夢を、見ていた。
久しぶりの……いや、この世界では初めての感覚。
『未知夢』の感覚だ。
久しぶりの……いや、この世界では初めての感覚。
『未知夢』の感覚だ。
わたしはこっちに来てから
すっかり見慣れた商店街を歩いていた。
しかし、その景色は……わたしが知る街とは
全く変わってしまっていた。
すっかり見慣れた商店街を歩いていた。
しかし、その景色は……わたしが知る街とは
全く変わってしまっていた。
あちこちに人が倒れている。
建物や街路樹は血飛沫で赤く染まり、
悲鳴や逃げ惑う声が飛び交っている。
建物や街路樹は血飛沫で赤く染まり、
悲鳴や逃げ惑う声が飛び交っている。
その時。
後ろから、『何か』を感じた。
どうやら気配を消しているようだけれど、
その中から漏れ出る、ほんのわずかな殺気。
即座に振り向き、敵を視認する。
そこにいたのは───。
後ろから、『何か』を感じた。
どうやら気配を消しているようだけれど、
その中から漏れ出る、ほんのわずかな殺気。
即座に振り向き、敵を視認する。
そこにいたのは───。
黒い装束で頭まですっぽりと覆った、
怪しい出で立ち。
血に濡れた苦無を構え、
こちらを狙う鋭い眼光。
怪しい出で立ち。
血に濡れた苦無を構え、
こちらを狙う鋭い眼光。
これ、って……。
忍者………………?
……………………
………………………………
…………………………………………
「はぁっ!!……はぁっ、はぁっ……!」
目を覚ますと、そこは自分のベッドだった。
まだ3月だというのに全身にじっとりと汗をかいて、
パジャマが身体に張り付いている。
目を覚ますと、そこは自分のベッドだった。
まだ3月だというのに全身にじっとりと汗をかいて、
パジャマが身体に張り付いている。
……恐ろしい、夢だった。
これが未知夢でなければ、
どれほど良かったか。
これが未知夢でなければ、
どれほど良かったか。
しかしこの未来は、
実際に起きてしまう可能性がある。
だとしたら、どうして?
なぜ平和な街を突然忍者が襲撃する、なんて
突拍子も無い未来が訪れるのだろう。
実際に起きてしまう可能性がある。
だとしたら、どうして?
なぜ平和な街を突然忍者が襲撃する、なんて
突拍子も無い未来が訪れるのだろう。
まだ可能性の段階とはいえ、
無視できるものじゃない。
無視できるものじゃない。
……みんなに、伝えないと!
「…………って夢を見たんだ。
自分でもおかしな話だとは思うけど、
これが『未知夢』なら、近いうちに
現実になるかも知れないから……」
自分でもおかしな話だとは思うけど、
これが『未知夢』なら、近いうちに
現実になるかも知れないから……」
朝の食堂で、ライジングちゃんに
昨日見た夢を話すことにした。
集合住宅の1階に作られたスペースに、
大きなキッチンとわたし達が全員座れる
椅子とテーブルが備え付けられている。
これも、Dr.が用意してくれたものだ。
昨日見た夢を話すことにした。
集合住宅の1階に作られたスペースに、
大きなキッチンとわたし達が全員座れる
椅子とテーブルが備え付けられている。
これも、Dr.が用意してくれたものだ。
「……忍者、かぁ……。正直、はもはもちゃんが
そんな真剣な顔をしてなかったら
笑い飛ばしてるところだけど……そうだね。
現実になる可能性があるんなら、
心構えだけでもしておかないと!」
「ありがとう。大丈夫だと思いたいけど……
今は神楽坂さんものじゃ猫ちゃんもいないし、
準備しておいて損はないと思うんだ」
そんな真剣な顔をしてなかったら
笑い飛ばしてるところだけど……そうだね。
現実になる可能性があるんなら、
心構えだけでもしておかないと!」
「ありがとう。大丈夫だと思いたいけど……
今は神楽坂さんものじゃ猫ちゃんもいないし、
準備しておいて損はないと思うんだ」
この世界に来てしばらくしてから、
神楽坂さんとのじゃ猫ちゃんの2人は
「諸国漫遊の旅に出てくる」と言い残し、
突然日本を旅立ってしまったのだ。
神楽坂さんとのじゃ猫ちゃんの2人は
「諸国漫遊の旅に出てくる」と言い残し、
突然日本を旅立ってしまったのだ。
「この世界には取り立てて脅威もなさそうじゃし、
今のオヌシらなら何かあっても安心じゃからの。
もしも困った事があったらコレを使うが良い」
……と渡されたのが、なぜか犬笛だった。
アレがどう役に立つのかは分からないけど、
頼りすぎるのも良くない。今はとにかく、
不測の事態が起きても対処できるよう、準備を進めよう。
今のオヌシらなら何かあっても安心じゃからの。
もしも困った事があったらコレを使うが良い」
……と渡されたのが、なぜか犬笛だった。
アレがどう役に立つのかは分からないけど、
頼りすぎるのも良くない。今はとにかく、
不測の事態が起きても対処できるよう、準備を進めよう。
「ふむ。『起きる可能性のある未来を見た』か。
興味深いね、予知夢というヤツかい?
