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梅原淳 ライターと編集者の妄想コラボレーション その2 - (2011/12/29 (木) 23:56:50) の編集履歴(バックアップ)
梅原淳 ライターと編集者の妄想コラボレーション その2
さて、梅原氏最新作「鉄道の未来学」(角川oneテーマ21角川書店2011年9月刊)は、もちろん冒頭より「プロローグ」と称する怪しげな現状分析が、ダラダラと内表紙も含め全210余頁の内50頁ほど続くのですが、65頁に至ってようやく始まる「第一章 新幹線の未来」この内容が、前稿で取り上げた「大都市の鉄道の未来」を凌ぐものすごさ。その73頁~81頁「莫大な総工事費」の中盤から見ていくことにしましょう。
「鉄道の未来学」75頁
結局のところ、北海道新幹線と北陸新幹線の建設工事費は国と沿線の地方自治体とで分
担して支払っている。2010(平成22)年度の実績では年間に2627億円の費用を要
したうち、国が3分の2に当たる1760億円を、残る3分の1の867億円を地方自治
体が負担した。
財政難の折、国も地方自治体もそう簡単に費用を批出できるものではないが、新幹線が
開業すれば地域が発展するし、政治家にとっては有権者が喜ぶからやめられない。反面、
新潟県のように北陸新幹線の建設工事費の負担割合が大きすぎると、鉄道・運輸機構から
の請求を一時突っぱねたケースも生じた。それも道理だろう。何しろ高い買い物だから納
得のいくまで交渉するのは民間企業では当然のこと。いまや個人レベルでも一般的な手段
だからである。
この項の結論、「将来JRが新幹線の建設費負担で破綻する」と言う妄想を合理化するための枕として地方自治体の負担の大きさを説明したいにしても、意味不明な記述です。
新潟県が支払を拒否したのは、鉄道・運輸機構が建設費が増加したことを理由に、当年度の負担分102億円に上積みで22億円の追加支出を請求してきたが、それが新潟県に係わる工事について建設費が増加したことによる上積みなのか、疑義が有ったからではないのでしょうか。富山県のトンネル工事で足が出た分を新潟県が払ういわれはないとの考えから、その点について新潟県は鉄道・運輸機構に説明を求めたのですがまともな回答が帰ってこなかったから、上積み分を含め新潟県は現在も予算計上しない措置を取っているのではないのでしょうか。
もちろん鉄道・運輸機構や富山県には、「新潟県域以外の建設がなければ、北陸新幹線意味ないじゃん。だから新潟以外の建設費でも応能分出せよ。」と言う理屈があるのかもしれませんが。
つまり、単純に「負担割合が大きすぎると」請求を突っぱねた訳ではない。そもそも地方自治体の負担額を本稿では問題にしているわけではないので、トピックスとしても不正確な記事をと言うより自己の見解の補強に資する様に事実を歪曲したような記述をすることには問題があります。
ここで問題としたいのはJR各社の負担額だ。北海道新幹線や北陸新幹線をはじめ、す
でに開業した東北新幹線盛岡-八戸間や長野新幹線(正式にはこの新幹線も北陸新幹線と
いう)、九州新幹線といった整備新幹線はJR各社の負担なしに建設工事が行われ、開業
後は新幹線建設の受益に伴う範囲を限度とした貸付料を鉄道・運輸機構に支払うことと定
められている。さらには、新幹線の開業で利用者が減り、収益が落ち込む並行在来線を切
り離してもよいという条件も付け加えられた。つまり、開業した新幹線が仮に赤字になっ
たとしても、JR自体は損をしないという割のよい条件で鉄道事業を展開できるという次
第だ。
「ここで問題としたいのはJR各社の負担額だ。」
なんと不思議な日本語でしょうか?前段で、
「結局のところ、北海道新幹線と北陸新幹線の建設工事費は国と沿線の地方自治体とで分担して支払っている。」
と書かれ、「ここで問題と…」に続く文でも直接な建設費負担はないと書いておられる。にもかかわらず「ここで問題としたいのはJR各社の負担額だ。」と言われる「負担額」はないのに何故?「負担額」なのでしょうか?結論を見るに「負担」なら少しは意図が通るかもしれませんが。「額」にしたのは妄想を意味ありげに書くためとしか言いようがありません。
まぁ、隠れた負担があるのだよとでも言いたいのでしょうが、ならばそのような言い回しで書くべきではないでしょうか?
