電話の向こうの声は、開口一番そう言った。
一瞬の驚き。だがすぐに、去来した納得がそれを塗り潰す。
自分が唯一落とせなかった芸能事務所。
そこに這う、得体の知れない気配――その主が平凡という方がかえって不気味だ。
「そういうアンタは綿貫さんかい? 光栄だな、天下のしらすエンターテインメントの代表取締役殿に認知されてるとは。俺もでかくなったもんだ」
情報が追えないだけなら予想の範囲内。
むしろ当たりを引いたと言ってもいい。
少なくともそこには介入を察知し、拒める誰かがいる。それが分かったなら後は本格的に仕事の時間と洒落込むだけだから。
だが。
『見くびってもらっては困るな、君が東京に入った情報は随分前から感知していたよ。
私は君に比べれば非才の身だがね、情報網だけは良いものを持っているんだ』
引き出した情報がことごとく、人を小馬鹿にしたように歪曲されていたとなれば話は別だ。
自分の人形と使い魔を壊し、狂わせ、挑発じみた返しを送り付けてくる何者か。
謀略戦は臨むところだ。その分野でなら時計塔のロードや上級死徒にだって引けを取らない自信がある。
にもかかわらずノクトが二の足を踏んだ理由は、強いて言うなら"本能的な警戒"。
『例えば、君が"二周目"であることも既に知っている。
君の手管は厄介だからな。いずれこっちから会いに行こうと思っていたので、正直手間が省けたよ』
臆病は美徳だ。
力のない人間が鉄火場を渡り歩く上で、これ以上の才能はない。
それがまた、こうして証明される。
得体の知れない怪物は当然のようにすべてを知っていた。
自分の名はおろか、この聖杯戦争における立ち位置までも。
であれば恐らく彼は、その情報が値千金の価値を持つことも分かっているのだろう。
そして無論。都市の中核たる、あの白い少女のことも。
『それで? 何用かな、はじまりの狂人。
君のことだ、私にこうして進んで関わろうとすることのリスクは承知しているね。
それとも幻想種(おとくいさま)の庇護が利く今ならば……と思ったかな? 夜の女王は寛大らしい。家名に泥を塗った魔術使いの野良犬にさえ、変わらぬ寵愛を下さるとは』
「ハッ、あの化け物どもにそんなお優しい心なんざあるかよ。
大事なのは契約を正しく履行することだ。それさえ抜かりなくこなしてりゃ、別に文句は言われないさ」
所詮電話越し。
されど、一瞬の油断も許されはしない。
怪物と関わる時はいつだって緊張するが、今感じているのは完全にそれと同じだった。
ノクトは現時点でもう既に、通話の向こうの相手を同じ人間と思うことをやめている。
可能なら取引(ディール)でさえ関わりたくはない相手。
だからこそ彼は慎重を期し、機会を先延ばしにし続けてきた。
そんな男が、決戦を控えた今このタイミングで、わざわざ破滅と隣り合わせの勝負に臨んだ理由。
――――ノクト・サムスタンプは、『夜の女王』と契約を結んでいる。
「で、用件か。
そうだな、その前にひとつ無駄話に付き合って貰ってもいいかい」
夜を見通す力。
夜に溶け込む力。
夜に鋭く動く力。
これら三種を統合し、『夜に親しむ力』と呼称する。
現在時刻は二十二時を回っている。
夜は深まり、陽光の兆しなぞとうにない。
であれば、それは。
「率直な疑問なんだが――――アンタ本当に、綿貫齋木なんて人間か?」
夜の虎、非情の数式。
そう呼ばれた傭兵の、独壇場(キリングフィールド)である。
◇◇
激烈なまでの存在感を放って、老人はレミュリンの眼前に座っていた。
長い白髪が目についたが、逆に言えばそれ以外に老いぼれらしい部分はひとつもない。
灰一色のスーツとコート越しにも分かる、鍛え抜いたラガーマンを思わす筋骨隆々の肉体。
この男を前にして衰えの二文字を想起する者がいるとしたら、それは其奴の眼が衰えているのだと言わざるを得まい。
――おじいちゃんって言ってなかったっけ……?
それが、彼を見たレミュリンがいの一番に抱いた感想だった。
絵里の話では相当な高齢ということだったが、目の前で話す男はどう見ても五十~六十代にしか見えない。
白髪さえなければ"老人"と言われても疑問符が付くかもしれない。そのくらい、強壮なバイタリティに溢れた男であった。
大規模な戦闘が行われたばかりの港区を横断するのは心配だったが、あの後は幸い何事もなく目的地まで辿り着くことができた。
レミュリン・ウェルブレイシス・スタールの現在地は蛇杖堂記念病院。
〈蝗害〉の襲撃を受けたことで、夜も深まった今でさえ医師や看護師が忙しなく動き回っている。
そんな状況でも、受付で一言『ジャック院長の親戚です』と伝えると慌てた様子ですぐに通してもらえた。
今、レミュリンがいるのは記念病院の院長室。
客人用の座椅子に座らされて、少女は〈はじまり〉を知る暴君と対面していた。
「スタール夫妻の忘れ形見か。随分と貧相なナリだが、困窮でもしているのか?」
「……えっ」
名乗る前から言い当てられて、思わずびっくりしてしまう。
名前のことではない。"スタール夫妻の忘れ形見"と、寂句は言ったのだ。
つまり彼は自分が家族を失い、ひとり残された身の上であるのまで知っているということになる。
咄嗟に絵里の方を見るが、彼女も戸惑ったような顔をしていた。
「絵里さん、受付でそこまで言ってた……?」
「言ってません言ってません! 流石に私とレミーちゃんの名前くらいは伝えましたけど、それ以上は――」
「何をコソコソやっている。私の下へ乗り込んでくる胆力があるのなら、せめて虚勢くらい張り通してみせろ。まったく……」
ひそひそと相談し合うふたりに、寂句は呆れたように溜息を吐く。
彼はレミュリンから視線を移し、絵里の方を見た。
「……どいつもこいつも、実に見下げた無能どもだ。忙しい中わざわざ時間を割いてやった厚遇に精々感謝するのだな」
「は、はい……! えと、それについては本当にありがたいと思ってます……っ」
傲慢さを隠そうともしない、威圧感たっぷりの物言い。
レミュリンは思わず気圧されて、ぺこぺこ頭を下げた。
相手が年長者とはいえ、本来なら初対面で無能呼ばわりされたことに怒るべき場面なのだろうが、レミュリンにその度胸はなかった。
寂句の言葉と、彼が絵里に向けた視線の意味を真に理解することないまま、恐縮した様子で寂句に遜る。
(レミュリン)
(……大丈夫。ちょっと緊張してるけど、頑張るよ)
(そっか、ならいい。
いざとなれば俺がこの身に代えても君達を守ってやる。
大船に乗ったつもりで、聞きたいこと全部どーんとぶち撒けちまいな)
(うん、ランサー。……ありがとね、頼りにしてる)
レミュリンも必死だ。何せ相手はやっとの思いで掴んだ情報源。
赤坂亜切の人となりを知る人物なのだ。
それを除いてもこの男はただの老人ではない。あの白神と共に〈はじまりの聖杯戦争〉を囲んだ、始原の六人。そのひとり。
不興を買って蹴り出されるならまだ穏当。最悪、この場で戦闘に発展する可能性すら優にあり得る相手。
そうなれば自分ひとりの不利益じゃ済まない。善意で此処まで付き合ってくれた絵里の身にまで危険が及びかねない。
だから兎にも角にも、目の前のいかにも気難しそうな老人を刺激しないことに全力を注ぐ。
そんなレミュリンの健気な姿をつまらなそうに見つめ、寂句はふんと鼻を鳴らした。
「それで、あの……」
「いい。時間の無駄だ」
「――えっ、いや」
「スタールの遺児が遥々訪ねてきた時点で想像は付く。
大方、燃やされた家族の仇について聞きたいというところだろう?
