擦れる羽根◆j893VYBPfU
――さーて、こちらもあの金髪のお嬢ちゃんを追おうとするかね?
俺は進路を西に向け、C-3の村へと向かおうとした矢先の事。
こちらに接近してくる、ニンゲンの気配を足下に感じ。
ふと、視線を降ろしてみると。
この月夜では目立つ事この上無い、一つの白い人影が見えた。
それが、ほぼ一直線に俺のいる所へと…。
正確には
ナバールの死体があった場所へと、迷いなく向かっている。
――まるで、そこに何があるかを最初から知っているかのように。
俺はどうしてもそいつの様子が気になり、高度を落として近付いてみた。
勿論、こちらが発見されないように、背後に回り込みながらだ。
白い人影は、粗末なローブかドレスを身に纏っているように見えた。
その細くしなやかな人影からして、どうやら若い女であるらしい。
さらに近付いてよく見ると、身に纏っている白いものは衣装ではなくシーツであり。
それがずり落ちないように、両手で自分の身体を抱くようにして押さえている。
長い距離を走り続けながら、その姿勢に一切の乱れがなく呼吸も整っている事から、
それなりに鍛えられてはいるのだろう。だが、どこかしら走り辛そうにしている。
シーツ以外に目立つ装備はなく、またデイバックすら持ち合わせてはいない。
どうやら、身一つでどこかから逃げ出してきたようだ。
そこから察するに、靴さえも履いてはいないのだろう。
――なるほどな。ニンゲンの男にでも襲われて、命からがら逃げ出したって所か?
念の為、上空から周囲に探りを入れてみる。
女の追撃者や同盟者の類を警戒したが、それらしい人影も一切確認は出来ない。
そもそも、誰かと組んで自ら丸裸の囮となるなど、余りにもリスクが大き過ぎる。
このゲームの勝利者は一名のみ。ならば、いつ裏切るか知れたものではないのだ。
ならば罠は一切ないと、そう判断してもよいだろう。
そこで、俺はこの女の利用価値を考えてみる。
素寒貧も良いところだ。襲った所で、かっぱげるものは何一つない。
――無論、首輪とその生命を除いて、と言った所だが。
だが、そこまで窮状にある女を保護して恩を高値で売り付ければ、
彼女の知り合いの心象も良く出来るだろう。
そして、何よりも。そのニンゲンを襲った危険人物についての情報も得られる。
このゲームに乗るにせよ、反るにせよ、ただ殺すよりははるかに有益だ。
接触してこちらが危険になる要素は何一つない。
いざとなれば、始末などすぐにでも出来るのだ。
だが、オレはその女の取る行動が少々気になり。
話しかける前に、少し泳がせてみる事にした――。
◇ ◇ ◇
ひたひたと、素足のまま夜道を駆け抜ける。
城内で出会った二人が、こちらを追って来る気配は感じられない。
恐らく、未だ痴話喧嘩の真っ最中なんだろう。
ま、追って来られても困るんですけどね…。
あの時の事でかろうじて覚えているのは、シルターンの般若まがいな形相で
“浮気性の彼(デニム)”の名前を呼んだ女性が「姉さん」と呼ばれた事くらい。
もしかすると、二人は姉弟だったのかもしれない。
再び名簿が手に入れば、“デニム君”の姓からその同行者も特定は出来るだろう。
もし養子縁組や結婚等で“姉さん”の姓が変わっていれば、それは諦めるしかない。
雰囲気的に、後者は二人ともまずないだろうが。
――ま、あれだけ殺意ビンビンに刺しにきたら、嫌でも目が覚めちゃうってもんですよ。
暴れん坊で躾のなってない弟と、それを盲目的に溺愛する姉、なんでしょうかね?
