イルニクス帝国貴族であるラファエル・ジオスタイン男爵が焼死体となって発見された事件
ジオスタインは高齢で、五年前に家督を長男に譲り、山奥の別荘に居を移した
友人や家族とも接触を断ち、執事であるホレーショと若いメイドのアシュリーに身の回りの世話を任せ、悠々自適の引退生活を送っていた
ある時、ジオスタインの息子の一家に問題が起こった
とある財産譲渡の書類に記されたジオスタインのサインが、偽造されたものである可能性が出てきたのだ
ジオスタインの息子とその嫁との間に、偽造である、いや真筆である、という言い争いが発生した
これはもうサインをしたジオスタイン当人に確認を取るしかないという結論に達し、息子夫婦と弁護士が近々訪ねていくと手紙を送った
別荘に手紙が届いた翌日、ラファエル・ジオスタインの黒焦げ死体がかまどの中で発見された
それは凄まじい火力で燃やされたらしく、ほぼ完全に骸骨と化しており、残った骨格も触れれば崩れるほどの灰に近くなっていたという
イルニクス警察当局はこれを殺人事件と断定、捜査を開始した
まず容疑をかけられたのはホレーショとアシュリーだったが、このふたりの疑いは早いうちに解けた
人一人の死体を骨になるまで焼くには、大量の薪をくべ続けて数時間以上焼く必要がある
事件が起きたと思われる時間帯に、ふたりは麓の街に買い物に出ており、何時間もかまどの前で火の番をする時間の余裕はないことがわかったのだ
執事たちの次に、ジオスタインの息子夫婦の確執が注目された。ジオスタインの証言によって書類の真贋が明らかになることを恐れた夫婦のどちらかが、口封じ殺人を試みたのではないかと考えられた
しかし夫婦にもアリバイがあった。息子は仕事で法務局に詰めていたし、嫁も複数の友人たちと地域バザーの相談をしていたことが確認された
容疑者たちにアリバイがあったことで、捜査は暗礁に乗り上げた……
事件から数日後、ジョイ・ヴァントルシーブ伯爵がジオスタイン家の別荘を訪れた
彼は亡きジオスタイン男爵の旧友であり、不慮の死を遂げた友人を悼むためにやって来たのだ
彼は事件現場となったかまどの前を訪れて、そこに花を手向けた時に、奇妙なことに気づいた
かまどの厚みと材質が、人一人を焼いて骨にするほどの高温に耐えられる作りには見えなかったのだ
何時間も薪をくべ続けて、大きな火を燃やし続けたなら、かまどの石材自体が溶けて崩れてしまったはずだと彼は断言した
ヴァントルシーブはイルニクス警察にそのことを話し、別荘周辺の土地の徹底した捜索をおこなわせた
その結果、別荘の裏手に異臭を漂わせる麻袋が埋められているのを発見し、ヴァントルシーブは事件の真相を看破した
犯人は、執事のホレーショとメイドのアシュリーだった
ジオスタインは、実はかまどで骨となって見つかるより何年も前に死んでいた
アシュリーが山で取ってきたキノコの中に猛毒のものが混ざっていて、それを使ったシチューを食べて毒死してしまったのだ
雇い主が亡くなれば、雇われている自分達は仕事を失うと判断した使用人たちは、主人の死体を麻袋に包んで土に埋めた
そして数年間、ジオスタインが生きているように装って暮らしていたのだが、このたび息子夫婦と弁護士がジオスタインに会うために訪ねてくることになり、生存を偽ることが不可能になった
そこで土の中からジオスタインの死体を掘り出した。地中に数年間埋められた死体は肉が全て腐り落ち、白骨化していた
その骨をかまどで焼いて灰にしたのである。死にたての肉体を焼くのは大変だが、肉のない骨だけならそれほどの火力も時間も必要なかったというわけだ
使用人たちは逮捕され、以上の流れを自白した
なお、息子夫婦の争いのもとになったサインの真贋は鑑定不可能になり、結局夫婦が亡くなるまで決着がつくことはなかったという