さっきも言ったが、私は多忙なのだ。貴様の糞にもならん身の上話に付き合う気はない」
想定していた段取りが崩壊する。
レミュリンは、
蛇杖堂寂句という男の聡明を侮っていた。
いや、この場合に限っては――博識を、と言うべきだろうか。
「根拠なく私に辿り着いたとは考え難い。
葬儀屋・赤坂亜切――その名前はもう探り当てているな?」
「……ええ。そうです、ドクター・ジャクク」
「相手の善意に期待して敵陣に乗り込むなど無能の極みだが……運が良かったな。
私はこれから大きな仕事を控えている。その前に無益な争いで消耗する気はない」
蛇杖堂寂句もまた狂人である。それは先に述べた通り。
が、彼は件のアギリや、レミュリンが数時間前に会敵した"蝗害の魔女"に比べれば幾らか理性的だ。
寂句の狂気はただひとつの太陽にのみ向けられていて、彼ら特有の宿痾を刺激しない限りは多少話が通じる。
暴君との戦闘という最悪の展開を避けられたことは、レミュリン達にとって間違いなく幸運だったと言えるだろう。
「して貴様、奴の何を知りたいというのだ?」
胸を撫で下ろしかけるが、無論、まだ安心するような局面ではない。
本題は此処からなのだ。幾つかの幸運と寂句の寛大に助けられてようやくスタートラインに立てた形。
気を緩めるな。頭を回し続けろ。自分に言い聞かせながら――レミュリンは、口を開いた。
「ドクター・ジャクク。あなたは、アギリ・アカサカとしのぎを削ったって聞いてる」
「……、……」
「あなたの口から、彼の話を聞きたい。内容は何でもいいけど、できるだけ多く」
「見かけによらず贅沢な童だ。あんな異常者の人となりなど、知ったところで毒にしかならんというのにな」
贅沢にもなる。この機を逃すわけには絶対にいかないのだから。
聖杯戦争はこうしている今も進んでいる。港区で起きたようなことが、今後自分達の身に降りかからない保証はどこにもない。
すべての出会いが一期一会。ひとつでも疎かにすれば家族の仇に対面することも、あの日の真相を知ることもできないまま終わってしまうかもしれない。
その最悪を避けるためなら、レミュリンはどれだけだって欲張る気だった。
まして今目の前にいるのはかの葬儀屋と命を懸けて殺し合い、彼を深く理解しているだろう男である。
そして寂句は、いじらしい少女の願いを受けて――
「赤坂亜切。元・職業暗殺者。通称は葬儀屋。魔術師としては非才の部類だが、凶悪な魔眼を有する発火能力者(パイロキネシスト)」
「………っ」
「元は強烈な眼光束を用いて標的を直接発火させる代物だったが、既に奴の魔眼は故障している。
以前ほどの必殺性はないものの、代わりに攻撃範囲と奴自身の戦闘能力に大幅な向上が見られた。
人格もまた然り。完全に破綻している。
神寂祓葉という女については知っているな? 奴は其奴の虜だ。もし顔を合わせる機会があったなら、その話題は徹底的に避けるべきだな。家族の後を追いたいのなら止めはしないが」
「……、……」
「――メモを取らなくていいのか? 後で聞き返しても私は答えんぞ、無能が。そこまで面倒を見る義理はない」
「あっ。あ、はい……! ちょ、ちょっと待ってくださいね……あれ、うあ、どこにしまったっけ、わたし……!」
矢継ぎ早。立て板に水。
そう呼ぶに相応しい速度で捲し立てられる情報の洪水に、レミュリンは完全に圧倒されてしまっていた。
あたふたと慌ててメモ帳(此処に来る道中コンビニで調達)を取り出し、急ぎ乱れた筆致で聞いた内容を記録していく。
「レミーちゃん、書記はわたしがやっときますから。今は先生とのお話に集中してください」
「……ごめんなさい。お願いしてもいいですか、絵里さん」
「もちろん! ……あっ、でもわたし字汚いので……、読みにくかったらごめんなさいね?」
見かねた絵里が進言してくれたので、レミュリンはお言葉に甘えて彼女に記録を任せることにした。
寂句はそんなふたりの様子を、心底馬鹿馬鹿しいものを見るような目で見つめている。
レミュリンが「……失礼しました。続けてください」と言うと、彼はもう一度溜息をついてから、話を再開。
「現在のサーヴァントは真名『
スカディ』。北欧神話に綴られた狩猟女神だ。
戦闘能力も脅威だが……スカディには、父スィアチの両眼を天に奉じさせた逸話が存在する。
先ほどの交戦では看破できなかったが、天からの射撃宝具か――ないしは地上監視宝具のようなものを所持していても不思議ではないな」
それは既に聞いていた情報ではあったが、物言いが可怪しい。
何故
雪村鉄志が実際に会敵して得た情報を、この男がもう知っているのか?
「現在、って――戦ったんですか。今の、彼と」
「痛み分けに終わったがな。これが証拠だ」
灰色のコートの袖口を捲り上げる、寂句。
曝された右腕には、無残な火傷が痛ましく残っていた。
思わずレミュリンは息を呑む。
まだ蛇杖堂寂句という男と対面して数分しか経過していないが、それでも彼が類稀な才覚を有した人間であることは伝わった。
そんな寂句でさえもが、これほどの手傷を負わされる相手。
自分がどこかで家族の仇、葬儀屋と呼ばれた魔人を甘く見ていたことを思い知らされる。
「額面上の情報はこんなところだろう。他に聞きたいことは?」
「……ドクター・ジャククの眼から見て、アギリ・アカサカはどんな人間だった?」
「先も述べた通り、破綻者だ。異常者とも言い換えられるが、まあ大意は変わらん。
あの男は既に救いようなく捩れ果てている。付ける薬がないとはまさにあのことだ。
もし有意義な対話など期待しているのなら諦めろ。奴にそれを求めることは、獣相手に議論を吹っ掛けるようなものだからな」
――狂人。そんな言葉が、改めて脳裏をよぎる。
同時にレミュリンは、もうひとつ思い知った。
家族の仇、赤坂亜切。
彼と実際に対峙したその時、"話ができる"とそう思い込んでいた浅はかな認識。
それがどうしようもなく幼稚な希望的観測だったことを、寂句の言葉を受け痛感した。
「前回の奴は、どちらかと言えば虚無的な側面の目立つ男だったのだがな。
祓葉に出会ったのが運の尽きだ。その正気はすべて、白光の前に焼き尽くされて消えたらしい。
奴の中に人間味のようなものが一欠片残っていたとして、それを引き出せるのは事の当人以外にはあり得まい。
少なくとも貴様でないのは確かだろう。レミュリン・ウェルブレイシス・スタール」
「そう……、……ですか」
虚無感と喪失感。
ふたつのむなしさが、心の中を満たす。
そんなレミュリンのことなど一顧だにせず、寂句は話を結んだ。
「話は終わりだ。これ以上、私が奴について知っていることはない」
「分かった……ありがとう。忙しい中、わざわざお話をしてくれて」
「用が済んだならさっさと帰れ。私の気が変わらない内にな」
想像していたよりもずっとあっさり終わったが、聞きたいことはすべて聞けた。
赤坂亜切の情報と、その人となり。
寂句が語るそれには、レミュリンを納得させるだけの説得力があった。
「奴へコンタクトを取る手段はないか、などとは聞くなよ。
私とあの男は互いに不倶戴天。穏当な関係など万にひとつもあり得ん間柄だ」
アギリのもとまで辿り着く足がかりを貰えないかという期待を先読みしたように寂句が釘を刺す。
こうなると、これ以上この場所に長居する理由はなかった。
の、だが――
「……あの、ドクター・ジャクク」
「まだ何かあるのか?」
もうひとつ、レミュリンには聞きたいことがあった。
赤坂亜切の話とは違う。此処に来て、彼と対面してから込み上げた疑問だ。
しかし今聞かねばならないと、それこそこの機を逃してはならないと、自分の魂はそう叫んでいる。
だからこそレミュリンは、わずかな逡巡の後に口を開いた。
聞きたい欲求。そしてそれと相反する、"聞けば取り返しのつかないことになる"という奇妙な予感のせめぎ合いが生み出した一瞬(せつな)。
知りたい気持ちが、不穏に勝った。
「あなたは……わたしの家族のことを、知ってるの?」
受付で絵里が言ったのは、レミュリン・ウェルブレイシス・スタールという名前だけだ。
なのに寂句は、自分のことを"スタール夫妻の忘れ形見"と呼んだ。
その一握の不可解に今更ながら問いを投げる。
それを受けた寂句は、はじめてわずかに黙った。
そして。
「スタールは名門だ。歴史も長く、その道では有力者の一角に数えられる。
私の分野とは異なるが、……古い知り合いにうんざりするほど絡まれたことがあってな。その兼ね合いで少し調べた」
男は、話し始める。
ある女から聞いた、ある家の話を。
「知りたいのか」
言われて、レミュリンは予感の意味を理解する。
これは、自分にとってのパンドラの箱だ。
