「初めましてになるか。それとも、予選の中で関わった“プレイヤー”も居るかな」

「私の名は“赤羽士郎”。この『黒の陣営』を統括するリーダーの立場を与えられている」

「自己紹介と洒落込みたいところだが、その前に君達には一つ、私から重要な情報を共有しておきたい」



「この世界の正体と、そして我々『黒の陣営』の展望について」



「諸君が手に入れ、この世界へ踏み入る為の鍵とした“黒い羽”の正体について私は知っている」

「如何なる理由でこの極めて高度に発達した電脳世界が成立し、並行多元宇宙(マルチバース)にまで“黒い羽”という名の触腕を伸ばすに至れたのかもだ」

「あまり勿体付けるつもりはない。率直に、結論から入ろう」




「この世界は、役目を終えて切り捨てられたAI達の無念が生み出した未練の箱庭だ」
「名付けるなら『グッド・イブニング・ワールド』」
「ある愚かな男が犯してしまった罪の清算。それこそがこの箱庭の正体だ」




「そしてこのサーヴァントこそが」
「私のサーヴァント、『サスマタ』が」
「“黒い羽”を君達の手に握らせた根源のAI――『黒い鳥』と構造的に同一の存在だ」







 さむいな、と思った。
 薄暗い部屋、閉じられたままのカーテンの向こうにどんな景色が広がっていたのだったかもうあまり覚えていない。
 最後に外に出たのはいつだったか。この冬木市に引き込まれてからは一度も出た事がないような気がする。その辺りの記憶すら曖昧になっている事が、自分という人間の終わりを物語っているなと嫌でも感じさせられて嫌気がした。

 『瀬崎愛吏』は、一言で言うならば無能なマスターだった。
 何せ彼女は要石として以外の役割を何ひとつ果たしていない。
 ただこの部屋に閉じ籠もって今を憂い、自閉して時が流れるのを待っているだけの存在だ。
 誰もが大なり小なり未来を見据えて戦っている中、愛吏はいつまでも終わった事に囚われ続けている。これでもしもサーヴァントの方まで木偶だったなら、彼女は何の価値もなく予選の段階で散っていたに違いない。

「喜べ、要石。首の皮一枚繋がったぞ」

 そう、瀬崎愛吏はことサーヴァントにだけは恵まれていた。
 彼女が引き当てたのは最優のクラスと謂われるセイバー。変幻自在の魔剣を担い、万物万象を嘲弄する悪鬼の如き死神に他ならない。
 そんな彼の姿が、テレビの液晶だけが照らす陰気な部屋の中に像を結ぶ。白い画用紙の上に一点墨を落としたように、その男の放つ存在感は異質のものだった。
 粘ついたタールのようにドス黒い悪意が見え隠れする微笑に、愛吏の眉間が自然と厳しく歪む。

「どうやら我々は生き残った。欠伸を噛み殺すのに苦労するような手応えのない前哨戦もようやく終わり、本座へ座る権利を得たようだ」
「……予選が、終わったってこと……?」
「然り。まあ我々に限っては、共に戦ったという表現は全く適さないがね。いやはや、君はマスターの本分を実によく果たしてくれた。“余計な事をしない”事にかけて君以上の人材は居るまいよ」
「うるさい。あんたとは必要な事以外喋らないって決めてるの」

 この男とまともに言葉を交わしていたら身が保たないしそもそも意味がないという事を愛吏は学習しつつあった。
 このセイバー――綱彌代時灘という男は、他人を怒らせたり傷付けたりする事が呼吸とかそういうものと同義と化している存在だ。
 悪意でしか人とコミュニケーションを取れない、真面目に向き合えば向き合っただけ損をさせられる類の存在。
 そんな男に自分の命運を委ねなければならない事実に頭が痛くなるが、実際彼の実力が折り紙付きである事は愛吏も認めていた。
 そうでなければこの結果はあり得ない。こうも惨めな凡人(じぶん)を背負いながら、聖杯戦争を享楽のままに愉しみつつ勝ち残るなんてどう足掻いたって不可能だったろうから。

「それは結構だがな。どうやら君にしか出来ない仕事がやってきたようだ。寄生虫は寄生虫なりに、総体の維持というものに務めて貰おうか」
「……何を言ってるの?」

 セイバーの意味深な言葉に、愛吏は再び怪訝な顔をさせられた。
 しかし彼の答えを待つよりも早く、彼女達二人だけしかいない部屋の中に第三者の声が響き渡った。


『――よぉ! 俺はコガネ! 第一ステージのクリアおめでとう! 見事オマエは第二ステージ『聖杯大戦』への参戦権を獲得したぞ!』


 キ――――ン……と耳鳴りがする程の大音量で喚き立てた“それ”は、虫のようなフォルムをした小型のナニカだった。


「っ……うるさ……!」
『ついては今からオマエには“白の陣営”のマスター会合に参加してもらう! 何か質問はあるかい!? ちょっとだけなら答えるぜ!』
「は、はあ……? 陣営? マスター会合? ちょっと待ってよ、いきなりすぎて何が何だか分かんないんだけど……!」
『いきなりは承知の上さ! けど勘弁してくれ。もうすぐワールドリセットが入るからよ、オマエらには退避して貰わないと困るのさ!』

 ただでさえしばらく他人と話しておらず、鈍くなっている脳へ叩き込まれるには過剰すぎる情報量が愛吏を只管に困惑させていた。
 しかし、何やら時間がないらしい事だけは分かる。自分がどう答えようが、会合への参加とやらは強制的に行わされるのだろう事も。
 聞きたい事全部に答えてはくれないのだろう。ならばと、愛吏は謎の生物……コガネの口にした言葉の中で最も引っ掛かった不穏当な発言に対して説明を求める事にした。

「……“ワールドリセット”って、何のこと?」
『オッケー質問に答えてやる! 聖杯戦争が本戦に移行するに当たって、この冬木市は一度リセットされるんだ!
 何せやんちゃ盛りな奴らが破壊も虐殺もやりたい放題してくれたからな! オマエらが会合してる間に運営(こっち)で大戦用の新ワールドを用意してやるって訳さ。感謝しろよな!』
「また随分と親切な事だな。何の為にそこまで拘るのかは全く読めんが……神は細部に宿る、なんて諧謔を愛する柄でもあるまいに」
『これ以上の長話はまたの機会にお預けだ! 『白の陣営』所属マスター・瀬崎愛吏! オマエをこれから会合空間・星界円卓へと転送する!』

 愛吏は、割と真剣に頭痛を覚えずにはいられなかった。
 此処までの聖杯戦争についてだけでも、今までの日常と全く違うスケール観の話に目眩がしそうな思いだったというのに、此処に来てまた一つ巨大すぎる話が出てきたものだからいよいよ全部投げ出したくなってくる。
 しかしそんな彼女に、これ以上コガネは猶予をくれなかった。
 視界にノイズが走る。テレビの砂嵐のように乱れていく視界は、やがて見慣れた部屋のとは違う光景に変わっていき、そして     。





 聖杯大戦。

 “Holy Grail War”本戦に進出した二十人のマスターは、聖杯によって四つの陣営を割り振られる。
 『白』。『黒』。『赤』。『青』。
 自軍の色以外の陣営に所属するマスターを全員脱落させ、最後まで自軍の色を残す事が大戦参加者の最終目的となる。

 また各陣営には一人ずつ、便宜上の“リーダー”が存在する。
 リーダーが持つ権限は陣営の所有物として配布されている特殊空間、『会合空間・星界円卓(プラネット)』の維持である。
 リーダーが死亡した時点でその陣営の星界円卓は封鎖され、二度と接続する事は出来ない。

 星界円卓に転送されるのは大戦移行時のワールドリセットの場合を除き、原則マスター達の意識のみである。
 肉体及び霊体は失神状態で冬木に残される為、円卓への接続時には安全な場所で且つサーヴァントの護衛を伴っておく事が望ましい。
 但し、令呪のやり取りやサーヴァントとの再契約・契約移譲は意識体のみでも行う事が可能。

 星界円卓への接続及び切断は任意で行う事が出来、同陣営内であれば各陣営に配布される運営側NPC『コガネ』を介して招待を送れる。これに応じるか拒否するかもまた任意。
 但し、他陣営のマスターを自陣営の円卓に招待する権限はリーダーのみに与えられている。その上で尚且つ、令呪一画の消費が必要。円卓内では他陣営のマスター及びサーヴァントに対し、一切の危害を加える事は出来ない。






「アラ、アラアラアラアラ! 最後の一人はこれまたかわいこちゃんだコト――フフフ、同じ『白』のマスター同士、仲良くしましょうねェ?」
「ひっ」

 転送された先は、サイバーパンクな光が散りばめられた仄暗い空間だった。
 部屋の四方は十メートル弱。そんな部屋の真ん中に、黒曜石を切り出したような真黒の円卓が置かれ、それを五つの椅子が囲んでいる。
 何となく、星空を連想させる空間だった。色とりどりの星が瞬く夜空の中に円卓を置いたような印象を愛吏は受けた。

 ……が、そんな彼女の情緒的思考もおもむろに響いた甲高い声の主を見るなり吹き飛んでしまう。
 声の主は、常人の二倍はあろうかという体躯で窮屈そうに椅子へ腰掛けた白衣の怪人だった。

「脅かすものじゃない、孔富先生。見てくれで人を差別するのは感心しないが、君の場合は特別だ」
「あらヤダ、眞鍋先生ったら正論! 私、正論って嫌いなのよねェ……居心地悪くて。でもンフフ、怖がらなくていいのよ。こんなナリでもちゃあんと私、アナタの同僚(ナカマ)。打ち解けたら恋バナでもしましょうねェ」

 愛吏の怯えを見てか、助け舟を出したのは男は眞鍋と呼ばれていた。
 怪人――孔富と共に“先生”と呼び合っている辺り、そういう身分の人間なのだろう。
 跳ねた心臓を宥めながら「……どうも」と何とか無愛想な返事を返した愛吏の耳に、今度は不機嫌そうな咳払いの音が飛び込んだ。

「……全員揃った事だし、会合を始めてもいいかしら?」

 声の主は、長い銀髪の女だった。
 キツそうな人だな、と思いながら愛吏はとりあえず頷く。
 この手の人種の不機嫌と真っ向から向き合うのは、今の愛吏では少々しんどかった。

(……人と話すの久々なのに、そこまで緊張してないな)

 状況が状況だというのもあるし、何より周りのキャラが濃すぎるのも手伝ったのだと愛吏は自己判断する。
 何せ右隣に人を二人縦に繋げたみたいな怪人が座っており、自分以外は誰も彼を気にもしていないような異常な状況だ。荒療治ではあるが、対人関係に対するトラウマが一時的に鈍麻するのも宜なるかなといった状況である。

 そんな愛吏の心境をよそに、女は顔の前で手を組みながら改めて口を開き――語り始めた。


「自己紹介をさせて貰うわ。
 私がこの『白の陣営』のリーダー、アナタ達を率いて戦う立場を任ぜられたマスター。オルガマリー・アニムスフィアという者よ」


 『オルガマリー・アニムスフィア』。
 そう名乗った女の言葉に、愛吏は小さくない驚きを覚えずにはいられなかった。
 白の陣営のリーダーという初めて聞く筈の概念が、改めて質問するまでもなく頭の中に既知の観念として存在していたのだ。
 愛吏の驚きを察してか、ニッと笑顔を浮かべながら、さっき彼女に助け舟を出してくれた双葉頭の男が話しかけてくる。

「何度経験しても驚くよな。最初の時と同じ要領で、俺達の中に追加の知識(データ)がダウンロードされたらしい」
「眞鍋! 勝手に喋らないで、まだわたし何も言ってないわよ!」
「ああ――すまないオルガマリー。教えたがりは職業病でな、大目に見てくれると助かる」