ジオスタインは高齢で、五年前に家督を長男に譲り、山奥の別荘に居を移した
友人や家族とも接触を断ち、執事であるホレーショと若いメイドのアシュリーに身の回りの世話を任せ、悠々自適の引退生活を送っていた
ある時、ジオスタインの息子の一家に問題が起こった
とある財産譲渡の書類に記されたジオスタインのサインが、偽造されたものである可能性が出てきたのだ
ジオスタインの息子とその嫁との間に、偽造である、いや真筆である、という言い争いが発生した
これはもうサインをしたジオスタイン当人に確認を取るしかないという結論に達し、息子夫婦と弁護士が近々訪ねていくと手紙を送った
別荘に手紙が届いた翌日、ラファエル・ジオスタインの黒焦げ死体がかまどの中で発見された
それは凄まじい火力で燃やされたらしく、ほぼ完全に骸骨と化しており、残った骨格も触れれば崩れるほどの灰に近くなっていたという
イルニクス警察当局はこれを殺人事件と断定、捜査を開始した
まず容疑をかけられたのはホレーショとアシュリーだったが、このふたりの疑いは早いうちに解けた
人一人の死体を骨になるまで焼くには、大量の薪をくべ続けて数時間以上焼く必要がある
事件が起きたと思われる時間帯に、ふたりは麓の街に買い物に出ており、何時間もかまどの前で火の番をする時間の余裕はないことがわかったのだ
執事たちの次に、ジオスタインの息子夫婦の確執が注目された。ジオスタインの証言によって書類の真贋が明らかになることを恐れた夫婦のどちらかが、口封じ殺人を試みたのではないかと考えられた
しかし夫婦にもアリバイがあった。息子は仕事で法務局に詰めていたし、嫁も複数の友人たちと地域バザーの相談をしていたことが確認された
容疑者たちにアリバイがあったことで、捜査は暗礁に乗り上げた……
事件から数日後、ジョイ・ヴァントルシーブ伯爵がジオスタイン家の別荘を訪れた
彼は亡きジオスタイン男爵の旧友であり、不慮の死を遂げた友人を悼むためにやって来たのだ
彼は事件現場となったかまどの前を訪れて、そこに花を手向けた時に、奇妙なことに気づいた
かまどの厚みと材質が、人一人を焼いて骨にするほどの高温に耐えられる作りには見えなかったのだ
何時間も薪をくべ続けて、大きな火を燃やし続けたなら、かまどの石材自体が溶けて崩れてしまったはずだと彼は断言した
ヴァントルシーブはイルニクス警察にそのことを話し、別荘周辺の土地の徹底した捜索をおこなわせた
その結果、別荘の裏手に異臭を漂わせる麻袋が埋められているのを発見し、ヴァントルシーブは事件の真相を看破した
犯人は、執事のホレーショとメイドのアシュリーだった
ジオスタインは、実はかまどで骨となって見つかるより何年も前に死んでいた
アシュリーが山で取ってきたキノコの中に猛毒のものが混ざっていて、それを使ったシチューを食べて毒死してしまったのだ
雇い主が亡くなれば、雇われている自分達は仕事を失うと判断した使用人たちは、主人の死体を麻袋に包んで土に埋めた
そして数年間、ジオスタインが生きているように装って暮らしていたのだが、このたび息子夫婦と弁護士がジオスタインに会うために訪ねてくることになり、生存を偽ることが不可能になった
そこで土の中からジオスタインの死体を掘り出した。地中に数年間埋められた死体は肉が全て腐り落ち、白骨化していた
その骨をかまどで焼いて灰にしたのである。死にたての肉体を焼くのは大変だが、肉のない骨だけならそれほどの火力も時間も必要なかったというわけだ
使用人たちは逮捕され、以上の流れを自白した
なお、息子夫婦の争いのもとになったサインの真贋は鑑定不可能になり、結局夫婦が亡くなるまで決着がつくことはなかったという