分かった。私の方でも、何かあった時のために
準備を進めよう。君たちの力になれるなら何でもするさ」
こちらの世界のDr.マッドは、
(言い方は悪いけど)少し不気味になるくらい
穏やかで優しい。話が早いのは助かるけど、
本当に大丈夫なのかな……。
興味深いね、予知夢というヤツかい?
分かった。私の方でも、何かあった時のために
準備を進めよう。君たちの力になれるなら何でもするさ」
こちらの世界のDr.マッドは、
(言い方は悪いけど)少し不気味になるくらい
穏やかで優しい。話が早いのは助かるけど、
本当に大丈夫なのかな……。
……………………
………………………………
…………………………………………
「いらっしゃいませー!」
集合住宅から程近い、家電量販店。
わたしはそこで接客のアルバイトとして
働かせてもらっていた。
あの夢の事は気になるけど……
だからと言って何も起きていないのに
仕事を休むわけには行かない。
働かざるもの食うべからず、だよね。
集合住宅から程近い、家電量販店。
わたしはそこで接客のアルバイトとして
働かせてもらっていた。
あの夢の事は気になるけど……
だからと言って何も起きていないのに
仕事を休むわけには行かない。
働かざるもの食うべからず、だよね。
「いやぁ有葉ちゃんはよく働くねぇ!
まだ1ヶ月なのにお客さんからは
『元気な子が入ったね』って好評なんだよ〜」
「本当ですか?えへへ、嬉しいです!
まだ何も分からない立場なので、
せめて元気だけはいっぱいで行きたいなぁって
思ってます!」
「結構結構!まずは元気がなくちゃ何もできないからね。
あ、そこの段ボール、奥に運んでおいてもらえる?」
「はいっ!分かりました!」
まだ1ヶ月なのにお客さんからは
『元気な子が入ったね』って好評なんだよ〜」
「本当ですか?えへへ、嬉しいです!
まだ何も分からない立場なので、
せめて元気だけはいっぱいで行きたいなぁって
思ってます!」
「結構結構!まずは元気がなくちゃ何もできないからね。
あ、そこの段ボール、奥に運んでおいてもらえる?」
「はいっ!分かりました!」
一緒に働いている人達も優しい人ばかり。
そして何よりも嬉しいのは……
ここには玩具がいっぱい置いてあること!
15歳にもなってオモチャが好きです、なんて言うのは
ちょっぴり恥ずかしいけど、好きな事を
お仕事に活かせるのはとっても嬉しい。
この仕事を紹介してくれたDr.に感謝しなくちゃ!
「あー、そろそろ時間だね。
有葉ちゃん、お疲れ様!後はやっとくから、
上がっていいよ!」
「ありがとうございます!ではお言葉に甘えて……
お先に失礼しますっ!」
そして何よりも嬉しいのは……
ここには玩具がいっぱい置いてあること!
15歳にもなってオモチャが好きです、なんて言うのは
ちょっぴり恥ずかしいけど、好きな事を
お仕事に活かせるのはとっても嬉しい。
この仕事を紹介してくれたDr.に感謝しなくちゃ!
「あー、そろそろ時間だね。
有葉ちゃん、お疲れ様!後はやっとくから、
上がっていいよ!」
「ありがとうございます!ではお言葉に甘えて……
お先に失礼しますっ!」
「ふぅ……今日も働いたなぁ。
ライジングちゃんたちも、そろそろ
終わったかな……」
ライジングちゃんたちも、そろそろ
終わったかな……」
────────────
「らっしゃあせ───っ!!
お好きなお席にどぅぞぉ───っ!!」
お好きなお席にどぅぞぉ───っ!!」
「旭ちゃん、気合い入ってるねぇ!
ラーメン作る手際も良いし、このまま
ウチに就職しちゃわない?」
「いやぁ先輩には敵わないっすよぉ〜
わたしなんてまだまだ……あ、
お客様ぁ─、おかえりでぇ───す!!
ありがと──ござぃやしたぁ───っ!!!」
ラーメン作る手際も良いし、このまま
ウチに就職しちゃわない?」
「いやぁ先輩には敵わないっすよぉ〜
わたしなんてまだまだ……あ、
お客様ぁ─、おかえりでぇ───す!!
