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今回のあらすじを紹介する紫水龍賢だ。前回は俺が復活し、会社を何とか取り戻し“新月”も徐々に息を吹き返してきた矢先に、新たなシードゥスとの対決、そして謎の乱入者…むむ、続きが気になるぞ。どうなる第十四話。
「私はこの子程優しくはないわよ。」
赤混じりの黒髪の少女が刀を負傷して肩を押さえるアルビレオに突きつける。
「あなたは…?」
龍香がそう呟くと同時に少女の右目を見たカノープスは驚いた様に言う。
《その目は“サダルメリクの瞳”!何故お前がそれを!》
「サダ…何?」
《“サダルメリクの瞳”、嵩原が着けていた装備だ。》
「えぇ!?先生の!?それを何であなたが…!?」
カノープスの話した内容に驚いた龍香がその少女な尋ねる。だが少女は龍香には目もくれず、前を向いたまま答える。
「私だけにはこれを使う資格がある。それだけよ。」
「えっ、それって…」
「よくもぉ!」
龍香の言葉を遮るようにアルビレオは叫ぶと共に二人に向けて腕を振り下ろし、風の刃を放つ。
「!」
「わわっ!」
二人はそれを左右に跳んでかわす。そして少女はそのまま刀を構えながらアルビレオに向けて走り出す。
「この!」
アルビレオが迎撃せんと風の刃を放つがその悉くを時に屈み、時に跳躍しながら少女は華麗にかわしていく。
「あ、当たらない!?」
「スゴい…!」
焦ったアルビレオは少女を近づかせまいとその少女の直前の道に風を当てて砂塵を巻き上げ、目眩ましをする。
少女の姿が一瞬砂塵で見えなくなるが、すぐに少女はアルビレオを倒すべく直進する。
「今なのだ!」
アルビレオは直進する少女に向けて風の刃を飛ばす。視界が開けたと同時に放たれた刃に反応出来なかったのか、攻撃が直撃し、少女が真っ二つになる。
「あぁ!?」
「どうなのだ!ボクに逆らうからこんな目に…」
龍香が悲痛な叫びをあげ、アルビレオが勝利を確信した瞬間グニャリと少女の姿が歪む。
「なっ」
歪んだ少女はそのまままるで幻かのように溶けて消えてしまう。
「な、なにが」
アルビレオが目の前の出来事に困惑した瞬間。横から刃が飛んでくる。それと同時にアルビレオの右腕が空を舞う。
「がっ、がああああああああ!!?」
アルビレオが一拍おいてやってきた右腕を失った痛みと実感で叫ぶ。そう、そこにいたのは先程真っ二つになった後消えたハズの少女だった。だが少女には傷一つない。
そのことに龍香は大きく困惑する。
「えっ、え!?でも、さっき、え!?」
《幻…か》
「ど、どういうこと?」
《サダルメリクの瞳はサダルメリクの奴の特殊能力の一部を得る装備だ。前例は嵩原のしか無いが…どうやら装着者によって変わる…のか?いや、というより何でアイツが使えるんだ!?使えるのは…。いや、もしかしたら奴は》
カノープスがブツブツと呟く中、少女は痛みに叫ぶアルビレオを一切の容赦なく蹴り飛ばす。
「ぐぅぅぅぅ!」
「痛い?…シードゥスのくせに痛がるのね。」
蹴られて転がるアルビレオを見下ろしながら少女はまるで刑を執行する執行人のごとくゆっくり、そしてコツ…コツ…と足音を立てながら死へのカウントダウンと言わんばかりに迫る。
「おのれ…!」
アルビレオは風の刃を放とうと腕を振り上げようとした瞬間またもや肩に“椿”が突き刺さり、爆発する。
「ぐあああ!」
「無駄よ。」
少女はまたゆっくりと近づく。その瞳には慈悲や憐憫は一切なく、あるのは燃え上がる冷たい憎悪の炎だ。
そして少女はそのまま刀を振り下ろす。今度はアルビレオの左腕が飛ぶ。
「ぎゃっ」
「うるさい。」
アルビレオが悲鳴をあげる前に少女は顔面を蹴飛ばす。腕を斬られたショックと痛みで限界だったのかアルビレオはその一撃を喰らうと白目を剥いてそのまま気絶してしまう。
《終わったな。》
「う、うん。」
少女の戦いぶりに龍香は薄ら寒いものを感じる。まるで一方的になぶり殺すかのような戦いは味方としても恐怖を覚える。
少女はアルビレオの前に立つと刀を構える。そして刀を振り下ろし、アルビレオの足首を切断する。
「ぎいっ。」
「……」
そしてそのまま千切りでもするかのように、細かくアルビレオを切り刻もうとまた刀を振り上げる。
「ぎぃああああああああああああ!!!?」
切断された痛みに叫ぶアルビレオ。誰がどう見ても最早アルビレオに戦意がないことは明らかだ。だが少女は攻撃の手を一切緩めず再び刀を振り下ろした瞬間。
ガキィンと。刀はアルビレオに届く前に横から現れた龍香に止められる。
「ぐっ」
「……何のつもり?」
「もう…勝負は着いたでしょ!こんな、いたぶるようなことしなくったって」
龍香が言い返すと少女の目が見開かれ、怒りの感情が露になると同時に龍香を蹴り飛ばす。
「おごっ」
《龍香!テメェなにしやが》
「甘い…吐き気がするほど甘い。」
蹴られた箇所を押さえて呻く龍香に少女は言う。
「コイツは人を傷つけ、人質を取るような下衆野郎よ!あなた達がそんなに甘いから…!私の父は死んだのよ!」
「!」
「!?……父…?」
龍香は激昂する少女が父と言う言葉を言ったその一瞬泣きそうな顔をしたように思えた。
少女はそう言うとすぐにアルビレオに向き直る。
「シードゥスは一匹残らず殺さなきゃいけない!それも生まれてきたことを…後悔するようにね!」
