界が近いが、龍姫の奴だって無限に強いって訳じゃない。赤羽、ピーコック、トゥバンが命を賭して与えたダメージも完全には癒えていない。それに、さっき雪花とアンタレスの毒のダメージがアイツをここまで弱らせている!!)
龍香は剣で杖を受け止めると、片手を剣から手放して龍姫を殴りつける。
「うぐ、お?この、私が押されている?こんな、もう力もほとんどないガキに!?」
龍姫はギリっと歯軋りをすると龍香の振るう一撃を弾いて蹴り飛ばし、跳躍して眼下の龍香に左手を翳す。
「潰れろッ!」
龍姫から巨大な氷塊が龍香に向けて放たれる。
《やばい避けろ龍香!》
「ッ!」
龍香は持てる力を使って地面を蹴ってその氷塊の一撃を避ける。しかし円盤に氷塊が炸裂した事で足場が崩落し、龍香はそれに巻き込まれてしまう。
「きゃあああああ!?」
崩落に巻き込まれた龍香は全身を強く打ちながら落下していく。そして気がつけば龍香はかなり深いところまで落ちたようで、穴が遥か上の方に見える。
《大丈夫か龍香?》
「うん…なんとか。…早く、上がらないと。」
龍香は何処か登れる所はないかと辺りを見回す。そして気づく。玉座のような椅子の背後にある妖しく胎動する不気味な光を放つ球の存在に。
「なに……これ?」
「チッ、厄介なとこに落ちたわね。」
龍香がその光球を見ていると、同じく降りてきた龍姫が降り立つ。
「冥土の土産に教えてあげるわ。これこそが世界を変える鍵にしてエネルギーを貯める壺。そしてこの溜まり具合からして、もうエネルギーは充分溜まったようだわ。」
嗜虐的な笑みを浮かべる彼女を龍香は睨みつける。
「いや?寧ろちょっと溜めすぎたかもしれないわ。貴方に倒されたシードゥス達と貴方のお友達の命まで吸わせているから。」
龍姫は杖を構えて龍香に向ける。
「後はカノープス。アンタを生贄にして、私は世界を変えるわ。」
「……そうは、させない。これ以上何も奪わせない。」
龍香は龍姫に剣を向ける。しかし龍姫はニヤリと笑うと、光となってその場から消える。
「!」
そして後ろへと瞬時に回り込んだ龍姫の一撃が龍香を捉える。咄嗟に防御し、剣を振るうが、またもや龍姫はその場から消える。
「くっ」
今度は右から蹴られて龍香は床へと転がる
《クソッ、アイツ急に速く…!》
「普段は疲れるからこれはやらないんだけど…あと少しで目的が達せられる以上…。」
龍姫は光となって龍香の上を取ると柄頭を倒れている龍香に打ち込む。
「う、あっ!?」
「手段は選ばないわ。」
「うああああ!」
杖で突かれた鈍い痛みに耐えながら龍香は剣を振るうが、龍姫はまたもや消える。
龍香は龍姫を目で追いかけようと目を忙しなく動かすが、文字通り光速で動く彼女に龍香は翻弄される。
「はぁっ……はぁっ……!」
《落ち着け、龍香。》
「でも……!このままじゃ…!」
《だからだ。冷静になれ。いたずらに体力を消耗するな。一見奴は更なる手札を見せたように見えるが、その実奴は追い込まれている。》
「え?」
カノープスの言葉に龍香は頭に疑問符を浮かべるが、彼は続ける。
《奴は今激しく消耗している。現に三つの光の刃も障壁も奴は出していない。今の奴は光速移動でこちらを撹乱するのが精一杯なんだ。》
「で、でもこっちだって攻撃出来ないよ!」
現に何とか“ティラノカラー”の変身は維持できているものの、最早二人に他の色に変わることも、強化形態になることも叶わない。
あちらが追い詰められていても、こちらからも手出しが出来ないのでは意味がない。
《……俺に考えがある。龍香。“タイラントブレイド”の効果を覚えているか?》
「えっ、確か斬ったものの能力を無効化して自分のものにするんだよね。」
《そうだ。そして一か八かだが、丁度良さげなものがあるな。》
カノープスの言葉に龍香も彼の狙いを理解する。
「カノープス……もう、私達には。」
《あぁ。もう。俺達が奴に勝つには、これしかない。》
「……うん!行こう!!」
そう言うと彼女はダッと走り出す。その向かう先には光球があった。
剣を構えて走り出す龍香を見て、龍姫は龍香の狙いに気づく。
「まさか、勝てないと見て、せめて光球を破壊しようって魂胆か!」
龍姫は龍香の狙いを察すると光速で龍香の前に立ち塞がるように現れる。
「!」
「そうはさせるか!」
龍姫は龍香の向けて杖を振るう。龍香は振るわれた杖に対して姿勢を低くし、スライディングのように滑り込む事でその攻撃を回避しながら光球へと向かう。
「うおおおおお!」
さらに龍香は地面を蹴って剣を突き出す。しかし、スライディングからすぐに立ち上がって振るったと言うこともあり、その刃は光球の端を掠めるだけで破壊するには至らなかった。
健在の光球を見て、龍姫は龍香を嘲笑う。
「は、はははっ。焦らせて……けど最後の作戦も無駄だったようね。」
《……そいつはどうかな。》
「何?」
《俺達の目的はこの光球を破壊する事じゃない。》
龍香が立ち上がって振り返ると、そこには強く輝く“タイラントブレイド”があった。
それを見た龍姫は彼女達の狙いに気づく。
「まさか、アンタ達のホントの狙いは……!」
「……貴方が見下した皆の力で。私は勝つよ。」
龍香は深呼吸して、一旦心を落ち着けると叫ぶ。
「これが私達の最後の手だっ!!」
《行くぞ龍香!!》
龍香が剣を構え、“タイラントリフレクト”に普段収納している方とは逆方向に突き刺す。すると剣と盾はより一層輝き、龍香の体も光を放ち始める。
装甲とドレスに光のラインが走り、龍香の左眼が晴れ渡る空の如き蒼に染まる。そして背中からも光が放たれ、それは徐々に形を変化させ、まるで翼のように龍香の背に固定される。
そして剣の柄が伸び、盾も展開して両刃の戦斧槍(ハルバード)となり、龍香はそれを構える。
《魂飛魄散!!ティラノカラー・ドミネイト!!》
「何……ッ!?まさか、光球の力の一部をモノにしたと言うのか!?お前がっ…!?」
龍香の変貌した姿を見て、龍姫は後ずさる。
「勝負だぁ──ッ!!」
新たな姿へと変わった龍香は龍姫に向けて一気に飛翔する。龍姫は咄嗟に杖を振るい、光の刃を放つが、龍香の左眼が輝く。
「赤羽さんっ!」
放たれた光の刃が龍香の身体を貫いたかに見えたが、龍香の身体に傷ひとつ無い。そう、まるで龍香の身体は幻かのように光の刃をすり抜けたのだ。
「ぐっ、この技は!?」
「龍斗お兄ちゃん!」
次の瞬間またもや左眼が輝き、龍姫の目前まで迫った龍香は水を纏った戦斧槍を振るう。
龍姫がそれを杖で受け止めるが、戦斧槍と杖がぶつかった瞬間水が弾けて凄まじい衝撃と共に龍姫をぶっ飛ばす。
「ぐっ、お、おぉおお!?この技は龍斗の……!」
「お兄ちゃん!トゥバン!」
龍香は龍姫に戦斧槍を投げつける。慌てて龍姫はそれを杖で防御するが、当たった瞬間赤黒い雷撃が弾けて龍姫の動きを制限する。
「雷激貫爪脚!!」
龍香がそのまま柄を押し込むように繰り出した蹴りは龍姫をさらに吹き飛ばす。
「ふざけるなっ…!龍香が、他の奴の能力を使える!?ふざけるな…!そんな事が、そんな事が許されてたまるかぁ──ッ!!」
龍姫はそう吼えながら龍香に向けて巨大な光の刃を放つ。
「月乃助さんっ!ピーコックさんっ!」
龍香は両手で生成した光の球を刃に向けて投げつける。それは刃に当たると爆発し、攻撃を相殺する。
煙が巻き上がる中、それを切り裂いて飛んできた糸が龍姫を雁字搦めに拘束する。
「ぐおっ!?」
「黒鳥さんっ!そして!」
龍香の背から蠍のような尻尾が生え、それが彼女の右腕に巻き付くと、青白い光を放つ。
「これが雪花ちゃんとアンタレスの力!デッドリー•ポイゾネス•ピアシング!!」
龍香が突き出した右腕が拘束されて動けない龍姫に炸裂し、彼女はそれをまともに受けて地面に背をつける。
《どうだ龍姫!これが!ここまで龍香と俺を立ち上がらせ続けて来た結束の力だ!!》
カノープスの言葉に龍姫は顔を起こしながら、忌々しげに彼女を睨み付ける。
「……だからぁ。それがなんだって言うのよ!!信じる人のために戦える?仲間と一緒なら乗り越えられる?馬鹿の一つ覚えみたいに…!」
龍姫はまるで幽鬼のようにゆらりと立ち上がり、龍香へと自分の中の全ての怨みを吐き出すように叫ぶ。
「だったら教えなさいよ。その信じた奴に裏切られてさぁ、一生消えない傷を負わされた私はどうすれば良かったの!?ただ黙って嘲笑われていれば良かったの!?ずっと泣き寝入りしていればよかったの!?誰も答えを教えてくれなかった!!パパもママも龍斗も!アンタみたいに誰も彼もが周りに恵まれている訳じゃないのよ!」
怨嗟を喚き散らす龍姫を龍香はジッと見つめる。
(あぁ、きっと。)
きっと。目の前の彼女はもしかしたら。何処かで諦めてしまい、他人を信じる事が出来ない自分自身なのかもしれないと龍香は思えた。
