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著者にもわからないものが・・・ - (2009/04/16 (木) 02:23:05) の編集履歴(バックアップ)


著者にもわからないものが・・・。

  井上孝司氏著「しくみ図解シリーズ 地下鉄が一番わかる」(技術評論社2009年4月刊)を読んだ。

  どうも首を傾げざるを得ない本である。

  書名からして微妙に思える。もちろんこれは「○○が一番わかる」と言うタイトルの一連のシリーズなので、必ずしも著者の責任ではないのだけれど、「一番」と言うのはこの場合副詞で「最上」とか「最高」を表すもの、つまり複数の同様なものがあってその中で「最高」のパフォーマンスを得られるものとの意味かと思われるのだけれど。「それは何によって立証されたのだろうか?」と言うことについて説明がなされていないし、保証もされていないんだな。
  普通のビジネスでは、「一番○○する」なんて書き方で商品の優良性を言い立てると「景表法」の「優良誤認」と言うことになりかねないよね。どうも書籍の書名は表示には当たらないようなので、セーフなんでしょうけど。
  もちろん、「解った」かどうか別に試験して確認とかってもんでもないし、個々の主観による部分が大きいんで「一番」ってこと、読む側にはそんなに意味あるもんでもないのかもしれない。それを言やぁ「地下鉄がわかる」ことにどんな実用性があるのか(笑)ってことにはなるものね。

  実際、解るかどうかってことになると、

冒頭から微妙なんだよね。

「1-1 地下を走っていれば地下鉄?」(10頁)
●地下を通るからといって地下鉄とは限らない
 「地下鉄」とは「地下鉄道」の略だ。だから、広義の解釈では「地下を走って
いる鉄道はすべて地下鉄」ということになってしまうが、そうなると山岳地帯の
トンネルも地下鉄ということになってしまう。それはいくら何でもおかしい。
 そこで、まずは「地下鉄」の定義について明確にしておこう。地下を走ってい
る鉄道が、すべて「地下鉄」に分類されるわけではないからだ。筆者の個人的な
定義だが、本書では以下の条件に該当する路線を「地下鉄」としてあつかうこと
にしたい。
 ・主として都市部の地下を走っている
 ・公営ないしはそれに準ずる経営形態をとっている
 ・日本で最初の地下鉄(東京地下鉄道)の開業(1927年)より後に開業した

  すなわち、個人的な定義とおっしゃって、この定義条件に合致したものを「地下鉄」として扱うこととされたのだが。
  「個人的な定義」の中において地下鉄が一番わかるって、何とも訳の解らない事に。
  何故そうなっちゃうかと言うと、「地下鉄」の定義なんて、例えば「社団法人日本地下鉄協会編『最新 世界の地下鉄』ぎょうせい、2005年5月」は「利用の手引/凡例」で