「ひっ」
少女がそう言った瞬間今度は何処からか炎が少女に向けて飛んでくる。
「チッ」
少女は後ろへと軽く跳躍してその炎をかわす。炎は地面に当たると同時にアルビレオの周りに円を描くように拡がり、少女とアルビレオを分断する。
そして上空から一つの影がアルビレオの横に降り立つ。
その影の姿は全身に焔を纏わせた真紅の翼を持ち、翼と同じ真紅の身体をしている怪人だった。
「父様…!」
「?」
「新手か。」
少女は刀を構え、龍香も身構える。アルビレオは嬉しそうにその怪人の姿を見つめる。
怪人は周りを一瞥する。倒れた人々。二人の少女。そしてボロボロのアルビレオ。
怪人は何かを察したのか腕を振り上げる。すると周りの炎が竜巻のように二人を包み、姿が見えなくなる。
そして竜巻が収まるとそこにはさっきまでそこにいた二人の姿はなくなっていた。
「逃がしたか」
少女は刀を納めると同時に右目に手を当てる。すると少女の鎧が解除され、元の姿に戻る。
「あ、貴女は一体。父って。」
同じように変身を解除した龍香が少女に問い掛ける。少女は龍香の方に振り向くと、答える。
「私は嵩原赤羽。……嵩原祐司の娘よ。」
少女の自己紹介に龍香とカノープスは目が丸くなる。
「む、」
「《娘!?》」
暗い会議室ような場所で中央にある映像が映し出されている結晶をプロウフ含めシードゥス達が見つめている。映し出されていたのは炎とともに現れた赤い怪人だ。
その赤い怪人を見るとスピカが気づいたように言う。
「あら。これフェニックスじゃない。」
その名を聞いた瞬間全員の空気が一瞬ピリつく。
「あー、ウチのメンバーの…なんだっけ?誰だったかを殺して逃走したあの?」
「シェダルだ。にしても今更姿を見せるとはな。」
あー、そうだったと言いながら頭を手でペチンと叩くカストル。アルレシャはチラリとプロウフの方を見る。
「プロウフ。俺を出させろ。裏切り者には死あるのみ…そうだろう?」
「いいんじゃない?アルレシャならフェニックスに有利取れるでしょ?ね?アンタレス。」
「あ?好きにしたら?」
スピカがさっきから黙っているアンタレスに話を振る。だがアンタレスはめんどくさそうに適当に返事をする。
「アルレシャが出るで満場一致か。」
ルクバトがそういう流れに纏めようとした瞬間。プロウフが立ち上がる。
「いいえ。今回は私が出ます。」
プロウフのその一言に全員がザワザワと困惑し、どよめく。
「おいおい。あんたが出るのかよ?出不精のあんたが?」
そう言うアルレシャにプロウフは目を細めながら言う。
「えぇ。私の監督不足でシェダルは死んだようなものですし、フェニックスは少々“騒ぎ過ぎ”ました。それに。改めて“誰がシードゥスを占める者”かここで示そうかと思いましてね。」
プロウフの言葉にカストルがヒュウと口笛を吹く。アルレシャはプロウフのその言葉にフッと笑う。
「そうかい。では、拝見させて貰うぜ?」
「えぇ。」
プロウフはそう言うと部屋を後にする。そしてプロウフが廊下を歩いている時だった。後ろから誰かに話し掛けられる。声をかけた主はスピカであった。
「見え見えの嘘ね。プロウフ。」
「スピカですか。嘘、とは?」
プロウフが振り向くと、スピカは悪戯っぽく笑みを浮かべる。
「ここで、自分の立場を誇示することよ。貴方が“立場”に固執する人とは思えないもの。アルレシャ一人が騒いだところで貴方に歯向かおうって気になる馬鹿はいない。と、すると予想出来るのは…フェニックスは何か貴方に不利益なモノを握っている。それも自分から出向かなくてはならないものを。」
「……。」
沈黙するプロウフにスピカは指を立てる。
「やぁん。そんな怖い顔しないで?別に隠し事を皆にバラそうとか脅そうって訳じゃないわ。ただ一つお願いがあるの。」
「…何でしょうか?」
スピカはその言葉を待ってましたと言わんばかりに口元に指を当てて笑みを浮かべながら言う。
「貴方のやろうとしてることに一枚噛ませて欲しいの。私の好奇心が言ってるのよ。面白いことになる、てね。」
「えっー、紹介が遅れたわね。“サダルメリクの瞳”を渡したらどっか行っちゃうモンだから。…彼女は嵩原赤羽。分かってると思うけど祐司の娘さんよ。」
「赤羽です。」
山形の紹介に火元と風見以外の人間は目を丸くして驚いている。
「む、娘。嵩原さん娘がいたの!?」
林張が驚いたような声をあげる。珍しく雪花も驚いた顔をして、言葉がないようだ。
「娘…って言うかあんた知ってたの。」
「私もさっき知ってビックリしてるよ…。」
《正直俺も驚きだ。》
雪花と龍香がこそこそ話している中、黒鳥は下を向いている。赤羽は黒鳥を見つけると黒鳥に向けてつかつかと歩いていく。黒鳥が目の前に来た赤羽に顔を向ける。そして。
パァンと渇いた音が鳴る。
その音に全員が凍りつく。音の正体は赤羽が黒鳥に平手打ちを喰らわせてた音だった。
「なっ」
「何してんのよアンタ!」
雪花が赤羽に食ってかかろうとするが赤羽は全く目もくれず黒鳥の胸ぐらを掴むと黒鳥を睨み付けて叫ぶ。
「黒鳥…!何で!何で約束を破ったの!?」
「…すまない。」
「貴方が……戦えない父を守るって、言ったのに!何で父が死ななきゃ…」
「……。」
「何で…!」
赤羽が再び腕を振り上げた瞬間。その腕を風見が掴む。
「そこまでにしときなさい。皆が全力を尽くしたのよ。誰にも、クロちゃんを責めることは出来ないわ。勿論、貴女にもね。」
