神祖三柱を地上から葬り、最後にして最大の
宿敵を討ち取らんとする
人奏者の行く手を、驟雨の如き
究極剣技が切り裂く。
「律儀なことだ。この期に及んでまだやるか」
「愚問だろう、俺の異名を知らぬなどとは言わせんぞ」
立ちはだかる神の
斬空真剣──
大神素戔王の刀剣は主君に仇なす怨敵を決して見逃さない。
虚空を切り裂き迫る無数の究極剣技。以前の戦闘では抗することも出来ず切り刻まれたが、迫り来る煌めきはラグナを捉えることはない。万物断ち切る斬閃をラグナは己が大剣で残らず弾いてみせたのだ。
戦闘者としての技量は依然ベルグシュラインに軍配が上がるにもかかわらず、互角の剣戟を演じている要因は
人奏者としての
特性だ。
人奏者の真骨頂は光狂いの特性である気合による出力上昇ではなく、頭脳面での覚醒である。無限に加速する意識を用いた観測と解析により、抜き放たれる瞬間さえ視認できない斬撃に計算で対応してみせたのだ。
「見事だよ、流石は主と起源を同じくする神魔。やはり貴公こそ我が好敵手。つまらぬ男に生きる目標を授けてくれる、唯一無二に他ならぬと―――」
「寝言を吐くな、それさえお前の願望などではない癖に。奴の命令がなければ自分探しも出来ない男が、笑わせる。貴様は単に今この時も、主君の神託をなぞり続けているだけだろうが」
限りない称賛と憧憬に対し、ラグナは淡々と、そしてどこまでも冷ややかにその賛辞を切り捨てる。
対するベルグシュラインは無言だった。違うというべきなのだろうが、その言葉が出てこない。
本当に自分はそう思っているのか?
相応しい反論が見当たらぬから沈黙しているのは、つまりそういうことなのでは?
疑念に心が乱れるものの、しかし絶技の嵐は止まらない。心を乱して動きを鈍らせるのは間違いであり、勝つために最善を尽くすのは正しいこと。そんなどこまでも一切の可愛げなく、敵を狩り続ける無謬の刃であり続ける。
悲しくなるほど命令に忠実な、ただの最強を誇っている。心を置き去りにして刀剣としての性能を遺憾なく発揮し、そして―――。
「――――ぐ、かはッ」
砕ける刀身、断ち切られる身体。決着はどこまでも順当に訪れた。何もおかしなことはない、単に極晃奏者と化したラグナの総合値が、ベルグシュラインの総合値を完全に上回ったから勝利したというだけ。
眼前の絶対剣士は才能も、努力も、環境も、運も、師に至るまでがすべてがすべて完全無欠。無慈悲な理屈の体現者。
しかし―――それこそが絶対剣士の敗因。
「たった一つ、物語だけをおまえは欠片ももっていない」
情動を必要としない性能のみ優れた道具として完成した刀剣は、より優れた性能を持つ人造兵器に総合値の優劣で勝てる道理はなく、それを上回るための余分な要素を持っていない、それがすべてだった。
「砕けろ、無価値な無銘の刀剣――栄光の末路に訪れる黄昏の波に散るがいい」
そして炸裂する不死破断の一撃。破滅は避けられないものの、当然人間ならば死の間際において死力を尽くし、最後まで足掻くものだが――。
「否、まだだ。まだ終わらぬ――などと咆哮できぬからわが身は所詮、刀剣か」
奮い立たせようとする心は当然、まるで鼓動を鳴らさない。死の間際でも道具としての性能以上は発揮できない。
宿敵でも好敵手でも、愛する者にもそれこそ無限に出会えたはずの、何者にも成れたはずの男は、結局最後までよく斬れる絶対神の道具にしかなれなかった。
奇跡も覚醒も起こらぬまま、運命の車輪を回す歯車は部品に過ぎない自分自身に小さな自嘲の笑みを浮かべ。
「……無念だ。初めて口惜しい」
無価値な無銘の刀剣はほんの小さな、常人では悔いとも言えない一握の悔恨を口にしながら終焉の彼方に消え失せたのだった。
- そういうところやぞベルグシュラインの大合唱 -- 名無しさん (2020-07-12 01:24:17)
- その身を焦がすようなヒカリを胸に抱けなかった彼は哀れだ 心からそう思う -- 閣下と出会って変われた元塩野郎 (2020-07-12 01:38:20)
- 台詞と展開が伯爵を思い出させる -- 名無しさん (2020-07-12 03:41:12)
- こいつ能力がほんの少しだけでも自分より上回る奴には絶対に勝てない奴なんやな。意思力が何もないから光狂いのように土壇場で奮起出来ないしゼファーさんみたいに必死で足搔く事も出来ない。 -- 名無しさん (2020-07-12 04:23:46)
- 光に目を灼かれてからの審判者と邪竜はムラサメ先生から哀れだと思われたけどこの二人は運命と出会えなかったベルグシュライを哀れな奴だと思いそう。 -- 名無しさん (2020-07-12 06:12:33)