そこでふと、なんとなく知り合いの仲が良過ぎる姉妹を連想する。
イスラも姉さん以外の女性(例えば先生とか)を好きになって家族に紹介する時、
色々と大変な事態になっちゃうかもしれませんねー。
ま、流石にさっきの二人と比較するのは失礼な気もしちゃいますが。
…馬鹿げた妄想を中断する。
身体にぴったりと張り付く濡れたシーツの寒さと、
素足に食い込む砂利の痛みに顔をしかめながらも。
私は当初の“目的地”へと駆け続ける。
それは、着替えと暖の取れそうなC-3の村ではなく。
昼過ぎに見かけた、笑顔で死んでいたお兄さんの死体があった場所。
――まずはそこから。
理由は幾つかある。
一つ目は未だ森林火災が鎮火し切っていない可能性が充分にあり。
もし火がなくとも、焦土となり果てたばかりの灼熱の地面の上を、
素足のままでは到底歩き続けられないだろうという事。
二つ目は、城から村までの長い道のりが、余りにも見晴らしが良すぎるという事。
これでは他の参加者に発見される危険性が高く、しかも逃げ場や隠れ場所がない。
「この私を好きにして!」と言わんばかりな今の状態。
たとえこの殺し合いに乗っていない人物であっても。
時間稼ぎとアイテムゲットの為、慰み者にされた挙句殺られる可能性は充分にある。
目撃者と証拠さえなければ、殺人は罪に問われる事はなく。
常軌を逸した環境であれば、人は簡単に凶行に走れるのだ。
それは、私自身が遠い昔に散々見知ってきた事だから、痛いほど理解している。
今あるこの状況も、「とうとう自分の番が回ってきた」と考えられなくもない。
だが、その運命はまだ受け入れられない。
大恩ある先生に恩返しをする為、ここに連れて来られた仲間達を救う為。
そして、大雑把なようでいて、案外繊細なあの子を元気付けさせる為にも。
今、この生命を無駄に失う訳にはいかないのだから。
私の生命は、決して私の為だけにあるのではない。
だからこそ、今無意味に生命を危険に晒すような真似だけは出来ない。
私にはまだ、死ぬ前にやるべき事がたくさんあるのだから。
故にこそ、まだ身を隠す場所が多少はあり。
なおかつ、今の私にとって移動がマシになるものを回収に。
足に負担が掛からぬようC-5の海岸沿いを伝って南下し、
少し遠回り気味にD-6へと向かう事にした。
そして、目的のものは確かにあった。
だが、奇妙な事に。いや、ある意味当然と言えるのかもしれないが。
目当てであったお兄さんの死体はその首が鋭利な何かで焼き切られ、
そこに付いてある筈の首輪は、失われていた。
凶器は兎も角、その理由は考えるまでもない。
私が来る前に、誰かが此処を通りがかり、首輪を回収したという事だろう。
私は警戒の姿勢を取るが、それらしい人影は何処にも見えない。
こちらを伺うような、気配のようなものは感じられるのだが…。
――ま、気のせいですよね?
周囲の草むらを念入りに捜索してみるも、生きている人間は一切発見出来なかった。
おそらく、先程の一件で神経が過敏になり過ぎたからなのだろう。
気を取り直して、先程新しく発見した“もう一つの死体”のある場所へと向かう。
それは、まだ年端も行かぬ少年のものであり。やはりその首は切り落とされていた。
ただ、私の身の丈からすれば、こちらのほうが目的に合致する。
そう判断すると、両足の靴を脱がしベルトに手を掛けて緩めて。
下の履き物を、一気に引き下ろした――。
そして、脱がせたものの状態を確かめる。
――多少血が付いちゃってますけど、乾いてますし大丈夫ですよね?
うん、長さも幅も丁度いい。
ごめんなさいね、少年の方…。
私は手を合わせて少年らしき死者にお詫びの黙礼をし、履き物を手に取る。
でも、全裸にシーツ一枚で野外を走り回り、いたいけな少年の履き物を脱がしてる
今の私の状況って、傍から見ればどうしようもない痴女にしか見えませんよね?