しかし、現実にはJR北海道、JR東日本、JR西日本の3社とも表情はさえない。あ
るJR関係者は「新幹線をつくってもらいたいと考えている会社はどこにもない」と言い
切っているほどだ。
いま挙げた条件だけならば、このJR関係者の発言は不可解に聞こえる。「それならば
私が」と声を上げる法人、個人が現れそうだ。ところが、整備新幹線の建設工事費のうち、
国が負担する部分には大きなからくりがあり、だれでも二の足を踏まざるを得ない状況と
なっているからだ。
大嘘です、「整備新幹線の建設工事費のうち、国が負担する部分には大きなからくり」はありません。多分JR3社の「表情」も関係者の「言い切」りも梅原氏は取材せずに書いておられるのではないかと思われます。何故そう考えるのかと言えば、それは以下の理由が支離滅裂な妄想だからです。
ペラ稼ぎと誑かしのための金額の羅列をダラダラと書き連ねておられますが、取り敢えずその前段部分について、
先ほど記したように、2010年度に国は1760億円分の建設工事費を支払った。そ
の内訳はまず733億円が国の予算でこれは特に差し障りとはならない。問題は残る10
27億円だ。このうち724億円は「既設新幹線譲渡収入の一部」との名目で、303億
円は「借入金等(既設新幹線譲渡収入の前倒し活用)」との名目の資金となっている。
既設新幹線譲渡収入とは何かというと、国鉄が建設した東海道・山陽・東北(東京-盛
岡間)の各新幹線を1991(平成3)年10月1日にJR各社に売り渡した金額を指す。
譲渡価格の総額は9兆1767億円で、うち55・5パーセントに当たる5兆957億円は
東海道新幹線を譲り受けたJR東海が、10・6パーセントに当たる9741億円は山陽新
幹線を譲り受けたJR西日本が、33・9パーセントに当たる3兆1070億円は東北・上
越新幹線を譲り受けたJR東日本がそれぞれ支払うこととなった。
いくらJR3社といえどもこれだけの金額を一括で支払うことはできない。そこで、3
社にそれぞれ三つの「ローン」が設定された。一つは総額約1兆9000億円、金利は固
定で年利6・35パーセント、返済期間は2017(平成29)年3月31日までの25年6カ月
間で半年ごとの支払い。二つ目は総額約6兆2000億円、金利は変動で当初は年利6・
66パーセント、返済期間は2017(平成29)年3月31日までの25年6カ月間で半年ごと
の元利均等払いで、三つ目は総額約1兆1000億円、金利は固定で年利6・55パーセン
ト、返済期間は2051(平成63)年9月30日までの60年間で半年ごとの元利均等払いだ。
借り入れ当初のJR3社の年間返済額は7300億円。内訳はJR東海が4064億円、
JR西日本が778億円、JR東日本が2478億円。2017年4月1日以降は724
億円となり、JR東海が402億円、JR西日本が77億円、JR東日本が245億円とい
う返済割合となる。
梅原氏は「既設新幹線譲渡収入」が何故3つに分かれているかを説明してくださいません。実に不思議です。
しかも、その元の原価の発生順序を入れ替えておられる。どうも意図的入れ替えた節があります。
既設新幹線譲渡収入とは何かというと、国鉄が建設した東海道・山陽・東北(東京-盛
岡間)の各新幹線を1991(平成3)年10月1日にJR各社に売り渡した金額を指す。
さて、誰が「JR各社」にその時点で従来のスキーム「国鉄が建設した」──国鉄や鉄道公団が建設し国鉄が保有する在来・新幹線鉄道で造られた──新幹線を「売り渡した」のでしょうか?
