ここに作品タイトル等を記入
更新日:2021/10/24 Sun 18:42:07
今回のあらすじを担当する海原だ。前回は突如現れた父の魂の断片をコピーした機械人形の襲来に黒鳥君が追い詰められるが…皆の応援や、決意を胸に父と正面から対峙し、新たな力を発現しつつ辛くも撃破したのだが……シードゥスはまだ、何やら企んでいるようだな。
さて、どうなる第19話!
さて、どうなる第19話!
霧が立ち込める鬱蒼と茂る森の中を二人の人物が歩いていた。
「ま、まだですか?」
その内の一人、眼鏡をかけて長い赤茶の髪を後ろでお団子にして纏めている女性、“新月”メンバーの雲原 緑(くもはら みどり)が前を進む男性に話しかける。
「もう少しだ。立光さんからのデータが正しければそろそろ見えてくる。」
紫の髪の男性…龍賢はそう言いながら前を進む。
《おいおいあの女、結構へバッてるぜ?ただでさえ足手纏いが余計な足枷にまでなるのは勘弁してくれ。》
龍賢の中のトゥバンの言葉でふと、彼女の方を振り返る。確かにトゥバンの言う通り、彼女の足元はフラついて覚束ない。そもそもインドアであまり運動が得意ではないと言っていた彼女に森の悪路は相当堪えただろう。
「…そうだな。雲原さん。ここで一旦休憩を取ろう。」
「え…?よ、よろしいんですか?もう少しなのに…」
「もう少しだからこそ、ですよ。」
そう言うと龍賢は手頃な倒木に腰掛けてリュックからお茶を取り出すと、飲み始める。
雲原もそれに習い、適当な石の上に座って水筒のお茶を飲み始める。
「すみません。こんなことに付き合わせてしまって。」
「い、いえいえ!で、でもなんで私を…?」
「今回の一件で、調査してほしいものがありまして。そこで君の電子操作技術が必要なんです。」
「そ、そうなんですか…?」
「はい。今から向かう、第八宇宙飛来物研究所にそれはあります。」
その場所の名に雲原はあっ、と何かに気づいた顔をする。
「そ、それって二十年前の事故で放棄された…?」
「はい。そこから出来る限りの資料を回収する。その資料はきっと、今後の方針や対策を決めるために役立つハズです。」
「はぁ…でも、二十年前ですよ?電子機器生きてますかねぇ?」
「そればっかりは行ってみんと分からないですね。」
龍賢はそう言って地図が表示されてあるタブレットに目を落とす。
そしてしばらくお茶を飲みつつ休憩していると、ふと何か思い出したように龍賢は雲原に言う。
「キツかったらいつでも言って下さい。…どうも自分は他の人の機微に疎いようで。よく“昔の仲間”にも言われました。お前は周りをもう少しよく見ろと。」
龍賢はそこまで言って。どこか自嘲気味に微笑んで。
「……もし、俺に他人の気持ちを汲んでやることが出来たら…龍斗は……。」
そう呟く龍賢の呟きに雲原は悲哀と後悔と…少しだけ愛情が混じっていたように感じた。
龍賢の会社奪還の話は聞いており、相当手酷くやったらしいが、今の龍賢の言葉からは少しも侮蔑と言ったような…マイナスのものが感じられなかった。
「……弟さんのコト、気にしてるんですか?」
気になった雲原が恐る恐る尋ねると龍賢は少し、複雑そうな顔をする。
「……アイツは本当は俺よりも、ずっとスゴイ奴なんです。才能があって、龍香のことも安心して任せられる…そしていつか俺さえも使いこなせる器を持っていた。…持っていたんですよ。」
龍賢はそれだけ言うと、すくっと立ち上がる。
「さて、休憩しても十分取りましたし、行きましょうか。」
「え、あ、はい…!」
立ち上がって先を行く龍賢に雲原は慌ててついて行く。共に森の悪路を歩いて行く中、雲原は先程の龍賢が寂しそうな、憂いに満ちた顔をしていたように見えた。
「ま、まだですか?」
その内の一人、眼鏡をかけて長い赤茶の髪を後ろでお団子にして纏めている女性、“新月”メンバーの雲原 緑(くもはら みどり)が前を進む男性に話しかける。
「もう少しだ。立光さんからのデータが正しければそろそろ見えてくる。」
紫の髪の男性…龍賢はそう言いながら前を進む。
《おいおいあの女、結構へバッてるぜ?ただでさえ足手纏いが余計な足枷にまでなるのは勘弁してくれ。》
龍賢の中のトゥバンの言葉でふと、彼女の方を振り返る。確かにトゥバンの言う通り、彼女の足元はフラついて覚束ない。そもそもインドアであまり運動が得意ではないと言っていた彼女に森の悪路は相当堪えただろう。
「…そうだな。雲原さん。ここで一旦休憩を取ろう。」
「え…?よ、よろしいんですか?もう少しなのに…」
「もう少しだからこそ、ですよ。」
そう言うと龍賢は手頃な倒木に腰掛けてリュックからお茶を取り出すと、飲み始める。
雲原もそれに習い、適当な石の上に座って水筒のお茶を飲み始める。
「すみません。こんなことに付き合わせてしまって。」
「い、いえいえ!で、でもなんで私を…?」
「今回の一件で、調査してほしいものがありまして。そこで君の電子操作技術が必要なんです。」
「そ、そうなんですか…?」
「はい。今から向かう、第八宇宙飛来物研究所にそれはあります。」
その場所の名に雲原はあっ、と何かに気づいた顔をする。
「そ、それって二十年前の事故で放棄された…?」
「はい。そこから出来る限りの資料を回収する。その資料はきっと、今後の方針や対策を決めるために役立つハズです。」
「はぁ…でも、二十年前ですよ?電子機器生きてますかねぇ?」
「そればっかりは行ってみんと分からないですね。」
龍賢はそう言って地図が表示されてあるタブレットに目を落とす。
そしてしばらくお茶を飲みつつ休憩していると、ふと何か思い出したように龍賢は雲原に言う。
「キツかったらいつでも言って下さい。…どうも自分は他の人の機微に疎いようで。よく“昔の仲間”にも言われました。お前は周りをもう少しよく見ろと。」
龍賢はそこまで言って。どこか自嘲気味に微笑んで。
「……もし、俺に他人の気持ちを汲んでやることが出来たら…龍斗は……。」
そう呟く龍賢の呟きに雲原は悲哀と後悔と…少しだけ愛情が混じっていたように感じた。
龍賢の会社奪還の話は聞いており、相当手酷くやったらしいが、今の龍賢の言葉からは少しも侮蔑と言ったような…マイナスのものが感じられなかった。
「……弟さんのコト、気にしてるんですか?」
気になった雲原が恐る恐る尋ねると龍賢は少し、複雑そうな顔をする。
「……アイツは本当は俺よりも、ずっとスゴイ奴なんです。才能があって、龍香のことも安心して任せられる…そしていつか俺さえも使いこなせる器を持っていた。…持っていたんですよ。」
龍賢はそれだけ言うと、すくっと立ち上がる。
「さて、休憩しても十分取りましたし、行きましょうか。」
「え、あ、はい…!」
立ち上がって先を行く龍賢に雲原は慌ててついて行く。共に森の悪路を歩いて行く中、雲原は先程の龍賢が寂しそうな、憂いに満ちた顔をしていたように見えた。
「……む。」
「どうした?プロウフ?」
薄暗い部屋を蝋燭の灯が弱々しく照らす中で本を読んでいたプロウフがふと、何かに気づいたように顔を上げる。
その様子にすぐ側で同じく読書をしていたアルレシャが反応する。
と思ったらこれまた机を挟んで向かい側に座っていたレグルスが。
「プロウフ“様”だろう?何呼び捨てにしているんだ無礼な。」
「いーんだよ、俺はお前よりかプロウフと付き合い長いんだから。」
「あ?」
「お?」
「別に気にしてませんよ。だから喧嘩はおやめなさい。」
アルレシャの発言にレグルスが噛みつき、いきなり一触即発じみた雰囲気になる二人をプロウフが宥める。
「それよりも、少し困ったことになりました。我らの聖地に侵入者が入ったようです。」
その言葉にアルレシャとレグルスがピクリ、と反応する。
「つきましては、アルレシャ、レグルス。二人で侵入者の撃退、何か情報を持ち帰ろうとするのであれば最優先でそれを破壊しなさい。何も、持ち帰らせてはなりません。」
