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音楽的同位体 可不(KAFU)

登録日:2026/10/24 Sat 09:51:58
更新日:2026/10/24 Sat 09:52:47NEW!
所要時間:約 7 分で読めます





「聴く」から「創る」へ。


可不(かふ)(KAFU)とは、KAMITSUBAKI STUDIOが展開する「音楽的同位体プロジェクト」の第1弾として生まれた人工歌唱ソフトウェア、およびそのキャラクターである。
声のもとになったのは、同スタジオ所属のバーチャルシンガー花譜。音声合成エンジンにはCeVIO AIが使われている。





概要

可不は、花譜の歌声をもとに作られたCeVIO AI用のソングボイスで、2021年7月7日に発売された。
公式の説明によれば、深層学習などのAI技術によって花譜の声質・癖・歌い方を再現している。

発売前から人気ボカロPたちが可不を使った楽曲を次々と公開しており、その中から「フォニイ」「きゅうくらりん」「マーシャル・マキシマイザー」といった大ヒット曲が生まれた。
その結果、花譜を知らないボカロリスナーが可不の曲を聴いているという状況が当たり前になるほど、ボカロ界に普及した存在となった。


音楽的同位体とは?

KAMITSUBAKI STUDIOに所属するバーチャルシンガー(顔出しをしない歌手)たちの歌声をもとにした人工歌唱ソフトウェアを中心とするプロジェクト。
「歌が大好きな少女達の可能性を拡張する」というスタジオのテーマから派生したもので、公式はソフトウェアを単なる道具ではなく、創作の「可能性の拡張」を手助けするクリエイティブパートナーと位置づけている。

たとえば、初音ミクの声の提供者は藤田咲氏なのだが、藤田咲と「初音ミク」は全くの別物であり、藤田咲氏が初音ミク名義で活動することはない。
が、この「音楽的同位体」は、覆面歌手として活動する歌手にはそのまま活動してもらいつつ、その声を用いてよく似た声の歌唱ソフトを作り、その2つを「そっくりな別人」として同時に売り出しちゃおう、というものである。

プロデューサーのPIEDPIPERはこれを、発表時に可不を「花譜と似ているけど全く違う存在」と表現した。
後年のインタビューでは、「音楽的同位体」という独自の名前を掲げた理由として、「これはボカロか否か」という議論に話が寄りすぎるのを避けたかったこと、新しいものとして打ち出したほうが浸透しやすいと考えたことを挙げている。

別名義のキャラクターを立てて「CV:花譜」とする案もあり得たが、それではプロジェクトが花譜の声の仕事の一つになってしまう。
そこで花譜と可不は外観を共有したうえで、対等な別プロジェクトとして並び立たせる形がとられた。
本人から派生したAIシンガーがいて、本人とそのAIが一緒に歌う――そんなSF的な未来像も構想の根っこにあったという。

また、この販売形態は、初音ミク開発時に懸念された問題点「機械に自分の声を奪われ、結果として自分の仕事がなくなるのでは」を公式自らが現実化したようなものでもある。
致命的ではないとはいえ需要の食い合いは多少起こしているようで、PIEDPIPERによれば花譜は可不の曲がヒットすることにある種のライバル心を持っており、それが本人の活動のモチベーションにつながっているらしい。


可不のヒットを受けて、プロジェクトは
  • 第2弾:
   星界(セカイ)(ヰ世界情緒(いせかいじょうちょ)の音楽的同位体)

  • 第3弾:
   裏命(リメ)(理芽(りめ)の音楽的同位体)
   狐子(ココ)(幸祜(ここ)の音楽的同位体)
   羽累(ハル)(春猿火(はるさるひ)の音楽的同位体)

と広がり、花譜を含むバーチャルシンガーグループ「V.W.P」の5人全員分が揃った。


キャラクター

外見は花譜とよく似た少女の姿。上述のとおり外観は花譜と共有されており、花譜のキャラクターデザインはPALOW.が手掛けている。
公式サイトでは、年齢や身長といったプロフィールは公開されていない。
性格や好物といった細かい設定もなく、そのあたりは使い手の想像に任されている。


製品情報

製品名 音楽的同位体 可不(KAFU)
エンジン CeVIO AI
発売日 2021年7月7日
発売元 THINKR(KAMITSUBAKI STUDIO)
スターターパッケージ 21,780円(税込)
CeVIO AI ソングエディター+可不ソングボイス
スターター ダウンロード版 20,900円(税込)
可不ソングボイス ダウンロード版 10,780円(税込)
※別途CeVIO AI ソングエディターが必要
対応OS Windows 11 / 10(64bit)