「くっ…!」
「黒鳥!大丈夫?」
雪花が黒鳥を赤羽から引き離し、支える。
「あ、あぁ。」
「…二人とも一旦落ち着く必要がありそうね。赤羽、私と一緒に来なさい。風見。連れてきて。」
「はい。ごめんけどついてきてね。」
「ぐっ」
そう言うと三人は部屋を出る。三人が見えなくなった後、黒鳥は雪花から離れる。
「なんて奴…!って言うか何?知り合いだったの?」
「まぁ、所謂幼馴染だ。……まさかホントにアイツが来るなんてな。」
「黒鳥さん…」
「悪いが……少し、一人にさせてくれ。気持ちに整理をつけさせて貰う。」
黒鳥はそう言うとそのまま部屋を出る。黒鳥の後ろ姿を三人は見つめる。
「黒鳥君大丈夫かなぁ。…けど、一人にした方がいいかも。僕も“デイブレイク”改修の仕事あるし…ごめんけど僕も離れるね。」
「改修早くしてよ。なんでもまたシードゥスが二体出たんじゃない。」
「う、うん。」
「じゃあ私も出るわ。ったく次から次へと…」
そう言うと雪花は何処かへと行ってしまう。火元も部屋を出てしまい、残されたのは龍香だけとなる。
「……。」
《どうした、龍香?》
どうにも心ここにあらずで考え事をしている龍香にカノープスが声をかける。
「いや、そのさっきのシードゥス?あの赤いシードゥスのことをパパって言ってたの気になって…。シードゥスも子供産めるの?」
龍香の疑問にカノープスは首を傾げる。
《シードゥスに子供…子供か。》
「産めるの?」
《前に言った通り俺の記憶は穴だらけで不正確だ。だから絶対とは言えんが…確か前例はなかったハズだ。》
「つまり?」
《俺がいた時は確か子供は産めなかったと思うが俺が抜けた後にもしかしたらそんな技術が確立したかも、って位だ。》
「そうなんだ…。」
《だが、シードゥスの連中がそんなこと歯牙にかけるとも思えん。物好きな少数ならまだしも大半の奴が子供を作ろうなんて…俺が言うのもアレだがシードゥスらしくない。》
カノープスのその言葉にアルビレオのことが龍香は脳裏に浮かぶ。
『シードゥス?何のことなのだ?』
「…もしかして。あの子ホントにシードゥスじゃなかったのかな…。」
《もしかしたらな。だが、確かに奴からはシードゥスとは違うものを感じたのも事実。あの怪我なら復帰は難しいと思うがもしまた会ったら事情を聴く必要があるな。》
「うん。」
「ふぅ…まったく。」
自身の拠点まで戻ってきたフェニックスは満身創痍のアルビレオをベッドに下ろすと指で自身の手首を傷付ける。そこから流れ出た血がアルビレオに当たると、その身体がみるみる内に再生していく。
「あ、ありがとうなのだ。」
回復したアルビレオが罰が悪そうに礼を言う。だが、フェニックスは険しい顔をしている。
「アルビレオ。どうして父さんと母さんの言いつけを守らなかったんだ?」
「うぐ」
フェニックスが険しい顔で問い詰めるとアルビレオは直視出来ずそっぽを向いてしまう。
しばらく黙ったままだったが、観念したのかアルビレオはボソボソと小さな声で答える。
「だって…退屈だったのだ。父様はいつも何処かへ行ってしまうし、母様はその…部屋から出れないし。」
「…。」
アルビレオのその答えにフェニックスは一瞬複雑そうな顔をするもののポンとアルビレオの頭に手を置く。
「そうか。だが、もう少しの辛抱だ。もう少しで母さんは歩けるようになる。だから、それまで勝手な行動はするな。お前が傷つくと母さんが悲しむ。」
「…うん。」
「父さんが出る間母さんのことをよろしくな。」
そう言うとフェニックスは家を出ていく。アルビレオはしばらく座ったままだったが、立ち上がって瓶から水を汲むと別室へそれを持っていく。
「母様。水を持ってきたのだ。」
「アルビレオ?」
声がしたベッドの方を見るとそこにはまるで人魚のような姿をしたアルビレオのいう母様…アクエリアスがいた。
アクエリアスは身体を起こすが、すぐにゴホゴホと咳き込んでしまう。
「大丈夫なのか母様?」
「えぇ…。ごめんなさいね。貴方とフェニックスには迷惑をかけるわ。」
「大丈夫なのだ。もう少ししたら父様が母様も歩けると言っていたのだ。」
アルビレオがアクエリアスを気遣い、元気づけようとフェニックスの言っていたことをアクエリアスに伝えるが、当のアクエリアスはそれを聞いて少し悲しそうに微笑む。
「そうね…。」
「治ったら三人で何処か散歩しようなのだ。きっと楽しいのだ。」
「そうね…。楽しみね。」
アクエリアスがそう言うとそそくさとアルビレオは部屋を出る。部屋を出て、ふとアルビレオは疑問に思う。
「そう言えば父様は何をしているのだ?」
一度聞いたことがあるが、その時は適当にはぐらかされて結局何をしているのか教えてくれなかった。
薬でも取りに行っているのだろうか
「気になる…」
アルビレオはふとフェニックスの言いつけを思い出したが家を出ていく。家族のためと言えば、いくらフェニックスとは言え責めはしないだろう。
学校からの帰り道、龍香と一緒に道を共にしているかおりと藤正がそう言えば、と呟き龍香に尋ねる。
「あ、龍香!あなたあの噂聞いたことがある?」
「噂?」
龍香が尋ねるとヤレヤレと言った具合に藤正が言う。
「おいおい龍香、今をときめく噂と言えば、アレしかないだろう!怪奇!赤い鳥男だよ!」
《赤い…》
「鳥…」