国鉄改革で国鉄の負債と資産は原則切り離され、資産についてはJR各社への現物出資JR株の保有、国有財産としての清算事業団などの特殊法人での保持が、負債については清算事業団とJR本州三社とJR貨物に移転されました、いづれにしても国の財産と借金ですが、その時新幹線は優良資産であり、借金返済の目玉でしたから1987年4月上記新幹線は国有財産として新幹線鉄道保有機構が保有し、新幹線運営事業者のJR本州三社にリースすることになりました。そのリース代金で国鉄の負債を返済していくこととしたのです。
その後JR本州三社が株式上場するなどしたこと、清算事業団の保有不動産などの処分による債務処理がうまく回っていないことから「1991(平成3)年10月1日」、新幹線鉄道保有機構が保有する新幹線がJR本州三社に譲渡されました。譲渡「売り渡し」ですから売値を決めなければなりませんので、既設新幹線施設の現在の価値を約9.2兆円と評価しました。国鉄当時から継承した簿価相当額が約6.2兆円、改革時評価益が約1.9兆円でしたから、新たに譲渡時評価益約1.1兆円が再評価で上乗せされたのです。
これ等が梅原氏の言う、「三つの『ローン』」の内訳であり三つに別れている理由でもあります。
英語で言えば「ローン」なのでしょうが、JR本州三社は国から直接に金を借りているわけではありません。「既設新幹線施設」と言う現物資産に対する割賦金の半年賦の弁済です。
国鉄債務の返済とはいえ、実際の弁済金の使途は大体次のようなものです。
「国鉄当時から継承した簿価相当額が約6.2兆円」は譲渡された既設新幹線の債務の償還に充当。返済は平成28年度終了。
「改革時評価益が約1.9兆円」は国鉄年金に係る将来の費用に充当。貯まりは将来費用なので在来型新線等建設への無利子貸付中。
返済は平成28年度終了。
「新たに譲渡時評価益約1.1兆円」は平成29年上期まで新幹線の建設に関する交付金に充て、平成29年下期以降平成63年上期まで
国鉄年金に係る将来の費用に充当。
JR本州3社は割賦金の弁済で何を得るのでしょうか?
まず、
1.既設新幹線が資産になります。
平成3年時の計算でJR東海は「5兆957億円」、JR東日本は「3兆1070億円」、JR西日本は「9741億円」が貸借対照表の「資産」にできました。
2.資産を運用すると利益か損失が生じます。
自前の資産に新幹線を走らすのですから、その部分についてはリース代金や線路使用料を支払う必要はなくなります、資産の維持管理費や運行
経費を差し引いて益が出れば、あるいは益を出せば良い訳でそれが経営です。
3.固定資産は減価償却ができます。
これだけの資産額ですから減価償却額も結構な金額が減損会計できます。
4.資産は資金調達の担保となります。
JR東海がリニアを建設できるのはそれなりの担保があるからではないのでしょうか。
そしてこの弁済金はその9割以上を平成29年3月に返し終わるわけなのですが。
しかも、残りつまり、梅原氏が問題とするJR本州3社の毎年の支払724億円は平成29年上期までは「新幹線の建設に関する交付金」に充てられ、
平成29年以降平成63年までは「国鉄年金に係る将来の費用に充当」される。
これが梅原氏が加工した虚構記事の現実です。
う。2011年の状況では住宅ローンの金利は変動金利で年利1パーセントを切る金融機
関もあり、固定金利でも年利3パーセント程度だからだ。一般の企業や個人ならば借り換
えが当然だろうが、新幹線鉄道に係る鉄道施設の譲渡等に関する法律によって定められた
国との返済契約なので容易には変えられない。
金利が高く、返済期間も長いので必然的に返済総額は21兆1600億円と、2倍以上に
膨れ上がる。数字ばかり羅列して恐縮だが、各社の返済総額はJR東海が11兆7500億
円、JR西日本が2兆2500億円、JR東日本が7兆1600億円だ。金利がゼロパー
セントと仮定すると、年間に7300億円ずつ返済すれば9兆1767億円という譲渡価
格の支払いは13年で終わる。つまり、2004(平成16)年9月いっぱいで元本は返した
ことになり、いかに金利というものが巨額に上り、金融機関をはじめとして儲かるように
できているのかが理解できるだろう。
「返済総額は21兆1600億円と、2倍以上に膨れ上がる。」9兆1767億円が25年複利で21兆1600億円になる利率は大体年3.4パーセントです。
「固定金利でも年利3パーセント程度だからだ。」と言うことから見てそんなに高金利なのでしょうか?年利3.4パーセントが。
梅原氏は元銀行員だと仰っておられますが、複利計算の利回りも計算できないのでしょうか?
