飢えた獣
更新日:2022/09/11 Sun 01:47:52
視界が霞ながらも、なんとか厨房までたどり着いたアンコに、同僚のピネが話しかけてきた。
「おお、小鳥ちゃん!どこに行ってたんだい?私は君の帰りを今か今かと待っていたんだよ!」
大袈裟な身振りで薔薇を取り出してアンコに差し出す。相棒のフルーチェが呆れたようにつっこんだ。
「大袈裟やなぁ、アンコだって生物なんだからトイレかなんかどっか行くやろ」
無神経な言葉に、アンコは少し顔をしかめる。その顔を消してから、告げた。
「あの……ピネさん、フルーチェさん、すみません……私、ちょっと疲れてて……」
その言葉にピネとフルーチェは顔を見合わせると、こう言った。
「大丈夫かい?こういう時は休んだ方がいいよ!」
「うちらも、わりと休んどるしな、プラムとか……のじゃロリ猫とか特に……」
その言葉を聞いた瞬間、アンコの口から言葉が飛び出た。
「……………うざい」
「…え?」
「アンコ?」
アンコは言葉を訂正せず、驚くフルーチェとピネの腕を掴んだ。
「周りの迷惑を考えずに休むとかあり得ない」
普段の彼女からは考えられないような力で二人の手を引っ張った。
「悪いけど」
物凄い力で二人を引っ張る。
「アタシ、料理作るから」
二人は困惑で顔を見合わせた。
「邪魔するつもりなら消えてちょうだい」
ドン!と音がして、二人は厨房から追い出されてしまった。
二人はあんぐりと口を開け、暫く固まっていた。先に口を開いたのはフルーチェだった。
「はぁ?!なんやねんあいつ!」
「まぁまぁ」
ピネは血気盛んな相棒をなだめ、厨房を眺めて呟いた。
「彼女は大丈夫なのだろうか……?」
「おお、小鳥ちゃん!どこに行ってたんだい?私は君の帰りを今か今かと待っていたんだよ!」
大袈裟な身振りで薔薇を取り出してアンコに差し出す。相棒のフルーチェが呆れたようにつっこんだ。
「大袈裟やなぁ、アンコだって生物なんだからトイレかなんかどっか行くやろ」
無神経な言葉に、アンコは少し顔をしかめる。その顔を消してから、告げた。
「あの……ピネさん、フルーチェさん、すみません……私、ちょっと疲れてて……」
その言葉にピネとフルーチェは顔を見合わせると、こう言った。
「大丈夫かい?こういう時は休んだ方がいいよ!」
「うちらも、わりと休んどるしな、プラムとか……のじゃロリ猫とか特に……」
その言葉を聞いた瞬間、アンコの口から言葉が飛び出た。
「……………うざい」
「…え?」
「アンコ?」
アンコは言葉を訂正せず、驚くフルーチェとピネの腕を掴んだ。
「周りの迷惑を考えずに休むとかあり得ない」
普段の彼女からは考えられないような力で二人の手を引っ張った。
「悪いけど」
物凄い力で二人を引っ張る。
「アタシ、料理作るから」
二人は困惑で顔を見合わせた。
「邪魔するつもりなら消えてちょうだい」
ドン!と音がして、二人は厨房から追い出されてしまった。
二人はあんぐりと口を開け、暫く固まっていた。先に口を開いたのはフルーチェだった。
「はぁ?!なんやねんあいつ!」
「まぁまぁ」
ピネは血気盛んな相棒をなだめ、厨房を眺めて呟いた。
「彼女は大丈夫なのだろうか……?」
「ハッ!」
アンコは朦朧とした意識をしっかりさせようと首を振った。
見たところ、厨房のようだ。しかし、ピネとフルーチェがいない。
「どこ行っちゃったんだろう……もう……」
アンコは取りあえず溜まっている皿を洗う事にした。
「……」
黙々と皿を洗うと、今まであまり感じた事の無い感情がアンコを襲った。
「お腹すいたなぁ……」
「アンコ、注文入ってるんだけど」
厨房に入ってきたマーマレードに、慌てて確認すると、確かにアップルパイの注文が来ている。アンコは慌てた。
「は、はい!すみません……」
急いでアップルパイを作り上げ、マーマレードに渡すと、アンコは気持ちが悪くなって厨房から離れた。
「はぁ、本当にお腹がすいたなぁ」
とぼとぼと、廊下を歩きながら呟やく。
「にゃはは!」
「アハ!」
「ヒィ!」
突然聞こえた声に驚き、アンコはしりもちをついた。
振り返ると、アンコが今来た廊下の奥の方に、のじゃロリ猫と蜘蛛の少女、くゆりが談笑しているのが見えた。