1地下鉄の範囲

「地下鉄」の定義に確立したものはなく、本書の編集に際しても最大の論点となりま
した。

  として、以下

一般的に「地下鉄」とは「地上が高密度に利用されている都市地域の地下に建設
されている鉄道」を指しますが、実際には都市の中心部のみが地下区間となっていて、
郊外部は地上区間となっている路線や、都市間を結ぶ路線で、都市内のみが地下区間
となっている路線も少なくなく、これらをすべて「地下鉄」と位置付けることには疑問
があります。
 また、外国で、都市鉄道を指して「メトロ(Metro)」あるいは「MRT(Mass Rapid
Transit)」と呼ぶ場合がありますが、まったく地下区間を有しない鉄道が含まれている
例がある等、必ずしも従来の「地下鉄」の概念と一致するものではありません。
 そこで、本書では、都市鉄道のうち、原則として以下の基準により選定したものを
「地下鉄」として収録することとしました。
①路線の全部又は一部が地下区間となっており、地元で「地下鉄」と認識されているも
 の
②鉄輪・鉄レール方式でなく、ゴムタイヤ方式やAGT(Automated Guldway
 Transit:いわゆる「新交通システム」)であっても、上記①と同様に「地下鉄」と認識
 されているもの
③将来、本格的な地下鉄とする前提で建設されているプレメトロ
 例:ブリュッセル、シュトゥットガルト、ウィーン等
④ライトレール路線で、相当の地下区間を有するもの
  例:ドイツにおいて「∪バーン」と路線名がついているもの
⑤次のようなものは、地下区間があっても除外する。
 (1)都市内路線や都市近郊路線などで、都心部だけ地下区間を走行するもの。ただ
   し、オーストラリアのメルボルンとシドニーは、オセアニアの代表例として特
    に収録した。
  例1:JR総武・横須賀線、JR東西線、ドイツのSバーン等
  例2:東急新玉川線
 (2)路面電車(トラム)
 (3)地下区間があつてもー般に「地下鉄」と認識されていないもの
  例:東京モノレール


  つまり、この本「最新 世界の地下鉄」では、一般化して定義はようしないので、公益法人たる「社団法人日本地下鉄協会」としては「最新 世界の地下鉄」に限って上記のようなものを「地下鉄」としました。と言ってるわけです。公益法人なのに謙虚ですね。と言うか、専門家すら無理からの定義付けをしなきゃ本の使い方が説明できない位好い加減なものなんです。「地下鉄」と言う言葉は。

  例外が多いから大抵の専門家が明確化を放棄するか無理からの定義付けをしているんだけど、井上氏は「地下鉄」を「一番わかる」ってことにしちゃったもんだから、「個人的」に定義されてしまったわけです。

  さらに、定義の言葉遣いが

 ・主として都市部の地下を走っている
 ・公営ないしはそれに準ずる経営形態をとっている
 ・日本で最初の地下鉄(東京地下鉄道)の開業(1927年)より後に開業した

と杜撰なものだから、定義が定義の態をなしてないことになってしまいます。


「1-7 地下鉄に分類されない地下鉄道」(22~23頁)

●地下線を主体とするJR線
 都市部の地下を走っているにもかかわらず、前述した地下鉄の定義に該当しな
いものがたくさんある。特に最近では、道路交通の妨げにならないように既設鉄
道の立体化が求められ、その際に地下化する事例が少なくない。また、輸送力増
強のために新線を建設する際にも、地下を通す事例は多い。
 たとえばJR東日本の場合、総武本線~横須賀線(錦糸町~東京~品川)、仙
石線(あおば通~榴ケ岡)、京葉線(東京~潮見)といった事例がある。仙石線
の仙台駅付近は(山岳トンネル以外では)日本で初めて営業路線が地下に建設
された事例で、東京地下鉄道(1927年12月30日間業)よりも2年以上早い
1925年6月5日の開業となっている。ただし、あおば通まで延伸した際に線
路の付け替えを行っているため、この区間の線路は現存しない。
JR西日本の場合、東西線(京橋~尼崎)がある。その他のJRには、こうし
た事例はない。北海道の北見市内では石北本線が地下を通つている区間があるが、
これは-種のトンネルとみるべきだろう。
●地下線を主体とする民鉄線
 一方、大手民鉄では、15杜のうち地下線・地下駅を持たないのは南海電鉄と
西日本鉄道のみだ。また、この2社は地下鉄との相互乗り入れも行っていない。
大手以外で、既設線を立体化のために地下化した事例としては、長野電鉄・長野
線(長野~善光寺下)がある。
 このほか、既存の地下鉄と相互乗り入れを行う目的で、地下鉄と同様の新線を
建設した事例として、以下のものがある。
 ・北大阪急行・南北線(江坂~千里中央)
 ・埼玉高速鉄道・埼玉高速鉄道線(赤羽岩淵~浦和美園)
 ・北神急行電鉄・北神線(新神戸~谷上)
 また、上記以外に開業当初から主に地下を走っている都市部の鉄道線として、
以下のものがあげられる。
  東京臨海高速鉄道・りんかい線(大崎~新木場)
  横浜高速鉄道みなとみらい21線(横浜~元町・中華街)
  神戸高速鉄道・東西線(三宮~西代)
  神戸高速鉄道・南北線(新開地~湊川)
 いずれも技術的には地下鉄と類似する部分が多いが、これらは本書の対象から
は外す。
 また、広島高速交通(アストラムライン)の地下区間(本通~白鳥)は、建設
の際に適用した法規の上では地下鉄と同様のあつかいとなっており、建設に際し
て地下鉄建設のための補助金を得ている。しかし、路線全体が地下鉄としてのあ
つかいを受けているわけではないので、本書では対象から外す。

