第3話:気になるあの子は転校生!
更新分は、下にスクロールして「(日付)更新分」から読んでね!
プロローグ
――――三人称カメラ――――
光。
小さな輝きが、青空町の上空を漂っていた。
一つの輝きのもとに、他にも輝きが集まってくる。
輝きは、まるで身を寄せ合うように集まっていきながら、ある地点へと降りていく。
学校の裏山の寂れた神社、そこに輝きがさらに集まってくる。
そして輝きは人のシルエットをとる。
不意に輝きが弾けた。すると、そこには巫女の装束をまとった一人の女性が倒れていた。
そこへ神社の杜の陰から、何かが静かに歩み出てきた。
それはチワワだった。ただ、普通のチワワと違って、頭が二つ生えていた。
双頭チワワは、倒れている巫女の側に歩み寄ると、二つの舌で、巫女の顔をなめ始めた。
「う、うーん…」
気が付いた女性は上体を起こす。
すると双頭チワワがいい声で、声を揃えて、人語を喋った。
「おお、リュミエール様、ご復活あそばされましたか。何よりでございます」
それに答えるリュミエールと呼ばれた女性の方は、
「ありがとうチワべロス。しかし私はまだ完全には程遠いのです」
どうやら本調子ではないらしい。
「力をお蓄えになるのです。そしてジョジピュアをお導きください」
チワべロスと呼ばれた双頭チワワは、心配そうにそう答えた。
小さな輝きが、青空町の上空を漂っていた。
一つの輝きのもとに、他にも輝きが集まってくる。
輝きは、まるで身を寄せ合うように集まっていきながら、ある地点へと降りていく。
学校の裏山の寂れた神社、そこに輝きがさらに集まってくる。
そして輝きは人のシルエットをとる。
不意に輝きが弾けた。すると、そこには巫女の装束をまとった一人の女性が倒れていた。
そこへ神社の杜の陰から、何かが静かに歩み出てきた。
それはチワワだった。ただ、普通のチワワと違って、頭が二つ生えていた。
双頭チワワは、倒れている巫女の側に歩み寄ると、二つの舌で、巫女の顔をなめ始めた。
「う、うーん…」
気が付いた女性は上体を起こす。
すると双頭チワワがいい声で、声を揃えて、人語を喋った。
「おお、リュミエール様、ご復活あそばされましたか。何よりでございます」
それに答えるリュミエールと呼ばれた女性の方は、
「ありがとうチワべロス。しかし私はまだ完全には程遠いのです」
どうやら本調子ではないらしい。
「力をお蓄えになるのです。そしてジョジピュアをお導きください」
チワべロスと呼ばれた双頭チワワは、心配そうにそう答えた。
――――三人称カメラ――――
ここは、青空町にある複合研究施設E・G・M
その666号研究室が、天才女児小学生、藤野アリシア・デヴァーチカの研究室だ。
薄暗い研究室の中ではアリシアが目の前にいる男を見ていた。
「ようこそ私の研究室へ、助手の流輪 福助(るわ ふくすけ)さん」
アリシアの目の前にいるのは、奇怪魔界の大魔導士ワルフクケス、彼が人間に変装した姿だ。
「私が人間に変装などと、くだらぬ事を思いつくものだな」
ワルフクケスは不満を言葉に滲ませる。
「あら、あのハロウィンみたいな格好より、人間の姿の方が、キライシードを探すときも動きやすいわよ。それに…」
「それに?」
「ちょっとかっこいい」
「六千年を生きるこのワルフクケスをからかうな」
ワルフクケスはさらに不満の色を濃くした。
「こほん…それで、キライシードの事を調べてみたのだけど」
アリシアが話を変える。研究室の机の上には、ガラス容器に密閉された奇雷獣の素、キライシードがあった。
「やっぱりただの黒い雪玉だったわ。科学機器で調査しても、魔術的なことは見えてこないようね」
「その通りだろうな。奇怪魔界の魔導の術は、科学などというものでは推し量れない叡智なのだ」
「そうね。ふふ、興味深いわ」
「それで、これは何なのだ?」
ワルフクケスの視線は、机の上にあるもう一つの物に注がれる。
「ああ、これ?」
それは、丁寧に折り畳まれている、レオタードを改造したような少し変わった衣装だった。
「私のコスチュームよ。それを着たときの私は、天才美少女アリシアから、悪の天才科学者『アクリシア』になるの」
ワルフクケスはやれやれと思った。これでは子供のお守りではないか。
「この世界を我が奇怪魔界に塗り替えるという悲願、子供の遊びではないぞ…!」
ワルフクケスは苛立ちをあらわにしたが、それにもアリシアは動じなかった。
「ええ、もちろんわかっているわ…」
アリシアは、ガラス容器の中のキライシードをうっとりとした目で見つめていた。
その666号研究室が、天才女児小学生、藤野アリシア・デヴァーチカの研究室だ。
薄暗い研究室の中ではアリシアが目の前にいる男を見ていた。
「ようこそ私の研究室へ、助手の流輪 福助(るわ ふくすけ)さん」
アリシアの目の前にいるのは、奇怪魔界の大魔導士ワルフクケス、彼が人間に変装した姿だ。
「私が人間に変装などと、くだらぬ事を思いつくものだな」
ワルフクケスは不満を言葉に滲ませる。
「あら、あのハロウィンみたいな格好より、人間の姿の方が、キライシードを探すときも動きやすいわよ。それに…」
「それに?」
「ちょっとかっこいい」
「六千年を生きるこのワルフクケスをからかうな」
ワルフクケスはさらに不満の色を濃くした。
「こほん…それで、キライシードの事を調べてみたのだけど」
アリシアが話を変える。研究室の机の上には、ガラス容器に密閉された奇雷獣の素、キライシードがあった。
「やっぱりただの黒い雪玉だったわ。科学機器で調査しても、魔術的なことは見えてこないようね」
「その通りだろうな。奇怪魔界の魔導の術は、科学などというものでは推し量れない叡智なのだ」
「そうね。ふふ、興味深いわ」
「それで、これは何なのだ?」
ワルフクケスの視線は、机の上にあるもう一つの物に注がれる。
「ああ、これ?」
それは、丁寧に折り畳まれている、レオタードを改造したような少し変わった衣装だった。
「私のコスチュームよ。それを着たときの私は、天才美少女アリシアから、悪の天才科学者『アクリシア』になるの」
ワルフクケスはやれやれと思った。これでは子供のお守りではないか。
「この世界を我が奇怪魔界に塗り替えるという悲願、子供の遊びではないぞ…!」
ワルフクケスは苛立ちをあらわにしたが、それにもアリシアは動じなかった。
「ええ、もちろんわかっているわ…」
アリシアは、ガラス容器の中のキライシードをうっとりとした目で見つめていた。
到着!暁星一家
――――三人称カメラ――――
ここは、新青空駅。
ローカル線が走っている青空駅と並ぶ、青空町を代表する駅の一つだ。
流線形の列車を見送ると、駅舎から利用客が出てくる。その中に、一つの家族連れの姿があった。
両親と、双子らしき姉妹、そして双子より少し小さな末娘の5人だ。
双子の快活そうな一人が、先陣を切って駆け出す。そして、
「うわー、すごい!ショッピングモールが駅にくっついてるよ!」
素直な驚きを口にした。
「もう、旭(あさひ)は、はしゃぎ過ぎです」
双子の落ち着いている方が、末の妹が飛び出さないようにそっと押さえながら、姉をたしなめる。
「ぶーぶー!明(あかり)はすごいと思わないの?駅とショッピングモールがくっついているんだよ?」
旭と呼ばれた姉が、双子の妹に問いかける。
双子の妹、明は、
「いまどきは、そう珍しくもないそうですよ」
と返して、
「ねー、輝(あきら)」
と、下を向いて末の妹に話しかける。
「そうです。珍しくもないです!」
おしゃまな末の妹は、姉たちに元気よく答えた。
「ぶーっ、二人揃ってそう言うー。このモールにお使い頼まれたって、二人は連れてってあげないもーん!」
「お使いとは良い心掛けです。頑張ってください旭」