「久々に暴れられるってコトか…!」
「はっ!プロウフ様の仰せの通りに!」
そう言うと二人は部屋を後にする。その二人が出払ったのを見届けるとプロウフは椅子に身体を沈めて。
「……やはり、真実へと向かって来ますか。龍那さん。貴方の子供達は。」
一人、ため息まじりに呟くと、さっきの二人と入れ替わるようにコンコンと扉がノックされる。
「どうぞ。」
「失礼するわよ。」
プロウフがそう言うと扉を開けて蠍のような怪物、アンタレスが小脇に簀巻きにした一人の少女を連れて入る。
「だー!はーなーせー!はーなーせーよ!」
「おや、プロキオン。何故グルグル巻きに?」
「脱走したからよ。なんでも外にあるケーキ屋?に行きたかったんだって。」
「成る程。…言ってくれたら、連れて行ってあげますのに。」
プロウフがそう言うと、プロキオンはそっぽを向いてちょっと口籠もり。
「い、いや。でも…プロウフ忙しそうだし、なんか、悪いかなぁって……。」
「心遣いは感謝しますが、そこまで気を遣わなくて大丈夫ですよ。ほら、皆あまり私と話す時気を遣わないでしょう?」
「さてはアンタ結構根に持つタイプね?」
ジトっとアンタレスが睨むがプロウフは知らんぷりを決め込む。
そんなプロウフにプロキオンは少し照れくさそうに逡巡した後、口を開いた。
「プ、プロウフ…その。お願いがあるんだけど……」
「どうした?プロウフ?」
薄暗い部屋を蝋燭の灯が弱々しく照らす中で本を読んでいたプロウフがふと、何かに気づいたように顔を上げる。
その様子にすぐ側で同じく読書をしていたアルレシャが反応する。
と思ったらこれまた机を挟んで向かい側に座っていたレグルスが。
「プロウフ“様”だろう?何呼び捨てにしているんだ無礼な。」
「いーんだよ、俺はお前よりかプロウフと付き合い長いんだから。」
「あ?」
「お?」
「別に気にしてませんよ。だから喧嘩はおやめなさい。」
アルレシャの発言にレグルスが噛みつき、いきなり一触即発じみた雰囲気になる二人をプロウフが宥める。
「それよりも、少し困ったことになりました。我らの聖地に侵入者が入ったようです。」
その言葉にアルレシャとレグルスがピクリ、と反応する。
「つきましては、アルレシャ、レグルス。二人で侵入者の撃退、何か情報を持ち帰ろうとするのであれば最優先でそれを破壊しなさい。何も、持ち帰らせてはなりません。」
「久々に暴れられるってコトか…!」
「はっ!プロウフ様の仰せの通りに!」
そう言うと二人は部屋を後にする。その二人が出払ったのを見届けるとプロウフは椅子に身体を沈めて。
「……やはり、真実へと向かって来ますか。龍那さん。貴方の子供達は。」
一人、ため息まじりに呟くと、さっきの二人と入れ替わるようにコンコンと扉がノックされる。
「どうぞ。」
「失礼するわよ。」
プロウフがそう言うと扉を開けて蠍のような怪物、アンタレスが小脇に簀巻きにした一人の少女を連れて入る。
「だー!はーなーせー!はーなーせーよ!」
「おや、プロキオン。何故グルグル巻きに?」
「脱走したからよ。なんでも外にあるケーキ屋?に行きたかったんだって。」
「成る程。…言ってくれたら、連れて行ってあげますのに。」
プロウフがそう言うと、プロキオンはそっぽを向いてちょっと口籠もり。
「い、いや。でも…プロウフ忙しそうだし、なんか、悪いかなぁって……。」
「心遣いは感謝しますが、そこまで気を遣わなくて大丈夫ですよ。ほら、皆あまり私と話す時気を遣わないでしょう?」
「さてはアンタ結構根に持つタイプね?」
ジトっとアンタレスが睨むがプロウフは知らんぷりを決め込む。
そんなプロウフにプロキオンは少し照れくさそうに逡巡した後、口を開いた。
「プ、プロウフ…その。お願いがあるんだけど……」
「…うん、どこも異常なし。黒鳥さん、上がって良いわよ。」
「すみません。ありがとうございます。」
女性看護師に患者着姿の黒鳥が礼を言って身体を起こして立ち上がる。
先日の一件で大きく身体に変化を及ぼす形態になったことから心配した山形が“新月”の医療設備が整った別アジトで黒鳥に検査を受けるように促したのだ。
「黒鳥さんの急激な変化は、恐らくですが強い電気ショックによる外来的刺激と何かしら、気持ちの変わり様、強い想いがあの形態に変化したのではないでしょうか?」
検査後、医者が黒鳥にそう言う。随分と曖昧だが、シードゥスについて碌なことが分かってない上にシードゥスと人間の関係もサンプル数が少ないため、詳細は不明と来た。
半日ずっと検査の為拘束されていた黒鳥が部屋から出て背筋を伸ばして更衣室に入ると。
「龍香。早くその鍵取りなさいよ。」
「え?え??いいの?さっき上画面に何か見えたよ?多分だけど仲良くは出来ない感じの奴が見えたのに?」
「いいからいいから。あ、取ったら何も考えず下ボタンずっと入力してなさい。」
「絶対なんかあるよねその言い方だと!?」
「……相変わらず仲がいいな。」
黒鳥と同じように検査をして一足先に終わった龍香と“デイブレイク”の点検に来ていた雪花が一緒にゲームをしている姿を見て黒鳥はふふっと笑う。
「あ、黒鳥。終わったの?」
「うん。今終わった。」
「あ、黒鳥さん!お願いがあるんですけど…このゲームで鍵を取って貰えないですか!?」
「あ、おい何黒鳥に押し付けようとしてんの!?」
やんのやんの騒ぐ二人を微笑ましそうに見ながら、黒鳥はふとあることを尋ねる。
「あれ?龍香そう言えばカノープスは?」
そう。いつも龍香の頭にくっついているカノープスが龍香についていない。
黒鳥がそのことを尋ねると。
「あぁ、なんかカノープスが海原さん、って人に話したいことがあるって言われて。持って行っちゃった。」
「海原さんが?」
黒鳥がカノープスと海原が何を話すのか、思案していると龍香が上目遣いでこちらを見ているのに気づく。
「……まぁ、鍵を取るだけならやるよ。貸して。」
「えっ、ホントですか!?」
目をキラキラさせながら渡す龍香に苦笑しながら黒鳥はゲーム機を受け取る。
「あ、ちょバカ、マジで!マジで黒鳥アンタはやらないで!」
その途端急に焦りだす雪花。その言葉に黒鳥は少しムッとする。
「鍵を取るだけでしょ?それくらい出来るわよ。」
「いや、そうじゃなくて…!」
そしてとうとう雪花の静止も虚しく黒鳥が操作するキャラが机の上の鍵を取る。
その瞬間画面上からグロテスクなチグハグな身体の怪物が雄叫びを上げながら現れる。
「キャアァァァァァァァ!!?」
突然のことでビックリした黒鳥が悲鳴を上げながらゲーム機を投げつける。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
壁に投げつけられたゲーム機を見て雪花も悲鳴をあげる。この後二人の悲鳴に何事かと集まってきた“新月”メンバーに顔を赤くしながら三人は説明するのだった。
「すみません。ありがとうございます。」
女性看護師に患者着姿の黒鳥が礼を言って身体を起こして立ち上がる。
先日の一件で大きく身体に変化を及ぼす形態になったことから心配した山形が“新月”の医療設備が整った別アジトで黒鳥に検査を受けるように促したのだ。
「黒鳥さんの急激な変化は、恐らくですが強い電気ショックによる外来的刺激と何かしら、気持ちの変わり様、強い想いがあの形態に変化したのではないでしょうか?」
検査後、医者が黒鳥にそう言う。随分と曖昧だが、シードゥスについて碌なことが分かってない上にシードゥスと人間の関係もサンプル数が少ないため、詳細は不明と来た。
半日ずっと検査の為拘束されていた黒鳥が部屋から出て背筋を伸ばして更衣室に入ると。
「龍香。早くその鍵取りなさいよ。」