前述した地下鉄の定義にあてはまらない」って、井上氏の「個人的な定義」ですし、前述した定義にあてはまちゃっているものがあるんですが、

 たとえばJR東日本の場合、総武本線~横須賀線(錦糸町~東京~品川)、仙
石線(あおば通~榴ケ岡)、京葉線(東京~潮見)といった事例がある。仙石線
の仙台駅付近は(山岳トンネル以外では)日本で初めて営業路線が地下に建設
された事例で、東京地下鉄道(1927年12月30日間業)よりも2年以上早い
1925年6月5日の開業となっている。ただし、あおば通まで延伸した際に線
路の付け替えを行っているため、この区間の線路は現存しない。
JR西日本の場合、東西線(京橋~尼崎)がある。その他のJRには、こうし
た事例はない。


前述の定義は

 ・主として都市部の地下を走っている
 ・公営ないしはそれに準ずる経営形態をとっている
 ・日本で最初の地下鉄(東京地下鉄道)の開業(1927年)より後に開業した

と言うことだったはずです。当時から民鉄協加盟鉄道企業体だった元営団「東京地下鉄(東京メトロ)」は「公営ないしはそれに順ずる経営形態をとっていた」として「地下鉄」とお認めになっておられるから、三公社五現業の一角日本国有鉄道の後身たるJR各社は当然に「東京地下鉄」と同意のはず。例えば、「JR東西線」はその線区において完全に前述の定義に当てはまるのですが、「企業規模の大小」その企業体の中で「主として都市部の地下を走っている」ものがその企業体の保有線路の一部分だから除外って、「定義条件そのものが適切じゃない」んじゃないですかね?そういうものを以ってして「地下鉄」を定義する、しかもそれは、個人的定義だと言う、それが定義としての普遍性を獲得してるとは思えません。
第一に、「公営ないしはそれに準ずる経営形態をとっている」と言う定義そのものが好い加減で曖昧なんですね、井上さんが「民鉄」に入れられている中には、三セクの「埼玉高速」と「東京臨海高速鉄道」、「横浜高速」もそうかな?がありますが、これらが「公営ないしはそれに準ずる経営形態をとっている」に当てはまらない理由は何なんでしょうか?株式会社だから?では東京メトロは東京地下鉄株式会社ですが。それって、やっぱり「個人的」なもので「定義」としての普遍性は持っていないんじゃないんでしょうか?
そして、秋庭さんですら忘れなかった、大都市地下線の大物がすっかり忘れられているのですけど、あれは何なんでしょうね?「つくばエクスプレス」。

