SCP-1739

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SCP-1739 - (2022/02/09 (水) 12:20:21) の編集履歴(バックアップ)


登録日: 2016/12/19 Mon 20:32:20
更新日:2024/04/12 Fri 19:10:00
所要時間:約 12 分で読めます





SCP-1739はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト(SCiP)のひとつ。
項目名は『Obsolete Laptop (もう使わないラップトップ)』。
オブジェクトクラスはKeter。財団が定めるクラスでもっとも危険なものである。


概要

まず、コイツがどんなオブジェクトであるかについて説明する。
コイツ自体はDell Latitude D800モデルのラップトップ、つまりノートパソコンである。

これに関する特別収容プロトコルは厳重であり、収容セクターは常時監視されている。
ただ特筆すべき点として、

収容セクター-██内にいかなる人物が自発的に出現した場合でも、即座にO5評議会に通知されます。

という一文がある。そしてこの人物こそが、このオブジェクトがKeterクラスである最大の理由である。

続けて性質。
モノ系オブジェクトにはままあることだが、コイツも例に漏れず破壊を受け付けない。
次にコイツを立ち上げると、「gofetch.exe」という実行ファイルが存在している。和訳すると「それ、とって来い!」と言ったところ。
これを実行すると、3つのウィンドウが立ち上がる。

まずウィンドウその1は、UNIXタイムスタンプ形式で日時の入力を促す入力フィールドを持っている。ここには、2004年1月1日の00:01:18から現在の時刻までの日時が受け付けられ、これ以外の入力に対してはエラーメッセージとなる。
で、正しい範囲内の日時を入力した被験者は消失する。
もうこの時点でロクなもんじゃねえ。

ウィンドウその2は、不明なチャットプロトコルのクライアントアプリケーションである。
ユーザには自動的に「BranchPrime」のハンドルネームが割り当てられる。
ウィンドウその1に数字を入力した被験者の消失の後、チャットクライアント上に「Isaac」を変形した形のハンドルネームを与えられた個人が出現し、コミュニケーションをとれるようになる。
これらの個人は、被験者が入力したUNIXタイムスタンプの時刻へ時間転移したことによる、分岐した時間軸上の財団職員だと主張している。
さらにその出現までは、その分岐世界は財団世界と全く同じであるという。

つまり、このラップトップは被験者を入力された時間の過去へと飛ばす力を持っているのだ。

ウィンドウその3は、犬小屋に繋がれた犬のCGアニメーションである。
その1への数字の入力が成功した場合、このアニメーションは、女性が犬を解き放ち、ボールを遠くに投げるものに切り替わり、犬はボールを追って画面外に走り去る。
このタイミングから数えて、3日から7ヶ月までの期間の後、「Isaac」はチャットから切断される。さらにこの時点で、アニメーションは破裂したボールの残骸を咥えて走り戻ってくる犬に切り替わる。そして犬は画面外にボールの残骸を投げ捨て、女性は犬を犬小屋に繋ぎ直す、という流れになる。

ついでにこのSCP-1739は2004年1月1日、それまで利用されていなかった収容セクター-██に自発的に出現したことで収容されている。




……さて、ここまで読んだ諸兄は「なんでコイツがKeterなんだ?」と思うかもしれない。
ここまでの情報だと、時間跳躍を起こすラップトップにしか見えない。過去改変が起こるという可能性も、並列世界からの通信により否定されている。
これだと一体何がどうしてKeterなのか、と思ってしまうだろう。


しかし、これはやはりKeterである。
それは、過去に飛ばされた人員の並行存在である「Isaac」との、チャットを介した会話の内容が全てを物語っている。
その一部を抜粋したいところだが、長すぎるため内容のみを要約して記述する。



真実

「Isaac」はこちら側の「BranchPrime」との会話で、なぜ並行世界との通信がわずかな時間で途切れてしまうのか、という事実を繰り返し検証していた。
その中で彼は(と言ってもそれぞれ別人であるが)、恐るべき事実を掴んでいた。


Isaac67: 答えは持っている。なぜ通信が非常に短い期間で切断されるのか分かった。まず1つ質問をしたい。

Isaac67: そちらの世界は終わりかけているか?



通信の切断の原因は、この宇宙の破壊だ。だが、こちらの宇宙が終わっても、そちらは終わらない。これが分岐点における相違だ。我々はこれが、人々を救命ボートに乗せること、沈みゆく船に置き去りにすることのどちらを意図していたのかは分からない。だが、後者の可能性がはるかに高いようだ。

つまり、分岐世界は分岐から程なくして完全に滅亡しているらしく、そのために通信が切断されていたというのだ。

タイムトラベルと同時に世界は2通りに分かれる。
一方は存在し続けるが、もう一方は間もなく滅びさる。


「Isaac」は過去に人員を飛ばすことで起きるこれら一連のプロセスを、財団世界を救命ボートに乗せているのか、人員を沈む船に置き去りにしているのか、と例えている。




事実はそれどころではなかった。もっと恐ろしい、そしてどうしようもない「現実」がそこにはあった。




あるDクラス職員を被験者として飛ばした後、再び対話が試みられた。
その目論見は図に当たり、その被験者の分岐存在となった「Isaac」は、SCP-1739の持つ真の役目を突き止め、それを財団世界に報告してきていた。

曰く、以前の「Isaac」が述べたボートと船の比喩は全くの見当違いであったらしい。
分岐世界が破壊される理由、それはSCP-1739を使用すること自体であったのだ。
「Branchprime」となった財団の職員は、その意味を問うた。そして帰ってきたのは、「Isaac」が掴んだとんでもない現実であった。


