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「ちょっとムカついちゃうわね!」

ぷくっと頬を膨らませ、愛らしい声でグレーテルは愚痴を吐き出した。
先ほど放送された乃亜のお叱りが、思いのほかグレーテルの勘に触ったのが原因だ。
ろくに殺せていない。
なるほど、だが確かに言われてみれば否定できないのも事実。
この殺人競争でグレーテルがやったことは、最初のロシア人よりはマシな軍人らしき男の子を殺した事だけだ。
兄様たるヘンゼルはもっと殺して大差を付けているかもしれない。
もっとポイントを稼がないと。

「ねえ悔しいと思わない?」

「……別に」

賛同を求められながら、クロエ、クロエ・フォン・アインツベルンはこいつ馬鹿なんじゃないかと頭を痛めていた。
乃亜の言っていた馬鹿な女の子。それは恐らく、美遊のことだろうと思っていたし気分は悪い。殴れるなら殴るだけ殴って乃亜の奴を殺してやりたいが、それでも乃亜に反旗を翻そうとは思えない。
クロとて自分が死にたくない為に殺し合いに乗っている。乃亜に怒る資格はない。
それとは別に、マーダーの煽りも別に聞く必要はないと考えていた。
優勝するのが目的でその為に参加者を減らすのは大事だが、最終的に生き残れば勝ちのゲームだ。わざわざ殺した数を気にする必要なんて───。

「貴女、ヴァージンね?」
「歳、考えてくれる?」
「あら? 私なんて、ヤリまくりだったわ。今時の娘にしては遅れてるのね」

ロリビッチという単語がクロの頭に浮かぶ。けれども、それが世のロリコンが喜ぶような代物ではないのも理解していた。
この娘はもう何処かで壊れているのだ。何があったかは知らないが、世界の裏側に放り込まれ壊されてしまった娘。
救う手立てはなく、あるとすれば死こそがこの先散らされていく多くの命と、この少女自身の救済にもなる。そんな極限までに壊され戻れなくされた少女。

「そういう意味じゃない事は、分かっているでしょう?」

気配を消して、すっと素早くグレーテルはクロを抱擁した。
これらの殺しに通じる技量も非常に高い。だが、粗削りで我流で得たものだとクロの英霊(ちょっかん)が判断する。
技が磨かれておらず、研鑽されていない。生活の中で必要だから、無意識の内に身に着けた能力であって誰かから師事されたものではない。それでも高い水準にはある為、才もあれば場数も踏んだのだろうが。
グレーテルの力は知っている。全身を鋼鉄の刃物に変える能力だ。
やろうとすれば、クロをこのまま刃に変えた全身で引き裂く事も可能。
だが、常に全身が刃物になっている訳ではない。一定の切り替えが行える。硬さなどの耐久値は鋼鉄の性質を維持したまま、非戦闘時は通常の人の体として運用できる。
逆に言えば、非戦闘時から攻撃に切り替えるまでにほんの僅かにラグが生まれる。
そのラグの間にクロがグレーテルを斬り裂き、返り討ちにすることは十分可能だった。
鋼鉄を破る剣も脳内にイメージし、それを扱う技量もある。
だから、グレーテルが殺しに来ることをクロは熱烈に望んでいた。殺す理由が欲しかったから。

「まだ誰も殺した事がないのね」

耳に吐息が掛かり唇の動きが伝わってくるほどの至近距離でグレーテルは囁く。

「ええ、分かるわよ。私達もそうだったの。そういう顔をしていたの」

ちゅっと、水音と共に粘膜が頬に触れる。クロの褐色の肌に口付けをし、グレーテルは頬を赤らめていた。

「可愛いわ。お姉さん、貴女とても可愛いわよ」

からかわれていた。遊ばれていた。ふざけられていた。
クロがグレーテルを何時でも殺せるのを見越した上で、その理由をチラつかせてクロの反応を見て楽しんでいる。

「うるさい……!」

まるで水の中を、亡霊に足を引かれ沈められているようだった。


───


「海馬ランドにアルトカラズまで…乃亜の奴……!」

放送を聞き終えて、海馬モクバは憤っていた。
15人の新たな死者に加えて、モクバと海馬の夢である海馬ランドをこんな殺し合いに持ち込んだことに。

「施設を増やすと言っておったが、それは本当に施設を新しく作って増やしたのか? お前はどう思っておるのじゃ?」

ドロテアが気にしたのは乃亜の口ぶりだ。
この地図に記載された施設の表示を増やすのではなく、施設を増やすと言ったのだ。
言葉通りの意味なら、そのまんま施設を新たに建設したような言い方になる・

「多分マジで増やしたんだと思う……」

ここが電脳の世界ならかつてのBIG5との諍いの場のように、乃亜の自由自在に操作出来るだろう。
しかし、モクバにとっても一つ気になる点があった。

『人間の身体を昏睡させたまま保存するのは中々骨が折れるわ』

放送前に合流し情報交換後に分かれた風見一姫という少女。
一姫の明晰な頭脳を前にし、モクバも確証は持てないまま電脳世界という仮説を伝えた。
それに対し、元々タナトス・システムに繋がれていた経験から、殺し合いに巻き込んだ90人近くを接続するのは考え難いと話す。
奇遇にもそれは、キウルがルサルカから聞かされた推測とほぼ同じ内容。

『実体験から言っているの。どう? 説得力は増したでしょう』

一姫の言うようにこれだけの人数を機械に接続するのは、海馬コーポレーションの技術でも難しい。

『もっとも、私や貴方の知らない未知の技術が使われているかもしれないけど』

考えられる想定は無限だが、その中から的を絞っていかなければならない。

(だけど、乃亜は俺の世界の住人だ。技術の基になってるのは、海馬コーポレーションから流用してるはず……)

使いようによっては30日で人類を滅ぼせるオーバーテクノロジーだ。これを使わない手はない。
1から全てのシステムを再構築するのはいくら乃亜でも難しい。というより無理だろう。
モクバもシステム開発の難しさは理解している。通常のシステムだって、様々な技術を流用して骨組みを作り出すものだ。
そこに異世界の技術や、ドロテアの言う錬金術、一姫が出会ったフリーレンというエルフの言う魔法。
他にも数々の異能が介入するのであれば猶更、白紙から絵を描くより骨組みから肉付けしていかなければ、システムとしての方向性も定まらない。

(……この手があいつに通じるか、だな)

青眼のカードを手に取り、モクバは見つめる。
ドロテアが言うにはカードから特殊な力を感じるらしい。
だが、果たしてカードがそれ単独の力で実体化するのだろうか?
ドーマの暗躍で、モンスターが実体化する現象は記憶に新しい。それで海馬コーポレーションの株価は下がったのだ。とんだ風評被害だ。
電脳世界ではないという前提で、ではこの世界がドーマや千年アイテムのような力が蔓延った空間でモンスターが実体を得るのだろうか?
しかし、解せないのはカードの使用に時間制限があることだ。ゲームとしては当然のデメリットかもしれないが、そう簡単にモンスターの力を制御できるものなのか。

(海馬コーポレーションのソリッドビジョンシステムが、ここでのモンスター実体化のシステムに流用されているとしたら?
 このカード自体に何かしらのテキストデータが含まれているんじゃないか)

殺し合いに合わせてデュエルモンスターズを実体化し、特殊な効果も再現しているのならカードからデータを読み取っている可能性は高いとモクバは予想する。

(カードのデータにウィルスを持たせて、この殺し合いに関わるシステムを破壊する。
ジークがやっていた手だけど……)

ドーマの風評被害やその他諸々の損害と損失を取り戻す為に、海馬コーポレーションはKCグランプリを開いた。
だがそれに付け込んで、海馬瀬人を逆恨みするジークフリード・フォン・シュレイダーが大会に潜入し、あろうことか使用不能カード「シュトロームベルクの金の城」を使えるようシステムを改造し、更には発動後に海馬コーポレーションのプログラムにウィルスが発生するよう仕込まれていた。
その時は海馬とモクバの迅速な対応で最低限の損害で済み、遊戯が機転を利かせデュエル内で「シュトロームベルクの金の城」を破壊した事で、ジークの目論見も頓挫したが。
それと同じように、カードの実体化を管理するシステムから、ウィルスを送り付けることが出来れば乃亜に大打撃を与えられるかもしれない。
場合によっては、同じようにシステムで管理されているであろう首輪の制御も乗っ取れる。

(首輪の解析もだが、カードの解析も必要だ)

青眼は戦力として貴重過ぎる為に、下手に使えないが下級モンスターであれば実験に召喚して見ても良いかもしれない。
そしてモンスター召喚のメカニズムを把握し、そこからウィルスを送り込む。

(ドロテアには伝えておくか)

監視カメラに気付かれないよう、メモにそれらの仮説を書き込みドロテアへと渡す。
ドロテアも呑み込みは早く、既にIT関連の仕組みには明るくなっていた。

(───ほう、中々面白い案じゃの)

それらの仮説も一通り中身を確認し、ドロテアは静かにほくそ笑む。


「僕は死んだ中島以外、知り合いは居なかったよ」

その横で、名簿の確認を終えたカツオが報告するように呟く。
ドロテアは特別親しい子供も居ないようなので、名簿を雑に流し見しただけだがカツオは家族や友人がいないか、何度も見返していた。

「そっか、中島の事は残念だけど…他に知り合いが居なくて良かったな」
「モクバ君は大丈夫なのかい?」
「いや…インセクター羽蛾は別に……それにしても、この龍亞って誰だよ?」