「え?え??いいの?さっき上画面に何か見えたよ?多分だけど仲良くは出来ない感じの奴が見えたのに?」
「いいからいいから。あ、取ったら何も考えず下ボタンずっと入力してなさい。」
「絶対なんかあるよねその言い方だと!?」
「……相変わらず仲がいいな。」
黒鳥と同じように検査をして一足先に終わった龍香と“デイブレイク”の点検に来ていた雪花が一緒にゲームをしている姿を見て黒鳥はふふっと笑う。
「あ、黒鳥。終わったの?」
「うん。今終わった。」
「あ、黒鳥さん!お願いがあるんですけど…このゲームで鍵を取って貰えないですか!?」
「あ、おい何黒鳥に押し付けようとしてんの!?」
やんのやんの騒ぐ二人を微笑ましそうに見ながら、黒鳥はふとあることを尋ねる。
「あれ?龍香そう言えばカノープスは?」
そう。いつも龍香の頭にくっついているカノープスが龍香についていない。
黒鳥がそのことを尋ねると。
「あぁ、なんかカノープスが海原さん、って人に話したいことがあるって言われて。持って行っちゃった。」
「海原さんが?」
黒鳥がカノープスと海原が何を話すのか、思案していると龍香が上目遣いでこちらを見ているのに気づく。
「……まぁ、鍵を取るだけならやるよ。貸して。」
「えっ、ホントですか!?」
目をキラキラさせながら渡す龍香に苦笑しながら黒鳥はゲーム機を受け取る。
「あ、ちょバカ、マジで!マジで黒鳥アンタはやらないで!」
その途端急に焦りだす雪花。その言葉に黒鳥は少しムッとする。
「鍵を取るだけでしょ?それくらい出来るわよ。」
「いや、そうじゃなくて…!」
そしてとうとう雪花の静止も虚しく黒鳥が操作するキャラが机の上の鍵を取る。
その瞬間画面上からグロテスクなチグハグな身体の怪物が雄叫びを上げながら現れる。
「キャアァァァァァァァ!!?」
突然のことでビックリした黒鳥が悲鳴を上げながらゲーム機を投げつける。
「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!?」
壁に投げつけられたゲーム機を見て雪花も悲鳴をあげる。この後二人の悲鳴に何事かと集まってきた“新月”メンバーに顔を赤くしながら三人は説明するのだった。
「…どうですか?」
「うん。大丈夫。まだ何台かは生きてます。」
霧が立ち込める中、川の畔に立つ半壊した“第八宇宙飛来物研究所”に辿り着き、その中に入った龍賢と雲原は中に入り、地図の通り進んだ先にあるサーバー室に辿り着いていた。
パソコンや充電器などを取り出し、カチャカチャと雲原が機械を操作する中、龍賢も研究所の探索をする。
地図を見ながら淀みない足取りで目的地へと足を運ぶ。そして数分後。目的地である研究所の“所長室”の前に立つ。
「……ここか。」
龍賢はギィと錆びついた扉を開けて中に入る。長い間放置されていたせいのか、部屋は荒れ放題だったが、それでもボロボロの机の上には写真立ての中に入った掠れた写真があった。写真は男の子を肩車している男、隣に妻の三人の家族写真だった。
男の子を肩車している赤茶の髪の人が良さそうな男性を見ながら龍賢はポツリと声を漏らす。
「……父さん。」
それは幼き日の龍賢と、母龍那、そして父の昇鯉の姿だった。今は亡き二人に龍賢が想いを馳せる。
《おいおい。懐かしむのは結構だが、今は探索が最優先じゃねぇのか?》
龍賢の中のトゥバンが茶化すように言う。
「黙っていろ。お前にはこの気持ちは分からん。」
《そりゃ、お前が人間で、俺がシードゥスだからか?》
「あぁ。」
《おいおい、随分な言い草だな。俺だってニンゲン、らしいとこあるんだぜ?例えば……そうだな。恋愛?って奴もしたことあるぞ。》
トゥバンのその言葉に龍賢は目を丸くする。
「………笑えん冗談だな。」
《いやいや、マジなんだなコレが。って言っても俺が一方的に受けてただけだからなんとも言えんが。》
「……相手は?」
《ちょっと気になってんじゃねぇかおませさんが。》
トゥバンと会話しながら探索のために龍賢がふと本棚を見つめると、そこにはボロボロの手帳のようなものがあったのを見つける。
「……これは?」
龍賢がその手帳に手を伸ばした瞬間。廊下の方からドカァンと大きな音がなる。
「ッ!」
《龍賢、気をつけろ。気配からして、二体いやがる。
しかも中々の手練っぽいぜ。》
トゥバンの忠告に龍賢は返事もせず、手帳を引ったくって懐にしまい、耳のイヤホン型の通信機に指を当てると龍賢は雲原に言う。
「雲原さん!撤退です!打ち合わせどおりお願いします! 」
雲原からの了解の言葉を聞く前に部屋のドアを開けて外に出ると。
「ッ!」
龍賢の目の前を水の刃が横切る。すぐさま水の刃が飛んできた方を振り向くと、すぐ目の前に獅子のような怪物の剛腕が迫っていた。
「!トゥバン!」
《あいヨォ!》
振われた剛腕が龍賢に叩きつけられる。あまりの衝撃に龍賢のいた地面に蜘蛛の巣状の亀裂が走り、床が崩壊する。
「くっ…無茶苦茶な…。」
下の階に落下し、瓦礫を避けながらトゥバンと融合し、変身した龍賢はそう文句を言いながら立ち上がる。
「…トゥバン。話には聞いていたが本当に裏切っていたとは…」
《チッ、プロウフの野郎、レグルスを復活させてたのかよ。》
目の前で怒りで身体を振るわせる獅子、レグルスを見ながらトゥバンが嘆息する。
「……ツォディアのお出ましか。」
龍賢が目の前の獅子を相手に構える。だが、それと同時に崩壊した階から一体、魚のような、道化のような格好をした怪物が降りてくる。
「よぉ…久しぶりだな、トゥバン。」
《…おいおい、お前生きてたのかよ。しかも随分とイメチェンしたな。》
「当然だ。俺があの程度で死ぬはずがないだろう。あとお前もイメチェンしてるだろ。」
魚のような怪物、アルレシャが手を翳すと水が集まり、一つの槍を作り出す。
「まぁ、嬉しいぜ。トゥバン?俺は昔からお前が気に食わなかった。そんなお前を真っ向からぶっ潰せる機会が巡ってきたんだ。そんな機会…」
次の瞬間地面を蹴ってアルレシャがトゥバンに槍を振るう。
「生かさなきゃ損だよなァ!?」
「チッ!」
振われた槍を龍賢も素早く生成した槍で受け止める。槍同士がぶつかり、鍔迫り合いへともつれ込む。
「クハハ!面白い!力比べか!?」
「ぐっ…!」
アルレシャが力を入れると龍賢は後ずさる。それはアルレシャの方が力で勝っていることを意味していた。
「クク!どうした!もっと力を込めて抵抗…」
アルレシャがそこまで言いかけた瞬間。横から獅子状のエネルギー弾が二人を襲う。
「な!?」
放たれたエネルギー弾が二人に着弾し、大きく吹き飛ばす。
「ぐっ!?」
「うおおおおお!?」
龍賢は部屋の壁を突き破り、実験機材を巻き込んで派手に割りながら倒れ込む。
一方で同じく吹き飛ばされ、壁に叩き付けられたアルレシャは素早く立ち上がると、攻撃をした張本人レグルスに食ってかかる。
「おいテメェコラ今のワザとだろ!?俺にまで攻撃来てんじゃねーか!」
アルレシャが問い詰めるがレグルスは身体を震えさせながら。
「プロウフ様を裏切るなど…重罪……いくら痛めつけてもその罪は拭えぬ…!」
次の瞬間レグルスは咆哮し、龍賢が吹っ飛んだ方にまたもやエネルギー弾を放つ。
「断罪ッ!!もはや骨の一欠片もこの地上に残ると思うなよぉぉ!!」
「おい、テメェ“聖域”でバカスカデカい技を撃つなココをぶっ壊す気か!?」
怒りで我を忘れたのか大技を放ちまくり、あちこちを破壊するレグルスをアルレシャが慌てて止めに入る。
一方吹っ飛ばされた龍賢はレグルスが放った大技が作り出した破壊に紛れてそそくさと退散していた。
「この戦い…奴ら二人を倒すのが勝利ではない。俺達の勝利は情報を持って逃げ切ること、だ。」
龍賢が曲がり角を曲がると、そこにはジュラルミンケースを大事そうに抱えた雲原の姿があった。
「無事ですか雲原さん!」