「のじゃロリ猫先輩……?!くゆりさん……?!いつの間に……!」
アンコの言葉に、くゆりは首をかしげる仕草をした。
「くゆり達、ずっとここにいたヨ?」
「え、あ、そうなんですか……?」
全然気付かなかったと思いながら立ち上がる。
「……」
のじゃロリ猫はそんなアンコの事を面白げに見ていた。
「うんうん、アンコチャン、大丈夫?なんだか疲れてるみたいだけど……」
くゆりの言葉に、ドキッとした。二人に相談しようか?いや、迷惑になるだろう。
せめてもの気を紛らす為にと、アンコは二人の話を聞く事にした。
「は、はい!大丈夫ですよ……!それで、お二人はどんな話をされてたんですか?」
くゆりはふっふんと得意気になり、盛り上がっていた話題を告げた。
「人の美味しい"食べ方"ダヨ!」
「人の……え?」
アンコは言葉の意味を理解するのに、ワンテンポ遅れた。
「あれ、もしかして、アンコチャン人食べないの?美味しいのに……特に可愛い女の人とか……失礼な態度を取る若者とか……」
「いやいや、わしはピチピチの女児が上手いと思うぞ、死にたて新鮮な獲物のな、胸に吸い付いて乳首から血を吸い上げるのじゃよ。そこから柔らかい腹に口を突っ込んで………」
「くゆりはねぇ……蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにするの!それでモゾモゾもがいてる所を徐々に千切って、悲鳴をBGMにしてむしゃむしゃ……」
キラキラした目で語る少女と、酒を飲む時と変わらないテンションで物を言う少女がそこにはいた。
「子供……?嫌がる……悲鳴?」
アンコの中から、ドロドロとした理解不能の何かが溢れ出るような気がした。心臓が痛い。冷や汗が止まらない。
「ってちょっと、アンコチャン苦手だって言ってたじゃん!もうのじチャン、話をふらないでよ!」
アンコの顔を見て、くゆりがのじゃロリ猫にキレる。
のじゃロリ猫はそんなくゆりには答えず、アンコの顔をマジマジ見ていた。
「……。……。…………」
アンコは首をガクリと前に倒し、全身を震わせ、屋内だと言うのに四つの翼をはためかせた。
「アンコチャン?」
アンコの様子のおかしさに、くゆりが声をかける。
「………」
のじゃロリ猫は黙ってアクションを待っていた。
「フヒ……」
アンコが、今まで聞いた事の無いような笑い方をする。
「………」
のじゃロリ猫を真っ直ぐに見据えたアンコの目は、赤黒く光っていた。
「その笑い方にその目……どうやら、中身の方かの?」
「………」
アンコは肯定も否定もせず、黙って片手を天井に向けた。
その手から、どす黒い影のような物が飛び出してくる。
くゆりは目を見開いた。どす黒い影はおぞましく鋭利な牙を剥き出しにして、低く鋭い声を発した。
その物体が、オウマがトキの天井を破壊する。瓦礫やら木の板やらがのじゃロリ猫達に襲いかかる。
どす黒い空間が、アンコの頭上に現れた。
アンコは獣のような唸り声をあげ、四枚の翼を羽ばたかせその空間へと飛んでいったのだった。
「ぬ、逃げられたか」
瓦礫を弾き飛ばし、のじゃロリ猫は呟いた。
アンコは朦朧とした意識をしっかりさせようと首を振った。
見たところ、厨房のようだ。しかし、ピネとフルーチェがいない。
「どこ行っちゃったんだろう……もう……」
アンコは取りあえず溜まっている皿を洗う事にした。
「……」
黙々と皿を洗うと、今まであまり感じた事の無い感情がアンコを襲った。
「お腹すいたなぁ……」
「アンコ、注文入ってるんだけど」
厨房に入ってきたマーマレードに、慌てて確認すると、確かにアップルパイの注文が来ている。アンコは慌てた。
「は、はい!すみません……」
急いでアップルパイを作り上げ、マーマレードに渡すと、アンコは気持ちが悪くなって厨房から離れた。
「はぁ、本当にお腹がすいたなぁ」
とぼとぼと、廊下を歩きながら呟やく。
「にゃはは!」
「アハ!」
「ヒィ!」
突然聞こえた声に驚き、アンコはしりもちをついた。
振り返ると、アンコが今来た廊下の奥の方に、のじゃロリ猫と蜘蛛の少女、くゆりが談笑しているのが見えた。