誰に見られても、言い訳が出来そうにありません…。
私はそんな意味のない妄想に耽り、溜息を付くも。
「おいおい、そりゃねえだろニンゲン…。」
ほーらね、やっぱりそういう突っ込みが…。
って、え?
声の出所に悩んだのは、ほんの一瞬だった。
今は、そちらに振り向く刹那さえも惜しい。
私は、少年の履き物類を手に持ったまま。
考えるよりも先に声が聞こえた方向に背を向け、疾走を始める。
だが、それよりもなお迅く。音速にも似た速さで。
鞭のような滑った何かが幾重にも身体に絡みつき。
気が付けば、私はなすすべもなく宙吊りにされていた。
そして少しずつ、高度が上がっていく。
上へ、上へ、上へ、上へ、上へ―――。
やがて、少年とお兄さんの姿が上空から見下ろせる程高くなった頃――。
吊り上げた男は、振り向いた私へ気軽に話しかけてきた。
◇ ◇ ◇
「よっ、ニンゲン。良い趣味してんなあんた。
もしかしなくても痴女か。で、ここで何している?」
逃げ出そうとするそいつを手に持つ鞭状のもので手繰り寄せ、もう片方の手で抱えながら。
ニンゲンが墜落死するには充分な高度を得てから、俺は全裸の若い女に声を掛けた。
へえ。中々良い感じじゃないか、ニンゲンの道具も。
解説文からして、元々が捕縛や尋問の類を目的とした道具のせいないのか。
柄側での僅かな指先の操作で、綺麗に撒き付いてくれやがる。
「操作はマジックハンドのようなもの」と説明文にあったが、
意味は分からないが兎に角扱い易いものだと理解はした。
柄には触手を動かす引き金が四つ、各々で動かせる様になっており、
引いた引き金の組み合わせで、色々な所をまさぐる操作方法らしい。
試しに少々動かしてみると「あ、ちょっと…、いやっ…。」と女が軽い抗議の声を上げた。
まあこれ以上色々試すのは、後に回してもいいだろう。質問が先だ。
しかし、さっき少し声が甘く艶がかって聞こえたのは気のせいか?
――さて。どうしたもんだかな、全く。
全裸に透けたシーツ一枚の女が、出し抜けに
マルス王子のズボンを脱がし。
それをガメて手を合わせた際には露出狂の上に屍姦趣味でもあるのかと
己の目を疑い、ついつい突っ込みを入れてしまったが。
その小声を耳聡いニンゲンに聞かれてしまい。
逃げられそうになったもんで、咄嗟に“あやしい触手”で捕まえてはみたものの。
俺はこの女のその後の処理に、ほとほと困り果てていた。
接触を図るなら、翼を隠してからにするつもりだったのだが。
これでは、己の正体がベオクではないとばらしたも同然である。
昼間のスクリミルもどきの一件もある。
ニンゲンは己以外の種族には、極めて傲慢かつ不寛容である。
それは異邦人だとなおさらに発揮されるのは既に体験済みだ。
だったら、今更この女を助けて恩を売ったところでメリットはない。
この場では感謝されるものの、後ほど「空を飛ぶ危険な化け物」の噂を
他の参加者に吹聴されるだけだ。そうすれば、俺の今の優位性は激減する。
ならば、この女が持っている情報を引き出すだけ引き出して、
その後に人知れぬ場所で墜落死してもらうという手もある。
無論、俺の情報は
アイクや
ミカヤ等を通じて既に流出している可能性は充分にある。
だとすれば最初から情報漏えいしている分、無理に口封じする意味もあまりない。
さて、どちらが良いもんかね?
そう、あれこれと考えていると――。
「乙女にそんな酷い事言わないでくださいよー。
近くで強盗達に身ぐるみ剥がされて、貞操まで奪われそうになってぇー。
ここで着替えを探そうとしたら、また捕まって。もう散々なんですよぉー。」
「こんな私を哀れだって思ってくださるなら、まずは降ろしていただけませんか?