だが、だからこそ。龍香は戦斧槍を下ろす。
「……それはそうだよ。だってその答えはきっとお姉ちゃん自身が時間をかけて自分の気持ちに整理をつけて答えを出すべき事なんだから。」
「……何ですって?」
「……確かにお姉ちゃんが受けた痛みや悔しさもかなり辛かったとは思うよ。けど。だからってそれを他人にして良いはずがない。貴方がやった事は自分がされたことを他人にして、“同じ立場”の人間を産み出しているだけ!どうして、こんな酷いことが出来るの!?突然何かを奪われる辛さはお姉ちゃんが一番良く知っているハズなのに!」
「うるさいっ!!うるさいうるさいっ!いいじゃない!どうせ世界が変われば生き返るんだから!信じられる人だって私がそういう風に世界を変えれば……!!」
龍香に武器を突きつけられながらも、龍姫は叫び返す。そんな彼女に龍香は。
「お姉ちゃん!逃げないで!前を向いて!」
龍香の言葉に龍姫が黙る。
《…そんなやり方をしたってお前はずっと一人ぼっちだぞ。……そんなの、悲しいだけだ。》
「…お姉ちゃん。確かにね。裏切られるのは辛い。私だってどうしたらいいかすぐには分からない。…けど、ひとりぼっちはもっと辛いよ。」
龍香はそう言うと、龍姫に手を差し出す。
「……お姉ちゃんがしたことは決して許されることじゃないし、償っていかなきゃいけない事だと思う。けどもし、お姉ちゃんが一人じゃ向き合えないなら。私達が側にいてあげる。お兄ちゃんだって、きっと……」
「ふざけるな……」
「お姉ちゃん…?」
龍姫は杖を構えると、光となって消える。
「今更!やめられないわ!もう、私は引き返せないのよっ!」
龍姫は一瞬にして龍香を杖の間合いに捉える。龍香もすぐに戦斧槍で振るわれる一撃を止めるが、彼女はそれでも尚杖を振るい続ける。
「そんなに止めたければ!力づくで止めなさい!!」
「……分かった。」
龍姫にそう返すと龍香は戦斧槍に渾身の力を込める。そして次の瞬間互いに振るった一撃が、互いの武器を破壊する。
「なっ」
龍姫が呆気に取られている間に龍香は飛翔し、右手で召喚した“タイラントアックス”を掴むと急降下しながらそれを振るう。振るわれた斧からは七色の光の軌跡が溢れる。
「タイラントトラッシュ!!」
「“征服王の侵略聖光刃”!!」
龍姫は右手を翳し、巨大な光の剣を纏った光輪を放つ。二つはぶつかり合い、凄まじい衝撃を生み出す。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
《うおおおおおおお!》
龍香とカノープスの叫ぶ。しかし龍姫の技の威力は凄まじく、龍香の全力を持ってしても押し込む事が出来ない。
「ぐっ、ううううう!!」
「どうしたの?結束の力があれば!私を倒せるんでしょう?早くやってみせなさいよ!!」
龍姫の技の勢いがさらに増す。この技に全力を注いでいるのだろう。
「負、ける、かぁ……ッ!」
思わず龍香が苦悶の声を漏らしたその瞬間。そっと、龍香の手に誰かが手を添える。
「えっ……」
龍香に手を添えていたのは、桃色の長い髪を靡かせる物腰柔らかそうな女性と赤茶の髪の快活そうな男性……母の龍那と父の鯉昇の姿だった。
「お母さ……」
《お前……》
言いかけて、龍香とカノープスはふとあることに気づく。自分自身を支えてくれる多くの人たちが後ろにいる事を。
「皆……。」
《お前ら……っ》
皆言葉は発さない。だが表情だけで彼らの気持ちは理解出来た。皆、自分達の勝利を願っている。
次の瞬間には龍香の勢いが盛り返し、徐々に刃を押し返していく。
「ば、か、な。龍香の後ろに、人が……?」
龍姫も負けじと力を高めるが、先程とは違い、龍香の勢いを上回る事が出来ない。
「ふざ、けるなっ……!これが結束の力…なんて……!認めるか…っ!」
龍姫は汗を流しながら呻く。この力を龍姫は認める訳にはいかなかった。
(人は裏切る…ッ!信頼なんて絵空事ッ!所詮人間最後は一人なんだから…ッ!そうよ…そういうものなのっ!だから私は世界を変えるのッ!だって、そうじゃなくちゃおかしいじゃない!そうじゃなきゃ、私の、私のしてきたことは…!?)
「私は、私はァッ……!!」
龍姫が苦悶の声を上げたその瞬間。そっと、その手に誰かが手を添える。
「なっ……」
龍姫がその手の先を見ると、そこには龍斗と父と母がいた。三人は彼女の腕を軽く握ると微笑む。龍斗は彼女の腕を掴みながら首を振る。
「…なんでっ、龍斗、達が。」
《!龍香!今だッ!》
龍姫の勢いが一瞬弱まる。二人はその隙を逃さず、最後の力を振り絞る。
次の瞬間ピシッとヒビ割れるような音がする。その直後ヒビはドンドンと拡がっていき、とうとう龍姫の技を粉々に打ち砕く。
「──あ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
最早声にもならない絶叫と共に七色の光の軌跡を描きながら龍姫に斧が振り下ろされる。
龍姫は防御することも無く、その一撃を喰らう。鮮血が飛び散り、自身から溢れる血を何処か他人事のように見ながら龍姫が膝を着くと、変身が解除される。
一方の龍香も着地すると同時に変身が解けて、元の姿に戻る。
《はぁっ…はぁっ……!やったな、龍香…。》
「う、うん。」
龍香は振り返ると、自分の血の海に沈む龍姫を見下ろす。
「お姉ちゃん……」
苦渋の表情を浮かべる龍香に、龍姫は力なく笑う。
「……なんて、顔をしているのよ。アンタは私に勝った…勝ったのよ……。」
「……。」
龍香は膝をつくと龍姫の手を取る。龍姫は自分の傷口の深さから最早永くないと察したのか。
「は、ははは……なんて、ザマよ。見なさい龍香。これが向けられた愛に、誰かを信じる事から逃げた……馬鹿な女の末路よ。」
「…お姉ちゃん。」
龍姫は力なく笑っていたが、徐々に笑い声は鎮まり、彼女の瞳から涙が溢れる。
「笑いなさいよ。こんな……惨めな…わ、た……し、を」
懇願するように龍姫はそう言いかけると、彼女の手から力が抜け、糸が切れたように脱力する。
龍香は彼女の顔に手をやると、その眼を閉じさせる。
「……笑わないよ、お姉ちゃん。」
龍香はそう言って立ち上がると、ついに光球に向き直る。
「…カノープス。これが……」
《あぁ。こいつが、世界を作り変える鍵だ。》
次の瞬間龍香の頭に着いていたカノープスが強烈な光を発する。
あまりの眩しさに目を閉じた龍香が、再び目を開けると、そこには筋骨隆々の恐竜の骨のような装甲を纏った怪物がその場にいた。
龍香は一瞬驚くが。
「……カノープス、だよね?」
「あぁ。どうやらあの時奪った力の一部で肉体を再生出来たみたいだ。」
本来の肉体を取り戻したカノープスは2m以上ある巨躯を誇っており、掌サイズからの急成長に龍香はほぉ〜と感心したように彼を見上げる。
「…なんか、そうマジマジと見られると気恥ずかしいんだが。」
「えっー、だって珍しくて。」
二人が話をしていると、龍香の通信機から連絡が入る。
『り……か…りゅ……か…龍香!』
「お兄ちゃん?」
兄からの連絡に龍香は通信機をオンにする。
『龍香!無事か!』
「あ、お兄ちゃん…。」
『今、そっちはどうなっている!?』
何処か切羽詰まったような龍賢の口調に戸惑いながらも龍香は答える。
「その…勝ったよ。…お姉ちゃんに。」
『……そうか。勝ったか。』
龍香の報告に龍賢は少し悲しそうな声音でそう言う。龍香が話を続けようとすると、月乃助が割り込んでくる。
『あ!繋がったか!龍香君!今の状況を率直に言おう!』
「月乃助さん?」
『今、君達がいる円盤は急速に高度を落としている!恐らく後四十分で地表に激突する!!』
「えぇ!?」
「何ッ!?」
『恐らく君達が龍姫を倒したからだろう!早くその場から離脱したまえ!安心しろ!君達の…ば……ザザっ』
「月乃助さん?」
『ぐっ……ザザっ……こんな、…時に!電波障害か!』
焦る“新月”メンバー達に龍香は通信機で言う。
「……安心して。皆。」
『な……に?』
「私が、何とかする。」
『は?何を……』
龍香はそう言うと通信を切る。そしてカノープスへと向き直ると。
「…カノープス。やろう。」
「……あぁ。元より、そのつもりだ。」
二人は頷くと、光球に触れる。すると、二人の脳内に様々な情報が流れ込んでいる。あまりに暴力的なまでの膨大な情報量に龍香達は気圧される。が、龍香達は何とか耐えると。
「……っ、」
「…成る程。これが世界を……」
そう言うとカノープスは龍香と共に光球にアクセスし、世界を作り変えるための操作をし始める。
操作を進める中、龍香はカノープスに語り掛ける。
「…ねぇ、カノープス。」
「なんだ?龍香。」
「初めてあった時のこと、覚えてる?」
「あぁ。覚えているとも。」
