コンペロリショタバトルロワイアル@ ウィキ

思い描くは、ひとつの未来

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「という訳で、次からその魔法は使い所を考えてください。」
「ご、ごめんなひゃい……。」

見事なたんこぶを頭に作り上げ、涙目ながら野比のび太はロキシーに謝るハメとなっていた。
原因は勿論先程ののび太の「チンカラホイ」。
と言ってもやったことは軽いものを浮かび上がらせた程度だが、浮かび上がったのがロキシーのスカートだったのが大問題。
年頃の少年に純白パンツを見せびらかす羽目になったとなれば、羞恥から思わずのび太の頭を杖で殴打してしまった。勿論衝動的に殴ってしまった事に対しては後で謝罪はしたが。

迅速に殺し合いから脱出し生還したいと言うのに。と思いつつ、やはりこの少年を見捨てるわけにはいかない。
迅速に、と言うが首輪の解除という特大の壁が立ち塞がっている以上はどうにもならないわけで。

「……まあいいです。次に向かう場所はもう決めていますのでそこまで移動しましょう。」
「え、そうなの?」
「と言っても、月並みに目ぼしい資料がありそうな場所に手を付ける、ということですが。」

恥じる赤い頬が未だ冷めぬままだが、ロキシーの中では次の目的地は決まっていた。
自分たちの現在位置はD-6、山岳地帯が近い所に位置する。

「近場だと図書館ですかね、私としてはホグワーツなる魔法魔術学校も気になりますが。」
「図書館は分かるけれど、魔術学校ってとこの方は、ロキシーさんが魔法使いだから?」
「まあ。あなたのそのハレンチな魔法も含めて、別の体系の魔術というのは気になる所です。それに、もしかしたらこの殺し合いに繋がる何かしらのヒントを得られるかもしれません。」

数多の世界の子供たちが呼ばれたこの殺し合い。実年齢が違えど外見か年齢が子供であれば、いや、子供という要素があれば無造作に集めて蠱毒に放り込む。
それで、自分を背の高さだけで子供扱いしてこんな下らない事に巻き込んだ。この少年も含めて。

(何のために?)

まず、あの海馬乃亜という少年が何者か、その点も気になるのだが。
無垢で残虐、幼稚。と言うには、妙な違和感があった。
まるでこの世界全てを箱庭感覚で、庭に放り込まれた虫を観察し俯瞰するような海馬乃亜という少年の瞳。
その根拠は本当に子供特有の全能感だけなのか?

(そもそも、ここが一体、本当に何処なのかすら。)

大前提として、殺し合いのためだけに用意された舞台。というのも不可解。
仮にこの舞台そのものが巨大な魔法陣だとしたならばそれは最悪だ。何せ準備さえ行っていれば天地無用のちゃぶ台返しが可能であるから。
だが、そんな大規模な魔法陣を用意しているというのなら何かしらの塗料が必要なはずだし、そうなれば一部を消されただけで魔法陣は破綻する。そんなヘマをするほど相手が甘いわけがない。

(もし、彼の言っている科学だとかの部類とかになると、私ではお手上げですね。)

魔術は兎も角、のび太の言ってた科学の類となってしまえば、完全にお手上げだ。
なにかの間違いでルーデウスが知っていそう? 等と脳裏によぎったが、居ない人物に縋りついた所で意味はない。

「……ロキシーさん? どうしたの? 具合でも悪いの?」
「いえ、少し考え込んでいただけです。……この会場を、一体誰が用意したのかっていう考察ですね。」

柄にもなく心配されてしまい、思わず意見を尋ねた。
ロキシーとしても科学だとか未来の技術だとか眉唾なものを信じるかどうかは別だが、別の観点からの意見は欲しい。そう思っての意図ではあった。
少し考え込んで、のび太は口を開いた。





「無人島を作ったりとか、雲を固めて土地にしたりとかってのは未来の道具で出来るらしいんだけど。少なくともこういう事出来るのってそういう未来の悪人とかじゃないかな?」
「前者は分からなくもないですが、……後者は頭が痛くなりそうです。」

無人島を作る、というのは辛うじて分からなくはない。
ただ雲を固めて土地にするだとか滅茶苦茶な事を言われ、ロキシーとしては思わず頭を抱えたくなる。
だが、この土地が雲の上に作られた浮遊大陸の類であるならば、誰に気づかれず殺し合いの運営を、という点では納得が付く。

「兎も角、この場所は未来の道具とやら、で作られた可能性、と。じゃあそれを行いそうな人物に心当たりは。」
「……うーん。心当たり、あるにはあるんだけれど……そいつは今タイムパトロールに捕まってるからなぁ。」
「この際当たり外れはいいとして、参考に聞かせてもらいます。」
「……前に原始時代に家出した時に、23世紀の未来から世界を歴史を変えて全て支配しようとしたやつが居たんだ。」

のび太が語るのが、友達を巻き込んだ盛大な家出話において。
原始人を支配し、過去を書き換え世界の王となろうとした23世紀の大犯罪者。
亜空間破壊装置で時空乱流を自発的に発生させ、タイムパトロールの干渉を事前に対策した狡猾さを兼ね備えた未来人。

「そいつの名前は、ギガゾンビ。」
「ギガゾンビ、ですか。」

ギガゾンビ。のび太の語り口からしても、碌でもない人物であることは確か。
その彼が関わっているかどうかは兎も角、この場所が何処であるか、海馬乃亜に関与しているのは誰であるかの予想の一つが得られただけでも聞く価値はあった。
最も、『4次元ランドセル』なる、明らかな未来の道具らしきものが支給されている

「……そのギガゾンビとやらが関わってるかは兎も角として、意見としては参考になります。」
「そ、そうかな? だったら僕もちょっと役に立てたのかな……えへへ。」

妙に照れるのび太の顔に、思わずルーデウスの面影を感じたように思えた。
勿論彼とは色々と大違いなのだが、ある意味人並みらしい善性と価値観は、この場においては必要なのかもしれないと、ロキシーとしても無碍には出来なかった。

「照れるのはそこまでにして、まずは図書館に向かうことにします。……私も、科学とやらの知識は必要かもしれないと思ったので。」
「うん、わかった。僕も出来る限りのことは手伝うよ。」

