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SCP-3300

登録日:2026/10/22 Thu 15:05:55
更新日:2026/10/22 Thu 17:16:16NEW!
所要時間:約 10 分で読めます





この体に流れる血の、魂の一滴さえもが、怒涛のような悲しみと、風のうめきでしかない。


SCP-3300 - 雨(The Rain)

SCP-3300はシェアード・ワールドSCP Foundationに登場するオブジェクト (SCiP) のひとつである。
オブジェクトクラスはEuclid。

概要

SCP-3300はモンタナ州の町クリアウォーターにて年に1回観測される異常現象である。
6月半ば頃になると町一帯に雨が降り始め、6~18日間降り続ける。この雨は周辺地域の気象とは無関係であるように見えるという。
雨は最初の48時間は小雨であるが、次第に激しい雷雨へと移行しSCP-3300事象が終了するまで降り続く。
この最中に内部を探索する試みは成功しておらず、職員が装備ごと消息不明あるいは侵入した途端に町の反対側へ再出現するという結果に終わっていることから有人探査は現在中止されている。

雨が降っている間に何が起こるかというと、なんとクリアウォーターの住民たち全員が全く別の人物と入れ替わるという。
彼らは以前とは別の外見・人格・記憶を有しており、「来た」時の激しい雨については記憶しているもののそれ以前については何も話さない。
ただし、過去にいた住民の名前・職業・記憶・人格を断片的に共有している例も見られる。
彼らの肉体は一般的な人間のものと完全に同一であり、自分たちや町一帯の異常な性質には全く自覚していない。
ちなみにSCP-3300事象の最中に町を離れていた「住民」はいつの間にか消失してしまう。

1年で消え去ってしまうとはいえ彼らは普通の人間と同様に振舞うため、外へ移動したり外部の人間とコミュニケーションを取ったりもするのだが、外の人間はクリアウォーターの町やそこの住民たちのことについてほとんど気に留めない。
消えてしまった住民のことを忘れ去るわけではないようだが、他人から言及されない限りいなくなってしまったことには気が付かず、思い出したとしてもさして気にしない。
このことから町および住民には中程度の認識災害効果が存在すると考えられている。

特別収容プロトコル

クリアウォーターの町から5km離れた場所に移動観測所を設置し、異常性が領域外へ拡散しないよう監視する。
SCP-3300事象が始まったら観測チームは町の境界から10km離れた場所まで移動し観測を行う。
部外者が事象期間内に町へ侵入しようとした場合は非暴力的手段を用いて制止する。

クリアウォーターを離れようとする「住民」に対しては警察を装ってインタビューを行い、財団による監視を付けたうえで旅を続行することが許される。

前述の認識災害特性から町は半ばセルフ収容状態にあるため異常性が周囲に拡散する事例は起きていない模様。
ただし職員たちもSCP-3300のことを認識し続けるのが困難となるため、一週間ごとにクラスY記憶補強薬が処方されることになっている。

或る少女の日記

1995年6月30日に終了したSCP-3300事象の後、クリアウォーターの住民であった「マーガレット・レーン」という少女によって書かれた日記が見つかった。
そこには雨が降っている間に何が起きていたのかが克明に記録されていた。
前述の通り財団による事象発生中の探索は成功していないことから、現時点においてSCP-3300事象の内部を知る貴重な資料となっている。

ねぇ、もしカート・コバーンが日記を書いていたなら、これはそんなに悪いアイデアでも無いんじゃないかな? 私の芸術的な一面とかを表現する助けになるかも。遂に私が書きたかったものを全部書くことができる。と思う。ママは私が物事に“集中する”には良い方法かもしれないって言ってたけど、要するに私がやましい事してないかどうかを簡単にチェックできる手段が欲しかったわけだ。でももしこれを見つけ出せると思ってるならお慰みだね。それでも、何かを見直すのは良い事だと思う。もしかしたら、物事が上手く進んでることを私に思い出させてくれるかもしれない。

マーガレットはカート・コバーン*1のファンだったらしい。ミュージシャンに憧れていたのだろうか?
しかしこの人格も全ては前回のSCP-3300事象で生成されたものであり、次の事象で消え去る運命なのである。

近頃、マーガレットは不思議な夢を何度も見るという。
夢の中で、私は私じゃない。私は小さな小屋の中にいて、私の娘が横になっているベッドの前に立っている。娘の肌は赤くて、しみだらけで、熱い。私は、病気がこの子を連れていきませんように、この子が回復しますように、これが例の病魔とは違う別な病気でありますようにと祈っている。それが役に立たないと私は知っている。夫の死体のことを忘れられずにいる。