「おねーちゃんがんばって!」
「ぐぬぬ…!」
言い合いが始まりそうなところを、
「はいはい、三人ともこっちこっち。バスに乗るわよ」
お母さんが三人をバス停へと促す。
三人の娘たちは、それに従った。
彼女たちは、バスの路線図を見る。
路線はこの新青空駅と、ローカル線の駅である青空駅を巡る循環線になっていた。
循環線の路線図をたどっていくと、アルファベットで書かれた『E・G・M 入口』というバス停があるのが分かる。
「ここだよね、お父さんが今度働くところって」
旭の問いに対して、お父さんは
「そうだよ、ここでお父さんは色々な研究をするんだよ」
と答えた。
程なく、20分に一本のバスがやってきた。
バスに乗り込み、この家族――暁星一家――は、新しい我が家へと向かったのである。
ローカル線が走っている青空駅と並ぶ、青空町を代表する駅の一つだ。
流線形の列車を見送ると、駅舎から利用客が出てくる。その中に、一つの家族連れの姿があった。
両親と、双子らしき姉妹、そして双子より少し小さな末娘の5人だ。
双子の快活そうな一人が、先陣を切って駆け出す。そして、
「うわー、すごい!ショッピングモールが駅にくっついてるよ!」
素直な驚きを口にした。
「もう、旭(あさひ)は、はしゃぎ過ぎです」
双子の落ち着いている方が、末の妹が飛び出さないようにそっと押さえながら、姉をたしなめる。
「ぶーぶー!明(あかり)はすごいと思わないの?駅とショッピングモールがくっついているんだよ?」
旭と呼ばれた姉が、双子の妹に問いかける。
双子の妹、明は、
「いまどきは、そう珍しくもないそうですよ」
と返して、
「ねー、輝(あきら)」
と、下を向いて末の妹に話しかける。
「そうです。珍しくもないです!」
おしゃまな末の妹は、姉たちに元気よく答えた。
「ぶーっ、二人揃ってそう言うー。このモールにお使い頼まれたって、二人は連れてってあげないもーん!」
「お使いとは良い心掛けです。頑張ってください旭」
「おねーちゃんがんばって!」
「ぐぬぬ…!」
言い合いが始まりそうなところを、
「はいはい、三人ともこっちこっち。バスに乗るわよ」
お母さんが三人をバス停へと促す。
三人の娘たちは、それに従った。
彼女たちは、バスの路線図を見る。
路線はこの新青空駅と、ローカル線の駅である青空駅を巡る循環線になっていた。
循環線の路線図をたどっていくと、アルファベットで書かれた『E・G・M 入口』というバス停があるのが分かる。
「ここだよね、お父さんが今度働くところって」
旭の問いに対して、お父さんは
「そうだよ、ここでお父さんは色々な研究をするんだよ」
と答えた。
程なく、20分に一本のバスがやってきた。
バスに乗り込み、この家族――暁星一家――は、新しい我が家へと向かったのである。
―第3話『気になるあの子は転校生!』―
旭ちゃんがきた!
――――号姫視点――――
私の名前は、天降 号姫(あまおり なづき)
そう、私は旅をしていた。
青空町循環線に乗って、ちょっとした路線バスの旅。
隣には友達が座っている。
友達は、私のほっぺたをつついてきて…。
そう、私は旅をしていた。
青空町循環線に乗って、ちょっとした路線バスの旅。
隣には友達が座っている。
友達は、私のほっぺたをつついてきて…。
「はっ!…夢か」
私は、古代さんにつつかれて目を覚ました。
ここは、青空町の私の家の、私の部屋。
たくさん出た宿題をみんなでやろうということになって、私の家に集まったのだった。
「もう、天降さんはお気楽ね」
そう言って私をつついていたシャープペンシルをどけたのは、古代 奈緒さん(ごだい なお)
私と一緒に、スーパー変身ヒロイン『ジョジピュア』に変身するパートナーだ。
古代さんは、シャープペンシルのノックボタンを押さえて、伸びた芯をペンの中にしまっていった。
居眠りした私を起こすのに、芯の方でつついたっていいのに、ノックボタンの方でつついてくれてたんだ。古代さんやさしいー。
「号姫ちゃん、寝てたら宿題終わらないよ!」
瞳をキラキラさせながら、そう言ったのは、慶光院 九ちゃん(けいこういん ここの)
彼女はジョジピュアじゃないけど、私たちの正体を知って、ジョジピュアサポーターになったんだよ。
いろいろサポートするんだって言って、みんなで宿題をやろうと言い出したのも、九ちゃんなんだ。
「学ぶことこそあなたたちの本分、しっかりお勉強するんですよー」
こう言うのは、うさぎと天使のキューピッドを足し合わせたような妖精のキュビット。
ジョジピュアのお目付け役の妖精で、厳しいけど優しいところもあるんだ。
「早く終わらせたら、その分遊べるよ…」
で、最後に紹介するのは計都 らみこちゃん(けいと らみこ)
通称みこちゃん。私たちの先輩ジョジピュアなんだけど、私と古代さんに力を託して、自分の力は失ってしまったんだ。
まだまだジョジピュアとして未熟な私たちを、サポートしてくれているんだよ。
私は、古代さんにつつかれて目を覚ました。
ここは、青空町の私の家の、私の部屋。
たくさん出た宿題をみんなでやろうということになって、私の家に集まったのだった。
「もう、天降さんはお気楽ね」
そう言って私をつついていたシャープペンシルをどけたのは、古代 奈緒さん(ごだい なお)
私と一緒に、スーパー変身ヒロイン『ジョジピュア』に変身するパートナーだ。
古代さんは、シャープペンシルのノックボタンを押さえて、伸びた芯をペンの中にしまっていった。
居眠りした私を起こすのに、芯の方でつついたっていいのに、ノックボタンの方でつついてくれてたんだ。古代さんやさしいー。
「号姫ちゃん、寝てたら宿題終わらないよ!」
瞳をキラキラさせながら、そう言ったのは、慶光院 九ちゃん(けいこういん ここの)
彼女はジョジピュアじゃないけど、私たちの正体を知って、ジョジピュアサポーターになったんだよ。
いろいろサポートするんだって言って、みんなで宿題をやろうと言い出したのも、九ちゃんなんだ。
「学ぶことこそあなたたちの本分、しっかりお勉強するんですよー」
こう言うのは、うさぎと天使のキューピッドを足し合わせたような妖精のキュビット。
ジョジピュアのお目付け役の妖精で、厳しいけど優しいところもあるんだ。
「早く終わらせたら、その分遊べるよ…」
で、最後に紹介するのは計都 らみこちゃん(けいと らみこ)
通称みこちゃん。私たちの先輩ジョジピュアなんだけど、私と古代さんに力を託して、自分の力は失ってしまったんだ。
まだまだジョジピュアとして未熟な私たちを、サポートしてくれているんだよ。
で、私たちは私の部屋で宿題をしていたんだけど、私が居眠りをして、古代さんにつつき起こされたと、そういう訳。
時計を見ると、宿題を始めてから一時間くらい経っているみたい。(そのうち二分くらいは居眠りだったけど)
気付いたら、網戸の向こうから外の音が何やら聞こえてくる。
「今日は何だか外が騒がしいねー」
と私が言うと、
「隣の家に誰か引っ越して来たみたいよ」
古代さんが私の疑問に答えた。
「へえー、そうなんだ!」
私が返すと、
「ここに来るとき、お隣りに引っ越し屋さんのトラックが止まってたの見たよ!」
九ちゃんも古代さんの話を補強する。
私は立ち上がって、ベランダに寄った。
「号姫ちゃん、宿題…」
みこちゃんの心配をよそに、
「ちょっとだけ、気分転換〜」
そう言うと私は、ベランダに上がった。
道路の方を見ると、引っ越し屋さんのトラックが数台、隣の家の前に停まっている。
引っ越し屋さんのスタッフが、荷物を運びこんでいる様子が見える。
どんな人たちが引っ越して来るんだろう。
そんな事を思いながらふと、正面にあるお隣の二階の窓を見た私は、目を奪われた。
