「避けられないとは―――ああ、知っていたとも最初から。
けれど、彼女が眠ったのなら是非もない。
これ以上傍観を決めている訳にもいかないだろう」
その真の正体は魔星の一人、ヘルメス-No.δ 錬金術士。
ルシード・グランセニックという人間は確かに実在したものの、
彼の親族が帝国軍の内情に深入りしすぎたために巻き添えの形で粛清を受けることになる。
魔星として再び生を受けるも、 イヴと同じく 聖戦に関しては何ら積極的な態度を示さずにいる。
ミリィ√とヴェンデッタ√にて 親友のため、愛しき者のため、あるいはその両方のために本気になる彼が見られるだろう。
有する 星辰光は磁界生成能力の 《雄弁なる伝令神よ。汝、魂の導者たれ》。
そのパラメーターは基準値と発動値の差が B- Aと小さく、基準値以外全てのパラメーターが オールAというとんでもないもの。
他の 人造惑星がどこかしらA以上の性能を持っている代わりにどこかしらの性能が低いという特徴を持っていることを考えれば万能なパラメーターである。
また、 星辰奏者でも 人造惑星でも金属を介して 星辰光を発動しているが、ルシードの星はその金属自体に干渉、 星辰光の発動を封じることができる。
それ抜きにしても、ほぼ全ての物質に干渉可能な磁力を操ることで様々な攻撃手段を生み出せる。
事実上ヴェンデッタとは別方向の星の天敵であり、彼を打ち破るにはヴェンデッタのような 星そのものに干渉するか、 圧倒的な出力差で封印を撥ね退ける以外に方法はない。
しかし彼は聖戦を忌避しているため自ら戦闘に参加することは(ほぼ)なく、また特に鍛錬等を積んでいないため生身での戦闘能力はゼロである。
魔星として目が覚めた彼は生前の粛清の際に見たヴァルゼライドの武力によって完全にトラウマを負っているため、聖戦には 消極的であり、その姿を見た英雄と神星からは人型である事もあり、商国との取引を担当すると共にヴェンデッタの管理を任ぜられる。
この時のルシードは、ヴェンデッタが目覚めていれば聖戦に巻き込まれる事は無かったとヴェンデッタに憎悪を抱いていた。
その後、 マルスと ウラヌスが 大虐殺を起こした夜に現場から遠く離れた場所でヴェンデッタが起動しかけたのを唯一その場に居合わせ、ヴェンデッタの状態が不安定な事を生かし彼女を破壊しようとする。
が、戸惑いを見せ実行に移せないままゼファーが逆襲を選ばなかったために再びヴェンデッタは眠りにつき、自分の情けなさに自己嫌悪に落ちる。
同じく聖戦に消極的なイヴが製造された頃にゼファーと 運命的な出会いをし、同じ性質を持つ者同士 意気投合して繋がりを持つに至った。
この頃にはヴェンデッタに対する感情を自覚しつつあり、イヴの巨乳に興味を抱かなくなり、ゼファーとの会話で貧乳が至高と語るほどロリコンが進んでいた。
そして彼と ミリィの面倒を持ったことから今の関係を持つに至り、ヴェンデッタへの感情は大恩に変わり、彼女へ恋を向ける事となる。
だが、彼女の元へ吟遊詩人を向かわせたのをきっかけに、止まっていたはずの運命の車輪は廻り始めてしまう……
どのルートでもヴェンデッタとは結ばれることはなく、またその内二つは死別となる。
チトセルートでは 錬金術士として協力はせず、最後までルシード・グランセニックとして戦闘には参加しなかった。
その後、ゼファー達はヴァルゼライドに勝利したものの愛しきヴェンデッタは行方不明となってしまい自暴放棄になったもののエピローグの時では 立ち直りゼファーを商人と親友として支えている。
なお、皮肉にも錬金術士であることを明かしてないこのルート以外ではゼファーとも死別することとなる。
ミリィルートではウラヌス戦後にヴェンデッタが死亡したことを察知、彼女の動かないその姿を見てついに長年の鬱憤が爆発し 錬金術士として怒りをさらけ出す。
帝国軍最強の部隊を自負する チトセ達を上記の能力で圧倒、チトセ本人すら星を封印され無力化された。
ヴェンデッタを守れなかった自分の不甲斐なさへの八つ当たりとして、そのままチトセ達を惨殺しようとするが、ミリィに説得されて思いとどまることとなった。
だが、ゼファーに対する怒りは消えることがなく、カグツチにヴェンデッタの再起動のためのプランとしてゼファーを連れてくることを命令され、それを受諾。
そして アスラとゼファーの交戦に介入、ヴェンデッタに対するケジメとして袂を別つことを宣言した。
この戦いに幕を引くべくルシードは、一瞬の隙から見出だしたゼファーの必殺を胸で受け止め致命傷を回避、それを自身の必殺と変えんとした。