その言葉にカノープスと龍香の二人の脳裏に先日のあの乱入してきた赤いシードゥスが浮かび上がる。
「それは一体どんな話なの?」
「あぁ!なんでもそいつは夜に炎と共に現れ、目の前にいる人間の魂をとっちまう、って噂だ。」
「それを見たって人もいるわ!…まぁネットの話だから信憑性はアレだけど。もしかしたら、シードゥスかも!」
「カノープスそれって。」
《あぁ十中八九奴だろうな。にしても魂を吸い取るねぇ…。》
「お、骨骨は何か思い当たるのか!?」
《誰が骨骨だ!まぁ多分魂というよりは生気を吸い取ってんるんだろう。どっちにしろ厄介な奴に変わりない。》
「うん…。多分だけど、強い、よね。」
先日はこちらに本格的に襲い掛かって来なかったが、放たれた炎の凄まじさは以前戦ったダリムと言うシードゥスより強力であったように思える。
《多分だが、トゥバンと同等位には面倒だろうな。》
「龍香なら大丈夫よ!なんたってあのトカゲ野郎をこうボッコボコにしたんだから!」
かおりがシュッシュッとシャドーボクシングの真似事をする。多分トカゲ野郎とはトゥバンのことを言っているのだろう。
自業自得とは言え大分嫌われてたものである。
龍香がハハッと苦笑して返したその時である。ふと視界の端にあるものを捉える。
それはコソコソと物陰に隠れながら何かを探している白い怪人…アルビレオであった。
「!…二人は離れてて!」
「龍香?」
龍香はそう言って直ぐ様物陰に隠れて変身を完了するとアルビレオの前にその姿を見せる。
「見つけたわよ!また悪さをするつもり!?」
「ゲッ!」
龍香の姿を見たアルビレオは顔を青ざめさせ、キョロキョロと当たりを見回す。
「?」
「あ、あの暴力女はいないのか?」
「暴力女?」
《嵩原赤羽のことだろ多分。アイツに容赦なくやられてたから警戒してんだ。》
「あぁ、成る程…じゃない!あなた!また悪さするつもりなら…!」
龍香が“タイラントアックス”を構えてにじり寄るとアルビレオはブンブンと手を振って弁解する。
「だぁぁぁぁ今回は違う!違うのだ!人探しなのだ!」
「人探し?」
「そうなのだ!今父様を探しているだけなのだ!」
アルビレオはどうやら父を探しているらしく、今回は敵意はないらしい。
「探してるって…お父さんは何か伝えなかったの?」
「分からんのだ!父様は何処へ行き何をしているのか全然ボクに教えてくれないのだ…。ただ、母様を助けるためとしか…。」
《…助けるため、ね。》
アルビレオの弁解を聴いていたカノープスが何処か合点が言ったように声を漏らす。
「何か分かったのカノープス?」
龍香が尋ねるとカノープスは一頻りぶつくさと呟いた後、答える。
《大体話は掴めた。だが、コイツは大分めんどくさいことになりそうだ。》
龍香とアルビレオが対峙しているのをビルの屋上から見下ろす影があった。貴婦人のような姿をしたシードゥス、スピカだ。スピカは耳元に指を当てて、喋り出す。
「あー、プロウフ。見つけたわ。と言っても子供の方だけど。」
スピカがそう言うと、通信の相手、プロウフが返事をする。
[そうですか。では至急そちらに向かいます。私が到着するまで勝手な行動は控えるように。]
「はーい。」
プロウフの指示を了承し、通信を切る。スピカはフフッと笑いパチンと指を鳴らす。
すると一つ目の女性の人形のような怪人が七体何処からともなく現れる。現れた人形達はすぐに膝をつき、スピカにかしずくような姿勢になる。
「プロウフは手を出すなって言ったけど…こんな面白いサンプル見て見ぬ振りは出来ないし、作ったダスト達のテストもしたいし、それに」
スピカは眼下の獲物を見下ろしながら、眼を妖しく光らせる。
「イレギュラーが飛び込んできたなら、その場で対処する必要があるわよね。」
「面倒なことになるって…どういう」
自身の発言に疑問を抱く龍香にカノープスは答える。
《あの二人が言ってたろ。魂が引っこ抜かれるとか。恐らくだが、ソイツの親父がしてるのは母親の治療とやらのために他人の生気を奪って与えているんだ。》
「え…。」
《一般人の生気を奪うのはシードゥスなら出来る。母親は人間がどうかは知らんが…恐らくそれを見られたのがネットで載ったんだろうな。》
「そう言えば聞かなかったけど…生気を取られた人ってどうなるの?」
龍香の問いにカノープスは少し苦々しげに答える。
《チョビッとなら問題ないが、根こそぎ取られた場合ただ生きてるだけの廃人になっちまう。そしてシードゥスがそんな加減を一々する訳ねぇ。つまり》
「…止めなきゃいけないってこと?」
「なっ、ひ、人聞きの悪いことを言うな!父様がそんなことを」
アルビレオがカノープスの予測に異議を立てようとした瞬間。カノープスは上から気配を感じる。
《龍香!後ろへ跳べ!》
「えっ」
龍香が言われた通り後ろへ跳ぶとさっきまで彼女がいた場所に槍が突き刺さる。
「何!?」
さらに上から7つの影が地面に降り立つ。それは一つ目をギラリと輝かせる人形だった。人形は槍を構えると龍香とアルビレオに向ける。
「これも貴方の仕業!?」
「いやいやいや!ボクじゃない!」
《だとしとら誰が》
龍香が思案するが、人形はどうやらそうはさせてくれないようで、龍香に襲い掛かってくる。
《龍香!》
「うん!」
龍香は直ぐ様カノープスに触れる。すると服のラインが水色に変わり、後ろのリボンが尻尾へと変わり、足が強靭な恐竜の鋭い鉤爪に変わる。