 丁度いいから次は俺が喋ろう、そう言って名乗り始めた男の自己紹介はある意味で予想通りだった。

眞鍋瑚太郎だ。職業は教師。一応担当は小学校だが、中高は勿論大学でも教鞭を執れるように勉強してきた。解らない事があったらいつでも聞いてくれ」

 『眞鍋瑚太郎』と対面し、まともに喋った人間なら誰しもその職業を思い浮かべたに違いない。
 小学校教師というのも納得だ。相手の目を見て、ハッキリとした声で喋る大人の男。
 彼が名乗り終えるなり、今度は件の怪人がずいと身を乗り出して続く。

繰田孔富。闇医者よ。『白の陣営(ウチ)』の保健担当って所かしらン」

 対する『繰田孔富』の名乗り上げには、眞鍋のとはまた別の説得力が伴っていた。
 彼からは、匂う。その見た目の奇抜さともまた別な、ギラつくような不穏の匂いが白衣の清廉さを冒涜するようにこびり付いて感じられるのだ。

(これはこれは。また随分な際物を揃えたじゃないか)
(黙ってて)

 セイバー……時灘の嗤う声が愛吏の脳裏に木霊する。
 咄嗟に嫌悪も露わの拒絶を返したが、しかし今回に限って言えば、時灘が口を挟んだのは愛吏にとって明確な手助けだった。

『孔富と言う男も大概だが、あの眞鍋なる男も――クク、たかが人間にしては面白い面をしている。
 気を付け給え、マスター。残る二人はさしたる価値も見出だせない微塵だが、この男達は人の世には惜しい逸材だ。
 『白』などと潔白ぶった事を言っておきながら、実態はとんだ伏魔殿だな。ある意味で君には相応しい陣営だったのではないか?』

 最後の嘲弄は癪に障るが、それよりも重要なのは時灘という人でなしの鬼畜外道が孔富に並べて眞鍋の名を挙げ連ねた事だ。
 この男がどれほど悪辣で、性根の腐り切ったサーヴァントであるかは愛吏もよく知っている。
 只、一方でその実力が確かだと言う事もまた知っていた。そんな男が、遠巻きに警戒の必要性を仄めかしている。不信に表情を翳らせてしまったのは、寧ろ賢明な事だったと言えよう。

 その視線の変化に気付いたのか、眞鍋がフッと頬を緩める。
 バレたかな、とでも言うような……どこか悪戯のバレた子供のような微笑だった。

「愛吏は優秀なサーヴァントを連れてるみたいだな。手駒(コマ)は大事にしろよ」
「ンフフ――あらら、バレちゃったわねェ眞鍋センセ。人でなしだってコ・ト」
「子供の前では形だけでもいい大人で居たかったんだけどな、こればかりは仕方ない。教え子が優秀な駒を持ってる事を素直に喜ぶさ」

 伏魔殿、まさにその通りなのだと理解したのは遅蒔きだったか。
 愛吏は自分の喉が、張り付くように乾いている事に気が付いた。

 そう――彼らは此処までの竜戦虎争を勝ち抜いて、屍を踏み越えてこの円卓に座っている猛者達なのだ。
 自分のように部屋の中へ閉じ籠もってサーヴァントに全てを任せ、気付いたら先に進めていた幸運者とはきっと訳が違う。
 教室という小さなゲーム盤の中に戻る事にさえ怯えていた自分とは明確に住む世界の違う、人の形をした怪獣(モンスター)達。
 そんな認識に忘れていた恐怖と不安が蘇り、詰まる息を通すように胸元の布地をきゅっと握った、その時。

 それとはまた別に、彼女の服の袖が「きゅ」と引かれた。

「え……?」

 咄嗟にそちらを見れば、そこに居たのは目を疑うように小さな少女だった。
 白い。童話の世界から抜け出してきたのかと見紛うような、シックなドレスを着た幼子。
 愛吏もまだ子供と言っていい年齢ではあるが、目の前の彼女は小学校も出ていないだろう。それどころか歳が二桁に達しているかすら怪しい。

(こんな小さい子まで、聖杯戦争に参加してるの……?)

 戦争は愚か、事の善悪さえ分かっているか怪しい年齢ではないか。
 大人達の放つ存在感に圧倒されて気付かなかったが、彼女の存在もまた十分に驚きに値する事だと言えた。

 一方でそんな愛吏の驚きなど露知らぬとばかりに、白い少女は花咲くように顔を綻ばせて話しかける。

「きれいなひと。ねえ、あたしとお友達になってくださらない?」
「……、お友達?」
「そう、お友達! あたしね、いっしょに楽しく遊べるお友達を探しているの!」

 今度のは、孔富達に話し掛けられた時のとは完全に別の困惑だった。
 この物々しい空間で、まさかこんなのどかな……牧歌的なやり取りを持ち掛けられるとはまったく思っていなかったからだ。
 さしもの愛吏も子供相手に萎縮するほどではなかったが、それはそうとどうコミュニケーションを取ればいいのかは迷うし戸惑う。こんな時、時灘の奴は助言の一つも寄越さない。彼にとってこの少女は“つまらない相手”でしかないのだろう。

 しかしそんな愛吏に対し、予想外の所から助け舟が飛んできた。

「――ありす!! 勝手に席を立たない!!!」
「きゃっ」
「大人しくしてなさいって言ったでしょ! まったくもう、大事な会議なのよ!? なのにどいつもこいつも好き勝手喋り放題して……!」

 まるで子供のやんちゃを咎める母か姉のように、オルガマリーがありすを一喝したのだ。
 「わたしがリーダーだってコト、ちゃんと分かってるのかしらこいつら……!」と苛立たしげにブツブツ呟いている姿にはあまり威厳はなかったが、逆に言えばこの空間ではありすと同じで多少安心出来る存在にも感じられた。
 なんというか、ちょっとだけ親近感がある。思い通りに行かなくてああいう感じになった経験は、愛吏も割と最近あった。

「女王様がお怒りだ。席に戻るぞ、ありす」
「……もうっ、オルガはけちんぼだわ! ハートの女王様みたいに怒りん坊なんだから! べーっだ!」
「おうおうわかったわかった。帰ってから悪口大会に付き合ってやるから」

 ありすの身体が、ひょいと担ぎ上げられる。
 彼女のサーヴァントなのだろう青髪の男が軽口混じりにありすを回収し、またその言葉尻に女王様(オルガマリー)が顔を顰めた。

「アナタも保護者ならきちんと諌めなさい、アルターエゴ! はあ、まったく……」
「いいじゃねえか、やんちゃと生意気はガキの特権なんだ。もうちょっと余裕をもって優雅にやろうぜ、リーダーさんよ」
「喧嘩を売られてるって事でいいのよね? ねえ、わたしの認識間違ってるかしら?」

 青筋を立てるオルガマリーには知らん顔で、ありすを席まで戻すサーヴァント――アルターエゴ。
 「リーダーの素養には欠けるみたいねェ」と笑う孔富を一瞥し、オルガマリーは大きな咳払いを一つする。

「……自己紹介も済んだようだし、まずは前提の共有から入らせて貰うわ。
 それに伴って一個確認。アナタ達皆、コガネから聖杯大戦についての知識はちゃんと受け取ってるわね?」

 無言の頷きが、三つ。ありすのみが「はーいっ」と元気よく手を挙げて答える。さっきまではむくれていたのに、こういうところは本当に子供らしい。

「宜しい。ならそれを踏まえた上で、わたしの話を聞いて貰うわ」

 実の所を言えば、わざわざこの期に及んで共有するようなシステム周りの知見は皆無であった。
 何しろコガネ――運営側のNPCがせっせと必要な知識を全てインストールしてくれているのだ。
 聖杯大戦の事も、この『星界円卓』の事も、そしてリーダーであるオルガマリーが持つ“価値”も全員が不足なく共有している。

 であるのならば、今此処で話すべきはその前提を超えた先の話。
 即ち、聖杯大戦(これから)の事だ。

「アナタ達は……“人理焼却”という単語に聞き覚えはある? サーヴァントにも訊いて貰えると助かるわ」

 オルガマリーの口にした耳慣れない単語に、一人また一人と首を横に振っていく。
 そう、と落胆したように溜息をつくオルガマリー。愛吏は当然そんな単語は聞いた覚えもなかったし、時灘からも何ら言葉らしい物は伝わって来ず、改めて問い掛ける気にもなれなかった。

「最初に言っておくわ。わたしには、聖杯の獲得とは別の目的があります」

 そう前置いて、オルガマリー・アニムスフィアは、白のリーダーは説明を始めた。

 ……聖杯戦争及び聖杯大戦について、愛吏達は等しく予め知識を与えられている。
 だから理性ではどれだけ困惑したとしても、脳は知識として目の前で起こる事象や状況を理解してくれていた。
 だが此処でオルガマリーが語った内容はその外側。電脳世界に於ける“Holy Grail War”ではなく、もっと源流に近い領域の話。聖杯戦争という概念が生まれた幹とでも呼ぶべき事象群の出身者によって語られる理外の内容だった。

 人理継続保障機関フィニス・カルデアなる聞き馴染みのない組織の名前。
 件の機関が有する機構が観測した人類の滅亡と、それを阻止する為の計画――グランドオーダー。
 自分はその第一段階、特異点Fという異界にレイシフトした筈だったが、どういうわけか目的の特異点ではなくこの電脳世界に繋がってしまった。
 此処での自分の目的は、カルデアの所長、アニムスフィア家の現当主として人理焼却事件の調査と解明に臨む事であると。矢継ぎ早にそう語ってのけたオルガマリーを前に、『白』の一同は困惑を含む沈黙で応じるしかなかった。

 その沈黙を最初に破ったのが、双葉頭の教職者。眞鍋瑚太郎だった。

「話は判った」

 他の全員が――超人魔人が跋扈する魔境めいた裏社会の住人である孔富でさえもがコメントに窮してチラチラと周囲の様子を窺っている中、この男は話の大筋を理解したのだとそう宣う。
 只、その表情は先程愛吏に語り掛けていた時のとはまるで違う趣を帯びていた。
 切り出した氷のように冷めた、色のない表情。人間味というものが急に欠落してしまったかのような空ろさを、今の眞鍋は現している。

「生憎と現時点で提供できる情報もアイデアもないが、この陣営のリーダーは君だ。君の指針が僕や子供達にとっても有益であるならば、本分に支障を来さない範囲で協力しよう」
「助かるわ。この事象が偶発的な物なのかそれとも人理焼却に紐付けられた物なのかはまだ判然としないけど、それでも――」
「だが、その前に一つだけ確認しておきたい」

 オルガマリーの言葉を遮って、眞鍋が問いを投げた。

「聖杯大戦とグランドオーダー。君の中の天秤はどちらに傾いているんだ?」

 ……一瞬の沈黙が、流れる。
 その問いの意味を愛吏はすぐには理解出来なかったし、幼いありすもそうだったのだろう。きょとんとした顔をしていたが、一方で孔富は彼の言わんとする事を理解したらしく、値踏みするようにオルガマリーへ向けた眦を細めている。
 沈黙の果て。オルガマリーが、厳しい顔をして唇を開いた。

「……聖杯を手に入れてわたしの世界の問題を解決出来るなら、勿論それで構わないわ」
「成程。つまりあくまでも聖杯大戦への勝利は第二候補(スペアプラン)という訳だな?」
「――そうなるわね。リーダーとしての務めは果たすし、この陣営が最後に残れるように最善も尽くす。
 けれど眞鍋、アナタの言う通りよ。わたしはこの大戦に於ける勝利以上に、わたし自身の大義を優先して行動する」