やはり、のび太の話を聞く限り。化学の知識もまた仕入れなければならないと。
ロキシーとしてもまた知識のアップデートは必要だと納得した。
何もかもが未知の場所で、一歩踏み出なければ何も出来ない。
知識もまた、そういうものだ。

「……でも、こういう時にドラえもんがいてくれたらなぁ。」
「ドラえもんとは……ああ、そういえば最初にあった際に話していたネコ型ロボットでしたね」
「うん、ドラえもんはいっつも僕を助けてくれる大切な家族で、大切な友達なんだ。でも、いつまでもドラえもんに頼ってばかりじゃダメっていうのもわかってるけど……。」

ドラえもん。野比のび太にとっての家族であり友達でもある、未来からやってきた猫型ロボット。
話によれば未来の子孫が自分を助けるためにやってきた、とかそういうのらしい。
ロキシーとしてはやはり理解に時間が掛かる内容であったが、それでもそのドラえもんというのが、いい人……もといロボットであるのは、彼の言葉だけでも理解できたのだ。

「でも、こういう時だから、頑張らないとって。」
「……大した魔法も使えないんですから、無茶だけはしないでくださいね。」
「はは、手厳しいや。」

スカートを捲るぐらいしか使いどころのない魔法しか使えないというのに、妙な自信ではある。
だが、少なくとも、一緒にいても不快ではないぐらいには、彼は信頼出来る人物。
やはり、グレイラット家に絆されて、ルーデウスのお陰で自らの思い上がりを直せたからかも。等とロキシーは内心悪くない気分ではあった。









「――へぇ。こんな場所で呑気なものね、あなた達。」

何処までも冷たい、声がした。
全身を劈かれるような、剣の嵐のような声がした。

「――!? のび太さん、下がってください。」
「ロキシーさん……?」
「……もしもの時、あなたを無事に逃せる自信は、流石にありません。」

のび太の目からしても、ロキシーの焦りは明白だった。
身の毛のよだつような魔力の、邪悪の気の放流が、声だけでも汗が流れるほどの。
隔絶した絶対者、魔の頂点とも言うべき、何か。

「あら、警戒されちゃったわね。でも、正しい判断ね。……小さな魔術師さん?」
「―――ッ?!」

声の主が、姿を表す。
なんと形容すべきだろう。まさに空想から舞い降りた幻想そのもののような魔女。
陶器人形のような純白の肌で、蒼玉の瞳が暗い輝きを宿らせて見下ろしている。
黒水晶のような少女が、人間をを超えた何かが、二人を眺めているのだ。
多少その身体が血に塗れているようであるが、それが意味するものをは一目瞭然だ。

「あ、あの、その……あ、僕、野比のび太って言います。」

「いや何呑気に自己紹介してるんですか」と思わずロキシーの視線が細くなる。
緊張しながらも流れでなんか挨拶した形となり、一瞬だけ場の空気が緩む。

「……こんな状況で自己紹介だなんて呑気ね。」
「何だか、大魔王デマオンとかそういう怖い感じのを予想してたから、その。」

言っては何だが、のび太としてはもうちょっと怖い相手を予想していたのか、拍子抜けみたいな態度ではあった。
今まで何度も冒険して、時には世界に危機に巻き込まれて、おおよそ怖い相手とは何度も戦ったことはあった。恐ろしい雰囲気を醸し出して出てきたのは思いの外小さな女の子だ。
別に外見に反してという点では過去の該当例ではリルルとかが思い浮かぶが、まるで工芸品のような美しさを秘めた彼女に、思いの外恐怖は感じていなかったのだから。

「のび太さん。確かに彼女は一見すれば普通に少女にも見えるでしょう。でもあれは私達魔術師からしても埒外の存在です。」

そんなのび太に対して、ロキシーの眼の前の少女に対しての警戒は最大だ。
魔術師の、その枠外を遥かに超えた存在。低く見積もっても帝級どころか神級。もしくはそれを遥かに超えかねない怪物が立ち塞がっているのだ。
どうやって逃げるか、逃げられなくともどうやって凌ぐかを並行で考えていた。

「でも……なんだろう。あの人、なんて言えば良いのかな……。」
「何が、です?」

だが、唯一。今にも死を振り撒いてもおかしくない魔女に対し、違う印象というか、そういうのをのび太は感じて。

「私がどうかしたのかしら? 私を前にして余り動じないその図太さだけは褒めてあげるわ。」
「……あなたがどういう人かわからないし、多分悪いことをしようとしているってのは何となくわかります。」
「そうね。……私はすべてを滅ぼす。違う形になったとはいえ、人類鏖殺の手段に近づいたのは事実。このチャンスを見逃すわけにはいかないわね。」

機嫌が良いのか悪いのか、それとも「後ですぐに殺す」という行為の表れなのか魔女はそう告げた。
魔女が告げたのは己の目的、人類鏖殺という、のび太にもロキシーにも分かりやすい、げに恐ろしき行為だ。まさに本当に悪の大魔王が高笑いしながら宣言しそうな目的だと、のび太は思った上で。

「……でも、何だか早く楽になりたいって顔してそうな気がするんだ。」
「――――――――。」

そう、魔女に真正面から言い切った。何の確信もなく、ただ何となく感じた感覚を。
愉しげに目的を語ったように見えて、その実「全然楽しくなさそう」という違和感を。










「………ねぇ、あなた。」

空気が、冷えて震えた。
全てが沈黙したかのような錯覚に襲われる時間が過ぎて。
ロキシーもまた、何か悪寒のようなものが過ぎ去るような、嫌な予感を察知して。
魔女の一言が、恐ろしく低く木霊する。

「野比のび太、って言ったわよね?」
「あ、はい。」
「そういえば私の方の紹介がまだだったわね。リーゼロッテ・ヴェルクマイスター。……ああ、覚える必要はないわよ。」

唐突に、饒舌に。己の名前を告げた魔女の言葉が。
野比のび太にもわかりやすく、そして冷たく響いて。

「………のび太さんっ! 伏せてっ!!!」
「えっ――」
「――来たれ冬の精霊 水を重ね悪しき者を押し止めよ!」

ロキシーが叫び、詠唱を唱えて氷の壁を構築した時には、既にリーゼロッテの手のひらは動いていた。
ロキシーに言われるままにのび太が頭を抱えて地面に伏せて、ロキシーの氷壁の後ろに隠れる。
言われるがまま、ロキシーが叫んだ意味を、流した冷や汗と焦りの意味をのび太は理解することとなる。