「えぇ!?あ、その声龍賢さん?」
「話は後です!“仕込み”は終わりましたか!?」
「え、えぇ!バッチリです!」
「なら急ぎましょう!」
龍賢と雲原が先を急ごうとした瞬間、壁を突き破ってレグルスが飛び込んでくる。
「ッ!」
「ウオオオオオオオオ!!」
レグルスが振りかぶった剛腕を今度は槍を使って綺麗に受け流すことで龍賢は攻撃を回避する。
「雲原さん!先に!」
「は、はい!」
龍賢の指示を受けて雲原は走り出す。龍賢はすぐさま槍を突き出しレグルスを攻撃するが、レグルスは突き出された槍を掴んで防御する。
「何ッ!?」
「この程度ォ!」
レグルスは吼えると槍を思い切り振り回す。あまりの剛腕に槍を構えていた龍賢も振り回されて壁に身体を擦り付けられる。
「ぐっ」
「オオオオオオオオオオ!」
レグルスはブゥンと龍賢を槍ごと投げ飛ばす。投げ飛ばされた龍賢は痛みを堪えながら何とか空中で体勢を立て直すと着地する。
「なんて馬鹿力だ…!」
《俺も結構力には自信あったんだがなぁ。》
「殺ォォッすッ!」
レグルスが龍賢に突進してくる。そして振り上げられた剛腕を見て、龍賢はスッと身体を屈んで回避すると、お返しとばかりに掌底をレグルスの鳩尾に叩き込む。
「グゥ!?」
「力比べに馬鹿正直に付き合う通りはない!」
龍賢はそのまま蹴りをレグルスに繰り出す。咄嗟にレグルスは両手をクロスさせることでその攻撃を防ぐ。
だが、龍賢はさらにもう片方の足もレグルスの腕に接地させると思い切り腕を蹴って跳ぶことで後ろへと後退する。
「ぐっ!?私を踏み台に!?」
「ふっ!」
さらに龍賢は空中で肘のパーツから一対の双剣を作り出すとレグルスに向けて投擲する。
放たれた剣はレグルスの直前に突き刺ささると同時に爆発し、その視界を奪う。
「今のうちに!」
龍賢がそのまま地面に着地しようとした瞬間、煙を切り裂き、今度はアルレシャが槍を持って突っ込んでくる。
「オラァァァ!」
「く」
慌てて龍賢は身を捻って回避しようとするが、完全には避けきれすみ脇腹をズッと切り裂かれる。
「死ねよヤァ!!」
そのままアルレシャは龍賢の首を掴むと地面へと叩きつける。
「ごっは!」
「クハハ!良いザマだな!」
《調子に……乗ってんじゃねぇ!》
アルレシャがトドメを刺そうと槍を振り上げた瞬間龍賢の目の色が緑色から紫になったかと思うと掌から無骨な薙刀を生成し、生成した勢いそのままの薙刀をアルレシャにぶつけて怯ませる。
「何!?」
「どけオラァ!」
怯んだアルレシャを“トゥバン”が勢いよく蹴飛ばして離れさせる。
その隙にトゥバンは立ち上がって後ろへと下がる。
「チッ、せっかく身体を借りといてなんだが…ここは逃げる方が懸命だな。」
『流石にあのレベルのツォディア二体は分が悪い。雲原さんを連れて逃げろ。』
「言われなくても分かってんだよやられやがって!痛ェったらありゃしねぇ!」
血が流れる脇腹を押さえながらトゥバンは後退し、雲原に追いつく。
「おいお嬢ちゃん!ルート変更だ!そのケースは置いとけよ!」
「え?龍賢さん?ちょ、うわっ」
雲原からしたら当然語気が荒々しくなった龍賢に困惑する彼女をトゥバンは脇に抱えると壁を薙刀で粉砕し、外へ出る最短ルートを作る。
「うっし、まあこんなもんだろ。」
破壊した壁から外を覗くとそこに道はなく、下を見れば轟々と川が音を立てて流れている。
「えっ、えっ!?ま、まさかまさか!?」
トゥバンがやろうとしていることに感づいた雲原の顔が青ざめる。
「そのまさかだ嬢ちゃん。舌噛まないよう気ぃつけろよ?」
「待てトゥバン!」
「チッ、もう来やがったか。んじゃ行くか。」
追いかけてきたアルレシャとレグルスに向けてトゥバンは薙刀を投擲する。
勢いよく放たれた薙刀は二体の前の通路を破壊し、一瞬動きを止める。
その隙にトゥバンは雲原を覆うように抱えると壁から飛び降りてそのまま川へと真っ逆さまにダイブする。
「チィッ!」
アルレシャとレグルスが慌てて壁に駆け寄るが、既に水柱が上がり、霧もあって目視で発見はいくらシードゥスと言えども困難であった。
「逃げたか…。」
「まぁ……いい。奴ら、追撃を恐れてかケースを落としていやがる。」
壁の間際に落ちていたジュラルミンケースをアルレシャが拾い上げる。
蝶番をあっさり破壊して開けると、中には大事そうに梱包してあるUSBメモリがあった。
「ふん。」
そう言うとアルレシャはメモリを握りつぶした。
「逃がしはしたが、情報は抜き取られずに済んだ。…もうやることはない。帰るぞ。」
「くっ……覚えておけトゥバン。次こそは…。」
そう言うと二体はアルレシャが作り出した水のゲートを通ってその場から去ったのだった。
「うん。大丈夫。まだ何台かは生きてます。」
霧が立ち込める中、川の畔に立つ半壊した“第八宇宙飛来物研究所”に辿り着き、その中に入った龍賢と雲原は中に入り、地図の通り進んだ先にあるサーバー室に辿り着いていた。
パソコンや充電器などを取り出し、カチャカチャと雲原が機械を操作する中、龍賢も研究所の探索をする。
地図を見ながら淀みない足取りで目的地へと足を運ぶ。そして数分後。目的地である研究所の“所長室”の前に立つ。
「……ここか。」
龍賢はギィと錆びついた扉を開けて中に入る。長い間放置されていたせいのか、部屋は荒れ放題だったが、それでもボロボロの机の上には写真立ての中に入った掠れた写真があった。写真は男の子を肩車している男、隣に妻の三人の家族写真だった。
男の子を肩車している赤茶の髪の人が良さそうな男性を見ながら龍賢はポツリと声を漏らす。
「……父さん。」
それは幼き日の龍賢と、母龍那、そして父の昇鯉の姿だった。今は亡き二人に龍賢が想いを馳せる。
《おいおい。懐かしむのは結構だが、今は探索が最優先じゃねぇのか?》
龍賢の中のトゥバンが茶化すように言う。
「黙っていろ。お前にはこの気持ちは分からん。」
《そりゃ、お前が人間で、俺がシードゥスだからか?》
「あぁ。」
《おいおい、随分な言い草だな。俺だってニンゲン、らしいとこあるんだぜ?例えば……そうだな。恋愛?って奴もしたことあるぞ。》
トゥバンのその言葉に龍賢は目を丸くする。
「………笑えん冗談だな。」
《いやいや、マジなんだなコレが。って言っても俺が一方的に受けてただけだからなんとも言えんが。》
「……相手は?」
《ちょっと気になってんじゃねぇかおませさんが。》
トゥバンと会話しながら探索のために龍賢がふと本棚を見つめると、そこにはボロボロの手帳のようなものがあったのを見つける。
「……これは?」
龍賢がその手帳に手を伸ばした瞬間。廊下の方からドカァンと大きな音がなる。
「ッ!」
《龍賢、気をつけろ。気配からして、二体いやがる。
しかも中々の手練っぽいぜ。》
トゥバンの忠告に龍賢は返事もせず、手帳を引ったくって懐にしまい、耳のイヤホン型の通信機に指を当てると龍賢は雲原に言う。
「雲原さん!撤退です!打ち合わせどおりお願いします! 」
雲原からの了解の言葉を聞く前に部屋のドアを開けて外に出ると。
「ッ!」
龍賢の目の前を水の刃が横切る。すぐさま水の刃が飛んできた方を振り向くと、すぐ目の前に獅子のような怪物の剛腕が迫っていた。
「!トゥバン!」
《あいヨォ!》
振われた剛腕が龍賢に叩きつけられる。あまりの衝撃に龍賢のいた地面に蜘蛛の巣状の亀裂が走り、床が崩壊する。
「くっ…無茶苦茶な…。」
下の階に落下し、瓦礫を避けながらトゥバンと融合し、変身した龍賢はそう文句を言いながら立ち上がる。
「…トゥバン。話には聞いていたが本当に裏切っていたとは…」
《チッ、プロウフの野郎、レグルスを復活させてたのかよ。》
目の前で怒りで身体を振るわせる獅子、レグルスを見ながらトゥバンが嘆息する。
「……ツォディアのお出ましか。」