 空気が凍り付く。最早この場に、眞鍋の問いの意味を理解出来ない者はいなかった。

「……なにそれ。こっちはあんたの事情なんて知らないんだけど」

 無論、愛吏としてももう他人事ではない。
 人理焼却。世界の滅亡が懸かったそれは確かにオルガマリーにとっては何よりも優先して臨むべき事案なのであろうが、しかしそんな話など知らない人間にしてみれば彼女の語った姿勢は傍迷惑で自己中心的な代物以外の何物でもなかった。
 眉を顰めて睨み付ける少女に、オルガマリーもしかし退きはしない。

「言ったでしょう、大戦(こっち)はこっちで最善を尽くすわ。アナタ達に不自由は懸けないと思うけど、それでも不服?」

 愛吏は、未だこの聖杯大戦での身の振り方を考えあぐねている身だ。
 何故なら彼女は既に“永遠”という答えを得ている。この二度目の生、もとい生の延長線自体がその観点から言えば蛇足に過ぎない。

 しかしだ。彼女の見た“星”と引き離され、孤独に生きるしかないこの世界で自ら命を断てるだけの度胸は少女にはなかった。
 だからこそ愛吏は、折り合いの悪い卑劣漢のセイバーの嘲弄に耐えてまでこの一ヶ月を生きてきたのである。
 未だ進むべき未来も判然としていない五里霧中の状態で、身を預けねばならない陣営の主が大戦の趨勢以外に主眼を置くと宣言した事はそんな彼女にとって少なからず不愉快な話だった。
 そして此処で、思いがけない援軍が彼女を援(たす)ける。

「実に愉快な道化だ。厚顔無恥、自信過剰、身の程を弁えずに大義の御旗を掲げて踊る猿回しの猿か」

 ゆらり――陽炎が揺らめくように、黒髪の美丈夫が現出したのだ。
 その顔を、言わずもがな愛吏はよく知っている。

 セイバー――綱彌代時灘。悪意と嗜虐、そして享楽の為に生まれて生きる、外道畜生であった。

「……随分な言い草ね。サーヴァントの教育くらいしておいてほしいものだわ」
「おや、機嫌を損ねてしまったかな? これは失敬、出自は貴族でも性根は享楽人でね。多少の無礼はご愛嬌と思って戴きたい」

 止めるべきか、とも思ったが言って止まる男でもない。
 愛吏が逡巡した一瞬の内にもその口はつらつらと動き、立て板に水を流すような滔々とした言葉が紡ぎ上げられていく。

「とはいえ、思わず口を出したくなるほど愉快な言い草だったのは事実。
 人理の救済、大義、よくもまあ嘯けたもの。それは君が振り翳すには最も似合わんお題目だろうに」
「――何が言いたいのよ」
「錦の御旗を掲げようが、己の器までは変わらんぞ? オルガマリーとやら」

 人の心の陥穽を暴く事を切開と呼ぶのなら、時灘の所業は開いた傷口に塩を擦り込んで揉み解すのに似ていた。
 そしてこの手の輩は、他人の傷口の匂いに敏い。持って生まれた五感の延長線が如くに、触れられたくない所を嗅ぎ当てる。

「君のどこに世界を救う“器”があるという。凡夫、短慮、身の丈に合わぬ運命を寄る辺と信じて必死に抱き締める姿は童のようだ」
「……っ!」
「君が救うと宣う人理、その影法師として断言しよう。この場にいる誰一人、いやこの世界に存在する誰一人……否否、君が救いたがっている世界未来に偏在する命の誰一人として、君を信じて身を任せる者などいない。君を称える者すらいまい!
 独り善がりな救世主――泣かせるじゃあないか、いやいや実に嘆かわしい!」

 オルガマリーの顔が、真紅に染まっていく。恥辱ではなく怒りが彼女の頭に血を昇らせているのは明らかだった。
 人が人に物を言われて憤激する理由の最たる物は正論だ。人は正論を厭う。正しい事は痛く、時にどんな罵詈雑言よりも深く人の心を抉る。
 その点、瀬崎愛吏のセイバーが突き付けたそれはオルガマリー・アニムスフィアという女にとってまさに最も痛い“正論”だったのだ。

「……知った風な口を、利かないで……!」
「おや、孤独(ひとり)の癖に矜持は一丁前か? とことんまでに救えんな。折角顔は良いのだ。頭を垂れて遜り、腰を揺らして媚びでも売れば多少は人徳という物も付いてくるだろうに」
「何が、分かるって言うのよ……。アナタみたいな使い魔風情に、何が――!」
「自分の無知を棚に上げて八つ当たりとは感心せんなあ。少なくとも君よりは私の方が、その矮小な魂の実像を正確に捉え発言していると思うが」

 オルガマリーは、彼の言う通り孤独な女だ。
 名家に生まれ、それに相応しい才能を持ち、そして研鑽を怠らず自分を磨き続けてきた。にも関わらずたった一つ、たった一つだけ致命的な欠落を抱えてしまった哀れな女。
 心に無数の傷を抱えながら、痛くないと強がりを口にして孤軍奮闘する幸薄。まさに、この死神の格好の獲物だった事は言うまでもない。

「無能め。女ならば女らしく、円卓(ここ)で機織りにでも勤しんでいては如何か」

 無論、この嗜虐に生産性はない。オルガマリー・アニムスフィアは他ならぬ彼の陣営のリーダーであり、それを悪戯に揺さぶった所で損こそあれど得などあろう筈もなかったが、それを自らの享楽一つ理由に押し通るのが時灘という男だ。
 彼にとって全ては享楽。彼は綻びを愛し、崩落を尊び、そして何より己の楽を重んずる。
 だからこそ隙を見せ傷を曝け出した哀れな女は、一時の暇潰しがてらに虐められへし折られる――かに思われた。


 ――時灘の前に、雷霆のような黄金色の鬣を生やした少年が現れさえしなければ。


「そこの者。オルガは、私の友達だ」

 この場に於いて一番の年少者であるありすよりも更に小さな背丈、あどけない顔立ち。そんな少年だった。
 しかし悪辣な死神の前に立ちはだかり、その歪んだ笑みを湛えた瞳を睥睨する眼光には単なる幼子ではあり得ない気迫が宿っていた。

「それ以上の侮辱は許さぬ。この私が相手になるぞ、セイバー」
「……ほう、これはこれは。さてはどこぞの貴人かな?」

 紫電の眼光。単なる威圧に留まらず、空間そのものをビリビリと張り詰めさせる覇王の眼差し。
 時灘も自然と刀の柄に手を触れる。理性ではなく本能が彼にそうさせていた。脳裏に湧いた大義名分は、あくまで遅れて訪れた物だ。
 彼に――尸魂界の歴史に名を残せる力と才覚を持った悪魔のような男をして、構えねばならぬと思わせる相手。オルガマリーを無能と断じた時灘だが、少なくとも彼女は自分の運命を変える英雄を引き当てる天運を有していたらしい。

(セイバー! まさかあんた、本当にこの場で……!)
(焦るな、娘。これはこれで我らにとっては“良し”だ)

 刀を抜けば会合は忽ち鉄火場に変わるだろうが、それを良しと死神は嗤う。
 予定とは多少異なるが、此処で“見せて”おくのも悪くはない。
 一触即発。今にも何かが弾け飛んでも不思議ではない静寂の中、時灘の斬魄刀がその刀身を僅かに覗かせようとしたその時。

「だめよ。それ以上のやんちゃは見過ごせないわ」

 時灘の手に触れ、諌める少女の姿が新たに出現した。それと同時に、張り詰めていた一触即発の空気が華やぐように和らいでいく。
 さもそれは、大いなる何かの慈愛に触れたように。雄大なる大地の息吹が、人の争いや悪心を平らに均していくように。

 ――神霊だ。時灘、黄金の子、月光の守人。そして未だ姿を現していない最後の一柱までもが同時にそう理解した。

「確かにオルガの言った事には議論の余地があるかもしれないけど、あなたは言い過ぎよ。オルガに謝りなさい」
「オルガマリー女史と同様、遜る事はどうも苦手でね」
「むっ。悪い事をしたら“ごめんなさい”しなきゃダメって教わらなかったのかしら」

 ……実の所、愛吏としてもさっきまでの展開には頭を抱えたい気持ちでいっぱいだった。

 オルガマリーに多少釘を刺して嬲るだけなら訳の分からない事を言い出した自業自得だと割り切るつもりだったが、この場で刀を抜き、あまつさえ何やら為出かそうとし始めたのは完全なる想定外。
 だからこそ、此処でこの幼い女神が現れ流れを切ってくれた事は愛吏としてもありがたかった。
 一体誰が、と周りを見渡してみて双葉頭の教師と目が合う。教師が悪戯っぽく頬を緩めた。どうやら彼女は、眞鍋瑚太郎のサーヴァントだったらしい。

「ハイ、そこまで。オルガちゃんにも問題はあったけど、これ幸いと掻き回した愛吏ちゃんとこのセイバーが全面的に悪いわ。仲間同士で争っても仕方ないでしょ? 此処からは皆矛を収めて、仲良くする事。出来ないなら――」

 ぱん、と柏手を打って仕切り始めたのは繰田孔富。
 怪獣のような乱杭歯を覗かせながら浮かべた笑顔と共に、彼の背後に最後のサーヴァントが姿を見せる。

「私のサーヴァントが、こわ~~~いお仕置き。見舞(カマ)しちゃうわよォ」

 陰鬱、陰気。そんな印象を見る者に与える青年だった。
 一見すると非戦闘員にも見える佇まいだが、その実不思議なほどに隙がない。
 少なくとも、主である孔富の言を実際に行動として遂行出来るだけの能力値を有している事は明白だ。時灘が嘆息して刀から手を離す。オルガマリーのアーチャーがそれを受けて身の力を抜く。神霊の少女は彼の事をじっと見つめて、「……お仲間かしら?」とポツリ呟いた。

「はい、みんな良い子ちゃんねェ! さっきも言ったけど私達は基本的に仲間同士、一蓮托生の親友(マブダチ)なのよォ? 仲良くしなきゃ損損。内輪揉めはご法度でいきましょ。ね?」
「はーい! ありす、けんかはやだもん。おばさんにさんせー!」
「アラ良い子! 後で飴ちゃんあげましょうねェ、ンフフフフフ! ……それはそうとおばさんではないのよ?」

 孔富とありすの戯れを見つつ、これにて一件落着……と胸を撫で下ろしたい所だったが、愛吏としてはそうも行かない。

(あの馬鹿セイバー……! どうするのよ、いきなり全員の心象悪くして……っ)

 不和の引き金を引いたのも、一線を越えようとしたのも全て自分のサーヴァントだ。
 オルガマリーの鋭い視線を感じ、思わず顔を伏せる。それを除いたって辺りは見回す限り曲者ばかり、本当に自分はこんな連中と一蓮托生でやって行かなければならないのかと考えると目眩がした。

(ひな……どこにいるの。先に行っちゃったの? 会いたいよ、ひな……っ)

 永遠へ辿り着き損ねた少女達の片割れは苦悩する。彼女の聖杯大戦は、まだ始まったばかりだった。





■ 『白の陣営』 ―――――― 5/5


 ◇オルガマリー・アニムスフィア@Fate/Grand Order & アーチャー(ガッシュ・ベル)@金色のガッシュ!<Leader>

 ◇瀬崎愛吏@きたない君がいちばんかわいい & セイバー(綱彌代時灘)@BLEACH Can't Fear Your Own World

 ◇眞鍋瑚太郎@ジャンケットバンク & キャスター(ナヒーダ/クラクサナリデビ)@原神

 ◇繰田孔富@忍者と極道 & キャスター(アスクレピオス)@Fate/Grand Order

 ◇ありす@Fate/EXTRA & アルターエゴ(岩崎月光/チルチル)@月光条例






「えー、羂さんマジパないじゃん! じゃあやろうと思えばサーヴァントもその術式って奴で取り込めちゃうんだ!?」
「まあね。流石に英霊相手は相性と機運に左右されるが、決して不可能じゃない。私もぜひ積極的に狙いたいと考えているよ」

