ただ、ひとりでも仲間が欲しい(空が灰色だから)

登録日:2021/09/26 (日) 23:51:08
更新日:2021/10/23 Sat 22:40:43
所要時間:約 5 分で読めます




私はクラスから危ない人だと思われているらしい。


いじめられたりはしないがだから友人もいない、会話もしない。


ただ普通に絵を描いているだけなのに。



『ただ、ひとりでも仲間が欲しい』とは漫画『空が灰色だから』の3巻に収録されている短編である。
暗くて鬱気味な話なのは同作品の他の話と同じだが、終盤のとんでもないホラー展開が待ち受けており、他の話とは一線を画すインパクトを誇る話である。



【あらすじ】

グロテスクで狂気な趣向を好む女子高生、来生はいつもそういった絵を描いており、クラスで孤立していた。
そんな彼女の絵に感銘を受けたクラスメイトの佐野は友人を連れて話しかけてくる。
来生は彼女に誘われるまま遊びに行くことになるが…



【登場人物】

  • 来生
今回の主人公。
高校一年生の女の子で、ボサボサの髪と四角い黒目が特徴。後どこがとは言わないが結構デカイ。
グロテスクで狂気な趣向をしており、学校でも暇を見つけてはそういう絵を描いており、クラスでは孤立している。
昔からそういう感じだったらしく、大人からも怖がられていた模様。
だがそんな自分を特別だと思い、周りを見下しているような一面もある。


  • 佐野
来生とはクラスメイトの女子高生。
細目と太眉が特徴で、常に黒手袋をしている。
彼女もグロテスクな物がすきなようで、来生に話しかける。
他に丸眼鏡の子とギザ歯の子の友人がいる。



【ストーリー】

佐野に誘われるがまま、一緒に遊ぶことになった来生。
まずはグロテスク映画を見に行き、佐野の友人達は絶賛していたが、
来生はギャグ映画扱いして苦笑い、そして興奮して「普通の人がサイコぶって作っただけ」と酷評する。
3人はそんな彼女に引き気味だった。


その後レストランに入り、ヤスデやらタランチュラやらをペットにしたいと話しながらグロテスクな絵を描き、見せあいっ子していた。
だがここでも来生は佐野や友人達の絵を一笑に付し、自分の狂気をたっぷり込めた絵を見せつける。
それには彼女らもキモいとドン引き。

彼女曰く、「自分を解放」することが重要で、




「人間が封じ込めてる深い深い内側の善でも悪でもない心よ」


「といっても誰しもがそれを持っているわけじゃないわ」


「社会にうまく馴染めないはみ出し者の人間だけが有する孤高の心はひどく美しい」



「人と違い理解されない忌み嫌われ阻害されきょう気と呼ばれ封じ込められていた純真な心の解放」




等と汗をかく程興奮して語っていたが、それを見た佐野の友人は完全に呆れ、「自分達はアートでやってるだけ」「こいついつか犯罪犯すぞ」と吐き捨てて帰っていた。

来生は彼女らも所詮にわか、自分はまた一人になってしまったと達観していた。
だが佐野だけは残り、自分も解放して見たくなったと来生を別荘に誘うのだった。

来生はまたままごとに付き合わされるのかと思いつつも彼女についていく。












以下、終盤のネタバレ注意!


























来生は佐野に連れられて行ったそこは、別荘とは名ばかりのボロ山小屋だった。
しかも虫がブンブン飛んでおり変なにおいがする。


来生は佐野に恥ずかしいからと袋を被せられ、電気も消される。
曰く、「電気が悪影響を及ぼして軸が傾く」とのことで、来生は意味が解らず困惑していた。

暗闇の中、佐野は体にペイントらしきものをしながら語る。




「あの2人が違うのはわかってたけどもしかしたらスパイかもしれないから逆に泳がせていたのよ」



「私が初めて自分を解放した姿を見せられる仲間とこの星で出会えたんだって」



「ずっと思ってた、こんな醜くてカッコ悪い姿が本当の私じゃないって」



「これじゃマゲラルタ洋館の改造使用人と変わらないもの」



「みんな学校で小テストされて羽をちぎってるでしょ?」



「知ってるクセに知らないフリしてわざと顔を変えないでこの星を滅ぼそうとしている」



「天使を見破れる一番の方法が絵だった」



「うっ、いたた……痛覚は鉄の足枷ね」



そんな訳の分からない話と、虫の羽音と何かを剥がすような音を聞きながら、来生は袋の隙間から見てしまった。



「私は私でいたいから本当の絵を描いた」




そこにいたのは、全身真っ黒で目玉らしきペイントを施し、手には佐野の髪の毛のカツラを持った人ならざる何かだった。


これを見た来生は恐怖で全身を震わせ、一目散に外へ逃げ出した。
彼女は叫びながら夜の道を駆ける。



やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい


助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて



だが途中で転び、恐怖のあまり腰が抜けてしまう。



助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて助けて



お母さんお母さんお父さんお父さんお巡りさんお巡りさん



絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない



かろうじて草むらに隠れるが、虫を周りに引き連れながら佐野は来生を探していた。



「来生さんも結局自分の解放なんてできないただの普通の人間だったの?」


「……初めて仲間が見つかったと思ったのにやっぱり本当の私を見て引いていくなんて」




「私はただ、ひとりでも仲間が欲しいだけなのに……」



そう語る彼女の顔は、異形ながら泣いているように見えた。



こうして、仲間のいない少女と仲間が欲しい少女?の物語は幕を閉じる。
その後2人がどうなったかは、神のみぞ知る……。




【余談】

単行本3巻のカバー裏には、来生が高校に入る1年前の話が収録されている。
当時の彼女はグロテスクな絵を描いてネットにアップしてコメントを見て優越感に浸ったり、
怖い画像を見て普通に怖がったり、母親にお小遣い値上げを泣きながら懇願するような女の子だったようである。



追記・修正は本当の自分を解放してからお願いします。

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最終更新:2021年10月23日 22:40