守り抜いた希望を照らす、星の結晶は此処に在る」
「――何だと」
芽吹く真紅の煌めきが万象を掌握した 大神素戔王に心からの驚愕を与え、心に空白を打ち込んだ。眼前の異常事態を前に磨き抜いた明晰さと慧眼がほどなく全てを悟らせていく。 葬想月華の眷属達が決戦の中で真に守護し続けていたもの、煌めく最後の輝きが激しく神を震撼させた。
眷属たちの骸から瑞々しく枝葉を伸ばす晶樹の正体、それは不滅の加護を与える神殺しの紅星晶鋼だった。
心臓に埋め込まれたそれは出力に換算すれば 最低でも戦闘型 人造惑星に匹敵する量と密度の 星辰体を銀河のように内包していた。
言うまでもなくそれは瀕死のリチャードを完全復活さえ容易に果たす星辰、数十回は再生させてもおつりは出そうな力であるのは間違いなく……故にそれでも依然、微笑みながら尽きる命を誇りと抱く青年の姿こそが答え。
そう、リチャードは始めから理解していた。どれだけ足掻こうと新西暦は一度塗りつぶされてしまうだろう。それほどまでに神世界と神奏者は完全無欠だったから。
かといってリチャードでは神祖滅殺は不可能だと理解していた。それができる 戦士の器も、 滅びの素養も備えていない。
だからこそ、リチャード達は奮戦虚しく第二太陽が遮断されることを予想して、あらかじめ星の結晶を内蔵したまま抱え続ける手段を選んだ。
大気中に存在する 星辰体なら 神世界の影響を免れない。だがしかし、 まだ新西暦である期間に物質化した星辰なら、神の手中に落ちることも、秘めた権能が衰えることもない。
それこそラグナとミサキが逆転できる目を残せる唯一の策。だが、言わずもがなそれは果て無き茨の道のりだった。
―――決して減らしてはならない加護を抱えたまま、恐るべき神に相対すること。
―――徐々に喪失していく身体を抱えながら、蘇りの誘惑を捻じ伏せつつ無限に殺され続けること。
―――だというのに尚、この一瞬に差し出すべき星晶を守り抜かなければならないから完全に滅ぼされてもならないこと。
どれ一つ取っても当然、楽なはずがない。紛れもない空前絶後の難行はそれこそ何度も心と体を砕き、へし折り、果て無き無限の絶望に突き落とさんとしたが……。
「―――それでも、誓ったんだよ、俺たちは」
優しさだけが取り柄の騎士は、今度こそちゃんと立派にやり遂げたのだ。物理的な強さに惑わされることなく、絆に願いを託すことで……。
運命の車輪に紛れた砂粒は、存在意義を形にした。冷たい滅びを噛みしめながら、胸を張って末路に至る。
この星晶を二人に還元すれば、今度こそ自分たちは死に至るが迷いはない。
誰よりも何よりも、ラグナとミサキを信じているから。
それは、自分では形にできない遥かな祈りを他者へ託し、その行く末を信じながら己は舞台を降りる覚悟。朽ちず死なない永遠が最後の最後で見落とした、人間が人間たらしめる最も大切な煌めき。
すなわち 継承にまつわる想いが、現実としっかり向き合い、何度でも立ち上がり、無限に自ら歩み続けられてしまった神の足跡を、 今こそ撃ち砕く。
―――ゆえに、迷いなく彼らは心臓を抉り出した。月へと命を返すように、脈打つ真紅の結晶ごと血濡れの宝珠を天に掲げた。
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