こんな事されるより、後で色々と良い事あるかもしれませんよ?」
色々と、聞き捨てならない事を言う。
そして、その辺のニンゲンの男が見れば、つい誘惑されちまいそうな程の。
甘い吐息と潤んだ瞳の蠱惑的な表情をこちらに向けてくるが。
その身体は緊張に強張っている。警戒心に満ちているのは明らかだ。
今、下手に暴れれば振り落されるから抵抗をしないだけなのだろう。
とはいえ、妙な違和感を感じもした。
危険は察してはいるものの、化け物を見るような生理的嫌悪はまるでないのだ。
まるで、そうした「翼持つ存在」に、心当たりでもあるかのように。
それで気が付かなかったのは、こいつが間抜けか、もしくはそれが相当珍しいのか。
この辺りの情報も、一応は聞いてみた方がいいかもしれない。
「生憎、俺は妻帯者だ。これでもリアーネに操は立てているんでね。
あんたの言う“良い事”には乗れないなぁ?」
ニンゲンの女なんぞ犯して孕ませようものなら、出来たガキに力奪われて
こっちが化身できなくなっちまうんだがな。…正直言って、願い下げだね。
「いやあー、そういう意味での良い事じゃなかったんですけど…。
もう。いやですねえ、乙女を捕まえてこのムッツリスケベさんは?
ほら、お決まりの情報交換とかあるじゃないですかぁー。
足が浮きっぱなしじゃ、ちょおっとばかり落ち付かないんですけどね。」
あー、そっち系の誘いじゃなかったのか。
全裸で男に抱き寄せられても全く物怖じしない上に、
やたら場慣れしている感じだから経験豊富なのかとばかり思っちまったが。
…気のせいかね?俺の勘も鈍ったか?
とはいえ、彼女の懇願は綺麗に流す。
「良い男の腕にかき抱かれながら、ニンゲンじゃ絶対に眺める事が叶わない…。
星空の絶景を見渡しながら楽しくデートってのも、
なかなかに粋な計らいっだって思わないかね?」
「あれ?さっきと言っている事が矛盾してませんか?
それに、私にも彼氏がちゃんといますから。
そういう浮気のお誘いは、ちょっと困りますね…。」
「そりゃ残念だな。じゃあ、このまま本題に移るとするか。
一つ。なぜ、ここにこいつらの死体がある事を知ってた?」
「乙女のヤマ勘です!」
――嘘こけ。
「二つ。強盗達ってどの辺りにいる?どんな人相と組み合わせだ?」
「貴方みたいにいきなり後ろから襲って来ましたから、あんまり顔とか覚えてません。
それに、夢中で逃げて来ましたからね。あ、もう少し落ち付けそうな場所でなら、
色々と思い出せるかもしれませんよ?」
――おいおい、いけしゃあしゃあと何抜かしやがる。
「三つ。とりあえず、呼び辛いから名前でも聞いておくか。偽名でも構わないぜ?」
「えー、私はしがないアルバイターです。別に名乗るほどのものでもないですよー。」
――なるほど、冗談は口にしても、一切の手掛かりは与えないという事か。
正直に本名を口にするか、偽名を口にするかで人間性を値踏みたかったが、これも駄目か。
やはりというか、まずは地面に降ろさない事にはまともに会話するつもりはないらしい。
自分が持っている情報という財産がなくなれば、いよいよ消される可能性がある。
だったら、身の安全が保証されない限り、一切の情報を渡すのは厳禁だという
状況判断は出来るようだ。のらりくらりと質問をかわす辺り、中々に喰えない。
だが逆に、開口一番にさりげなくこちらが喰い付きそうな情報を断片的に渡す辺り、
それなりに駆け引きの妙味も心得ている。
只の痴女でも馬鹿でもない。
これなら、この女自体にも充分な利用価値はあるだろう。
助けてやって恩を売り、
オグマのように一時的に組んでもそう悪くはない。
だが逆に言えば、油断すれば寝首を掻かれる事にもなりかねないのだが。
「へえ、何一つ真剣に話しをする気はないって訳だ…。」
手が、少しだるくなってきた。
女の体重はリアーネとあの糞爺を足して少しだけ引いた感じだ。
まだまだ充分抱え続ける事も出来るが、このままじゃ少々疲れる。
このまま星空の中ランデブーを続けても、あまりメリットはない。
――だったら、どうしたもんだかね?