「のじゃロリ猫先輩……?!くゆりさん……?!いつの間に……!」
アンコの言葉に、くゆりは首をかしげる仕草をした。
「くゆり達、ずっとここにいたヨ?」
「え、あ、そうなんですか……?」
全然気付かなかったと思いながら立ち上がる。
「……」
のじゃロリ猫はそんなアンコの事を面白げに見ていた。
「うんうん、アンコチャン、大丈夫?なんだか疲れてるみたいだけど……」
くゆりの言葉に、ドキッとした。二人に相談しようか?いや、迷惑になるだろう。
せめてもの気を紛らす為にと、アンコは二人の話を聞く事にした。
「は、はい!大丈夫ですよ……!それで、お二人はどんな話をされてたんですか?」
くゆりはふっふんと得意気になり、盛り上がっていた話題を告げた。
「人の美味しい"食べ方"ダヨ!」
「人の……え?」
アンコは言葉の意味を理解するのに、ワンテンポ遅れた。
「あれ、もしかして、アンコチャン人食べないの?美味しいのに……特に可愛い女の人とか……失礼な態度を取る若者とか……」
「いやいや、わしはピチピチの女児が上手いと思うぞ、死にたて新鮮な獲物のな、胸に吸い付いて乳首から血を吸い上げるのじゃよ。そこから柔らかい腹に口を突っ込んで………」
「くゆりはねぇ……蜘蛛の糸でぐるぐる巻きにするの!それでモゾモゾもがいてる所を徐々に千切って、悲鳴をBGMにしてむしゃむしゃ……」
キラキラした目で語る少女と、酒を飲む時と変わらないテンションで物を言う少女がそこにはいた。
「子供……?嫌がる……悲鳴?」
アンコの中から、ドロドロとした理解不能の何かが溢れ出るような気がした。心臓が痛い。冷や汗が止まらない。
「ってちょっと、アンコチャン苦手だって言ってたじゃん!もうのじチャン、話をふらないでよ!」
アンコの顔を見て、くゆりがのじゃロリ猫にキレる。
のじゃロリ猫はそんなくゆりには答えず、アンコの顔をマジマジ見ていた。
「……。……。…………」
アンコは首をガクリと前に倒し、全身を震わせ、屋内だと言うのに四つの翼をはためかせた。
「アンコチャン?」
アンコの様子のおかしさに、くゆりが声をかける。
「………」
のじゃロリ猫は黙ってアクションを待っていた。
「フヒ……」
アンコが、今まで聞いた事の無いような笑い方をする。
「………」
のじゃロリ猫を真っ直ぐに見据えたアンコの目は、赤黒く光っていた。
「その笑い方にその目……どうやら、中身の方かの?」
「………」
アンコは肯定も否定もせず、黙って片手を天井に向けた。
その手から、どす黒い影のような物が飛び出してくる。
くゆりは目を見開いた。どす黒い影はおぞましく鋭利な牙を剥き出しにして、低く鋭い声を発した。
その物体が、オウマがトキの天井を破壊する。瓦礫やら木の板やらがのじゃロリ猫達に襲いかかる。
どす黒い空間が、アンコの頭上に現れた。
アンコは獣のような唸り声をあげ、四枚の翼を羽ばたかせその空間へと飛んでいったのだった。
「ぬ、逃げられたか」
瓦礫を弾き飛ばし、のじゃロリ猫は呟いた。
所かわって、ここは青空町の穏やかな土手。土曜日のその日、三人の少女が川辺を歩いていた。
「そんでなぁ」
さっきから言葉が途切れない少女、むらサメ。
「へぇ~」
むらサメの言葉を聞いて笑っているのがきゅーばん。
そんな二人を眺めているのが龍香。三人は友達だった。一日前に体調を崩した友達の愛歩のお見舞いに行ってきた帰りだった。
「あ?」
むらサメが異変を感じて空を見上げる。
大地が揺れる程の力強い羽ばたき。ドサリと降り立つ赤い脚。
「……これは…」
「ええ?!誰?!」
臨戦態勢に入る龍香と、いきなり飛んできた者に驚くきゅーばん。
それは飢えた獣のような唸り声をあげ、脚に力を込めた。
「ひっ!」
「な、なんや?!」
「下がって二人とも!」
(こいつ、明らかにシードゥスじゃないけど、人間でもない……一体……。取り合えずカノープスを……)
龍香は二人を下がらせ、頭の上の髪飾りに触れようとし、悲鳴をあげた。
「きゃ!」
飢えた獣がそれに気付き、片腕を龍香に向け、そこから飛び出した黒い蛇のような物が、龍香の頭からカノープスを弾き飛ばしたのだ。
ポチャン!
軽い音がして、カノープスが川の中に落ちていった!