龍賢が目の前の獅子を相手に構える。だが、それと同時に崩壊した階から一体、魚のような、道化のような格好をした怪物が降りてくる。
「よぉ…久しぶりだな、トゥバン。」
《…おいおい、お前生きてたのかよ。しかも随分とイメチェンしたな。》
「当然だ。俺があの程度で死ぬはずがないだろう。あとお前もイメチェンしてるだろ。」
魚のような怪物、アルレシャが手を翳すと水が集まり、一つの槍を作り出す。
「まぁ、嬉しいぜ。トゥバン?俺は昔からお前が気に食わなかった。そんなお前を真っ向からぶっ潰せる機会が巡ってきたんだ。そんな機会…」
次の瞬間地面を蹴ってアルレシャがトゥバンに槍を振るう。
「生かさなきゃ損だよなァ!?」
「チッ!」
振われた槍を龍賢も素早く生成した槍で受け止める。槍同士がぶつかり、鍔迫り合いへともつれ込む。
「クハハ!面白い!力比べか!?」
「ぐっ…!」
アルレシャが力を入れると龍賢は後ずさる。それはアルレシャの方が力で勝っていることを意味していた。
「クク!どうした!もっと力を込めて抵抗…」
アルレシャがそこまで言いかけた瞬間。横から獅子状のエネルギー弾が二人を襲う。
「な!?」
放たれたエネルギー弾が二人に着弾し、大きく吹き飛ばす。
「ぐっ!?」
「うおおおおお!?」
龍賢は部屋の壁を突き破り、実験機材を巻き込んで派手に割りながら倒れ込む。
一方で同じく吹き飛ばされ、壁に叩き付けられたアルレシャは素早く立ち上がると、攻撃をした張本人レグルスに食ってかかる。
「おいテメェコラ今のワザとだろ!?俺にまで攻撃来てんじゃねーか!」
アルレシャが問い詰めるがレグルスは身体を震えさせながら。
「プロウフ様を裏切るなど…重罪……いくら痛めつけてもその罪は拭えぬ…!」
次の瞬間レグルスは咆哮し、龍賢が吹っ飛んだ方にまたもやエネルギー弾を放つ。
「断罪ッ!!もはや骨の一欠片もこの地上に残ると思うなよぉぉ!!」
「おい、テメェ“聖域”でバカスカデカい技を撃つなココをぶっ壊す気か!?」
怒りで我を忘れたのか大技を放ちまくり、あちこちを破壊するレグルスをアルレシャが慌てて止めに入る。
一方吹っ飛ばされた龍賢はレグルスが放った大技が作り出した破壊に紛れてそそくさと退散していた。
「この戦い…奴ら二人を倒すのが勝利ではない。俺達の勝利は情報を持って逃げ切ること、だ。」
龍賢が曲がり角を曲がると、そこにはジュラルミンケースを大事そうに抱えた雲原の姿があった。
「無事ですか雲原さん!」
「えぇ!?あ、その声龍賢さん?」
「話は後です!“仕込み”は終わりましたか!?」
「え、えぇ!バッチリです!」
「なら急ぎましょう!」
龍賢と雲原が先を急ごうとした瞬間、壁を突き破ってレグルスが飛び込んでくる。
「ッ!」
「ウオオオオオオオオ!!」
レグルスが振りかぶった剛腕を今度は槍を使って綺麗に受け流すことで龍賢は攻撃を回避する。
「雲原さん!先に!」
「は、はい!」
龍賢の指示を受けて雲原は走り出す。龍賢はすぐさま槍を突き出しレグルスを攻撃するが、レグルスは突き出された槍を掴んで防御する。
「何ッ!?」
「この程度ォ!」
レグルスは吼えると槍を思い切り振り回す。あまりの剛腕に槍を構えていた龍賢も振り回されて壁に身体を擦り付けられる。
「ぐっ」
「オオオオオオオオオオ!」
レグルスはブゥンと龍賢を槍ごと投げ飛ばす。投げ飛ばされた龍賢は痛みを堪えながら何とか空中で体勢を立て直すと着地する。
「なんて馬鹿力だ…!」
《俺も結構力には自信あったんだがなぁ。》
「殺ォォッすッ!」
レグルスが龍賢に突進してくる。そして振り上げられた剛腕を見て、龍賢はスッと身体を屈んで回避すると、お返しとばかりに掌底をレグルスの鳩尾に叩き込む。
「グゥ!?」
「力比べに馬鹿正直に付き合う通りはない!」
龍賢はそのまま蹴りをレグルスに繰り出す。咄嗟にレグルスは両手をクロスさせることでその攻撃を防ぐ。
だが、龍賢はさらにもう片方の足もレグルスの腕に接地させると思い切り腕を蹴って跳ぶことで後ろへと後退する。
「ぐっ!?私を踏み台に!?」
「ふっ!」
さらに龍賢は空中で肘のパーツから一対の双剣を作り出すとレグルスに向けて投擲する。
放たれた剣はレグルスの直前に突き刺ささると同時に爆発し、その視界を奪う。
「今のうちに!」
龍賢がそのまま地面に着地しようとした瞬間、煙を切り裂き、今度はアルレシャが槍を持って突っ込んでくる。
「オラァァァ!」
「く」
慌てて龍賢は身を捻って回避しようとするが、完全には避けきれすみ脇腹をズッと切り裂かれる。
「死ねよヤァ!!」
そのままアルレシャは龍賢の首を掴むと地面へと叩きつける。
「ごっは!」
「クハハ!良いザマだな!」
《調子に……乗ってんじゃねぇ!》
アルレシャがトドメを刺そうと槍を振り上げた瞬間龍賢の目の色が緑色から紫になったかと思うと掌から無骨な薙刀を生成し、生成した勢いそのままの薙刀をアルレシャにぶつけて怯ませる。
「何!?」
「どけオラァ!」
怯んだアルレシャを“トゥバン”が勢いよく蹴飛ばして離れさせる。
その隙にトゥバンは立ち上がって後ろへと下がる。
「チッ、せっかく身体を借りといてなんだが…ここは逃げる方が懸命だな。」
『流石にあのレベルのツォディア二体は分が悪い。雲原さんを連れて逃げろ。』
「言われなくても分かってんだよやられやがって!痛ェったらありゃしねぇ!」
血が流れる脇腹を押さえながらトゥバンは後退し、雲原に追いつく。
「おいお嬢ちゃん!ルート変更だ!そのケースは置いとけよ!」
「え?龍賢さん?ちょ、うわっ」
雲原からしたら当然語気が荒々しくなった龍賢に困惑する彼女をトゥバンは脇に抱えると壁を薙刀で粉砕し、外へ出る最短ルートを作る。
「うっし、まあこんなもんだろ。」
破壊した壁から外を覗くとそこに道はなく、下を見れば轟々と川が音を立てて流れている。
「えっ、えっ!?ま、まさかまさか!?」
トゥバンがやろうとしていることに感づいた雲原の顔が青ざめる。
「そのまさかだ嬢ちゃん。舌噛まないよう気ぃつけろよ?」
「待てトゥバン!」
「チッ、もう来やがったか。んじゃ行くか。」
追いかけてきたアルレシャとレグルスに向けてトゥバンは薙刀を投擲する。
勢いよく放たれた薙刀は二体の前の通路を破壊し、一瞬動きを止める。
その隙にトゥバンは雲原を覆うように抱えると壁から飛び降りてそのまま川へと真っ逆さまにダイブする。
「チィッ!」
アルレシャとレグルスが慌てて壁に駆け寄るが、既に水柱が上がり、霧もあって目視で発見はいくらシードゥスと言えども困難であった。
「逃げたか…。」
「まぁ……いい。奴ら、追撃を恐れてかケースを落としていやがる。」
壁の間際に落ちていたジュラルミンケースをアルレシャが拾い上げる。
蝶番をあっさり破壊して開けると、中には大事そうに梱包してあるUSBメモリがあった。
「ふん。」
そう言うとアルレシャはメモリを握りつぶした。
「逃がしはしたが、情報は抜き取られずに済んだ。…もうやることはない。帰るぞ。」
「くっ……覚えておけトゥバン。次こそは…。」
そう言うと二体はアルレシャが作り出した水のゲートを通ってその場から去ったのだった。
「……とか浅ェこと思ってんだろうなァ。」
トゥバンがボヤく。キュウと目を回す雲原を抱えたトゥバンは飛び込んだフリをして建物の真下、開けた壁からの視点の死角に潜んで隠れていたのだ。
上がった水柱はトゥバンが適当に蹴り上げたその辺の瓦礫が水面にぶつかったものだった。
「アルレシャの野郎が水中で本気で追ってきたら流石に逃げられねぇからな。アイツらがアホで助かった…。」
『いつまで俺の身体を借りてるんだ。さっさと返せ。』
「あ、おい」
変身を解除すると、いつも通りの龍賢に戻る。
「雲原さん。もう大丈夫です。起きて下さい。」
「う、うーん…あ、はいっ!」