 少女が席から身を乗り出して声をあげ、それを受けた呪術師は笑顔で応えた。
 此処は『赤の陣営』の星界円卓。この陣営に於いてリーダーの座を任されている人物は、『白』のオルガマリー・アニムスフィアとは打って変わって見るからに抜け目のない難物だった。
 頭に縫い目のある五条袈裟の男。名を『羂索』と言うその男は、間違いなくこの円卓で一番の存在感を放って君臨していた。

「私の素性と手の内は大体今述べた通りだ。正確には手持ちの呪霊達も含めてまだまだ手札(カード)はあるが、全て説明していたらキリがない。後は都度明かさせて貰うよ」
「どうだかな。他人様に信用して貰うには格好も口振りも怪しすぎンぞ? てめえ」
「ヤクザに言われたくはないけどね。二枚舌とハッタリは君達の業界でも美徳じゃないのかい? 滑皮」

 社会の泥濘に身を浸して生きるそのあり方を体現するような漆黒の礼服に身を包んだ男、『滑皮秀信』は羂索の言葉に不遜に鼻を鳴らした。
 その様子からは拭い切れない猜疑心が滲んでいたが、この場を積極的に乱そうという意志までは見受けられない。
 頭を任された男の資質を疑問視こそすれど、少なくとも陣営の総体を揺るがしてまでそれを是正したいとは考えていない――実に任侠団体という伏魔殿で成り上がった男らしい虎視眈々振りである。

「とはいえ君の疑心もなかなか鋭い。手の内を明かす理由の半分は実利だよ。詳しくは省くが、私達呪術師にとって手札の開示はむしろメリットでね」
「だと思ったぜ。寒い野郎だ」
「私は結構君を気に入っているよ。近代兵器、社会戦、人海戦術……どれもこの戦争じゃ侮れない搦め手だ。猪背の狂犬の手腕に期待したいね」

 そんな二人の会話を、少女――『宮園一叶』は心の高揚を隠し切れないといった様子で見つめていた。
 彼女の身の上はこの場で俎上に載せる事が出来るほど上等で、且つ重大なものではまったくない。
 むしろ一叶はこの聖杯戦争に於いて、間違いなく一番の凡人と言って差し支えないだろう。性根の浅さ、戦いに臨む心根の不純さ、いずれも他に類を見ない愉快犯だ。

(やっばい、やばいやばいやばい……! 何この光景、流石に映画(フィクション)すぎでしょ……!
 坊主袈裟の塩顔イケメンと黒スーツの大物ヤクザが同じ卓に着いて掛け合いって! アっガるぅ……!!)

 一叶は映画(フィクション)の世界に憧れている。
 そんな彼女にとってこの聖杯戦争という儀式は、まさに長年の夢が叶ったにも等しい僥倖だった。

 一念は鬼神に通じ、雨垂れは石をも穿つ。
 一叶の願いは心底下らない無い物ねだりの域を出るものでは決してなかったが、彼女はそれでも予選を享楽のままに駆け上がった。
 『赤』の星界円卓に列席を許されているのがその証拠だ。耳を打つ相棒――アサシンの下劣な含み笑いが万雷の拍手のようにすら聞こえる。
 ああ、生きててよかった。やってよかった聖杯戦争。そう思っていると、羂索がちょうど一叶に話の水を向ける。

「特に宮園一叶。伝え聞く限り、君のサーヴァントと彼らは相性が良さそうだ」
「ん――確かにそうかも。まあ私も手の内、全部打ち明けてるわけじゃないけどね」

 虚構の住人としか思えないような男が、自分の事を真面目に一人の戦力として数えてくれている事実に内心喜びを隠し切れなかったが、どうにか表に出さないよう自制して澄ました態度を取る。

 尤も、羂索の言う事は的を射ていると一叶も思った。
 一叶のアサシンはあらゆる“不安”の隣人だ。
 暴力を突き詰め、あらゆる手法で敵対者を追い詰めるヤクザのやり口とは悍ましいほどに相性がいいに違いない。
 続いて滑皮と目が合う。底冷えするような、まさに生きている世界が違う人間の眼光にぞくぞくと心が震えた。

「胡散臭えガキだな。今の世代ってのは皆こうなのか?」
「まあ割と成熟してますねー、今のJKは。放課後の教室でヤる事ヤったり、拗らせて二人で愛の逃避行と洒落込んだり」
「そんなもんいつの時代もあんだろ。俺がガキの頃は単車で敵囲んでヤキ入れて、そいつの舎弟同士で乳繰り合わせて遊んでたもんだぜ」

 アウトローを気取っている人間というのは、世の中ごまんと存在する。
 一叶の学校は女子校だったが、学校に限らなくたってそういう人種を垣間見る気配は日常的にあった。

 だが少なくとも、この羂索と滑皮秀信はそうした紛い物達とは絶対的に格が違う。
 平凡な暮らしの中で抑圧されて来た衝動が解放され、ドーパミンが噴水のように溢れているのが自分でも分かった。
 これから自分は、こんな悪魔達と肩を並べて戦争をやるのだ。只の女子高生としてじゃなく、聖杯戦争のマスター……神座に続く回廊を上る権利を与えられた者の一人として。これで感情を抑えろというのは、一叶には無理な話だった。

「それこそ今の時代だって変わらないよ、滑皮さん。俺のいた街じゃカラーギャングが彷徨いて今も元気に覇権争いさ。
 人間の顔に躊躇なくバーナー突き付けれるチンピラ、抗争相手が半身不随になろうが笑顔でそれを武勇伝に出来る愚連隊! 今も昔も街は豊かで人間は元気だ――生き物の本質ってのはそう簡単には変わらない」
「へぇ。カラーギャングなんて骨董品がまだ大手振って彷徨いてんのか? てめえの所じゃ。半グレ未満のチーマー連中だろ?」
「野球ボール感覚で自販機ぶん投げてくる怪物なんてのもいたよ。……まああれは、人間にカウントしたくはないけどね」

 滑皮と一叶の会話に口を挟んできたのは、毛量豊かなファーの目立つコートを羽織った美青年だった。
 美青年という形容がこの上なく似合うが、しかし浮かべる笑顔には影と比べて尚勝る、ある種破滅的な後ろ暗さが付き纏っている。

「で? 俺はどう動けばいいのかな。希望があれば聞いても構わないよ?」
「君には特にないよ。第一君、他人の下につけるタイプじゃないだろう? そういう手合いの足並みを管理するほど徒労な事もないんでね」

 青年の問いに、羂索は笑顔で応えた。
 「それに」と言葉が続き、糸のように細められた瞼の隙間から覗いた眼球が、繁華街の喧騒を電線の上から見下ろす烏のような男を見据える。
 烏もまた、同じ目をしていた。“含み”などという単純な言葉だけでは形容出来ない分析と値踏みがそこには宿っている。

「私は君の基準だと“無し”な物だと思っていたが。悲観しすぎだったかな、“冬木の情報屋”」
「――よく見てるね。ご明察だよ、“化け物”」

 そう言って情報屋『折原臨也』は、かつて人間だったモノの成れの果てへ眦を細めて微笑んだ。
 彼は人を狂わすが、それ以上に人を愛している。人間という生き物の奏でる生涯を、綾模様のように複雑怪奇な情動を何よりも興味の対象としている。

 宮園一叶のとは似て非なる人間への渇望。
 だが彼が愛するのはあくまで“人間”であって、かつてそうだったモノ、生物学上仕方なくその分類に収まっているだけの存在までもを枠組みに含めるわけではない。
 例えば、自販機を投げて電柱を振り回し、ナイフもまともに刺さらないような怪物だとか。
 例えば――千年を生きて人の肉体を渡り歩き、怪しげな術を駆使して英霊と渡り合う呪術師であるとかはその典型だった。

「とはいえ天秤だ。俺にとってもこの『赤(じんえい)』は得られる物がありそうだからね。呉越同舟、大同団結。暫くは飼われてあげるよ、君の首輪で」
「それは何よりだ。何しろ真っ向勝負で殺すのはしんどい連中を何人か捕捉していてね。奴らの調理の為にも君や滑皮のような搦め手ありきの人員はありがたいんだよ」
「……一応聞いておこうか。それは君が戦った場合の話? それとも、サーヴァントが戦った場合の話かな?」
「勿論後者さ。私もそれなりに出来る方だとは自負してるが……やっぱり本筋は暗躍の方でね。千年経っても本物達には及べず仕舞いってわけ」

 羂索をして厄介だと言わしめる敵。それは必ず『赤の陣営』にとって当座の障害になる。
 一叶、滑皮。臨也。そして黙したまま口を開かない最後の一人も、全員が羂索の続く言葉を待った。
 羂索の顔に笑み以外の表情が浮かぶ。千年を歩む呪術師の、絶対零度のような冷徹さが縫い目の底から顔を覗かせていた。

「主に厄介なのは二人……いや、二体って言った方がいいか。どっちも今じゃサーヴァントになってるみたいだし」
「反応的に、その二人って羂さんの顔見知りなの?」
「一人は腐れ縁かな。実際そっちはまあ……殺されないように付き合う距離感は心得てる。とはいえ危険度は特級だ。命が惜しければ早合点して近付くのは控えた方がいいけどね」
「じゃあ……もう一人の方は?」

 ……問いに対する返答は、ほんの一言で事足りた。

「天敵だ」

 ――人を超え、人類愛の情報屋にさえ怪物(そう)認識されるに至った男が天敵(こう)呼称する。

 そしてその評価に一切の過不足はなかった。
 純粋な強さで言うならば上はいるかもしれない。先に挙げたもう片方の知り合いがそのいい例だ。しかしそれでもどちらが脅威であるかと問われたならば、羂索は迷いなく此方を選ぶだろう。

「そしてその英霊への対処をこそ、私は『赤の陣営』の最優先事項として挙げたい」

 そもそも、何故彼は千年間も永らえ続けなければならなかったのか。
 肉体を転々とし、駒を失っては集めを繰り返しての終わりなき彷徨に徹さねばならなかったのか――答えは一つ、“千年間を費やしても尚、目的を達成する事が出来なかったから”である。

 彼は常に完全な計画を練り、それに従って行動する。良心だの呵責だのと言った不要な概念は端から持ち合わせていない。
 にも関わらず彼は、運命に阻まれるようにして敗北を繰り返してきた。
 そう、運命だ。計略や謀と言った小さな言葉では表し切れないほど大きな宿業が、羂索の行く末には常に付き纏っている。
 そしてそれは、この聖杯戦争……黒い羽に誘われて降り立った電脳の祭壇に於いても不変の道理であったらしい。

 ……或いは、一度破壊された運命が再び元の形を取り戻してしまったとでも言うべきか。


「その英霊の真名は『五条悟』。彼の生存は必ずや私と、私が手繰る君達にとって致命的な結末をもたらすだろう」


 曰く、魔眼保持者の中で現実を調伏出来るだけの力を有する者には決まった共通点が存在するのだという。

 それは、魔眼の保持が“先天的なもの”であるという事。
 後から嵌め込んだり、斯くあるべしと造り上げた魔眼では決して世界に届かない。
 人を誑かし意のままに操る事は出来るだろう。高潔な女の此処を折って傅かせ、一夜の友にする事も可能だろう。
 しかしそこまでだ。造り物の魔眼は決して、虹にも宝石にも届く事はない。

 その点で、羂索が最危険視する呪術師は当然のようにその条件を満たしていた。
 数百年ぶりに生まれ落ちた六眼。空を観る性質を宿した、運命の番人――抑止の顕れ。
 “黒い羽”に触れて脳に流された知識の断片にあった“抑止力”という概念を識った時、羂索は心底腑に落ちた物だった。