カツオと中島の名前が並んでいた事から知人同士を纏めて記載していると思っていたが、モクバと同じ列に並ぶ最後の名前だけが全く見覚えがない。
知り合いにこんな名前はなく、ならデュエルで優秀な成績を残した子供かとも思ったがやはり心当たりはない。

「知り合いだけではなく、同じ世界の住人を纏めているというのはどうじゃ?」
「ありえる話だな」

自分と羽蛾だけならともかく、全く無関係の子供まで連れて来られた事に怒りが込み上げてくる。
何とかして、乃亜の元に乗り込みぶん殴ってでももう一度人の心を取り戻してやらなくてはならない。

「急ごう。海馬コーポレーションへ」

ウィルスカードを作るにあたって、やはり機材の調達先としての有力候補は海馬コーポレーション。
乃亜がこちらの思惑に気付いて禁止エリアにされる前に、何とかカードの解析を終えるかウィルスカード作成のヒントを掴んでおきたいところだった。

「……モクバ君は凄いな。会社の副社長なんだろ?
 Amazonとか東芝みたいな大手企業なんだよね」

歩きながら、カツオが口を開く。
カツオからすれば、あまりにも現実味のないモクバの境遇には感嘆しかない。
だからこういう殺し合いの場でも、冷静に行動できるのかと尊敬すらしてしまう。

「兄サマのおかげさ。俺は兄サマを手伝ってるだけで、そんな大したことはしてないぜ」
「副社長なんて、僕からしたら神様みたいなもんだよ。部下だって一杯居るしさ。
僕なんてしょっちゅう父さんに怒られるし、姉さんには追い掛け回されるんだ」
「……俺からすると、そっちのが羨ましいぜ」
「えぇ!?」
「俺、両親が死んじゃって本当の父親に怒られることも……もうないから」

そこまで話掛けて、モクバはふと我に返る。
こんな話を聞かされたって、面白くもなんともない。
カツオも気まずそうにしていた。

「だ…だから、兄サマと俺には夢があるんだ。親のいない子供や恵まれた子供達が楽しんで遊べるような遊園地を世界中に作ってやるんだぜぃ!」

ただでさえ殺し合いなんかに巻き込まれ暗い気分なのだ。もっと前向きな明るい話に繋げようと、兄弟二人の夢について口にした。

「そう、貴方も孤児なのね」

幼い少女のあどけなさと陽気さが入れ混じった声だった。
本当に声だけなら天使のような。
でも、それが天使の声帯を持っただけの飢えた肉食獣なのはすぐに分かった。
彫りのある整った美顔、喪服のような黒いドレスと白銀の長髪がマッチし少女の神秘さを醸し出す。
ただの一点、べたりとこびり付いた赤黒い血を除いては。
しかもその血は乾き出している。だから見積もって、数時間前に殺害したということになるが、その間この少女は一切血を洗い流そうとかそういった考えをせずに、今この瞬間モクバ達に見せ付けるように微笑んでいる。

「奇遇ね。私もなのよ。
 見たところ日本人だけど、ルーマニアやシチリアなんかに比べればマシかしら。
 治安がいいと聞くものね」

「っ……」

少女の隣に居るもう一人の褐色の少女クロは眉を歪ませて、改めてこの血塗れのグレーテルを目にした。
恐らくは出会ってから初めて、同じ人間としての視線をグレーテルに送る。
この少女が壊れたルーツの一端を目の当たりにした気がした。

「……ルーマニア?」

「モクバ」

呆けたように呟くモクバに二人の少女を見比べ、品定めを済ませたドロテアが声を掛ける。


「厄介なのは喪服、強いのは色黒じゃ」

その意味合いをモクバはすぐに理解した。
見た通り、殺しに抵抗はないのがグレーテル。逆にまだ殺しを忌避しているのがクロ。
ドロテアも血生臭い世界を生きてきた。相対者の強さや覚悟を測る勘は養われている。

「どちらか一人ならともかく、両方はきついのう」
「お前は喪服を相手してくれ」
「ほう…良いのか?」
「ああ…考えがある───」

モクバから耳打ちされた後、魂砕きをランドセルから引き抜きドロテアが駆け出す。
狙いはモクバの指示通り、喪服の少女グレーテル。
華奢な体格には不釣り合いな大剣を軽々振り上げ、グレーテルの愛らしい顔へと振り落とす。

「残念、剣では死ねない体になってしまったの」

鼻先から人体には不釣り合いな金属音を響かせ、グレーテルは口許を釣り上げていた。
顔面で大剣の刃を受け止め血すら流れない。ドロテアの手にある柄から伝う感触は人のそれではなく、鋼の剣と打ち合うのと同じ硬さ。

「変わった体じゃ。時間があれば解剖(バラ)したいとこじゃの」

「フフ…私も貴女で遊びたいわ。簡単には死ななさそうだもの」

こいつ趣味悪いのじゃ。
ドロテアは自分を棚に上げ、グレーテルを腫物を見るような目で見る。
我ながら悪党の自覚もあるドロテアだが、そのドロテアからしてこの少女は血の匂いがこびりつき過ぎている。
ドロテアの剣戟を両腕を広げ、けろっとした顔でグレーテルは受け続け微笑む。
そして腕を螺旋状に変質させ回転させ、ドリルのように振るう。
斬り付けていた魂砕きを手元に引き寄せ盾にしながら、グレーテルの常人離れした膂力に圧される。

「随分硬いのね」

火花を散らしながら、欠片も削れていない魂砕き。
グレーテルは刀剣に明るくないが、スパスパの実の能力を凌げるこの剣の強度は並ではないと理解できる。
この剣を砕こうと更に腕に力を込めるが、ドロテアは微動だにしない。
相手もまた容姿に見合わぬ怪力の持ち主らしい。
地獄の回数券で身体能力を強化していなければ、こうして鍔迫り合いも叶わなかった。

「ふん、その面にこの匂い。何かの薬じゃな」

「へえ鼻が利くの?」

空いた片手も柄に沿え、両手持ちで魂砕きを振りかぶった。
ドロテアの構えが野球のバッターのようであれば、グレーテルはまさしくボールのように打ち飛ばされていく。
電柱を薙ぎ倒し、何度もコンクリートの地べたに打ち付けられ転がっていく。
普通の人間なら血を撒き散らし、原形を留めていればマシな程の破壊痕を刻みながらグレーテルは狂的な笑みを浮かべて平然としていた。
やはり大したダメージが入っていない。鋼の肉体もさることながら、ドロテアから見て未知の薬品で肉体を更に強化している。
肉体改造を重ねたドロテアの膂力と打ち合えるのがその証拠だ。

(どんな調合か知らぬが、妾とやり合えるほどの怪力…興味深いのう。
 じゃが、あの娘…あれがどんな薬か理解しておるのか?)

永い時を生きる事を目的とするドロテアであれば、地獄の回数券は興味こそそそられるが決して服用することはない。
身体の異常活性化、あれは服用者へのリスクを考えていない。
1回や2回の使用ですぐにどうにかなるものでもないだろうが、余程追い込まれでもしない限りドロテアは絶対に使いたくない。
あとでどんな副作用が待ち受けているか、考えるだけで悍ましい。

「ッ!」

肉薄し袈裟懸けに一太刀、横薙ぎに腹を切り裂く、剣を引き胸元へと突く。
しかし、服が破れるばかりで肉を裂く柔い触感が一向にない。
防御を必要としないグレーテルはゆっくりと歩きながら、ドロテアへと刃物に変えた両腕で抱き締めるように触れる。
ドロテアは刃の左腕に剣を叩きつけ、右腕を身を逸らして避ける。
一度距離を取ってから、大きく剣を振りかぶってグレーテルへ打ち付けた。
小柄なグレーテルの体は浮き上がり衝撃に煽られたまま吹き飛んでいくが、やはり傷一つ付いていない。

「チィ…イゾウさえおれば……」

鋼鉄の身体が厄介だ。
ドロテアの怪力を以てしても切り裂く事が叶わない。仮にこれがイゾウのような優れた剣技を持つ戦士であれば鉄すらも両断し得るかもしれないが、ドロテアは身体スペックを引き上げただけで、本職は戦闘ではなくサポート向きの研究者だ。
魂砕きもほぼ力任せに棒を振り回すのと変わらず、その性能を最大限発揮していない。


(負けはせんが、奴を切れもせぬ。これでは同じことの繰り返しよ)

いくつか搦手もなくはないが、相手の動きを止めるといった程度では元から備わった鋼鉄の身体を打ち破るには至らない。

(さて奴の方は……)

戦況の進まぬ斬り合いに苛立ちながら、横方のモクバを一瞥した。


───


(何なのよこいつ!!)

白と黒の双剣、干将莫邪を投影しクロはモクバとカツオへと斬りかかる。
その瞬間、モクバが翳したカードからエルフの剣士が召喚された。
あの少年の使い魔や式の類か。
見た目通り剣技を収めたエルフのようだが、クロがその身に秘めた英霊の力には及ばない。
数度の斬り合いで動きを見切り、クロはエルフの剣士を斬り裂いた。

(斬れない……! どうして?)