《縦横走破!ヴェロキカラー!》
龍香は飛び上がると人形の内一体に足の鉤爪を突き立て、そのまま押し倒す。他の人形が襲い掛かるが、尻尾を振って一体を弾き飛ばして別の人形に当て、転ばせる。
さらに襲い掛かってくるが、それは大きく跳躍してかわすとさらに別の人形へと爪を突き立てようとするが、それを人形は槍で防ぐ。
「な、なんなのだ?」
アルビレオが困惑していると、七体の人形の内二体がアルビレオに槍を向ける。
「や、やる気か!?」
アルビレオは腕を振るい、風の刃を放つ。人形はその攻撃を槍で防ぐ。そして残る一体が槍をアルビレオに向けて振るう。
「わわっ」
アルビレオはそれを尻餅をつきながらもなんとかかわす。その様子を見て龍香は疑問を抱く。
「ホントにあの子の仕業じゃないの?」
《龍香!そんなことより今は目の前のコイツらだ!》
最初は何処かぎこちなかった人形達の動きが段々と洗練され、防御と攻撃する役目を分担し、数を活かした戦法を仕掛けてくる。
「くっ、さっきと比べて攻めにくい!」
徐々に人形の攻撃に圧され、龍香は劣勢に追い込まれる。襲い掛かる人形に蹴りを入れ、さらに追撃に入ろうとすると横から他の人形の妨害を受け、攻めあぐねてしまう。
《くそっ、今までのダスト兵達とは全然違う!》
「こうなったらこの剣で…。」
龍香が剣を取りだそうとした瞬間、何処からともなく黒い羽根が降り注ぎ、人形達に突き刺さる。
《これは…!》
「大丈夫か龍香!」
「黒鳥さん!」
空を見れば黒い翼を生やした黒鳥がいた。黒鳥はそのまま急降下しながら鋭い踵落としを人形にお見舞いする。
踵落としを受けた人形がぐらつく。と同時に翼が人形を張り飛ばす。
「怪我はないか?」
「は、はい。」
黒鳥が龍香の隣に並び立つ。と、同時に後ろから一つの影が二人を飛び越え、人形に迫る。そしてそのまま刀を一振すると人形が切り裂かれ、地面に崩れ落ちる。
「…一応彼女もいる。」
そこにいたのは嵩原赤羽だった。赤羽はジロリと辺りを見回した後、アルビレオに目をやる。
それに気づいたアルビレオは顔を青ざめさせる。
「ぶった斬ってやったのにもう再生してるのね。」
「うげっ、あの時の…!」
三つ巴の形になり、全員がどのタイミングで仕掛けるか、思案していた瞬間だった。
何処からともなく龍香達三人とアルビレオに光弾が襲い掛かる。
「んなっ、」
光弾は地面に着弾すると爆発し、衝撃波を発生させ龍香達を吹き飛ばす。
だが、体勢を保った黒鳥が咄嗟に羽根を広げて龍香と赤羽を受け止めることで衝撃を相殺する。
「うおっ」
「な、何!?」
龍香が叫ぶと同じように吹き飛ばされて転がったアルビレオの前に一人の桃色の貴婦人のような丈の長いドレス姿をしたシードゥスが光の翼を広げながら降り立つ。
「な、誰なのだ!?」
そのシードゥスはアルビレオに顔を近づけ、興味深そうにその身体を眺めて、アルビレオの顎に手を当てながら言う。
「うふふ。貴方、シードゥスじゃないわね。いや、半分シードゥスってとこかしら。珍しい。」
そのシードゥスがアルビレオを眺めていると後ろから鋭い針型の炸裂弾、“椿”を赤羽がシードゥス目掛けて投擲する。
だがそのシードゥスは“椿”に目もくれず、パチンと指を鳴らすと人形が槍でそれを弾く。
「あらあら、せっかちさんがいるようね。」
そのシードゥスが龍香達に振り返る。そして胸に手を当てて、言う。
「自己紹介が遅れたわね。私はシードゥスの上位種ツォディアの一人、スピカよ。お見知りおきを。」
「ツォディア…!」
龍香達の脳裏にアルレシャの姿が思い浮かぶ。確か他のシードゥスよりも強力なシードゥスであったと思い出す。
その佇まい、今の攻撃からかなりの実力者であることが推測出来る。
スピカは龍香達を観察しながら、見ているとふと気づいたように呟く。
「カノープスにアルキバに…あら、ルクバトが倒したサダルメリクの所持者、今度は貴女なのね?」
その言葉に赤羽がピクリと反応する。
「…誰が、倒したって?」
「あら、知らなかったの?ルクバトの奴情報を抜き取られたけど命は奪ったー、とか言ってたけど貴女を見る限りどうやらホントのようね。」
一人で腑に落ちてるスピカに赤羽が刀を突きつける。
「ソイツは何処にいるの!」
赤羽の殺気を心地よさそうに受けながらスピカは悪戯っぽく笑って尋ねる。
「知りたい?」
「言いなさい!」
「うーん、私アイツ嫌いだから特別に教えてあげちゃおうかなー。」
スピカは口元に手を当てながら顔を俯けさせ…そして顔を上げて惚けたように言う。
「やっぱ教えてあ~げない。教えたら私まで怒られちゃうもの。」
「…そう来るわけね。」
赤羽は刀を構える。
「だったらアンタを斬ってソイツを引きずり出してやるわ。」
「おぉ~怖。」
スピカは杖を出現させると臨戦体勢を整える。一触即発の空気が流れる中、今度は炎がスピカに向けて放たれる。
「!」
スピカはその炎に向けて手を向ける。すると結晶のような紋章をした障壁が炎を防ぐ。
「来たわね。…フェニックス。」
炎が放たれた元を見ると、そこには赤い鳥のような姿したシードゥス、フェニックスがいた。
「父様!」
「アルビレオ、何故言いつけを破った。」
フェニックスがアルビレオに問い掛ける。だが、アルビレオは逆にフェニックスに尋ねる。
「父様こそ何をしているのだ…ホントに、人を襲って魂を吸っているのだ?ボクには襲うなって言っていたのに?」