窓の向こうには、白いワンピースを着た女の子がいた。
女の子は私と目が合うと、手を小さく振って、挨拶の仕草をした。
思わず会釈をして、視線を外す私。
次に視線を戻したときには、女の子はそこにいなかった。
時計を見ると、宿題を始めてから一時間くらい経っているみたい。(そのうち二分くらいは居眠りだったけど)
気付いたら、網戸の向こうから外の音が何やら聞こえてくる。
「今日は何だか外が騒がしいねー」
と私が言うと、
「隣の家に誰か引っ越して来たみたいよ」
古代さんが私の疑問に答えた。
「へえー、そうなんだ!」
私が返すと、
「ここに来るとき、お隣りに引っ越し屋さんのトラックが止まってたの見たよ!」
九ちゃんも古代さんの話を補強する。
私は立ち上がって、ベランダに寄った。
「号姫ちゃん、宿題…」
みこちゃんの心配をよそに、
「ちょっとだけ、気分転換〜」
そう言うと私は、ベランダに上がった。
道路の方を見ると、引っ越し屋さんのトラックが数台、隣の家の前に停まっている。
引っ越し屋さんのスタッフが、荷物を運びこんでいる様子が見える。
どんな人たちが引っ越して来るんだろう。
そんな事を思いながらふと、正面にあるお隣の二階の窓を見た私は、目を奪われた。
窓の向こうには、白いワンピースを着た女の子がいた。
女の子は私と目が合うと、手を小さく振って、挨拶の仕草をした。
思わず会釈をして、視線を外す私。
次に視線を戻したときには、女の子はそこにいなかった。
「気分転換は終わった?」
ベランダから降りてきた私に、古代さんがたずねる。
「うん…」
「どうしたの?幻でも見たような顔をして」
「ううん、何でもない。さあ、宿題、宿題!」
その後しばらく宿題と格闘した私たちは、宿題を終え、その後みんなで遊んで、お開きとなり、みんなを玄関まで見送ったのだった。
ベランダから降りてきた私に、古代さんがたずねる。
「うん…」
「どうしたの?幻でも見たような顔をして」
「ううん、何でもない。さあ、宿題、宿題!」
その後しばらく宿題と格闘した私たちは、宿題を終え、その後みんなで遊んで、お開きとなり、みんなを玄関まで見送ったのだった。
玄関の外を見る。
お隣の前の道路から引っ越し屋さんのトラックはいなくなっていた。
夕方のそよ風が気持ちいい。
さっき見た女の子の事を思い出す。
窓の奥のワンピースの少女。
それだけだと、なんだか懐かしめの少女漫画みたいだ。
玄関から、さっきの窓を見る。
灯りはついていない。
あの子は、幻だったのかも。
そんな事を考えながら、私は家の中に戻った。
お隣の前の道路から引っ越し屋さんのトラックはいなくなっていた。
夕方のそよ風が気持ちいい。
さっき見た女の子の事を思い出す。
窓の奥のワンピースの少女。
それだけだと、なんだか懐かしめの少女漫画みたいだ。
玄関から、さっきの窓を見る。
灯りはついていない。
あの子は、幻だったのかも。
そんな事を考えながら、私は家の中に戻った。
――――号姫視点――――
夕日も沈もうという時間、私は携帯ゲーム機(テレビにも繋がるすごいやつ!)で遊んでいた。
ピンポーン!
呼び鈴が鳴る。どなたか来たようだ。
「号姫ー、出てくれるー?」
夕食を作っている最中のママが私を呼んだ。
それに従って、私は玄関に向かった。
「はーい、どちら様ですかー?」
「こんばんは。今日、隣に引っ越してきた者です」
男の人の声だ。
玄関の磨りガラスの引き戸越しに、数人の気配がする。おそらく家族全員で挨拶に来たのだろう。
「あっ、どうも。今開けますー」
私が玄関の引き戸を開けると、そこには男の人と女の人、そして女の子が3人いた。
そのうちの一人、ワンピースの女の子に、私は見覚えがあって、
「あ、さっきの美少女」
と、口をついて出てしまった。
するとその女の子は、
「美少女?私の事ね、ふふーん」
と返してきて、その隣の女の子が、
「旭が美少女なら、私は超絶美少女ですね」
と話を繋いだ。
すると二人の手前にいた小さな女の子が、
「アキちゃんが一番美少女なのです!」
と宣言する。
この会話のスピード感に、私は少しの戸惑いと、姉妹のいる羨ましさをおぼえたのだった。
「ご家族の方はいらっしゃいますか?」
男の人が、私にたずねる。
「はい、今読んできますね」
私は玄関からリビングの方へ、
「パパー、ママー、おばあちゃーん、お客様ー。お隣に引っ越してきた人ー」
そう言うと、それを聞いた天降一家が玄関に集まってきた。
「号姫ー、出てくれるー?」
夕食を作っている最中のママが私を呼んだ。
それに従って、私は玄関に向かった。
「はーい、どちら様ですかー?」
「こんばんは。今日、隣に引っ越してきた者です」
男の人の声だ。
玄関の磨りガラスの引き戸越しに、数人の気配がする。おそらく家族全員で挨拶に来たのだろう。
「あっ、どうも。今開けますー」
私が玄関の引き戸を開けると、そこには男の人と女の人、そして女の子が3人いた。
そのうちの一人、ワンピースの女の子に、私は見覚えがあって、
「あ、さっきの美少女」
と、口をついて出てしまった。
するとその女の子は、
「美少女?私の事ね、ふふーん」
と返してきて、その隣の女の子が、
「旭が美少女なら、私は超絶美少女ですね」
と話を繋いだ。
すると二人の手前にいた小さな女の子が、
「アキちゃんが一番美少女なのです!」
と宣言する。
この会話のスピード感に、私は少しの戸惑いと、姉妹のいる羨ましさをおぼえたのだった。
「ご家族の方はいらっしゃいますか?」
男の人が、私にたずねる。
「はい、今読んできますね」
私は玄関からリビングの方へ、
「パパー、ママー、おばあちゃーん、お客様ー。お隣に引っ越してきた人ー」
そう言うと、それを聞いた天降一家が玄関に集まってきた。
「改めて、こんばんは、はじめまして。本日、隣に引っ越して参りました、暁星と申します…」
大人の人たちが大人の挨拶を始める。
子供たちの方も、挨拶が始まった。
「私、暁星 旭、よろしくね!」
「私は暁星 明です。よろしくお願いします」
「暁星 輝です!おねーちゃんは?」
「あ、天降 号姫です。みんな、よろしくねー」
そんなこんなで一通り挨拶をした後、天降一家は引っ越しのお土産(お菓子だったよ!)をいただいて、暁星家は帰っていった。
大人の人たちが大人の挨拶を始める。
子供たちの方も、挨拶が始まった。
「私、暁星 旭、よろしくね!」
「私は暁星 明です。よろしくお願いします」
「暁星 輝です!おねーちゃんは?」
「あ、天降 号姫です。みんな、よろしくねー」
そんなこんなで一通り挨拶をした後、天降一家は引っ越しのお土産(お菓子だったよ!)をいただいて、暁星家は帰っていった。
その夜、私は物思いにふけっていた。
旭ちゃんと明ちゃんは同学年という話だった。
お隣りに同学年の女の子が引っ越してきた!友達になれるといいな。
そんな事を思いながら、私は眠りについたのだった。
旭ちゃんと明ちゃんは同学年という話だった。
お隣りに同学年の女の子が引っ越してきた!友達になれるといいな。
そんな事を思いながら、私は眠りについたのだった。
ある朝の出来事
――――号姫視点――――
翌日。
今日の私はすっきり目覚めて、朝食もしっかり摂り、青空小学校へと登校していた。
通学路を歩いていると、何かが道路の端っこの方に落ちていた。
よく見るとそれは、うずくまっている黒猫だった。
黒猫は赤いマフラーを首に巻いている。
様子を見ると元気がないのか、じっとして動かない。
私はランドセルを道路に置いて黒猫の前にしゃがみ込む。
すると黒猫は頭を持ち上げてランドセルの方を向く。
どうやら匂いを嗅いでいるようだ。
私のお弁当…?お腹が空いているのかな?