「死になさい」











放たれた黒炎の球体が、氷壁に直撃し爆炎に包まれるまで、そう時間はかからなかったのだから。





のび太は、この場所が殺し合いである、と言う事実を改めて、その身をもって理解させられた。
魔女の、リーゼロッテ・ヴェルクマイスターの撃ち放った黒炎の魔力弾はロキシーが即座に唱えて生み出した氷壁に直撃し、爆発。
たった一発の黒い火球で、周囲の草木は黒い炭となって風に吹かれて散っている。

「……のび太、さん。……なんとか、無事ですね………!」
「ロキシーさん! い、一体何が……あ……!?」

目を開ければ、自分に声を掛けるロキシーの姿。
だが、その姿を確認した瞬間絶句する。
ぽたぽたと、滴る血が火傷らしき傷口から流れ落ちている。
帽子は消し飛んで、服はところどころ無惨に焼け焦げているのだ。
正直な所、ロキシーの氷壁の展開は本当にギリギリのタイミングだ。
それでなんとか、のび太の身だけは守れた。本当に彼だけは守れた、だけだ。

「へぇ、さっきのよく防げたわね。」

二人を見下ろしながら嗤うのは先程の火球を放った魔女リーゼロッテ。
見下すように、虫を眺めるように、嘲り、愉快そうに見ている。
だが、その瞳だけは全く笑っていない。ただ野比のび太だけを見つめている。

「……ひ、ひぃっ!?」
「あら、そんなに怯えて。でも、それが正しい反応よ。――さっさと殺して楽にしてあげるわ。」

嘲笑混じりで、かつ余りにも冷めた言葉。流石ののび太も本気で怯え、恐怖する。
リーゼロッテが正面に手のひらを向ければ出現するのは白い魔法陣。
目に見えて理解できる殺意と死の波濤。そして魔法陣から放たれるのは先程よりは小さいものの、数に物を言わせた火球の流星群。

「雄大なる水の精霊にして……天に上がりし雷帝の王子よ! 勇壮なる氷の剣を彼の者に……叩き落せ!」

迫る火球に対し、ロキシーは再び詠唱。
今度は防壁ではなく、敵の攻撃に対し相殺するように技を放つ。

「『氷霜撃(アイシクルブレイク)!』」

放たれたのは一回り大きめの氷の塊。火傷から多少詠唱が澱んでいたが無事発動はした。
それを何度も放ち、迫りくる火球群を相殺する。それでも中級呪文でないと一発分相殺するだけでもこの有様。

「……思いの外耐えるわね。」

ロキシーの奮闘を、リーゼロッテは軽く眺めている。
幾ら先程の子供との一件で小さくない手傷を負っているとはいえ、中々食らいついてるのは素直に称賛に値する。が、それまでだ。本来ならば魔術師としての手腕は天と地ほどの差。到底敵うはずがない。

「じゃあ、これはどうかしら?」

パチン、と指を鳴らせば。放たれていた火球が虫の姿へと変化する。
と言うよりも、虫が炎そのものになったような挙動でロキシーの放つ氷塊の隙間を軽々と避けて迫っていく。
あのときの寄生虫パラサイドをそれっぽく姿だけ真似て火球の魔力弾として再現してみたのだが、存外上手く行ったようである。
ある程度の指向性を付与し、相手の牽制や防御を掻い潜りながら迫る一種の追尾弾に近い代物。昆虫類特有の不規則な動きも悪くない。

「こ、こんな魔法は……あうっ!?」

分かっていた事ではあるが、炎を虫状かつ不規則な弾道とする未知の魔術、しかもこの状況下で思いつきで再現したという事実に、直後に食い千切られるような焼ける痛みを味わいながらもロキシーは驚くしかなく。
一定の自律性と追尾性を付与した魔力弾なんて巫山戯てるにもほどがある。分かっていたことだが、あの魔女は、リーゼロッテ・ヴェルクマイスターはロキシーが今まで出会った魔術師の中で、最も最悪とも言うべき怪物だったと改めて実感した。





「どうすれば……!」

ロキシーに庇われるように背後に立つしか無く、それでも自分にできることをなんとか頭から捻り出そうとするのび太。
元はと言えば自分が不用意な発言をしたせいでリーゼロッテの機嫌を損ねて、自分を庇ってロキシーがあんな大怪我をして、結果として自分を守るために戦っているようなものだ。

「ええと、何か無いか何か無いか……!」

慌てながらも四次元ランドセルから何が有効打になりそうなアイムを探す。
宛ら秘密道具を手探りするドラえもん状態を心底実感しているようなものだが、そんな事思い返してる余裕なんて無い。

「……あった。あったけど!?」

あったにはあった。最初に見つけたのは変なパソコンみたいなもの。
その他二つも一応探ってみたが、『ラヴMAXグレード』とか書かれた訳のわかんない薬品。
最後の一つに希望を託して取り出してみれば、……なんかよくわからない輪っか。空を飛べるとか武器に使えるとかそういうっぽいが、混乱している頭ではたどり着けず。

「―――これでどうやって戦えば良いの!?」

そのどん詰まりっぷりに、思わず叫んだ。叫ばずにいられなかった。
本当にこれでどうやって戦えば良いんだ、というか戦う以前にこの状況をどうやって乗り切るかどうかの問題でもある。
ロキシーが何とか耐えているが時間の問題。このまま一人逃げてしまうなんて手段もあるが、野比のび太という善人はそんな行為を何よりも自分が許さない。
そう、あの時のように、女の子一人置いて逃げるだなんて、もう懲り懲りだから。
なんて悩んでいれば、ちょっと離れた所にいた草陰がほんの少しだけ揺れた。

「……もうこうなったら!」

思考は一直線だった。一直線というよりももはや後先考えなかっただけだろう。
明らかに誰かいるであろう物陰に隠れている人に、ロキシーを助けてもらうという考え。
小学生らしい愚直で単純な考え。もし隠れているのが殺し合いに乗っている人物だったらどうするのか。
いや、そんな事を考えるとかではなく、野比のび太はロキシーを助けたかった、ただその一心だった。