さっさと突き落として処分するか?
降ろしだけはするが、そのまま縛った触手でじっくりと尋問でもしてみるか?
あるいは、このまま拘束を解いて女に恩の一つでも売り付け泳がせてみるか?
俺の回答は――。
◇ ◇ ◇
しくしくしく…。
この有様じゃ、私も現役引退した方がよいのでしょうか…。
立て続けに起こした失態と、色々な意味で周囲に誤解を与えかねない光景を
見られてしまった恥ずかしさで、私はすっかり鬱な気分になってました。
やっぱり、痴女扱いされちゃってますし…。
だからといって、それであちこちまさぐるのは酷いですよぉ。
変に滑っている分、食い込んだ所が擦れて妙な気分にさせられちゃいますし…。
背後から抱き寄せられたまま、私はその襲撃者を首を曲げて横目で見る。
後ろへと綺麗に撫でつけられた黒髪。
軽薄なようでいて鋭い印象を与える、端正な顔立ち。
年齢は青年のようにも、中年のようにも感じられる。
小洒落た感じの、黒一色に統一された軽装。
そして、フレイズさんを思わせる大きな鳥の翼。
――ただし、その色は烏のような艶やかな漆黒。
それは、天使というよりは堕天使とでも表現した方が相応しく。
まるで、掴み所というものがない。
私が抱いたのは、そんな印象。
――フレイズさんがやさぐれたら、こんな感じになるんでしょうかねー?
そんな馬鹿馬鹿しい事を考えて、込み上げる焦燥と緊張を紛らわせる。
天使がリィンバウムに居続けるのは珍しく、また彼とはほとんど接点がなかった為、
参加者に上空から俯瞰出来る存在までは流石に想像できなかった。
仕方ないとは言え、私の見落としであるのは違いない。
状況は、先程より更に危機的ではある。
今回は、如何なる抵抗も逃避すらも出来るものではないのだから。
だからこそ、彼もこうして会話に上空を選んだのだろう。
だが、一方で幸いな事に、彼には悪意や殺意のようなものは一切感じられない。
会話から察するに、無用な殺戮や凌辱を好む野獣の類という訳ではないのだろう。
――今の所は、だが。
そして、どこかしら人を侮蔑したような鋭く冷たく光る瞳は、
必要とあらば躊躇いなく人を殺せる人種であるとも告げていた。
私は、その最悪の未来だけは絶対に回避しなければならない。
――だったら、どうすべきか?
答えは簡単。要は「私を殺すには惜しい」と思わせなければならない。
かつてオルドレイクにもした時のように。ならば処分される事もない。
具体的方法としては、相手の欲望を満たし続けてやったり、利用価値があると思わせたり。
前者は駄目だ。相手に一切乗り気がない。何より、私ももう二度とあんな事はしたくない。
それ以前に、彼にはどこかしら人間という種族を嫌悪している気配がある。
それは妙な訛りで「ニンゲン」と皮肉っぽく呼ぶ事からも明らかだ。
変に媚を売れば嫌悪感を煽り、却って自殺行為にもなりかねないだろう。
残るは後者、「利用価値があると思わせる」事だが。
このゲームに関する情報面においては、それなりに自信がある。
おそらく、私はこの会場内でも最も事情に通じている参加者の中の一人だろう。
だが、それを惜しみなく全て吐きだせば用済みとなり、即座に始末されかねない。
だからといって、一切開示しなければ情報などないも同然と判断される。
開示する場合は、匙加減が重要だ。
あるいは他の参加者についての情報を小出しにし、
彼らとの繋がりをちらつかせるのも一つの手だが。
もし私を抱えている者が、このゲームの反逆を装って実は乗っている類の人種なら?
