空から来た子ども(ブラック・ジャック)

登録日:2022/05/25 Wed 22:39:23
更新日:2022/05/27 Fri 20:32:27
所要時間:約 6 分で読めます




「空から来た子ども」とは、『ブラック・ジャック』の第104話のエピソードである。コミックス11巻、文庫版3巻、新装版10巻、豪華版3巻に収録されている。
アニメ版は2000年3月に発売された「ブラック・ジャックBOX」にあるアイテムとしてビデオが製作された後、週刊少年チャンピオンの応募者全員サービスとしてDVD化された。キャラクターデザインは同時期に展開していたOVAと比べて、原作およびテレビアニメ版に近くなっている。*1
ソ連モチーフの国家、軍用機による亡命など、このエピソードが掲載されるまさに直前に発生したベレンコ中尉亡命事件がモチーフと思われる。

あらすじ

ある日、謎の戦闘機が突如としてBJの家の近くに着陸した。
その正体はウラン連邦空軍の最新鋭VTOL機・レポール。機体からイワン・ユーリイッチ・ガガノフ少佐とその妻、そして息子のアンドレイが降り立つ。
ガガノフは息子のアンドレイを治すために逃亡のような形で国を出てBJの家にたどり着いたのである。
「そんなことをしなくても連絡すればよかったのでは?」と問うBJだが、
ガガノフの所属する隊は極秘と言っていい特殊部隊であり、外国人との接触を一切禁じられている。加えて息子の病気は国内の医者では誰も治せず、先述の秘匿性のせいで外国人の医者にも診てもらえなかった。
このまま見殺しにされるのかと泣いていた時、BJの名前を知ることになる。
妻はそれをガガノフに話し、夫は最初は反対するも、ついには妻に応じ、自らの地位を利用して極秘の新兵器であるレポールに乗って日本に逃亡してきたのだ。
それを知ったBJは、追手や日本の警察やら自衛隊やらがやってこないのか問い詰める。
しかしガガノフは「日本のレーダー網の抜け穴は調べがついてるのでそこを抜けてきたので心配はいらない。」と言う。
レポールの中には200万ドルがあり、これでもダメかと問うガガノフに対し
「お前さんの国の医者の言うことは正しい」「手術は無理だ」と手術を断る。

夜、2人はアンドレイの悲運を嘆いていた。
ガガノフは「こうなったら世界を駆けまわってでもお前を治してくれる医者を探してやる」とアンドレイを励ます。

一方BJ宅。ピノコが「あの人たちがかわいそう」とBJに話しかけるも

「私に話しかけるなっ!!」

と一喝する。
普段のBJからは考えられない剣幕に驚くピノコだが、直後にBJは机に項垂れ、

「わたしだって……きのどくだと思ってるんだ……」

ピノコに弱音を吐くのであった

「ちくしょうめ!」

「ちくしょうめ!」

「ちくしょうめ!」

「もう一年!せめてもう一年オペが早ければ間に合ったかもしれんのに…」

「アイゼンメンゲル複合か!ちくしょう!」

アンドレイの病気は心室中隔欠損症であり、左心室と右心室の間にあるはずの壁がない病気である。
早い段階でふさげばいいのだが、放置しておくと、肺の血管にかなりの高血圧が起こる。
その結果として肺動脈が動かなくなり、酸素を送り込めなくなってしまう。
これがアイゼンメンゲル複合(現:アイゼンメンゲル症候群)である。
この状態になると、手術をするとなおさら症状がひどくなってしまうためアイゼンメンゲル複合に対する手術は禁忌となっている。


「なおす方法がないだと!?」

「なおせないというのか………?」

「死ぬまで手が出せないのか!?」

「ちくしょう 医学なんてくそっくらえだっ」

治療するためのはずの手術が逆に悪化させてしまう、予後不良の状態のアンドレイは、健康な心肺が用意されない限りは死を待つだけなのである。
BJも血液ごと、いっそ肺ごと取り替えることを考えるも、他人の肺だと、死亡時に肺が縮んで役に立たなくなる。八方ふさがりな状況にBJは医学の限界への絶望をぶちまける。
だがあの家族は、わが子を助けるため、自身に助けを求めるため、一生を犠牲にしてきた。
それを知っているBJは、亡き本間先生にすがる。