発売当初のスターターパッケージには、ボカロPたちによるオリジナル曲10曲を収めた『KAF+YOU KAFU COMPILATION ALBUM』が同梱されていた。
収録曲は「朝日 feat.花譜」(カンザキイオリ)、「めめしぃ」(すりぃ)、「ナイトルール」(煮ル果実)、「キュートなカノジョ」(syudou)など。

編集面では、歌詞の音素ごとに発声タイミングを動かせるほか、現在のピッチを見ながらピッチ線をフリーハンドで描き込める。
声質も、大人びた歌声から少女のような歌声までパラメーターで変えられる。

声質

花譜の透明感のある声をベースにしつつ、少し幼さを感じさせる歌声。
PIEDPIPERによると、今の技術ならもっと本人そっくりにもできたが、あえてボカロっぽさ・機械っぽさを残したものを採用したという。
本人の声と差をつけておいたほうが、花譜とデュエットしたときに違いが出て面白い、という計算もあったとのこと。

使い手からの評価も高く、「フォニイ」を作ったツミキは、従来のソフトに比べて声の情報量が圧倒的に多く、記号ではなく血の通った歌声になると語っている。
花譜とのデュエット曲を手掛けたポリスピカデリーも、調声をほとんどしないベタ打ちの段階からすでに音楽的に歌ってくれる、と馴染みの良さを挙げている。

なお、2026年現在、可不のトーク用ライブラリは発売されていない。
星界・裏命・狐子・羽累にはVOICEPEAK用の「TALK EXTENSION」が出ているため、5体の中では可不だけが「喋れない」状態が続いている。


発売までの歩み

  • 2020年10月10日:音楽的同位体「可不」を発表。CeVIO AIとのコラボレーションとして、同年冬の発売予定と告知された。
  • 2020年10月:歌声についてのアンケートを実施し、5500件近い回答が集まる。期待の大きさを受けて開発期間を延長し、デビュー時期を2021年前半へ変更。
  • 2021年3月14日:予約受付開始。
  • 2021年5月:生産上の不具合により、発売日を7月7日へ再延期。
  • 2021年7月7日:発売。発売記念特別価格は19,800円(税別)だった。

延期のあいだにも可不を使ったオリジナル曲は次々と公開されていたため、発売日を迎えた時点ですでに複数のヒット曲が存在するという、少し珍しい船出になった。


Synthesizer V AI版をめぐって

2023年7月、可不の新ライブラリ「音楽的同位体 可不(KAFU) collaboration with Synthesizer V AI / The Right Stuff ver.」の開発が明かされた。
Dreamtonics社とAHS社が協力し、KAMITSUBAKI STUDIOから発売するという座組みで、当初は2023年冬頃の発売予定とされていた。

ところが、デモとして公開されたSynthesizer V版による「フォニイ」のカバーが大きな反響を呼んだ後、花譜本人がその歌声に違和感を覚え、発売の見直しを申し出る。
本人が納得できないものは出せない、という判断から2023年12月23日に発売延期が告知された。

その後もDreamtonicsやAHSの協力のもとで再リリースに向けた調整が続けられたが、花譜本人の意向や当初の目標を満たすのは難しいという結論になり、2025年1月19日に正式に発売中止となった。
花譜も自身のSNSで、待っていたファンに向けて謝罪のコメントを出している。

本人の声から作られるソフトである以上、本人の「これは自分ではない」という感覚が最優先される。
音楽的同位体というプロジェクトの性質がはっきり表に出た出来事だった。
なお、CeVIO AI版の可不はこれまでどおり販売が続いており、PIEDPIPERもプロジェクト自体は継続していく意向を示している。


関連作品・展開

アルバム

  • シンメトリー(2022年2月25日発売)
可不初のアルバム。「同化するシンメトリー」「真白のシンメトリー」の2枚組CDに、オリジナル曲30曲を収録。
カンザキイオリ、sasakure.UK、かいりきベア、みきとP、40mP、ナユタン星人、wotaku、Chinozoなど、参加クリエイターの顔ぶれがとにかく豪華。

  • 絢爛のアシンメトリー/夢幻のアシンメトリー/結晶のアシンメトリー
発売1周年記念として、2022年7月に3週連続で配信されたコンピレーションアルバム。
同じタイミングで、可不・星界をはじめとする同位体の情報をまとめたポータルサイト「音楽的同位体プロジェクト」も開設された。

同位体観察日記

音楽的同位体たちを主人公にした4コマ漫画。作者は中森煙。
発売1周年の2022年7月7日に公式SNSで連載が始まり、同位体たちがゆるく仲良く暮らす日常を、時折「同位体」ならではの謎めいた設定を交えつつ描いている。
2024年12月には一迅社のDNAメディアコミックスからフルカラーの単行本が発売された。