私はお弁当を取り出して、うーん…卵焼き!卵焼きをつまみ上げる。
その瞬間、それまでうずくまっていた黒猫が素早く動いた。
そして私のお弁当箱から、唐揚げをくわえて逃げていった。
「わ、私の唐揚げー!」
あああ、私のお昼の楽しみが一つ、減ってしまった。
通学路を歩いていると、何かが道路の端っこの方に落ちていた。
よく見るとそれは、うずくまっている黒猫だった。
黒猫は赤いマフラーを首に巻いている。
様子を見ると元気がないのか、じっとして動かない。
私はランドセルを道路に置いて黒猫の前にしゃがみ込む。
すると黒猫は頭を持ち上げてランドセルの方を向く。
どうやら匂いを嗅いでいるようだ。
私のお弁当…?お腹が空いているのかな?
私はお弁当を取り出して、うーん…卵焼き!卵焼きをつまみ上げる。
その瞬間、それまでうずくまっていた黒猫が素早く動いた。
そして私のお弁当箱から、唐揚げをくわえて逃げていった。
「わ、私の唐揚げー!」
あああ、私のお昼の楽しみが一つ、減ってしまった。
「…はっ!」
黒猫の相手をしていたら、時間が経っていた。
遅刻したらまずい…!
私はお弁当を包み直すと、学校への道を早足で駆けていった。
黒猫の相手をしていたら、時間が経っていた。
遅刻したらまずい…!
私はお弁当を包み直すと、学校への道を早足で駆けていった。
――――号姫視点――――
キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪
下駄箱で上履きに履き替えているところで、チャイムがなってしまった。
「ああー、遅刻だー」
廊下は走れないからね、競歩のステップで進むよ。
人のいない廊下を私は静かに歩く。
そして後ろのドアをそっと開けて、教室に入ると、
「ああー!昨日の天降さん!」
ハキハキとした快活な声が飛んできた。
「ええー!暁星さん!?」
教室の黒板の前には、担任の池内 留奈先生と、昨日会った暁星さんちの旭ちゃんと明ちゃんの双子の姉妹が立っていた。私を呼んだのは旭ちゃんだ。
「私たちの転校の日に遅刻するとは、さては大物ですね」
明ちゃんの静かだけどよく通る声に、私はグサッとダメージを受ける。
「天降さん駄目よ、遅刻なんかして。さあ早く席に着いて」
留奈先生にも注意されて、私は自分の席に着いた。
「ああー、遅刻だー」
廊下は走れないからね、競歩のステップで進むよ。
人のいない廊下を私は静かに歩く。
そして後ろのドアをそっと開けて、教室に入ると、
「ああー!昨日の天降さん!」
ハキハキとした快活な声が飛んできた。
「ええー!暁星さん!?」
教室の黒板の前には、担任の池内 留奈先生と、昨日会った暁星さんちの旭ちゃんと明ちゃんの双子の姉妹が立っていた。私を呼んだのは旭ちゃんだ。
「私たちの転校の日に遅刻するとは、さては大物ですね」
明ちゃんの静かだけどよく通る声に、私はグサッとダメージを受ける。
「天降さん駄目よ、遅刻なんかして。さあ早く席に着いて」
留奈先生にも注意されて、私は自分の席に着いた。
「では、暁星さん、自己紹介をお願いね」
留奈先生が促すと、
「はーい!」
「わかりました」
二人の転校生がそれに応える。
「では私から。暁星 旭(あけぼし あさひ)です。みんなとは早く仲良しになりたいです。よろしくお願いします!」
「次は私ですね。暁星 明(あけぼし あかり)です。こんな姉ですが、どうか仲良くしてやってください」
「むー、明ぃ!それどういう意味?」
「旭は人との距離を計らなさすぎです。知らないうちに相手に失礼をはたらいてしまうかもしれませんよ?」
「むー!誰かと友達になるには、飛び込んでいくのが一番だよ。明みたいにいつも一歩引いてたら、友達できないよ!」
「痛いところを突きますね。でも私は旭がいれば別に困りませんが」
「だめだよー!あ・か・り・も!友達作るんだからね!」
教室が静まり返る中、旭ちゃんと明ちゃんの掛け合いだけがヒートアップしていく。
教室中が、この掛け合い――暁星劇場――の行く末を見守っている
二人の掛け合いは、まるで隙がなくて、風車に二人で息を吹きかけて回しているかのようだった。
「は、はーい。自己紹介もできましたね」
留奈先生がパンパンと手を打ち合わせる。
「みんな、二人の暁星さんと仲良くしてね。二人は後ろの空いている席に座ってね」
私と古代さんの後ろの席(席替えがあったんだよ!)に、二人は着席した。
そして授業が始まった。
留奈先生が促すと、
「はーい!」
「わかりました」
二人の転校生がそれに応える。
「では私から。暁星 旭(あけぼし あさひ)です。みんなとは早く仲良しになりたいです。よろしくお願いします!」
「次は私ですね。暁星 明(あけぼし あかり)です。こんな姉ですが、どうか仲良くしてやってください」
「むー、明ぃ!それどういう意味?」
「旭は人との距離を計らなさすぎです。知らないうちに相手に失礼をはたらいてしまうかもしれませんよ?」
「むー!誰かと友達になるには、飛び込んでいくのが一番だよ。明みたいにいつも一歩引いてたら、友達できないよ!」
「痛いところを突きますね。でも私は旭がいれば別に困りませんが」
「だめだよー!あ・か・り・も!友達作るんだからね!」
教室が静まり返る中、旭ちゃんと明ちゃんの掛け合いだけがヒートアップしていく。
教室中が、この掛け合い――暁星劇場――の行く末を見守っている
二人の掛け合いは、まるで隙がなくて、風車に二人で息を吹きかけて回しているかのようだった。
「は、はーい。自己紹介もできましたね」
留奈先生がパンパンと手を打ち合わせる。
「みんな、二人の暁星さんと仲良くしてね。二人は後ろの空いている席に座ってね」
私と古代さんの後ろの席(席替えがあったんだよ!)に、二人は着席した。
そして授業が始まった。
休み時間の二人
――――号姫視点――――
そして今は休み時間。教室の後ろが賑やかだ。
5年3組のほとんどみんなが旭ちゃんの周りに集まっている。
クラスメイトたちと楽しそうに話している旭ちゃんを見ていると、旭ちゃんは人と打ち解ける天才だと思った。
明ちゃんはというと、ちょっと離れたところから旭ちゃんたちを眺めているようだ。
時々、明ちゃんに話しかけてくる子と軽く会話を交わしながら、旭ちゃんと教室を見回している。
そして、ふと教室の一点に目を止めた明ちゃんは、そちらに向かって歩きだした。
5年3組のほとんどみんなが旭ちゃんの周りに集まっている。
クラスメイトたちと楽しそうに話している旭ちゃんを見ていると、旭ちゃんは人と打ち解ける天才だと思った。
明ちゃんはというと、ちょっと離れたところから旭ちゃんたちを眺めているようだ。
時々、明ちゃんに話しかけてくる子と軽く会話を交わしながら、旭ちゃんと教室を見回している。
そして、ふと教室の一点に目を止めた明ちゃんは、そちらに向かって歩きだした。
――――三人称カメラ――――
教室の前の方の席で、次の授業の予習をしている一人の少女がいた。
彼女は藤野アリシア・デヴァーチカ。
青空町にある研究施設「E・G・M」に研究室を持っているという天才少女だ。
「こんにちは」
アリシアが声のした方を振り返ると、すぐそばに転校生の一人、暁星 明がいた。
「こんにちは。暁星さん…だったわね」
「明でいいわ。暁星だと旭と私、どちらかわからないから」
「そうね…こほん。私は藤野アリシア・デヴァーチカ。よろしく、明さん」