ありがと──ござぃやしたぁ───っ!!!」
わたしが働いているのは近所のラーメン屋さん。
なかなかの人気店なのでお昼時は目が回るような
忙しさだけど……料理を作る上で
学ぶ事も多いし、この仕事にして良かったと思っている。
……大声での挨拶は、未だに慣れないけど。
なかなかの人気店なのでお昼時は目が回るような
忙しさだけど……料理を作る上で
学ぶ事も多いし、この仕事にして良かったと思っている。
……大声での挨拶は、未だに慣れないけど。
────────────
カタカタ。
カタカタカタ。
カタカタカタカタ。
ッターン!!
カタカタカタ。
カタカタカタカタ。
ッターン!!
「……ふぅっ、これで書類のまとめは終わった、かな……」
「猫丸さん、ご苦労様です。
軽く教えただけなのに、覚えが早くて助かります!
残りの雑務は私がやっておきますから、
今日は上がってもらって大丈夫ですよ」
「えっ、でも……そんなのを先輩にやらせるわけには……」
「もう時間も過ぎていますし、早いうちから
あまり残業のクセを付けるのも良くないですから。
こちらも終わり次第上がりますから、気にせずに」
「そ、そうですか……では、お言葉に
甘えさせていただきますね」
「はい。お疲れ様でした」
「猫丸さん、ご苦労様です。
軽く教えただけなのに、覚えが早くて助かります!
残りの雑務は私がやっておきますから、
今日は上がってもらって大丈夫ですよ」
「えっ、でも……そんなのを先輩にやらせるわけには……」
「もう時間も過ぎていますし、早いうちから
あまり残業のクセを付けるのも良くないですから。
こちらも終わり次第上がりますから、気にせずに」
「そ、そうですか……では、お言葉に
甘えさせていただきますね」
「はい。お疲れ様でした」
私は、小さな運送会社の事務作業を担当している。
機械はそこまで得意ではないけれど、
地道な作業は嫌いではない。
この仕事は、私の性に合っていると思う。
ライジングちゃんなら、10分くらいで
「うがーっ!!黙って座って作業するなんて
我慢できなーい!!」とか言い出しそうだけど。
……そう思ったら、つい笑顔が漏れる。
早く帰って、ライジングちゃん達に
会いたいな。
機械はそこまで得意ではないけれど、
地道な作業は嫌いではない。
この仕事は、私の性に合っていると思う。
ライジングちゃんなら、10分くらいで
「うがーっ!!黙って座って作業するなんて
我慢できなーい!!」とか言い出しそうだけど。
……そう思ったら、つい笑顔が漏れる。
早く帰って、ライジングちゃん達に
会いたいな。
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今日は一日、何事もなく終わる事ができた。
だけど、安心はできない。
いつ「あの夢」が現実になるか
分からないからだ。
今まで見てきた『未知夢』は、
現実にならない事の方が多かった。
だから、気にしすぎるのは良くないんだけど……。
だけど、安心はできない。
いつ「あの夢」が現実になるか
分からないからだ。
今まで見てきた『未知夢』は、
現実にならない事の方が多かった。
だから、気にしすぎるのは良くないんだけど……。
「はもはもちゃん、お疲れさまっ。
今日はどうだった?」
「あっ、ライジングちゃん。
うん、今日も平和な一日だったよ」
「それは何より。猫丸ちゃんは先に部屋で休んでるよ。
後でお邪魔しちゃお?」
「うん!ふふ、猫丸ちゃんのお部屋は
ぬいぐるみがいっぱいで楽しいもんね」
今日はどうだった?」
「あっ、ライジングちゃん。
うん、今日も平和な一日だったよ」
「それは何より。猫丸ちゃんは先に部屋で休んでるよ。
後でお邪魔しちゃお?」
「うん!ふふ、猫丸ちゃんのお部屋は
ぬいぐるみがいっぱいで楽しいもんね」
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夢を見てから、1週間が経った。
今のところ何も怪しい気配もなく、
何の変哲もないごく普通の日常が
過ぎていく。
今のところ何も怪しい気配もなく、
何の変哲もないごく普通の日常が
過ぎていく。
だけどわたしは、未だにあの夢が
心に引っかかっていた。
心に引っかかっていた。
忍者による突然の襲撃。
沢山の人の死体。
ショッキングな光景ではあったけれど、
わたしが気になっているのは
そこではなかった。
何かが決定的に間違っているような、
強烈な違和感。
それがずっと引っかかっている、
胸のつかえだった。
わたしは、一体何を見たんだろう……?
沢山の人の死体。
ショッキングな光景ではあったけれど、
わたしが気になっているのは
そこではなかった。
何かが決定的に間違っているような、
強烈な違和感。
それがずっと引っかかっている、
胸のつかえだった。
わたしは、一体何を見たんだろう……?