確実に斬れると踏んだ一撃を、何故かエルフの剣士は確実に防ぐ。
まぐれかと思ったが、一度や二度ではなく何度も同じように致命的な一撃をエルフの剣士は避け続けていた。
力量だけで言えば、クロが勝っている筈だ。現にエルフの剣士はろくにクロに剣を当てれていない。
なのに何故、致命打に繋がる一撃だけはクロの剣技を上回れるのか。
説明のつかない事象にクロは翻弄されていた。

(そう、翻弄するエルフの剣士は攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。
 やっぱりこいつはデュエルでいう上級モンスター以上の強さなんだ)

タネを明かせば簡単な話、モクバが召喚したエルフの剣士持つ能力は戦闘耐性。
上級のモンスター以上の強さは持つ者では撃破不可の効果を持つ。
青眼以外にも支給されたカードの一つで、決して強力ではないが小回りの利くカード。
先の悟空に化けたカオスとの交戦では、サトシとピカチュウに後から来たガッシュ達も加わったために温存と様子見に徹し、藤木は弱すぎてその戦闘態勢を発揮できない為、使う暇がなかったが、今の戦況にこれ以上に適したカードはない。
あえて強さとしては、クロ以下のグレーテルをドロテアに任せたのもエルフの剣士の能力を発揮させる為。

「下がってろ。カツオ」
「う、うん……」

エルフの剣士とクロの剣の打ち合いを見ながら、モクバはカツオと共に数歩後ろに下がる。
ドロテアの見立ては正しい。
モクバはクロの様子とグレーテルを見ながら、それを再認識する。

(あの色黒女、強いけど…多分殺し合いに乗るのはまだ迷ってるんだ)

エルフの剣士の戦闘耐性があるとはいえ、もっと冷静に立ち回れていればエルフの剣士を無視して後方のモクバ達を襲うことも出来るはず。
それをしないのは視野が狭まっているから、そしてそうなるほどに精神的に追い込まれているから。
逆にドロテアが相手をしているグレーテルは殺しに一切の歯止めも良心の呵責もない。
もしモクバの相手がグレーテルであれば、クロと違い冷静に戦況を分析して即座にモクバ達に攻撃を仕掛けているに違いない。


(リミットはあの色黒女が冷静になるまでだな……!)

精神的な揺らぎは大きいとはいえ、生半可な相手ではない。時間を与えればその分だけ、分析の猶予を与えてしまう。

「フンッ!」

エルフの剣士の咆哮が轟く。
剣術を学んだ素早い動きでクロに斬りかかるが、干将莫邪から使い手の技量を再現し更に赤い弓兵の力を継承したクロには届かない。
剣を一閃振るった時には、既にクロは10以上の剣戟を叩き込む。
普通ならそれで細切れにされるはずなのだが、この瞬間持ち前の戦闘耐性により俊敏さが跳ね上がり全て避けきっている。

「ハァッ!!」

(おかしい)

クロを狙った剣が空ぶっていく。何度目かも分からない同じ光景を見て、クロも違和感に気付く。

(もしかして、こいつはそういう因果操作の能力を持っている?)

力量では及ばないこの剣士が未だ倒れないその理由はクロの知識に照らし合わせれば、そういった因果を操作しているものではないか。
つまるところ、こちらの攻撃は全てを避けられるが純粋な実力ではクロには及ばず勝てもしない。

(こんな雑魚、相手にしても時間の無駄ね。狙うべきは───)

弓を投影し、偽・螺旋剣を螺旋状の矢へと変形させ現出させる。
おそらくカードを除けばただの子供だが、これ以上厄介な使い魔を出されても面倒だ。
魔力消費は些か荒いが、狙撃からのオーバーキルで確実に仕留める。

「あいつ、剣士の癖に弓も使うのかよっ!! ゲームでも職業は固定だろ!?」
「ゲームと現実の区別はつけなさい。坊や」
「お前もガキじゃないか!!」

モクバの抗議を受け流し、クロは弓矢を構え照準を合わせる。
後は矢を射れば、それだけで二人の少年は粉々に消し飛ぶ。

(間に合わなかったわね……ニケ君)

この殺し合いを何とかすると、そしてクロの問題を解決すると約束した勇者の少年を思い浮かべて……矢を射る動きが僅かに静止した。
まだ未練があるのか。
自分に心底飽き飽きしながら、クロは唇を噛みしめ弓を引く。

「今だ!!」

モクバの叫びと共に、カツオが一枚のカードを掲げる。

「水(ウォーティ)!!」

モクバの使う玩具のようなカードとは別のタロットカードのようなものをカツオが翳す。
膨大な流水が発生し、それが人魚姿の少女のフォルムへと変化する。
それは好戦的な笑みを浮かべ、津波のように水を伴ってクロへと押し寄せた。
新たな主により、クロウカードより生まれ変わったさくらカードの内の一枚。
それはデュエルモンスターズ同様、本来の主のさくら以外が使用する場合、魔力のない者でも一度のみ発動でき、一定のインターバルを置く事で再使用可能になるよう乃亜に調整されていた。


「ドロテア!!」
「そう叫ばずとも分かっておるわ」

モクバの叫びと同時にドロテアがグレーテルに剣を叩きつけ、動きを阻害させながら飛び退いていく。
そうこの位置は丁度、クロとグレーテルが一列に並ぶ。二人を一網打尽にするのに適した位置だ。
まるで滝のような水流が人を飲み込もうとする様は津波のよう。
グレーテルのひらりマントでも、あれは避けられるか分からない。
クロは舌打ちし、切札の一枚をここで切った。

「させない───熾天覆う七つの円環(ローアイアス)!」

クロの腕の先に紫の花びらのようなシールドが展開され、濁流のような水の防波堤のようにクロとその後方にいるグレーテルを覆う。
英雄ヘクトールの投擲を唯一防いだとされる逸話から、投擲に対し無敵の耐性を持つ宝具。
翻弄するエルフの剣士同様、条件を満たした場合に無敵となるクロの持つ最大の防御。
本家ではない劣化した投影品、更にその劣化した投影品という代物ではあるが、クロウ・リードを超えた魔術師であるさくらならまだしも、魔術に関しド素人以下のカツオが発動した「水」であれば防ぐのは造作もない。

「ッ───!!」

元より気性の荒い「水」が平然とするクロに苛立ちながら水流の勢いを強めるが、花びらは変わりなくその勢いを殺し二人の少女を守り続ける。

「頑張って考えたみたいだけど、終わりよ」

この水の魔術、恐らくは時計塔の階位に当て嵌めれば高位の階位にあたるであろう魔術師が作り上げた魔術品。
乃亜の手が加えられているのだろうが、担い手がド素人以下でも人を飲み込む程の規模の水を操れるのは驚嘆に値する。
だがやはり相手はただの子供。これさえ凌げば、後は雑魚の使い魔を無視して二人を殺してグレーテルに加勢して終わりだ。

「それはどうかな?」

勝ちを確信したクロの目には、不敵に笑いランドセルから籠手のようなものを一つ取り出し両腕で構えていたモクバの姿が飛び込んだ。

(あれは───)

その籠手から発せられる雷を見て、クロは足元がぬかるんでいることに気付く。
そして背後のグレーテルも同じく。

「小学生でも、水は電気を伝うってのは分かるだろ? 鉄だって電気は防げない」

モクバに支給された最後の武具、雷神憤怒・アドラメレク。
雷神の名が表す通り、雷を操る籠手の帝具だ。
その重量や反動から、モクバの幼い体躯では二つあるうちの一つを両手で構えないと使用出来ないが、威力自体は半減されるとはいえ人を簡単に感電死させられることに変わりはない。
カツオの放った水により足場を濡らされた事で、そこを通電させクロとグレーテルを感電死させる気だろう。
特にグレーテルが高い耐久値を持っていようと、アドラメルクの雷であれば話は変わる。
鋼鉄の刃に全身を変化させるのがスパスパの実の力であり、物理には耐性を得ても電気を無効化する能力は元より存在しない。
地獄への回数券の強化を鑑みても、致命的な一打に繋がるのは明らかだ。


「グレーテル───」

駄目だ。クロ一人なら何とかなるかもしれないが、グレーテルを救うのは無理だ。
熾天覆う七つの円環の行使で、通常以上の魔力を消費したのも手痛い。
ここはグレーテルを見捨て、そして撤退する。
心の中でまだ人を殺めずに済んだことに酷く安堵している自分が居るのを、クロは見つめないようにしてここからの離脱方法を脳裏に展開していく。

「ここからの脱出プランがある。俺達と組む気ないか?」

籠手は水に付けられ、だが雷撃は発せられないまま代わりに響いたのはモクバの声だった。

「なんですって……?」

水流の勢いが止み、クロは熾天覆う七つの円環の展開を停止し僅かに息を荒げながらモクバを見る。

「確実じゃないけど、少なくとも首輪を外すまでは考えてる。
殺し合うなら、そいつが失敗してからでも良いだろ?」

モクバの言葉を聞きながら、クロはモクバとの距離を測る。
人知を超えた英霊の脚力であれば瞬時に縮まる程度の開きだが、相手が使うのは雷撃だ。
足元は濡れたまま、雷撃より速く走れというのも難しいか。
なら転移魔術で背後に回り斬り殺す。だが、エルフの剣士がモクバの傍に付いている。奴が盾になればクロでは斬り捨てることはできない。
しかもカツオの召喚した水も未だ健在で、下手に突っ込むのは危険だ。
グレーテルもそれを理解している。
しかも、彼女にはクロのような高速移動の手段は持ちえない。まず近づくだけでも非常に困難である。
状況はグレーテルが一番不利だった。

「手を組むなら、プラン内容は話してやる」
「そんなのを信じろっていうの?」
「盗聴や盗撮の可能性もある。伝える方法は限られているからな。
 だが、こいつは“交渉”だ。信頼で成り立ってる。
 そこで嘘を吐くなんて高いリスクを冒すような素人染みたマネはしない」