頭じゃ分かっているのに見ないふりをしてきたこと。
だって思い出は、綺麗なままの方が嬉しいから。
あの日消えてしまった家族の笑顔を、せめて記憶の中でだけは美しいままにしておきたかったから。
けれどそれは、真実を求める姿勢とは真逆の逃避行動だ。
夢を見続けるか。現実に目を向けるか。
レミュリンが選んだのは、後者だった。
「……うん。教えて、ドクター・ジャクク」
斯くして閉じられ、伏せられ、燃やされたアルバムは開かれる。
灰になったスタールの魔術師達が思い描いた理想(ユメ)の片鱗。
ある一条の光を通じ、暴君と呼ばれる男の知るところとなった誰かの悲願。
――――時を超える炎を求めた人々の、愚かな憧憬。
◇◇
冴え渡る頭脳が、記憶の海に溶けた断片的情報を直ちに整理し繋ぎ合わせていく。
"夜に鋭く動く力"とは、何も肉体的なものだけを指すのではない。
脳を動かす――つまり、思考速度の向上にも極めて大きな影響を与える。
平時でさえ誰もに警戒を強いる策謀家が。
半ば人智を超えた域まで強化された頭脳を携えて、闇に紛れながらやって来るのだ。
夜のノクトはまさしく鬼人。その推理は名探偵のようにバラバラのピースをかき集め、怪物の輪郭を暴き立てる。
「スタールという家名を知ってるか」
『さて。どうだったかな』
"綿貫齋木"の答えを無視して、ノクトは続ける。
その口はいつにもまして淀みなく動く。
「アンタも知るように、俺は前回の聖杯戦争に列席した経験者なわけだが――参戦にあたり、もちろん競合相手のことはひと通り調べたんだ。
中でもひときわ警戒していたのがある殺し屋の男。葬儀屋・赤坂亜切」
危険度で言えば蛇杖堂や、大勢力を擁するガーンドレッド家も大概だったが。
カタログスペックで見た場合、やはり赤坂亜切は群を抜いて恐ろしい存在だった。
何しろ原則、一度見られればそれで終わりなのだ。
警戒を怠ってうっかり遭遇でもしてしまったら目も当てられない。
故にノクトは、徹底的に調査を重ねた。
彼の出自、手口、後ろ盾。そして、過去に行った"仕事"の実績までもを。
「こいつがまた実にタチの悪い仕事人でよ、調べれば調べるほど戦慄したよ。
相手の身体そのものを火種にして燃やしちまうから、後には一切証拠が残らないんだと。
手口が手口だから野郎の犯行だってこと自体は分かるんだけどな、じゃあ何故それが派遣されたのかって経緯に関しては、状況証拠から推測するしかないんだ。依頼する側からすりゃ、こんなに都合のいいことはねえよな」
――そこで見つけた。
「スタール家暗殺事件。魔術師の夫婦と、その後を継ぐ筈だった長女。生き残ったのは当日不在だった次女ひとり。
俺がそいつらの件を記憶に残してたのは、この事件だけ、どうやっても納得の行く"推測"が立てられなかったからだ」
証拠が残らないと言っても、被害者の人間関係や背景情報を漁れば推測だけは立てられる。
実際、ノクトが漁った事件の被害者たちは、概ね何かキナ臭い背景や目に見えて分かる恨みを抱えていた。
過去の恨み、権力闘争。そうした諸々の理由のもと、灰と化したのだろうケースがほとんどな中で。
スタール家の事件は異質だった。調べれば調べるほど、突き止めれば突き止めるほど、ホワイダニットがぼやけていく。
「調べる中、日本のヤクザ者の名前が出てきたときは流石に頭を抱えたよ。
しかもそいつが、暗殺者養成組織の経営をシノギにしてたって話まで出てくるじゃないか。
もう情報の大渋滞って感じだった。何もかもがチグハグで線が通らない。こうなると、俺みたいな人間は弱くてな」
推理を深めていけば、そこに浮かび上がるべきはヒトガタのシルエットである筈。
なのにどんどんその輪郭が歪んでいく。腕がない。足がない。身体が長い。奇妙な流線型を描いている。
何か、いる。そう思った。情報という藪の中に隠れ潜んだ、得体の知れない何者かの存在を、確かにノクトは幻視した。
「結局匙を投げたよ。別に探偵の真似事がしたいわけじゃねえからな。
世の中いろんな奴がいるもんだって折り合いを付けて、それで終わりだ。
けどアンタの会社に人形を送って、得体の知れない現象に直面した時、何故かあの時のことを鮮明に思い出した」
『何を言うかと思えば……とんだこじつけだな。策謀を究めるのは結構だが、考えすぎるのは身体に毒だよ』
「ジェームズ・アルトライズ・スタール」
通話越しにも分かる、意味の違う沈黙が流れた。
ノクトが牙を剥き出す。
獲物を見つけた虎のような、そんな顔だった。
「どうした? 俺はただ、話の続きをしようとしただけだぜ」
『……、……』
「まあいい。引き続き無駄話に付き合ってくれよ」
まるで、チェスの名人が勝利を確信して手を重ねるように。
ノクトの言葉が、顔も知らない誰かの足取りを克明に暴き出していく。
「ウェルブレイシスの名を冠してない辺り、殺されたスタール夫妻とは遠縁だったんだろうな。
残された次女の後見人を買って出て、あれこれ支援してやってたらしい。泣かせる話だよ」
『それで?』
「しかしジェームズ氏の脛には傷がある。
というか疑惑だな。こいつは冬木の聖杯戦争が終結した後、かの地に入った魔術師のひとりなんだが。
その折に調査を笠に着て、触媒に使われたとある物体を盗み出したんじゃないか……って疑惑だよ」
冬木の聖杯戦争。
過去の運命。まだ白い神が生まれていない時代に起こった、第五次の戦い。
未だに全貌は明らかにされてはいないものの、"あった"こと自体は魔術を齧った者ならば誰もが知っていると言っていい。
「御三家の一角が死蔵してた、"この世で最初に脱皮した蛇の抜け殻の化石"。
これを盗み出したって疑惑がジェームズ氏にはあった、らしい。俺もツテを辿って聞いた話だから、真偽の程は断言できないけどな」
『匙を投げたのではなかったかな?』
「おいおい、出すカードの順番を選ぶのは当然だろ?
此処までは、スタール家暗殺の黒幕を突き止める道中で調べ終えてたよ。
そして順番を選んだ甲斐はあったみたいだな。声のトーンが少し、ほんの少しだけど変わってるぜ。綿貫さん」
後ろ暗い疑惑の付きまとう男は、スタールの末席を汚していて。
ウェルブレイシスの名を冠する本家筋の血族は、ひとりを残して抹消された。
不穏と猥雑を極めた混沌が、嚇炎の中に消えた魔術師達の周りに集約されている。
これが推理小説の告発劇なら落第点。
されども。ノクトは探偵ではなく、傭兵だ。
かの"魔術師殺し"にさえ通ずるもののある――非情の数式。
その証拠に、彼が抱いている確信の材料はかき集めた証拠だけでは終わらない。
夜のノクトは魔人。暗闇に潜んで躍動する虎柄の獣。
「アンタ今、誰かと一緒にいるな?」
彼を単なる策謀家と侮った者の末路は、常に共通している。
「電話口から環境音が一切聞こえない。
完全なる無音だ。あらゆる音の消えた凪の中で、アンタの声だけが響いてる。
サーヴァントと念話してる時に近いな。頭の中に直接声だけが流れ込んでくるあの感じ。
防音室の中にいるとか興醒めな言い訳するのは止してくれよ? 怪物にも怪物なりに、プライドのひとつふたつはあるだろう」
夜に親しむ――夜を聞き分ける。
超強化されたノクトの聴力ならば、通話越しに相手の遥か後方で行われた会話の内容を聞き分けることさえ造作もない。
その彼が太鼓判を押す"完全なる無音"。
綿貫齋木を名乗る得体の知れない男の声だけが聞こえ続ける空間。
言うまでもなく、これは異常なことだった。衣擦れや家鳴りの音すら聞こえない場所など、仮にノクトの言うような防音室を用意したって簡単には実現できないだろう。
何らかの異常な手段を使って、この通話は発信されている。
では何故、そうする必要があるのか。
如何に情報痛とはいえ、ノクト・サムスタンプが夜の女王から得る恩恵の仔細まで把握しているわけでもあるまいに、何故そうまで徹底することを選んだのか?
夜の虎は、こう考えた。
内容はもちろん、誰かと話しているという事実すら知られたくない"同行者"。
そんな他者と、この綿貫某は――そう名乗るナニカは共に行動している。恐らくは"綿貫齋木"ではない顔と名前で。
「……ま。ひと通り格好つけてはみたが、流石にそれが誰かまでは分からねえから安心しな。
挨拶としてはこのくらいでいいか? これだけやってみせれば、アンタに俺の価値って奴は示せたと思うんだが」
ひとしきり推理を披露し終えたところで、ノクトはあっけらかんと笑ってみせた。
実際、確証が持てているのは此処までだ。
これ以上は情報が不足しすぎている。推測を通り越して、ただの山勘で物を言うことになる。
だから、その続きは言わなかった。
――――アンタ、今、スタールの忘れ形見と一緒にいるんじゃないか?