アリシアはちょっと硬い挨拶を返した。そのまま硬い態度で居続けようと思ったが、
「デヴァーチカ…ロシア語で『少女』」
「あら、よく知ってるわね」
明の指摘を聞いて、態度が軟化した。
「偶然、知ってた。もしかして、ハーフ?」
「ええ、そうよ。父はロシア出身なの」
「そう…ということは、藤野さんのその髪も?」
明はアリシアの緩くウェーブのかかった、赤みの強い金髪を見つめた。
「ええ、この髪も父譲りよ」
「ストロベリーブロンドね、綺麗」
明の素直な称賛に、アリシアは頬を赤らめる。
「ありがとう…それと、私のこともアリシアでいいわ」
「なら…アリシアさん」
「何かしら?」
続く明の言葉は、アリシアを戸惑わせるのに十分だった。
「あなたと私はどこか似ている」
「えっ?」
彼女は藤野アリシア・デヴァーチカ。
青空町にある研究施設「E・G・M」に研究室を持っているという天才少女だ。
「こんにちは」
アリシアが声のした方を振り返ると、すぐそばに転校生の一人、暁星 明がいた。
「こんにちは。暁星さん…だったわね」
「明でいいわ。暁星だと旭と私、どちらかわからないから」
「そうね…こほん。私は藤野アリシア・デヴァーチカ。よろしく、明さん」
アリシアはちょっと硬い挨拶を返した。そのまま硬い態度で居続けようと思ったが、
「デヴァーチカ…ロシア語で『少女』」
「あら、よく知ってるわね」
明の指摘を聞いて、態度が軟化した。
「偶然、知ってた。もしかして、ハーフ?」
「ええ、そうよ。父はロシア出身なの」
「そう…ということは、藤野さんのその髪も?」
明はアリシアの緩くウェーブのかかった、赤みの強い金髪を見つめた。
「ええ、この髪も父譲りよ」
「ストロベリーブロンドね、綺麗」
明の素直な称賛に、アリシアは頬を赤らめる。
「ありがとう…それと、私のこともアリシアでいいわ」
「なら…アリシアさん」
「何かしら?」
続く明の言葉は、アリシアを戸惑わせるのに十分だった。
「あなたと私はどこか似ている」
「えっ?」
キーン♪コーン♪カーン♪コーン♪
休み時間の終わりを告げるチャイムが鳴る。
「ふふっ、アリシアさん。またね」
「明さん?それってどういう…」
振り向くアリシアをよそに、明は自分の席へと戻っていった。
「ふふっ、アリシアさん。またね」
「明さん?それってどういう…」
振り向くアリシアをよそに、明は自分の席へと戻っていった。
対決!旭vsアリシア
――――号姫視点――――
「それでは、皆さんには学級委員を決めてもらいます」
それが留奈先生の最初の言葉だった。
それが留奈先生の最初の言葉だった。
今は午後の学級会。学期始めなので決める事がいっぱいある。学級委員を決めるのも、その一つだ。
「では、立候補する人はいますかー?」
で、留奈先生の言葉にアリシアちゃんだけが挙手して、そのまま学級委員になるのがいつものパターンなんだよねー。
…なんて事を考えながらぼんやりしていたら、何だかいつもと空気が違う事に気が付いた。
「では、立候補する人はいますかー?」
で、留奈先生の言葉にアリシアちゃんだけが挙手して、そのまま学級委員になるのがいつものパターンなんだよねー。
…なんて事を考えながらぼんやりしていたら、何だかいつもと空気が違う事に気が付いた。
教室がざわついている。
前の方を見ると、アリシアちゃんが私をガン見していた。
いや違う、見ているのは私の後ろの席の…旭ちゃんだ!
振り向くとそこには、ピッと手を挙げて、前方のアリシアちゃんを見据える旭ちゃんの姿があった。
旭ちゃんは、学級委員に立候補する気なんだ!
「まあっ、私の他に立候補者がいるなんて、前代未聞だわ。立候補したのは立派だけど、転校してきたばかりの…旭さんに、学級委員が務まるとは思えません。今から辞退してもいいのよ?」
「なによー!私だって…」
アリシアちゃんの言葉に旭ちゃんが興奮気味に何かを言おうとするが、
「はい、先生」
「はい、暁星 明さん」
明ちゃんが挙手して発言の許可を求めたので、留奈先生が明ちゃんを指した。
明ちゃんは席を立ち、静かだけどよく通る声でクラスのみんなに語り始める。
「クラスの皆さん、こういう時の姉には、しっかりした考えが必ずあります。まずは姉の話を聞いてくれませんか?」
明ちゃんはクラス中に発言が浸透して、しんと静かになったのを確認する。
その間に旭ちゃんも落ち着きを取り戻したようだ。
着席した明ちゃんに代わって、旭ちゃんが席から立つ。
そしてみんなに、こう語りかけた。
「ねえみんな。私、さっき自己紹介の時も言ったよね。みんなとは早く仲良しになりたいって。
だから学級委員を引き受けて、色々な事をやってみよう、みんなの事をちゃんと知ろうと思ったんです。
至らない点もあるだろうけど、みんなと協力すれば、きっとうまくいく。私はそう思うんです。だから、学級委員に立候補します。よろしくお願いします!」
旭ちゃんがぺこりと頭を下げる。
「ふん、そういう事なら、どちらが学級委員になるか、みんなの投票で決めましょう。旭さん、決戦よ!」
アリシアちゃんも受けて立つようだ。
前の方を見ると、アリシアちゃんが私をガン見していた。
いや違う、見ているのは私の後ろの席の…旭ちゃんだ!
振り向くとそこには、ピッと手を挙げて、前方のアリシアちゃんを見据える旭ちゃんの姿があった。
旭ちゃんは、学級委員に立候補する気なんだ!
「まあっ、私の他に立候補者がいるなんて、前代未聞だわ。立候補したのは立派だけど、転校してきたばかりの…旭さんに、学級委員が務まるとは思えません。今から辞退してもいいのよ?」
「なによー!私だって…」
アリシアちゃんの言葉に旭ちゃんが興奮気味に何かを言おうとするが、
「はい、先生」
「はい、暁星 明さん」
明ちゃんが挙手して発言の許可を求めたので、留奈先生が明ちゃんを指した。
明ちゃんは席を立ち、静かだけどよく通る声でクラスのみんなに語り始める。
「クラスの皆さん、こういう時の姉には、しっかりした考えが必ずあります。まずは姉の話を聞いてくれませんか?」
明ちゃんはクラス中に発言が浸透して、しんと静かになったのを確認する。
その間に旭ちゃんも落ち着きを取り戻したようだ。
着席した明ちゃんに代わって、旭ちゃんが席から立つ。
そしてみんなに、こう語りかけた。
「ねえみんな。私、さっき自己紹介の時も言ったよね。みんなとは早く仲良しになりたいって。
だから学級委員を引き受けて、色々な事をやってみよう、みんなの事をちゃんと知ろうと思ったんです。
至らない点もあるだろうけど、みんなと協力すれば、きっとうまくいく。私はそう思うんです。だから、学級委員に立候補します。よろしくお願いします!」
旭ちゃんがぺこりと頭を下げる。
「ふん、そういう事なら、どちらが学級委員になるか、みんなの投票で決めましょう。旭さん、決戦よ!」
アリシアちゃんも受けて立つようだ。
そしてクラス投票が行われ、その結果…
学級委員に選ばれたのは、旭ちゃんだった!
「ありがとう、みんな。まだこのクラスの事、わからない事も多いけど、私、頑張るね!」
旭ちゃんはクラスのみんなに、感謝の言葉を述べ、頑張って学級委員の仕事を務める事を誓った。
「ふふ、よかったわね。旭」
表情をあまり変えない明ちゃんだけど、この時は心なしか嬉しそうな気がした。
学級委員に選ばれたのは、旭ちゃんだった!
