&font(#6495ED){登録日}:2012/02/23 Thu 21:54:50 &font(#6495ED){更新日}:&update(format=Y/m/d D H:i:s) &new3(time=24,show=NEW!,color=red) &font(#6495ED){所要時間}:約 4 分で読めます ---- &link_anchor(メニュー){▽}タグ一覧 &tags() ---- #center(){&font(#808080){悲鳴を、彼は聞かなかった。}} 山川方夫の短編小説。 初出は[[ミステリー]]雑誌「ヒッチコックマガジン」に発表されたものだが、中学校の国語教科書に採用されたことで、非常に高い知名度を得ている。 ◆ストーリー ある夏の日、主人公「彼」は胸に沈殿した暗い記憶に引かれて十数年ぶりに少年時代のわずかな期間を過ごした町を訪れる。 先の大戦中この町に疎開していた彼は都会から来た2、3歳年長の少女「ヒロコさん」と仲良くなる。 気の弱い少年だった彼にとって何かと気にかけてくれるヒロコさんは姉のような存在だった。 真夏の日、芋畑を渡る葬儀の列を見つけた二人は「おまんじゅうがもらえる」と喜んでその後を追うが、そこに突如として米軍の艦載機の攻撃が襲った。 畑の中で必死に息を潜める彼。 &font(#994c00){「動いちゃいかん!白い服は絶好の目標になるんだ!」} 大人の声を振り切って駆け寄ってきたのは緑に映える白いワンピースをひらめかせたヒロコさんだった。 &font(#008cff){「助けに来たのよ!早く、道の防空壕へ…」} &font(#ff0000){「よせ!向こうへ行け!目立っちゃうじゃないかよ!」} #center(){&font(#ff0000){「……向こうへ行け!!」}} 死の恐怖に駆られた彼はヒロコさんを突き飛ばしてしまう。 そして機銃掃射を浴びたヒロコさんの体が、まるでゴムまりのように跳ねるのを彼は目の前で見たのだ。 その翌日に[[戦争]]は終わった。 彼は、重傷を負ったヒロコさんのその後を知らぬまま町を離れた…… 罪の意識を新たにする彼の前に現れたのはあの夏の日の繰り返しのような一団の葬列だった。 ◆結末 葬儀の死者の写真は、28、9歳に成長した現在のヒロコさんそのものであった。 ヒロコさんはあの夏の日に死んではいなかった。 列について来ていた地元の子供から話を聞き、彼女が機銃で撃たれた足の後遺症なども無く、生きていたらしい事を知り安堵する彼。 これまで自分を苦しめてきた殺人の罪は、妄想にすぎなかった。 自分はまったくの無罪なのだ! 葬儀の場では[[不謹慎]]ともいえる、浮かれた気持ちで、彼は余計なことを聞く。 「この人、どうして死んだの?」 川に飛び込んで[[自殺]]したのだと子供たち。 失恋でもしたの、と問いただす彼を、子供たちは笑う。 「だってこの[[おばさん]]、もうおばあちゃんだったんだよ」 「どう見ても若いじゃないか?」 「あれはね、うんと昔の写真しかなかったんだって」 &font(#0000ff){「戦争でね、一人きりの女の子がこの畑で機銃に撃たれて死んじゃってね、それからずっと気が違っちゃってたんだもんさ」} 少女とその母親の死。 曖昧な不安に区切りをつけようと、やって来た町で突きつけられた事実。 彼は自分の犯した罪から逃れられない事、そしてあの夏の記憶が永遠に繰り返される事を知ったのだった。 ◆評価 退屈で教訓的がイメージの国語教材の中において異彩を放つ名作である。 文学界でもその評価は高く、瀬名秀明は「教科書でこの小説に出会わなければ僕は作家を志さなかっただろう」と述べている。 あまり知られていないが教科書掲載版は一部の表現が変更されている(びっこ、気違いなど)。 [[太宰治]]の「[[走れメロス]]」 ヘッセ「[[少年の日の思い出]]」 リヒター「ベンチ」 すやまたけし「素顔同盟」…… わたしたちを文学の入り口へ誘ってくれた国語教科書の名作たちに、久々に再会してみてはいかがだろうか。 赤ん坊の頭くらいのおまんじゅうを食べたいと思った人は追記・修正お願いします #include(テンプレ2) #right(){この項目が面白かったなら……\ポチッと/ #vote3(time=600,25) } #include(テンプレ3) #openclose(show=▷ コメント欄){ #areaedit() - この作品は本当に名作だ。短いページ数で無駄なくしかし見事に純文学をまとめてある。 -- 名無しさん (2013-12-01 04:53:42) - 読み終わった後の何ともいえない気分は文章で表現できないなぁ -- 名無しさん (2013-12-21 11:01:22) - 米軍機の機銃は当たったら体がバラバラになる威力なのに・・・超人かよ -- 名無しさん (2014-11-25 20:03:40) - この救いの無いラストは好きではなかった -- 名無しさん (2014-11-25 20:11:08) - というか、こういう鬱々とした作品を教材に採用するとはな…。「少年の日の思い出」とかもそうだが。 -- 名無しさん (2014-12-13 17:00:33) - 俺の中学当時の教師が「戦中にワンピースなんて着てるわけないけど気にするな」って言ってた -- 名無しさん (2015-01-02 18:51:46) - ↑6そもそも純文学ってどういうもののことを言うんだ? 救いようが無さすぎて教科書に載せるような内容ではないよねこれ… -- 名無しさん (2015-11-29 20:41:43) - あぁ、これ、読んだことあるような。 -- 名無しさん (2015-11-29 20:49:09) - 戦争の悲惨さでもあるのだろうが、「彼」と似たように自分が助かるために罪もない誰か、時には親しい人を犠牲にしてしまい罪の意識に苦しめられることは、誰の身にも起こり得ることだからなあ。その普遍性が文学たる所以なんだろうな。 -- 名無しさん (2016-01-17 12:26:29) - これ教科書で読んだことあるわ。ストーリーの4行目まで見て、「あ、あの話か」って思い出せるぐらいには覚えてる。(他に何があったかとか忘れたw) -- 名無しさん (2016-06-29 22:04:31) - ↑4 むしろ教科書って救いようのない話が割と多いと思うが -- 名無しさん (2016-06-30 00:27:32) - 教科書に採用されてる、救いのない話と聞くと、同じ戦時中の話の「かわいそうなぞう」を思い出すが、あれは「戦争が悪い」で済ませられるだけマシなんだよな… -- 名無しさん (2016-07-14 22:35:21) - 純文学に救いようのある無しの採用基準があるなんて話は初めて聞いたな -- 名無しさん (2016-07-14 23:08:22) - どういうわけか、この作品で白いワンピースに劣情を抱くようになったんだよなぁ... -- 名無しSUN (2016-07-17 17:42:13) - ↑2 -- 名無しさん (2016-08-25 19:07:31) - ↑ミス↑3↑9について言ってるなら?の前と後で区切ってるんだと思う たぶん純文学についての疑問と救いようのないってのは別の話題 関係ないけどなんで戦時中に白いワンピースなんて着てるんだろう -- 名無しさん (2016-08-25 19:17:19) - ごめん、ワンピースについては↑10がすでに書いてたから忘れて -- 名無しさん (2016-08-25 19:36:19) - この話と「ひよこの眼」って話は教科書に出て来るやつのなかでも欝度高いよなあ…あと家族写真?みたいなタイトルの話も暗かった -- 名無しさん (2016-08-26 18:36:38) - 教科書の挿絵がクソ不気味(顔が見えない写真のコラージュ)で内容と合わせて妙に心に残ってる -- 名無しさん (2018-05-12 11:53:49) - こんなのよく教科書に載せたよな。戦争の恐怖心を幼心に知れたし英断だったと思う -- 名無しさん (2018-05-12 12:05:51) - 艦載機で空襲?と思ったけどそういや日本も上海事変とかでやってたな… -- 名無しさん (2018-05-31 22:55:40) - 魯迅の「故郷」も相当救いのない話だよな -- 名無しさん (2018-06-01 01:29:50) - ↑あれはまだ甥っ子と友人の息子という希望が残ってる。それでも二人の未来は明るいとは言えないけど。 -- 名無しさん (2019-02-26 23:52:30) - 中学生に教える内容で不謹慎かつ自己中心的なゲスい喜びの話を出して尚且つあのオチって人の心が無い -- 名無しさん (2019-05-26 11:32:47) - 青空文庫で読めるよ -- 名無しさん (2020-09-29 08:23:00) - 国語の授業で「この作品の続きを書いてください」みたいな問題を出された思い出 -- 名無しさん (2021-02-02 11:15:40) - 米軍機だと中口径だからミンチ確定で回収にスコップが必要になるけど英軍機だと小口径多数の物もあるからギリギリゴムまりの様に跳ねられるって聞いた -- 名無しさん (2022-11-23 01:19:45) #comment #areaedit(end) }