龍賢が軽く揺さぶると雲原はうーんと唸って覚醒する。
「無事でしたか?」
「え、えぇ。何とか。」
「それは良かった…ところで、例のモノは?」
「あ、はい。ここに。」
雲原はそう言うとポケットから“もう一本”のUSBメモリを取り出す。
「…囮作戦、成功したようですね。」
雲原が悪戯っぽく笑い、龍賢も微笑む。そう。アルレシャが破壊したのは龍賢達が予め用意していた囮だったのだ。
龍賢はそのUSBメモリを見つめて。
「これで……奴らの…父さんの調べていたものが欠片でも掴めれば…。」
そう、呟いた。
トゥバンがボヤく。キュウと目を回す雲原を抱えたトゥバンは飛び込んだフリをして建物の真下、開けた壁からの視点の死角に潜んで隠れていたのだ。
上がった水柱はトゥバンが適当に蹴り上げたその辺の瓦礫が水面にぶつかったものだった。
「アルレシャの野郎が水中で本気で追ってきたら流石に逃げられねぇからな。アイツらがアホで助かった…。」
『いつまで俺の身体を借りてるんだ。さっさと返せ。』
「あ、おい」
変身を解除すると、いつも通りの龍賢に戻る。
「雲原さん。もう大丈夫です。起きて下さい。」
「う、うーん…あ、はいっ!」
龍賢が軽く揺さぶると雲原はうーんと唸って覚醒する。
「無事でしたか?」
「え、えぇ。何とか。」
「それは良かった…ところで、例のモノは?」
「あ、はい。ここに。」
雲原はそう言うとポケットから“もう一本”のUSBメモリを取り出す。
「…囮作戦、成功したようですね。」
雲原が悪戯っぽく笑い、龍賢も微笑む。そう。アルレシャが破壊したのは龍賢達が予め用意していた囮だったのだ。
龍賢はそのUSBメモリを見つめて。
「これで……奴らの…父さんの調べていたものが欠片でも掴めれば…。」
そう、呟いた。
蝋燭の明かりが細々と照らす薄暗い廊下をルクバトが歩いていると、後ろから声をかけられる。
「おーい、ルクバトー?この後なんか予定ある?」
振り返れば上機嫌そうにこちらに近づいてくるカストルの姿が。
上機嫌そうなカストルを見てルクバトは何か面倒ごとに巻き込まれると直感したルクバトは。
「……いや、俺はこの後ちょっと予定が。」
「え?ない?いやー、良かった!ちょっと実験に付き合ってほしくてさー。」
「人の話を聞いてたか?」
どうやら始めからルクバトの意見は求めていなかったらしい。
まぁ、何となくこうなるだろうな、とは思っていたルクバトは溜息をついて。
「……で?何の実験だ?下らんことなら俺は降りるぞ。」
「お、ノリが良いね〜。試したいことは、コレだよ!」
カストルがパチンと指を鳴らすと彼の背後から何かが現れる。それを見たルクバトも思わず声を漏らす。
「これは…」
「んふふ、驚いた?結構な自信作なんだけど。」
カストルの背後から現れたのは紫色の髪をポニーテールに纏め、恐竜の意匠をした装甲があちこちに見受けられる白いドレスを着た赤目の少女だった。
「おーい、ルクバトー?この後なんか予定ある?」
振り返れば上機嫌そうにこちらに近づいてくるカストルの姿が。
上機嫌そうなカストルを見てルクバトは何か面倒ごとに巻き込まれると直感したルクバトは。
「……いや、俺はこの後ちょっと予定が。」
「え?ない?いやー、良かった!ちょっと実験に付き合ってほしくてさー。」
「人の話を聞いてたか?」
どうやら始めからルクバトの意見は求めていなかったらしい。
まぁ、何となくこうなるだろうな、とは思っていたルクバトは溜息をついて。
「……で?何の実験だ?下らんことなら俺は降りるぞ。」
「お、ノリが良いね〜。試したいことは、コレだよ!」
カストルがパチンと指を鳴らすと彼の背後から何かが現れる。それを見たルクバトも思わず声を漏らす。
「これは…」
「んふふ、驚いた?結構な自信作なんだけど。」
カストルの背後から現れたのは紫色の髪をポニーテールに纏め、恐竜の意匠をした装甲があちこちに見受けられる白いドレスを着た赤目の少女だった。
「だから嫌だったの!アンタにゲーム機貸すの!」
「うぅ……面目ない。」
「まぁまぁ…。」
健康診断からの帰り道、先程の惨状について、黒鳥を責める雪花を龍香が宥めていた。
「めっちゃくちゃ恥ずかしかったんだから!見た?あの職員の人達の目!」
「返す言葉もないです……」
「雪花ちゃん黒鳥さん叱ってるけどそんなびっくり演出があるのを私にやらせようとしてたんだね…?」
ジトっと龍香が雪花を睨む。
「だってアンタのリアクション面白いもの。一々反応するしすぐ引っかかるし。」
「開き直ったね!?」
あっけらかんと言う雪花に龍香が噛み付いていると。
「あ、見つけた!おーいりゅーか!」
後ろから声をかけられる。呼ばれた龍香が振り返るとそこには何時ぞやの空腹で行き倒れかけてた赤茶の髪の少女と、銀髪の髪が帽子から覗く老齢のお爺さんの姿が。
「あ、シオンちゃん。」
「会いたかっぞ恩人〜!」
「うわわっ!?もうっ、くすぐったいよ〜」
シオンは龍香を見つけるや否や熱い抱擁を交わし、頬擦りをする。龍香も最初はびっくりしていたが、すぐに笑って受け入れる。
「って、ちょいちょい!私達が着いていけてないんだけど!後アンタくっつきすぎ!」
雪花が龍香とシオンを引き離し、距離を取らせる。引き離されたシオンは不満げに頬を膨らませる。
「むっー、せっかくの恩人とのアバンチュールを無下にさせるなんて!」
「あ、アバ……?龍香何?アンタの知り合い?」
「知り合いと言うか……行き倒れてたのを助けたと言うか。」
「この現代社会で行き倒れ……?」
三人がコソコソと話していると後ろで控えていた老人が話しかけてくる。
「すみません。先日は私の孫が世話になったそうで…是非、お礼をさせてください。」
「「「へ?」」」
「うぅ……面目ない。」
「まぁまぁ…。」
健康診断からの帰り道、先程の惨状について、黒鳥を責める雪花を龍香が宥めていた。
「めっちゃくちゃ恥ずかしかったんだから!見た?あの職員の人達の目!」
「返す言葉もないです……」
「雪花ちゃん黒鳥さん叱ってるけどそんなびっくり演出があるのを私にやらせようとしてたんだね…?」
ジトっと龍香が雪花を睨む。
「だってアンタのリアクション面白いもの。一々反応するしすぐ引っかかるし。」
「開き直ったね!?」
あっけらかんと言う雪花に龍香が噛み付いていると。
「あ、見つけた!おーいりゅーか!」
後ろから声をかけられる。呼ばれた龍香が振り返るとそこには何時ぞやの空腹で行き倒れかけてた赤茶の髪の少女と、銀髪の髪が帽子から覗く老齢のお爺さんの姿が。
「あ、シオンちゃん。」
「会いたかっぞ恩人〜!」
「うわわっ!?もうっ、くすぐったいよ〜」
シオンは龍香を見つけるや否や熱い抱擁を交わし、頬擦りをする。龍香も最初はびっくりしていたが、すぐに笑って受け入れる。
「って、ちょいちょい!私達が着いていけてないんだけど!後アンタくっつきすぎ!」
雪花が龍香とシオンを引き離し、距離を取らせる。引き離されたシオンは不満げに頬を膨らませる。
「むっー、せっかくの恩人とのアバンチュールを無下にさせるなんて!」
「あ、アバ……?龍香何?アンタの知り合い?」
「知り合いと言うか……行き倒れてたのを助けたと言うか。」
「この現代社会で行き倒れ……?」
三人がコソコソと話していると後ろで控えていた老人が話しかけてくる。
「すみません。先日は私の孫が世話になったそうで…是非、お礼をさせてください。」
「「「へ?」」」
「さぁ、どうぞ。」
「えっ、あ、は、はい。」
あの後老人に勧められるがままに三人はとある喫茶店に入る。……革張りのソファにあちこちに値が張りそうなアンティークが散りばめられ、どう見繕っても龍香達三人が入るには随分と敷居が高すぎる店だ。
(ど、どうしよう…!?)
(や、ヤバいわよ黒鳥。このメニュー表!ぜ、0が多いわ!)