「か、カノープスが水の中に?!」
龍香は冷や汗をかいた。
(ど、どーしよ……)
カノープスがいなければ、自分はただの小学生。二人を守れるかどうか……
「いまやぁぁぁぁぁあぁああぁ!!!」
ドシンと大地が揺れ、龍香はビクッとした。
龍香と飢えた獣の意識がお互いに向いているうちに、むらサメは大きくなっていたのだ。
自分の全身の何倍もある大きな拳に殴り付けられた獣が、悲鳴をあげて吹っ飛ぶ。
「龍香ちゃん!むらサメちゃん、今のうちに逃げよう!」
鈍い音を立てて地面に打ち付けられた獣を見て、きゅーばんが言った。
「おう!」
むらサメが応える。
「え?!う、うん!でもカノープス……」
「グルルルルルル」
龍香の声を、獣の唸りが遮る。
「うわ!もう起き上がった!」
きゅーばんの声には反応せず、獣はモノトーンの翼を広げ、空へと消えていった。
「に、逃げた……?」
「恐らく、お前達より襲いやすい獲物を捕らえに行ったんだろう」
呟いた一人言に返ってきた声に、龍香は反応する。
「カノープス!どこ……?」
「お前の頭の中に直接語りかけている」
「つ、つまり……」
「川の中だ!」
「だ、だよね……」
龍香は川を見つめる。深くなく、流れはない。しかし広い。見つけるまでにどれくらいかかるだろう?
「あはは、あ~……」
飢えた獣と対峙した時に流れた汗とは別物の冷や汗が龍香の頬に流れた。
「えっと……ごめん。むらサメちゃん。きゅーばんちゃん。私の髪止め探すの手伝ってくれない……?」
「そんでなぁ」
さっきから言葉が途切れない少女、むらサメ。
「へぇ~」
むらサメの言葉を聞いて笑っているのがきゅーばん。
そんな二人を眺めているのが龍香。三人は友達だった。一日前に体調を崩した友達の愛歩のお見舞いに行ってきた帰りだった。
「あ?」
むらサメが異変を感じて空を見上げる。
大地が揺れる程の力強い羽ばたき。ドサリと降り立つ赤い脚。
「……これは…」
「ええ?!誰?!」
臨戦態勢に入る龍香と、いきなり飛んできた者に驚くきゅーばん。
それは飢えた獣のような唸り声をあげ、脚に力を込めた。
「ひっ!」
「な、なんや?!」
「下がって二人とも!」
(こいつ、明らかにシードゥスじゃないけど、人間でもない……一体……。取り合えずカノープスを……)
龍香は二人を下がらせ、頭の上の髪飾りに触れようとし、悲鳴をあげた。
「きゃ!」
飢えた獣がそれに気付き、片腕を龍香に向け、そこから飛び出した黒い蛇のような物が、龍香の頭からカノープスを弾き飛ばしたのだ。
ポチャン!
軽い音がして、カノープスが川の中に落ちていった!
「か、カノープスが水の中に?!」
龍香は冷や汗をかいた。
(ど、どーしよ……)
カノープスがいなければ、自分はただの小学生。二人を守れるかどうか……
「いまやぁぁぁぁぁあぁああぁ!!!」
ドシンと大地が揺れ、龍香はビクッとした。
龍香と飢えた獣の意識がお互いに向いているうちに、むらサメは大きくなっていたのだ。
自分の全身の何倍もある大きな拳に殴り付けられた獣が、悲鳴をあげて吹っ飛ぶ。
「龍香ちゃん!むらサメちゃん、今のうちに逃げよう!」
鈍い音を立てて地面に打ち付けられた獣を見て、きゅーばんが言った。
「おう!」
むらサメが応える。
「え?!う、うん!でもカノープス……」
「グルルルルルル」
龍香の声を、獣の唸りが遮る。
「うわ!もう起き上がった!」
きゅーばんの声には反応せず、獣はモノトーンの翼を広げ、空へと消えていった。
「に、逃げた……?」
「恐らく、お前達より襲いやすい獲物を捕らえに行ったんだろう」
呟いた一人言に返ってきた声に、龍香は反応する。
「カノープス!どこ……?」
「お前の頭の中に直接語りかけている」
「つ、つまり……」
「川の中だ!」
「だ、だよね……」
龍香は川を見つめる。深くなく、流れはない。しかし広い。見つけるまでにどれくらいかかるだろう?
「あはは、あ~……」
飢えた獣と対峙した時に流れた汗とは別物の冷や汗が龍香の頬に流れた。
「えっと……ごめん。むらサメちゃん。きゅーばんちゃん。私の髪止め探すの手伝ってくれない……?」