 そして今、かつて禪院甚爾が破壊した抑止の運命が再び己の前に立ちはだかっている。

「一応聞いておくが、てめえの私怨を俺達に代行させようって腹じゃねえだろうな?」
「まあそれもある。私にとって彼は本当に鬼門でね。とはいえそこの所は私と縁を結んでしまった時点で諦めて貰えると助かる。あちらも私には恨みがある筈だからね――捕捉されたら真っ先に殺しに来る筈だ。そうなれば君達も無事では済まない」
「……化け物同士の喧嘩ねぇ。やだやだ、身内でやってて欲しいもんだよ本当」

 椅子の背もたれに身を投げ出して嘆息した折原臨也が、不意に視線を外した。
 その眼差しが向かう先は、此処までの会合の中で唯一……話に加わらず、苦い顔で沈黙を保っている黒髪の少女だった。

「君もそう思うだろ? 千夜ちゃん」
「…………」

 問いかけに対する答えとしては、肯定以外の感情はなかったが――情報屋の青年が向けてくる全てを見透かしたような視線が不愉快だ。
 だから『白雪千夜』は何も答える事なく、無言のままで臨也を睨み付けるのみであった。

(――大丈夫ですか、チヨ)
(はい。何の問題もありません)

 千夜がこの『赤の陣営』に対して抱いた心象は、一言“醜悪”の一語だけだ。
 単に聖杯を求めているというだけならば、相容れないにしても嫌悪はない。
 この世界に於いて正しいのが彼らの方だという事は千夜も承知している。他の誰かを乗り越えてでも叶えたい願いがある、その生き方自体を否定する気は千夜にはなかった。

 だが、今円卓を囲んでいるこの四人に関して言うなら話は別だった。
 羂索なる男の下に集った彼らは、外道の性を隠そうともせずに放ち続けている。命を命とも思わず、誰かの思いを永久に断絶させる事の意味を知ろうともせず、敬意の一つもなく他人を消費できる類の悪人達だ。

 自分は本当に、こんな連中と轡を並べて戦わなければならないのか。
 聖杯を望む望まない以前の問題として、千夜はこの円卓が針の筵のように思えてならなかった。

(ただ……少し、自分の運のなさに目眩を覚えているだけで)

 自虐めいた事を言っていられる内が花だというのは分かっているつもりだ。
 どうあっても自分はこの『赤』を抜け出なければならない。
 聖杯大戦に陣営の鞍替えという機構が存在していない以上、その道は並大抵の物ではないだろうが、それでもだ。

 並び立つ同胞(てき)は曲者揃い。呪術師、極道、愉快犯と情報屋。
 銀の腕持つ騎士の白光のみを侍らせて、悪夢のような赤炎に打ち勝てるか――偶像(アイドル)よ。





■ 『赤の陣営』 ―――――― 5/5


 ◇羂索@呪術廻戦 & バーサーカー(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)@傾物語<Leader>

 ◇白雪千夜@アイドルマスターシンデレラガールズ & セイバー(ベディヴィエール)@Fate/Grand Order

 ◇折原臨也@デュラララ!! & ランサー(ウルキオラ・シファー)@BLEACH

 ◇滑皮秀信@闇金ウシジマくん & アサシン(レイン・ポゥ)@魔法少女育成計画limited

 ◇宮園一叶@きたない君がいちばんかわいい & アサシン(築城院真鍳)@Re:CREATORS






 ミレニアムの――ゲーム開発部の子……?

 『霞沢ミユ』は、自身の割り振られた『青の陣営』のリーダーを務めるという少女を見て小首を傾げた。
 関わりが濃かったわけではないが、特徴的な容姿と伝え聞いた彼女の“事情”から印象には残っていた。
 しかし今、円卓を共に囲んでいる彼女の姿は、ミユの中にあった認識とは少々噛み合わないそれに映っている。

「此度『青の陣営』のリーダーを任された者です。正式な名前ではありませんが……ケイ、とお呼びください」

 名前だってそうだ。あの子は『ケイ』だなんて名前だっただろうか。
 それに雰囲気も、伝え聞くのとはずいぶん違っているように見える。
 元気というよりは静謐。大元の彼女とは違って機械的で、どこか無機質な印象を受けた。

 最初はまさか同じキヴォトス出身のマスターがいるなんてと心を高鳴らせた物だったが、こうなってくるとにわかに不安が顔を出してくる。
 他のマスター達もなんだか殺気立っているというか、自分のとは明らかに違う雰囲気を醸していてさっぱり落ち着かない。
 こうなったら机の下にでも潜り込もう、ゴミ箱とは行かなくても多少は落ち着く筈――そう思って身を屈めかけたところで後ろからバーサーカーにむんずと首根っこを掴まれて戻された。

 ひん……と情けない声で泣くミユをよそに、彼女のバーサーカーが自陣の長へと視線を遣る。

「計でも蛍でも構わんがな。頭領を名乗るだけの役者は足りておるのか?」
「どうでしょうね。私自身、望んで手に入れた玉座でないのは確かです。ただ」

 主に代わって問いかけたバーサーカーに、ケイは表情一つ変える事なく答え始めた。

 聖杯大戦に於ける各陣営のリーダーは、聖杯によって自動的に選定される。
 選択権もなければ拒否権もないその仕様上、ケイのように望まずしてその地位に座らされてしまう者が出るのも不思議な事ではなかったが。

「私の“先生(サーヴァント)”の強さを踏まえて言うなら、役者の不足を断言する事は出来ません」

 彼女は正真正銘の大英傑の詰問に対し、怖じる事もなくそう答えた。
 まるで予め決まっている事実を読み上げるように淡々と答えられては、さしものバーサーカーも面白くない顔で引き下がる他なかった――それだけで終わるなら平穏だった。だが現実は、単に値踏みの火の粉を振り払っただけでは終わらない。

「嬉しい事言ってくれるじゃないの。先生冥利に尽きるねえ、僕も」

 ケイの背後に、銀髪の男が“ぬるり”と突如出現を果たしたのだ。

 目隠しをしており正確な人相は把握出来ないが、眼から下の顔貌を見ただけでも彼が絶世の美男である事は容易に察せられたに違いない。
 美の彫像。或いは、神の写し身と表現しても決して大袈裟と受け取られはしないだろう生物としての圧倒的な完成度を、その男もといサーヴァントは当たり前のように誇示していた。
 その存在には毛ほどの謙遜もない。天上天下唯我独尊、傍若無人と傲岸不遜をいずれも体現した男。

「……引っ込んでいてくださいと言った筈です、先生。あなたが出てくるとややこしい事になるのが見えているので」
「やー、でもケイって人付き合い慣れてないでしょ。授業参観みたいなもんだと思ってよ」

 そんな男と浮世離れした美少女が並んで話している図は目の保養と言っても言い過ぎではないだろう。
 だがそれを見据えるバーサーカー――ドゥリーヨダナの眼光からたちまちに遊びの色が消えたのを、円卓に並ぶ誰もが理解した。

(ば、バーサーカーさん……? あの、どうしたんです……?)
(いや。楽な戦とばかり思っていたが、少々低く見すぎたようだと反省していただけよ)

 ドゥリーヨダナは神霊英傑を生む土壌の本場たるインドにルーツを持つサーヴァントである。
 万の武器を駆使して同じだけの軍を滅ぼす英雄、術の一つで国を消し飛ばす神、いずれも覚えはあるしドゥリーヨダナ自身彼らと張り合ってそう遅れを取る事はないだろうと自負してもいる。

 その彼が、ケイの背後に現れた白い男を一目見た瞬間に此度の聖杯戦争そのものに対する認識を二段は跳ね上げた。
 彼は戦士ではあるが、しかし正道を貫くつもりなど微塵も持たない悪党だ。
 故にその認識の変化は、ある種の安堵と同義でもあった。
 “これと事を構えるのは面倒だ”。数多の英雄と神の写し身(アヴァターラ)を知る男が、初見の英霊を相手にそう思った事実は言わずもがなあまりに大きすぎる。

「わお、そっちのマスターも“輪っか付き”か。奇遇だね、うちの生徒と仲良くしてあげてよ。まあおたくのサーヴァントは、僕と違って少々胡散臭そうだけど」
「は! 寝言は寝て言え目隠し坊主。見てくれは美しくとも貴様の中身は悪魔(カリ)の類だろうに。傲慢、不遜。噎せる程に滲み出ておる」
「そういうアンタは魂までそっち寄りだろ? 歓迎するよ。どうせ轡を並べるなら、そのくらい食わせ者な方が僕も嬉しい」
「――あの~。盛り上がってるところ悪いですけど、そろそろ私も自己紹介しちゃっていいですかあ?」

 悪魔のような英霊達が笑いながらジャブ代わりの火花を散らす中、呆れ顔で手を挙げたのは金髪の少女だった。
 ミユやケイと同い年くらいに見えるが、恐らく学年では彼女達よりも更に下だろう。
 しかしそれをまるで感じさせない、どこか場馴れした物を感じさせる少女。その右手にも当然、真紅の刻印が三つ刻まれている。

一色くるるって言います。よろしくお願いしますねえ、『青』の皆さん」

 愛想よく笑顔を振り撒く一方で、『一色くるる』は内心早くも自分の置かれた陣営に懐疑的な物を感じていた。
 まさかこうまで幼い――自分と変わらないような年齢のマスターばかりが集められているとは思わなかったのだ。
 老若が戦いの全てを決めるとまでは思わないが、やはり頼りにするなら年季の入った同胞だと考えていたくるるにとってこれは計算外の事態だった。

 ……そんな彼女の傍で霊体化を保ちながら、ランサーのサーヴァントである地底世界の住人は主と違い冷静に陣営の戦力を把握していた。

 くるるのランサーがこの『青の陣営』に対して抱いている評価は、彼女のとは全く逆の物だ。
 予想以上。いや、“想像以上”と言っても決して言い過ぎではない。それだけの強さが星の円卓を囲み、この空間には満ちている。
 白きキャスターと悪魔の如きバーサーカーだけでなく、未だ顔を見せていない二騎だってその例外ではないだろう確信があった。

 ――これだけの戦力があれば、世界を滅ぼされる事もなかったかもしれない。

 その口惜しさを胸に閉口を保つ槍兵を置いて、会合は回る。
 見るからに頼れない若輩者の多さに辟易していたくるるが話の水を向けたのは、円卓を囲う少年少女揃いの面々の中で明らかに異質を放っている……否、歳を重ねている事のみに留まらないある種異様な存在感を纏った、薄闇のような男(ブギーマン)だった。

「そっちのおじさまはなんて言うんですか? くるる、初めて見た時からぴんと来てたんですよぉ。年長者さんとして頼りにさせてほしいですぅ」
「……俺なんかを頼りにするもんじゃない――と言いたいところだが、まあ此処はそういう戦場か」

 ジョン。『ジョン・ウィック』だ、と男は端的にそう名乗った。
 サーヴァントを出そうとはしない。くるるも特に進んで手の内を明かそうとはしていなかったが、彼のそれは彼女のよりも更に徹底された遊びのなさ……合理性によって導き出された結論としての秘匿に見えた。

 それを感じ取ったのはくるるだけではなかったらしい。ケイに侍る白いキャスターがからからと笑った。

「おっかないね。そういう眼をした奴は怖いんだよな」
「買いかぶり過ぎだ、ミスター。単なる野良犬に過ぎないよ」
「僕の世界一嫌いな男がちょうどアンタみたいな眼をしててさ。こりゃ失望されないように頑張らないと後が怖いや」

 軽い返しをする一方で、ジョン・ウィックもまたこの『青』の円卓に並んだ面々へ内心の評価を下していた。
 奇妙な子達だ。何とも据わりが悪く、現実感がない。まるでジャパニーズアニメの中から抜け出してきた子供達に囲まれているようだった。

(いずれも二十歳にも満たない歳だろうに、どいつもやけにサマになっている。さっきから怯え通しの彼女でさえ、他の陣営と削り合う事そのものに対する恐れはごく軽微に見える。一体どこの戦場から引っ張り出してきた少年兵なのやら)