(私の知ってる喫茶店じゃない……)
あまりの高級店ぶりに三人が戦々恐々とする中、シオンと老人はと言うと。
「そんなに身構えなくても結構ですよ。ここは私のお気に入りの喫茶店でね。まぁ、少なくとも後悔することは無いですとも。」
「龍香は何食べるー?アタシはこのマスカットが沢山乗ってるパフェかな!」
「わ、わぁ。美味しそうだね。ふ、二人はどうします?」
「……じゃ、じゃあコレ…。」
「わ、私はコレで…」
龍香に話を振られた二人が恐る恐る指を指すケーキを見て老人は。
「おや、それで良いのですか?食べ盛りでしょうしこちらでも全然構わないですよ?」
老人が開いたページにあるスイーツはどれも……高かった。おおよそ喫茶店では見たことない数字をしていた。
「い、いえ。そんな…」
「お気持ちだけで……。」
「龍香はどれにするー?」
「あ、あはは。じゃあ私はこれで…。」
珍しく畏まる雪花と黒鳥が戦々恐々とする中、シオンに勧められるがままに龍香も注文を終えたところで、老人が話す。
「おぉ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私の名前は冬崎(ふゆさき)と言います。貴女方のお名前をお聴きしても?」
「黒鳥飛鳥です。」
「…雪花藍よ。」
「し、紫水龍香です。」
龍香が名乗ると、少し老人…冬崎は目を細める。
「ほう…紫水。珍しい苗字ですね。」
「そ、そうですかね?」
「えぇ。私の教え子に一人、同じ苗字の者がいましてね。…これがまた、優秀な子で。よくここの喫茶店に来て色々な話に花を咲かせたものです。」
何処か懐かしむような表情で冬崎は語る。
「先生をしていたんですか?」
「えぇ…小さな大学で少々教鞭を振るっておりました。」
「その教え子って下の名前とかは…」
何となく気になったのか…龍香が冬崎に尋ねる。尋ねられた冬崎はふむ、と顎に手を当て、しばらく唸る。
龍香どころか、皆が固唾を呑んで見守る中。とうとう冬崎が重い口を開く。
「……すみません。歳のせいか名前をド忘れしてしまいました。」
冬崎がそう言うと龍香含めた全員がズコーッとコケる。
「わ、忘れたって…」
「おじいちゃん!それはないよー!」
「はっはっはっ。歳は取りたくないものですね。」
突っ込むシオンに笑う冬崎。なんてやり取りをしているとお待たせしました、と言いながら店員が注文したメニューを運んでくる。
「うっ、」
「こ、これは…」
運んでこられたメニューははたから見れば高級感はない。だが、実物から漂う確かな存在感、まさしく質実剛健と言った見た者を唸らせる、そんなスイーツ達を前に龍香達はまたもや固まる。
「す、すっご……」
「遠慮せず食べて下さい。」
冬崎は運ばれてきた珈琲の入ったカップを傾けながら言うが、どうにも手が伸びづらい。
龍香達がどうしようか手を出しあぐねていると。
「龍香!はい、あーん。」
「えっ」
自分のパフェをスプーンで一すくいしてニコニコしながらシオンは龍香にそれを差し出す。
突然のことに龍香は面食らうも、差し出されたスプーンをちょっと見つめて…パクリと食べる。
「美味しい?」
「……美味しい。」
「でしょー!そのケーキも美味しいから!早く食べてみて!」
シオンの言葉をきっかけに三人もおずおずと目の前に出されたケーキを食べ始める。
恐らく人生で初めて食べるちょっとお高めのケーキの味は…。
「「「……美味しい!!!」」」
「でっしょー!」
とても美味しかった。
「えっ、あ、は、はい。」
あの後老人に勧められるがままに三人はとある喫茶店に入る。……革張りのソファにあちこちに値が張りそうなアンティークが散りばめられ、どう見繕っても龍香達三人が入るには随分と敷居が高すぎる店だ。
(ど、どうしよう…!?)
(や、ヤバいわよ黒鳥。このメニュー表!ぜ、0が多いわ!)
(私の知ってる喫茶店じゃない……)
あまりの高級店ぶりに三人が戦々恐々とする中、シオンと老人はと言うと。
「そんなに身構えなくても結構ですよ。ここは私のお気に入りの喫茶店でね。まぁ、少なくとも後悔することは無いですとも。」
「龍香は何食べるー?アタシはこのマスカットが沢山乗ってるパフェかな!」
「わ、わぁ。美味しそうだね。ふ、二人はどうします?」
「……じゃ、じゃあコレ…。」
「わ、私はコレで…」
龍香に話を振られた二人が恐る恐る指を指すケーキを見て老人は。
「おや、それで良いのですか?食べ盛りでしょうしこちらでも全然構わないですよ?」
老人が開いたページにあるスイーツはどれも……高かった。おおよそ喫茶店では見たことない数字をしていた。
「い、いえ。そんな…」
「お気持ちだけで……。」
「龍香はどれにするー?」
「あ、あはは。じゃあ私はこれで…。」
珍しく畏まる雪花と黒鳥が戦々恐々とする中、シオンに勧められるがままに龍香も注文を終えたところで、老人が話す。
「おぉ、そう言えば自己紹介がまだでしたね。私の名前は冬崎(ふゆさき)と言います。貴女方のお名前をお聴きしても?」
「黒鳥飛鳥です。」
「…雪花藍よ。」
「し、紫水龍香です。」
龍香が名乗ると、少し老人…冬崎は目を細める。
「ほう…紫水。珍しい苗字ですね。」
「そ、そうですかね?」
「えぇ。私の教え子に一人、同じ苗字の者がいましてね。…これがまた、優秀な子で。よくここの喫茶店に来て色々な話に花を咲かせたものです。」
何処か懐かしむような表情で冬崎は語る。
「先生をしていたんですか?」
「えぇ…小さな大学で少々教鞭を振るっておりました。」
「その教え子って下の名前とかは…」
何となく気になったのか…龍香が冬崎に尋ねる。尋ねられた冬崎はふむ、と顎に手を当て、しばらく唸る。
龍香どころか、皆が固唾を呑んで見守る中。とうとう冬崎が重い口を開く。
「……すみません。歳のせいか名前をド忘れしてしまいました。」
冬崎がそう言うと龍香含めた全員がズコーッとコケる。
「わ、忘れたって…」
「おじいちゃん!それはないよー!」
「はっはっはっ。歳は取りたくないものですね。」
突っ込むシオンに笑う冬崎。なんてやり取りをしているとお待たせしました、と言いながら店員が注文したメニューを運んでくる。
「うっ、」
「こ、これは…」
運んでこられたメニューははたから見れば高級感はない。だが、実物から漂う確かな存在感、まさしく質実剛健と言った見た者を唸らせる、そんなスイーツ達を前に龍香達はまたもや固まる。
「す、すっご……」
「遠慮せず食べて下さい。」
冬崎は運ばれてきた珈琲の入ったカップを傾けながら言うが、どうにも手が伸びづらい。
龍香達がどうしようか手を出しあぐねていると。
「龍香!はい、あーん。」
「えっ」
自分のパフェをスプーンで一すくいしてニコニコしながらシオンは龍香にそれを差し出す。
突然のことに龍香は面食らうも、差し出されたスプーンをちょっと見つめて…パクリと食べる。
「美味しい?」
「……美味しい。」
「でしょー!そのケーキも美味しいから!早く食べてみて!」
シオンの言葉をきっかけに三人もおずおずと目の前に出されたケーキを食べ始める。
恐らく人生で初めて食べるちょっとお高めのケーキの味は…。
「「「……美味しい!!!」」」
「でっしょー!」
とても美味しかった。
「美味しかった、龍香?」
「うん。多分今まで食べた中で一番美味しかったよ。」
「そうー?良かった。おじいちゃんに、言ってみた甲斐があったよ。」
「これで恩は返せたし…龍香はもう、恩人じゃなくて、友達、だね!」
「もう、別に恩は返さなくても、シオンちゃんとは私、友達になるよ。」
「いやいや、これはアタシなりの……あれ、何て言うんだっけ、キジメ…じゃないホンジメ…でもない。」
「ケジメ?」
「そう、ケジメだから!」
あの後他愛のない会話をしつつ、喫茶店を後にし、龍香とシオンは仲良さげに話していた。
「お二人とも、付き合わせてしまったようで申し訳ありませんね。」
「いやー、と言ってもアタシ達もご馳走になっちゃったし…」
「ホントにご馳走様でした…。」
二人がペコリと頭を下げる。その様子を見た冬崎は苦笑しながら。
「すみませんね。気を遣わせてしまったようで…。あの子がこのお店を紹介したいと言うからどのような子と出会ったのか……ちょっと気になってついてきたのですが。」
嬉しそうに話すシオンと龍香を見ると、冬崎は嬉しそうに目を細めて言う。
「……良き方に巡り会えたようで何よりです。よろしければこれからも、ウチの子と仲良くしてやって下さい。」
「は、はい…!」
「ありがとうございます…。シオン。そろそろお暇しますよ。」
冬崎がシオンにそう言うと、シオンはえっー、と不満げに頬を膨らませるが、冬崎を見ると龍香に振り返って顔を近づける。
「…?シオンちゃ」
そして、龍香のほっぺにキスをした。
「───へ?」
「じゃあね、龍香!今度会った時は一緒に遊ぼうね!」
シオンはそう言うと冬崎と一緒に帰ってしまう。残された龍香が突然のことに脳の処理が追いついていないのか、呆ける中、一部始終を見て顔を赤くしている二人が龍香に駆け寄る。