「もう、あの時が懐かしいや。私、カノープスのこと、最初おもちゃだと思っちゃってさ。」
「あぁ。まぁ、無理もない見た目ではあったが。」
龍香は懐かしむように思い出を語り出す。
「かおりのために初めて変身して、雪花ちゃんや黒鳥さん“新月”の皆と出会って、トゥバンと戦って、お兄ちゃんが帰ってきて、赤羽さん、シオンちゃん、月乃助さんとピーコックと出会って。…龍斗お兄ちゃんと仲直りして、お母さんに励まされて、プロウフと、お姉ちゃんを、倒して…」
そう語る龍香の口調がドンドンと尻すぼみしていき、声が震えていく。
「……私達が、作り直す世界だったら皆幸せになれるかなぁ…。また、仲良くなれるかな……?」
ポロポロと涙を流す龍香を見て、カノープスはしばし黙った後龍香に言う。
「龍香。……今だから言うよ。俺はお前達と関係を持たなければよかったと思う。」
「えっ……。」
カノープスの言葉に龍香が驚く中、彼は続ける。
「俺がいなければ、お前達家族は幸せの中にいられた。父と母の愛を受けて、兄と仲良く暮らせていたハズだ。そもそもシードゥスさえいなければ、他の奴らも……こんな不幸な事にはならなかった。友を、恋人を、家族を……失うことも無かった。」
「カノープス…。」
「正直お前に戦わせるのは嫌だった。本当はこんな事なんて一切知らず、家族と過ごし、友と笑い、誰かを愛し、幸せになって欲しかった。」
カノープスは光球から手を離すと、龍香の頭に手を置く。
「すまなかったな龍香。俺は、お前から大切なモノを…時間を、友を、家族を……何よりお前自身の純粋な心を、奪っちまった。だからよ。……せめて償わせて欲しい。」
次の瞬間、カノープスは龍香の襟首を掴むと思い切り後ろへと放り投げる。
「きゃっ!?」
さらにカノープスが地面に手を置くと、龍香を覆うように骨で出来た壁が二人を隔てる。
「なっ、カノープス!?何をするの!?」
龍香は骨の壁を押すが、壁はビクともしない。カノープスは龍香に背を向けて、光球を再び弄り出す。
「…悪いが、ここからは俺が世界を作り変える。お前は、“シードゥスなんてものが存在しない”世界で、友と、家族と幸せに暮らすんだ。」
「何、言ってるの?カノープス?」
カノープスは龍香に背を向けながら言う。
「……お別れってことだ龍香。お前と過ごした時間は悪くなかったよ。」
「カノープスッ!勝手な事言わないでッ!こんな、騙し討ちみたいなやり方で別れるなんて嫌だッ!何で消えるの?何で、こんなっ!償いたいなら、一緒にいてよ!私達は、相棒なんでしょ!?」
龍香は涙を滲ませながら叫ぶ。その叫びを受けながら、カノープスも肩を震わせて。
「ありがとう龍香。ここまで俺に着いてきてくれて。お前達に会えて──俺は幸せだった。」
カノープスがそう言うと、光の球はこれまで以上に強烈な光を放つ。
「カノープスッ──!!」
龍香の叫び声が遠くに聞こえる。カノープスは目を閉じながら、フッと笑う。
(これで良いんだ。龍香。)
カノープスは流れ込んできた情報…世界を作り変える方法の中である事に気づいていた。
そう、世界を変えるには誰かを人柱にしなければならない。それがこの光球を作動させる方法だったのだ。
(これで良いんだ。これで……)
そもそもこうなってしまだたのは自分達シードゥスがいたからだ。まさしく因果応報。元に戻るだけなのだ。
「これで、世界は元に戻──」
そう言おうとした瞬間光が全てを包み込む。
そして世界は──白に染まった。
殴られた衝撃で怯む龍姫に龍香はさらに拳を振るいながら叫ぶ。
「皆を見下すなっ!皆を蔑むなっ!皆を、バカにするな──ッ!!」
龍香は突然の猛攻に呆気に取られる龍姫に自分の額を叩きつけて頭突きを見舞いする。
「皆ッ!皆必死に生きていたのに!“新月”の皆も!シードゥス達だって!皆自分の信じるもののために一生懸命戦って!必死だった!!それなのにっ、貴方は!!」
「ぐっ、このッ!!それが、どうしたって言うんだッ!」
殴られながらも、杖を構えると龍姫はそれを振るう。
《龍香!後ろだ!》
「ッ!」
龍香はカノープスの声に従い、後ろに落ちていた“タイラントブレイド”を拾い上げると、杖の一撃を受け止める。
さらに龍香は一撃を受け止めながら反撃のために“タイラントブレイド”を振るう。
(な、に?)
“ティラノカラー”であるにも関わらず互角に打ち合う龍香を見て、龍姫は驚きの色を隠せない。
(な、なんで!?何でこいつはこの形態なのに私と互角以上に渡り合えている!?おかしい!こいつがこんな短期間で……!いや、待て?)
龍姫の脳裏にある事が過ぎる。
(もしかして、逆か?奴が強くなったんじゃない。“私が弱くなった”のか?)
五分に打ち合う二人をカノープスは見つめる。
(そうだ。こっちも限界が近いが、龍姫の奴だって無限に強いって訳じゃない。赤羽、ピーコック、トゥバンが命を賭して与えたダメージも完全には癒えていない。それに、さっき雪花とアンタレスの毒のダメージがアイツをここまで弱らせている!!)
龍香は剣で杖を受け止めると、片手を剣から手放して龍姫を殴りつける。
「うぐ、お?この、私が押されている?こんな、もう力もほとんどないガキに!?」
龍姫はギリっと歯軋りをすると龍香の振るう一撃を弾いて蹴り飛ばし、跳躍して眼下の龍香に左手を翳す。
「潰れろッ!」
龍姫から巨大な氷塊が龍香に向けて放たれる。
《やばい避けろ龍香!》
「ッ!」
龍香は持てる力を使って地面を蹴ってその氷塊の一撃を避ける。しかし円盤に氷塊が炸裂した事で足場が崩落し、龍香はそれに巻き込まれてしまう。
「きゃあああああ!?」
崩落に巻き込まれた龍香は全身を強く打ちながら落下していく。そして気がつけば龍香はかなり深いところまで落ちたようで、穴が遥か上の方に見える。
《大丈夫か龍香?》
「うん…なんとか。…早く、上がらないと。」
龍香は何処か登れる所はないかと辺りを見回す。そして気づく。玉座のような椅子の背後にある妖しく胎動する不気味な光を放つ球の存在に。
「なに……これ?」
「チッ、厄介なとこに落ちたわね。」
龍香がその光球を見ていると、同じく降りてきた龍姫が降り立つ。
「冥土の土産に教えてあげるわ。これこそが世界を変える鍵にしてエネルギーを貯める壺。そしてこの溜まり具合からして、もうエネルギーは充分溜まったようだわ。」
嗜虐的な笑みを浮かべる彼女を龍香は睨みつける。
「いや?寧ろちょっと溜めすぎたかもしれないわ。貴方に倒されたシードゥス達と貴方のお友達の命まで吸わせているから。」
龍姫は杖を構えて龍香に向ける。
「後はカノープス。アンタを生贄にして、私は世界を変えるわ。」
「……そうは、させない。これ以上何も奪わせない。」
龍香は龍姫に剣を向ける。しかし龍姫はニヤリと笑うと、光となってその場から消える。
「!」
そして後ろへと瞬時に回り込んだ龍姫の一撃が龍香を捉える。咄嗟に防御し、剣を振るうが、またもや龍姫はその場から消える。
「くっ」
今度は右から蹴られて龍香は床へと転がる
《クソッ、アイツ急に速く…!》
「普段は疲れるからこれはやらないんだけど…あと少しで目的が達せられる以上…。」
龍姫は光となって龍香の上を取ると柄頭を倒れている龍香に打ち込む。
「う、あっ!?」
「手段は選ばないわ。」
「うああああ!」
杖で突かれた鈍い痛みに耐えながら龍香は剣を振るうが、龍姫はまたもや消える。
龍香は龍姫を目で追いかけようと目を忙しなく動かすが、文字通り光速で動く彼女に龍香は翻弄される。
「はぁっ……はぁっ……!」
《落ち着け、龍香。》
「でも……!このままじゃ…!」
《だからだ。冷静になれ。いたずらに体力を消耗するな。一見奴は更なる手札を見せたように見えるが、その実奴は追い込まれている。》
「え?」
カノープスの言葉に龍香は頭に疑問符を浮かべるが、彼は続ける。
《奴は今激しく消耗している。現に三つの光の刃も障壁も奴は出していない。今の奴は光速移動でこちらを撹乱するのが精一杯なんだ。》
「で、でもこっちだって攻撃出来ないよ!」
現に何とか“ティラノカラー”の変身は維持できているものの、最早二人に他の色に変わることも、強化形態になることも叶わない。
あちらが追い詰められていても、こちらからも手出しが出来ないのでは意味がない。
《……俺に考えがある。龍香。“タイラントブレイド”の効果を覚えているか?》
「えっ、確か斬ったものの能力を無効化して自分のものにするんだよね。」
《そうだ。そして一か八かだが、丁度良さげなものがあるな。》
カノープスの言葉に龍香も彼の狙いを理解する。
「カノープス……もう、私達には。」
《あぁ。もう。俺達が奴に勝つには、これしかない。》
「……うん!行こう!!」
そう言うと彼女はダッと走り出す。その向かう先には光球があった。