もっともらしいと言えばそうなる。
だが信憑性は不思議と感じられた。
この少年は、この手の駆け引きが初めてではない。その一点に限ってクロやグレーテルより場数を踏んでいる。

「……私は、どうしても優勝しなくちゃいけないの」
「何が望みだ」
「永くない。不治の病に近いわ…残された時間は数日ほどよ」
「こう見えて、俺は大企業の副社長だ。最新の医療を提供できるぜ。
 あそこにいるドロテアも錬金術師、オカルト方面の医療にも詳しいらしい。
 あいつに病状を話せば、力になれるかもしれない」

「錬金術……?」

現代医療では解決できないが、錬金術といったオカルト方面なら話は変わってくる。
モクバもそれを不治の病に近いというワードから察し、海馬コーポレーションの人脈を使った最新医療の他にオカルトに関する解決策を提示した。
その目論見通り、クロから敵意が薄れだし考えが揺れ出していた。
まるで都合の良い話が、次から次へと降って湧いてくる様に動揺もしているようだ。
あともう一押しだ。
焦らず、しかし迅速にクロの心代わりを後押しするよう言葉を選ばなくては。


「まだ目を背ける気? お姉さん」

モクバが切り出す前にグレーテルが割り込んだ。
この局面、一番美味しくないのは他ならぬグレーテル一人だ。
揺らいだクロをこちら側に引き戻さなくては、グレーテルに先はない。

「この世界は人を殺す事で生きられるの。貴女もそれを分かっていたから殺し合いに乗ったんでしょう?
 生きる為に殺さなくちゃいけないのよ。そうやって世界というリングを回す。そういう仕組みなの」

「な、何を言ってるんだ……?」

こういった場では自分に出来ることはないと沈黙していたカツオが溜まらず疑問を口にした。
クロの不治の病を治す為に、優勝して乃亜に願いを叶えて貰うのは理解できる。それが良いとは思えないが。
グレーテルの言っていることは、それ以前の問題な気がする。
まるでカルト宗教の教えを説いているような胡散臭さと、相互理解不可能な程の価値観の差を覚えた。

「人を殺さなくたって、別に生きてたって良いじゃないか」

カツオにとっては本当に当たり前で普通の摂理だ。
牛や豚や魚を食べなければ生きていけないのは知っているし、自分の見えないところでそうして命を奪っているのは理解している。
けれども、わざわざ人間を殺す必要なんて何処にもないはずだ。

「モクバ、色黒はともかくこやつの話に耳を貸すな。
 色黒、お前もこやつの言っている事には頭を痛めていたとこじゃろ?」

ドロテアも伊達に長年を生きていない。
クロはまだこちらに取り込める余地を見出していたが、グレーテルは完全に理外の理で生きている者だと察していた。
自分も含めイェーガーズの面々やエスデスなども心底ろくでなしの外道だと自覚しているが、人の社会には可能な限り溶け込み利害を考え手に掛ける人間は選んでいる。
ドロテア達にも一定のルールと線引きは存在しているからだ。
それはあの最強たるエスデスも例外ではない。
だが、グレーテルは無差別だ。全てが殺戮対象に含まれた爆発物。ただ生きているだけでそこかしこに災いを齎す、完全な災害のような存在。
乃亜の人選にも納得してしまうものだ。殺し合いを回すという点では、これ以上の適任者はない。

「……お前、“チャウシェスクの子供たち”だろ?」

「なんじゃモクバ?」

「意外に博識じゃない」

「ルーマニアに孤児って言われたら、簡単に分かるぜ」

ある独裁者が労働力の確保の為、中絶と避妊を禁止したことで溢れかえった子供達。
親達は自分達の子ではないと、望まれなかった子供を独裁者の子だと比喩した事で孤児たちはチャウシェスクの子供と呼ばれた。
子供のいない人々に税を掛けるなどして出生率こそ上昇したが、増えた子供を育てられず親は育てられない子ならば捨てるしかない。
捨て子が増え、孤児院のキャパシティも当然ながら崩壊していく。そうなれば当然孤児の境遇も劣悪の一途を辿る。
恐らくこの少女はその中の一人。
別世界が存在するのはモクバも認識していたが、ドロテアなどの全く別の異世界を除けばある程度の歴史は一致しているのもカツオや一姫達との会話で確認済みだった。
それは当然、負の歴史も。


「お前も俺達と一緒に手を組む気はないか」

「モクバ!」

「ここから脱出した後、お前達の生活を俺が保証する。
 薄汚い大人の好きになんてならなくていい。そこらの孤児院なんか、比べ物にならない悪くない生活が出来るぜ」

ドロテアの叱咤を受けながら、モクバもあの少女が話し合いに応じるような相手ではないのを理解していた。
スパスパの能力さえなければ、モクバの承諾も得ずドロテアはグレーテルの首を刎ねていた。それだけの厄ネタだ。
だが、そうだとしても交渉する意味はあると考えていた。
グレーテルと住む世界が違うとしても、本当にここから脱出出来れば自分達の世界に招いて戸籍も用意し生活の面倒も見るつもりだ。

「それは素敵な提案ね。私も仲間に入れて欲しいわ!」
「ッ───」

それは望んだとおりの返答。
しかし、あまりにも迷いのない返事であるが故に裏が絶対にあるとモクバは思考してしまいグレーテルの身が逸れた事に1テンポ反応が遅れる。
次の瞬間、グレーテルの両手に二丁の白と黒の拳銃が握られていた。
エボニー&アイボリー。
“45口径の芸術家”と謳われたガンスミスにより制作されたカスタムガン。
人間を愛し悪魔を討つ半人半魔のデビルハンターに託されたそれは、皮肉にも今は世界を憎み人にあだなす殺人鬼の手に渡っていた。

「グォオオオォ───!!」

マシンガンのように弾かれる弾丸をエルフの剣士が盾となり庇う。
ただの二丁拳銃からは考えられない弾丸の連射。
悪魔を殺す為に、人外の膂力で扱うことを想定された無茶なカスタム。
地獄への回数券により人並外れた強靭な肉体を得たグレーテルはその性能を引き出す事に成功していた。
だが、なまじグレーテルが悪魔の実と地獄への回数券の併用によって戦闘力が上昇した事で戦闘耐性への条件を満たした為、エルフの剣士は破壊されない。

「ぐ、痛ってぇ……!」

エルフの剣士が庇いきれない弾丸がモクバの肩を腕を足を掠り血で赤く染めていく。
幸いにして着弾はないが、全身を掠り傷という極小のサイズとはいえ抉られるのは中々の激痛だ。
アドラメレクの籠手も濡れた地面から離れ、クロに突き付けられていた雷撃の矛先も完全に逸れた。

「ええい! 喪服は諦めるのじゃ!」

ドロテアの怒声が響く。
クロと違いこれと話し合う余地は存在しない。
片腕で顔を庇い、グレーテルから弾丸を浴びせられながら魂砕きを振るう。
強化された肉体はマシンガン程度なら、一定以上は耐えきれるうえに急所は確実に庇っている。
一気に肉薄し剣とグレーテルの鋼鉄の腕から金属音が響かせながら、効かないと分かっている剣戟を叩き込む。
モクバから狙いを外しドロテア自身に注意を向けるのが目的だ。

「諦めろ……?」

いつでも雷撃を浴びせられるという状況下の中、迷いもせず敵対を選んでくるグレーテル。
頭は切れるが理性があるとは言い難い。
殺しや争いが息を吸うような当然の行為として、グレーテルの中で染みついている。だから、殺しの判断基準は彼女の気まぐれであり、それをしたいかしたくないかのどちらかでしかない。
そんな常人には測れない価値観の持ち主を説得するのは困難を極める。

「一日で良い。殺しをやめてみろ」

理屈では理解していた。意味のない行為だと。
だが、生きてきた世界も境遇も異なれど、親と望まぬ別れを強いられ大人達に好きなように弄ばれた苦しみをモクバは知っていた。

「俺と兄サマの作った海馬ランドで、好きなだけタダで遊ばせてやる。金なんて要らない、上手い飯も温かい風呂も寝心地の良いベッドも全部タダだ!」

尊敬する偉大な兄と誓った夢。
親のいない恵まれない子供達がタダで遊べるような遊園地を世界中に作ること。


「その一日でお前の大好きな殺しなんかより、よっぽど楽しくて好きになれる事を見付けられるはずだぜ!」

この少女こそ、こういう世界中の子供達の為に作ろうとしているのが、兄と自分の夢である海馬ランドのはずだ。
その救わねばならない子供の一人を、目の前で取りこぼすなんて真似はモクバには出来ない、してはいけない。

「そう、ありがとう。お言葉に甘えさせてもらうわね。
 ここに居る全員を殺してから───」

モクバの必死の訴えも何も響かないまま、グレーテルは右手のアイボリーをドロテアに撃ち続けたまま左手のエボリーでモクバを射撃する。

「ぐ、がっ───!」

弾丸はエルフの剣士が庇うが、例え直撃でなくとも連射し続けていれば、いずれは無数に増える掠り傷にモクバは耐えられなくなる。
焦る必要はない。じっくり削って行けばいい。
腕をクロスさせた格好のまま、グレーテルは更に笑みを増していた。
ドロテアの剣では自分は斬れない。モクバの籠手は脅威だが、気を張っていれば不意を突かれでもしない限り当たる事はない。後ろの坊主頭など、カードの力を加味してもまるで脅威じゃない。