更に判らないのが、

 ・日本で最初の地下鉄(東京地下鉄道)の開業(1927年)より後に開業した

  これだと、東京地下鉄銀座線浅草~上野間が地下鉄の定義から外れるんですけど、って言うか?パラドックス。「日本で最初の地下鉄(東京地下鉄道)の開業(1927年)より後に開業した」ものを地下鉄と定義すると。「日本で最初の地下鉄は『地下鉄ではない』」ことになります。
  1927年より後とされた根拠が全然わからない。仙石線の前身「宮城電気鉄道」を除外って意味なのかな?「地下鉄」か否かって条件に時間軸が含まれるとなると、今現在の地下鉄と、「東京地下鉄道の上野~新橋」、「東京高速鉄道の渋谷~新橋」は当時地下鉄じゃ無かったってことになりませんか?
と言うか、当時の「地下鉄の定義」を個人的に用意されなきゃ、地下鉄とは何かの説明がつかなくなりませんかね。
  私思うんですが、「個人的に定義」されたこと自体が間違いなんじゃないのかな?世間で言う広義のままで、「でもこの本では以下のものは扱いませんよ」とかすれば好かったんじゃないかと。

一方で、

 また、広島高速交通(アストラムライン)の地下区間(本通~白鳥)は、建設
の際に適用した法規の上では地下鉄と同様のあつかいとなっており、建設に際し
て地下鉄建設のための補助金を得ている。しかし、路線全体が地下鉄としてのあ
つかいを受けているわけではないので、本書では対象から外す。

  法規の上で「地下鉄」の定義があるような書きぶりをされておられる。それなら、この法規に則って「地下鉄」を定義されれば良いのに、そこは明らかにされない。


  また、「1-12 変わった地下鉄」の末尾にはこんな事が書かれている。

  ただし、これは日本の話で、国によっては事情が異なる。たとえば、フランス
 には日本の新交通システムと似たVAL(∨ēhicule Automatique Lēger)を建設
 した都市があるが、これは地下鉄としてあつかわれている。

  すなわち、フランスには「地下鉄としてあつかわれ」ると言う「地下鉄の定義」があると言うことになりますが、この定義が明白なものならば、これを冒頭で言う、「地下鉄の定義」にこれを用いられたら、「個人的」な定義より数等客観性が増し、「地下鉄が一番わかる」定義になったのではありますまいか。

  実際は、アストラムラインの一部を地下鉄とした法規は、地下鉄の容態については何も説明せずに、「これこれの企業体、地域自治体等について地下鉄として補助する」と言ってるので定義としての説明にならないから、都度矛盾の言い訳をせねばならないと言うことなんでしょうね。多分フランスの地下鉄も同様な法規で規定化されているのではないんでしょうかね。
  いや、全く、実に地下鉄がよく判りますね。

井上氏はテクニカルライターを自称されているにもかかわらず、首を傾けざるを得ない技術的な解説も散見される。

 

 

御覧の様に、「提供:株式会社大林組」とあるが、この図版についての表題や本文での名称が誤っていたりする。掘削対象の土質に応じて取られるシールドの密閉式カッターヘッド部の機能による主要な2つの工法として、「泥水シールド」、「土圧シールド」と言われる工法があり、具体的な工法名としては「泥水シールド工法」「泥水加圧式シールド工法」、との対比として「土圧シールド工法」「泥土圧シールド」「泥土加圧式シールド工法」などの工法名が言われる。しかし、「土加圧式」と言う表現は聞かない。「泥土」と「土」は技術的に大違いな表現であり、「土加圧式」は誤りである。大林組からそのように説明されたと言うこともありえないと思われる。技術者は技術的に誤った「言葉」は使わないから。この項目では本来は密閉式シールド工法の代表例の対比なのだから、一般的な「泥水シールド」と「土圧シールド」と言う記述で対比するのが正しいのではなかろうか?


「セグメント」を「巻く」とあるのだけれど、普通セグメントは「建てる」、「建て込む」ではないかと、これも術語としては違和感を禁じえない。


アンダーピニングも「仮受作業」を「(アンダーピニング)」としておられる。アンダーピニングは仮受ではなく本工事文字通り「下支え工法」にあたる。誤っている。

著者は「個人的」に「地下鉄」がわかっておられるとの事だが、読者には「地下鉄が一番わかる」と言うわけには行かないようだ。

 

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