「ありがとう、みんな。まだこのクラスの事、わからない事も多いけど、私、頑張るね!」
旭ちゃんはクラスのみんなに、感謝の言葉を述べ、頑張って学級委員の仕事を務める事を誓った。
「ふふ、よかったわね。旭」
表情をあまり変えない明ちゃんだけど、この時は心なしか嬉しそうな気がした。
アリシアの暗い心
――――三人称カメラ――――
「ふん、研究の時間が増えて良かったわ…」
放課後。
アリシアは青空町の複合研究施設「E・G・M」にある、アリシアの研究室へと歩いていた。
学級委員には暁星 旭が選出された。
「私ではなく、あの子が…」
アリシアは不意に立ち止まり、拳を握る。
「ああ、もう!何なのこの気持ちは!」
誰もいない道にアリシアの声が響く。しかし、返ってきたのは残響ではなく男の声だった。
「ふふふ、感じる、感じるぞ。負のオーラを放つ感情を」
「ワルフクケス!?」
アリシアの足元の影から、すっと別の影が浮かび上がる。
影は人の形を取り、奇怪魔界の大魔導師、ワルフクケスの姿になった。
「ちょ、エッチ!足元から現れないでよ!」
「小娘の下着になど関心はないわ」
「それもなんかムカつく!」
「貴様が一人前のレディになって、この私も五千歳若ければ、あるいはな」
「なっ…!」
ワルフクケスに軽くあしらわれて、アリシアは話題を変えることにした。
「…で、何なのよ。いきなり現れて」
「ふふふ、負のオーラに満ちた感情を感じたのでな。シャドウ・ポータルの魔術で『跳んで』来てみれば、貴様だったというわけよ」
「負のオーラ?感情?」
「そう、貴様の感情は今、負のオーラに満ちている。そしてそれは…」
ワルフクケスは懐から黒い雪玉のようなものを取り出す。
「…このキライシードが成長する力となるのだ」
ワルフクケスがキライシードをアリシアの胸にかざすと、黒い影のようなものが渦を巻いてキライシードに吸収されていく。これがオーラなのだろう。
「んっ…」
か細くあえぐアリシア。
キライシードは脈打ち始め、その暗さを増していく。
「んんっ…!」
脈動は強くなり、周囲まで暗くするかの様な漆黒に染まっていく。
「さあ、いまこそ芽吹け、キライシードよ!奇雷獣のつぼみ、キライツボーミに進化するのだ!」
「ううっ…ああーっ!!」
アリシアの叫びと共に、キライシードが大きく脈打つ。そして黒い小鳥のような形に変化した。
「ほう、キライツボーミは鳥の形になったか。これは何の暗喩なのか」
「ううっ…」
倒れそうになるアリシア。だがその背中を支えたのはワルフクケスだった。
「な、何をするのよ…」
「貴様の負のオーラを吸収して、キライシードは更に強力なキライツボーミに進化したのだ」
ワルフクケスはアリシアの背中を支えたまま、彼女に自分のマントを覆い被せる。
そしてサッとマントを広げると、アリシアの服装が変化していた。
レオタードを改造したような服装。目を隠す濃い半透明のゴーグル。
それは昨日アリシアが用意していた、悪の天才科学者『アクリシア』の格好そのものだった。
「これは…」
アリシアはハッと気付く。
さっきまで負のオーラとかいうのを吸収されてフラフラだったのに、今はしっかり自分の足で立っている。
「すごい…体中に力がみなぎるのをを感じるわ」
「私の魔力を体力に変換して貴様に流し込んだのだ。服は、そのための媒介として利用したまでよ」
「…ありがとう」
「礼などいらぬ。さあ、行くぞ」
「行くって、どこへ?」
「決まっている。この世界を奇怪魔界へと変貌させにだ。行くぞ、アクリシア」
ワルフクケスは、そう言うと邪悪な笑みを浮かべ、鳥型のキライツボーミを差し出した。
アクリシアと呼ばれたアリシアは微笑みを返す。その笑みはゴーグルに映るワルフクケスの笑みよりも、更に邪悪なものに見えた。
「そうね、この不自由な世界を、素敵な新世界に変えましょう」
そう言うと、アクリシアは黒い小鳥の形をしたキライツボーミをワルフクケスの手から受け取った。
「うふふ、かわいい小鳥ちゃん…さあ、お行きなさい!」
アクリシアは黒い小鳥を愛おしそうになでると、おもむろに空に放った。
黒い小鳥は二人の上空をくるくると飛んでいたが、何かを見つけたようにある方向へ飛び去っていった。
「うふふ、待ってなさい。暁星 あ・さ・ひ・さん」
アリシアは青空町の複合研究施設「E・G・M」にある、アリシアの研究室へと歩いていた。
学級委員には暁星 旭が選出された。
「私ではなく、あの子が…」
アリシアは不意に立ち止まり、拳を握る。
「ああ、もう!何なのこの気持ちは!」
誰もいない道にアリシアの声が響く。しかし、返ってきたのは残響ではなく男の声だった。
「ふふふ、感じる、感じるぞ。負のオーラを放つ感情を」
「ワルフクケス!?」
アリシアの足元の影から、すっと別の影が浮かび上がる。
影は人の形を取り、奇怪魔界の大魔導師、ワルフクケスの姿になった。
「ちょ、エッチ!足元から現れないでよ!」
「小娘の下着になど関心はないわ」
「それもなんかムカつく!」
「貴様が一人前のレディになって、この私も五千歳若ければ、あるいはな」
「なっ…!」
ワルフクケスに軽くあしらわれて、アリシアは話題を変えることにした。
「…で、何なのよ。いきなり現れて」
「ふふふ、負のオーラに満ちた感情を感じたのでな。シャドウ・ポータルの魔術で『跳んで』来てみれば、貴様だったというわけよ」
「負のオーラ?感情?」
「そう、貴様の感情は今、負のオーラに満ちている。そしてそれは…」
ワルフクケスは懐から黒い雪玉のようなものを取り出す。
「…このキライシードが成長する力となるのだ」
ワルフクケスがキライシードをアリシアの胸にかざすと、黒い影のようなものが渦を巻いてキライシードに吸収されていく。これがオーラなのだろう。
「んっ…」
か細くあえぐアリシア。
キライシードは脈打ち始め、その暗さを増していく。
「んんっ…!」
脈動は強くなり、周囲まで暗くするかの様な漆黒に染まっていく。
「さあ、いまこそ芽吹け、キライシードよ!奇雷獣のつぼみ、キライツボーミに進化するのだ!」
「ううっ…ああーっ!!」
アリシアの叫びと共に、キライシードが大きく脈打つ。そして黒い小鳥のような形に変化した。
「ほう、キライツボーミは鳥の形になったか。これは何の暗喩なのか」
「ううっ…」
倒れそうになるアリシア。だがその背中を支えたのはワルフクケスだった。
「な、何をするのよ…」
「貴様の負のオーラを吸収して、キライシードは更に強力なキライツボーミに進化したのだ」
ワルフクケスはアリシアの背中を支えたまま、彼女に自分のマントを覆い被せる。
そしてサッとマントを広げると、アリシアの服装が変化していた。
レオタードを改造したような服装。目を隠す濃い半透明のゴーグル。
それは昨日アリシアが用意していた、悪の天才科学者『アクリシア』の格好そのものだった。
「これは…」
アリシアはハッと気付く。
さっきまで負のオーラとかいうのを吸収されてフラフラだったのに、今はしっかり自分の足で立っている。
「すごい…体中に力がみなぎるのをを感じるわ」
「私の魔力を体力に変換して貴様に流し込んだのだ。服は、そのための媒介として利用したまでよ」
「…ありがとう」
「礼などいらぬ。さあ、行くぞ」
「行くって、どこへ?」
「決まっている。この世界を奇怪魔界へと変貌させにだ。行くぞ、アクリシア」
ワルフクケスは、そう言うと邪悪な笑みを浮かべ、鳥型のキライツボーミを差し出した。
アクリシアと呼ばれたアリシアは微笑みを返す。その笑みはゴーグルに映るワルフクケスの笑みよりも、更に邪悪なものに見えた。
「そうね、この不自由な世界を、素敵な新世界に変えましょう」
そう言うと、アクリシアは黒い小鳥の形をしたキライツボーミをワルフクケスの手から受け取った。
「うふふ、かわいい小鳥ちゃん…さあ、お行きなさい!」
アクリシアは黒い小鳥を愛おしそうになでると、おもむろに空に放った。
黒い小鳥は二人の上空をくるくると飛んでいたが、何かを見つけたようにある方向へ飛び去っていった。
「うふふ、待ってなさい。暁星 あ・さ・ひ・さん」
2022.12.30.更新分
わたしたち、ともだち
――――号姫視点――――
放課後。
私は学校の帰り道、旭ちゃんたちと話しながら歩いていた。
最初はみこちゃん、九ちゃん、旭ちゃん、明ちゃん、そして古代さんと私の6人で下校していた。
色々話してる中で古代さんは、
「ああ、じゃあ天降さんちの隣に引っ越してきたのって、暁星さんたちだったのね」
と納得した様子を見せた。