「あの、すみません! 誰かいたらちょっと助けて欲しい人がいるんです!」

草陰の背後を覗き見れば、自分よりも小さい女の子に、文字通り天使のような青い髪の女の子。
前者は怯えているようにも見えるが、もし仮にあの戦いを目の当たりにしてしまったのなら仕方ないかもしれない、とのび太は一旦置いといて。
もう片方の天使のような女の子の方だが、何故か焦燥している様子。

「……誰よ、あんた?」
「……ぁ。」

そして、その天使のような女の子の背中は、文字通り痛々しいもので。
助けを求めたのび太は、思わず言葉を失うしか無かった。







あの二人の戦いを、ニンフとベッキーもまた道中で遭遇し、身を隠しながらも目撃はしていた。
片方の黒い魔女の戦いは、文字通り人智を超越した代物だった。
単純に首輪で制限されているなかで、一定の出力を保ったまま戦えている。しかも手傷を負っているにもかかわらず。
そして、あれ程の化け物もいるのだと理解して、その思考は袋小路までに追い詰められていた。

「……悪いわね。助けてあげたいのはやまやま何だけれど……。」
「……うん、ごめん。」

翼をもがれた天使、と言う表現を、文字通り目の当たりにした。
そして、のび太は思わず謝った。もちろん。ニンフとしても今殺されようとしている人物を見捨てて、なんて非情な真似は望むことではない。
だが、宙ぶらりんの希望すら根こそぎ引き千切られて、優勝を考えてベッキーの顔を見てそんな事できないと再確認して。
どうすればいいのか分からない暗闇の行き止まりの中で。誰かを助けるなんて余裕なんて浮かぶはずがないのだ。

「……あんたは、逃げないの? あんな、勝てる気がしない奴相手に。」

そして、魔女の実力は。間違いなく自分どころかイカロスとアストレア三人で力を合わせて勝てるかどうか、そこに万が一カオスが加わったとしても、だ。
万全ではないからこそ、もうひとりの少女は辛うじて拮抗しているように見えているだけで。
それでも、野比のび太という、愚直にも善性を捨てない彼は。

「正直、怖いよ。怖くって、震えそうで、今にも逃げ出したくて。……僕はドジでのろまでバカで、大したことなんて出来ないけどさ。」

彼は無力だ。ひみつ道具に頼るのと、大したことのない魔法しか使えない彼は。
それでも、優しさだけで世界の危機を乗り越えた野比のび太と言う人物は。

「前にさ、泣いてる女の子一人で置いて逃げるしか無かった事があって。すごく嫌で悲しかったからさ。もうそんな事は、嫌ってだけの、そんな大したことのない事だよ。」

たったそれだけの理由で、死ぬかもしれない戦場から、逃げたくないのだ。
怯え黙ったままのベッキーはいつの間にかのび太の言葉に聞き入っていた。
ニンフはのび太の、図太いのか呑気なのか、それとも本当に馬鹿なのか分からなくて、それでも何となく、何となくだが、ニンフにとって大切な『彼』のことを思い返して。

「……ねぇ。のび太って言ったわよね。」
「う、うん。」
「あのあっちの青い髪の子を助けたいってことで良い? ……あんた、何か考えあるの?」

呆れた顔で、何かしら決めたような顔で、ニンフがのび太に語りかける。
少なくとも、ロキシーを助けてくれそうな流れになったかもしれないと、のび太も言葉を綴る。

「それが思いついてたら苦労はしてないかなぁ。僕の支給品だとパソコンみたいなものとかは入ってたけど。」
「パソコン? ……ちょっとそれ見せなさい。……ってこれって量子変換器じゃない!?」

のび太が取り出したパソコンを見せれば、ニンフは思わず眼を丸くした。
人間を他の物体または別人へとメタモルフォーゼさせる装置。一体どうしてこんなものがここにあるのかは分からないが。

「……量子変換器? 確かそんな事説明書に書いてたような……でも単語がよく分からなかったから。」
「わかりやすく言えば、この装置はなんでも変身できる装置ってこと。」

トモキは毎回碌なことにしか使わなかったけど、とニンフが小言で零しながらも説明。
つまるところシンプルに生物だったり無機物だったりに変身できる装置ということである。

「……変身、装置。……! ……ねぇ、お願いがあるんだけど!」
「えっ、ちょっと……?」

変身できる装置。たったそれだけのことだが、それでも希望を掴んだかのようにのび太は叫ぶ。
そしてその内容を、藁にも縋る思いでニンフに話し始めるのであった。








「はぁ……はぁ……うぅ……」

何度身体を引き裂かれた感覚を味わったのか。
何度焼かれる感覚を味わったのか。
何度、あの魔女の攻撃を受けたのか、既にロキシーはそんな事を気にする余裕すら無かった。

(……のび太さんは、いつの間にか逃げたのでしょうか……でも、そうだったら良かったかもしれません)

気にかけるのはいつの間にか姿がいなくなっていた野比のび太のことだ。
変な少年ではあったが、この戦場から無事逃げてくれたというのならほんの少しだけ重荷が軽くなった気がした。

(せめて、大きいのを一発でも食らわせれば、離脱までなら何とか……)

全てが埒外なあの魔女をなんとかするには、手傷を追わせて逃げる余裕を作るなら王級か聖級の魔術を持ち出さないと何とかならない。
だが、問題は魔女がそれを素直に許してくれるかどうか。自分では詠唱か魔法陣が必須であろう魔術を相手は無詠唱で唱えて打ち出してくる。
詠唱短縮やら無詠唱やらはルーデウスが抜きん出ていたと思っていたが、その気になれば王級レベルすら無詠唱でぶっ放しかねない相手にそんな時間を自分一人だけでは稼ぐことは不可能だ。

「もうおしまい?」
「……ッ?!」

だが、魔女リーゼロッテは、そんな思考の余地すら見逃さない。
両手を掲げ、宙に浮かび上がるは巨大な黒い魔力の球体。

(この大きさ……嘘でしょ……!?)

絶句した。このクラス、もはや王級どころか帝級の魔法。
今の自分ではこんなもの食らったら一溜まりもない。氷壁を貼った所で氷細工の如く削り取られ消し飛んでしまう。

(やってやりますよ。こっちだってこんな所で死にたくないですから!!!)