- やっぱり閣下に出会ってから生き生きし始めていた糞眼鏡は周りはともかく本人限りなく幸せだったんやなって。この人もそういう出会いがあれば塩野郎な刀剣から変われたのかもと思うとやはり光こそ最高だ(邪竜感) -- 名無しさん (2020-07-12 06:38:37)
- むしろ糞眼鏡みたいにならないように、神祖が意図的に運命を操作してた…? -- 名無しさん (2020-07-12 09:39:40)
- ↑こいつはヴァルゼライドに会ったとて何も変わらないと思う -- 名無しさん (2020-07-12 09:51:18)
- こいつは自身を形成する何もかもが完全無欠だから精神という後押しが要らない存在になってしまったんだな。もしどれか一つでも欠けていれば、それこそそれを埋めるために心を必要としたから運命なんて簡単に出会えたんだろうね -- 名無しさん (2020-07-12 09:55:26)
- 「否、まだだ。まだ終わらぬ」のところでおっ!?と思ったけど「などと咆哮できぬからわが身は所詮、刀剣か」の自嘲気味の顔グラであー……そうだよなってなってしまった。でもそういうキャラだからベルグシュライン好きだわ -- 名無しさん (2020-07-12 10:05:16)
- 善眼鏡は全てあったけど根っこは糞眼鏡だったから結局環境とか才能とか抜きにして刀剣には何もなかった -- 名無しさん (2020-07-12 10:17:32)
- 人間それぞれが持つ凸凹な部分が互いに噛みあうからこそ相手への興味や繋がりが生まれるんだから、形が整い過ぎて取っ掛かりになる部分が何も無い奴は誰とも繋がれないのか…悲しい -- 名無しさん (2020-07-12 10:43:03)
- あるいは、ベルグシュラインに傷をつけて凹凸にするような存在にも出会えなかったのも哀しいね -- 名無しさん (2020-07-12 11:07:07)
- ベルグシュラインにペルソナは無いのか。 -- 名無しさん (2020-07-12 11:51:08)
- 輝装もなけりゃ影装もないし真理になんか至れるわけがない -- 名無しさん (2020-07-12 11:57:35)
- ↑3 切磋琢磨するライバルでもいればよかったんだろうけど(それが女性だと正に運命)、グレンが千年積み上げた剣技を30年ちょいくらいで凌駕してしまう異次元の天才だからな…… -- 名無しさん (2020-07-12 12:02:06)
- ライバルに上回られてもあぁそうかってなって終わりそう -- 名無しさん (2020-07-12 12:10:59)
- ↑10 機械であるカグツチにさえ影響与えて人間性獲得させた閣下ならベルクシュラインをワンチャン変えられる気がしないでもない -- 名無しさん (2020-07-12 13:13:34)
- ↑元々カグツチは閣下が一目見たときこいつは俺と同類だってなるぐらいには素質あったよ -- 名無しさん (2020-07-12 13:17:05)
- ムラサメ師匠のようにアッシュのような誇りに思えるような弟子に出会えていればまた変わったかもしれないが。 -- 名無しさん (2020-07-12 14:06:54)
- 結局この人の詠唱が全てなのよね、主に示された獲物を斬るだけの刀剣でしかないから、斬れない相手には折れるしかないっていう -- 名無しさん (2020-07-12 14:14:43)
- ↑2そんな可愛い人間性なくね? -- 名無しさん (2020-07-12 14:15:53)
- 他作品で悪いが鬼滅の縁壱みたいのが傍にいたら嫉妬に……かられるか? -- 名無しさん (2020-07-12 15:44:16)
- ベルグシュライン自体が母の愛も父の呪いも兄の愛憎も嫁との出会いも一切なかった縁壱みたいなもんだし…… -- 名無しさん (2020-07-12 16:00:26)
- ただの刀が嫉妬するわけないんだよなぁ -- 名無しさん (2020-07-12 16:03:27)
- ベルグシュラインが複数いれば…と思ったけど同じ考えや技量を持つお互いですら運命にはなれそうにないな…積極性みたいなのがないんだよなぁ -- 名無しさん (2020-07-12 16:13:51)
- ↑仮にベルグシュラインみたいな女の子で幼なじみがいたとしても主君にライバルとしてがんばれって言われなきゃさして感心抱かなさそうなのが塩野郎の悲しいところ -- 名無しさん (2020-07-12 16:21:57)