「そうだよー。新築だよ新築、すごいでしょー。えっへん!」
「旭、確かに私たちの家ですが、建てたのはお父さんですし、本当に建てたのは大工さんです」
「ぶー、明は何が言いたいのさ」
「えっへんしていいのは大工さんだって言いたいのです」
旭ちゃんと明ちゃん、二人の暁星劇場は下校時間も開演中だ。
そして、帰る方向の違いで一人、また一人と、また明日ねと言って別れていく。
私は学校の帰り道、旭ちゃんたちと話しながら歩いていた。
最初はみこちゃん、九ちゃん、旭ちゃん、明ちゃん、そして古代さんと私の6人で下校していた。
色々話してる中で古代さんは、
「ああ、じゃあ天降さんちの隣に引っ越してきたのって、暁星さんたちだったのね」
と納得した様子を見せた。
「そうだよー。新築だよ新築、すごいでしょー。えっへん!」
「旭、確かに私たちの家ですが、建てたのはお父さんですし、本当に建てたのは大工さんです」
「ぶー、明は何が言いたいのさ」
「えっへんしていいのは大工さんだって言いたいのです」
旭ちゃんと明ちゃん、二人の暁星劇場は下校時間も開演中だ。
そして、帰る方向の違いで一人、また一人と、また明日ねと言って別れていく。
今、一緒に歩いているのは旭ちゃん、明ちゃんと私の三人だ。家の方向が一緒、なんならお隣だもんねー。
色々なお喋りをしながら歩いていると、スクーターを避けるタイミングで、旭ちゃんが先頭、明ちゃんと私がその後ろを歩くという並びになった。
その時、ひょいと明ちゃんがステップを踏んで、私に耳打ちしてきた。
「天降さん、姉の事、よろしくお願いしますね」
「ほえ、どういう事?」
「姉と…旭と友達になってください」
ひそひそ話は続く。私は明ちゃんのお願いにこう答える。
「言われなくても、もう旭ちゃんとは友達だよ。もちろん、明ちゃんとも」
「えっ、私は、いいです」
「いいんでしょう?私も明ちゃんと友達になれて嬉しいよ」
私はちょっと意地悪な返し方をした。
「でも、私は、姉だけがいれば…」
その時、私と明ちゃんの肩にがしっと腕が回された。
「私だけがいれば、なんだって?」
それは旭ちゃんの腕だった。いつの間にか、私たちの後ろに回っていたらしい。
「明ィ〜、早速、天降さんとお友達になったんだね。お姉ちゃん嬉しいよぉー」
私と明ちゃんの間に挟まって、うんうんと首を縦に振る旭ちゃん。
「都合よくお姉ちゃん面しないでください。私たちはふたごです」
明ちゃんが旭ちゃんの回した腕から逃れようと身をよじる。
「そうだね、私たちはふたご。でも戸籍上は私が姉なんだよねー」
グググッ…ガシィッ!明ちゃんは旭ちゃんの腕から逃れられない。
「戸籍ではそうでも、私たちはふたごなんです。身体も魂もふたつに分かたれたけど、ひとりの人間として生まれてくるはずだったふたり…あきゃひゃひゃひゃ!」
あっ、旭ちゃんが明ちゃんをくすぐりに入った。
「あさひ、やめ、おねえちゃ、ひあっ、ひゃひゃひゃひゃ、んひぃ!」
明ちゃんの荒い息がほのかな熱を帯びるまで、旭ちゃんのくすぐりは続いた。
「はあっ、はあっ。ずるいです。いつもそうやって旭は…」
くすぐるのをやめた旭ちゃんは、息も絶え絶えな明ちゃんに優しく語りかける。
「ねえ、明」
「なんですか」
「明はいつも言ってるよね。私たちはひとつなんだって」
「はいー…」
「私は天降さんとお友達になったよ」
そう言って旭ちゃんは挟まってるもう片方、私の方に顔を向ける。
「ね、そうでしょう?天降さん」
「うん、お友達!」
それに私はそう答える。
「なら、私とひとつの明も、天降さんとお友達ってことになるよねー」
旭ちゃんの無理矢理な論理展開、私には予想できたけど、明ちゃんはそう来るとは思わなかったようだ。
「それは…!」
明ちゃんは抗弁しようとしたけど、旭ちゃんの意図を汲んで、私はとどめを刺した。
「うん、私は明ちゃんとお友達!」
「!!」
色々なお喋りをしながら歩いていると、スクーターを避けるタイミングで、旭ちゃんが先頭、明ちゃんと私がその後ろを歩くという並びになった。
その時、ひょいと明ちゃんがステップを踏んで、私に耳打ちしてきた。
「天降さん、姉の事、よろしくお願いしますね」
「ほえ、どういう事?」
「姉と…旭と友達になってください」
ひそひそ話は続く。私は明ちゃんのお願いにこう答える。
「言われなくても、もう旭ちゃんとは友達だよ。もちろん、明ちゃんとも」
「えっ、私は、いいです」
「いいんでしょう?私も明ちゃんと友達になれて嬉しいよ」
私はちょっと意地悪な返し方をした。
「でも、私は、姉だけがいれば…」
その時、私と明ちゃんの肩にがしっと腕が回された。
「私だけがいれば、なんだって?」
それは旭ちゃんの腕だった。いつの間にか、私たちの後ろに回っていたらしい。
「明ィ〜、早速、天降さんとお友達になったんだね。お姉ちゃん嬉しいよぉー」
私と明ちゃんの間に挟まって、うんうんと首を縦に振る旭ちゃん。
「都合よくお姉ちゃん面しないでください。私たちはふたごです」
明ちゃんが旭ちゃんの回した腕から逃れようと身をよじる。
「そうだね、私たちはふたご。でも戸籍上は私が姉なんだよねー」
グググッ…ガシィッ!明ちゃんは旭ちゃんの腕から逃れられない。
「戸籍ではそうでも、私たちはふたごなんです。身体も魂もふたつに分かたれたけど、ひとりの人間として生まれてくるはずだったふたり…あきゃひゃひゃひゃ!」
あっ、旭ちゃんが明ちゃんをくすぐりに入った。
「あさひ、やめ、おねえちゃ、ひあっ、ひゃひゃひゃひゃ、んひぃ!」
明ちゃんの荒い息がほのかな熱を帯びるまで、旭ちゃんのくすぐりは続いた。
「はあっ、はあっ。ずるいです。いつもそうやって旭は…」
くすぐるのをやめた旭ちゃんは、息も絶え絶えな明ちゃんに優しく語りかける。
「ねえ、明」
「なんですか」
「明はいつも言ってるよね。私たちはひとつなんだって」
「はいー…」
「私は天降さんとお友達になったよ」
そう言って旭ちゃんは挟まってるもう片方、私の方に顔を向ける。
「ね、そうでしょう?天降さん」
「うん、お友達!」
それに私はそう答える。
「なら、私とひとつの明も、天降さんとお友達ってことになるよねー」
旭ちゃんの無理矢理な論理展開、私には予想できたけど、明ちゃんはそう来るとは思わなかったようだ。
「それは…!」
明ちゃんは抗弁しようとしたけど、旭ちゃんの意図を汲んで、私はとどめを刺した。
「うん、私は明ちゃんとお友達!」
「!!」
沈黙。
私たちの上空を、小鳥が飛んでいる。
ああ、これって、シティーハンターでトンボが飛んでいる、あの「間」だな。
私たちの上空を、小鳥が飛んでいる。
ああ、これって、シティーハンターでトンボが飛んでいる、あの「間」だな。
そんな少しの間の後、私と旭ちゃんの向こうの、明ちゃんがゆっくりとこちらを振り向く。
「…私と姉、まとめて面倒見てくれますか?」
「もちろん!!」
根拠なんてない。でも私は全力でそう答えた。
「…わかりました。不束か者ですが、これからも、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね!」
私は、旭ちゃんが覆い被さってない方の手を伸ばして、ふたりに向けてVサインをした。
「あはははは、やったー!明にも友達ができたー!」
「ともだち…」
満面の笑みの旭ちゃんと、少し赤面している明ちゃん。こうして見ていると好対照なふたりだ。
「うん、ともだち、ともだち!ほら、あの小鳥も、きっと私たちの幸せをお祝いしてくれているよ!」
私はVサインをしていた手を上空に向けて、くるくると飛んでいる黒い小鳥を指差した。
実際、私たち三人は幸せな気持ちに包まれていた。
「…私と姉、まとめて面倒見てくれますか?」
「もちろん!!」
根拠なんてない。でも私は全力でそう答えた。
「…わかりました。不束か者ですが、これからも、よろしくお願いします」
「うん、よろしくね!」
私は、旭ちゃんが覆い被さってない方の手を伸ばして、ふたりに向けてVサインをした。
「あはははは、やったー!明にも友達ができたー!」
「ともだち…」
満面の笑みの旭ちゃんと、少し赤面している明ちゃん。こうして見ていると好対照なふたりだ。
「うん、ともだち、ともだち!ほら、あの小鳥も、きっと私たちの幸せをお祝いしてくれているよ!」
私はVサインをしていた手を上空に向けて、くるくると飛んでいる黒い小鳥を指差した。
実際、私たち三人は幸せな気持ちに包まれていた。
その黒い小鳥が、旭ちゃんの胸に飛び込んで、奇雷獣が出現するまでは。
2022.12.31.更新分
旭ちゃんの危機!