だが、だからと言って諦めるつもりなんて全くない。
だったらやるだけやって生き延びる。もしかしたらルーデウスがいるかも知れないこの地獄の舞台の中で。
そして再び、ルーデウスと再開できるかもしれないその時まで。死ぬわけには行かない。
幸か不幸か、傷が癒えていない影響か、リーゼロッテのあの魔力弾には溜めがいるらしい。だったらぶっつけ本番の一か八か。

「――落ちる雫を散らしめし、世界は水で覆われん。『水蒸(ウォータースプラッシュ)』!」

まず唱えるのは対して威力のないウォータースプラッシュ。
もちろんあの魔女にこんな事でダメージを与えられるなんて考えてないし、あの攻撃を防げるとも考えていない。相手の溜めに時間がかかっているからこその、我武者羅の思いつき。

「天より舞い降りし蒼き女神よ、その錫杖を振るいて世界を凍りつかせん! 『氷結領域(アイシクルフィールド)』!」
「……何を企んでいるかはわからないけれど……これで終わりよ。」

そしてもう一つ。周囲の気温を下げる魔術『氷結領域(アイシクルフィールド)』を間髪入れずに唱えて発動。水滴が数粒でも飛んで残っているのさえあればそれでいい。
その直後に、溜めが終わったであろうリーゼロッテも魔力球も振り下ろされ、ロキシーの、彼女が放った水滴ごと飲み込まんと墜ちてくる。

だが、魔力球が水滴に触れた瞬間。
魔力球がピシピシと音を上げて固まり始めて、そして拒絶するかのように弾け、爆発した。

この時ロキシーが使った魔術の組み合わせは、偶然か必然か。
後の未来にルーデウスがロキシーを助けるために使用した魔術。
『水蒸(ウォータースプラッシュ)』で付着した水滴を、『氷結領域(アイシクルフィールド)』で冷やして、水滴が付着した対象を凍結させる。―――その術の名は『フロストノヴァ』と言う。

「「……!」」

周囲一体に爆煙が立ち込め、ロキシーも、リーゼロッテもそれに呑まれてお互いの姿を見失うのに、そう時間はかからなかった。







□ □ □


「………やってくれたわね。」

煙を晴らして、周囲を見渡したのはリーゼロッテ。
爆発の余波で既に草木の類の一部は消し飛んでいる。
元々山岳地帯が近いこの場所で身体を隠せるほどの草原は少ない。
そしてやはり、首輪によって科せられた制限というのは忌々しいものだと思い返す。

「あの土壇場でよく機転が利いたものね。」

魔術を組み合わせの相殺。幾ら手負いかつ、普段とは違って溜めなければいけなかったとはいえ。
それでもあれを防げたというのは素直に称賛もしたくなる。
だが、さっきので相手も消耗したが。こちらは大した消耗ではない。
そして何となく首輪周りの制限のあり方を掴むことが出来た。

制約は基本として出力に科せられる。殺し合いを破綻しかねない、それこそ会場を破壊するレベルの威力は出せないようになっている。
例えれば蛇口が狭ばめられている、ということではある。だが、元から蛇口が大きければ小さくされても一定の出力は見込めるし。出力は抑えられも総魔力量を盛大に減らされているわけではない。
つまるところ、制限さえ見極められれば『幻燈結界(ファンタズマゴリア)』も問題なく使える、ということ。

だが、まずやるべきことはさっきの魔術師を殺すこと。
そしてその次に、機嫌を損ねてくれたのび太というガキを殺す。
当たりを見合わして、魔力の気配らしきものは感じられない。
先の相殺で相手だけ死んだのか? いや、油断は禁物。気を抜いたらあの虫を食らった時の二の舞いになりかねない。
冷静に、警戒を怠らず、目を凝らせば。――映り込むは青い髪の少女。

「……しまっ!?」
「――見つけた。」

杖は持っていない。どうやら何処かで落としたか消し飛んだか。
都合がいい、今度は仕留めると、黒炎を生み出し、投げるように打ち出す。
だが、黒炎がぶつかるかどうかの直前で、小さい少女に突き飛ばされて、回避される。

「……運がいいわね。でも、次はそうは……!?」

少女の姿が、眼鏡の少年へと変化したのだ。

「あ、ありがとうベッキーちゃん……本当に死んだかと思ったよぉ~」
「わ、私だって怖かったんだから……」

変化した姿は、紛れもなく野比のび太と名乗った少年。
そして片方は、ベッキーと呼ばれたのび太よりも小さな少女。

「……変身魔術ですって?」

見つけた少女がのび太が変身した姿だったことに、リーゼロッテも思わず瞠目した。
いや、そんな事はどうでもいい。ではいま彼女は何処にいる?
見つからないのなら、今優先すべきはと、目の前ののび太と少女に向けて魔力を打ち出そうとするも。




――――超々超音波振動子(パラダイス=ソング)!!


              「雄大なる水の精霊にして、天に上がりし雷帝の王子よ」



「な、ぁ……!?」

頭に響く煩わしい振動。歌声のごとき音波攻撃。
集中を乱され、構築した魔力は曇る空へと飛んでいく。

「面倒、な……!」

第三者の妨害。だが姿は何処にも見えない。
一体何処から仕掛けてきているのか、だがこの状態ではそれを探すのも困難。

              「我が願いを叶え、凶暴なる恵みをもたらし、矮小なる存在に力を見せつけよ」

「……邪魔を、するなぁ――!」

周囲を焼き尽くさんと、黒い火球が周辺へと降り注ぐ。
巻き込まれそうになるのび太とベッキーを連れ出すように、天使の少女が、有機的な白い翼をはためかせて羽ばたき舞う。

「……ただの輪っかだと思ってたけれど、意外に似合うわ、これ!」

翼を失ったはずのニンフが、別の翼を携えて飛んでいた。
のび太の支給品にあった謎の輪っか。その正体は帝国イェーガーズ所属の帝具使いランの帝具。『万里飛翔「マスティマ」』
円盤状のパーツに翼が付着したこれは、背中につけることで空を自在に飛ぶことが可能となる。
あり方が違う以上演算能力の回復とまではいかないが、翼を喪ったニンフにとっては格好の、第二の翼となりうる代物であった。