- 才能じゃなくて性格の問題だな -- 名無しさん (2020-07-12 16:27:58)
- ただの刀剣としてなら優秀だったんだろうけどねベルグシュラインは……。本当に必要なものはアメノクラトが言ったような変化しない兵器としての強さじゃなくて、誰かのために強くなれるそんな当たり前のような人間の心だったのだ -- 名無しさん (2020-07-12 16:34:13)
- でもこいつに運命あったら本当に主人公レベルだし闇にも光にもどっちでも覚醒できてたら神祖も帝国勢力も如何ともしがたい化け物生まれる -- 名無しさん (2020-07-12 16:47:46)
- 誰かの助けも、秘密兵器も、覚醒も無しに単機で魔星倒したのシリーズでもこいつくらい? -- 名無しさん (2020-07-12 18:16:12)
- ↑こいつ使徒だぞ -- 名無しさん (2020-07-12 19:03:38)
- 魔星単体バフ無し討伐はゼファーもヴェンデッタとの同調でバフ貰ってるから多分いない -- 名無しさん (2020-07-12 19:16:51)
- 閣下は改造前でも数回は戦えるから出来そうな気がするけど魔星と戦った時は既に改造済みだから意味のない考察だけど。 -- 名無しさん (2020-07-12 19:23:50)
- ↑覚醒無しって条件じゃないの? -- 名無しさん (2020-07-12 19:24:28)
- ギルベルトですらチトセと同等なことを考えると改造、覚醒なしではウラヌスちゃんは最強 -- 名無しさん (2020-07-12 19:27:32)
- 無意味な高性能 -- 名無しさん (2020-07-12 19:29:41)
- バフ無しなら誰もマルスの瘴気貫けなくて死ぬ -- 名無しさん (2020-07-12 19:36:22)
- トシローみたいに侍でもないから忠義で奮闘もしないし、覚醒できた伯爵や下手したら凌駕にかける言葉があった乱丸よりも虚無的なのが -- 名無しさん (2020-07-12 19:48:52)
- 無縁だ、始めて口惜しい -- 名無しさん (2020-07-12 22:58:56)
- 別に感情が無いことも無いのに、この虚無さ何なんだろうな。なんていうか機械とか人造人間と違って元々が下手に無感情じゃない分、自我の芽生えみたいなイベントもおきないのがキャラ造形として凄いな -- 名無しさん (2020-07-13 00:01:22)
- エロゲ神とかその他の奴は大体満足して死んだのにベルグシュラインだけこの結末なんだよな。だから一番好きなキャラなんだが……ルーファス君? いや、まあ…… -- 名無しさん (2020-07-13 01:57:15)
- ↑同意。ドラマが無い故につまらないと評価されるのもわかるけど、むしろそこが好きだ -- 名無しさん (2020-07-13 02:17:33)
- 物語を評価するポイントの一つに本筋=目的=主役の夢を最初に説明するってのがある、ルーファスもベルグシュラインも確固たる目的=夢=ドラマがなくそれゆえ奮起もそれに伴う努力もできず満足もない -- 名無しさん (2020-07-13 06:28:56)
- 結局神に選ばれたからめでたしめでたし。とはいかないって事なんだろうな。 -- 名無しさん (2020-07-13 22:11:29)
- ベルグシュラインもルーファスも間違いなく言い環境にはいたが、自分で何か目標やら希望きゃら持ってないと何かしら虚しさを抱える事になるというか。 -- 名無しさん (2020-07-13 22:14:12)
- 変な方向に成長しないよう神祖に管理されてた弊害かもね。 -- 名無しさん (2020-07-13 22:16:44)
- 無駄や遊びを省きすぎるとイレギュラーへの余裕を失う、それこそ経験はあればあるだけいいと。鬼滅の刃の童磨と話したらどうなるかと思ったけどどうにもならないな、まだしのぶと話した方がキャッチボールになりそう -- 名無しさん (2020-07-16 15:37:40)
- この人ってそもそもの力量が段違いなんだもんな単純にレベルが上の相手には負けるけどそもそもその本人自身のレベルが圧倒的という目に見えないラインを斬るとかもうどの世界観にいても化け物レベルという… -- 名無しさん (2020-12-07 17:59:30)
- どうして覚醒しないんだ?ホントに口惜しければ覚醒するよね。 -- 名無しさん (2023-07-27 22:38:43)
最終更新:2023年08月09日 14:06