――――号姫視点――――
それは一瞬の出来事だった。
上空を旋回していた黒い小鳥が急降下して、旭ちゃんの胸に飛び込んだかと思うと、そのまま吸収されてしまったのだ。
この時、旭ちゃんは、明ちゃんと私に挟まって肩を組んでいたので、小鳥の突撃を避ける事ができなかった。
小鳥…思い返してみれば、闇のように真っ黒な小鳥だった。きっと、キライシードから生み出された何か、それがあの小鳥だったのだ。
私はその事に気付けなかった事を悔いたが、今は動く時だ。
上空を旋回していた黒い小鳥が急降下して、旭ちゃんの胸に飛び込んだかと思うと、そのまま吸収されてしまったのだ。
この時、旭ちゃんは、明ちゃんと私に挟まって肩を組んでいたので、小鳥の突撃を避ける事ができなかった。
小鳥…思い返してみれば、闇のように真っ黒な小鳥だった。きっと、キライシードから生み出された何か、それがあの小鳥だったのだ。
私はその事に気付けなかった事を悔いたが、今は動く時だ。
「ううっ…!」
旭ちゃんが呻く。
「旭!」
「旭ちゃん!」
明ちゃんと私が呼びかけるが、旭ちゃんは苦しそうだ。
力なく崩れる旭ちゃんを、私と明ちゃんで支えるが、そのまま三人でへたり込む。
私は体勢を変えて、明ちゃんに旭ちゃんの身体を預ける。
「旭、しっかりしてください!」
「旭ちゃん、旭ちゃん!」
私たちが呼びかけるが、旭ちゃんは答えない。
そうこうしていると、旭ちゃんの胸の辺りに、黒いオーラのようなものが集まってくる。
黒いオーラは渦を巻いて集まり、一つの形をとる。
それは、卵の形をしていた。多分ダチョウの卵くらいの大きさの、黒い卵。
不意に卵にビシッとヒビが入る。そして卵の殻は粉々に砕け……
「クエエエエェェェェッ!!!!」
絶対に卵の中に入りきるわけないだろというくらいの、巨鳥が孵化した。そう、こいつは奇雷獣だ!
その姿はクジャクをもっときらびやかにした様な、豊かな色彩にあふれ、派手な翼と尾羽根を持っていた。頭までの高さは街路樹くらい、広げた翼は町営バスの前後幅くらいはあるだろうか。
そんな巨鳥を目の当たりにして、明ちゃんが絞り出すように一言、
「ホウオウ…」
と呟いた。
旭ちゃんが呻く。
「旭!」
「旭ちゃん!」
明ちゃんと私が呼びかけるが、旭ちゃんは苦しそうだ。
力なく崩れる旭ちゃんを、私と明ちゃんで支えるが、そのまま三人でへたり込む。
私は体勢を変えて、明ちゃんに旭ちゃんの身体を預ける。
「旭、しっかりしてください!」
「旭ちゃん、旭ちゃん!」
私たちが呼びかけるが、旭ちゃんは答えない。
そうこうしていると、旭ちゃんの胸の辺りに、黒いオーラのようなものが集まってくる。
黒いオーラは渦を巻いて集まり、一つの形をとる。
それは、卵の形をしていた。多分ダチョウの卵くらいの大きさの、黒い卵。
不意に卵にビシッとヒビが入る。そして卵の殻は粉々に砕け……
「クエエエエェェェェッ!!!!」
絶対に卵の中に入りきるわけないだろというくらいの、巨鳥が孵化した。そう、こいつは奇雷獣だ!
その姿はクジャクをもっときらびやかにした様な、豊かな色彩にあふれ、派手な翼と尾羽根を持っていた。頭までの高さは街路樹くらい、広げた翼は町営バスの前後幅くらいはあるだろうか。
そんな巨鳥を目の当たりにして、明ちゃんが絞り出すように一言、
「ホウオウ…」
と呟いた。
私はその奇雷獣―ホウオウ―を目の前にして立ち上がる。
せっかく出来た新しい友達、旭ちゃんを奇雷獣を生み出すきっかけにするなんて、私、許せない!
「明ちゃん!」
私は明ちゃんを安心させるため、今、出来る限りの笑顔を見せると、
「待っててね。旭ちゃんは、私が助けるから!」
と言って、明ちゃんにウインクした。
そして奇雷獣ホウオウに向き直ると、ポケットから取り出した変身スマホ・ピュアセッターを前に構える。
「ピュアセッター!」
私は明ちゃんの見ている前で変身する事にした。緊急事態だ、急がないと、旭ちゃんにどんな災難が降りかかるかわからない。
そして私はピュアセッターを天にかざして、叫んだ。
「ジョジピュア!メタモルフォーメーション!!」
私はあふれ出す光に包まれ…
光が弾けた、その時!
せっかく出来た新しい友達、旭ちゃんを奇雷獣を生み出すきっかけにするなんて、私、許せない!
「明ちゃん!」
私は明ちゃんを安心させるため、今、出来る限りの笑顔を見せると、
「待っててね。旭ちゃんは、私が助けるから!」
と言って、明ちゃんにウインクした。
そして奇雷獣ホウオウに向き直ると、ポケットから取り出した変身スマホ・ピュアセッターを前に構える。
「ピュアセッター!」
私は明ちゃんの見ている前で変身する事にした。緊急事態だ、急がないと、旭ちゃんにどんな災難が降りかかるかわからない。
そして私はピュアセッターを天にかざして、叫んだ。
「ジョジピュア!メタモルフォーメーション!!」
私はあふれ出す光に包まれ…
光が弾けた、その時!
そこにいた私は、無敵のヒロイン、ピュアテンゴウではなく、ただの女児小学生、天降 号姫だった。
「あ、あれ?…あれっ!?!?」
「あ、あれ?…あれっ!?!?」