              「神なる金槌を金床に打ち付けて畏怖を示し、大地を水で埋め尽くせ」


「……良くも舐めた真似を。」

ダメージは全く持って与えられなかったが、先の頭の煩わしさがあの天使だということがわかっただけでも成果はあった。
そして同時に、怒りが湧いた。天使という神の使いが来るのかと。
いくら祈っても、自分を救ってくれなかった神の、その使いが今更になって。
滑稽であり、笑い話であり、腹が立つ。

「―――燃やし尽くしてくれる。」

怒りに塗れ、曇る空すら気にせず魔力を打ち出す。天使は二人を守りながらも避け続ける。

「星をも隠れた曇り空の下で永遠の闇に墜ちなさい―――曇り、空?」

啖呵を切ろうとして、ふと違和感に気づいた
曇り空? いつの間に星が見えづらくなるほどの曇天になった?
それに気づいた時には、既に雨が降っている。

「……あの魔術師は――!」

そうだ、あの青い髪の魔術師の行方。
のび太の変身と天使の妨害で忘れていたが、彼女は一体何を仕込んだ?
もしかすれば、のび太があの彼女に変身していた時点で、既に。


「ああ、雨よ………全てを押し流し、あらゆるものを駆逐せよ」

そして、リーゼロッテは見つける。一心不乱に詠唱する青の魔術師。ロキシーの姿を。
ボロボロの身体ながら、いつの間にか合流したのび太に支えられながら。

「……!!!!!」
「―――キュムロニンバス!」

唱えられた言葉に呼応して、暗雲は集い、轟雷は鳴り響き。
魔女へと向けて、雷光が墜ちた。

「――――!!!!!!」

魔女が何かを叫び、カードのようなものを発動したように見えて。
そのカードが燃え尽きたと同時に、魔女もまた彼方に墜ちた。








「確かに隙を作って欲しいとは思っていましたが……それはそれとして命知らず過ぎて冷や汗かきましたよのび太さん!」
「あうっ!」

魔女との激闘は終わり、その最大の功績者たるのび太は。
その生死スレスレの行動をロキシーに咎められていた。

「大体、私のことなんて気にせずあなただけ逃げても良かったはずですのに。どうしてそんな無茶をしてくれるのやら。」
「だ、だってロキシーさんが怪我したのは僕のせいみたいなものだから……。」
「……考え無しなのかよく考えてなのか、いまいち判断しかねます。今後、そんな無茶はしないように。」
「ふぁ、ふぁい……。」

傍から見れば生徒が教師に説教食らっている光景。
杖でコツンと叩かれ伸びているのび太の姿が妙に微笑ましいものだ。

「……その無茶っぷりだけは、一体何処に誰に似たのやら。」
「なんだか、先生に怒られてるアーニャちゃんみたい。」

そんな光景を、呆れながらも眺めるのはニンフとベッキー。
ある意味この二人も先の戦いの功績者だ。量子変換器の使い方をニンフは熟知していた事で、のび太が自分をロキシーに変身させて、リーゼロッテを撹乱した。
その結果死にかけてのはなんというかであるが、実際その点で現在のび太はロキシーの説教を食らっているわけである。
ロキシーは大魔術を唱えるタイミングを見計らっており、その点においてはのび太の無茶は最大のチャンスであった。結果あの魔女に一発食らわすことが出来たのだから。

「……あいつ、何やってんだか。……まあ、でも。」

少しは気が晴れた、とニンフは内心いい気分ではあった。
翼を再び失って、全てが手遅れになりかねない状況下で、多少は前向きになれたのは。
何はともあれあの野比のび太という少年のお陰だ。そこだけは感謝しても良かったと思っている。
翼の事は何も解決していないし、結局間に合わなかったらどうしよう、だなんて思うことはあるけれど。
まだ諦めていないであろうみんなの事を考えて、やはりこんな所で燻ってる訳にはいかないと、そう思ったのだ。

「ニンフちゃん、ちょっと嬉しそう。」
「……かもね。私自身は、問題山積みなんだけど。」

周囲の気分が緩んでか、曇っていたベッキーも心なしか多少の明るさを取り戻してはいた。
それでも、罪悪感だとか、不安だとか、まだ残っているにしても。
それはそれとして、ロキシーの説教はこのままだと長引きそうなので、ニンフがのび太への用事も兼ねて声を掛ける。

「まあまあ、説教そのぐらいにして、早く図書館に移動しなくてもいいの? 何であれ、助かったのこいつのお陰なんだし。」
「……それは、そうですね。失礼しました。助けてくれた事は感謝しますが。兎も角今後これ以上の無茶はしないように。のび太さんは私なんかよりもよっぽど非力なんですからね!」

多少顔が緩んだような捨て台詞じみた言葉で、ロキシーの説教は一旦止む。
これは図書館に付いたら説教の続きが待ち受けていそうだなと思いながら、解放されたのび太の顔をニンフが覗き込む。

「……ありがと、のび太。あんたのお陰で、……ちょっとは立ち直れたから。」
「えっ、あの……立ち直れたって、そんな事、僕はただロキシーさん助けること考えてたし。何というか都合の悪い時に声かけちゃったのちょっと申し訳ないなぁって……あはは。」

素直なお礼。少なくとも、燻ってるよりはマシだとなったのは、間違いなくこののび太という少年のお陰だろう。過程はどうであれ、何だかんだでこうなったのだから、まあ何も問題はない。
そういえば、まだ自分の名前は言ってなかったと思い出して、のび太に自分の名前を教えようとして―――










「え?」
「―――!? 来たれ冬のせいれ―――――」










彼らのもとに、燃え盛る黒い不死鳥が舞い降りて、飲み込んだのは、その直後のこと。






□ □ □

「……ええ、本当に。忌々しい舞台ね。」

焼けた肌が、時間が逆転したかのように再生していく。
それでもいつもと比べれば遅い。油断した、格下だと思って慢心していた。
『体力増強剤スーパーZ』――それを使っていなければ致命傷どころの話ではなかった。
だが、油断しきっていたのは相手も同じ。苦し紛れに放った、何となくで不死鳥を模した炎。
これで何人仕留められたかは分からないが、多少は溜飲を下げる事は出来ただろう。