「お姉さん、いつまで逃げ続ける気なの? 良い事を教えてあげる。
 私が見た中で一番最初に死んじゃうのは、決まってお姉さんみたいな聞き分けの悪い子だったわ。
 お姉さん、死にたくないんでしょ?」

「それ、は……」

クロは揺れているが、まだこちらに傾かせることは出来る。
モクバがグレーテルに意識を割いていたお陰で、まだ完全には説得しきれず相手陣営には落ちてはいない。
有利なのはグレーテル。まだ巻き返せる。そう死ぬはずがない。だって、自分達は何人も殺してきてその分だけ───。

「お前、このままじゃ本当に死んじゃうぞッ!!」

動きは止まらない。常にドロテアとモクバとカツオに意識を向け、不測の事態に対応できるように立ち回り続けている。
ただ、グレーテルの顔から笑みが消し飛んだ。
エルフの剣士の後ろでモクバは張り裂ける程の大声で叫ぶ。

「死ぬ? 私は死なないわ。沢山殺してきたもの、”私達”はその分生き続けられる───」

「逆だ! 過去が積み重なって今があるんだ! だから憎しみを積み重ねたって、また次の憎しみが生まれるだけだ!
 自分の憎しみや怒りに他人を巻き込んだって、永遠に闇から抜け出せやしないんだ!!」

「だから殺すのよ。そうしてリングを回していく、それが……」

「そうして、敵だけ増やして何が残るって言うんだ。誰かを殺したら、そいつの仲間や家族が必ずお前の敵になっていく。
 そんな奴等が手を組んで結束されたら、もうどうにもならないぞ!
 お前も分かるだろ!? 一人の奴より一人じゃない奴のが何倍も何十倍も何百倍だって強いんだ。
 お前の仲間が他に何人いるか分からないしどれだけ強いか知らないが、いずれ数の暴力でリンチされて殺されちまう!!
 きっと俺なんかよりも戦いを潜ってきたお前なら、数の強さは身に染みて分かっている。違うか?」


結束の力。
それは経験から、モクバが知った事だ。
仲間と共に武藤遊戯が、何度も強敵を破ってきた力の源。
モクバの知る限り史上最強のデュエリスト、海馬瀬人すら完璧な手札と最高の戦術を駆使してなお遊戯と友の絆の前に敗北した。
この殺し合いを開いた乃亜ですら、一度はその力の前に敗れ去っている。
結束の力の尊さと共に強大さを知っているからこそ、いずれこの少女もその力の前に倒されてしまうと確信していた。
その時と誰が相手かは分からない。
だが、より巨大で強固な絆と結束の力の前に屠り去られてしまうだろう。


「……」

言い返せない。
殺しを、世界のルールを否定するだけであれば、グレーテル達の信仰を批判するだけであれば、いくらでも反論できる。
だが、モクバはそれとは別に戦いの中にある鉄則を絡めてきた。
実戦に於ける数の利はグレーテルも否定できない。グレーテルも兄様であるヘンゼルと共に工夫と機転で相手を出し抜き、数々の勝利を得て殺戮を繰り返してきたからこそ相手の数には常に警戒を重ねていた。故に数の利は否定できない事実だ。
無論、敵がいればいるだけ殺す事が出来る。理論上はその分生きられるのだが、当然多人数に包囲されれば生還するハードルも上がっていく。これも事実。
それは矛盾だ。殺せる数が増えてその分生きられるのに、何故か生存確率が下がるという覆せない矛盾。
狂った倫理観と信仰に、実戦で培われた合理的な判断が矛盾をグレーテルに突きつけようとする。

「お姉さん、あの黒髪のお姉さんの死を無駄にする気?」

グレーテルは会話を打ち切り、モクバではなくその矛先をクロへと変更した。

「お姉さんは自分が生きる為に黒髪のお姉さんを犠牲にしたの」

口でモクバは崩せない。
なるほど、人心を掌握する術に関しては優れている。
グレーテルもこれは認めざるを得なかった。

「違う、わたしは……」

だがクロは?
シャルティアとイリヤ達の交戦、そして美遊の最期をグレーテルは目撃している。
その時のクロのやるせなさと動揺も。

「違わないわ。優勝を目指すのはそういうことでしょ?
 お姉さんが生きる為に、黒髪のお姉さんを糧にした。お姉さん、貴女がその分まで生きないと彼女は無駄死になるのよ」

この戦場の中でもっとも精神が追い込まれているのはクロだ。
数が利であるのが戦いの鉄則ならば、最も弱いものを追い込むのもまた鉄則の一つだ。

「あんな奴の言うこと、聞くな!!」

ここでようやくモクバも自分のミスを痛感する。
グレーテルに対し自分の境遇を重ねせいで、あまりにも感情的になり過ぎてしまっていた。
何よりも先にクロをこちら側に引き入れるのを優先すべきだった。それは分かっていた。分かっていた筈だった。
まだ彼女は揺らいでいる最中で、完全に説得しきれていない。
それなのにモクバは頭に血が上って失念していた。
急いでグレーテルの声から庇うように言葉を投げるが、それはクロに届かない。

「お姉さんも、ああなりたいの?」

───イリヤは、生き……

「───ッ」

グレーテルは知っている。
美遊という少女の死に、クロは罪悪感を抱いていること。
その少女の末路に恐怖も抱いていたこと。
彼女は死にたくない。生きようとしている。

「一度乃亜に逆らえば、ペナルティで願いを叶える権利を剥奪されるかもね」

そんな相手の扱い方は簡単だ。なにせ、自分達がそうだったのだから。

「……くっ」

大人たちが喜ぶ殺しをすれば殺されずに済むように、この島も乃亜が喜ぶ殺しをすれば死なずに済むと示してあげればいい。
それしかないのだと、分からせてあげればいい。


「ッ……!」

緩んでいた手に力が籠められる。双剣を握る手がより強まる。
殺意が緩やかに戻っていくのをモクバは実感していた。
数分前の自分を責めるが、もはや過去は変えられない。
エルフの剣士は、グレーテルの射撃を受け続けている。こうなれば青眼を召喚するしかないか。
クロがにじり寄る。ゆっくりとこちらに歩んでくる。
モクバは懐に忍ばせた青眼に触れた。

「迷(メイズ)!」

その瞬間、クロとモクバを別つように緑の壁が生成され二人を分断する。

「これは……!?」

クロが疑問を口にする。
それはクロだけではなく、ドロテアとグレーテルの間にも発生し無数の壁が作られていく。
グレーテルは反射的に生成されかけの壁の頭を踏み、脱出を図ろうとするがそれを上回るように壁が空高く上昇しグレーテルを遮った。

「大丈夫かい? モクバ君!」
「カツオ?」
「このカードの力だよ」

モクバの後ろから、カツオが声を掛けてくる。
その手にはもう一枚のさくらカード「迷」のカードが握られていた。
巨大な迷路を作り出し、迷い込んだ者は出口を自力で見つけなければならない。
迷路の外、緑の壁を眺めながらカツオも改めてその効果を思い知った。

「よくやったカツオ。あとは……」

「ちょっと!?」

同じく迷路に巻き込まれなかったドロテアが状況を即座に把握し、そしてカツオへと肉薄する。
そのまま手を伸ばし、カツオの手にあるもう一枚のカード「水」を取り上げた。

「「水」よ。そこの入り口から水を流し込んでやるがよい」

「何をするんだ!?」

ドロテアの手に渡った「水」はその命令通り、「迷」の迷路の出入り口へと周り、水を大量に生成し放水し始める。

「決まっておろう。中で迷っているあの二人を水に沈めて溺死させてやるのじゃ」

「ドロテア、よせ」

「何故じゃモクバ? あやつらはマーダーじゃ。
 藤木と違い御しきれる相手でもない。ここで殺しておけば、未来の犠牲者はぐっと減るぞ。
 この迷路もいつまで続くか分からぬしな。今の内じゃ」

「それ、は……」

モクバが後ろ髪を引かれる思いなのを見透かされていた。
グレーテルやクロに対して、手を差し伸べたい思いは今も薄れてはいない。
けれど、自分が完全にしくじったのもモクバは自覚していた。
駆け引きで冷静さを失う事など言語道断。
それを、モクバはよりにもよって最悪の相手にやってしまった。
ドロテアの真意は別にあるとはいえ、これが結果として犠牲者を減らす行為であることも理解は出来る。

「そ、そこまでしなくても……殺し合いを何とかした後、警察に捕まえて貰うまで縛っておくとか……」

「妾がその警察じゃ!」

「え、ぇ……」

カツオは狼狽えながら、ドロテアを見つめていた。
本当にこのまま殺してしまって良いのか。
いくら、殺し合いに乗っているとはいえこんな事までして良いのかと。
しかも殺すにしてもやり方がエグすぎる。溺死だなんて、恐怖と苦しみが長く続く悲惨な死に方だとカツオにだって分かる。

こんなの警察のやり方なんかじゃ断じてない。



───



「壊しても、駄目…飛んでも妨害される。ちゃんと出口を探して迷路を攻略しろってこと?」

干将莫邪を爆破させ壁を破壊しても即座に再生され、壁の上から迷路全体を見渡し出口を探そうとしても阻止される。
「迷」は迷路への不正に対し厳格に対処する。

「この子でも駄目みたいね」

グレーテルの足元からダンジョン・ワームがモコモコと飛び出す。
建物内を自在に行き来できるこのモンスターならば、あるいは出口を探し当てられるかと思ったがそれすらも妨害してきているようだ。
巨大な芋虫に、丸くて大きな口と複数の牙に目を取り付けた奇怪な見た目に反して、グレーテルには懐いているのか、全身をフルフルさせ出口の発見に至らなかったことを表現する。