その言葉は伏せた。
策謀で戦うのなら、一番避けるべきは憶測で空回りすることだ。
今開示できる限りの手札で価値を示し、不敵ぶった相手の輪郭を可能な限りで暴き立てる。
そこまでやって、ノクトにとってはようやく"ご挨拶"。
鬼が出るか、蛇が出るか。それとも仏か。
ノクトの鼓膜を揺らしたのは、実に愉快げな笑い声であった。
『うん、やられたね。そこまで優秀だとは思わなかったよ、ノクト・サムスタンプ』
声色が違う。
比喩ではなく、本当に別人の声が流れてきた。
強化された聴力が、完全に違う人間の声紋であるという分析結果を叩き出す。
ノクトの推測は正しい。綿貫齋木。そんな人間、最初からこの世のどこにもいない。
『偽りの名で欺いた非礼を詫びよう。
綿貫齋木は世を忍ぶ仮の名、そのひとつ。
"僕"の本当の名前は――――』
さあ、来たぞ。
てめえの顔(ツラ)を見せてみろ。
ノクトは、夜の隣人たる彼はほくそ笑み。
続く言葉を待って、そして……
『――――
神寂縁という。姪と仲良くしてくれてありがとうね、ノクト君』
描いていた算段も、悪巧みも。
その何もかもが、ただ一言で粉々に消し飛ばされた。
◇◇
「根源への到達。それはすべての魔術師にとっての悲願であり、誰もが到達する絶望のカタチだ」
蛇杖堂寂句は言う。
レミュリンは、静かにそれを聞く。
「その道程はあまりに長く、遠い。蓄えた知識も極めた魔術も、描いた未来のヴィジョンさえも、多くは子々孫々に託して果てることになる。
よしんば当代で成し遂げられる好機を得たとして、歓喜のままに進んだ先には抑止力という最大最凶の障壁が待ち受ける。
それでも魔術師という生き物は、そう成った時点で彼方の根源を目指さずにはいられない。愚かだが、そういう習性なのだ」
講義(じゅぎょう)のようだと、レミュリンは思った。
熟練の講師を思わせるほど堂に入った語り口、佇まい。
「聖杯戦争の現在の様式を確立した冬木の戦いもまた、初志はそこにあったとされている。
目指す手段は文字通り千差万別。正誤はさておき、家の数だけアプローチの手段があると言っても大袈裟ではない。
そしてその中には、この世において最も普遍なる森羅(げんしょう)――"時間"に目を付けた者がいた」
なまじそうであるからこそ、これから語られるのが自分の家の話であることをともすれば忘れそうになる。
「ある魔術師を例に挙げよう。
その男は、自らの固有結界の内側で流れる時間を操作することに長けた魔術師だった。
彼はそこから発想を飛躍させる。己が魔術の要領を転用し、時間を無限に加速させようと目論んだ。
そうすれば理論上は、宇宙の終焉すら生きたまま観測することができる。これを以って根源へ到達できるのだと、男は信じた」
話のスケールに、頭がくらくらしてくる。
亡き姉は、こんなものと向き合いながら暮らしていたのか。
そう考えると頭が下がる。ただの生まれた順番が、ふたりをこうまで隔てていたのかと、そう思った。
「だが無能は無能を呼ぶ。
男は欺瞞で表舞台を追われ、舞台の端でつまらない死を遂げた。培った魔術と理論は遺失し、今はその思想が遺るのみだ。
されど時を手段に据えたのは彼だけではない。彼と似て非なるものながら、根本的には同一の考え方で、根源へ迫ろうとした者がいた」
「――――それが」
「そう。貴様の両親だ、レミュリン・ウェルブレイシス・スタール。
私が推測するに、貴様の親が目指した到達手段は『燃焼時計』。生まれた燃え滓の量で時間を観測するやり方だ」
衛宮矩賢は失敗した。
彼の研究は遺失したが、志を同じくする者は残っていた。
そのひとりもとい一家こそ、スタール家。
そしてレミュリンとその姉ジュリンを設け、十数年後に灰と消えた夫婦である。
「炎と、それを燃焼させる触媒を用いることでの時間加速。
衛宮のように停滞までは得手としない代わりに、火力と加速を両立させる優れた魔術であったと聞いている」
もちろん、レミュリンはそれを知らなかった。
だって彼女は"次女"だ。
魔術とは関係のない世界で、安穏と育ってきた。
なまじ姉が優秀だったから、スペアとして調整されることもなく済んだ。
そこにあったのが徹頭徹尾ただの合理だったのか、それとも親の情というやつだったのか、それを知る術はもはやない。
「が、アプローチの手法はやはり衛宮に限りなく近い。
奴の理想を正当に後継できる者は魔術界広しと言えども、まさしくスタールの魔術師だけであったろうな。
私に言わせれば疑義の余地は多分にあるが……、赤坂の介入さえなければ正否を占う時は間近だったものと推察できる」
心臓の鼓動が、やけに大きく聞こえる。
この先を聞いてはならない。
本能がそう告げているのが分かった。
「体内時計という言葉は知っているな?」
……どくん。どくん。
判断を急かすような鼓動。
それでも、頷く。
頷くしかない。
「ヒトの体内にも時計はある。衛宮矩賢が着眼したのがこれだ。
正確性に悖るのは難点だが、それは外的処置で幾らでも穴埋めが利く」
どくん――。
ひときわ激しい鼓動に、胸が鈍く痛んだ。
「されど計測に燃焼を用いるからには、時を記録するための燃え滓が必要だ。
しかしこれについては容易い。ヒトは命ある限り無限に成長し、無限に考え、無限に行動する生物である。
無論、定命の生物である時点で真の意味で無限とはとても言えないが――今ある細胞のすべて、成長過程で新たに生まれる細胞のすべて。その他体内で生じる信号を始めとしたあらゆる要素を有意数として数えるのならば、それはもはや事実上の無限数だ。
要素ひとつを一秒とするならば、延命に延命を重ねて限界寿命まで生きるのを前提とするならば、記録される数値(びょうすう)は宇宙の終焉にも届き得るだろう」
今すぐにでもこの場を逃げ出せと、内なる己が言っている。
「改良や軌道修正はあったろうが、この思想自体は私の調べた限り、スタールの初代から連綿と受け継がれてきたものだ。
すなわち初代(ウェルブレイシス)。私が貴様の家について知ったのは他人伝手だが、この名に関しては別でな。
学ある魔術師ならば誰もが一度は耳にし、思いを馳せたことのあるだろう先駆者。そして歴史に残る、偉大なる"失敗例"」
――生家に飾られていた肖像画を、レミュリンは思い出していた。
優しげな微笑を浮かべた、どこか自分や姉に似た面影のご先祖様。
父が、母が、いつも言っていた。この人は偉大なお方なのだと。
だから魔術について無知な身でも、なんとなく、ときどき絵に向かってお辞儀したりなんかしていたっけ。
「ウェルブレイシスの落ち度は、生まれる時代を間違えたことだ。
人体を燃焼時計とするには素体の念入りな調整と改良が要る。
魔術的処置はもちろん、無能どもが忌み嫌う科学の粋にも助力を得なければならない境地だ。
が、彼女の時代にそれはなく――魔術を極めるために科学を頼るという発想からして今以上に日陰のそれだった」
「……、……」
「よって当然の如くに彼女は失敗した。
記録の手段を用立てることにこそ成功したものの、観測に堪える自我を維持する点で仕損じたのだ。
観測者がなければただの寿命の長い時計。永遠に等しい歳月を背負って廃人化した白痴の人形。
斯くしてウェルブレイシスの叡智と理想は、徒花として失墜した」
されどその理想は、悠久の歳月を経て現代の子孫まで受け継がれていた。
更には、彼女の冒した失敗も。
「此処からは更に推測の割合が増えるが」
レミュリンは知らないことだが、スタール家の魔術刻印は既に衰退期に入っていた。
魔術師にとって回路の質とは命。ひとたびこれが毀損されれば、比喩でなく地位すら失うアキレス腱だ。
故に当代のスタールは焦っていた。
せめて娘の代で結実させなければ、ウェルブレイシスの悲願は遠からず水泡に帰す。
大義を失い、歴史を失うこと。歴史ある家であればあるほど、その現実に耐えられない。
過熱した使命感はアクセルを踏み込ませる。たとえレールの先が、人道を逸した領域に繋がっていると分かっていても。
「貴様の両親は、自分達が生きている間に初代超越を成し遂げんと目論んでいたのだろう。
燃焼時計理論の肝は寿命だ。後で調整を加えるとはいえ、素体は若ければ若いほどいい。
よって恐らくは次代。一番上の跡継ぎを素体に使い、根源へ挑もうとしたのだろうな」
「――え」
次代。一番上の、跡継ぎ。
頭の中のアルバムがぱらぱらと開く。
笑顔、怒り顔、呆れ顔。今でも昨日のことのように思い出せる、"家族"と過ごした日々の記憶。
いつも優しくて、だけどたまに厳しくて、更に時々年相応な。
姉の顔を、レミュリンは想起した。聞きたくない。聞いてはいけない。この先は、もう。
「具体的な手段までは流石に専門外だが……初代の失敗と、以後数百年に渡る研究成果。
衛宮矩賢のアプローチ法。時を経て加速(ねんしょう)に特化させた魔術形態。
後は若く優秀な素体さえあれば、成否はともかく"挑む"ラインまでは辿り着けたと看做せなくもない。
最上の"時計"をもってして観測を始め、残された者達で調整と延命を重ねながら終焉観測を続けさせる。
まあそんなところだろうよ。門外漢の私が此処まで推測できるという時点で、上手く行ったかどうかは非常に怪しいと言わざるを得んが」
ジュリン・ウェルブレイシス・スタールは、いつもレミュリンにとって理想の姉だった。
父と母も、厳しくも優しく、姉と区別することなく愛情を注いで育ててくれた。
記憶の中の家族写真。あんなにも色鮮やかに輝いていたそれが、途端にセピアを通り越して白黒に褪せていくのがわかった。
息がうまくできなくて、思わず胸元をぐっと押さえる。
はぁ、はぁ、と痛ましい呼吸を繰り返すレミュリンを、眼前の医者はただ冷ややかに見つめていた。
魔術師も人である。
しかし彼らは人のまま、大切なものを切り捨てることができる。
そこに矛盾は存在しない。彼らはいつだって一貫している。それが、魔術師という人種の生態/原罪なのだ。
「私は貴様の家に興味などない。
が、所見だけは告げてやろう――――いや、それすら最早不要か。
凡才ではあっても地頭には恵まれているようだな。そう、"その通りだ"」
初代ウェルブレイシス。
時の彼方を夢に求めた偉大な先人。
最初に生まれた『燃焼時計』。
そして、彼女の理想と失敗を学んで大義を目指した当代のスタール。
初代の優れた部分は継承し、逆に劣っていた部分は改良を加える。
目指すのは新たなる時計。今度こそ陥穽のない、生きながらに時の最果てを観測できる至高の完成品。
若く、才覚に溢れ、それでいて使命に殉ずる気高い志を秘めた素体。
たとえ自分を待ち受ける未来が、ひどく緩慢で終わりのない、報われる保証もない無間地獄だとしても。
それを誉れと、生まれた意味だと受け入れてくれる、そんな――
「レミュリン・ウェルブレイシス・スタール。真に家族を想うなら、貴様は赤坂亜切に感謝するべきだ。
奴が現れたからこそ、貴様の姉は人間として死ぬことができたのだから」
――決して救われることのない"誰か"が、スタール家には必要だったのだ。
気付けばレミュリンは口に手を当て、部屋の外に走り出していた。
込み上げてくるものに耐えられなかった。
溢れてくるそれを、手のひらで必死に堰き止めながら。
走り去る彼女の背中を、苦々しげに歯噛みした英雄が追っていく。
「……あちゃあ。レミーちゃん、大丈夫かな」
絵里は眉をハの字にしながら、開け放たれたままの扉を見つめて言う。
サーヴァントなき状況で、悪名高き〈はじまりの六人〉の中でも最強と称される男の前に取り残された形。
如何に寂句が戦闘の意思を見せていないとはいえ非常に危険な状況だったが、絵里に怯えた様子はなかった。
「あなたも、もうちょっと言葉を選んで伝えてあげてくださいよ。
あの子、優しい子なんですから。あんなマシンガントークでいろいろ教えられたらパンクしちゃうでしょ」
「知りたいと願ったのはアレ自身だろう。私はそれに応えただけだ。
肝は据わっているようだが、メッキが剥げれば所詮年相応の無能だな。話はまだ途中だったというのに」
蛇杖堂の姓を持つふたりだけが、院長室に残された。
片や恐るべき〈畏怖〉の狂人。無限の叡智を蓄えた、神をも恐れぬ暴君。
そしてもう片方は、彼の支配を嫌って市井に逃され、それでも宿命から逃げ切れなかった非業の娘。
「次代の末路については概ね推測通りだろうが、不可解な点は残る。
まず第一に、勝算の脆弱さだ」
「あれ。さっきスタートラインには立ててるって言ってませんでした?」
「根源を目指す者として最低限の基準は満たせているというだけだ。
根源があの程度で辿り着けるほど近郊にあったなら、今頃とうに真理は解明されているだろうよ。
抑止力への対策も明らかに不十分。端的に言って、記念受験のようなものと看做さざるを得ん」
辛辣な指摘だったが、蛇杖堂寂句は傲慢ではあっても、根拠のない罵倒をする男ではない。
彼の言葉は事実、的を射ている。
スタール夫妻の勝算が寂句の推測通りだとすると、それはあまりに稚拙な挑戦だ。
迫るタイムリミットを前に狂ったのだと安易な解釈に逃げることもできるだろうが、もしそうでないとするならば?
