登録日:2015/11/23 (月) 23:45:00
更新日:2024/03/21 Thu 21:19:11
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「折りしも運命が再動の気配を見せ始めている今日この頃だ。
此処は一つ、”彼女達の物語”を見せて貰うか。」
「それでは始めよう。」
「題名は、これを置いて他に在るまい。」
Seraphic Blue
『Seraphic Blue』(セラフィックブルー)とは、「天ぷら」こと榊本祐氏が製作したPC用フリーゲーム。RPGツクール2000作品。
フリーゲームRPGファンなら知っていておかしくない有名作である一方、
その長大なボリュームと盛大に人を選ぶ作風から、フリーゲームトップクラスの賛否両論作でもある。
概要
プレイ時間50時間の大作RPG。
この50時間というのはサブイベント・やりこみ要素といった脇道を含んでではなく、真っ直ぐゲームクリアまで突っ切って50時間である。
そもそも、本作は意図的に過去作にあったそういう脇道を撤廃しており、やりこみ要素はアイテムコンプぐらいしか存在しない。
曲や一枚絵などもプレイ時間に比例して多数使われている。製作期間は2年だが、クリアすると正直短い気がしてくる。
同氏の「Blue」シリーズの3作目にあたるのだが、特にストーリーの繋がりはない。
前2作はとっくに公開停止されており入手困難なので、なおさら特に前準備として遊ぶ必要は皆無。
本作を遊んだ後にプレイすると、その作風の違いに仰天すること確実ではある。
前述の通りRPGツクール2000で作られているが、ツクール標準の戦闘システムは一切使われていない。
『ファイナルファンタジーX』のCTBに近い、素早さによって行動回数が自由変動する変則ターン制戦闘となっている。
インターフェース面もツクール2000の変数まわりやグラフィック配置を活用することで自作しており、
戦闘画面からメニュー画面、タイトル画面に至るまでツクール2000デフォルトの面影はほとんど無くなっている。
せいぜいセーブ画面で少し垣間見えるくらい。
特徴
とりあえずストーリー無しに本作を語ることはできない。
後述の通り賛否が非常に激しいものの、フリーゲームとしては異色と言っていいレベルでシナリオに力が入っている。
特に多重に張られた伏線描写に定評があり、中盤以降は怒涛の伏線回収が行われながら話が進行。
冒頭でちらっと触れられただけの描写がラスト近くに繋がっていたりもする。
ただ、その分伏線張りタイムである序盤はやや展開が唐突に感じると言われることも多く、
物語が本当に面白くなってくるのは一章終盤~二章序盤辺り(プレイ時間にして8~10時間)からと評されたりする。
冒頭での映画『
ショーシャンクの空に』のモチーフを初め、演出はどことなく映画的。
笑いの部分もフリーゲームにありがちなギャグやパロディの類ではなく、映画のようなウィットの利いたセリフによって生み出している。
全体的にシリアスで雰囲気が重めの作品であり、「フリーゲームならでは」とも評される残酷描写も特徴。
(直接的なグロはそれ程ないが、文章表現的に色々とえぐってくることはかなり多い)
「鬱ゲー」というまとめ方をされることも多くそれも間違いではないが、決してローテンションがひたすら続くゲームではない。
熱いシーンや感動シーン
やネタにできるシーンも十分盛り込まれており、緩急の付け方にも工夫がある。
また、本作は「呉れ」「心算」「只管」など、妙に漢字変換が多く、「暗澹」「欺瞞」などの漢字語もやたらと出てくる。
あくまで演出の一環だが、最初は文章にかなり違和感を感じる、っていうかはっきり言って読みづらい。
ただ、話の内容自体は普通のキャラが大部分、難解な漢字語も話が理解できないレベルの頻度では出てこないので、
「何言ってんのかさっぱり訳わからない」みたいなキャラは殆どいない。いなくはないよ?
段々慣れてきて、「この漢字語がなければセラブルじゃない」と思うようになれば立派なセラブル信者。
そして、この作品は物語重視だけに、イベントがかなり長い。
序盤から十分単位のイベントが入ってくる上、オープニングから戦闘が可能になるまでは約30分である。
ただ、プレイを通しての想定戦闘数が500とあるように、決して戦闘部分がおまけになっている訳ではなく、ボス敵も多数登場する。
とは言え、「ゲームはプレイヤーが操作してなんぼ、イベントなんて短ければ短いほどいい」と考えるのであれば、
それは
ドクターマリオしか知らないお母さんが弾幕シューティングをやるようなものなので流石に本作とは相容れないとは思われる。
作者は『
ゼノギアス』のディスク2肯定派なので、その辺りから察するべきか。
以上の点から、「厨二病のクソゲー」から「フリーゲーム世紀の傑作」まで評価の割れやすいゲームである。
決して万人受けはしないが、少なくとも凄まじい作り込みに関しては誰もが認めるところだろう。
上記の点に納得できるのならば、ツクール2000を代表する大作のひとつとして遊ぶ価値はある。
ストーリー
==二年前==
門扉に「Residence Minerva」と書かれたとある施設。
「青髪の女性」は、この施設の中で厳しく管理され、外に出るにも発信機と何人もの警備兵が必要であった。
今日も護衛を引き連れ「アカデミー」から帰ってきた彼女だが、そこに何者かによる施設への襲撃が発生。
セキュリティを跳ね除け警備兵を倒してその女性を「迎えに」きたその中年男性に、女性はこう言う。
「また…。逢えたわね…。」
==現在==
人々を襲う怪物「イーヴル」を掃討する稼業「イーヴルスイーパー」で生計を立てる青年・レイクに、
近くの森に住むイーヴルを退治してほしいという依頼が入る。
金を稼ぐというより荒んだ人生のウサ晴らしにイーヴルスイーパーをやっているレイクは、
いつもの通りイーヴルを殺してやろうと森に足を運ぶが、そこで謎の存在・エンデに遭遇。
レイクを知っているらしいエンデの呼び出した怪物にレイクは全く歯が立たず、
殺されそうになるレイクの前に、突如として冒頭の「青髪の女性」=ヴェーネが現れる。
ヴェーネからは謎のエネルギーが放出され、怪物は消滅する。そして、彼女の背中からは白い羽根が……
「天使…?」
気を失ってしまったヴェーネを、町医者ランゲルの元へ運んできたレイク。
一体彼女は、そしてあのエンデとかいう化け物は何者なのか?なぜレイクの元に現れたのか?