剣を構えて走り出す龍香を見て、龍姫は龍香の狙いに気づく。
「まさか、勝てないと見て、せめて光球を破壊しようって魂胆か!」
龍姫は龍香の狙いを察すると光速で龍香の前に立ち塞がるように現れる。
「!」
「そうはさせるか!」
龍姫は龍香の向けて杖を振るう。龍香は振るわれた杖に対して姿勢を低くし、スライディングのように滑り込む事でその攻撃を回避しながら光球へと向かう。
「うおおおおお!」
さらに龍香は地面を蹴って剣を突き出す。しかし、スライディングからすぐに立ち上がって振るったと言うこともあり、その刃は光球の端を掠めるだけで破壊するには至らなかった。
健在の光球を見て、龍姫は龍香を嘲笑う。
「は、はははっ。焦らせて……けど最後の作戦も無駄だったようね。」
《……そいつはどうかな。》
「何?」
《俺達の目的はこの光球を破壊する事じゃない。》
龍香が立ち上がって振り返ると、そこには強く輝く“タイラントブレイド”があった。
それを見た龍姫は彼女達の狙いに気づく。
「まさか、アンタ達のホントの狙いは……!」
「……貴方が見下した皆の力で。私は勝つよ。」
龍香は深呼吸して、一旦心を落ち着けると叫ぶ。
「これが私達の最後の手だっ!!」
《行くぞ龍香!!》
龍香が剣を構え、“タイラントリフレクト”に普段収納している方とは逆方向に突き刺す。すると剣と盾はより一層輝き、龍香の体も光を放ち始める。
装甲とドレスに光のラインが走り、龍香の左眼が晴れ渡る空の如き蒼に染まる。そして背中からも光が放たれ、それは徐々に形を変化させ、まるで翼のように龍香の背に固定される。
そして剣の柄が伸び、盾も展開して両刃の戦斧槍(ハルバード)となり、龍香はそれを構える。
《魂飛魄散!!ティラノカラー・ドミネイト!!》
「何……ッ!?まさか、光球の力の一部をモノにしたと言うのか!?お前がっ…!?」
龍香の変貌した姿を見て、龍姫は後ずさる。
「勝負だぁ──ッ!!」
新たな姿へと変わった龍香は龍姫に向けて一気に飛翔する。龍姫は咄嗟に杖を振るい、光の刃を放つが、龍香の左眼が輝く。
「赤羽さんっ!」
放たれた光の刃が龍香の身体を貫いたかに見えたが、龍香の身体に傷ひとつ無い。そう、まるで龍香の身体は幻かのように光の刃をすり抜けたのだ。
「ぐっ、この技は!?」
「龍斗お兄ちゃん!」
次の瞬間またもや左眼が輝き、龍姫の目前まで迫った龍香は水を纏った戦斧槍を振るう。
龍姫がそれを杖で受け止めるが、戦斧槍と杖がぶつかった瞬間水が弾けて凄まじい衝撃と共に龍姫をぶっ飛ばす。
「ぐっ、お、おぉおお!?この技は龍斗の……!」
「お兄ちゃん!トゥバン!」
龍香は龍姫に戦斧槍を投げつける。慌てて龍姫はそれを杖で防御するが、当たった瞬間赤黒い雷撃が弾けて龍姫の動きを制限する。
「雷激貫爪脚!!」
龍香がそのまま柄を押し込むように繰り出した蹴りは龍姫をさらに吹き飛ばす。
「ふざけるなっ…!龍香が、他の奴の能力を使える!?ふざけるな…!そんな事が、そんな事が許されてたまるかぁ──ッ!!」
龍姫はそう吼えながら龍香に向けて巨大な光の刃を放つ。
「月乃助さんっ!ピーコックさんっ!」
龍香は両手で生成した光の球を刃に向けて投げつける。それは刃に当たると爆発し、攻撃を相殺する。
煙が巻き上がる中、それを切り裂いて飛んできた糸が龍姫を雁字搦めに拘束する。
「ぐおっ!?」
「黒鳥さんっ!そして!」
龍香の背から蠍のような尻尾が生え、それが彼女の右腕に巻き付くと、青白い光を放つ。
「これが雪花ちゃんとアンタレスの力!デッドリー•ポイゾネス•ピアシング!!」
龍香が突き出した右腕が拘束されて動けない龍姫に炸裂し、彼女はそれをまともに受けて地面に背をつける。
《どうだ龍姫!これが!ここまで龍香と俺を立ち上がらせ続けて来た結束の力だ!!》
カノープスの言葉に龍姫は顔を起こしながら、忌々しげに彼女を睨み付ける。
「……だからぁ。それがなんだって言うのよ!!信じる人のために戦える?仲間と一緒なら乗り越えられる?馬鹿の一つ覚えみたいに…!」
龍姫はまるで幽鬼のようにゆらりと立ち上がり、龍香へと自分の中の全ての怨みを吐き出すように叫ぶ。
「だったら教えなさいよ。その信じた奴に裏切られてさぁ、一生消えない傷を負わされた私はどうすれば良かったの!?ただ黙って嘲笑われていれば良かったの!?ずっと泣き寝入りしていればよかったの!?誰も答えを教えてくれなかった!!パパもママも龍斗も!アンタみたいに誰も彼もが周りに恵まれている訳じゃないのよ!」
怨嗟を喚き散らす龍姫を龍香はジッと見つめる。
(あぁ、きっと。)
きっと。目の前の彼女はもしかしたら。何処かで諦めてしまい、他人を信じる事が出来ない自分自身なのかもしれないと龍香は思えた。
だが、だからこそ。龍香は戦斧槍を下ろす。
「……それはそうだよ。だってその答えはきっとお姉ちゃん自身が時間をかけて自分の気持ちに整理をつけて答えを出すべき事なんだから。」
「……何ですって?」
「……確かにお姉ちゃんが受けた痛みや悔しさもかなり辛かったとは思うよ。けど。だからってそれを他人にして良いはずがない。貴方がやった事は自分がされたことを他人にして、“同じ立場”の人間を産み出しているだけ!どうして、こんな酷いことが出来るの!?突然何かを奪われる辛さはお姉ちゃんが一番良く知っているハズなのに!」
「うるさいっ!!うるさいうるさいっ!いいじゃない!どうせ世界が変われば生き返るんだから!信じられる人だって私がそういう風に世界を変えれば……!!」
龍香に武器を突きつけられながらも、龍姫は叫び返す。そんな彼女に龍香は。
「お姉ちゃん!逃げないで!前を向いて!」
龍香の言葉に龍姫が黙る。
《…そんなやり方をしたってお前はずっと一人ぼっちだぞ。……そんなの、悲しいだけだ。》
「…お姉ちゃん。確かにね。裏切られるのは辛い。私だってどうしたらいいかすぐには分からない。…けど、ひとりぼっちはもっと辛いよ。」
龍香はそう言うと、龍姫に手を差し出す。
「……お姉ちゃんがしたことは決して許されることじゃないし、償っていかなきゃいけない事だと思う。けどもし、お姉ちゃんが一人じゃ向き合えないなら。私達が側にいてあげる。お兄ちゃんだって、きっと……」
「ふざけるな……」
「お姉ちゃん…?」
龍姫は杖を構えると、光となって消える。
「今更!やめられないわ!もう、私は引き返せないのよっ!」
龍姫は一瞬にして龍香を杖の間合いに捉える。龍香もすぐに戦斧槍で振るわれる一撃を止めるが、彼女はそれでも尚杖を振るい続ける。
「そんなに止めたければ!力づくで止めなさい!!」
「……分かった。」
龍姫にそう返すと龍香は戦斧槍に渾身の力を込める。そして次の瞬間互いに振るった一撃が、互いの武器を破壊する。
「なっ」
龍姫が呆気に取られている間に龍香は飛翔し、右手で召喚した“タイラントアックス”を掴むと急降下しながらそれを振るう。振るわれた斧からは七色の光の軌跡が溢れる。
「タイラントトラッシュ!!」
「“征服王の侵略聖光刃”!!」
龍姫は右手を翳し、巨大な光の剣を纏った光輪を放つ。二つはぶつかり合い、凄まじい衝撃を生み出す。
「はぁぁぁぁぁっ!!」
《うおおおおおおお!》
龍香とカノープスの叫ぶ。しかし龍姫の技の威力は凄まじく、龍香の全力を持ってしても押し込む事が出来ない。
「ぐっ、ううううう!!」
「どうしたの?結束の力があれば!私を倒せるんでしょう?早くやってみせなさいよ!!」
龍姫の技の勢いがさらに増す。この技に全力を注いでいるのだろう。
「負、ける、かぁ……ッ!」
思わず龍香が苦悶の声を漏らしたその瞬間。そっと、龍香の手に誰かが手を添える。
「えっ……」
龍香に手を添えていたのは、桃色の長い髪を靡かせる物腰柔らかそうな女性と赤茶の髪の快活そうな男性……母の龍那と父の鯉昇の姿だった。
「お母さ……」
《お前……》
言いかけて、龍香とカノープスはふとあることに気づく。自分自身を支えてくれる多くの人たちが後ろにいる事を。
「皆……。」
《お前ら……っ》
皆言葉は発さない。だが表情だけで彼らの気持ちは理解出来た。皆、自分達の勝利を願っている。
次の瞬間には龍香の勢いが盛り返し、徐々に刃を押し返していく。
「ば、か、な。龍香の後ろに、人が……?」
龍姫も負けじと力を高めるが、先程とは違い、龍香の勢いを上回る事が出来ない。
「ふざ、けるなっ……!これが結束の力…なんて……!認めるか…っ!」
龍姫は汗を流しながら呻く。この力を龍姫は認める訳にはいかなかった。
(人は裏切る…ッ!信頼なんて絵空事ッ!所詮人間最後は一人なんだから…ッ!そうよ…そういうものなのっ!だから私は世界を変えるのッ!だって、そうじゃなくちゃおかしいじゃない!そうじゃなきゃ、私の、私のしてきたことは…!?)