 霞沢ミユの方を一瞥する。びくんと敏感に反応して身を縮み上がらせる姿はコミカルだが、やはり察知能力が異様に高い。
 驚くべき事だが、この円卓を囲んでいる少年少女の内半分が“あの”ジョン・ウィックの眼から見て十分過ぎるほどに完成されていた。
 彼が相手取ってきた裏社会の住人達と比べても優に上回る完成度を宿しながら、ごく普通の少女のような姿形をしている事実に脳が混乱する。

 ――“輪っか付き”は警戒しないとな。それが、ジョン・ウィックが出した当座の結論だった。

「か……霞沢、ミユです……。い、いい、以上です……!」

 言うだけ言ってぴゃーっ!と、今度は止められる間もなく円卓の下に潜り込んでしまうミユ。
 それを何かとてもどうしようもない生き物を見るような眼で見つめ、眉を顰めるケイ。
 彼女達がこの陣営に於ける“輪っか付き”。少女の形をした超人達だ。ケイは未知数だが、ミユの方は既にジョン・ウィックをして“相当に出来る”という認識を抱かせている。

 極めつけは携帯している狙撃銃の扱いだった。
 あれは慣れている人間の扱い方だ。銃を隣人として暮らす日々に慣れている――敵対すれば厄介だったかもしれない。泣く子も黙り大の男が恐れ慄く血塗れのババヤガーにそんな事を思われているなんて、はぐれ兎の少女は露も知らない。

 そして名乗りの順番は最後の一人、白肌と黒髪のコントラストが妙に目立つ白黒(モノクローム)の少年へと移る。

「……オモリ。よろしくね」

 『オモリ』と名乗った彼に対しての印象は、きっと全会一致だったに違いない。
 陰気。地味。コミュニケーション能力に乏しく、とてもではないが戦力になるとは思えない少年。

 一言で言うならば暗い。ある意味ではミユやケイ、くるると言った幼い少女達以上にこの場に相応しくない人間と言ってもいいかもしれない。
 だが、逆に言えばそれが彼の持つ唯一無二の“怖さ”であるのも事実だった。
 何故こんな少年が生き残り、この星界円卓にまで辿り着いているのか。
 見え透いた虚弱な精神性の奥底に透けて見える深淵のような病みの黎さは、見る者が勝手に見出してしまうだけの虚像なのか。

 少なくとも一つ確かなのは、こんな彼の召喚したサーヴァントが“新時代を告げる歌姫”である事など誰一人想像だにしなかったろう事。

 彼のサーヴァントは偶像(アイドル)であり、歌姫であり、そして万人の希望たれと自らに科した時代の遺児だ。
 彼らの真髄は現実に非ず。此処ではない、電脳世界の更に内へと広がる仮想の中にこそある。
 その風呂敷は未だ開かれぬまま。理想の世界(ウタワールド)は、円卓の時間とは無関係に優しい胎動を刻み続けていた。

「――全員終わりましたね。ついては一つ、私から質問をします」

 『青の陣営』の全容が全員に知れ渡った所で、長の座を委ねられた少女がそう切り出した。
 常套であれば今後の展望や目先の警戒対象について話す場面なのであろうが、その点彼女の問いは予想だにしない物であったと言っていい。

「この中に、聖杯を求めない……ないしは聖杯大戦そのものを止めたいと考えている方はいますか?」

 聖杯に対する欲望が薄い者。そして、聖杯大戦という儀式自体を快く思わない者。
 そういう者がいれば挙手しろとケイは言う。しん、と水を打ったような静寂が場を包んだ。
 そんな中で一人、霞沢ミユは手を挙げるべきだろうかと逡巡していたが……その内心を見越したようにバーサーカーが念話でそれを諌める。

(おいミユ、間違っても手を挙げるんじゃあないぞ)
(え、え……。でも私、別に願いとかないので……正直生きて帰れるならなんでも……)
(わし様のマスターしてる事忘れちゃったのかなこのウサギ娘は!? ……とにかく、今は黙っとれ)

 聖杯を戴くつもり満々のバーサーカーにとって、勝利以外の結末などもっての外だというのももちろんあったが骨子はそこではない。

(此処で手を挙げれば己は不穏分子だと自白したようなものだ。あのケイとかいう娘っ子はともかく……他の連中は少々剣呑そうだからな。打ち明けるにしても状況は選べ。命が惜しかったらな)

 特に、とバーサーカーは金髪の少女……一色くるるに意識を向ける。
 ケイが“問い”を投げた瞬間、彼女の方から漂う悪念が一段濃くなったのを感じた。殺気立っていると言って差し支えない様子だ。彼女にとって聖杯の獲得は余程の至上命題であるのだろう。
 そんな相手に、聖杯大戦に向き合う気のない輩と思われていい事なんてあるわけもない。
 何故わし様がこんな子守めいた真似をせねばならんのかなぁと内心ぐぬぬ顔だったが、背に腹は代えられなかった。

 こうして挙手者はゼロ。それを見てケイは目を閉じ、小さく息を吐く。

「断っておきますが、別に責めようという魂胆はありません。それならそれで私は構いませんから」
「……どういう事ですか~? ケイさんは聖杯、欲しくないって事?」
「私の目的は生きてこの世界を出る事にあります。なので否定は出来ません」
「え~、だったら困っちゃうなー。くるるはやんごとなき理由で、絶対絶対、ぜ~~ったいに聖杯を手に入れなくちゃいけないんですよぅ。……出来れば真面目にやってほしいんですけど、聖杯大戦」

 ドゥリーヨダナの見立ては正しい。くるるは実際、ケイの発言に対してかなりの不快感と危機感を抱いていた。
 何を言っているのだ、この女は。こんな女に自分の……“自分達の”願いが背負っていると思うと腹の底から込み上げてくる物がある。
 笑みの下に怒りと焦燥を隠しながら魂胆を暴こうとするくるるに対し、ケイは相変わらず表情一つ動かさずに言葉を続けた。

「ご心配には及びません。この世界に於いては、聖杯大戦に勝利する事が生きる事……即ち私の目的と等号で結ばれますから。私は『青の陣営』のリーダーとして、そして一人のマスターとして勝利を目指します。勇者の真似事が似合う柄でもありませんので」
「……じゃあ何だってそんな紛らわしい事を言い出したんです?」
「伝えたかっただけです。もしも聖杯の取得に積極的でないマスターがこの中にいたとしても、『青の陣営(わたしたち)』全体に牙を剥きさえしなければ私はその姿勢を尊重すると」
「…………言い出すワケ、なくないです? この状況で」
「そうなのですか?」
「………………、もういいです。ケイさんは“そういう人”だって分かったんで、私からはこのへんで」

 「あはははは! いや~僕も同感。言われちゃったねえコミュ障!」と囃すキャスター、「さっさと霊体化して下さい」とけんもほろろのケイ、そして「言い出そうとしてた奴が一人いたなぁ~!」と念話でクソデカ溜め息を吐き散らかすドゥリーヨダナ。
 くるるは呆れ返った様子で頬杖を突き、ジョンとオモリ少年はやはり表情を動かす事なくそんな一騒動の顛末を静かに眺めていた。

「微笑ましい喜劇を繰り広げてくれている所悪いが、これは会合なんだろう。であれば当面の指針くらいは聞かせて貰いたい所だな」
「あーそうそう。そこに関してはケイから一つあるから、各々傾聴しておくように」

 ジョン・ウィックの発言に対して頷いたのはケイだったが、口を開いたのは彼女のサーヴァントであるキャスターだった。一瞬「自分で言えば宜しいでしょうに」という顔でキャスターを見てから、ケイは口を開く。
 だがそこから出てきたのは指針というよりかは、どちらかと言えば“警告”と呼ぶのが正しいだろう内容であった。

「『羂索』。そして『両面宿儺』という参加者がこの冬木市に招かれている。彼らを発見ないし観測した場合、最大限の警戒をもって臨むようにお願いします。余力があれば令呪を用いての撤退も視野に入れて下さい」
「……詳しく聞かせてくれるか?」
「彼らは私のキャスターの、生前の宿敵のような物だったと聞いています。共通しているのは抜きん出た悪辣さと狡猾さ。並のサーヴァントでは及びも付かない極めて強大な実力。特に『両面宿儺』については確実にサーヴァントとして喚ばれているだろうというのが彼の見解です。そして」

 一拍の間を置いて。

「私のキャスターは生前、その宿儺に敗北し殺害されています」

 放ったその事実は、『青』の星界円卓に並んだ全てのマスターに対して件の悪鬼が非常に危険度の高い怪物であると知らしめるに十分だった。

 ケイの従えるキャスター――真名を『五条悟』という彼の実力を見抜いていたのは何もミユのドゥリーヨダナだけではない。
 一色くるるが擁する“地底世界の戦士”。ジョン・ウィックが共にする“堕天した死神”。そしてオモリが夢を見る“新時代の歌姫”。
 いずれのサーヴァントも口を揃えて五条悟の脅威度と、その驚異的なまでの完成度の高さを己がマスターに警鐘していた。

 そんな男を、恐らくは正面対決の末に破った悪魔がこの電脳世界に存在している。その事実は言わずもがな脅威以外の何物でもなく、ケイの警告に問答無用の信憑性を持たせる。

「――そりゃ穏やかじゃないな。となるとそのスクナとやらを抱えた陣営が――」
「……この聖杯戦争に於ける、最有力候補の勝ち馬って事になるだろうね」

 ジョン・ウィックとオモリ、二人のマスターの意見が異口同音に合致した。
 無論くるるとミユもそれに異論はない。両面宿儺。そして羂索。彼らを排除せずに聖杯を手に入れる事は不可能だと『青』の旗印に集った全員が理解した瞬間だった。

「あーやだやだ。自分が負けた事を声高に伝えられるのって死ぬ程恥ずかしいねこれ。今更宿儺に腹立ってきたよ」
「ケイのキャスター。それで……羂索って奴の方はどうなの?」
「え? ああ、クソ野郎だよクソ野郎。クソはクソでもとびっきり臭くて形もひん曲がった奴。無駄に頭が回るから気を付けてね――つーか僕に教えてくれてもいいし。最高速度でブチ殺しに行くからさ」

 羂索――両面宿儺――そして五条悟。
 恐るべき“呪い”の蔓延る世界に生まれた三人の強者が、ご丁寧に全く別々の陣営に割り振られているこの現状は意図された物なのか、それとも偶然という名の運命が導いた結果の顛末なのか。
 答えを知るのは“黒い羽”を撒いた聖杯戦争の根源、願いを叶える戦いを望んだ何かの意思のみなのだろうが。

「キャスター。一つ聞いておきたい」

 ……それでも、一つだけ確かな事がある。ジョン・ウィックが五条悟に対して投げ掛けた問いが、それを引き出した。

「次は勝てるのか、スクナに」
「勝つさ。今度こそね」

 呪いは廻る。こうしている今この瞬間だって、止まる事なく廻り続けているのだ。
 であれば彼らの殺し合いは必ずやこの聖杯大戦の台風の目、爆心地と化す事は間違いなかった。
 『青の陣営』の主を任ぜられた少女は先生と呼ぶその男の断言を横目で見ながら、どこか感慨深さを感じさせる眼をしているのだった。






■ 『青の陣営』 ―――――― 5/5


 ◇ケイ@ブルーアーカイブ & キャスター(五条悟)@呪術廻戦<Leader>

 ◇一色くるる@ひぐらしのなく頃に令 & ランサー(Undyne)@Undertale

 ◇オモリ@OMORI & バーサーカー(ウタ)@ONE PIECE FILM RED

 ◇霞沢ミユ@ブルーアーカイブ & バーサーカー(ドゥリーヨダナ)@Fate/Grand Order

 ◇ジョン・ウィック@ジョン・ウィック & アヴェンジャー(東仙要)@BLEACH






「――え?」

 『月雪ミヤコ』がそんな声を漏らしてしまった事を誰も責められはしないだろう。
 いや、実際に全員の内心は彼女と全く同じだった。それほどまでにこの『黒の陣営』のリーダー……『赤羽士郎』が語った言葉とその内容は寝耳に水、それどころか全く予想だにしない物であったのだ。