「ちょ、今アンタ!」
「き、きききききき、キスを……ッ!?」
「……が、外国の文化って、スゴい……。」
嵐のような出会いに困惑する三人を黄昏が赤々と照らしていた。
「うん。多分今まで食べた中で一番美味しかったよ。」
「そうー?良かった。おじいちゃんに、言ってみた甲斐があったよ。」
「これで恩は返せたし…龍香はもう、恩人じゃなくて、友達、だね!」
「もう、別に恩は返さなくても、シオンちゃんとは私、友達になるよ。」
「いやいや、これはアタシなりの……あれ、何て言うんだっけ、キジメ…じゃないホンジメ…でもない。」
「ケジメ?」
「そう、ケジメだから!」
あの後他愛のない会話をしつつ、喫茶店を後にし、龍香とシオンは仲良さげに話していた。
「お二人とも、付き合わせてしまったようで申し訳ありませんね。」
「いやー、と言ってもアタシ達もご馳走になっちゃったし…」
「ホントにご馳走様でした…。」
二人がペコリと頭を下げる。その様子を見た冬崎は苦笑しながら。
「すみませんね。気を遣わせてしまったようで…。あの子がこのお店を紹介したいと言うからどのような子と出会ったのか……ちょっと気になってついてきたのですが。」
嬉しそうに話すシオンと龍香を見ると、冬崎は嬉しそうに目を細めて言う。
「……良き方に巡り会えたようで何よりです。よろしければこれからも、ウチの子と仲良くしてやって下さい。」
「は、はい…!」
「ありがとうございます…。シオン。そろそろお暇しますよ。」
冬崎がシオンにそう言うと、シオンはえっー、と不満げに頬を膨らませるが、冬崎を見ると龍香に振り返って顔を近づける。
「…?シオンちゃ」
そして、龍香のほっぺにキスをした。
「───へ?」
「じゃあね、龍香!今度会った時は一緒に遊ぼうね!」
シオンはそう言うと冬崎と一緒に帰ってしまう。残された龍香が突然のことに脳の処理が追いついていないのか、呆ける中、一部始終を見て顔を赤くしている二人が龍香に駆け寄る。
「ちょ、今アンタ!」
「き、きききききき、キスを……ッ!?」
「……が、外国の文化って、スゴい……。」
嵐のような出会いに困惑する三人を黄昏が赤々と照らしていた。
黄昏が照らす山道を冬崎とシオンが歩いていた。その道中、ふと冬崎がシオンに尋ねる。
「今日はどうでしたか?」
「うん!すっごい楽しかった!龍香とはまた遊びたいな!」
「ふむ……ですが、今度から外に出る時はくれぐれも注意して下さいね。“新月”が活発化していて、いつ遭遇するか分かりませんので。せめて、一人位声をかけてから出るようにして下さい。」
「むー、そうんなに言わなくても分かってるよぉ〜。」
不満げにシオンが唸る。そして黄昏の光を放つ夕陽が沈むと夜の始まりを虫の羽音が教える。すると同時に二人の姿も揺らめくように変わり…元の怪物の姿へと変貌を遂げる。
白い鎧に紫の仮面をつけ、長い銀髪が特徴的なプロウフと…犬のうな怪物に変身したプロキオンの姿があった。
プロキオンは変身して、プロウフにあることを言う。
「プロウフ!龍香は殺しちゃ駄目だからね!あの子は私の“恩人”、で“友達”!なんだから!」
プロキオンがそう言うと、プロウフは少し目を細めて。
「……そうですね。彼女は“生かす”よう出来る限り努力はしましょう…。」
プロウフは雲に包まれ消えて闇に染まる月を見上げて呟いた。
「“出来る限り”……ね。」
「今日はどうでしたか?」
「うん!すっごい楽しかった!龍香とはまた遊びたいな!」
「ふむ……ですが、今度から外に出る時はくれぐれも注意して下さいね。“新月”が活発化していて、いつ遭遇するか分かりませんので。せめて、一人位声をかけてから出るようにして下さい。」
「むー、そうんなに言わなくても分かってるよぉ〜。」
不満げにシオンが唸る。そして黄昏の光を放つ夕陽が沈むと夜の始まりを虫の羽音が教える。すると同時に二人の姿も揺らめくように変わり…元の怪物の姿へと変貌を遂げる。
白い鎧に紫の仮面をつけ、長い銀髪が特徴的なプロウフと…犬のうな怪物に変身したプロキオンの姿があった。
プロキオンは変身して、プロウフにあることを言う。
「プロウフ!龍香は殺しちゃ駄目だからね!あの子は私の“恩人”、で“友達”!なんだから!」
プロキオンがそう言うと、プロウフは少し目を細めて。
「……そうですね。彼女は“生かす”よう出来る限り努力はしましょう…。」
プロウフは雲に包まれ消えて闇に染まる月を見上げて呟いた。
「“出来る限り”……ね。」
暗い闇夜を街灯が照らす公園の池の畔を赤羽は散歩していた。
三人が海原管轄の“新月”で色々と立て込んでいる間フリーとなっていた赤羽は何となく気の趣くままにこの公園に来ていた。
そしてふと、手を繋いで一緒に公園を歩いている親子を見つける。
恐らく父と娘だろうか。娘の方は暗闇が怖いのか、父と繋いだ手をぎゅっと握り、父はそれを愛おしそうに見つめて優しく声をかけながら歩く。
「………。」
『お父さん!何処か行っちゃうの?』
『…うん。ちょっと大切な用事が出来ちゃって。でも、赤羽は強いから、向こうでもお母さんの言うことをちゃんと聞くんだよ?』
『うん!……ねぇ、お父さん。』
『なんだい?』
『……帰ってきたら、またここに来ようね。』
『そうだね。またここに来よう。』
『約束だよ?』
『うん。約束だ。』
父との思い出が赤羽の脳裏を過ぎる。優しく、誠実だった父。だが、これが父とかわした最後の会話だった。
「……嘘つき。」
そう、言葉を溢し顔を少し悲しみに歪ませていると。
「おや、おやおや。もしかして、何か黄昏ちゃってる?」
横から声をかけられる。そこにいたのは双子を縫い合わせたような歪な怪物……カストルの姿があった。
「シードゥス…!」
赤羽が素早く距離を取って右目を手で覆うと、“サダルメルクの瞳”と戦闘サポートユニット“五光”を装備するとすぐさま装甲貫徹弾“椿”を太腿の武装ラックから取り出しカストル目掛けて投擲する。
だがカストルはそれを自前のヨーヨーで軽々と弾く。
「うはっ、早速やる気満々だね。そうこなくっちゃあ面白くないけど。」
「……私、シードゥスとお話しする気、ないから。」
「いいねぇ、そういうの。実にボク好みだよ。だから、そんな君のために今日は特別ゲストを連れて来たんだ。」
ゲスト、の言葉に赤羽が反応する。カストルがどうぞー!とおちゃらけながら言うと、カストルの後ろの闇から一体の細長い弓兵のようなシードゥスが現れる。
「……何かと思えばカストル。俺にまた“サダルメルク”保持者と戦わせるつもりか?」
新たな増援の登場にすぐさま赤羽は応援を呼ぼうと耳に装備している通信機に手を伸ばそうとして、続くカストルの言葉に赤羽は目を見開いて固まる。
「そうそう!彼こそが君のお父さんを倒したシードゥス、ルクバトだよ!」
三人が海原管轄の“新月”で色々と立て込んでいる間フリーとなっていた赤羽は何となく気の趣くままにこの公園に来ていた。
そしてふと、手を繋いで一緒に公園を歩いている親子を見つける。
恐らく父と娘だろうか。娘の方は暗闇が怖いのか、父と繋いだ手をぎゅっと握り、父はそれを愛おしそうに見つめて優しく声をかけながら歩く。
「………。」
『お父さん!何処か行っちゃうの?』
『…うん。ちょっと大切な用事が出来ちゃって。でも、赤羽は強いから、向こうでもお母さんの言うことをちゃんと聞くんだよ?』
『うん!……ねぇ、お父さん。』
『なんだい?』
『……帰ってきたら、またここに来ようね。』
『そうだね。またここに来よう。』
『約束だよ?』
『うん。約束だ。』
父との思い出が赤羽の脳裏を過ぎる。優しく、誠実だった父。だが、これが父とかわした最後の会話だった。
「……嘘つき。」
そう、言葉を溢し顔を少し悲しみに歪ませていると。
「おや、おやおや。もしかして、何か黄昏ちゃってる?」
横から声をかけられる。そこにいたのは双子を縫い合わせたような歪な怪物……カストルの姿があった。
「シードゥス…!」
赤羽が素早く距離を取って右目を手で覆うと、“サダルメルクの瞳”と戦闘サポートユニット“五光”を装備するとすぐさま装甲貫徹弾“椿”を太腿の武装ラックから取り出しカストル目掛けて投擲する。
だがカストルはそれを自前のヨーヨーで軽々と弾く。
「うはっ、早速やる気満々だね。そうこなくっちゃあ面白くないけど。」
「……私、シードゥスとお話しする気、ないから。」
「いいねぇ、そういうの。実にボク好みだよ。だから、そんな君のために今日は特別ゲストを連れて来たんだ。」
ゲスト、の言葉に赤羽が反応する。カストルがどうぞー!とおちゃらけながら言うと、カストルの後ろの闇から一体の細長い弓兵のようなシードゥスが現れる。
「……何かと思えばカストル。俺にまた“サダルメルク”保持者と戦わせるつもりか?」
新たな増援の登場にすぐさま赤羽は応援を呼ぼうと耳に装備している通信機に手を伸ばそうとして、続くカストルの言葉に赤羽は目を見開いて固まる。
「そうそう!彼こそが君のお父さんを倒したシードゥス、ルクバトだよ!」
To be continued……