「私は、私はァッ……!!」
龍姫が苦悶の声を上げたその瞬間。そっと、その手に誰かが手を添える。
「なっ……」
龍姫がその手の先を見ると、そこには龍斗と父と母がいた。三人は彼女の腕を軽く握ると微笑む。龍斗は彼女の腕を掴みながら首を振る。
「…なんでっ、龍斗、達が。」
《!龍香!今だッ!》
龍姫の勢いが一瞬弱まる。二人はその隙を逃さず、最後の力を振り絞る。
次の瞬間ピシッとヒビ割れるような音がする。その直後ヒビはドンドンと拡がっていき、とうとう龍姫の技を粉々に打ち砕く。
「──あ」
「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!」
最早声にもならない絶叫と共に七色の光の軌跡を描きながら龍姫に斧が振り下ろされる。
龍姫は防御することも無く、その一撃を喰らう。鮮血が飛び散り、自身から溢れる血を何処か他人事のように見ながら龍姫が膝を着くと、変身が解除される。
一方の龍香も着地すると同時に変身が解けて、元の姿に戻る。
《はぁっ…はぁっ……!やったな、龍香…。》
「う、うん。」
龍香は振り返ると、自分の血の海に沈む龍姫を見下ろす。
「お姉ちゃん……」
苦渋の表情を浮かべる龍香に、龍姫は力なく笑う。
「……なんて、顔をしているのよ。アンタは私に勝った…勝ったのよ……。」
「……。」
龍香は膝をつくと龍姫の手を取る。龍姫は自分の傷口の深さから最早永くないと察したのか。
「は、ははは……なんて、ザマよ。見なさい龍香。これが向けられた愛に、誰かを信じる事から逃げた……馬鹿な女の末路よ。」
「…お姉ちゃん。」
龍姫は力なく笑っていたが、徐々に笑い声は鎮まり、彼女の瞳から涙が溢れる。
「笑いなさいよ。こんな……惨めな…わ、た……し、を」
懇願するように龍姫はそう言いかけると、彼女の手から力が抜け、糸が切れたように脱力する。
龍香は彼女の顔に手をやると、その眼を閉じさせる。
「……笑わないよ、お姉ちゃん。」
龍香はそう言って立ち上がると、ついに光球に向き直る。
「…カノープス。これが……」
《あぁ。こいつが、世界を作り変える鍵だ。》
次の瞬間龍香の頭に着いていたカノープスが強烈な光を発する。
あまりの眩しさに目を閉じた龍香が、再び目を開けると、そこには筋骨隆々の恐竜の骨のような装甲を纏った怪物がその場にいた。
龍香は一瞬驚くが。
「……カノープス、だよね?」
「あぁ。どうやらあの時奪った力の一部で肉体を再生出来たみたいだ。」
本来の肉体を取り戻したカノープスは2m以上ある巨躯を誇っており、掌サイズからの急成長に龍香はほぉ〜と感心したように彼を見上げる。
「…なんか、そうマジマジと見られると気恥ずかしいんだが。」
「えっー、だって珍しくて。」
二人が話をしていると、龍香の通信機から連絡が入る。
『り……か…りゅ……か…龍香!』
「お兄ちゃん?」
兄からの連絡に龍香は通信機をオンにする。
『龍香!無事か!』
「あ、お兄ちゃん…。」
『今、そっちはどうなっている!?』
何処か切羽詰まったような龍賢の口調に戸惑いながらも龍香は答える。
「その…勝ったよ。…お姉ちゃんに。」
『……そうか。勝ったか。』
龍香の報告に龍賢は少し悲しそうな声音でそう言う。龍香が話を続けようとすると、月乃助が割り込んでくる。
『あ!繋がったか!龍香君!今の状況を率直に言おう!』
「月乃助さん?」
『今、君達がいる円盤は急速に高度を落としている!恐らく後四十分で地表に激突する!!』
「えぇ!?」
「何ッ!?」
『恐らく君達が龍姫を倒したからだろう!早くその場から離脱したまえ!安心しろ!君達の…ば……ザザっ』
「月乃助さん?」
『ぐっ……ザザっ……こんな、…時に!電波障害か!』
焦る“新月”メンバー達に龍香は通信機で言う。
「……安心して。皆。」
『な……に?』
「私が、何とかする。」
『は?何を……』
龍香はそう言うと通信を切る。そしてカノープスへと向き直ると。
「…カノープス。やろう。」
「……あぁ。元より、そのつもりだ。」
二人は頷くと、光球に触れる。すると、二人の脳内に様々な情報が流れ込んでいる。あまりに暴力的なまでの膨大な情報量に龍香達は気圧される。が、龍香達は何とか耐えると。
「……っ、」
「…成る程。これが世界を……」
そう言うとカノープスは龍香と共に光球にアクセスし、世界を作り変えるための操作をし始める。
操作を進める中、龍香はカノープスに語り掛ける。
「…ねぇ、カノープス。」
「なんだ?龍香。」
「初めてあった時のこと、覚えてる?」
「あぁ。覚えているとも。」
「もう、あの時が懐かしいや。私、カノープスのこと、最初おもちゃだと思っちゃってさ。」
「あぁ。まぁ、無理もない見た目ではあったが。」
龍香は懐かしむように思い出を語り出す。
「かおりのために初めて変身して、雪花ちゃんや黒鳥さん“新月”の皆と出会って、トゥバンと戦って、お兄ちゃんが帰ってきて、赤羽さん、シオンちゃん、月乃助さんとピーコックと出会って。…龍斗お兄ちゃんと仲直りして、お母さんに励まされて、プロウフと、お姉ちゃんを、倒して…」
そう語る龍香の口調がドンドンと尻すぼみしていき、声が震えていく。
「……私達が、作り直す世界だったら皆幸せになれるかなぁ…。また、仲良くなれるかな……?」
ポロポロと涙を流す龍香を見て、カノープスはしばし黙った後龍香に言う。
「龍香。……今だから言うよ。俺はお前達と関係を持たなければよかったと思う。」
「えっ……。」
カノープスの言葉に龍香が驚く中、彼は続ける。
「俺がいなければ、お前達家族は幸せの中にいられた。父と母の愛を受けて、兄と仲良く暮らせていたハズだ。そもそもシードゥスさえいなければ、他の奴らも……こんな不幸な事にはならなかった。友を、恋人を、家族を……失うことも無かった。」
「カノープス…。」
「正直お前に戦わせるのは嫌だった。本当はこんな事なんて一切知らず、家族と過ごし、友と笑い、誰かを愛し、幸せになって欲しかった。」
カノープスは光球から手を離すと、龍香の頭に手を置く。
「すまなかったな龍香。俺は、お前から大切なモノを…時間を、友を、家族を……何よりお前自身の純粋な心を、奪っちまった。だからよ。……せめて償わせて欲しい。」
次の瞬間、カノープスは龍香の襟首を掴むと思い切り後ろへと放り投げる。
「きゃっ!?」
さらにカノープスが地面に手を置くと、龍香を覆うように骨で出来た壁が二人を隔てる。
「なっ、カノープス!?何をするの!?」
龍香は骨の壁を押すが、壁はビクともしない。カノープスは龍香に背を向けて、光球を再び弄り出す。
「…悪いが、ここからは俺が世界を作り変える。お前は、“シードゥスなんてものが存在しない”世界で、友と、家族と幸せに暮らすんだ。」
「何、言ってるの?カノープス?」
カノープスは龍香に背を向けながら言う。
「……お別れってことだ龍香。お前と過ごした時間は悪くなかったよ。」
「カノープスッ!勝手な事言わないでッ!こんな、騙し討ちみたいなやり方で別れるなんて嫌だッ!何で消えるの?何で、こんなっ!償いたいなら、一緒にいてよ!私達は、相棒なんでしょ!?」
龍香は涙を滲ませながら叫ぶ。その叫びを受けながら、カノープスも肩を震わせて。
「ありがとう龍香。ここまで俺に着いてきてくれて。お前達に会えて──俺は幸せだった。」
カノープスがそう言うと、光の球はこれまで以上に強烈な光を放つ。
「カノープスッ──!!」
龍香の叫び声が遠くに聞こえる。カノープスは目を閉じながら、フッと笑う。
(これで良いんだ。龍香。)
カノープスは流れ込んできた情報…世界を作り変える方法の中である事に気づいていた。
そう、世界を変えるには誰かを人柱にしなければならない。それがこの光球を作動させる方法だったのだ。
(これで良いんだ。これで……)
そもそもこうなってしまだたのは自分達シードゥスがいたからだ。まさしく因果応報。元に戻るだけなのだ。
「これで、世界は元に戻──」
そう言おうとした瞬間光が全てを包み込む。
そして世界は──白に染まった。
「カノープスッ!!」
彼女は目を大きく見開いて叫ぶ。心臓がバクバクと高鳴り、呼吸が荒くなる。胸が苦しくなり、一旦落ち着こうと深呼吸をして気づく。自分がベッドで寝ている事に。
「……あれ?」
身体を起こして彼女は辺りを見回す。そして自分の部屋のベッドで寝ていたことに気づく。
カーテンの隙間から朝日が差し込む自分の部屋を見回して唖然となる彼女の耳にリビングから物音がする事に気づく。
何事かと龍香がリビングに近づくと、三人の人影がドアの曇りガラス越しに見え、話し声も聴こえてくる。
「……誰?」
龍香が誰がいるのか確認するためにドアを開けてリビングに入る。
入ると焼けたトーストの香ばしい匂いが鼻につく。そしてリビングの机を見れば、そこにはトーストを齧る龍賢と、珈琲を啜りながら新聞を眺める鯉昇と、龍香の分の食事を用意する龍那の姿があった。
「……え。」
目の前で起きているあり得ない現象に龍香が呆然としていると、彼女に気づいた三人が龍香に声をかける。
「おっ、龍香。起きたんだな。」
「ご飯、出来たわよ。」
「龍香、おはよう。」
三人に話しかけられた彼女は呆然としたまま思わず呟く。
「お父さん……お母さん……なんで、生きてるの?」
次の瞬間ガッシャァンと音がして鯉昇がコーヒーの入ったコップを落とす。
「あっちゃっちゃっちゃっ!!?」
「と、父さん!」
熱々のコーヒーを溢して熱がる鯉昇に龍賢が慌てて近寄る。一方の龍那は顔を青ざめさせて手で口を覆うと。
「し、鯉昇さん……!」
「あ、あぁ。いつかは来ると思っていたが……いざ目の当たりにすると、想像以上だ。」
二人は顔を見合わせたまま、神妙な面持ちで言う。
「「これが反抗期……!!」」