目が覚めたヴェーネに問おうとするレイクに向かって、ヴェーネは言う。
「アナタ…誰?」
記憶喪失になってしまったヴェーネ。
すべてを知るため、レイクはヴェーネと共に「天使」の正体を知る旅に出るのだった。
登場人物
産まれてすぐ母親が死に、父親も行方不明という境遇のお陰ですっかりやさぐれてしまった青年。
命の危険もありながら大して稼ぎのないイーヴルスイーパーという職業を選んだのも、
化け物イーヴルを惨殺してウサ晴らししたいというだけの理由だったりする。
冒頭でオラオラ言いながらイーヴルを嬲り殺しにする様にプレイヤーは引いてしまうだろうが、
精神的な拠り所がなくヒネてしまっているだけで、割とまともな部分も多い。
2周目で見ると、むしろ微笑ましい光景とさえ思えないことも無いものである。
田舎町トゥルクで医院を開いている町医者。ハゲ(後退型)。
財閥系のローズバーグホスピタルに勤めていた名医のはずなのだが、
ローズバーググループを目の敵にするトゥルクにおいて彼の居場所は無い。頭髪も無い。
レイクとはそれなりに付き合いが長く、互いに軽口を言い合う仲。
レイクの前に突如現れ、謎の力で怪物から救ってくれた女性。
羽が生えた「天使」であり、雰囲気もどこか常人と異なったものを感じさせる。
レイクを救うために力を解放したことで記憶喪失になってしまったため、
彼女の正体を掴むために旅に出るのが序盤のストーリーとなる。
記憶喪失は中盤に入りかける辺りで治り、「元々のヴェーネ」に戻るのだが、
そこからが彼女の本領発揮であり、「彼女こそ本作のヒロイン」だということをまざまざと見せつけてくれる。
子供の姿をした化け物。
とは言っても、灰色の皮膚組織など、見るからにヤバそうな感じがプンプンしており威圧感が凄い。
人を殺して泣き叫ぶ顔がどうとか臓物がどうとか排泄物や吐瀉物がどうとか、
レイクが全然かわいく見えるレベルの鬼畜グロ台詞を吐いて周囲とプレイヤーをドン引きさせる。
「このゲーム一般では出せないよなあ」とみんな思う理由の4割くらいはこいつのせい。
ホーイックの街の教会で幼天使の保護をしている牧師。
一行が訪れた際はいきなりチンピラに銃を突き付けて退去させているシーンに遭遇するが、
実際はなかなかの人格者で、世間の酸いも甘いも噛み分けている。
基本的には温厚ながらも熱さを持っているところがあり、
環境が揺れ動く中感情を露わにするシーンは必見。
十年前に、若手にも関わらず最強のイーヴル「イーヴル・ディザスティア」を倒した伝説の英雄。
だが、人々が安堵と歓喜に包まれる中、当の本人はそれを最後に失踪している。
莫大な賞金も受け取らずなぜ姿を消したのか、現在ではむしろ謎の人物として語られる存在である。
ゲーム中盤から登場し、口数は少ないながらもどこか何かを背負っているような様子を感じられるが、
登場当初から朴念仁呼ばわりされたりおじちゃん呼ばわりされたりとどこかネタ臭い。
挙句の果てにプレイヤーからはロリコンネタが定着する始末。
世界最大の巨大財閥「ローズバーググループ」のドン。
新薬の開発を機に、田舎町の小さな薬屋から今の立場まで成り上がった稀に見る成功者。
ただ、その陰ではやっぱりというか何というか黒い噂が絶えない。
上記からの流れで、なんでこの話に財閥のトップが関わってくるのかと思うかもしれないが、
あんな経緯やこんな経緯があって非常に重要な立場なのである。
オープニングにも出てくる、ヴェーネと友人らしき関係にある少女。
一応現実なら高校生の年齢で、背も159cmとそれなりにあるのだが、
知的障害を抱えており言葉が拙いため、本作ではゲーム内外を問わずロリ扱いされる傾向にある。
その一方で、サヴァン症候群の一種と見られる現象により非常に高い魔力を持ち、
その設定に違わぬ高火力っぷりはゲーム中大いに役立ってくれる。
本作随一のマジキチであり、だいたいこいつのせい。
「子育てこそはこの世で最高の『ゲーム』である」という狂った思想に基づき、事態を色々な方向にややこしくした元凶。
本ページ冒頭の台詞などを例として、妙にキザったらしいというか持って回った言い回しを多用する傾向にあり、
その骨頂が名言「臨場感を凌駕してリアルに於いて反映実現される、有質量の全ての結果」である。何言ってんだお前。
このゲームが厨二病ゲーと揶揄される理由の3割くらいはこいつのせい。
「絵に描いたようなWiki籠もりがいたものだな。天然記念物だ。」
「保全する必要はありませんがね。」