アルビレオの言葉にフェニックスが虚を突かれた顔をする。
「お前」
「家庭相談は後にしてもらえるかしら?」
スピカは左手から回転する光弾を発生させると、それをフェニックスにむけて放つ。放たれた光弾は軌道を描きながらフェニックスに向けて襲い掛かる。
それに気づいたフェニックスは翼を翻して避けようとするが、その光弾はフェニックスに誘導されるように追い掛ける。すぐに回避は難しいと判断したフェニックスが横薙ぎに腕を振るうと放たれた火炎が光弾を全て燃やし尽くす。
「行きなさい。」
スピカが指示を出すと同時にビルを駆け上がり、迫る人形達が一斉にフェニックスに槍を突き出す。突き出された槍は次々とその身体を貫く。
「ああ!?」
「ふっ」
だが、刺されたことなど意にも貸さず、フェニックスが腕を振るうと放たれた炎に焼かれながら人形が墜落していく。刺さっていた槍も身体から滲み出る焔で焼き尽くされ、傷痕もすぐに修復されていく。
「ちぇっ、流石にこの程度じゃ仕留めきれないか。」
スピカが更なる攻撃を仕掛けようと新しく光弾を生成しようとすると、横から赤羽の繰り出す刀がスピカに襲い掛かる。
スピカはそれに素早く反応すると杖で刀を受け止める。
「言ったハズよ、あなたを斬って引きずり出すと。」
「…へぇ、言うじゃない。」
赤羽がスピカと交戦する中、フェニックスはアルビレオを抱えるとすぐに炎の竜巻と共に消えてしまう。
「あ!」
龍香は一瞬追い掛けようとするか、迷うがまずは目の前の脅威を何とかすべきだと思い直すとスピカへと目を向ける。赤羽はスピカが振るう杖を跳躍してかわすと龍香達の方へと降り立つ。
「一気に決めるわよ!」
「うん!」
「行くぞ!」
龍香はすぐにカノープスに触れ、赤い姿に変わると“フォノンシューター”を構え、黒鳥は翼を広げ、赤羽は“椿”を構える。
「《スパイラルショット》!!」
掛け声と同時に振動波の塊と無数の黒い羽根、“椿”がスピカに向けて放たれる。
そして、それらはスピカに向けて飛んで行き炸裂すると大爆発を引き起こす。
爆煙が巻き上がり、辺りにもうもうと立ち込めスピカの姿が見えなくなる。
「やったか!?」
徐々に煙が晴れていく。煙が晴れると結晶模様の障壁が現れる。その障壁が消えるとそこには無傷のスピカがいた。
「なっ」
「惜しいわね。もうちょっとでこの障壁も破れたのに。」
スピカはポンポンと服を叩いて埃を払う。三人は身構えるが、一方のスピカはそんな三人を見て手を振る。
「そっちはやる気みたいだけどこっちは目的がなくなっちゃったからもう遊ぶ気ないのよね。」
そう言うとスピカがパチンと指を鳴らす。するとスピカと三人を隔てるように光の壁が現れ、それに飲み込まれるようにスピカの姿が消える。
「また機会があれば遊びましょ。機会があれば…ね。」
何処からともなくスピカの声がする。だが、その姿は見えない。そしてすぐにその気配も消える。
「消えた…。」
「逃がしたか。」
赤羽は刀を鞘に納める。黒鳥は聞き耳を立てており、何処から聞こえるサイレンの音に気づいた彼は二人に言う。
「派手に騒ぎすぎたな。さっさとずらかるぞ。」
「はい。」
そう言うと三人はその場を去る。龍香はふとアルビレオがいた場所を振り返り、しばし見つめた後、すぐに黒鳥達に続いてその場を後にした。
またもや拠点としている家に帰って来たアルビレオはフェニックスに問い詰める。
「父様!話して欲しいのだ!アイツが、アイツらが言っていたことは本当なのか?」
「…アルビレオ。この話はまだお前には」
「はぐらかさないで欲しいのだ!ボクだって家族なのだ!家族に言えないことをしているのか!?」
アルビレオは叫ぶ。アルビレオのその眼差しにフェニックスは一瞬躊躇した後、観念したように俯き、そしてアルビレオの肩に手を置く。
「…わかった。お前には本当の事を話そう。…お前の言う通りだ。母さんの病気を治すために俺は、人々の生気を吸い取っていた。」
フェニックスの言葉にアルビレオは顔をしかめる。
「…やっぱり、ホントだったんだな…。」
「仕方ないんだ。母さんの病はこうでもしないと治せない…治らないんだ。」
「それならさっき襲ってきた奴から吸えば…」
「シードゥスは駄目だ。母さんは人間のじゃないと駄目なんだ。母さんは“俺とは違う”生命なんだ。だから…。」
「…それは後、どれくらいで終わるのだ。」
フェニックスにアルビレオが尋ねる。アルビレオの言葉にフェニックスは少し呆気に取られるが、すぐに苦々しげに答える。
「…後5人。5人で母さんは治る。」
それを聞いたアルビレオは少し考えた後、真摯な面持ちでフェニックスに向き直り、言う。
「それ、ボクにも手伝わせて欲しいのだ。」
「…アルビレオ?何を言って」
「二人でやった方が早く終わるし…それに父様だけに背負わせたくないのだ。」
「アルビレオ…。」
フェニックスが言葉を漏らすと、部屋の奥からガタッと音が鳴る。
音がする方を見れば、そこには這う這うの体のアクエリアスが部屋から出るところであった。
「アクエリアス!」
「母様!」
二人が慌てて駆け寄る。フェニックスがアクエリアスを抱え、アルビレオが傍に座った瞬間、アクエリアスはアルビレオの肩を掴む。
「駄目よ…アルビレオ。貴方まで人を傷つけるなんて、私は貴方達を巻き込んでまで、生きようとはゴホッゴホッ」