「思うに、外部からは推測もできんような隠し玉を抱えていたのだろう。
スタール夫妻の切り札はそれで、真の勝算はそこにあったとするのが妥当だ」
「なるほど。
それこそ、供給を必要とすることなく永遠にエネルギーを生み続ける炉心とか?」
「そうだな、案外答えはそんなところかもしれん。
興味はないがな。考察したところで当事者も器も今や物言わぬ灰になって墓の下だ。不毛に尽きる」
「あはは、それもそうですね」
「続いて第二だが。何故、葬儀屋がスタール家に差し向けられたのか、だ」
寂句は言う。
絵里は聞く。
女の顔には、それこそ親戚のお爺ちゃんの昔話を聞くみたいな人懐っこい笑みが浮いていた。
「此処だけは、どう考えても線と線が繋がらん。
スタールの秘策を知り、欲しがった何某かが差し向けた可能性はあるが」
「じゃあそれがすべてなんじゃないですか?
あ、じゃあこんなのは? アリマゴ島の悲劇を受けた協会は、実は時間系の魔術師に警戒を強めててー、みたいな」
「無能め、協会があんなキナ臭い男になど頼るかよ。
まあ、考察するにはあまりにも論拠が足りなすぎる。
現状では秘儀の強奪を狙った同業者の差し金とするのが妥当ではあるだろうな」
「あらら。先生らしくないですね、それじゃ今までの話って無駄だったんじゃないです?」
「再三言っているように、私個人はこの話に特段の興味などない。
だが、多少の好奇心が生まれたことは否定せん。
せっかくの機会だ。大仕事の前の暇潰しがてらに、ひとつ謎解きに興じてみるのもいいかと思ってな」
寂句の眼光が、鋭く研ぎ澄まされる。
絵里は変わらず微笑みながら相対していて、そこにはわずかな怯みも見て取れない。
「――――なあ、〈少女喰い〉よ。孤児の涙は旨かったか?」
一見すると脈絡のない問いかけ。
されど絵里は、蛇杖堂の末席を汚す女は。
そういうカタチを選んだ怪物は、見惚れるほど可憐に微笑んだ。
「ええ。とっても」
◇◇
――こいつは、何を言っているんだ?
ノクト・サムスタンプは、柄にもなく忘我の境に立っていた。
彼を愚鈍と罵るのは間違いだ。嗤うなら彼ではなく、その身を蝕んだ狂気を嗤うべき。
彼は、彼らは、決してその言葉を聞き流せない。正しくはその名前を、無視できない。
怪物の見本市、〈はじまりの六人〉。彼らが共通して抱える唯一の欠陥が此処に表出する。
『綿貫齋木。山本帝一。ジェームズ・アルトライズ・スタール。
お察しの通り、すべて僕だよ。
見抜いたのは君で二人目だ。ちなみに一人目は、蛇杖堂のご老体』
神寂縁。
神寂。
"彼女"のことを、これは姪と呼んだ。
『強いて指摘するなら、少し情報が古いかな。
ちょうど君達が東京で乱痴気騒ぎしている頃、ジェームズは死体になってテムズ川に浮かんだよ。
遠坂からくすねたあの抜け殻の話を突っつかれたくなかったものでね。何せアレ、もうとっくに取り込んじゃったからさ』
考えてみればそれは当然のこと。
あの白神も一応は人の子として生まれ落ちたのだから、同じ血を宿す親類は必ずこの世のどこかに存在している。
なのに今突き付けられるまで、欠片もそのことを想定できていなかった。
神寂祓葉に同胞がいるなどと。自分達六人が出会う前の彼女を知る誰かが存在することを。
ノクトほどの知恵者が、一度たりとも想像すらしなかった事実。
これはどんな罵倒よりも痛烈に、夜の虎を打ち据えた。
奇しくも今日の昼間、蛇杖堂寂句が"その名"を聞いただけで動転した声をあげたように。
『じゃあ用件を聞こうか。同盟? 交渉? 取引? よい返事を約束はできないが、聞くだけは聞いてあげるよ』
動揺はすぐに落ち着き。
やがて、失笑に変わった。
己の体たらく、決して拭えぬ宿痾を負った事実に自嘲が止まらない。
小賢しさだけが取り柄の落伍者から、その美点さえ取ったら何が残るのだと嗤った。
されど――すぐに切り替える。
そうしてノクトは、不定形の蛇に向き合った。
「じき、新宿で大きな戦いがある。俺はそこに参ずるつもりなんだが、その後のことを考えていてな」
『港区も大変なことになっちゃったしなぁ。いよいよお祭りだね、楽しそうで実によろしい。それで?』
「ドクター・ジャックのことは知ってるんだろ?
じゃあ説明は省くが、俺はあの爺さんほど楽観的にはなれない。祓葉をこんな序盤で討てるなんて夢想、とてもじゃないが出来ねえんだわ」
『ふむ』
「新宿の戦いが落ち着いた後、俺は本格的に対祓葉を見据えて動き出すつもりだ。
ついてはその時計算に加えられる要素がひとつでも欲しい。
……縁さんよ、アンタはもう今の祓葉(アレ)と遭ったのかい?」
問い掛け。
答えは、すぐに返った。
『ああ。遭ったよ』
「なら話が早い。凄まじいだろ? あいつ」
『まったくもって同感だ。少なくとも現状じゃ、まともにやってたら誰も勝てないだろうね』
「だからこそ、使えるものはひとつでも多く確保しておきたい。必要なら一筆書くぜ」
『ははは、面白いジョークだな。サムスタンプの名前を聞いて契約に同意する人間はいないだろう』
「だろ。俺も最近乗ってくれる奴がマジでいなくて困ってるから、まあ自虐ネタみたいなもんと思ってくれ」
ははは。
はははは。
乾いた、一ミリの親愛も窺えない笑い声が木霊する。
片や無音の中に。片や雑踏の中に。
『いいだろう。実際僕も、あの娘のことは何か考えないといけない頃だと思っていたのでね』
声が止むと同時に。
蛇の、囀りが響く。
『新宿の大戦、実に結構だ。今のところ馳せ参じる気はないが、それはそれとして興味深い。
ついてはノクト君。かの地で、君の同胞――〈はじまりの六人〉をひとり落としてはくれないかな』
次はノクトが、沈黙を返す番だった。
その言葉は、伊達や酔狂で口にしていいものではない。
少なくとも、現人神が誕生したあの聖杯戦争を知る者以外は。
決して軽々しく口にするべきではない、それほどの値打ちと重さを持つ言葉。
『ご老体に啖呵を切られてしまってね。
なんでも、君等の権利を奪わなければ、僕は同じ高さには上がれないのだとか。
僕は統べるのは好きだが、誰かに統べられるのはとても嫌いなんだ。
よってこの
ルールは速やかに崩したい。僕も僕で頑張るが、君が手伝ってくれるのならそれはとっても嬉しい』
彼は黒幕(フィクサー)。
邪魔なものがあれば退けるが、それは何も、彼自ら行うとは限らない。
これの真髄は暗躍者。圧倒的に肥大化させた力をその身に蓄えながら、ただの一度もヴェールを脱いだことがないのがその証拠。
「そいつは俺も臨むところだが……足元見られたもんだな」
『確かにいささかアンフェアな取引なのは否めないか。
そうだ、じゃあこうしよう。君が見事に成し遂げたら、その時はこちらから一筆したためる』
「……へえ」
『無論内容の精査は必要に応じて行うが、多少はこちらも譲歩しよう。
これをどう受け取るかは君次第だがね』
ノクト・サムスタンプには、狙っているものがある。
それは道具だ。それは兵器だ。
刀凶聯合の王が抱える戦略兵器(レッドライダー)。
血染めの騎士。黙示録の赤。いつか来る神戦に備えて抱えたいもうひとつの武器。
その過程で、狂人のひとりを落とすのは彼にとっては既定路線。
