アジフライ作戦

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アジフライ作戦 - (2016/12/26 (月) 06:34:59) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2011/11/22(火) 17:42:08
更新日:2024/01/09 Tue 16:46:28
所要時間:約 5 分で読めます




福本伸行の漫画作品『最強伝説黒沢』にて決行された作戦。


主人公の黒沢は40代半ばにして、自分にはなにもないことに気付いてしまった独身の現場監督。
なにかと不器用なため、現場の人間はみな自分より若いのに仕事のできる赤松ばかりを重宝する。
勝手に自分側だと思っていた、ズル剥けのゆとり浅井にまで、自分よりゲームを優先されてしまう。
とにかく人望が欲しいと切望する黒沢が、スーパーの惣菜コーナーで安売りのアジフライを見かけた時に、閃光の如く思いついた作戦である。

黒沢は即座にアジフライを買い占める。


翌日‐
作業中、黒沢は他人の目を盗んで、現場のカツ弁当にアジフライを一尾ずつつけ足す。

「これだっ…!こいつを弁当に…!ちょこんと添えて…一品多い…アジ追加弁当…!これは嬉しく…かつさりげない……!」


不自然に蓋が盛り上がった弁当。
そしていつものカツ弁当に突然姿を現したアジフライ。
これに気付かない人間はいない。

みなが首を傾げる中、黒沢がタッパー一杯のアジフライを手提げに入れて颯爽登場する。

「これ、黒沢さんだったんですか?」
「ああ、まあ…足りなかったらまだあるから…」

こうして部下たちのハートをキャッチしようと目論む。


「知っているか、お前ら。アジを食うと恋が実るんだ。アジってハートの形をしているだろう?」

(言っちゃうか、そんなことも……!)


そして機会を伺い、タッパーを持って黒沢が現れる。

が、部下たちに変わった点は見られない。


(気付いてないのか…?この手のアジフライに…
いや…そもそも…ハナから気がついてねぇんじゃねぇのか…?このアジの異変に…!そもそも…!誰一人…!ただの一人も……気がついてないっ……
気がつかないって……バカか…?こいつら…!カツ弁に、アジだぞ…!そんなこと、ありえたか…?振り返ってくれよ…おまえらの…これまでの弁当ライフを…!くっ…!)


ガックリと肩を落とし、自分の弁当を取りに行くが…

「ねぇよ…!おまけにねぇよ…!俺の弁当が…!」

黒沢が騒いでも、部下たちは箸を休めない。


「おまえらは、自分が食えれば…先輩の弁当なんてゴミクズなのか…!」


黒沢に怒鳴られ、部下たちはようやく黒沢の弁当を探しはじめる。
なんということはない、黒沢の弁当はケースに入りきらず別によけてあったのだ。

ぶん取るように受け取る黒沢。
しかし、余った弁当は他にもう一つ…
この中で、もう一人だけ、弁当が与えられてない人間が…

すると輪から一人離れていた赤松が近付く。
「最後に取りに行ったら、なかったからさ。あるんなら、もらおうか」

そして弁当を受け取り、また一人離れる。


その赤松の振る舞いに、部下たちは感嘆する
青ざめる黒沢。

(投網一発っ…!根こそぎ…一瞬でもってかれた…!「人望」という名の………魚群を………)


その後も心中でぐちぐちとぐちる黒沢。
肉体労働者として食事に固執するのは当然で、無ければそれでもいいという赤松を非難してみても、所詮は負け犬の遠吠えにしかならない。

だがそこではたと気づく。
ケースの外にあった二つの弁当には、アジを入れてない。
つまり、赤松の弁当にもアジは入ってないのだ。

もしここで赤松がボソリとアジがないことを口にすれば、自分がすかさず一匹赤松の弁当に乗せる。
そこからは美しい日本語の流れで挽回できるとふみ、赤松の様子を凝視する。


…が、赤松はただ黙々と弁当を食う。

募る黒沢の苛立ち。

(言え…アホタレ…バカタレ…!)


そして食い終わり、食後の一服をふかす。


(なごむなぁ〜〜〜っ……!!)


そもそも自分の弁当がなくても黙っていた赤松が、アジの一匹でどうのこうのと言うはずなどないのだ。


黒沢はヤケ気味にアジフライをかっ食らう。

(こんなに美味いのにっ…!)

その後作業は再開。
途中で一人別の現場に向かう赤松に、尻ポケットにじかに入れていたアジフライを渡そうか一瞬迷うが、さすがに遅すぎると断念。

(そんな、十年後の同窓会で告白みたいなマネ…!)

気を取り直して現場監督として指示を出そうとするが、みんな指示を聞く前に仕事をこなしてしまう。




そしてその日の作業終了後…

少しトイレが長引いて遅れてしまった間に、会社へと戻る車が全て出発してしまった。


その頃車内…
車を運転する坂口が、仲間に昼の出来事を話す。

彼もまた赤松の弁当にのみアジフライが入っていないことに気がついたのだが、坂口はそれを一人余計にアジを食べていた黒沢が盗んだのだと誤解。
赤松に知らせると「よほど食べたかったんだろう」とまったく気にしてなかったが、坂口はそれを許せないと、半ば故意に黒沢を現場に置き去りにしたのだ。



その夜。
雨の中、黒沢は交通整理の人形である太郎を現場の宿舎に入れる。

「夜の雨は冷たかろう…」

そして太郎に、残ったアジフライと以前同じような作戦で使用し大量に残った缶ビールを振る舞い、虚しい酒盛りを始める。


夜も更けると、布団を二つ敷き、片方に太郎を寝かせる。

「太郎……オレの友達はおまえだけだ……友達でいようなずっと……これからもずっと……
ちぇ…!無口だな……おめぇ……」




後日。

弁当にアジフライを入れたのは黒沢だったと知れ渡るが、奇行と受け取られ黒沢はさらに現場で浮き、別の現場へと回されることになる…




追記修正は他人の弁当に無断で一品つけ足してからお願いします。

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