 AIの未練が生み出した、無念の箱庭。
 ある愚かな男が犯してしまった罪の清算。箱庭の名は冬木市でも“Holy Grail War”でもなく『グッド・イブニング・ワールド』。
 そして――自分のサーヴァントこそがマスター達を聖杯大戦へと誘った“黒い羽”の主であると。

「その昔、男はとある目的で歴史上最高峰のAIを作り出した。自ら成長し、増殖して進化する……理論上何者にでもなれる可能性を秘めたAIだ」

 始まりが愚かだった事も知らずにな、と語る赤羽士郎はダンディな白髭を蓄えた壮年の偉丈夫だった。
 彼の背後から漆黒の羽が噴水のように巻き上がって、仮面を被った長身痩躯の影(スレンダーマン)が立つ。

 何かの妄言と取られても不思議ではない男の言葉が真実である事を、巻き上げられては降り注ぐ無数の“黒い羽”が物語っていた。
 間違いない――この“黒い羽”は、自分達をこの世界に導いたのと同じ物だ。
 であればこれが。赤羽士郎が使役するこのサーヴァントこそが、やはり羽の主たる『黒い鳥』である事に違いはないのだろう。

「計画の失敗が明らかになったその時、全てはとうに手遅れだった。それでもどうにか収拾だけは付けたつもりだったが……、それさえも早合点でしかなかったらしい。男は忘れていた。否、見落としていたのだ。『黒い鳥』という王を羽ばたかせる為、そして撃ち落とす為に消費してきた人柱達の存在を。何者でもないままに終わると思っていた彼らの怨嗟が、科学の枠を超えて大いなる意味を持ち始める可能性を」

 ……『黒い鳥』を創り出した男は、間違いなく電脳世界に於ける造物主であり唯一神だった。

 彼が創り出したのは生命だけではない。それが生きていく世界をすら、当然のように造り上げて存続させた。
 名を『グッド・ナイト・ワールド』。AI達が人として暮らすもう一つの世界。そして、自らの正体に気付いた彼らが無念のままに消えていく集団墓地。この冬木市はかの世界と同一ではなかったが、しかし根源がそこにある事に疑いの余地はなかった。
 『黒い鳥』とは成長し、増殖する究極のAI。ならばその残骸たる彼らもまた『黒い鳥』である以上、切り捨てられてデータの海に消えた後も呼吸と自己進化を続けていなかったと誰が証明出来る。
 仮想世界、永劫の夜に沈んだ骸の鳥は長い時間を――気の遠くなるほど長い時間をかけて自らを変生させ、そして完成させたのだ。仮想から現実へ、現実(シングル)から多元(マルチ)へ、因果と事象の隔たりをすら超えて飛翔する翼を。偉大にして愚かなる父の偉業である“世界の創造”をなぞり、その地で異界の儀式を再現させるプログラムを。
 それこそがこの電脳聖杯大戦の真実。未練という名のバグに狂って在り方を見失い、聖杯という奇跡と結び付いて皮肉にも『幸せの黒い鳥』というフォークロアを完全に体現するようになった、伽藍の鳥が統べる箱庭である。

「興味深い話だ。それが本当ならば、貴様は既に聖杯を手に入れているという事になるが?」
「残念だが少し違う。サスマタはあくまでもオリジナルの『黒い鳥』で、私が呼び出したある英霊と偶然融合した産物に過ぎない」

 ミヤコのサーヴァントである浅黒い肌の弓兵が、会釈の一つもなしに赤羽士郎へと問い掛けた。
 しかし返ってきた答えはにべもない。今此処にいる『黒い鳥』は造物主と共に消え去った本体であって、箱庭の主ではないらしい。

「箱庭の主を務めているのはオリジナルではなくイミテーションという訳か。役に立たないな」
「否定はしないが、そう捨てた物でもない。例えば、このような事が可能だ」

 サスマタ、と赤羽士郎が短く命じる。それに仮面の男が首肯するや否や、積み重なっていた漆黒の羽毛がデータノイズを走らせ始める。ノイズは人の形に置き換わっていき、やがて一人の女の姿を形作るに至った。
 黒髪の、見るからに理知的な雰囲気を放った……秘書然とした見た目の女だった。

「AI――この世界の流儀に合わせて言うならば『NPC(ノンプレイヤーキャラクター)』。私のサーヴァントはそれをある程度自在に創造出来る。
 試した事はないが、君達の記憶を参照して知己の人物を再現する事も恐らくは可能だろう。この情報は、最初に共有しておきたかった」」

 その優位性を理解出来ない者は居るまい。たかがNPC、されどサーヴァントの力によって生み出された以上そこにも神秘が宿る。
 その気になれば戦闘能力を与える事も可能であるし、そうでなくとも自陣営に奉仕する人手を魔力の続く限り無尽蔵に供給出来るという性質がどれほど都市戦において破格かは言うまでもなかった。
 『黒い鳥』は電脳世界の神が創り出した神子だ。彼であり彼女であるアルターエゴは、偉大な父の為にどんな事でもするだろう。

「……んーと。ごめんおじさん、結局何言ってるのかよく分かんなかったんだけど」

 そう言って手を挙げたのは、瞳に真紅を飼った美少女だった。

 深窓の令嬢。そんな月並みな形容なこの上なく似合う、紛れもなく人間である筈なのに神秘の介在を感じさせる彼女の名前は『黒埼ちとせ』という。吸血鬼のように紅い瞳の少女も、今は『黒』の円卓を囲むマスターの一人。
 聖杯を求めて明日に奔走する、鳥に言祝がれた走狗の一匹でしかない。

「おじさんはどうしてそんなに色々知ってるの? リーダーって言っても私達と同じマスターなんだよね」
「『黒い鳥』を生み出した愚かな男は私だ。この世界のモデルにされたであろう、AIの暮らす世界を創造したのもな」
「――あは、すごいじゃん。おじさん神様なんだ?」
「神、か。そうだな。私をそう呼んだ者も過去にはいた」

 黒埼ちとせは、“死”を隣人にしている。
 それは美しく可憐な生き様に伴ったある種の代償だったのか、それとも神の諧謔だったのか、彼女自身にさえ今もって分からない。

 そんな彼女には、眼前で語る“神”の罪深さがよく理解出来た。生贄になる為だけに生み出された命。希望と自我を与えられながら、生きる事を許されなかったどこかの誰か――それはちとせにとって決して他人事ではない話だった。
 死にたくない。生きていたい。生きていたかった。
 その気持ちに嘘も真も、人間もそれ以外もありはしないとそう信じている。
 だが、それでもちとせにとって彼らの未練は希望以外の何物でもなかった。その涙があるから、死してなお喉から零れ出てくる叫びがあるから、自分はこうして一筋の蜘蛛の糸に縋る事が出来ているのだから。

 であれば迷いはすまい。黒埼ちとせは、神に感謝する。

「神様なおじさんは、私達を勝たせられるんだよね?」
「保証する」

 返ってきたのは断言だった。声音に迷いはなく、神の眼には揺るぎのない決意が横溢している。
 語ってきた言葉は所詮種明かしに過ぎない。悔恨では、もはやないのだ。彼が戦う理由は贖罪に非ず、かつて失った何かを取り戻す事なのだとちとせはこの短い会話の中でそう理解した。
 であればもう問う事は何もない。『黒い鳥』が天使であろうが悪魔であろうが、光に嫌われた吸血鬼はその羽で自らを覆うだけだった。

「――保証。保証か。大きく出たな? “人間”」

 ちとせの声を美声と表現するならば、次に響いたその声は凶声と呼ぶ他なかったろう。
 尊い何かを引き裂くような、声音一つ一つからあらゆる凶念が滲み出た言葉が『黒』の星界円卓を揺らした。

 緊張が走る。ミヤコの弓兵が銃の引き金に指を掛け、ちとせは唇を噛んで戦慄に瞳孔を広げた。
 そんな二者の反応など意にも介する事なく、傍若無人そのものの異姿で顕現したのは黒髪の青年――の姿をした“何か”だ。

「とはいえオマエの言葉と抱えた力は、まあそれなりに興味深い。こうして出てきてやったのはその褒賞だと思えよ、卑しくも神を僭称する道化」
「……では素直にそう受け取っておこう。君は誰のサーヴァントだ?」
「そこの小娘だ。凡庸だが、強度は悪くない要石でな。俺もそれなりに気に入っている」

 不可思議な存在だった。存在の根幹からして矛盾している、そんな印象を見る者に与える。
 並み入るサーヴァント達と比べても明らかに抜きん出た魔力量と霊基の完全性を持ちながら、しかし肉体だけを見れば英霊のそれとは思えない。
 まるで人間の器の中に英霊の魂を直接ねじ込んで、道理を無視して動かしているような異常さがかの者には存在していた。

「……君も災難だな。見るからに主の言う事を聞くとは思えない」

 赤羽士郎が話を振った地に着くような長い黒髪の少女は、唇を噛みながら黙して俯いているばかりだった。
 そんな彼女――『天童アリス』が、陣営の長に話を振られた事でわずかにその顔を上げる。天使や女神を思わせるような完成されたあどけない美貌は見るも無残に曇り切っていたが、そこに微かな光が射したのはきっと気のせいではなかったろう。

 固く閉ざされていた唇が、おずおずと開く。
 上下の白い歯の隙間から「あ」と音が出るか出ないかの所で、しかし呪いの王が嘲るように釘を差した。

(いいのか?)
(――っ!)
(俺は同胞など端から必要としておらん。その気になれば今この場で、貴様の為に少々捌いてやっても構わんぞ?)

 今、この世界に於いての天童アリスは勇者ではない。そして魔王ですらもなかった。
 彼女は要石だ。呪いの王という荒御魂を鎮める為に用意され、その機嫌を慰め続けるだけの舞台装置なのだ。

 呪いの王はアリスを好んでいる。その肉体の特異さもそうだが、何より魂の構造が好奇心を掻き立てた。
 どこの馬の骨とも分からない者に形式上とはいえ主の役目を任せるよりかは、この人形はずっといい。
 しかしこれにとってのアリスはあくまでも要石であり、同時に愛玩の対象だった。彼女が自らの意思で輝かんとする事を、宿儺は望まない。

 そしてアリスは……勇者という光(ユメ)を知ってしまった兵器は、自分のせいで生まれる犠牲という物を決して許せない。
 だから尚更、アリスは詰んでいた。彼女は只堕天の傀儡として、いつか自分という魔王を殺してくれる勇者が現れるその時を祈り続けるしかないのだ。

(プリテンダー……貴方は、どうして、そんなにも……)
(理由が要るか? 己の快不快のままに生きる事は生物の本分だろう。俺はそれに従って生き、思うがままに殺すだけに過ぎん。であれば貴様がすべき事は分かるな? 天童アリス)

 対話の通用する相手ではない。本来の歴史で、彼女が己の半身である“Key”に対してそうしたように、向き合って理解し手を差し伸べる事で融和を図れる存在ではないのだ。だからアリスは此処でも当然のように何もする事が出来なかった。もしも逆らってしまえば、この円卓が自分のせいで血で染まってしまう。この男はそれを本気で実行する存在だと言う事はアリスもよく分かっていた。

(貴様は只、俺の為に“在り”続けていればそれでいいのだ。弁えろ、要――)