神寂縁との取引があろうがなかろうが、やるべきことは何も変わらない。
だというのに追加で、そこにひとつ旨味が転がってきた。
人界の魔王との契約。神を撃ち落とす矢、神を焼き払う炎、そして神を貪り喰う悪。
「分かった。戦況が落ち着き次第、追って連絡入れるよ」
吐いた唾、飲むんじゃねえぞ――。
嗤うノクトに、蛇もまた。
『そっちこそ。くれぐれも僕の期待を裏切らないように頼むよ、ノクト君』
傲慢を隠そうともせずにそう言って、通話が切れた。
……蛇杖堂絵里(カムサビエニシ)がスタール家の忘れ形見と共に蛇杖堂記念病院を訪れる、数十分前の攻防であった。
◇◇
「貴様には失望したよ。いや、元より期待もしていなかったが。
やはり貴様は無能以前の、単なる下等な畜生らしい。
"権利"をもぎ取ってこいと命じた筈だがな、まさか趣味にうつつを抜かして遊んでいるとは思わなかった」
「んー……まあそう言われると返す言葉もないんですけど。
だってしょうがないじゃないですか、あなた達調べれば調べるほど中身スカスカの燃え滓なんですもん。
一応ウチのアーチャーには捜索を続けさせてますよ? でもこっちもモチベの維持に苦労するっていうか」
蛇杖堂の魔術師は、この世界ではすべて東京を退去している。
その事実に対する当て付けのように選ばれた番外の顔。
魔術師の運命から放逐された、善良で幸の薄い娘。
すなわち蛇杖堂絵里。レミュリンは知らない。そんな人間、この世のどこにも存在しないことを。
「ていうかわたしのレミーちゃんをあんまりいじめないでくださいよ。
そりゃ曇らせれば曇らせるほど出汁の出る子なのは分かりますけど、何事にも段階ってものがあってですね。
今は成功体験を積ませながら、少しずつ育てていく段階なのに。いきなり全部ネタバラシしちゃうなんてエンタメが分かってなさすぎです」
「知るか、気色の悪い。貴様に比べればあの娘の方が幾分マシだ。少なくとも会話を交わす意義がある」
「可愛いですよね、あの子。いじらしいっていうか、初々しいっていうか」
蛇杖堂絵里など存在しない。
その顔(ガワ)は、ある男の亡き娘が持っていた可能性である。
「――知らんと言ったぞ、神寂縁。まったく救えないことだ。神寂の血はどこまでも呪われているらしい」
殺し、貪り、取り込んだ魂を自在に被る異形の怪物。
起源覚醒者の成れの果て。死徒に非ずして、それに限りなく近く。
ともすれば上回り得る、暗黒と欲望のフィクサー。
闇の大蛇。支配の蛇。この都市において最も尊く、最も忌まわしい姓を冠する生き物。
真名、神寂縁。
最大の悪意。今も尚世界を蝕み続ける、命ある呪いである。
「ひどい言い草ですね、まったく」
絵里のロールを崩そうとはせずに、美女の顔で蛇の悪意を覗かせる。
レミュリンと彼女の英霊が戻って来ていないことは常時確認済み。
不遜としたたかさを共存させた姿は、まさに傲慢。
畏怖の狂人の同類と呼ぶべき、傍若無人の性がそこには宿っている。
「むしろわたしは、あなたのことをちょっと見直したんですけどね。
さっき燃え滓と言いましたけど、正確には生焼けの焼死体って表現が正しいのかな。
ふふ、うふふ。実にいじらしいことじゃないですか。ジャック先生?」
「何が言いたい」
「いえ、そのね。ずいぶんとお優しいことだと思って。
如何に自分には関係がなく、ともすれば競合相手の狂人を追い詰める種にもなることとはいえ――悩める女の子にわざわざ懇切丁寧、この世の残酷さを教えてあげるなんて。天上天下唯我独尊を地で行く蛇杖堂の御大も、若い子にはついつい甘くなっちゃうのかな」
ええ、ええ。
わかってますよ。
違いますよね。
絵里は言う。
蛇は、言う。
「アレは義理でしょ。あなたなりの、此処にはいない"誰か"への」
寂句は、答えない。
答えぬまま、静かに眼前の異物を見据えていた。
現世への異物。社会への異物。太陽とは似て非なる藪底の怪異。
これは聡い。これは敏い。特に、付け入る隙を見出すことには。
「いやね? 実はわたし、ずぅっと首をひねってたんです。
それこそ線と線が繋がらない。あなたがどうして、
アンジェリカ・アルロニカを助けたのか」
それは、この女(おとこ)が知らぬ話だ。
あの
狂騒病棟に、蛇の姿は確かになかった。
あったら寂句が気付かないわけがない。
だが、絵里は当然のようにその話を口にした。
寂句も、いちいち動じたりなどしない。
この怪物を相手にそうすることの無意味さを、既に知っているからだ。
「ようやく分かりました。分かった上で、微笑ましく聞き届けさせてもらいましたよ。
スタールは燃焼。アルロニカは電磁。どちらも衛宮矩賢亡き後、時間制御の両翼と呼ばれた家々です。
わたしはこの都市でスタールの遺児に出会ったけれど、あなたはアルロニカの遺児に出会っていた。
そしてわたしと違って――あなたにとってアルロニカは、そもそもまったくの他人ではなかった。違います?」
女の顔で蛇は笑う。
ちろりと口元から覗かせた舌は蠱惑的(セクシー)ですらあって。
誘うような色気とは裏腹に、どうしようもないほどの破滅を予感させる。
唆されて林檎を齧ったアダムとイヴがそう堕ちていったように。
奈落の爬虫類は、藪の王は、いつだって人の弱みに敏感だ。
「わたしね、運命っていうのは本当にあると思うんですよ。
それは引力のようなもので、誰の意思とも無関係にただそこにある無形の渦潮」
「倒錯の果てに詩人気取りか。つくづく見るに堪えん生き物だな、貴様は」
「哀れ志半ばで夭折したアルロニカの雷光。
魂を灼くとまでは言わずとも、あなたはそこに何かを見たのでしょう、ジャック先生。
わたしが思うにその体験は、先生があの子――祓葉ちゃんに敗れた理由にどこかで通じておられるのでは?」
そして燃え尽きたあなたのもとに、過去が引き寄せられてきた。
雷光の継嗣。彼女の旧友の忘れ形見。
時を操らんとした魔術師達の落とし子が、次々と現れ始めた。
蛇は語る。
嗤うように。
「ぜんぶ推測ですけどね。
でもその顔を見るに、そんなに的外れなこと言ったわけでもないのかな」
ゆっくりと椅子を立ち上がった〈蛇〉。
その言を聞き終えた寂句は、静かに口角を歪めた。
「抜かせ。あの聖杯戦争に列席することもできなかった半端者が、何を芯を食ったつもりになっているのだ」
蛇杖堂寂句は稀代の鉄人。
文武併せ持ち、清濁を併せ呑み、そうして君臨する霊峰めいた壁だ。
故に暴君。彼の君臨は死を超えて尚盤石であり、今もその存在は誰もの脅威であり続けている。
すべてが合理で構築された彼の内界にただひとつ残ったブラックボックス。
何故、蛇杖堂寂句は神寂祓葉を救ってしまったのか?
それは大義のためにあらゆる無駄を削ぎ落とした男が向き合うべき最後の命題なのかもしれない。
だが。だとしても。
「説法など貴様には似合わんだろうよ、化け物。
おまえはこの都市で最も、ある意味では祓葉よりもヒトからかけ離れた存在だ」
――ヒトですらあれなかった"怪物"の言葉に心を動かされるほど、蛇杖堂の暴君は若くない。
「あなたからお墨付きをいただけるなんて光栄ですね。
わたしも自覚はしてますよ。自分にひたすら正直に生きてる内に、気付けばこんな風になっちゃいまして」
「――ク。なんだ、光栄と言ったのか?