「……ここで、じっとしときましょう。きっと時間の経過で迷路は消えるわ」

もはや殺し合いどころの話ではない。
この迷路がある以上、他の参加者との接触も難しい。それどころか禁止エリア指定された時に離脱も叶わない。
完全に別の脱出ゲームを行わされるこのカードの力は一つの支給品の域を超えている。
乃亜があくまでも公平な───それも怪しいが───殺し合いに拘るのなら、一定時間で強制的に解除するよう制限を設けるだろう。

「下手に動くより、これが消えるのを待った方が───」

クロとグレーテルの足元を冷たい感触が伝う。
水だ。水が物凄い勢いで迷路内を浸水し、その水かさを増していた。
少し視線を外してからもう一度足元を見れば、踵を濡らしていた水は気付けば足首にまで届きそうなほど水位が上がっている。

「冗談でしょ!?」

やられた。
あの坊主頭の少年が召喚した水の精霊の力だ。
この迷路を水で溢れさせて、クロとグレーテルを溺死させる気なのだろう。

「のんびりしてる暇はなくなったわね」

慌てる様子もなくグレーテルは状況を再確認するように呟く。
そう、そこまで焦る必要はない。
グレーテルの装備は充実している。先ほどのシャルティアと悟飯、その後のリップとのいざこざのどさくさに紛れ、少なくない支給品を回収している。
その中には、何か使える代物があるかもしれない。
仮にそんなものなくても、ようはこの迷路が消えるまで、耐えれば良いのだ。しかも、迷路に時間制限があるのなら先に召喚した水が消える方が早いのも道理だ。
そう焦る必要などない。最悪の場合は壁に刃物化した手を突き刺して、高所で迷路と水の消失を待ち続ければいい。

「───な、ん」

水位が膝まで上がった段階で、急に全身が脱力する。
自らの意思とは正反対に力が入らない。

「グレーテル……?」

クロも異変に気付きグレーテルに呼び掛ける。
血生臭い戦いには、自分よりも慣れたグレーテルが明らかに動揺している。

(うごけない…なん、で……)

水位が上がれば上がるだけ、力が水に吸われていくようだ。
まさか、カツオが使用した「水」の効力か。だが、クロだけが無事なのが説明が付かない。
グレーテルが口にした悪魔の実は海に嫌われる。
それは真水であろうと例外なく全ての能力者はカナヅチとなり、体が水に浸る部位が多ければ多いほど身動きが取れなくなっていく。
殺し合いを支配する乃亜からすれば当然の事象の帰結に過ぎないが、クロにとっては想像も及ばない異常事態。


「私は…死なない……」

ありえない。こんな事が起こる筈がない。
沢山、大勢、数えきれない程殺し続けてきた。
だから、死ぬ訳がない。
その分だけ、生き続ける事ができるのだから。

「死ぬ、わけが……」

動かない。動けない。
水位がどんどん上昇し、グレーテルの命を繋ぐ気道を覆わんと迫っていく。
意識ははっきりしているのに、徐々に自分の命が削られていくのを感じていくのは恐怖だった。
もしもグレーテルが悪魔の実の弱点に気付いていたのなら、その行動は早かったはずだ。
真っ先に壁に上り、何としても水との接触を避けた。
だが、グレーテルは知らなかった。知っている訳がない。スパスパの実の説明書には、そんな記載何処にも存在しなかったのだから。

「大丈夫よ……わたし、私達は、だって───」

僅かに動かせる口だけを回し、クロにも聞こえない小さな声で自分を信じ込ませるように信仰を口にする。
大丈夫、この信仰は間違ってなどいない。死ぬはずがない。絶対に大丈夫。
体温を奪われ冷えていく体は徐々にグレーテルから赤みを引いていく、頬は青白く染まっていった。
死を拒絶する精神に反し、肉体は一切動けず望んだ生から遠ざかっていく。

「嘘でしょ。こんなのごめんよ!!」

跳躍し壁に剣を突き刺し、クロはそれにぶら下がり水から避難していた。
クロの見立て通りならば、時間が過ぎ去れば迷路も水も消える。消えてくれなければ困る。
だがもしも消えなかったら? 
この迷路に閉じ込められたまま、延々と水位が上がるなか逃げ続けるのか?

「グレーテル……あいつ、何してんのよ」

今のクロに悪魔の実など知る由もない。
まるで動かなくなり、死を受け入れて諦めているようにもクロには見えた。
そして、諦めるということはこの状況を打破する手段も持ちえないということだ。

(……対界宝具なら)

1つだけ、確実で間違いのない手段がある。
騎士王の宝具、約束された勝利の剣(エクスカリバー)を投影し真名解放すれば良い。
クロも詳細は知らないが、自分が核としているクラスカードの英霊の力は宝具の投影に特化している。
そのバリエーションの中で最も強力で最強の一振りがこの剣だ。
「迷」の迷路は高い再生力を持つが、それを上回る膨大な魔力を放射すれば再生が追い付かず迷路を維持するのは難しくなる。その間に脱出を図る。
問題はそれを使えば、クロは激しく消耗してしまう。
魔力がなければクロは消滅する。
ここを突破しても、その後どう生き延びればいい。クロには弱った己を任せられる仲間なんていない。一人ぼっちだ。
グレーテルや彼女の言う兄様など、そうなればすぐにこちらを殺しに掛かるかもしれない。
それも天使の少女の遺体にやったような行為を、生きたままのクロにすることだってありうる。

(無理、それだけは嫌)

そんなの絶対に御免だった。


(迷路の外のあいつらを打てれば)

もう一つ、確実性は下がるが方法はある。
それはクロが核とするクラスカードがアーチャーであることを利用する。
アーチャーのサーヴァントには、千里眼というスキルが付与されることが多い。
遠方の敵を狙撃する高い視力を齎すスキルで、極めた英霊であれば透視すら可能とする。
この迷路の壁を透視し、外にいるモクバ達の方向を視認できれば狙撃は難しくない。

(破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)…魔力を打ち消す槍、これなら触れた迷路を打ち消して外に飛ばせる)

クロがチョイスしたのは、ケルトの英雄ディルムッド・オディナの宝具。
刃が触れた部分の魔力及びそれに類する異能を触れた間のみ打ち消す。
あくまで触れた部分のみの無効化であり、これで迷路を突いてもその箇所だけが効力を失うだけで脱出には使えない。
だが、これをアーチャーとして射ることが出来れば、迷路の壁を全て貫き外界に届かせられる。
そして迷路の本体であるカツオのカードに当てる事さえ出来れば、迷路を実体化させる魔力源が経たれた事で迷路は消失する。クロはそう読んでいた。

(問題は、私が力を借りてる英霊の千里眼のランクはCってとこ)

遠方の敵を補足し動体視力を向上させるが、透視に至らないのがCランク。
何度も強く壁を凝視するが、外界どころか壁一枚透けて見る事も無理だ。
そこでクロは、ランドセルから液体が収められた一つの小瓶を取り出した。

(グレードアップえき……これの効果が説明書通りなら)

それをワンプッシュ、目に振りかける。
名の通り、グレートアップえきの効果は振りかけた対象の性能をグレードアップさせる。
吸い込みの悪い掃除機の吸引力を改善し、つまらない漫画を傑作へと変貌させる。
あらゆるものの性能を引き上げるドラえもんの秘密道具、例えそれがサーヴァントのスキルであろうと例外ではない。

(見える……!)

居た。
壁を何枚も隔てた迷路の外、あの三人の姿が見える。
カツオは馬鹿正直に「迷」のカードを握ったままだ。丁度いい、狙い通り破魔の紅薔薇の照準をカードに合わせる。
矢となった槍に弦を付け、そして射る。
宝具殺しの槍は、その名の通り「迷」の力を殺しながら無数の壁をぶち抜き、空間を超えて外界へと飛び出す。


「───う、わ……!」
「何をしたのじゃお前!?」
「ちが、僕じゃ……」

カツオとドロテア間を、赤い一閃が横切り手にあるカードへと直撃した。
次の瞬間、迷路が消失しクロとグレーテル、そして迷路内に溜まった膨大な水が雪崩のように流れだす。

「水が───」

モクバの叫びは紡がれず、水の波にそのまま飲み込まれてしまう。

(出れた…けど……!!)

クロは複数の剣を永めの刀身で投影し、それを突き立て柄の先を足場にして水を避けて立つ。
数十分ぶりの外の空気を吸い、目論見通り事が運んだことを確認した。
だが同時に計算外が一つ。
あの「迷」のカードを破壊できなかった。
破魔の紅薔薇に触れ、その効果を一時的に効果を打ち消しただけに過ぎない。
高位の魔術師によって生み出されただけあり、霊的な格が高い。破壊にまで至れなかった。
カツオの手元から吹き飛んでいったカードはまだ残っている。

壊れた幻想で爆破しておけば……!)

目算が甘かったことを後悔するも、だが支給品として何かしらの制約はあるはずとクロは切り替える。
こんなもの連発できれば殺し合いの進行を阻害してしまう。

「げほっ、か…カードが……!」

カツオが溢れ出す水の波に呑まれながら、必死に顔を水面に浮かばせ流れていく「迷」に手を伸ばしている。
大丈夫だ。仮にもう一度カツオの手元に戻ろうとも、再発動は早々ありえない。
あの少年は魔力もろくにない。魔術の知識も技術もないただの子供で、支給品の力を借りただけ。
カードの使用は一度きりで、使い捨てでないにしても再発動させるのに何か制限がある。
殺すにしても優先順位は一番低い。だから、優先すべきは剣を持った金髪と剣士の使い魔を操る少年の方だ。
二人は水に流され行方が分からない。だけど、そう遠くにはいないかもしれない。
集中して辺りを警戒して───。

(───ほんとに……カードに制限なんてあるの?)