「母様。」
咳き込みながらもアルビレオを止めようとするアクエリアスの手をアルビレオは優しく掴むと、両手で握り返して真っ直ぐアクエリアスを見据えながら言う。
「母様。ボクは大丈夫なのだ。家族一人の危機は皆の危機…。そう教えてくれたのは母様なのだ。だから、ボクは父様と同じようにどんな手を使っても助けるのだ。」
アルビレオはそう言うとアクエリアスを抱え、ベッドへと戻す。
「駄目よ…人を…傷つけたら…報いが…」
「……行こう。父様。」
アルビレオは振り返り、フェニックスに言う。フェニックスはコクリと頷くとアルビレオと共に拠点を後にする。
だが二人は気付かなかった。すぐそこに脅威が迫っていたことを。
二人が消えたのを確認すると茂みからスピカが姿を現す。
「ふふ…。みーつけた。」
「また新しいツォディア…ね。」
龍香達の報告を受けた山形が思案にふける。今“新月”は龍賢の手配によって様々な物資が入ってきたため、風見や林張はこれを期に中破状態の“デイブレイク”を修理、改修作業に勤しんでいる。
火元は雪花のトレーニングに付き合っているため、今山形は自室でモニター越しに往年の男性と話していた。
[それにしてもまさかまた君と話せるとは思わなかったよ山形君。]
往年の男性…海原元康(うなばらもとやす)は山形に言う。
「えぇ。ホント、まさか私達以外にも生きてると思わなかった。」
[龍賢君が会社を取り戻してくれたお陰でネットワークが使えるようになったからね。]
海原はそう言った後、あることを山形に尋ねる。
[ところで、赤羽君はそちらで馴染めているだろうか。彼女一見冷静だけど、結構な激情家だからね。問題を起こしてないといいんだが。]
海原の心配に山形はふっと笑って肩を竦める。
「雪花孃の妹様で慣れっこですよ。まぁ、彼女の気持ちは我々も分からないこともないですから。」
[君には迷惑をかけるな。]
「いえいえ。ではまた。」
[あぁ。また。]
山形がキーを叩くと通信が切れてモニターが暗くなる。山形はふぅと一息ついて、すっかり冷めたコーヒーを飲もうとコップに手をつけた瞬間、火元から連絡が入る。
「どうしたの?」
[山形さん。例のシードゥス達が現れたようです。場所は町外れの採掘現場。]
「分かったわ。すぐに黒鳥と赤羽と龍香を行かせて。」
[ちょっと!私は!?]
自分の名前がないことに雪花が抗議するが、山形はどうどうと落ち着かせるように言う。
「悪いけど、まだ“デイブレイク”の修理へ終わってないから貴女は待機よ。待つのはもどかしいかもしれないけど万が一の時は貴女が希望よ。」
[ちぇっ、風見に早くして、って伝えてよね!]
「はいはい。」
そう言うと雪花は通信を切断する。山形は現状把握をするためにパソコンと向き合いながら愚痴る。
「全く次から次へと。まだこっちも問題が山積みだってのに。」
龍香達が現場に到着すると、採掘現場は阿鼻叫喚と言った具合で、あちこちから悲鳴や火の手が上がる。
「クソッ、遅かったか!」
黒鳥が苦々しげに言ってシードゥスがいるとおぼしき場所へと向かう。
「止めなきゃ!」
龍香と赤羽も黒鳥に続いて駆け出す。そして採掘現場の工事用の足場を登って向かっていたその時だった。上から風の刃が放たれ、龍香達に襲い掛かる。
赤羽はその刃を刀で弾く。
「その攻撃は…!?」
龍香が攻撃が飛んで来た方を見るとそこには滞空するアルビレオの姿があった。
「アルビレオ!どうして…!」
「…悪いけど、こっちにも事情があるのだ。家族のため、お前達に邪魔はさせないのだ!」
アルビレオはさらに風の刃を龍香達に向けて放つ。
「くっ!」
黒鳥は龍香を抱えると直ぐ様翼を広げて飛翔することで、その攻撃をかわす。
赤羽はその攻撃をさらに刀で弾いて防ぐ。赤羽は飛翔している黒鳥と龍香に言う。
「ここは私に任せなさい。元はと言えばあの時私がコイツを仕留められなかったのが原因。自分のミスは自分で拭うわ。」
「…分かった。ここは頼んだぞ。」
黒鳥は一瞬躊躇するが、赤羽の事を信じたのかもう一体のシードゥスの方へと向かう。
赤羽は一瞥するとアルビレオの方を睨む。アルビレオは黒鳥達を先に行かせまいと風の刃を放とうとする。だがアルビレオに向けて針型炸裂弾が投擲される。
「!」
アルビレオはそれをすんでのところでかわすとそれを放った赤羽の方を見る。
「いい度胸ね。あなたの両腕をぶった斬った女から目をそらす余裕があるなんて。」
赤羽から立ち上る殺気にアルビレオは一瞬気圧されるが、すぐに臨戦体勢になる。
「う、うるさいのだ!今回は前回のようにはいかない、倒れるのはお前の方だ!」
アルビレオが放った風の刃を合図に戦いの火蓋が切って落とされた。
黒鳥と龍香の二人は火がもっとも激しい工場へと入り込む。すると今まさに炎の奥で工場の作業員から生気を吸い取ったフェニックスがそこにいた。
「貴様…!」
黒鳥が無数の羽根をフェニックスに向けて放つ。だがフェニックスの周りの炎が羽根を燃やし尽くし、攻撃が届くことはなかった。フェニックスは攻撃をした二人の方を見ると指を指して言う。
「…警告だ。これ以上邪魔をすれば、燃やす。」
「悪いけど、その警告には従わない!これ以上あなたの悪行を見過ごす訳にはいかない!」
龍香は“タイラントブレイド”を取り出し、構えると叫ぶ。
「絆を胸に!」
《肝胆相照!ティラノカラー・アトロシアス!》