「うるせぇババァとか言われちゃうんだわ…!」
「僕も父さん臭い、とか言われたら立ち直れないかも…」
龍香の発言を勘違いして何故か戦々恐々とする二人を苦笑しながら見つめる龍賢に、龍香は話しかける。
「お兄ちゃん…!その、さ。お兄ちゃんは覚えてる?」
「何をだ?」
「あの、そのシードゥスとか、トゥバンとか!」
龍香が尋ねると、龍賢は?と頭に疑問符を浮かべながら小首を傾げる。
「しーどぅす?トゥバン?……何の話だ?」
「え、何言って…」
本当に何も覚えていない様子の龍賢を見て、龍香が呆然としていると、龍賢は何かを察したのか。
「ははぁ。成る程……寝ぼけているのか?」
「えっ、いや……。」
龍香が言葉に詰まる中、龍賢は両親に説明する。
「そんな取り乱さないでくれ二人とも。龍香は多分寝ぼけているんだよ。」
龍賢がそう言うと、二人はまた顔を見合わせた後。
「な、なーんだ。心配しちゃったワ!」
「そ、そっかぁ。そうだよなぁ。龍香がなぁ!」
そう言うと二人は龍香をぎゅーっと抱き締める。その温かさ、感触は龍香にこれは夢ではないと否が応でも教えてくれる。
「私達が死んじゃう夢でも見たの?」
「安心しろ龍香!父さんはな、龍香の嫁入り姿を見るまでは死なない!」
二人が龍香に頬擦りをしていると、龍香の呆然としていた頭がハッキリしてくる。
今目の前の出来事が夢ではなく現実だとすれば…。
「ご、ごめん。ちょっと出かけてくる!!」
「龍香?」
龍香はそう言うと両親を振り解き、外に出て片っ端から電話をかける。
「朝早くから何龍香?“新月”?へぇー、なんかそう言うアニメでもやってんの?あっ、それよりさ、嵩原先生の宿題なんだけど…」
「あ、朝早くからなんだよ、龍香……。もしかして俺の声を聞きたかったの……あ、別にどうでもいい?ま、まぁそうだよな。…シードゥス?なんじゃそりゃ?」
かおりと藤正に電話で確認するが、二人とも何も覚えていない。龍香は今までの思い出の場所を歩いて回る。
だが、全ての場所が龍香との記憶とは違った光景になっていた。
「違う……!」
黒鳥と赤羽の通う学校も知っていたので、放課後に待ち構えて話かけてみたが。
「うん?多分私達……初対面、だよね?」
「あら……どなたですか?」
二人とも龍香の事を覚えていなかった。龍香は認められなくて、とうとう“新月”の基地があった場所に足を運ぶ。
そして、そこには以前雪花に教えて貰った基地へと通じる井戸があった。
「……あった!」
龍香が目を輝かせて、走り出す。そして井戸の前まで来て彼女は気づいた。
そう、その井戸はコンクリートで固く固められており、蓋を開けることすら出来なかった。
「……本当に、何も、ないの?」
龍香はコンクリートで固められた井戸を見ながら呆然と呟いた。
彼女は目を大きく見開いて叫ぶ。心臓がバクバクと高鳴り、呼吸が荒くなる。胸が苦しくなり、一旦落ち着こうと深呼吸をして気づく。自分がベッドで寝ている事に。
「……あれ?」
身体を起こして彼女は辺りを見回す。そして自分の部屋のベッドで寝ていたことに気づく。
カーテンの隙間から朝日が差し込む自分の部屋を見回して唖然となる彼女の耳にリビングから物音がする事に気づく。
何事かと龍香がリビングに近づくと、三人の人影がドアの曇りガラス越しに見え、話し声も聴こえてくる。
「……誰?」
龍香が誰がいるのか確認するためにドアを開けてリビングに入る。
入ると焼けたトーストの香ばしい匂いが鼻につく。そしてリビングの机を見れば、そこにはトーストを齧る龍賢と、珈琲を啜りながら新聞を眺める鯉昇と、龍香の分の食事を用意する龍那の姿があった。
「……え。」
目の前で起きているあり得ない現象に龍香が呆然としていると、彼女に気づいた三人が龍香に声をかける。
「おっ、龍香。起きたんだな。」
「ご飯、出来たわよ。」
「龍香、おはよう。」
三人に話しかけられた彼女は呆然としたまま思わず呟く。
「お父さん……お母さん……なんで、生きてるの?」
次の瞬間ガッシャァンと音がして鯉昇がコーヒーの入ったコップを落とす。
「あっちゃっちゃっちゃっ!!?」
「と、父さん!」
熱々のコーヒーを溢して熱がる鯉昇に龍賢が慌てて近寄る。一方の龍那は顔を青ざめさせて手で口を覆うと。
「し、鯉昇さん……!」
「あ、あぁ。いつかは来ると思っていたが……いざ目の当たりにすると、想像以上だ。」
二人は顔を見合わせたまま、神妙な面持ちで言う。
「「これが反抗期……!!」」
「うるせぇババァとか言われちゃうんだわ…!」
「僕も父さん臭い、とか言われたら立ち直れないかも…」
龍香の発言を勘違いして何故か戦々恐々とする二人を苦笑しながら見つめる龍賢に、龍香は話しかける。
「お兄ちゃん…!その、さ。お兄ちゃんは覚えてる?」
「何をだ?」
「あの、そのシードゥスとか、トゥバンとか!」
龍香が尋ねると、龍賢は?と頭に疑問符を浮かべながら小首を傾げる。
「しーどぅす?トゥバン?……何の話だ?」
「え、何言って…」
本当に何も覚えていない様子の龍賢を見て、龍香が呆然としていると、龍賢は何かを察したのか。
「ははぁ。成る程……寝ぼけているのか?」
「えっ、いや……。」
龍香が言葉に詰まる中、龍賢は両親に説明する。
「そんな取り乱さないでくれ二人とも。龍香は多分寝ぼけているんだよ。」
龍賢がそう言うと、二人はまた顔を見合わせた後。
「な、なーんだ。心配しちゃったワ!」
「そ、そっかぁ。そうだよなぁ。龍香がなぁ!」
そう言うと二人は龍香をぎゅーっと抱き締める。その温かさ、感触は龍香にこれは夢ではないと否が応でも教えてくれる。
「私達が死んじゃう夢でも見たの?」
「安心しろ龍香!父さんはな、龍香の嫁入り姿を見るまでは死なない!」
二人が龍香に頬擦りをしていると、龍香の呆然としていた頭がハッキリしてくる。
今目の前の出来事が夢ではなく現実だとすれば…。
「ご、ごめん。ちょっと出かけてくる!!」
「龍香?」
龍香はそう言うと両親を振り解き、外に出て片っ端から電話をかける。
「朝早くから何龍香?“新月”?へぇー、なんかそう言うアニメでもやってんの?あっ、それよりさ、嵩原先生の宿題なんだけど…」
「あ、朝早くからなんだよ、龍香……。もしかして俺の声を聞きたかったの……あ、別にどうでもいい?ま、まぁそうだよな。…シードゥス?なんじゃそりゃ?」
かおりと藤正に電話で確認するが、二人とも何も覚えていない。龍香は今までの思い出の場所を歩いて回る。
だが、全ての場所が龍香との記憶とは違った光景になっていた。
「違う……!」
黒鳥と赤羽の通う学校も知っていたので、放課後に待ち構えて話かけてみたが。
「うん?多分私達……初対面、だよね?」
「あら……どなたですか?」
二人とも龍香の事を覚えていなかった。龍香は認められなくて、とうとう“新月”の基地があった場所に足を運ぶ。
そして、そこには以前雪花に教えて貰った基地へと通じる井戸があった。
「……あった!」
龍香が目を輝かせて、走り出す。そして井戸の前まで来て彼女は気づいた。
そう、その井戸はコンクリートで固く固められており、蓋を開けることすら出来なかった。
「……本当に、何も、ないの?」
龍香はコンクリートで固められた井戸を見ながら呆然と呟いた。
「……結局何も無かったなぁ。」
日が沈みかけ、夕陽に染まる赤い空を見上げながら、龍香は一人河川敷で座り込んでいた。
一日中歩き回って色んな場所を探したが、痕跡のような物は全く無かった。
歩き回って疲れた龍香が導かれるようにふらりと来たのが、河川敷だったのだ。
「……ここで、カノープスと出会ったんだっけ。」
龍香はぼんやりと河川敷を眺める。ある意味龍香にとって始まりの場所であるここで彼女は思い出に浸る。
(確かに、家族とは一緒にいられるけど……)
確かに家族とは一緒にいられる。だが、それでも辛くても共に過ごした時間を共有する友達が一切合切消えてしまうのは、歯車がズレたような、妙な寂しさを覚える。
(……寂しいなぁ。誰もあの戦いの事を覚えてなくて、私だけが覚えている。)
龍香は立ち上がって、河原の石を拾い上げる。そして心の中のつっかえを吐き出すように龍香は。
「カノープスの、バカーッ!!」
龍香はそう叫んで思い切り石を川へと投げ飛ばす。龍香は肩で息をしながら水柱を立てて、波紋で水面が揺らぐ様を見ながらへたり込むように座る。
「カノープスのばかっ!バカバカばかっ…!!誰も覚えてないんじゃ……意味ないよ…!」
龍香が蹲って、やるせなさと虚しさと寂しさで目から涙が溢れ出しそうになったその時だった。
「なーにメソメソしてんのよ。龍香。」
後ろからそう声をかけられ、龍香はその聞き覚えのある声に思わず振り返る。
そこにいたのは白のパーカーに青の半ズボンと言った服装に青と黒のリボンで髪をツインテールに纏めた勝ち気そうな表情の少女だった。
その少女を見た龍香は驚きのあまり固まってしまう。そんな彼女に雪花はクスクスと笑いかける。
「なんて酷い顔してんの。涙と鼻水でぐしゃぐしゃじゃない。」
「雪花……ちゃん?」
「そうよ。雪花藍。忘れた?」
雪花がそう答えると、龍香は思い切り彼女に抱きつく。
「うわっと。」
「雪花ちゃん!!良かった……良かったぁ…!!夢じゃ、ないよね…!」
ポロポロと号泣しながら雪花に抱きついて顔を埋める。
「ちょっと、喜び過ぎ……って言うかちょいっ!汚い!鼻水と涙が!」
「その酷い言い方、ホントに雪花ちゃんだよぉ…!」
「流石に一発殴るわよ?」
なんてやり取りをしつつも、雪花は龍香が落ち着くまでそのままにする。
そして落ち着いた龍香は雪花に問い掛ける。
「でも、なんで雪花ちゃんだけ記憶が…」
「うん。それは私にも分からないけど、びっくりしたわ。起きたら姉さんがいたし。山形や風見達は私の事覚えてないし。」
雪花はそう言いながら原因を考え、んーと唸ると。