流石は化け物だな。称賛と罵倒の区別も付かんらしい」
寂句の言葉に、女の顔をした蛇は微笑んだままだ。
が、その表情に微かな疑問の色が滲んだのを寂句は見逃さなかった。
恐らく、本当に何を言われているのか分からないのだろう。
化け物にとって、自分がヒトではないと言われることは賛辞以外の何物でもないから。
自分の診断が正しいことを確信して、人間の医者は成れ果ての怪物を心から憐れんだ。
「貴様は自分を何か途方もなく高尚な存在とでも信じているのだろうが、医者としては同情のひとつもしたい気分だよ。
なあ、かつて神寂縁という人間だった名無しの化け物。
私に言わせれば、貴様はとても憐れな生き物だ」
「……? 驚きましたね。負け惜しみです? それ」
「自分でも似合わない台詞だと思うがな、今の私はそれなりに機嫌がいい。
よってレミュリン・ウェルブレイシス・スタールにしてやったように、貴様にも講釈を聞かせてやろう」
レミュリンとそのサーヴァントが去った今。
この部屋には、二体の怪物がいた。
比喩表現上の怪物と、正真正銘の怪物。
奇しくも共に"蛇"の字を冠した、恐るべき者達が。
「今まで正常だった人間の性格が突如として変化することは、特別珍しい事例でもない。
統合失調症に代表される精神疾患。アルツハイマー病や脳腫瘍などの進行性脳疾患。
他には頭部外傷の後遺症としての高次脳機能障害などが挙げられるな」
人体の仕組みは複雑怪奇。されどその分、わずかな理由でバグが生じる脆さを内包している。
特に脳。そこに不測の事態が起きた場合、時に人は元あったカタチをたやすく失う。
穏やかな人間が暴力的に。活発な人間が無気力に。その人の美点を食らいながら、それは無慈悲に誰かの日常を破壊する。
「この世に存在するあらゆる物事は、"起源"という正體を必ず持っている。
人間も例外ではないが、九割九分の人間にとっては単なる生き様の指向性以上の意味を持たない。
しかし時折、これを拗らせる者が現れる。起源覚醒者。つまり貴様のような存在だよ、神寂縁」
医学上の問題ならば、それは悲劇と呼ぶべきだ。
だが、科学の領分を超えたところで生じる同種の現象は、もはやその域では収まらない。
魂の裡から呼び起こされた原初の衝動。
起源を覚醒させた人間は超人へ至るが、代償として精神までもがヒトの構造からかけ離れていく。
「誰もが起源を抱えている以上、これはもはや人間を構成する要素のひとつとするべきだろう。
であればそれが原因で生じる異変を、医学に通じた者としてなんと呼ぶか? そう、"病気"だ」
「……ほう」
「伝わったかな、神寂縁。
医師として診断を下そう。貴様は病人だ。
不運にも不治の病に罹ってしまい、誰にも救われることなく自己を失った憐れな人格荒廃者だ。
ヒトを超えた超越者ではない。ヒトであり続けることすらできなかった、ただのみすぼらしい怪物だよ」
斯くして、診断は下る。
超越者の自負を一刀の下に切り捨てる医学的所見。
ぱち、ぱち、ぱち、と。拍手の音色が響いた。
「面白い。実に興味深い内容でした。
悪魔とか異常者とか呼ばれたことはあるけど、流石に病人扱いされたのは初めてだなぁ」
〈支配の蛇〉は感想を口にする。
どこか他人事のように、その性を微塵も揺らがせることなく。
語る一方で、愉悦の眼光をもって寂句を見据えている。
先ほどまでよりも一段、蛇は暴君に対する認識を引き上げた。
「ま、心の隅に留めておきますよ。
祓葉ちゃんに挑むんでしょう? 頑張ってくださいね、応援してますから」
この怪物に評価されることの意味を理解しながら、それでも寂句は怯まず不敵な顔でこれに応える。
「貴様に言われるまでもない。
そして為すべきことを為し、それでもまだ私の命が残っていたならば……次は貴様だ、化け物。今そう決めた」
神に挑み、あるべき場所に還すこと。
それが寂句の至上命題だ。
そのためなら命さえ賭ける覚悟だし、成し遂げた先に自分の命が残らなくても構わないと覚悟している。
されどもしもこの身に未来が残ったなら、貴様は殺す。寂句は、神と同じ姓を持つ忌まわしき生物にそう告げた。
「憐憫を以って、その心臓に白木の杭を突き刺してやろう。
せいぜい今の内に欲を満たしておけ。私は最期の晩餐を許すほど寛大ではないのでな」
「ふふ、それはいい。楽しみにしてますよ」
蛇は殺意を受け入れて、艶やかに舌を出した。
受けて立とうと、同等以上の不敵が示される。
これは、この世で最も救い難きモノ。
星座の対極、奈落の怪物。
「その時は"僕"としてお相手しましょう。――――ではご武運を、人間・蛇杖堂寂句」
都市最悪の醜穢はそう言い残し、素知らぬ顔で、レミュリンを追って院長室を出ていった。
「……、よかったのですか。マスター・ジャック」
蛇の退室を見届けて、天蠍・アンタレスが霊体化を解く。
その顔は相変わらず表情の起伏に乏しいが、微かに苦々しく見える。
彼女の言わんとすることは、寂句なら当然分かる。
無理もない。あの怪物は蠢く害虫のようなもの。他者を不快にさせることにかけて、神寂縁は随一と言っていい生命体だ。
抑止の派遣した機構(システム)からさえそういう情緒を引き出してのける辺り、やはり蛇は怪物なのだろう。
「要らん気を回すな。あれしきの戯言で腹を立てるほど、私が餓鬼に見えるか?」
「いえ……、……ですが」
「それに、……クク。存外に有意義な会話だった。
義理。義理か。この私にそんな概念を見出したのは生涯で奴が初めてだ。
化け物と語らうというのも悪くないな。率直に言って、知見が広まった気分だよ」
一方で寂句は、上機嫌さえ滲ませていた。
アンタレスにはその理由が分からない。
彼女でなくとも、誰であろうと理解できなかったに違いない。
何しろ他でもない寂句自身さえ、それは蛇の嘲りを聞くまで視界に収めてさえいない観念だったのだから。
「私は祓葉へ挑む。これは確定事項だ。誰にも譲らんし、何があろうと此処を揺るがすつもりはない」
そこが、ノクト・サムスタンプと蛇杖堂寂句の最大の差異。
ノクトもまた祓葉に強く懸想しているが、寂句のそれは性質が違う。
彼は祓葉を畏れている。畏れるが故に、祓葉天送に懸ける情念は狂気の域に達して余りある。
ノクトならば、まだ祓葉には挑まない。
だが寂句は挑む。
彼は、神寂祓葉という恐るべき超越者が地上に存在している事実に耐えられないから。
誰が無謀と謗ろうと、道を阻む何かに出会おうと、何人たりとも蛇杖堂寂句の足を止めるには能わぬ。
そう、そしてそれ故に。
「暫く話しかけるな。少し、思索を深めたい」
畏怖の狂人は此処で、取り零したピースを拾い上げる行程に着手した。
数理の如き合理性で突き進んできた彼がその生涯に残す唯一の謎。
星を葬れる絶好の好機に、自らの手でそれを投げ捨てた最低最悪の愚行の意味。
これを解明することこそが、来たる大祓の時に対する一番の備えになると確信したからだ。
「――――失点をそのままにしておくのは、我慢ならん質でな」
己はきっと、大きな陥穽を抱えている。
その確信を胸に抱き、賢者は聖戦を前にして思索を開始した。
何故自分はあの日、あの時、あの星空の下で――――神寂祓葉を殺せなかったのか?
◇◇
魔術師とは、冷酷な生き物だと。
そう聞かされたことは確かにあった。
レミュリンは魔術師の子であるが、しかし彼女はそれとほぼ一切関わりを持つことなく育った。
だから、聞いても今ひとつ現実感を持てなかった。
しかしそれもついさっきまでの話だ。
かけがえのない思い出はすべて、無情な現実というインクでべとべとに汚されてしまった。
恐らくもう二度と、元の色合いに戻ることはない。
便器に胃の中のものを全部ぶち撒けながら、レミュリン・ウェルブレイシス・スタールは初めて選んだ道を後悔した。
自分からすべてを奪ったあの日、炎の日。
葬儀屋・赤坂亜切による殺戮の日。
あれさえなければと思った回数は両手の数じゃとても利かない。
けれど。彼の凶行があろうがなかろうが、欠点は絶対に生まれていたという。
根源への到達というまったくピンと来ない"大事なこと"のために、姉の笑顔は失われることが決まっていたのだと。
97点か99点か。違いは、それだけ。
汚れた口元を洗うこともしないまま、よろよろおぼつかない足取りで廊下へ出ると。
ルーと絵里のふたりが、心配そうな顔をして待っていた。
絵里が駆け寄ってくる。背中を擦りながら、ハンカチで口を拭ってくれた。
ありがとうございます、と呟いて、自分でもびっくりする。
自分のものとは思えないほど枯れきった、生気のない声だったからだ。
ふたりが何か語りかけてくれている。
優しい言葉なのだろうと、思う。
けれど、それに応える余力がない。
言葉がうまく入ってこないし、出てきてもくれない。
(レミュリン)
頭の中に響く声は、彼女がいちばん信頼する相棒のもの。
彼を父のようだと思ったことは、正直なところ何度もあった。
失ってしまったものと重ねて見るなんて彼にも本当の父にも失礼だと思っていたけれど、今はそれとは違う意味で、自己嫌悪の念に囚われる。
(ごめん……ごめん、ランサー、わたし、わたし、は……っ)
――自分がいかに、見たいものしか見ていなかったのかを知ってしまった。
スタール家の光の部分。
楽しくて優しい団欒だけを見て。
その裏にある悲劇を、何も見てこなかった。
だから無知のままに、彼と亡き父を重ねていたのだ。
なんて弱いのだろう、私は。
込み上げる嫌悪はまたしても吐き気を伴った。
しかしそんなレミュリンを、ルーは優しく慰めるでもなく、かと言って厳しく糺すわけでもなく。
(少し、話をしようか)
共に星を見上げながら語らうような、どこか望郷に似た感傷を漂わす声色で、そう言った。
(俺の話だ。まあ、昔話だな)
導く者。それが此度の
ルー・マク・エスリン。
彼は英雄である。そして本来、神でもある。
光の象徴、長い腕の太陽神。
されど。たとえ神であろうとも、闇を持たないモノはこの世に存在しない。
そうしてルーは、紐解くように語り始めた。
失墜した赤紫(マゼンタ)の子に、闇の中を照らす標をもたらすように。
◇◇
問。
ジュリン・ウェルブレイシス・スタールは何故、〈古びた懐中時計〉を持っていたのか?