また別な日、自分のことをいっぱしの大人だと思っている一人の男の子が、私たちを一ヶ所に呼び集める。ごく僅かな生き残りを。私は部屋を見渡して、皆の顔に、私が心の中で感じているのと同じ感情を見る。男の子以外の、全員の顔に。私たちが入ると、男の子はニヤリと笑って、目の前にある水が入ったボウルを身振りで指す。
「見つけたんだ、」 男の子は言う。 「僕たちの救いの鍵を」

雨が3日間も降り続いていた。
電話は途切れ途切れで、ラジオによると一週間も降り続く見込みだという。
ちなみにこの時デイヴィッドが来たので冷たくあしらって追い払ったとのこと。元ボーイフレンドとかだろうか

そしてまた別の日、雨が急に激しくなってきた。
雨音に負けないよう大声で話すせいで喉が痛くなるほど。
インターネットと電話は完全に不通となり、ラジオは竜巻・洪水警報をひたすら流し続けている。
しかし一部の住民は太平洋を丸ごと頭にぶちまけているような大雨にも関わらず外を歩き回っているという。
マーガレットは「頭がイカレてるに違いない」と称しているが……

マーガレットが友人であるサム、ジャレッド、マイク、イザベルとともに自宅でTRPGに興じている*2時であった。
イザベルが誰かが玄関のドアを叩いていることに気が付いた。それはノックというよりもドアを叩き壊そうとするかのような荒々しいものだったという。
暖炉の火かき棒を掴んだジャレッドが確認しにいくと、玄関口には見しらぬ家族がいた。母親、父親、2人の子供の計4人。
そして父親がジャレッドを押しのけてこう言った。
「俺の家で何をしてるんだ?」

マーガレットの母親はそれを聞いてブチ切れ、
アンタの家ってのはどういう意味よ、トンマ? ここはアタシの家よ! アンタこそここに押し入って何のつもりよ?! いいこと、10秒でどっか行かないと警察呼ぶからね!
と罵った。

しかし相手の父親の表情は変わらず、ジャレッドの襟首を掴み上げたかと思うとリビング越しに台所に放り込んでしまった。
そしてまた繰り返す「俺の家で何をしてるんだ?」

マーガレットの母親はゴルフクラブを掴むと男の胸板に撃ち込んだ……が何故かクラブは男の胸に刺さったまま抜けない。
クラブが胸に刺さった場所はまるで石を投げ込まれた水面のように波打ち、水が滴り落ちていた。
男はクラブを引き抜くと、「俺の家、俺の家」と呟きながら腰を抜かし逃げようとするマーガレットの母親の頭を何度も打ち付けた。
見知らぬ一家の母親は子供たちを抱きしめながら微笑んでいたという。

サムは男に立ち向かおうとしたもののマイクに止められ、気を失ったジャレッドを抱えながらマーガレット、イザベルとともに車に乗り込んで逃げることにした。
マーガレットの母親はすでに動かなくなっていたという。

助けを求めて警察署まで車を走らせたものの、明かりはついているのに施錠され、中には誰もいなかった。
仕方なく車に戻るとジャレッドの意識は戻っておらず、呼吸が乱れていた。
明らかに様子がおかしいことからジャレッドを車で2時間ほどの病院まで連れていくことにした。

しかし6時間運転し続けても病院にはつかない。
来た道を2回引き返したものの道路標識も建物の明かりも何も見えず、別の車も一台も見かけない。
SCP-3300事象発生中は外部から侵入することが出来ないが、どうやら内部から外へ出ることも出来ないらしい。何らかの空間異常が発生しているのだろうか?
マイクはガス欠する前にクリアウォーターへ戻ろうと言い、イザベルは病院を探し続けることを強硬に主張。サムは運転し続けるつもりだと話していた。

そしてガソリンが尽き、その30分後にジャレッドが息を引き取った。
マイクとイザベルはそのことで口論を続け、サムは息絶えたジャレッドの手を握っている。
マーガレットはそれを尻目に恐怖を紛らわすため日記を描き続けていたが、いつの間にかウトウトとしてしまった。