「多分、世界が変わる前に円盤にいたからじゃない?私とアンタ。」
「え?」
龍香は雪花の言葉に疑問符を浮かべる。
「でも、雪花ちゃん、あの時円盤から落ちて……死ん」
「死んでないわよ。」
「え?」
「助けられたのよ。アンタレスの奴に。」
龍香に雪花はことの真相を語り出す。
龍姫に貫かれ、血を流しながら真っ逆さまに落下していく中、雪花は死を感じていた。
《やってくれたわね。お陰で私の横取りする計画が台無しだわ。》
そんな彼女にアンタレスが恨み言を言ってくる。雪花はそれに対してフッと笑うと。
「あら、そう。そりゃ良かったわ。アンタの望みが叶う前に、道連れに出来たんだから。」
そう言って憎まれ口を雪花は叩く。そして今度は雪花がアンタレスに尋ねる。
「ねぇ…死ぬ前に一つ聞きたいんだけど。何でアンタ私達に協力したの。こう言っちゃなんだけど、アンタが切り捨てられる可能性だって全然ある訳じゃない?そんな可能性が大きいのにアンタが……」
雪花の問いに、アンタレスはしばし沈黙の後、ぼそりと言う。
《……今は亡き同胞達のため、と言ったらアンタは笑うかしら?》
アンタレスの答えに雪花は。
「笑わないわよ。仲間のために頑張る奴を私が笑う訳がない。」
そう答えると、アンタレスはプッと噴き出す。
「な、なによ。」
《あははは。いや私にアンタがそう言うだなんて思ってなかったからおかしくてさ。あははは。》
アンタレスは一頻り笑うと、雪花に言う。
《やっぱ私、アンタのこと嫌いだわクソガキ。》
「そっくりそのまま返すわよクソ蠍野郎。」
雪花がそう返すと、ジジッと音がして通信機から声が聴こえてくる。
『ゆ……!ユッキー!貴方今落ちてるの!?返事をしなさい!』
「風見……。」
『ユッキー!今から貴方を回収するから!待ってて!』
見れば上空からピーコックを模した量産型が雪花へと向かってくる。
しかし、雪花は自身から流れる血と傷はもうどう足掻いても助からない傷であると自覚していた。
「も、う……。ダメ…なのに。」
雪花が諦め半分に手を伸ばした瞬間、何かに掴まれてぶん投げられる感覚がした。
「!?」
投げられた彼女はピーコックにぶつかるが、それと同時にピーコックが彼女を固定したため、もう落ちる事は無かった。だが、雪花に目を落とすと、そこには血を流し、全身が徐々に崩壊していくアンタレスの姿があった。
「なっ、アンタ…!」
《ふ、ふふ。悪いけど。アンタと一緒に死ぬなんざまっぴらごめんよ。》
雪花はすぐに自分の身体を確認すると傷が無かった。刺された痕すらない。
《ふふっ、どう?大サービスでダメージは全部私が受け持ってあげたわ。》
そう言いながら笑うアンタレスに雪花は困惑の声を上げる。
「なんで、お前っ……」
雪花の問いに対し、アンタレスは。
《悪いけどねぇ、私アンタの事が嫌いだから、道連れしようとするアンタの邪魔をしてやったのよ。》
そう笑ってはいるが、身体が限界を迎えたのか、カッとアンタレスが輝く。
《じゃあね、クソガキ。短かったけど悪くなかったわ。》
次の瞬間爆発に身を焦がす中、アンタレスはふと思う。
(あーあ、何言ってんだろ私。)
姉の仇である自分が何を言ったところで彼女に何が残るだろうか。それに道連れに出来たのに、変な言い訳をして雪花を彼女は生き残らせた。
(ま、でも。これで、良かったのよね?)
最初から自分達は負ける運命だったのだ。そりゃそうだ。上があんな思考じゃ勝てるものも勝てるハズがない。
アンタレスが目を閉じ、そして再び目を開けると、そこにはかつての同胞達がいた。
そして同胞の一人であるトゥバンが座り込んでいるアンタレスに手を差し出す。
アンタレスは一瞬驚くが、すぐにハッと笑ってその手を取る。
「トゥバン…ねぇ、聞いてよ。プロウフの馬鹿がさぁ。」
アンタレスはそう言って立ち上がると、光の中に同胞達と共に消えていった。
日が沈みかけ、夕陽に染まる赤い空を見上げながら、龍香は一人河川敷で座り込んでいた。
一日中歩き回って色んな場所を探したが、痕跡のような物は全く無かった。
歩き回って疲れた龍香が導かれるようにふらりと来たのが、河川敷だったのだ。
「……ここで、カノープスと出会ったんだっけ。」
龍香はぼんやりと河川敷を眺める。ある意味龍香にとって始まりの場所であるここで彼女は思い出に浸る。
(確かに、家族とは一緒にいられるけど……)
確かに家族とは一緒にいられる。だが、それでも辛くても共に過ごした時間を共有する友達が一切合切消えてしまうのは、歯車がズレたような、妙な寂しさを覚える。
(……寂しいなぁ。誰もあの戦いの事を覚えてなくて、私だけが覚えている。)
龍香は立ち上がって、河原の石を拾い上げる。そして心の中のつっかえを吐き出すように龍香は。
「カノープスの、バカーッ!!」
龍香はそう叫んで思い切り石を川へと投げ飛ばす。龍香は肩で息をしながら水柱を立てて、波紋で水面が揺らぐ様を見ながらへたり込むように座る。
「カノープスのばかっ!バカバカばかっ…!!誰も覚えてないんじゃ……意味ないよ…!」
龍香が蹲って、やるせなさと虚しさと寂しさで目から涙が溢れ出しそうになったその時だった。
「なーにメソメソしてんのよ。龍香。」
後ろからそう声をかけられ、龍香はその聞き覚えのある声に思わず振り返る。
そこにいたのは白のパーカーに青の半ズボンと言った服装に青と黒のリボンで髪をツインテールに纏めた勝ち気そうな表情の少女だった。
その少女を見た龍香は驚きのあまり固まってしまう。そんな彼女に雪花はクスクスと笑いかける。
「なんて酷い顔してんの。涙と鼻水でぐしゃぐしゃじゃない。」
「雪花……ちゃん?」
「そうよ。雪花藍。忘れた?」
雪花がそう答えると、龍香は思い切り彼女に抱きつく。
「うわっと。」
「雪花ちゃん!!良かった……良かったぁ…!!夢じゃ、ないよね…!」
ポロポロと号泣しながら雪花に抱きついて顔を埋める。
「ちょっと、喜び過ぎ……って言うかちょいっ!汚い!鼻水と涙が!」
「その酷い言い方、ホントに雪花ちゃんだよぉ…!」
「流石に一発殴るわよ?」
なんてやり取りをしつつも、雪花は龍香が落ち着くまでそのままにする。
そして落ち着いた龍香は雪花に問い掛ける。
「でも、なんで雪花ちゃんだけ記憶が…」
「うん。それは私にも分からないけど、びっくりしたわ。起きたら姉さんがいたし。山形や風見達は私の事覚えてないし。」
雪花はそう言いながら原因を考え、んーと唸ると。
「多分、世界が変わる前に円盤にいたからじゃない?私とアンタ。」
「え?」
龍香は雪花の言葉に疑問符を浮かべる。
「でも、雪花ちゃん、あの時円盤から落ちて……死ん」
「死んでないわよ。」
「え?」
「助けられたのよ。アンタレスの奴に。」
龍香に雪花はことの真相を語り出す。
龍姫に貫かれ、血を流しながら真っ逆さまに落下していく中、雪花は死を感じていた。
《やってくれたわね。お陰で私の横取りする計画が台無しだわ。》
そんな彼女にアンタレスが恨み言を言ってくる。雪花はそれに対してフッと笑うと。
「あら、そう。そりゃ良かったわ。アンタの望みが叶う前に、道連れに出来たんだから。」
そう言って憎まれ口を雪花は叩く。そして今度は雪花がアンタレスに尋ねる。
「ねぇ…死ぬ前に一つ聞きたいんだけど。何でアンタ私達に協力したの。こう言っちゃなんだけど、アンタが切り捨てられる可能性だって全然ある訳じゃない?そんな可能性が大きいのにアンタが……」
雪花の問いに、アンタレスはしばし沈黙の後、ぼそりと言う。
《……今は亡き同胞達のため、と言ったらアンタは笑うかしら?》
アンタレスの答えに雪花は。
「笑わないわよ。仲間のために頑張る奴を私が笑う訳がない。」
そう答えると、アンタレスはプッと噴き出す。
「な、なによ。」
《あははは。いや私にアンタがそう言うだなんて思ってなかったからおかしくてさ。あははは。》
アンタレスは一頻り笑うと、雪花に言う。
《やっぱ私、アンタのこと嫌いだわクソガキ。》
「そっくりそのまま返すわよクソ蠍野郎。」
雪花がそう返すと、ジジッと音がして通信機から声が聴こえてくる。
『ゆ……!ユッキー!貴方今落ちてるの!?返事をしなさい!』
「風見……。」
『ユッキー!今から貴方を回収するから!待ってて!』
見れば上空からピーコックを模した量産型が雪花へと向かってくる。
しかし、雪花は自身から流れる血と傷はもうどう足掻いても助からない傷であると自覚していた。
「も、う……。ダメ…なのに。」
雪花が諦め半分に手を伸ばした瞬間、何かに掴まれてぶん投げられる感覚がした。
「!?」
投げられた彼女はピーコックにぶつかるが、それと同時にピーコックが彼女を固定したため、もう落ちる事は無かった。だが、雪花に目を落とすと、そこには血を流し、全身が徐々に崩壊していくアンタレスの姿があった。
「なっ、アンタ…!」
《ふ、ふふ。悪いけど。アンタと一緒に死ぬなんざまっぴらごめんよ。》
雪花はすぐに自分の身体を確認すると傷が無かった。刺された痕すらない。
《ふふっ、どう?大サービスでダメージは全部私が受け持ってあげたわ。》
そう言いながら笑うアンタレスに雪花は困惑の声を上げる。
「なんで、お前っ……」
雪花の問いに対し、アンタレスは。
《悪いけどねぇ、私アンタの事が嫌いだから、道連れしようとするアンタの邪魔をしてやったのよ。》
そう笑ってはいるが、身体が限界を迎えたのか、カッとアンタレスが輝く。
《じゃあね、クソガキ。短かったけど悪くなかったわ。》
次の瞬間爆発に身を焦がす中、アンタレスはふと思う。
(あーあ、何言ってんだろ私。)
姉の仇である自分が何を言ったところで彼女に何が残るだろうか。それに道連れに出来たのに、変な言い訳をして雪花を彼女は生き残らせた。
(ま、でも。これで、良かったのよね?)