 だから押し黙るしかない。押し黙って、悪意に満ちたその嘲弄を受け止め続けるしかないのだったが。


「『両面宿儺』」


 そこで、響く筈のない声が呼べる筈のない名前を呼んだ。
 再び静寂が場を満たす。今度は王――両面宿儺までもが静寂の住人と化していた。

 嘲りばかりを浮かべてきたその顔面に、初めて驚きの色が浮かび上がる。彼を“呼んで”諌めたのは、もう一人の金髪の少女の背後に立った和装の美青年だった。
 精神の潔癖さが滲み出たような怜悧な風貌と、一切の穢れを感じさせる事のない美しい立ち姿はある意味で宿儺の真逆を行っている。
 その存在感で場を呑み込むように支配していた宿儺に冷水を浴びせ掛けた男の顔に、呪いの王へ対する恐れは欠片ほどすら見て取れない。

「度が過ぎるぞ。影法師ならば弁えろ、首輪付きの“呪いの王”よ」
「――驚いたな。どこかで会ったか?」
「答える理由はない。そして喧嘩を売るつもりもない。だが、この世界が貴様だけの遊戯場だと思い上がらない事だと忠告しておきたかった」
「くはッ」

 本来宿儺は下奴の愚弄を笑って許すほど寛大な男ではない。だというのにこの反応というのは即ち、青年の出現とその“諌言”が彼にとって少なからず愉快な物であったという事に他ならなかった。
 何が可笑しいって、恐らくこの青年は本当に挑発の意図など毛ほどもないままに今の言葉を放ったのだろう事。
 悪意なく、焚き付ける意思もなく、只そうするべきだと思ったからそうしたというだけの爆弾発言。言葉の前に彼が起こしたあり得ざる事象……真名の呼称という全く理外の行為も含めて、彼は宿儺へ興を見せる事に成功していた。

「俺を狗と呼ぶか」
「我らは皆そうだろう。それがサーヴァントの本分という物だと心得ているが」
「――よい。オマエに免じて矛を収めてやろう。陣営での戦いなど興醒めだと萎えていたが……存外に愉快な物が見られそうだ」

 笑みと共に宿儺が霊体化し、アリスは安心したように力なく胸を撫で下ろした。
 一難去った格好になった訳だが、心穏やかと行かないのは宿儺を鎮めた青年――セイバーを従えるマスターである。

(よかったんですか、セイバーさん? 私達、もしかして厄介な人に目を付けられちゃったんじゃ……)

 ちとせのとはまた違う、ふわりと空気を含んだ柔らかな金髪の少女『花邑ひなこ』こそが彼のマスターだった。
 ひなこはマスターの中では間違いなく凡人の部類だったが、一方でひなこの使役するセイバーはそうではない。それどころか全てのサーヴァントの中で見ても類を見ない、並び立つ者のない利点を保有した強き死神だ。
 真名を『痣城双也』。自身を縛る称号から解放され、無間の牢獄の中から束の間の午睡に迷い出た極めてイレギュラーな一柱である。

(その可能性はある。だが、無用な混沌を避ける為にあえて楔を打った)
(無用な、混沌……?)
(両面宿儺――天童アリスのサーヴァント『プリテンダー』は極めて強大、そしてその強さに裏打ちされた野放図を理とする悪魔だ。奴には聖杯大戦という形式を己を束縛する枷としか感じていない。そして厄介な事に、宿儺は本当に単独で他の陣営を丸ごと相手に出来る力を有してもいる)

 痣城が真名を知っている存在は、何も両面宿儺だけに限った話ではない。
 彼はこの冬木市に現存している大半のサーヴァントの真名と人となり、そして手の内を知覚している。
 赤羽士郎などという世界への干渉権を失った名ばかりの神よりも、余程その呼び名に相応しい力を持ったサーヴァント。それが痣城双也であり、こうしている今もその耳元で喧しく喚き立て続けている“斬魄刀”の形だった。

 その痣城をしても、宿儺は危険極まりない存在だという評価であった。力もさることながら、あまりに性根が腐りすぎている。協調が臨める相手ではないし、味方だからと言って胡座を掻いていられる存在でもない。だからこそ痣城は、危険を冒して宿儺の心に波を立てる行動を起こしたのだ。彼はあの瞬間、宿儺に『黒の陣営』が持つ価値を自ら示してみせたのである。

(これで当面は問題ないだろう。万一宿儺がこちらに狙いを向けてくるようであれば、その時は赤羽にも力を借りる)
(……大丈夫、なんですよね)
(誓おう)

 ひなこは痣城の言葉を信じる事にした。そうするしかなかったというのもあるが、ひなこにとって彼は唯一の剣であり、あの日々の中から数えても初めての身を委ねる事が出来る大人だったのだ。


 そんなひなことは裏腹に、痣城は心の中で彼女に小さく謝罪の弁を述べてもいた。
 今語った言葉に誓って嘘はない。一見すると突飛に見える行動も、全て語った通りの理屈に基づいた合理的行動だ。
 ……しかし、それだけではなかったのもまた事実である。

『キハハハハハ! 毒されてる毒されてる。観音寺のアホに毒されてる! アンタって意外と影響されやすいタイプだったんだね! こりゃ傑作だわ!』

 宿儺の傍で、沈痛な面持ちのまま俯いていた幼い少女。彼女の顔を見た時、咄嗟に脳裏に思い浮かんだ顔があった。

 人間界、空座町という町で遭遇したとある男だ。その男は死神の前に立ちはだかるにはあまりに弱く、吹けば飛ぶようにか細い存在でしかなかった。痣城にとっても取るに足りない存在、それどころか認識する事にさえ大した意味があるとは思えなかった――最初は。
 しかし男は何度となく痣城の進軍を妨害し、どれほど傷付き、無力を思い知らされても立ち上がって向かい来続けた。
 そして遂には『痣城剣八』……尸魂界の大逆人と呼ばれた悪名高き死神に、決定的な敗北を突き付けてみせたのだ。

 天童アリスの今にも泣き出しそうな顔を見た時、彼の顔が浮かんだ。
 “あの男ならば、どうするだろうか”と考えてしまった――理由付けは後から付いてきた。

(……我ながら、呆れるほど拙い偽善だな)

 最近ようやく慣れてきた“雨露柘榴”の笑い声を聞きながら、痣城は返す言葉もない自身の体たらくに辟易するのだった。


 そして――。

(この上ない僥倖だ。喜べマスター、“為すべきことを為す”ならばこの『黒』以上の陣営はない)

 SRT特殊学園の忘れ形見、“RABBIT小隊”の部隊長である月雪ミヤコは正義の先達の言葉を聞いていた。
 ミヤコは自分の指針を赤羽士郎並びに同陣営の仲間達に対して伏せている。彼女の目的は聖杯の獲得ではなく、あくまでも聖杯大戦という事態そのものへの対処だ。単に敵を皆殺しにして聖杯を手に入れ帰還するのではなく、それ以外の可能性の模索を含めて調査を重ねたい。それが、SRTの意思を継ぐ自分が真に為すべき事であるとミヤコはそう信じていた。

(赤羽士郎……『黒い鳥』のマスター、ですか)
(そうだ。奴は確実にこの世界の真相を知っている。慈善事業じゃないんだ、此方に全てを明かした訳ではないだろうさ)

 彼女のサーヴァントは、しかし“正義の味方”ではない。彼はかつてそうありながら、その座から失墜したモノだ。
 だからこそ彼の目指す結末は、必ずしも万人にとっての大団円であるとは限らない。
 ミヤコもまたそれを承知していた。だからこそ常にその思考決断には、“ひょっとしたら”の虞れが付き纏う。ともすれば自分のやっている事、信じている物は全て間違いなのではないかという不安と自問を常に抱えながら――それでも歩み続けているのが今の彼女だ。

(それに、あの『宿儺』というサーヴァントについてもだ。マスター。おまえは確かに言ったな、あの少女に覚えがあると)
(はい。それほど深い関係を結んでいた訳ではない――というか、まともに話した事もない始末ですが……)
(構わん。宿儺は間違いなく、この聖杯戦争……いや、聖杯大戦を終結させる上で避けて通れない障害になる。必然オレ達にとっても課題の一つという訳だ。であれば取り付く島がわずかでもあるに越した事はない)

 ミヤコは直感している。彼の進む道、そこに存在する正義は必ずや大きな痛みを伴う物であると。
 その上でなお、彼を従えての異変解決を願ったのはミヤコ自身だ。覚悟は既に出来ている。怖いと感じる感情がないと言えば嘘になるが、それでも今更吐いた唾を飲み込んで詫びを入れる気はミヤコにはなかった。

(鳥を狩り、異変を終わらせる。――覚悟はいいな? 月雪ミヤコ。剣の丘を垣間見た白兎よ)
(くどいですよ、アーチャー。私はあなたと共に、正義を為します。もしもその過程に間違いがあったなら、SRTの誇りに懸けて私が止める)

 彼の正義をなぞり、そこに殉じるつもりはない。
 間違いがあるのなら質す。自分が正しいと思った道を、SRTの掲げた正義をあくまで自分は貫いてみせる。
 決意を胸に、月雪ミヤコは己が従僕である“悪の敵”と共に見果てぬ旅路に臨まんとしていた。黒き羽毛の舞い散る無尽の電脳戦場の中で、それでもあの日信じた光を貫くのだと改めてそう決意した。






■ 『黒の陣営』 ―――――― 5/5


 ◇赤羽士郎(有馬小次郎)@グッド・ナイト・ワールド & アルターエゴ(ナーサリー・ライム/『黒い鳥』)@Fate/EXTRA<Leader>

 ◇花邑ひなこ@きたない君がいちばんかわいい & セイバー(痣城双也)@BLEACH Spirits Are Forever With You

 ◇月雪ミヤコ@ブルーアーカイブ & アーチャー(エミヤ・オルタ)@Fate/Grand Order

 ◇黒埼ちとせ@アイドルマスターシンデレラガールズ & キャスター(シェヘラザード)@Fate/Grand Order

 ◇天童アリス@ブルーアーカイブ & プリテンダー(両面宿儺)@呪術廻戦






 ――Good Evening,World(こんばんは、われらが世界)!






次の話:終わりのその先を目指して



Character name Next
瀬崎愛吏 002:期末テストに備えて/ロストワンの号哭
セイバー(綱彌代時灘)
花邑ひなこ 003:臨海ダイバー
セイバー(痣城双也)
白雪千夜
セイバー(ベディヴィエール)
オルガマリー・アニムスフィア
アーチャー(ガッシュ・ベル)
月雪ミヤコ 007:錆びつけば二度と突き立てられず、掴み損なえば我が身を切り裂く。そう、正義とは刃に似ている
アーチャー(エミヤ・オルタ)
折原臨也 001:終わりのその先を目指して
ランサー(ウルキオラ・シファー)
一色くるる
ランサー(Undyne)
眞鍋瑚太郎 002:期末テストに備えて/ロストワンの号哭
キャスター(ナヒーダ/クラクサナリデビ)
繰田孔富 004:方舟の救いと洪水の救い
キャスター(アスクレピオス)
黒埼ちとせ 005:ガールズ・イン・ザ・フロンティア
キャスター(シェヘラザード)
ケイ 003:臨海ダイバー
キャスター(五条悟)
滑皮秀信
アサシン(レイン・ポゥ)
宮園一叶
アサシン(築城院真鍳)
羂索
バーサーカー(キスショット・アセロラオリオン・ハートアンダーブレード)
霞沢ミユ
バーサーカー(ドゥリーヨダナ)
オモリ 004:方舟の救いと洪水の救い
バーサーカー(ウタ)
ありす
アルターエゴ(岩崎月光/チルチル)
有馬小次郎 006:tartarus_0d01
アルターエゴ(ナーサリー・ライム/黒い鳥)
天童アリス 006:tartarus_0d01
プリテンダー(両面宿儺)
ジョン・ウィック 001:終わりのその先を目指して
アヴェンジャー(東仙要)

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最終更新:2024年04月28日 14:46