恐竜のような装甲を身に纏いアトロシアスに変身した龍香は“タイラントブレイド”をフェニックスに向ける。
黒鳥も翼の攻撃は効かないと見たかスパイダーに切り替え両腕を蜘蛛のような手甲“スパイディガントレット”を構える。
フェニックスは臨戦態勢の二人を見てふぅとため息をつくと、炎を巻き上げる。
「そうか、なら後悔してもしらんぞ!」
フェニックスが腕を振るうと炎が二人に襲い掛かる。黒鳥は上に糸を飛ばしてそれをかわす。龍香は逆に真っ向から突っ込んで炎を“タイラントブレイド”で切り裂きながら前へと進む。
「ほう!」
「たあああああ!」
龍香は“タイラントブレイド”でフェニックスに斬りかかる。だがフェニックスは炎で刃を形成すると、それで龍香の攻撃を受け止める。
龍香が追撃せんとさらに“タイラントブレイド”を振るう。フェニックスも最初は攻撃を受け止めていたが龍香の力に徐々に圧され、後退する。
そして龍香の攻撃に手一杯になった次の瞬間後ろから飛んで来た黒鳥の糸がフェニックスの腕に絡み付き、動きを制限する。
「!」
「今だ龍香!」
黒鳥の援護に勝機を見た龍香は渾身の力を“タイラントブレイド”に込める。
「ブレイジング!バスタァァァァァド!」
「ぬぉっ」
龍香最強の一撃がフェニックスを刃ごと切り裂き、吹き飛ばす。それだけでは飽き足らず放たれた一撃は工場の壁をも粉々打ち砕き、その半分を倒壊させる。
「…相変わらず馬鹿みたいな威力をしているな。」
龍香の一撃の破壊力に黒鳥が驚嘆する。必殺の一撃でフェニックスを倒した龍香は必殺技を撃った反動のせいか地面に膝をつく。
《大丈夫か龍香?》
「うん。でもやっぱ結構疲れるよ、これ。」
カノープスが声をかけ、龍香が答えたその瞬間、龍香の目の前で炎が吹き上がる。
《龍香!》
カノープスの掛け声で龍香は大きく後ろへと下がる。吹き出した炎はグニャリと歪んで徐々にその姿を変えていく。
そしてその変化が収まる頃には傷一つないフェニックスがそこに立っていた。
「なっ」
「そんな!」
「今のは効いたぞ。俺が不死でなければ確実に死んでいたな。」
フェニックスは首を回しながら言う。
「不死…、ってことは死なないってこと!?」
「そうだ。いくらお前が強くても。」
フェニックスが手をかざし、放たれた火炎が龍香を襲う。龍香はその炎を“タイラントブレイド”で切り裂くが、切り裂いた先から炎の羽根が飛んでくる。
「っ」
咄嗟に“タイラントブレイド”を盾にしてその攻撃を防ごうとするが、羽根は着弾すると爆発し、龍香が衝撃に耐えられなくなったと同時に大きく吹っ飛ばす。
「きゃっ」
「龍香!」
黒鳥は追撃はさせまいと手甲から糸の塊を次々と発射するが、全てフェニックスに届く前に焼き尽くされる。
「甘い!」
返しのフェニックスから放たれた火球が黒鳥を吹き飛ばす。
「うぉっお!?」
吹き飛ばされた黒鳥はそのまま工場に置いてあった資材を巻き込んで倒れる。粉塵が巻き上がる中、龍香が体勢を立て直そうと“タイラントブレイド”を支えに立ち上がろうとした次の瞬間身体が淡く輝いたかと思うとアトロシアスから通常のティラノカラーに戻ってしまう。
「…えっ!?なんで…!」
《馬鹿な!もう限界だと…!?》
困惑する龍香達の前にフェニックスが立ち塞がる。
「…どうやらその力、完璧に使いこなせている訳ではないらしいな。」
フェニックスは炎が吹き出す掌を龍香に向ける。龍香も避けようとするが、身体が思いどおりに動かず、避けることが出来ない。
「警告したハズだ。これ以上邪魔するなら燃やす、とな。」
フェニックスの掌から炎が噴き出す。思わず龍香が目を瞑った瞬間だった。龍香とフェニックスを分断するように氷の壁が二人の間から現れる。
フェニックスはギリギリのところで回避するが、突然の横槍に辺りを見回して警戒する。
「チィッ…今度は誰だ!?」
「へ、え?」
龍香が突然のことで困惑している中だった。フワッと。一筋の冷風と共に自分の横に一体の怪人がいることに気付く。
その怪人は白く、紫の仮面をつけており、頭頂部から伸びる銀髪が目を引く。だが何よりもそこにいるだけで全身から漲る静寂と威圧感を与える凄まじい存在と言うことを嫌が応にも感じさせることが龍香の印象に残った。
「フェニックス。こんないたいけな少女にそのような事をするものではありませんよ。」
「貴様…ッ!」
白いシードゥスの登場にフェニックスは目に見えて狼狽している。その白いシードゥスはチラリと龍香を一瞥して尋ねる。
「カノープス。私を覚えていますか?」
《……。》
沈黙するカノープスを見て白いシードゥスはふむ、と顎に手をやって思案する。
「まだ、記憶は完璧に戻ってないのですね。」
《ッ!お前は》
「プロウフ!何故貴様がここにいる!」
フェニックスが先程龍香達に放った以上の火炎を白いシードゥス、プロウフ向けて放つ。
だが、その一撃はプロウフが指をパチンと鳴らすことで出現した氷の壁が完全に受けきってしまう。
「す、すご…。」
「何故私がここにいるか、ですか。」
あまりの防御力に龍香が呆然とする中プロウフはフェニックスに言う。
「単純ですよ。シードゥスを統べる支配種として、貴方を始末するためです。」
To be continued…
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