最初から自分達は負ける運命だったのだ。そりゃそうだ。上があんな思考じゃ勝てるものも勝てるハズがない。
アンタレスが目を閉じ、そして再び目を開けると、そこにはかつての同胞達がいた。
そして同胞の一人であるトゥバンが座り込んでいるアンタレスに手を差し出す。
アンタレスは一瞬驚くが、すぐにハッと笑ってその手を取る。
「トゥバン…ねぇ、聞いてよ。プロウフの馬鹿がさぁ。」
アンタレスはそう言って立ち上がると、光の中に同胞達と共に消えていった。
「アンタレス……」
眼下で起こる爆発を見下ろしながら雪花は呟く。姉の仇であり、協力関係にあったとは言え、敵同士だった彼女が何故自分を助けたのか。
それは今となっては雪花に分かる術はない。しかし、雪花にはその死を悼み、彼女の事を考える時間は残されていない。
「風見!私を円盤に!」
『ユッキー!?』
「まだ私には“ネメシス”が、姉さんとの力がある!」
『無理だ。足手まといになるだけだ。』
龍賢がそう忠告をするが、それでも雪花は円盤を見上げる。
「それでも!アイツを一人にしておけないでしょ!?」
雪花がそう叫ぶと、皆がどよめく中山形が言う。
『行かせてあげて。風見。』
「山形!」
『……いいのか?』
月乃助の問いに山形は。
『えぇ。構わないわ。…けど、援護に徹する事。そして、必ず帰ってくることよ。』
山形の言葉に雪花はうんと返事をすると、円盤へと飛翔する。
「待ってなさいよ!龍香!」
眼下で起こる爆発を見下ろしながら雪花は呟く。姉の仇であり、協力関係にあったとは言え、敵同士だった彼女が何故自分を助けたのか。
それは今となっては雪花に分かる術はない。しかし、雪花にはその死を悼み、彼女の事を考える時間は残されていない。
「風見!私を円盤に!」
『ユッキー!?』
「まだ私には“ネメシス”が、姉さんとの力がある!」
『無理だ。足手まといになるだけだ。』
龍賢がそう忠告をするが、それでも雪花は円盤を見上げる。
「それでも!アイツを一人にしておけないでしょ!?」
雪花がそう叫ぶと、皆がどよめく中山形が言う。
『行かせてあげて。風見。』
「山形!」
『……いいのか?』
月乃助の問いに山形は。
『えぇ。構わないわ。…けど、援護に徹する事。そして、必ず帰ってくることよ。』
山形の言葉に雪花はうんと返事をすると、円盤へと飛翔する。
「待ってなさいよ!龍香!」
「…って訳。」
「い、生きてたんだ。ホント、ホントに死んじゃったかと思って…!」
「だぁっ、また泣くな!」
潤む龍香に雪花は尋ねる。
「あれ、そう言えば龍香、カノープスは?」
雪花の問いに龍香は少し目を伏せると、どこか拗ねたように答える。
「……勝手に消えちゃった。シードゥスがいない世界にするから、自分は消えるべきだ、とか言って。」
そう答えると雪花はそう、と短く返して夕暮れの方を見る。
「多分だけどさ。カノープスはずっと、龍香に謝りたかったんじゃない?」
「……。」
「意外とアイツ義理堅かったし。きっと消えたのも龍香のためを思ってよ。」
雪花の言葉に龍香は顔を俯けて、小さな声で呟く。
「……分かってる。分かってるよ。カノープスが私のことを思ってあんな事をしたんだってことくらい。でも、急になんの前触れもなく消えるなんて、卑怯だよ。私、カノープスとずっと一緒にいたかったのに。」
龍香の恨み言を聞いていた雪花だったが、聞き終わると龍香の肩に手を置いて言う。
「ま、なら今度会った時に言ってやればいいじゃない。この卑怯者!勝手にどっか行くな!って。」
雪花の言葉に龍香はキョトンとする。
「えっ、だってカノープスは消え……」
「アタシが記憶を持ったまま生きてんのよ。本当にカノープスが消えたかアンタだって分からないでしょ?つまり、カノープスだって存外その辺でピンピンしてるかもよ?」
雪花はそう言って、少し悪戯っぽく笑う。
「カノープスが……」
龍香は雪花の言葉を受けて、ハッとしたような気持ちになる。もしかしたら雪花なりの慰めの言葉かもしれない。確かに消えたと言う確証はないが、逆に消えていないという確証もない。所謂悪魔の証明だ。
だが龍香は涙を拭うと、沈みゆく夕陽に向かって叫ぶ。
「カノープスー!!今度会ったらー!絶対文句言ってやるんだからぁー!首を洗ってまっててよー!!」
龍香はそう叫ぶと、満足げに微笑む。
「さて、暗くなってきたからそろそろ帰るわ。また明日ね。」
「えー、せっかくだからご飯食べにいこーよー。」
「いーやーよ。どうせ辛いもの食べに行こうとか言うんでしょ。」
「そうだけど。」
「私、お姉ちゃんとご飯食べるから。アンタも家族と一緒に食べなさいよせっかくなんだし。」
「いいじゃんー。私達、親友でしょ?」
「アンタホント図々しくなったわね!?」
雪花とぎゃーぎゃー騒ぎながら、龍香は空へと想いを馳せる。
(カノープス。貴方が生きていても、消えてしまっていたとしても。私は貴方が作った世界で明日を一生懸命生きてみるよ。だからさ、見ててよね。カノープス。)
龍香は笑いながら星が輝き出す夜空の下で親友と共に帰路につくのだった。
「い、生きてたんだ。ホント、ホントに死んじゃったかと思って…!」
「だぁっ、また泣くな!」
潤む龍香に雪花は尋ねる。
「あれ、そう言えば龍香、カノープスは?」
雪花の問いに龍香は少し目を伏せると、どこか拗ねたように答える。
「……勝手に消えちゃった。シードゥスがいない世界にするから、自分は消えるべきだ、とか言って。」
そう答えると雪花はそう、と短く返して夕暮れの方を見る。
「多分だけどさ。カノープスはずっと、龍香に謝りたかったんじゃない?」
「……。」
「意外とアイツ義理堅かったし。きっと消えたのも龍香のためを思ってよ。」
雪花の言葉に龍香は顔を俯けて、小さな声で呟く。
「……分かってる。分かってるよ。カノープスが私のことを思ってあんな事をしたんだってことくらい。でも、急になんの前触れもなく消えるなんて、卑怯だよ。私、カノープスとずっと一緒にいたかったのに。」
龍香の恨み言を聞いていた雪花だったが、聞き終わると龍香の肩に手を置いて言う。
「ま、なら今度会った時に言ってやればいいじゃない。この卑怯者!勝手にどっか行くな!って。」
雪花の言葉に龍香はキョトンとする。
「えっ、だってカノープスは消え……」
「アタシが記憶を持ったまま生きてんのよ。本当にカノープスが消えたかアンタだって分からないでしょ?つまり、カノープスだって存外その辺でピンピンしてるかもよ?」
雪花はそう言って、少し悪戯っぽく笑う。
「カノープスが……」
龍香は雪花の言葉を受けて、ハッとしたような気持ちになる。もしかしたら雪花なりの慰めの言葉かもしれない。確かに消えたと言う確証はないが、逆に消えていないという確証もない。所謂悪魔の証明だ。
だが龍香は涙を拭うと、沈みゆく夕陽に向かって叫ぶ。
「カノープスー!!今度会ったらー!絶対文句言ってやるんだからぁー!首を洗ってまっててよー!!」
龍香はそう叫ぶと、満足げに微笑む。
「さて、暗くなってきたからそろそろ帰るわ。また明日ね。」
「えー、せっかくだからご飯食べにいこーよー。」
「いーやーよ。どうせ辛いもの食べに行こうとか言うんでしょ。」
「そうだけど。」
「私、お姉ちゃんとご飯食べるから。アンタも家族と一緒に食べなさいよせっかくなんだし。」
「いいじゃんー。私達、親友でしょ?」
「アンタホント図々しくなったわね!?」
雪花とぎゃーぎゃー騒ぎながら、龍香は空へと想いを馳せる。
(カノープス。貴方が生きていても、消えてしまっていたとしても。私は貴方が作った世界で明日を一生懸命生きてみるよ。だからさ、見ててよね。カノープス。)
龍香は笑いながら星が輝き出す夜空の下で親友と共に帰路につくのだった。
波が砂浜に打ちつけられる音が響く。にゃあにゃあとウミネコが鳴く声が耳に響く。
散々と眩しい日光が地面を照らす中、砂浜を歩く一人の少女がその上に何かが落ちていることに気づく。
「ママー!何か落ちてた!」
少女は“それ”を拾うと、自身の母親に見せる。母親は少女が拾って来たのを物珍しそうに眺めるが。
「もしかしたら、誰かの落とし物かもしれないから、元の場所に返して来なさい。」
「はーい。」
少女は母にそう言われ、少女はぽいっと“それ”を元の砂浜に投げる。
そしてそれは“恐竜の頭蓋骨を模したヘアアクセ”のような外見をしていた。
《………あれ?》
散々と眩しい日光が地面を照らす中、砂浜を歩く一人の少女がその上に何かが落ちていることに気づく。
「ママー!何か落ちてた!」
少女は“それ”を拾うと、自身の母親に見せる。母親は少女が拾って来たのを物珍しそうに眺めるが。
「もしかしたら、誰かの落とし物かもしれないから、元の場所に返して来なさい。」
「はーい。」
少女は母にそう言われ、少女はぽいっと“それ”を元の砂浜に投げる。
そしてそれは“恐竜の頭蓋骨を模したヘアアクセ”のような外見をしていた。
《………あれ?》
The End……?
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(続編や派生作品が有れば、なければ項目ごと削除でもおk)