しかしその必殺が決まらんとする刹那、ゼファーがアスラ戦で左腕を失ったことで義手を付けていたこと、その義手をミリィの手で調律していたこと、そのミリィがヴェンデッタとウラヌス戦で同調の機会を得、ヴェンデッタの星の影響を受けていたこと等等、さまざまな家族達の間での偶然が重なった結果、 ミリィと想いを重ねたゼファーは、ヴェンデッタの力を今一度だけ振うことを可能とした。
――慮外の一手を受けたルシードは、 己の女神への愛でゼファーを凌駕することはできなかったかと苦笑するも、ゼファーから 自分が生き残れたのは俺の力などではなく、愛したミリィが傍に居てくれたからだと告げられる。
そうして、錬金術師は戦いの結末を受け入れて、友へと微笑みながらその斬首の刃を受けたのだった。
……実は決闘の前に商国に対してゼファー達の助けとなる手続きをしていたらしく、それは彼の死後にあって、決闘の後商国に亡命したゼファー達の支えとなっていった。
ヴェンデッタルートでは、聖戦の準備が整ってから暫くは、かつての恐怖心を抱え静観の態度を選んでいた。
しかし、囚われたゼファーとヴェンデッタを取り返そうと立ち上がるミリィや、その姿に鼓舞されたイヴが鋼の英雄へと向かってゆくのを目にしたことで己の不甲斐なさを恥じてゆく。
そうして錬金術師はついに、愛する者と親友、その二人を英雄譚から取り戻すべく、 ヴァルゼライドの前に立ちはだかったのである。
ヴァルゼライドとの戦闘では実戦経験の差から、僅か三撃で詰みを迎えるかに見えたが、自身の星光も封じられることを代償に、彼の放射光の刃を抑え込むことに成功する。
しかし、肉弾戦に移行したことで、常時、魔星との戦闘を意識し鍛練を積んできたヴァルゼライドにより、何等戦闘の技術を有していなかったルシードは彼の鉄拳の前に 袋叩きにされていった。
そんな苦境においても、錬金術師は臆病な己を支えている想いを胸に立ち上がり、 英雄が常に宣言してきた「誰か」の正体とその内に秘める彼の歪さを指摘してゆく。
結果、錬金術士の命は風前の灯と成り果て、一方の輝く英雄は重症を負うも諦めを認めず、不屈の胆力により再起に近づいてゆく。
故にこの争いもまた英雄と神星にとっては予定調和であり、英雄譚は曲がらず弛まずして、聖戦へと突入するであろう。
しかし、今の錬金術師には、前進前進ばかりの光の信奉者たちの姿などもはやどうでもよかった。そう、満身創痍の彼の視線は囚われた女神と親友にのみ、注がれていたのだから……
―――輝かしい英雄譚が廻す輝かしい覇道の環、轢殺の車輪、そこに一つの砂粒が紛れ込んだ。
もう二つの砂粒に最期の言葉を伝えるために。
それは親友に 友情を叫び、愛する者に愛を告げる小さな砂粒の物語。
その砂粒、ルシード・グランセニックは最後に伝令神として二人の物語に決着を着けた。
死想恋歌は吟遊詩人の手により命を散らして逝き、吟遊詩人は狂い嘆く。
英雄譚に巻き込まれた小さな砂粒の物語はこれにて--
……最後に、一つの物語を語ろう。
それは光の英雄譚ではない。
それは闇の冥界賛歌。
英雄譚に巻き込まれた二つの小さな砂粒が謳い上げる、闇の逆襲劇。
導き手となるのは、愛する女神と心通わせた親友、その二人の笑顔と幸せを願う――哀しき錬金術士。
今こそ、二人に最高の錬金術を送ろう
嘆きの琴と慟哭の詩を、英雄への逆襲劇で涙と共に奏でてほしい
毒蛇に愛を奪われて、悲哀の雫が頬を伝う。眩きかつての幸福は闇の底へと消え去った。
ああ、雄弁なる伝令神よ。彼女の下へどうか我が身を導いてくれ。
蒼褪めて血の通わぬ死人の躯であろうとも、想いは何も色あせていないのだ
願うならば導こう――吟遊詩人よ、この手を掴め。愛を迎えに墜ちるのだ
太陽へかつて譲った竪琴の音を聞きながら、黄泉を降りていざ往かん。それこそおまえの真実である
嘆きの琴と、慟哭の詩を、涙と共に奏でよう。死神さえも魅了して吟遊詩人は黄泉を下る
だから願う、愛しい人よ――どうか過去を振り向いて。
光で焼き尽くされぬよう優しく無明へ沈めてほしい。二人の煌く思い出は、決して嘘ではないのだから
ならばこそ、呪えよ冥王。目覚めの時は訪れた。
怨みの叫びよ、天へ轟け。輝く銀河を喰らうのだ
───これが、我らの逆襲劇
この祈りを、冥王と月天女からの錬金術士への鎮魂歌としよう
その名は--
闇の竪琴、謳い上げるは冥界賛歌
あらゆる光を滅ぼす逆襲劇が英雄譚を滅ぼすのを聞きながら、ルシード・グランセニックは眠りについたのであった。
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