乃亜から直々に説明されたわけではない。
ただ、公正な殺し合いをさせるという乃亜の口ぶりから推測したに過ぎない。
確証なんて何処にもない。
殺し合いを阻害するからという理由で、そうかもしれないと予想しているだけ。
カードの説明書を見たわけでもでもない。
クロは逡巡の末、カツオのランドセル内にある説明書を透視しようとして、既に千里眼のランクが元に戻っていることに気付いた。グレードアップえきの効果が切れている。
グレードアップえきの本来の効力持続時間は一時間だが、乃亜によって僅かな短時間しか効力が持続しないよう調整されていた。
ゆえに確証を得られない。

(また、迷路を出されて水でも流し込まれたら……あの迷路を破るのに、魔力が減らされる……)

迷路の突破に、少なくない魔力を消費してしまった。魔力はクロの残り寿命と言っても差し支えない。
もう一度同じことをされれば、それを破る為にまた多量の魔力を使い、死へと強制的に近づけさせられてしまう。
気付けばクロは弓矢をカツオへと向けていた。


(あの子には悪いけど、こっちも余裕がないのよ)

弦を引き狙いは定めた。あとは、手を離すだけ。
たったそれだけの動作が、気が遠くなるほど複雑な工程のように感じられた。

そんなことをして、いいのか。
相手は本当にただの子供だ。グレーテルやシャルティアのような危険人物でもなければ、肉体や精神も普通の何の罪のない子供でしかない。

クロの中でもう一人のクロがそう説いてくるように、矢を射ようとするクロを止めるような錯覚をする。
先程のモクバとのやり取りが走馬灯のように繰り返される。
脱出プランを用意し、クロの身体の異常に対しても力になれるかもしれないと。
それが真実であれば、カツオを殺すのは悪手でしかない。
やはり話を聞いてから、判断をすべきでは。

『ルフィィィィィ!!!』
『お前……お前ェ!! ゴムゴムのォォォ!!!』

でも、もしも脱出プランとやらが上手くいかなかったら。
一番最初に歯向かった子供たちのようにクロも。

『『無様な敗北者達』キミたちにぴったりの名前じゃないか!』

そうならなかったとしても、グレーテルの言うように一度逆らった罰としてクロから願いを叶える権利を剥奪することだったありえる。
あの傲慢な子供のことだ。機嫌を損ねれば、何を言い出すか分からない。

『私は断じて負けぬ。負ける筈がない。決して────』
『美遊、美遊……いや……いや……!!…何で、何でこんな……』
『イリヤは、生き……』
『クソォ!!』
『うわあああああああああああああ!!!!!!!!』
『あの子にも、お友達が出来たわね』

多くの死と断末魔、残された者達の悲鳴とそれを嘲笑う声。
クロにとってそれは他人事じゃない。殺し合いなど関係なく、この場で一番死に近づいているのは僅かな魔力でしか生きられないクロだ。
だから、生き延びる為には手段なんか選んでいられない。
こうするしかない。
もう引き返せない。引き返して、あんな惨たらしい死者たちと同じ場所になんか行きたくない。

死にたくない。

「ごめん…なさい……」

手は離れ、弦が撓り矢は射られてしまった。


───


「は、ァ…ごほっ……!!」

もう一度、あの迷路を出すしかない。

「水」はドロテアに引っ手繰られ、ランドセルも何処かへ消えた。
今のカツオに身を守る術はない。
藁にも縋る想いでカツオは流されていくカードに手を伸ばす。
一度発動したら一定時間で解除され、再使用に時間を置かねばならないと説明書にあったが、クロの妨害で強制的にカードの効果を打ち消されたように見えた。
他者の妨害で打ち消されたのであれば、もしかしたら発動回数にカウントされないかもしれない。
淡い希望だが、カツオにはこれに賭けるしかない。

「っ、ぁ……!」

カードに手が届く間際のその刹那、高所の足場を作っていたクロと目が合ってしまった。
黒い弓と矢を構えていて、カツオを殺そうとしているのは明らかだ。
急がなきゃ。
頼れるのは「迷」のカードだけ。
必死に手を伸ばしながら、カツオはクロの顔に既知感を抱く。

『お前も見ただろう!マグル達が殺されたり生き返ったりするのを!!』

あの時だ。オールバックの魔法使いの少年が怯えている時と同じ顔だ。
怖いんだ。あの娘は今とても怖がっているんだ。
当たり前だ。迷路に閉じ込められて、水を流し込まれて殺されそうになったんだ。
怖くて怖くて仕方ない。当たり前のことじゃないか。

「げほっ、ぼ…くは……」

「迷」のカード。
クロにとってこれは銃やナイフのような凶器にも等しい。
そんなものを手にして、もう一度自分達を殺しに来るかもしれない。
そう考えているに違いないと、カツオは想像する。
徐々に水が引き、足が付きカツオは自由に動けるようになってくる。幸いカードも手前にあり急げば拾える。

「僕は……!」

カツオは拾えたはずのカードを前に、腕をひっこめた。
怖いという気持ちはよく分かる。乃亜の残酷な兄弟たちへの処刑に始まり、エリスの過度の暴力や魔神王の襲撃と、城ヶ崎という女の子が殺される場面にも立ち会った。
死にたくないのなんて、当然のことだ。生きていたいと思うのが普通なんだ。
あの褐色の女の子も同じだ。同じ、怯えてるだけの子供なんじゃないか。
これが、きっと馬鹿な行為だというのは分かっていた。
だけど、あの娘にも中島みたいな友達がいて、それで悲しむ誰かが居るのなら。
エリスやマルフォイの時は逃げてしまった。
永沢は藤木の時も、自分は迷い続けて答えを出せなかった。
今度はちゃんと向き合って、あの娘と話すべきなんじゃないか。

「聞いて───」

振り返り、意を決し、勇気を振り絞った時。
胸に強い衝撃と痛みを覚えた。


「う、そ……」

矢を放した瞬間、カツオはカードに触れることなくクロに向き直っていた。
クロの脳裏に何故と疑問が沸く。
別の武器が存在しているのか? 不味い、対処をしなくては───。
しかし、その考えが見当はずれである事にすぐに気付いた。

「なん…で……」

矢を胸が穿つまで、カツオはずっと無抵抗だったから。
痛みに藻掻いて呻き声をあげて、そのまま動かなくなってしまった。
虚ろな瞳がクロを見つめ続けている。けど、そこに痛みによる苦痛はあれど、敵意や殺意はなく、まるでクロを心配しているような穏やかな顔で。

「どうして……わた、し……」

まさか、無抵抗のただの子供を殺してしまったのか。
一線を超えてしまったのか。

「べつ…に、こんなの……」

殺し合いに巻き込まれてから、覚悟はしていたつもりだった。
だけど、きっと想定していたのはリップやグレーテルのような人を殺められるような相手で。
あの、のび太とかいう眼鏡の少年にも戦える天使の少女が付いていて。
ニケだってふざけておどけてはいたが、クロの剣を全て避けていた。きっとまだ、奥の手だって本当は隠していた。

「ぁ、っ……」

足場にした剣がクロの心境を現すように崩れ、そのままクロは覚束ない足取りで物言わなくなったカツオだった物にまで歩んでいく。
心の何処かで、少なくとも自分と戦える相手を仮定していた。
最低限、死を覚悟した戦いを心得た者が相手だと。
勝手に思い込んでいた。
そんなこと、あるはずがないのに。

「そんな、目で…見ないで……」

近づいて、それで分かった。
本当に死んでいる。死んでしまった。自分が殺してしまった。
なのに、その目は……。
どうして、この男の子は。

お願いだから恨んで、憎んでいて、怒っていて。

敵なら、まだ私は、だけど───こんなのは耐えられない。


「ようやく、リングを回せる側になれたのね」


クロの肩に手を回し、そして天使のような声が鼓膜を打つ。
空っぽの伽藍洞の心を埋めるように。
囁きながら、グレーテルは優しくクロを愛撫する。

「大丈夫よ。私達もね…最初はそうだったの」

その時だけは狂った殺人鬼グレーテルではなく、居場所のない女の子に語り掛ける優しい少女の声だった。
同じ居場所がない子供を心配する同じ捨てられた子供の声だ。

「笑えばいいのよ。これは仕組みなんだから」

慰めるように、褒めるように。
貴女は間違っていないわと。

まるで、自分にも言い聞かせているように。

「クロ」

名を呼んで、そしてクロの顔を掌で撫でて口づけをした。

「っ…ぁ、んっ……」

クロの口からグレーテルのものと混じった唾液が溢れ、嬌声が零れる。
そして、魔力が譲渡されていく。
命が繋がれていく。

「死なないのよ。殺せば、殺すだけ……私達は生きられるの。
 だから、何も悪い事なんてしていないの」

死の淵まで追い込まれても、グレーテルは生きている。
それは自分が信じる信仰のお陰だと、彼女は疑わなかった。
モクバの言っていた事を、いずれ死ぬという自らの運命を否定するように、艶めかしい笑みで、クロの唇と繋がった唾液の糸を引いた唇を歪ませた。