『……でも、何だか早く楽になりたいって顔してそうな気がするんだ。』

だが、今でも反響する。野比のび太という少年の言葉が。

「ええ。何も、何も間違ってはいないわよ。」

図星ではある。そして心の奥底を覗かれたような不快感も同時に感じた。
そうだ、愛しの人が、ヴェラードが死んだあの日から己の虚無は幕を開けた。
真の孤独の中、信頼できる者などいない永遠の不死を、たった独りで生きなければならない。
彼の夢想は、絶望と復讐に塗れたものとして魔女の引き継がれた。

「――だから全て滅ぼすのよ。――私もろとも、全てを。」

彼の望んだ人類鏖殺の為。長きにわたる不死という地獄を終わらせるため。
再燃した復讐の炎は止むことはなく。全てが終われば、愛しき人とまた出会えるのか。
過去も、未来も、償いも贖いも、彼女の奥底に沈み、荼毘へと付して、誰にもわからないまま。

「止めてみるというのなら、止めてみなさい。どうせ無理でしょうけれど。」

そう呟いた、渇ききった言葉に込められた真意を、発言した本人ですら知りもせず、乾いて舞台の風に吹かれて消えていった。

【一日目/深夜/D-6】
【リーゼロッテ・ヴェルクマイスター@11eyes -罪と罰と贖いの少女-】
[状態]:ダメージ(極大、再生中)
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、ランダム支給品×2、羽蛾のランドセルと基本支給品、寄生虫パラサイド@遊戯王デュエルモンスターズ(使用不可)
[思考・状況]基本方針:優勝する。
1:羽蛾は見つけ次第殺す。
2:野比のび太も見つけ次第殺す。
[備考]
参戦時期は皐月駆との交戦直前です。
不死性及び、能力に制限が掛かっています。












……間に合ったのでしょうか。

多分、詠唱は間に合わなかったはずです。

何とも情けない話ですが、無茶をするなと彼に言った途端にこれですか。

私も、人のことは言えないみたいです。

指一本も動かせないでしょうし、まともに前が見えません。

「ロキシーさん! しっかりして!」

ああもう、仕方ないとは言え泣かないでください。

流石にこればっかりは私の責任です。

全く、らしくもないことはしない方は良いですよ。本当に。

あの青い髪の人は……無事みたいですね。
もう片方は……カード、みたいなものを持って、あれのお陰でしょうか?
でももう、彼女はおそらく。

なんで、こんな事をしてしまったのか。
どうして、彼は私を見捨てなかったのか。
ルーデウスも、もし同じ状況だったのなら、同じことをしていたのでしょうか?



……ああ、こんな時に考え事なんてしちゃダメみたいです。
のび太さん、多分聞こえてるかどうかはわかりませんし、ちゃんと喋れてるかどうかもわかりませんが。
もし、もしルーデウスがいたら、一言お礼を言ってくれると助かります。




……なんて。本当は自分で伝えたかったのに。
死にたくなんてなかったのに。

どうして、こんな事しちゃったのかなぁ。






――ルーデウスさん。私はもうあなたには会えませんが。
あなたが無事でいてくれることを、私は向こう側で願ってますから。
……どうか。自棄にならないでください。
あなたは、やればできる子なんですから。



【ロキシー・ミグルティア@無職転生-異世界行ったら本気だす- 死亡】














「……ごめんね、ニンフさん。―――これしか、思いつかなかったから。」








通常罠カード。デストラクト・ポーション。
本来であれば、自分フィールド状に存在するモンスター1体を選択。
選択したモンスターを破壊することで、破壊したモンスターの攻撃力分、自分のライフを回復することができる。
この殺し合いの舞台において、回復させる対象は別に自分でなくても構わない。その代わりに破壊対象に使用者自身を選択することが出来る処置がされている。

魔女の不意打ちに対して、ロキシーはのび太を庇い死亡して。
ニンフとベッキーは両者ともダメージを負った。ニンフは兎も角、ベッキー・ブラックベルは完全な致命傷だった。

悔やんでいたことは一つ。ベッキーが対応に遅れたせいで、あの悪魔みたいな巨大な少女にニンフの翼が毟られてしまったこと。
強い言葉を浴びせられたことを、ベッキーは心残りとしてこびり着いていた。
それがこの選択に至ったのだろう。その結果が、この結末だろう。
デストラクト・ポーションでの破壊対象に、ベッキーは自分と支給品全てを対象とした。
そして回復させる対象にニンフを選択した。
助かる命ではなかった事は自覚していた、だからこんな事をした。
せめて、本当の翼をはためかせて飛ぶニンフの姿を、アーニャと一緒に見たかったなんて、下らない願いを今際の際に思い浮かべて。
ベッキー・ブラックベルの思考は、その生命と共に消えた。たった独りの天使の未来の可能性を繋ぎ止めた、その上で。



【ベッキー・ブラックベル@SPY×FAMILY 死亡】






□ □ □


「………ロキシーさん。……スネ夫……。」
「………バカ、そんな事、まだ気になんてして……。なんで、なんでよ……。」

項垂れる二人。それぞれの死体を見つめて泣き崩れる二人。
死体の片方は黒ずんで、誰だったのかすら見当もつかない。
もう片方の死体は、全身がほぼ焼けただれ、かつその片腕に辛うじて文字が分かるカード。
そしてついさっき、海馬乃亜による新しい放送と、これまでに死んだ参加者の名前が告げられた。
ロキシーの死の次に、元の世界の友人たる骨川スネ夫の名前が告げられた。
余りにもぐちゃぐちゃした、悲しみと怒りの感情が渦巻いて、のび太は泣くことすら忘れて呆然としていた
ニンフは再び『誰か』の死を目の当たりにした。友達の次に、友だちになれそうだったかもしれない少女。
どうしようもなく心が壊れない限り、喪失に慣れることはない。それが人間でも、エンジェロイドでも。

――雨が降っている。悲しみが雨となって大地に降り注いでいる
ポツポツと降り注ぐ雨と、焼けた戦場の跡地にイリヤスフィールが訪れていた。
けたたましい轟音と爆音に、いてもたってもいられず訪れてみれば。
そこに残っていたのは凄惨な戦いの結末、遺された二人。