6.66%とか、6.55%とかが何で年利3.4%になるのかと言えば、梅原氏が言う「二つ目は総額約6兆2000億円、金利は変動で当初は年利6・66パーセント、」つまり総額9兆1767億円の7割弱の割賦代金、財投や市中金融機関等からの借入金の返済に充てている分は平均金利で回っているからです。返済の始まった平成3年当時の借り入れ金利の利回りは7%弱。以降バブル崩壊で急激に金利下がりました。それに則って返済額も小さくなっているわけです。一方で梅原氏が言う残り二つのローンは一部は整備新幹線の建設費の一部ですが基本は「国鉄年金に係る将来の費用に充当」
それはさておき、JR3社の3本目のローンの年間724億円という金額はもうおわか
りのとおり、全額がそっくり整備新幹線の建設工事費に充当される。したがって、北陸新
幹線の建設工事費が無料とはいえ、JR東日本は245億円、JR西日本は77億円を毎年
支払わなくてはならない。2011年4月1日現在、両社の支払期間は19年6カ月だから、
累計額はJR東日本が4778億円、JR西日本が1502億円だ。何のことはない。北
陸新幹線がただでもらえるとはいえ、実際には建設工事費に相当する額、いや下手をする
とそれよりも多い金額を国に返済し続けなくてはならないのだ。
「問題は残る1027億円だ。」と曰われているのだから、724億円だけじゃなく、303億円も問題にしなきゃおかしいでしょ。
これは一種の両建預金とも言える。融資した見返りに金融機関が借り主に預金を依頼す
ることを両建預金という。金利を比べれば預金よりも融資のほうが高いから、借り主は融
資された金額を全額使うことができないうえ、余分な金利を支払わなくてはならない。両
建預金は金融庁が厳しく監督していて悪質なものは取り締まりの対象となるが、新幹線の
譲渡金額と整備新幹線の建設工事費とが「両建て」となってもだれもJRを守ってはくれ
ないのだ。先述のJR関係者のぼやきもうなずける。
梅原氏は三井銀行出身とおっしゃっている三井銀行は1990(平成2)年に太陽神戸三井銀行となっているから、それまでに退社しておられることになるが、
JR北海道は国鉄が建設した新幹線を継承していないので返済の必要はない。したがっ
て、新幹線をつくつてもらってありがたいと考えているはずと思いがちだ。しかし、問題
はそう簡単ではなく、あまり喜ばしくもないらしい。
その謎を解くカギは青函トンネルにある。JR北海道は確かに新幹線を譲り受けてはい
ないが、青函トンネルを保有する鉄道・運輸機構に毎年およそ3億5000万円を貸付料
として支払わなくてはならない。赤字を計上しているにもかかわらずだ。トンネルを借用
して鉄道事業を営む経費はJR北海道もちで、トンネル内にしみ込んだ海水を排出するた
めには年間約3億円の電力代を要し、絶えず塩害にさらされる排水ポンプの更新には今後
1000億円ほどが必要となるという。
このような状況で北海道新幹線が開業してもJR北海道にはあまり得にはならない。新
幹線自体は利用客が少なくても損はしないが、青函トンネル部分の貸付料分だけ赤字にな
る可能性が高い。現在は青函トンネルに在来線の旅客列車が運行されているので、ここで
得られた黒字で貸付料や諸経費をまかなう算段も立てられる。しかし、新幹線が開業すれ
ば利益は根こそぎ鉄道・運輸機構に持って行かれるので、後に残るは青函トンネル関係の
支払いばかりだ。
本州と四国との間を結ぶ整備新幹線をJR四国の営業エリアに建設したとすると同様の
問題が起きる。本四備讃線の瀬戸大橋部分は本州四国連絡高速道路に毎年貸付料を支払っ
ているからだ。
唯一の例外はJR九州である。同社は国鉄が建設した新幹線を譲り受けてはいないうえ、
青函トンネルや瀬戸大橋に相当するリース物件も存在しないからだ。したがって、JR九
州は九州新幹線の建設に積極的な姿勢を見せる。地域やインフラの違いと国の政策によっ
て生じたアンバランスが生み出したとはいえ、JR九州以外のJR各社にとっては不平等
だし、非難されるJR九州も困惑するほかないだろう。
「202X年○月×日、新幹線を所有するJR旅客会社が民事再生法の適用を申請した。
国鉄時代に建設された○○新幹線の買い取り額の負担に耐えきれず、いっぽうで国の政策
で開業した△△新幹線の利用者数が思うように伸びなかったため。今後は国と協議のうえ、
毎年××億円にも上る新幹線の買い取り額の減免措置を求めていく」
このまま無尽蔵に新幹線を建設したとすると、近い将来このような新聞記事を読まなく
てはならない日もあるいは訪れるかもしれない。