結局のところ、第三のウィンドウのアニメーションが鍵だ。それはこの黙示録の無遠慮な隠喩に他ならない。

犬が世界の終わりなのだ。この単語のどちらの意味でもだが、凄まじい。その影が通過するだけで全ての宇宙を破壊できるような不可解な何かだ。

だが、財団も以前に同様の問題に遭遇してきた。だから、次に何が起きるかは推測できる。我々は、鎖によって完全に繋いでおけないようなものも収容してきた。オブジェクトが何かを仕出かすのを完全に妨げられないなら、オブジェクトが我々の課したどんな制限も回避する策を見つけてしまうなら…。

つまり次善の策とは、制御された環境下で鎖を外して、重要なものを傷つけない場所でオブジェクトの異常性が発現するようにすることだ。この場合、収容すべきオブジェクトとは犬だ。そしてSCP-1739は、同じ理由で運用される、非常に手の込んだ、特別に設計された取扱方だ。

「取ってこい」で投げられるボールは、犬のエネルギーを抑制するためのものだ。


……お分かりいただけただろうか?
つまり、財団がSCP-1739と呼んでいるラップトップは、オブジェクトそのものではなく、特別収容プロトコルとその実行用のデバイスである。
そして真のSCP-1739は、ウィンドウその3において犬として描かれているナニカである。

このナニカ=「犬」は、簡潔に言うと世界自体を破壊する超存在である。比喩ではなく世界を破壊するのである。
破壊された世界は、ウィンドウその3においては破れたボールとして描写されている。
それら一連のプロトコルと概要は、

概要:世界を破壊する未知の知性体。長期間破壊すべき世界がない場合は暴走の危険あり。
プロトコル:ラップトップを用いて人員を過去に送り込み、分岐した世界を知性体に破壊させることで宥める。

となる。
つまり、このラップトップは「犬」が破壊するための世界を造り出すためのデバイスであり、分岐世界の全ては滅ぼされるためだけに生み出されるのである。
ちなみにこの記事では略したが、「Isaac」のハンドルの末尾には番号があり、真相を伝えた時点では137だった。つまり、137の分岐世界がこれまで生まれ、そして悉く「犬」によって破壊されてきたということになるのだ。

つまり、その3の動画における示唆は、「犬」が世界破壊オブジェクト。「ボール」が分岐世界。「女性」はラップトップを使用した世界である。

しかし、救いようのない話ではあるが、財団世界を存続させるためならば必要なことではないのか?
既にある世界ではなく、「もしも」の世界を造り出しているのだからそこはマシではないのか?

そう思うかもしれない。しかし冷静に考えていただきたい。
世界が破滅する様子を伝えた「Isaac」は何を通じて連絡を取って来た?

ラップトップである。それはつまり、分岐世界側にもラップトップが存在する+それは恐らく、突然出現したということを意味している。
この意味が分かるだろうか?
要するに、



財団世界が、破壊されるための分岐世界である可能性が残っている



ということである。ラップトップが「突然出現した」ことをかんがみれば、その可能性は非常に高い。
さらにこちら側の受信者に振られるハンドル「Branchprime」。これは和訳すると「主要な枝」。
だが、木の幹ではないのだ。


それが切り捨てられるべき枝ではないと、誰が言えるのか?


ラップトップの前に誰か人間が現れた場合、それは過去に送り込まれた人間であり、この世界は世界Bであったということが確定する。
その時、Kクラスシナリオが起きることが確定してしまうのだ。その人間の出現によって世界が分岐してしまったのだから。
別の未来の誰かが、ラップトップを使ってしまったら、その時点でもう終わりなのだ。

ラップトップの前に人間が現れることは、世界が終わる予兆ではなく、原因なのである。
しかし、防ぎようがない。それは止められない。未来に対する備えなど出来るはずがない。

よしんば出現を察知したとしても、残された時間は長くて7ヶ月、短ければたったの3日。
しかも単なるKクラスではなく、世界外部からの攻撃である。その時財団は何が出来るのか?
結論を言えば何もできない。なぜなら、今まで破壊されてきた分岐世界の財団も、我々の知る財団と全く同様の力を持っている。それで破壊が防げなかったのだから、財団にどうこう出来る事態では既にない。

ラップトップの前に人間が現れた時点で、全てが終わることは確定するのである。


現在のところ、ラップトップを用いて被験者を過去へ送る試みは無期限に禁じられている。が、それでは「犬」が暴れ出す危険が付きまとう。
ラップトップの性質からして、分岐先の世界は選べない。財団に出来ることは、ラップトップを恐怖と共に監視しつつ、そこに誰かが現れないことをただひたすら祈るだけである。


ついでに言うと、分岐世界からの送信者のハンドル「Isaac」は「イサク」と読める。
これは、聖書の登場人物であるアブラハムの息子で、神への信仰の証明のため生贄として捧げることを求められた少年の名である。
聖書では実際にはイサクを生贄に捧げる前にヤハウェからの制止が入り、代わりの生贄となる雄羊が与えられたが、財団世界には救いとなる代替手段を用意する「神」はいない。


主要な枝の世界から、「犬」の眼をそらすためにささげられたイサク。世界と命運を共に死んだイサク。
財団世界にイサクは現れるのか? いや、いつかきっと現れるだろう。
避けることのできない破滅を告げるために。




財団の明日なんてなかった。




追記・修正は分岐世界を破滅させてからお願いします。


CC BY-SA 3.0に基づく表示


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