沈痛な雰囲気に、イリヤも、雪華綺晶も沈黙するしか無かった
犠牲の上に未来を繋ぎ止めたのび太とニンフの表情は、今にも落ちてきそうな空の如く、悲しみに暮れて。
少し時間が経って、涙を拭って。

「……止めないと、こんな殺し合い。絶対に。」
「そうね。こんな下らないことぶっ潰して、元の世界に帰る。」

二人の言葉が木霊する。
悲しみも怒りも飲み込んで、拭いきれない後悔を背負って。
それでも、止まる訳にはいかないと。

「……ねぇ。殺し合いを止めたいっていうんだったら、私も手伝ってもいいかな?」

そんな二人に、少しだけ安心して。
魔法少女は、二人に声を掛けた。



※周辺に雨が降っています
【一日目/深夜/D-6とD-7の間】
【野比のび太@ドラえもん 】
[状態]:健康、深い悲しみ、強い決意
[装備]:なし
[道具]:基本支給品、量子変換器@そらのおとしもの、ラヴMAXグレード@ToLOVEる-ダークネス-
[思考・状況]基本方針:殺し合いを止める。生きて帰る
1:ロキシーさん……
2:もしかしてこの殺し合い、ギガゾンビが関わってる?
[備考]
※いくつかの劇場版を経験しています。
※チンカラホイと唱えると、スカート程度の重さを浮かせることができます。
「やったぜ!!」BYドラえもん
※四次元ランドセルから、この殺し合いに未来人(おそらくギガゾンビ)が関わってると考察しています


【ニンフ@そらのおとしもの】
[状態]:全身にダメージ(中)、羽なし(再生中)、羽がないことによる能力低下
[装備]:万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る
[道具]:基本支給品、ランダム支給品1~3
[思考・状況]基本方針:殺し合いをぶっ壊して、元の世界に帰る
1:リンリン(名前は知らない)はぐちゃぐちゃにしてやりたい
2:元の世界のトモキ達が心配、生きててほしいけど……。
3:ベッキー……あんた、なんで
[備考]
※原作19巻「虚無!!」にて、守形が死亡した直後からの参戦です。
※SPY×FAMILY世界を、ベッキー視点から聞き出しました。ベッキーを別世界の人間ではと推測しています。
※制限とは別に、羽がなくなった事で能力が低下しています。


【雪華綺晶@ローゼンメイデン】
[状態]:健康、イリヤと契約。
[装備]:なし
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品0~1
[思考・状況]
基本方針:真紅お姉様の意志を継ぎ。殺し合いに反抗する。
1:殺し合いに反抗する。
2:イリヤを守る。
[備考]
※YJ版原作最終話にて、目覚める直前から参戦です。
※イリヤと媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※Nのフィールドへの立ち入りは制限されています。
※真紅のボディを使用しており、既にアストラル体でないため、原作よりもパワーダウンしています。

【イリヤスフィール・フォン・アインツベルン@@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ】
[状態]:健康、雪華綺晶と契約。
[装備]:カレイドステッキ・サファイア@Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[道具]:基本支給品一式、ランダム支給品1~3、クラスカード『アサシン』Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ
[思考・状況]
基本方針:殺し合いから脱出して、美遊を助けに行く。
1:殺し合いを止める。
2:雪華綺晶ちゃんとサファイアを守る。
3:リップ君は止めたい。
4:目の間の二人と話してみる。殺し合いを止めるって言ったから協力できるかも
[備考]
※ドライ!!!四巻以降から参戦です。
※雪華綺晶と媒介(ミーディアム)としての契約を交わしました。
※クラスカードは一度使用すると二時間使用不能となります。


【支給品紹介】
『量子変換器@そらのおとしもの』
野比のび太に支給。対象を無機物または別の人物に変身させる機能を持った、パソコンみたいな形状の装置。ただし変身対象の精神が不安定になると変身が解けてしまうという欠点がある。
この殺し合いにおいては一定時間経過(30分~1時間)経過で勝手に変身は解除される


『ラヴMAXグレード@To LOVEる―とらぶる― ダークネス』
野比のび太に支給。極めて効果の高い媚薬作用のある香水。嗅げばあっという間に目の前の相手に欲情する。特に地球人には強く効きすぎてしまう。


『万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る!』
イェーガーズ所属のランが所有する帝具。野比のび太に支給で現在はニンフが所有。
一対の翼がついた円盤状の帝具で、背中に装備することで空を自在に飛ぶことが可能。
高速移動とホバリング可能で、翼で敵を薙ぎ払ったり、羽を発射したり出来る。
円盤パーツを分解して出力を上げ、光の翼で敵の攻撃を跳ね返す「神の羽根」という奥の手が存在する。

ただし長時間の飛行が不可能(30分の飛翔で2時間の休息が必要)だったり、遠距離系の武器とは相性が悪かったりする。


『体力増強剤スーパーZ@遊戯王デュエルモンスターズ』
リーゼロッテ・ヴェルクマイスターに支給。
自分が一定ダメージを受ける直前に、食らうダメージ分の2倍分の体力を回復する。
本来ならば2000以上の戦闘ダメージを受ける場合に、そのダメージを受ける直前に4000ライフを回復する通常罠。現在は使用済みでもう使用不可。

『デストラクト・ポーション@遊戯王5'ds』
ベッキー・ブラックベルに支給。本来ならば自分の場のモンスターを破壊してその攻撃力分自分のライフを回復する通常罠。
ただしこの殺し合いでは破壊対象に使用者自身を、回復対象に別の人物を指定することが出来る。デュエルモンスターズカード及び意志持ち支給品も破壊対象に選択可能。
ただし、回復指定対象のダメージ次第で回復に時間が掛かる。現在は使用済みでもう使用不可。



017:水平線の向こう側へ 投下順に読む 019:進め卑怯者
時系列順に読む
108(候補作採用話):その魔女は災厄 リーゼロッテ・ヴェルクマイスター 040:不安の種
106(候補作採用話):その魔法、純白トロイメライ 野比のび太 032:君がいてくれるなら
ロキシー・ミグルティア GAME OVER
161(候補作採用話):絶対強者 ニンフ 032:君がいてくれるなら
ベッキー・ブラックベル GAME OVER
113(候補作採用話):ここから、始めよう イリヤスフィール・フォン・アインツベルン 032:君がいてくれるなら
雪華綺晶

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