――無回答。欠点1。
◇◇
【港区・蛇杖堂記念病院/一日目・夜間】
【蛇杖堂寂句】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)、右腕に大火傷
[令呪]:残り2画
[装備]:コート姿
[道具]:各種の治療薬、治癒魔術のための触媒(潤沢)、「偽りの霊薬」1本。
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本方針:他全ての参加者を蹴散らし、神寂祓葉と決着をつける。
0:――時は定まった。であれば備えるのみ。
1:神寂縁は"怪物"。祓葉の天送を為してまだこの身に命があったなら、次はこの血を絶やす。
2:当面は不適切な参加者を順次排除していく。
3:病院は陣地としては使えない。放棄がベターだろうが、さて。
4:〈恒星の資格者〉は生まれ得ない。
5:運命の引力、か……クク。
[備考]
神寂縁、高浜公示、静寂暁美、根室清、水池魅鳥が同一人物であることを知りました。
神寂縁との間に、蛇杖堂一族のホットラインが結ばれています。
蛇杖堂記念病院はその結界を失い、建造物は半壊状態にあります。また病院関係者に多数の死傷者が発生しています。
蛇杖堂の一族(のNPC)は、本来であればちょっとした規模の兵隊として機能するだけの能力がありますが。
敵に悪用される可能性を嫌った寂句によって、ほぼ全て東京都内から(=この舞台から)退去させられています。
屋敷にいるのは事情を知らない一般人の使用人や警備担当者のみ。
病院にいるのは事情を知らない一般人の医療従事者のみです。
事実上、蛇杖堂の一族に連なるNPCは、今後この聖杯戦争に関与してきません。
アンジェリカの母親(オリヴィア・アルロニカ)について、どのような関係があったかは後続に任せます。
→かつてオリヴィアが来日した際、尋ねてきた彼女と問答を交わしたことがあるようです。詳細は後続に任せます。
→オリヴィアからスタール家の研究に関して軽く聞いたことがあるようです。核心までは知らず、レミュリンに語った内容は寂句の推測を多分に含んでいます。
赤坂亜切のアーチャー(スカディ)の真名を看破しました。
【ランサー(
ギルタブリル/天蠍アンタレス)】
[状態]:疲労(中)、全身にダメージ(中)、消沈と現状への葛藤
[装備]:赤い槍
[道具]:なし
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:神寂祓葉を刺してヒトより上の段階に放逐する。
0:大義の時は近い。
1:蛇杖堂寂句に従う。
2:ヒマがあれば人間社会についての好奇心を満たす。
3:スカディへの畏怖と衝撃。
4:霊衣改変のコツを教わる約束をした筈なのですが……言い出せる空気でもなかったので仕方ないですが……ですが……(ふて腐れ)
【レミュリン・ウェルブレイシス・スタール】
[状態]:疲労(小)、全身にダメージ(小)、精神的ショック(大)
[令呪]:残り三画
[装備]:
[道具]:
[所持金]:6万円程度(5月分の生活費)
[思考・状況]
基本方針:――進む。わたしの知りたい、答えのもとへ。
0:わたし、は。
1:胸を張ってランサーの隣に立てる、魔術師になりたい。
2:ジャクク・ジャジョードーの情報を手に入れ、アギリ・アカサカと接触する。
3:神父さまの言葉に従おう。
[備考]
※自分の両親と姉の仇が赤坂亜切であること、彼がマスターとして聖杯戦争に参加していることを知りました。
※ルーン魔術の加護により物理・魔術攻撃への耐久力が上がっています。
またルーンを介することで指先から魔力を弾丸として放てますが、威力はそれほど高くないです。
※炎を操る術『赤紫燈(インボルク)』を体得しました。規模や応用の詳細、またどの程度制御できるのかは後のリレーにお任せします。
※アギリ以外の〈はじまりの六人〉に関する情報をイリスから与えられました。
※〈はじまりの聖杯戦争〉についての考察を
高乃河二から聞きました。
※アギリがサーヴァントとして神霊スカディを従えているという情報を得ました。
※高乃河二、
琴峯ナシロの連絡先を得ました。
※右腕にスタール家の魔術刻印のごく一部が継承されています(火傷痕のような文様)。
※刻印を通して姉の記憶の一部を観ています。
※高乃河二達へ神寂祓葉との一件についての連絡を送ったと思われます。
※蛇杖堂寂句からスタール家に関する情報と推測を聞かされました。
寂句の推測も混ざっているため、必ずしもこれがすべて真実だとは限りません。
【ランサー(ルー・マク・エスリン)】
[状態]:疲労(小)、魔力消費(小)、右腕に痺れ
[装備]:常勝の四秘宝・槍、ゲイ・アッサル、アラドヴァル
[道具]:緑のマント、ヒーロー風スーツ
[所持金]:なし
[思考・状況]
基本方針:英雄として、彼女の傍に立つ。
0:レミュリンと、話をする。
1:レミュリンをヒーローとして支える。共に戦う道を進む。
2:神寂祓葉についてはいずれだな。今は考えても仕方ねえ。
3:今更だが、馬鹿じゃねえのか今回の聖杯戦争?
[備考]
予選期間の一ヵ月の間に、3組の主従と交戦し、いずれも傷ひとつ負わずに圧勝し撃退しています。
レミュリンは交戦があった事実そのものを知らず、気づいていません。
ライダー(
ハリー・フーディーニ)から、その3組がいずれも脱落したことを知らされました。
→上記の情報はレミュリンに共有されました。
【神寂縁】
[状態]:健康、ややテンション高め、『蛇杖堂絵里』へ変化
[令呪]:残り3画
[装備]:様々(偽る身分による)
[道具]:様々(偽る身分による)
[所持金]:潤沢
[思考・状況]
基本方針:この聖杯戦争を堪能する。
1:レミーはかわいいね。
2:蛇杖堂寂句とはゆるい協力関係を維持しつつ、いずれ必ず始末する。その時はどうやら近そうだ。
3:蝗害を追う集団のことは、一旦アーチャーに任せる。
4:
楪依里朱に対する興味を失いつつある。しかし捕食のチャンスは伺っている。
5:祓葉は素晴らしい。いずれ必ず腹に収める。彼女には、その価値がある。
6:ノクト・サムスタンプの戦果に期待。衛星を落とすのは、何も僕自身の手でなくても構わないだろう?
[備考]
※奪った身分を演じる際、無意識のうちに、認識阻害の魔術に近い能力を行使していることが確認されました。
とはいえ本来であれは察知も対策も困難です。
※神寂縁の化けの皮として、個人輸入代行業者、サーペントトレード有限会社社長・水池魅鳥(みずち・みどり)が追加されました。
裏社会ではカネ次第で銃器や麻薬、魔術関連の品々などなんでも用意する調達屋として知られています。
※楪依里朱について基本的な情報(名前、顔写真、高校名、住所等)を入手しました。
蛇杖堂寂句との間には、蛇杖堂一族に属する静寂暁美として、緊急連絡が可能なホットラインが結ばれています。
※赤坂亜切の存在を知ったため、広域指定暴力団烈帛會理事長『山本帝一』の顔を予選段階で捨てています。
山本帝一は赤坂亜切に依頼を行ったことがあるようです。
→赤坂亜切に『スタール一家』の殺害を依頼したようです。
※神寂縁の化けの皮として、マスター・蛇杖堂絵里(じゃじょうどう・えり)が追加されました。
雪村鉄志の娘・絵里の魂を用いており、外見は雪村絵里が成人した頃の姿かたちです。
設定:偶然〈古びた懐中時計〉を手にし、この都市に迷い込んだ非業の人。二十歳。
幸は薄く、しかし人並みの善性を忘れない。特定の願いよりも自分と、できるだけ多くの命の生存を選ぶ。
懐中時計により開花した魔術は……身体強化。四肢を柔軟に撓らせ、それそのものを武器として戦う。
蛇杖堂家の子であるが、その宿命を嫌った両親により市井に逃され、そのまま育った。ぜんぶ嘘ですけど。
→蛇杖堂絵里としての立ち回り方針は以下の通り。
・蝗害を追う集団に潜入し楪依里朱に行き着くならそれの捕食。
→これについては一旦アーチャーに任せる方針のようですが、詳細な指示は後続の書き手にお任せします。
・救済機構に行き着くならそれの破壊。
・更に隙があれば集団内の捕食対象(現在はレミュリン・ウェルブレイシス・スタールと琴峯ナシロ)を飲み込む。
※蛇の体内は異界化しています。彼はそこに数多の通信端末を呑み込み、体内で操作しつつ都度生成した疑似声帯を用いて通話することで『どこにでもいる』状態を成立させているようです。
この方法で発した声、および体内の音声は外に漏れません。
※神寂縁の化けの皮として、レミュリンの遠縁の親戚であるジェームズ・アルトライズ・スタールが追加されました。
元の世界で夫妻と姉の死後、後見人を買って出た魔術師です。既に死亡済み。
神寂縁はこの顔を使い、第五次聖杯戦争終結後の冬木市は遠坂家から『この世で最初に脱皮した蛇の抜け殻の化石』を盗み、取り込んでいます。
【???/一日目・夜間】
【ノクト・サムスタンプ】
[状態]:健康、恋
[令呪]:残り三画
[装備]:なし
[道具]:なし
[所持金]:莫大。少なくとも生活に困ることはない
[思考・状況]
基本方針:聖杯を取り、祓葉を我が物とする
0:悪魔との契約、か。笑えねえな。
1:当面はサーヴァントなしの状態で、危険を避けつつ暗躍する。
2:
ロミオは
煌星満天とそのキャスターに預ける。
3:とりあえず突撃レポート、行ってみようか?
4:当面の課題として蛇杖堂寂句をうまく利用しつつ、その背中を撃つ手段を模索する。
5:煌星満天の能力の成長に期待。うまく行けば蛇杖堂寂句や神寂祓葉を出し抜ける可能性がある。
6:満天の悪魔化の詳細が分からない以上、急成長を促すのは危険と判断。まっとうなやり方でサポートするのが今は一番利口、か。
[備考]
東京中に使い魔を放っている他、一般人を契約魔術と暗示で無意識の協力者として独自の情報ネットワークを形成しています。
東京中のテレビ局のトップ陣を支配下に置いています。主に報道関係を支配しつつあります。
煌星満天&ファウストの主従と協力体制を築き、ロミオを貸し出しました。
前回の聖杯戦争で従えていたアサシンは、『
継代のハサン』でした。
今回ミロクの所で召喚された継代のハサンには、前回の記憶は残っていないようです。
蛇杖堂寂句から赤坂亜切・楪依里朱について彼が知る限りの情報を受け取りました。
前の話(時系列順)
次の話(時系列順)
最終更新:2025年06月01日 00:29