───



「あの色黒のガキめ、面倒なことをしてくれたものじゃ」

ドロテアは全身びしょぬれになりながら、小脇にモクバを抱えていた。
二人揃って同じ方向へ水に流されたのは不幸中の幸いだった。
どさくさに紛れ、カツオのランドセルも回収し支給品の補充も出来た。後は利用価値のあるモクバだけ保護して、そのまま逃げればいい。

「ごほっ…」

モクバは気絶していたが、咳き込んでいる以上は生きているようだ。

(しかし起きたら、カツオのことを聞かれそうじゃが……)

凶悪マーダー二人を、水を流して始末しようとしたことの何が悪いというのか。
想定外は起きたが、元を正せばクロの説得に専念せずにグレーテルを説得しようとしたモクバも悪い。
ドロテアの見立てでは、あのままクロは説得を続けていれば折れたと見ている。
クロさえ仲間に引き入れれば、こんなことにはならなかったのだ。
モクバの聡明さがあれば、グレーテルに話が通じないはすぐに分かること。それをモクバは私情を絡めて無視した。
仮にドロテアに責任があったとしても、モクバと同じで連帯責任だ。

「うむ、妾は悪くないのじゃ」

けろっとした顔でドロテアは軽快に歩き出した。



【磯野カツオ@サザエさん 死亡】


【E-6/1日目/朝】

【ドロテア@アカメが斬る!】
[状態]健康、高揚感
[装備]血液徴収アブゾディック、魂砕き(ソウルクラッシュ)@ロードス島伝説
[道具]基本支給品 ランダム支給品0~1、セト神のスタンドDISC@ジョジョの奇妙な冒険、城ヶ崎姫子の首輪
「水」@カードキャプターさくら(夕方まで使用不可)、変幻自在ガイアファンデーション@アカメが斬る!
グリフィンドールの剣@ハリーポッターシリ-ズ、カツオのランダム支給品×0~1
[思考・状況]
基本方針:手段を問わず生き残る。優勝か脱出かは問わない。
0:カツオの首輪が手に入らぬのは残念じゃったな。
1:とりあえず適当な人間を三人殺して首輪を得るが、モクバとの範疇を超えぬ程度にしておく。
2:写影と桃華は凄腕の魔法使いが着いておるのか……うーむ
3:海馬モクバと協力。意外と強かな奴よ。利用価値は十分あるじゃろう。
4:海馬コーポレーションへと向かう。
[備考]
※参戦時期は11巻。
※若返らせる能力(セト神)を、藤木茂の能力では無く、支給品によるものと推察しています。
※若返らせる能力(セト神)の大まかな性能を把握しました。
※カードデータからウィルスを送り込むプランをモクバと共有しています。


【海馬モクバ@遊戯王デュエルモンスターズ】
[状態]:疲労(大)、ダメージ(中)、全身に掠り傷、俊國(無惨)に対する警戒、気絶
[装備]:青眼の白龍&翻弄するエルフの剣士(昼まで使用不可)@遊戯王デュエルモンスターズ
雷神憤怒アドラメレク(片手のみ、もう片方はランドセルの中)@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品、小型ボウガン(装填済み) ボウガンの矢(即効性の痺れ薬が塗布)×10
[思考・状況]基本方針:乃亜を止める。人の心を取り戻させる。
1:東側に向かい、孫悟飯という参加者と接触する。
2:殺し合いに乗ってない奴を探すはずが、ちょっと最初からやばいのを仲間にしちまった気がする
3:ドロテアと協力。俺一人でどれだけ抑えられるか分からないが。
4:海馬コーポレーションへ向かう。
5:俊國(無惨)とも協力体制を取る。可能な限り、立場も守るよう立ち回る。
6:ホテルで第二回放送時(12時)にディオ達と合流する。
7:カードのデータを利用しシステムにウィルスを仕掛ける。その為にカードも解析したい。
8:グレーテルを説得したいが……
[備考]
※参戦時期は少なくともバトルシティ編終了以降です。
※電脳空間を仮説としつつも、一姫との情報交換でここが電脳世界を再現した現実である可能性も考慮しています。
※殺し合いを管理するシステムはKCのシステムから流用されたものではと考えています。
※アドラメレクの籠手が重いのと攻撃の反動の重さから、モクバは両手で構えてようやく籠手を一つ使用できます。
 その為、籠手一つ分しか雷を操れず、性能は半分以下程度しか発揮できません。
※ディオ達との再合流場所はホテルで第二回放送時(12時)に合流となります。
 無惨もそれを知っています。



【クロエ・フォン・アインツベルン@Fate/kaleid liner プリズマ イリヤ ツヴァイ!】
[状態]:疲労(中)魔力消費(大寄りの中、キスして回復中)、精神的ショック、自暴自棄 グレーテルに対する嫌悪感(大)、カツオを殺した罪悪感(極大)
[装備]:賢者の石@鋼の錬金術師
[道具]:基本支給品、透明マント@ハリーポッターシリーズ、ランダム支給品0~1、「迷」(二日目朝まで使用不可)@カードキャプターさくら
グレードアップえき(残り三回)@ドラえもん
[思考・状況]
基本方針:優勝して、これから先も生きていける身体を願う
0:……
1:───美遊。
2:あの子(イリヤ)何時の間にあんな目をする様になったの……?
3:グレーテルと組む。できるだけ序盤は自分の負担を抑えられるようにしたい。
4:さよなら、リップ君。
5:ニケ君…何やってるんだろ。
6:コイツ(グレーテル)マジで狂ってる。
[備考]
※ツヴァイ第二巻「それは、つまり」終了直後より参戦です。
※魔力が枯渇すれば消滅します。


【グレーテル@BLACK LAGOON】
[状態]:健康、腹部にダメージ(地獄の回数券により治癒中)
[装備]:江雪@アカメが斬る!、スパスパの実@ONE PIECE、ダンジョン・ワーム@遊戯王デュエルモンスターズ、煉獄招致ルビカンテ@アカメが斬る!
[道具]:基本支給品×4、双眼鏡@現実、地獄の回数券×3@忍者と極道
ひらりマント@ドラえもん、ランダム支給品2~4(リップ、アーカードの物も含む)、エボニー&アイボリー@Devil May Cry、アーカードの首輪。
ジュエリー・ボニーに子供にされた海兵の首輪、タイムテレビ@ドラえもん、クラスカード(キャスター)Fate/kaleid liner プリズマ☆イリヤ、万里飛翔「マスティマ」@アカメが斬る、ベッキー・ブラックベルの首輪、ロキシー・ミグルディアの首輪
[思考・状況]基本方針:皆殺し
1:兄様と合流したい
2:手に入った能力でイロイロと愉しみたい。生きている方が遊んでいて愉しい。
3;殺人競走(レース)に優勝する。孫悟飯とシャルティアは要注意ね
4:差し当たっては次の放送までに5人殺しておく。首輪は多いけれど、必要なのは殺害人数(キルスコア)
5:殺した証拠(トロフィー)として首輪を集めておく
6:適当な子を捕まえて遊びたい。やっぱり死体はつまらないわ
7:聖ルチーア学園に、誰かいれば良いけれど。
8:水に弱くなってる……?
[備考]
※海兵で遊びまくったので血塗れです。
※スパスパの実を食べました。
※ルビカンテの奥の手は二時間使用できません。
※リップ、美遊、ニンフの支給品を回収しました。


【「水」@カードキャプターさくら】
【「迷」@カードキャプターさくら】
カツオに支給。
2枚で1セットの扱い。
  • 「水」は好戦的な性格で水を操れる能力を持つ。
 さくら以外が使用した場合は12時間再使用不可。

  • 「迷」は迷路を出現させる。入り込んだ者は出口を探すまで出られない。
 非常に厳格な性格で不正は許さず、その割に正規攻略も難易度が高い。
 再生の追い付かない攻撃で壁を破壊するなどすれば脱出可能。
 ロワ内の制限として、一定時間の経過で強制解除。
 こちらは誰が使用者でも一度の使用で24時間再使用不可。


【翻弄するエルフの剣士@遊戯王デュエルモンスターズ】
効果モンスター
星4/地属性/戦士族/攻1400/守1200
(1):このカードは攻撃力1900以上のモンスターとの戦闘では破壊されない。

モクバに支給
ロワ内では一定の強さを持つ者との交戦では破壊されない。
例としては、シルバースキンを装備した藤木には戦闘耐性の効果が発揮されず、スパスパの実と地獄への回数券をキメたグレーテルには破壊されない。
ただ破壊されないだけであり無視して召喚者を攻撃される場合もある。
一度の使用で6時間再使用不可

【雷神憤怒アドラメレク@アカメが斬る!】
モクバに支給。
ブドー大将軍の持つ籠手の帝具。
雷を操り、地形すら変化させてしまう。防御しても衝撃や電撃の性質上感電してしまう。
雷撃を防御に使うなど、攻守ともに優れている。
支給されたモクバは籠手一つしか使えないので、性能が半分以下までしか引き出せない。

【グレードアップえき@ドラえもん】
クロエに支給。
振りかけた対象をグレードアップする。
掃除機の性能を上げたり、漫画の面白さという概念的なものにまで効果がある。
本来、効果は1時間持続するが、乃亜により数分程度に短縮された。
使用回数は4回分。


072:死ヲ運ブ白キ風 投下順に読む 074:ここに神は見当たらない
時系列順に読む
058:無情の世界 ドロテア 083:坊や、よい子だねんねしな
海馬モクバ
磯野カツオ GAME OVER
059:ピンポンダッシュ クロエ・フォン・アインツベルン 096:命も無いのに、殺しあう
グレーテル

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