後々、深刻な厄災を呼びこむ可能になる。
どちらにせよ、慎重に行うべきであろう。
ともあれ、抱えている黒い翼の優男が嫌な気まぐれを起こす前に――。
私は今の事態を打開しなければならない。
私は、その為に――。
脳内にある情報を整理し、次に紡ぎ出す言葉を探し始めた。
【D-6/マルスの死体付近・上空/初日・深夜】
【
パッフェル@サモンナイト2】
[状態]:健康。身体的疲労(中度) 、精神的疲労(中度)、触手により拘束状態、
後悔と羞恥(中度)、首筋にかすり傷、シーツが所々透けている
[装備]:濡れたシーツ一枚、(多少血の付着した)マルスのズボン、靴
[思考]1:
ネスティの探索及び手がかりの調査を行う。
2:これまでの考察をメモに纏めたい。
3:アティ・マグナを探す(その他の仲間含め、接触は慎重に行う)
4:見知らぬ人間と遭遇時、基本的には馴れ合うことは無い
5:このやさぐれたフレイズさんみたいな人(
ネサラ)と交渉を試みる。
6:???
[備考]:デニムにより、「愛した者を殺す」呪詛をかけられています。
本人が自力で気づく事は不可能です。
:マルス王子から脱がせたズボンと靴は、まだ手に持っているだけで履いていません。
:城内で自分を襲った男が「デニム」という名前であり、「姉さん」がいる事だけは
思い出しました。
【ネサラ@暁の女神】
[状態]:打撲(顔面に殴打痕)、パッフェルを拘束中。
[装備]:あやしい触手@魔界戦記ディスガイア、ヒスイの腕輪@FFT
[道具]:支給品一式×2 清酒・龍殺し@サモンナイト2、筆記用具一式、
真新しい鶴嘴(ツルハシ)、大振りの円匙(シャベル)
[思考]
0:己の生存を最優先。ゲームを脱出する為なら、一切の手段は選ばない。
1:とりあえず、捕まえた女(パッフェル)をどうすべきか?
2:オグマは手を組む価値あり。だがしばらく泳がせておく。
3:
キュラーの言う“貢献者”(
アルマ?)はどうやって主催と会話をしたのか?
4:
ラムザとアルマの動向に興味。接触はアルマの精神状態を見てから。
5:アイク・
ソノラの情報は次の機会にでも。
6:脱出が不可能だと判断した場合は、躊躇なく優勝を目指す。
[備考]
※
臨時放送の内容から、主催と連絡を取る方法があることに気付きました。
※主催に
ルール変更を持ちかけたのは、アルマの可能性が高いと考えています。
※アルマがゲームに乗っていることを知りました。
危険性の高いアイテムの影響下にあるのではないかと考えています。
※この舞台そのものが、ある種の『作りもの』ではないかと考えています。
そして、このゲームの主催者が女神アスタルテに匹敵する超越的存在であるが、
同時にその奇跡にも等しい力にも限界があるのではないかと踏んでいます。
※このゲームに、ラグズの存在さえ知らない異邦人が数多くいることを確信しました。
※捕まえた女がパッフェルである事は、顔写真の下にある名前から気付いてはいます。
※ネサラの
参加者名簿には顔写真(肖像画と認識)がついています。
名前の左隣にチェックを入れており、内容は以下のようになっています。
[共通備考]:マルス王子の死体から、靴とズボンが両方脱がされています。
ズボンに付着した血は既に乾いています。
最終更新:2013年04月10日 19:09