マーガレットは前に見た夢の続きを見ていた。
彼女は既に息絶えた娘の亡骸を抱え、川の中に足首まで浸かり立っている。
娘の髪の毛は全て抜け落ち、肌は完全に黒いかさぶたに覆われるという無惨な有様だが、不思議とそれを見下ろすマーガレットは悲しみではなく希望を感じていた。
彼女は娘の亡骸を水に入れ、川はそれを飲み込み海へ…平和に眠れる場所へと運んでいく。
他の生存者たちも子供の、家族の、友達の死体を静かに川に流していく。
そしてマーガレットもまた彼女の夫の遺体を流すために振り返った。

ジャレッドが「気化」する音でマーガレットは目を覚ました。
車の中を蒸気が満たし、ジャレッドの肌の表面には泡が浮かび上がり弾けていた。
ジャレッドから飛び散った熱気は触れようとしたサムを押し戻した。
4人が見守る中、ジャレッドの遺体は蒸発しずぶ濡れの衣服だけが残った。

残った4人は動かない車を離れ、外を歩くことにした。
しかし1マイルも歩かないうちに“ようこそクリアウォーターへ”の看板を見つける。
あれだけ車で長時間走っていたにも関わらず町はすぐそこだったのだ。
高速道路から周りの農地へ降りていこうとしたが、畑の反対側でまた看板の前に戻っていることに気が付いた。町から出ることはやはり出来ないのだ。
マイクだけは町に戻りたくないと主張したものの、他3人が町へ歩き始めるとついてきた。
町には明かりがついていたものの、誰もいなかった。
4人はスポーツ用品店に隠れることにし、2人ずつ起きて見張りをすることに決める。
マーガレットはもう夢を見たくない思いから最初のシフトを志願した。

マイクが「すぐ戻ってくる」と言って場を離れた後、銃声が鳴り響いた。ショットガンを咥えて自殺したのだった。
しかしマイクの身体からは血が一滴も流れておらず、頭の後ろに空いた穴からは大量の水が流れ出ていた。
サムがマイクの身体に触れると水が湧き出し、最後は水溜りとなって消えた。
サムが置いてあったナイフを腕に押し当てると、傷口からこぼれたのはやはり水だった。

イザベルが外の異変に気付く。
窓の外には何百人もの見知らぬ人が微動だにせず立っていた。
待っているのだろう。前の住民が「帰っていく」のを。

サムは外へと出ていった。
外の人影は道を開けてサムを通し、彼女は闇の中へと消えていった。
「帰りたくない」という言葉を残して。

マーガレットは最後の夢を見る。彼女は嵐そのものだった。
周囲には人々の叫びが聞こえ、大地へと降り注ぎ、そして目覚める。
思い出したのだ…自分がどこから来たのか、自分が何なのか、そしてどこへ行くのか。
目覚めるとイザベルは既にいなくなっていた。床には水溜りが残されていた。

降り注ぐ雨が彼女を呼ぶ。

水は永遠だ。
水はどんなに汚染されても残り続ける。
最後には私たちはみんな雨になる。

帰りたくない。

日記はここで終わっている。
マーガレットもまた「帰っていった」のだろう。

考察

クリアウォーターの住民たちの正体は雨水である。
それは1年ごとに降り注いで人の形をとり、前の住民たちは再び雨水となり去っていく。
そして彼らの人格や記憶は混ざり合い、1年後に新しい存在として作られ、クリアウォーターの町へ帰っていく。
これがSCP-3300事象で起きていたことなのだ。

何故クリアウォーターの町はこのような不可思議な輪廻に囚われてしまったのか?
マーガレットの見た夢がそれを示唆している。
かつてのクリアウォーターの町で伝染病が蔓延し、多くの住民が命を落とした。
疲弊しきった住民たちはどこからか知った「救いのまじない」を行い、それは死者の魂を水に溶かし、新たな命を与えた。
しかしそれは雨とともに消える1年きりの仮初めの命だったのだ。

再び雨が降り始めるまでは住民たちは誰も自身の正体を知らず、平和に暮らしている。
これが本当に「救い」だったのか……それは誰にも分からない。

追記・修正は降りしきる雨の音とともにお願いします。

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最終更新:2026年10月22日 17:16

*1 アメリカの伝説的ロックスター。事象発生より1年前の1994年に亡くなっている

*2 大雨の中やってきたジャレッド曰く「聖書の大洪水みたいな些細な事ぐらいじゃ、俺たちが闇の死術師アルズガノスの領地の地下を探索するのは止められやしない」とのこと