V.I.P

可不・星界・裏命・狐子・羽累の5体によるグループ。
プロジェクト3周年の2024年7月7日には、初のワンマンライブ「V.I.P 1st MINI LIVE ETHEREAL WORLD」がYouTubeで無料配信された。
2025年2月には楽曲「月光」(作詞・作曲:廉)を配信。この曲はV.W.Pの「暁光」と対になるように作られている。

神椿市協奏中。

KAMITSUBAKI STUDIOのリズムゲーム。
可不が歌う主題歌「ゆりかご」は、MIMIが作詞・作曲・編曲を担当した書き下ろし曲で、ゲーム内でしか聴けなかったが、2025年2月26日に配信リリースされた。


主なオリジナル曲

投稿日はニコニコ動画のもの。

  • ナイトルール
作詞・作曲 煮ル果実
可不にとって初めてのオリジナル曲。2020年12月25日、KAMITSUBAKI STUDIOの特別番組内で発表された。
この曲を皮切りに、さまざまなボカロPによる可不のオリジナル曲が毎月公開されていく。


  • 不埒な喝采
楽曲 ポリスピカデリー
2021年2月6日投稿。花譜と可不のデュエット曲。
本人とその同位体が一緒に歌う、というプロジェクトの構想を早い段階で形にした一曲で、MVは実写映像で作られている。


  • キュートなカノジョ
楽曲 syudou
2021年2月20日投稿。
発売前の時期に投稿され、可不の名前を一気に広めた楽曲のひとつ。ニコニコ動画では500万再生を超えている。


  • フォニイ
作詞・作曲・編曲 ツミキ
2021年6月5日投稿。可不の名前を一般層にまで広めた代表曲。
誰もが嘘に絡まっている、という一文が添えられたとおり、「嘘」をテーマにした楽曲。
ツミキにとってはボカロアルバムを出した後の最初の曲で、「人のためになる音楽を書きたい」という思いから、伝えるための工夫を詰め込んだと本人は振り返っている。

歌い手、Vtuber、YouTuberなど多くの人にカバーされ、ニコニコ動画では1000万再生を突破。
『プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク』にも収録されている。


  • マーシャル・マキシマイザー
作詞・作編曲 柊マグネタイト
2021年8月21日投稿。柊マグネタイトの6作目で、初めて可不を使った曲。
難解な言葉遊びが詰め込まれた歌詞と、息つく間もない展開がクセになると評判を呼び、大ヒットとなった。
2022年2月19日には、同じく可不を使った9作目「カノン」も投稿されている。


  • きゅうくらりん
作詞・作編曲・絵・動画 いよわ
2021年8月29日投稿。いよわが初めて可不を使った曲で、MVの絵と動画も本人が手掛けている。
2026年10月時点では、ニコニコ動画で可不の楽曲中最多の再生数を誇り、もちろん1000万再生超え。
こちらも『プロジェクトセカイ』に収録されている。


  • キャットラビング
作詞・作曲 香椎モイミ
2021年7月17日投稿。2分に満たない短い尺の楽曲ながら、ニコニコ動画で300万再生を超える人気曲。


  • 流線形メーデー
作詞 祭日ハネダ
作曲・編曲 HiFi-P
花譜のコラボ企画「組曲」の第9弾として作られた、花譜と可不のデュエット曲。2022年放送のTVアニメ『邪神ちゃんドロップキックX』のエンディングテーマに起用された。


余談


◆可不はCeVIO AIのソングボイスであり、ヤマハのVOCALOIDではない。
ボカロ曲として紹介されることも多いが、公式があえて「音楽的同位体」というブランドで打ち出しているのは前述のとおり。

◆可不の二次創作でおなじみなのがカレーうどん。
発売から間もない2021年11月、「可不がカレーうどんを食べるだけ」という動画が公開されたのを機に、「可不といえばカレーうどん」というイメージが定着した。
南ノ南による「可不ちゃんのカレーうどん狂騒曲」などの楽曲や大量のファンアートが作られ、初音ミクにおけるネギのようなポジションになっている。
公式が用意した設定ではないが、PIEDPIPERはこの流れを「むしろこういうものが生まれてほしかった」と歓迎し、UGCでは隙を作ることが大事だと語っている。

◆可不の曲を花譜本人がカバーすることもある。
可不から生まれた曲が最後は本人に返ってくる、という流れもPIEDPIPERが狙っていたもののひとつだった。



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最終更新:2026年10月24日 09:52