「本間先生 わたしに勇気を!」

BJは手術を決め、2人に尋ねる。わが子のためなら、自分を犠牲にできるか、どんな苦しみにも耐えるかと。
肯定する2人にBJは手術法を説明する。
親である2人のどちらかがアンドレイと密着させ、アンドレイの血液を親の肺で清める、というものだった。
これは暫定的な措置であり、もしいつか健康な肺が手に入れるチャンスを得たら、改めて移植手術を行うこととする。
これは親の2人の血液型がアンドレイと同じだったからできる手術であった。
手術は妻が志願することとなった。
手術の最中、別の部屋で2人を励ますガガノフ。
BJが手術から出てきた。手術が無事に終わったのだ。
アンドレイは妻とくっついており、包帯が取れれば、2人がしっかりと密着していることが確認できるという。
それを聞いたガガノフは喜び、BJに感謝した。そしてそれに対し「それより手術代はどうなんだ」と報酬を迫るBJ。
ガガノフは機内にあった200万ドルをBJに渡すも、BJは「これは生活に残しとけ。それよりもレポールを貰いたい」とレポールを売り払えば手術代としては十分事足りるとガガノフに言う。
しかし、ガガノフはその前に、ウラン連邦軍人として責任を取らないといけない、妻もそれを納得するだろうと語る。
2人が目覚めたら元気でと伝えるようBJに言う。

「さようなら先生。あなたは偉大な医者だった。」

「責任をとるとはどういうことですか?」

ガガノフはレポールへ向かう。
するとBJの家の近くで爆発が起きた。
BJが慌てて外に出ると、そこには飛行機の残骸が燃え盛っていた。

それを見るBJは呆然としながらも

「おまえさんもたいした軍人だったぜ」

とつぶやくのだった。

そして妻と子、2人が幸せそうに眠っている姿でこのエピソードは幕を閉じる。


余談

先述の通りアニメ化もされているが、色々な改変がされている。
  • 国名がウラン連邦からベラド共和国に変更。
  • ブラックジャックの家が房総半島にあると示唆される。
  • ガガノフの妻に「ミゲル」という名前が付けられた。
  • CVはそれぞれ、
    • ガガノフ - 池田勝
    • ミゲル - 夏樹リオ
    • アンドレイ - 渡辺優子
  • BJの存在を認知しているのはガガノフの方である。
  • 「手術は無理だ」と言ったBJに対して、銃を威嚇射撃するなど食い下がる。こうするのも、逃亡した以上、追手がやってくるのは時間の問題と知っていたからだろう。
  • 脱出の手順が詳しく描写される(爆破によるガス漏出を起こし、基地の混乱に乗じて3人が搭乗)
  • 夜に一人になっているシーンは治療法をひらめくシーンではなく、自嘲しているシーンに変更。
  • ベラド共和国側にて、ガガノフを追跡する描写が挿入される。手術シーン中にもたびたび追跡中の通信が入り、緊迫とした状況であることを描写させる。
  • さすがにこの状態でBJの家の近くで自爆するのは色々とまずいので、レポールを発進、追撃班を引きつけた末、太平洋の上空で自爆する。このシーンは壮絶の一言に尽き、視聴者の涙を誘う。
  • この一部始終を聞いたBJは、やりきれない気持ちで、貰った手術料の入ったカバンを蹴とばす。
という、リアリティの入った改変がされている。
この作風をテレビアニメ版でもやってくれたらよかったんだけどなあ…



追記・修正は空から突然何かが下りてくるのを見た人にお願いします。

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最終更新:2022年05月27日 20:32

*1 『ブラック・ジャック』のアニメ作品としては珍しく、ブラック・ジャックが貰った皮膚の色が青みがかった灰色である